特集2 肥満じゃワルイ?脂肪細胞は動脈硬化をうながす 5%体重へらせば改善できます
肥満とは、体重が重いというだけでなく、脂肪が体内に過剰にたまりすぎた状態のことです。そして、ある程度以上の肥満は、慢性疾患と考える必要があります。
日本肥満学会は、肥満が原因となる健康障害として、次の病気をあげています。(1)2型糖尿病(注)、(2)高脂血症、(3)高血圧症、(4)高尿酸血 症と痛風、(5)虚血性心疾患(狭心症と心筋梗塞)、(6)脳梗塞、(7)睡眠時無呼吸症候群、(8)脂肪肝、(9)整形外科疾患(変形性関節症と腰椎 症)、(10)月経異常症。
(注)1型糖尿病が膵臓でインスリンがつくれない状態からおこるのに対して、2型糖尿病とは、インスリンはつくれますが、量が少ないか、インスリンがうまく働かないことでおこる病気で、日本人のほとんどが2型糖尿病です。 |
BMI25以上は要注意!
肥満の判定方法として、BMI(体格指数)法が重要です(下表)。
BMI=体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)} BMI(Body Mass Index)とは世界共通の肥満度の指標で、身長と体重から以上の式で算出されます。 |
日本肥満学会は厚生省(現厚生労働省)と共同調査研究をおこない、30歳以上の成人約15万人のデータを使って、肥満の程度と「2型糖尿病」「高脂血症」「高血圧症」との関係を調査しました。
3疾患ともBMIが上がるにつれ、罹患率が上昇します。BMI=22の人のこれら3疾患の罹患率を1とすると、罹患率が2倍になるのは、高中性脂肪血症 と高血圧症はBMI=25、高コレステロール血症はBMI=29、2型糖尿病はBMI=27でした。25以上になると、これらの病気になりやすいわけで す。
そこで日本肥満学会はBMI=25以上を肥満と定義しました。
なお、調査の対象となった人全体でみると、BMI=25以上30未満の頻度は、男性21%、女性18%で、BMI=30以上の頻度は、男女とも3%程度でした。
内臓肥満に注目
肥満と健康障害との関係を考えるとき、肥満の程度だけではなく体内のどこに脂肪がたまるかということも重要です。
肥満は、主として腰から下に脂肪がたまる下半身肥満(洋ナシ型肥満)と腹から上に脂肪のたまる上半身肥満(リンゴ型肥満)に分類できます(図1)。そして、上半身肥満の人が、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症などに罹患しやすいことがわかっています。
上半身肥満かどうかは、ウエストサイズでわかります。男性は85cm以上、女性は90cm以上が上半身肥満と判定されます。
さらに、上半身肥満はお腹の皮の下に脂肪の多い「皮下脂肪型肥満」と内臓のまわりに脂肪が多い「内臓脂肪型肥満」に分けられます。そして、内臓脂肪型肥 満が2型糖尿病、高脂血症、高血圧症などと深く関係しています。内臓脂肪が多いかどうかは、腹部CTスキャンでみるとよくわかります(図2)。
図1 リンゴ型肥満と洋ナシ型肥満
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図2 腹部のCT写真 | |
「肥満症」とは
BMI=25以上あれば肥満となりますが、すぐに治療の対象となるわけではありません。肥満による健康障害、つまり、先に述べた10の疾患のどれかがある場合に、「肥満症」と診断されます。
一方、BMI=25以上で肥満による健康障害がなくても、ウエストサイズが男性85cm以上、女性90cm以上で、腹部CTスキャンによる内臓脂肪面積 が100平方センチメートル以上あるときは、「肥満症」と診断されます(図3)。
図3 肥満症の診断(日本肥満学会) |
肥満の原因
肥満になる原因は摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスにあります。
摂取エネルギーが多すぎたり、消費エネルギーが少なすぎたりして、摂取エネルギーから消費エネルギーを引いた値がプラスになると、エネルギーが体内の脂 肪となって蓄積し肥満となるのです。
脂肪摂取が増えている
わが国で肥満が増えた原因のひとつとして、脂肪のとり方が増したことが指摘されています。
国民栄養調査(98年)によると、1日の平均摂取エネルギー量は1979キロカロリーで、20年前の2167キロカロリーよりもむしろ減っていました。 しかし、エネルギーの元となる栄養素の割合が大きく変化し、糖質が減って、反対に脂質が増加していたのです(図4)。
図4 国民栄養調査 糖質のとり方が大きく減り、脂肪が増えている |
そのうえ最近の研究では、日本人の大多数が、脂肪を多く摂取すると脂肪細胞が肥大しやすい(肥満になりやすい)遺伝子をもっていることがわかってきました。
さらに、朝食や昼食を食べない、夕食時のまとめ食いやドカ食い、夜間の多食などの摂食パターンも肥満の原因となります。
体を動かさなくなったことも
一方、運動不足を含め、体を動かすことが少なくなったために、消費エネルギーが減り、これも肥満の原因となっています。
