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いつでも元気

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絶て!殺害の連鎖/発売半年で173人が死亡―「夢の抗がん剤」イレッサで大きな被害 矢吹紀人(ルポライター)

スピード審査の「モデル」として 日本を事実上の人体実験の場に、73億円もの売上げ

 昨年七月五日、「イレッサ」という名の新薬が厚生労働省によって輸入承認されました。「夢の抗がん剤」として売り出されたこの薬は、通常なら二年から三年かかる審査期間を、わずか半年たらずという超スピードでクリア。八月末には保険適用までされました。
 ところが、発売後に副作用で多数の死者が出ていることが判明しました。

アメリカでも承認しなかった
 「イレッサ」の大きな被害が明るみに出たのは、昨年末。医薬品機構の独立行政法人化審議の過程でした。参議院で行なわれた参考人質疑で、参考人の一人、 浜六郎さん(医薬品の監視をするNPО法人医薬ビジランスセンター理事長・医師)がこう発言したのです。
 「アメリカでも承認しなかった新薬イレッサを、日本では早々に承認しました。一〇月二六日には一二五人が重篤な間質性肺炎になり、三九人が死亡したことが判明しています」
 浜さんは、医薬品機構が独立行政法人化されると、新薬承認に製薬会社の影響が及びやすくなるなどの問題を懸念していました。アメリカでは医薬品審査組織 FDAが運営費の半分以上を製薬企業に頼り、審査がずさんで危険になっている実態を指摘。日本では国が審査しているいまでさえ、製薬会社のもうけ優先の姿 勢がアメリカよりひどいとして、イレッサを例にあげたのです。

厚労省は知っていたのに
 問題を重くみた日本共産党の小池晃参議院議員は、厚生労働省に最新で詳細なデータの提出を要求しました。医薬品機構法が採決される前日の一二月四日に出 された報告は、発売後四カ月半で、副作用二九一人中死者八一人という驚くべき数字でした。こう語ります。
 「すぐその夜中に記者会見を開いて発表しました。この数字が翌日の朝刊各紙に出たことで、医薬品機構法案の採決をストップさせるという、異例の事態に持ち込んだのです」
 厚生労働委員会でさらに追及した小池議員は、副作用死が発売二日後には出ていたことや、八月一九日に発売元のアストラゼネカ社がFDAに報告したデータ が、日本の厚労省にも伝わっていたことを表明させました。
 「ヨーロッパでの第?相試験で、延命効果に有意差はないと出たデータなんです。厚労省は『あれは他の薬との併用だから認められない』といってるんです が、アメリカのFDAはそれで承認していないし、ヨーロッパでは『イレッサ終焉論』まで出ているほど」
 医薬品機構法の狙いの一つは新薬のスピード審査でした。効果が実証された薬を早く輸入してという患者の願いに応える形をとりながら、実際は早く利益を回 収したいという製薬企業の要求に応えたものです。イレッサは、厚労省がそのスピード審査のモデルとした薬でした。
 「だから厚労省は、これだけ大きな被害が出ているのに実態をなかなか明らかにしなかったのでしょう」と小池議員。

妻はイレッサに殺された
 岐阜県大垣市の萩原不二子さん(当時57歳)は、二〇〇〇年八月に肺腺がんの診断を受けます。手術の不可能な部位のがんでしたが、抗がん剤による治療は 一度も受けずにきたと、夫の萩原真さんは話します。
 「親戚や友人から、抗がん剤の副作用の怖さを聞かされたりしたので。近くの病院で週三回、丸山ワクチンの注射を受ける免疫療法だけでやってきたんです」
 昨年九月四日、いつものように治療を受けた不二子さんに、新しい薬が手渡されました。
 「妻は何度も『先生、これ抗がん剤じゃないですね』と念を押しました。医師は『ええ、ちがいますよ』と答えたんですが、実はそれがイレッサだったんです」
 服用して三日後の九月七日、不二子さんは激しい下痢や嘔吐に襲われます。急きょ入院し、初めて抗がん剤だったと知らされます。
 「イレッサの使用上の注意には、『患者に副作用について十分な説明をし、臨床症状を十分に監視する』とあるんです。それなのに、妻は抗がん剤であること を隠して投与されました。しかも、飲み薬の処方だけで家に帰し、経過観察などまったくなし。こんなことが、この薬の用法として考えられますか」
 入院後も、不二子さんの容態は悪化の一途をたどり、わずか一カ月後の一〇月七日には、敗血症性ショックが直接の原因で帰らぬ人となってしまいます。夫の 真さんはいまでも、「妻はイレッサに殺された」という思いをぬぐいきれません。

命より企業の利益を優先
 イレッサによる副作用の被害は、その後も拡大しています。アストラゼネカ社が厚労省に報告した最新の数字では、ことし一月三一日までに一七三人が死亡したとされています。
 しかし、実際の被害ははるかに大きなものだと考えられます。萩原不二子さんのように患者が詳細な情報を知らされずに服用し、医師がイレッサの副作用死と 認めないようなケースは、統計に入っていないからです。
 外国での臨床試験結果などをもとに、浜六郎さんは「イレッサ関連死亡は厚労省発表の約一〇倍はあるはず」と推測しています。その裏で、発売まえから「夢 の抗がん剤」と宣伝され、わずか三カ月で七三億円を売り上げたのです。
 小池議員はこう強調します。
 「効果と安全性の確認が十分できていないから、他の国はどこも販売承認しなかった。日本は事実上の人体実験の場にされたのです。しかも製薬企業はそれで ばく大なもうけをあげた。厚労省は危険を知りながら、用法の縛りすらかけなかった。国民の命より企業の利益優先という姿勢がますます露骨になっています」

いつでも元気 2003.4 No.138