前述したように、日本人の平均摂取エネルギー量は減少傾向にありますから、消費エネルギーが減ったことの方が問題であることが推測できます。
体の動かしかたが足りないと、体脂肪を作る体内の酵素の働きが活発になり、肥満につながることが最近の研究でわかっています。
内臓脂肪と動脈硬化
脂肪細胞は、飢餓に備えて余分なエネルギーを脂肪として貯えておく働きがあります。しかし、最近の研究では、さまざまな病気の発症に影響を与えるホルモンなどを体内へ分泌することがわかってきました。
とくに内臓脂肪からは、動脈硬化の発症につながる物質や、インスリンの働きを抑えて2型糖尿病の原因となる物質などが出ています。
このように内臓脂肪は、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症など動脈硬化をおこしやすい病気と深く関係しています。内臓脂肪型肥満に、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症が合併した状態では、ますます動脈硬化になりやすく、最近では内臓脂肪症候群とよばれています。
変わってきた肥満症の治療
日本の肥満人口は推計2300万人(男性1300万人、女性1000万人)。そのなかで2型糖尿病、高脂血症、高血圧症などがあって治療が必要な「肥満症」は約1100万人といわれています。
最近、肥満症の治療に対する考え方が変わってきました。以前は肥満者の体重を標準体重近くまで減らすことが追求されました。しかし、いまは肥満症を慢性疾患ととらえ、肥満にともなう合併症を治すことや肥満者のQOL(生活の質)の改善をめざす治療が主流となっています。
なぜかといえば、体重を5~10%減らすことによって、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症が改善し、動脈硬化を予防して、虚血性心疾患の発症も減らせることが、多数の肥満者の追跡調査によって明らかになったからです。
食事と運動療法を同時に
肥満症の治療は、食事療法と運動療法を同時に実施することが重要です。食事療法だけでは、治療開始1~2カ月後に摂取と消費のエネルギーのバランスがと れて、体重減少が止まる「適応現象」が現れます。この「適応現象」を出さないためには、運動で、1日200~300キロカロリーを消費することが必要で す。
運動療法は、いつでも、どこでも、ひとりでも、何もなくてもできる運動を選びます。たとえば、10分間のウォーミングアップ(ラジオ体操とストレッチ体 操)と40分間のウォーキング(1分間70mの速度)を行なうと約160キロカロリーを消費します。
運動療法の効果は、体脂肪をエネルギーとして消費するだけではありません。基礎代謝を上げることよって、エネルギーを多く消費できる体にし、食事療法の効果を継続させる効果があります。
そのためには少なくとも1週間に3日以上運動療法を行なうことが必要です。
実行可能なカロリー制限
減量のための食事療法についても、最近ではカロリー制限を軽くし、長期間にわたり実行できる方法に変化しています。1日の摂取量は、男性で1600キロカロリー、女性で1400キロカロリー程度までが、長期的に実行できるカロリー量です。
また、朝食を食べないことは、夕食時のまとめ食いや夜間の多食などにつながりますから、1日3食きちんととることも重要です。
BMI=25以上30未満の肥満症では、まず5%の体重減量を目標として、以上のような食事療法と運動療法を6~12カ月実施してみることが必要です。
肥満の予防
最後に肥満の予防についてお話します。健康にとってもっとも適した体重(理想体重)は、BMIが男性は22.2、女性は21.9といわれています。根拠としてさまざまな疾病の合併率が、それらの数値で最も低くなるからです(図5)。
したがって、理想体重(kg)は男性では身長(m)×身長(m)×22.2、女性は身長×身長×21.9で計算されます。男女ともBMIが25未満になるよう体重を保つことが重要です(図6)。
先に述べたように、肥満の増加には脂肪、とくに動物性脂肪のとり方が増えたことが関係しています。とくに、20歳代~40歳代で脂肪の摂取量が多く、こ の世代が脂肪エネルギー摂取率を25%以下に抑えることが、肥満の予防と同時に2型糖尿病、高脂血症、高血圧症の発症予防につながると予想されています。 1日3食きちんと食べることが大切なのはいうまでもありません。
健康な食生活は地域社会から
いま、ファストフードショップや24時間営業のコンビニエンスストアの増加、レトルト食品の普及など、脂肪の摂取量を増やしたり、夜間の多食を助長した りする生活環境があふれています。共同組織や地域住民の方々と協力して、健康的な食生活を可能にする地域社会のあり方について、話しあっていくことも必要 と考えています。
いつでも元気 2003.4 No.138
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