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いつでも元気

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特集2 変化した「女の一生」

植木佐智子
大阪・西淀病院婦人科
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 「人生50年」といわれた日本人の「寿命」は、いまや80年前後にのびました。とくに女性の平均寿命は約85歳で男性より7年長いようです。寿命がのび た大きな要因は、食糧に余裕ができたことと医学の発達ですが、寿命がのびていくなかで、「女の一生」も大きく変化してきました。
 最近話題になっていることもふくめ、婦人科の臨床の現場で日ごろ思うことを書いてみたいと思います。

生活スタイルが変化し体にも変化が
 年齢を追って、まずおおざっぱに特徴をみてみましょう。
 日本では近年、食糧事情がよくなった結果、体格は大きくなり、初潮が早くなっています。若い世代の性的な活動性の高まりは、マスコミの影響も加わって、性感染症や人工妊娠中絶の増加に結びついています。
 性感染によって入ってくるHPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸部に前がん病変をひきおこし、そのまま放っておくとやがて子宮頸がんになっていきます。
 また、職業をもつ女性が増えたこと、結婚が遅くなっていること、少子化(出産が減る)などにより、初潮から閉経までの、卵巣からホルモンが分泌され月経 をおこす期間が長くなった結果、子宮筋腫や子宮内膜症が増えてきているようです。
 更年期は、ホルモンの大変動の時期です。肉体がこの変動にふり回されるとともに、精神的なストレスも加わって、「更年期障害」やうつ病の発症が多くなり ます。この時期、ホルモンの変動に呼応して子宮内膜の変化が現れやすくなり、子宮体がんへ向かうことがあります。
 卵巣からのホルモンが出なくなったことに身体が慣れたころから、骨粗鬆症や高脂血症がめだってきます。どちらも、自覚症状がほとんどなく、突然、骨折や 梗塞などの重い病態にいたるものです。これらは、HRT(ホルモン補充療法)で予防的治療が可能とされています。
 具体的にお話ししていきましょう。

性感染症
若者で増えているクラミジア
 性感染症とは、性交渉によって感染する病気の総称です。梅毒や淋病は以前から「性病」として知られていますが、いまもっとも多いのがクラミジア感染症で す。ほかにも性器ヘルペス、トリコモナス膣炎、尖圭コンジローマ、HIV(エイズ)感染症などをふくみます。
 クラミジアは、おりものの増加や、下腹部痛を訴えてくる女性で多く検出されますが、無症状でも、パートナーの発症がきっかけでわかることもあります。症 状がすすむと骨盤腹膜炎や肝周囲炎にまでいたることもあり、不妊症や子宮外妊娠の原因となることが知られています。
 また、妊娠中の感染は流産や早産の原因になり、分娩時に赤ちゃんに感染して結膜炎や肺炎をおこす危険性もあります。
 性感染症の治療で大切なことは、パートナーとの同時治療です。しかし実際には、相手に伝えられない人や、伝えても受診してくれないパートナーもいて、ふ たりのコミュニケーションはどうなっているのか、診療中に首をかしげることが多くなっています。
 皮膚の接触だけで感染するものも一部ありますが、ほとんどの性感染症は、コンドームの使用で防ぐことができます。望まない妊娠をしないためにも、とくに若い人たちへのコンドームの普及(正しい使い方とともに)が必要です。
 一部では学校でコンドームについて教えることに抵抗があるようですが、現実に中学生・高校生の性体験の多いことを見聞きするにつけ「そんなことをいっている場合じゃない!」と思います。

子宮頸がん
20代から子宮がん検診を
 子宮は、頸部と体部に別々のがんが発生します(図1)
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 子宮頸がんの大部分は、HPVというウイルスと関連があります。他の理由で受診した10代20代の方に、前がん病変である異型上皮が発見されることは、珍しくありません。
 何度かの検査で同じ結果が出てくるようなら、「円錐切除」という手術をおすすめしています。この段階なら、赤ちゃんを育てる部屋である子宮体部を残せるからです。
 子宮がん検診がかなり普及した現代でも、すすんだ段階のがんが発見されるのは、悲しいことです。若い時期からの子宮がん検診の必要性が論議されはじめて いますが、早急に実現してほしいものです(現在はどの自治体でも30歳以上)。

子宮筋腫と子宮内膜症
妊娠前の問題になってきた
 以前は、何人かの子どもを産み終えた後の病気とされていた「筋腫」や「内膜症」は、初産の高年齢化とともに、妊娠前の問題としてクローズアップされてきています。
 子宮筋腫(図2)は、子宮の壁を構成する筋肉の良性腫瘍ですが、子宮の内側に向かって大き くなると、貧血や流産の原因となり、外側へ向かうと腹部がはれてきます。大きくなると手術の対象になりますが、最近は、腹腔鏡や子宮鏡を使ってほとんど傷 跡の残らない手術が多くされるようになってきています。

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 子宮内膜症は、本来、月経のときにはがれて落ちる子宮内膜が、子宮の内側以外の場所で生きていてその場でも卵巣のホルモンの動きに応じて月経をおこすという病気です(図3)。 出口のない出血は、腹痛や腰痛のもととなり、周辺の癒着を招きます。その結果、妊娠しにくいということもおきます。
 増加しているのは、ある種の環境ホルモンの影響ではないかともいわれますが、お産の回数が減ってきた結果では、とも考えられています。
 子宮筋腫も子宮内膜症も、卵巣のホルモンの影響をうけていますので、ホルモンが出なくなる閉経をきっかけにして、縮小していきます。これを利用して、一 時的にホルモンを止めてしまうような治療薬がよく使われるようになってきています。
 この方法により、手術がしやすくなったり、閉経に逃げ込むまでの時間をかせいだりができるようになりました。副作用として、更年期障害のような症状が出ることもありますが、便利な薬ではあります。

更年期障害
「しんどい」と思ったら受診を
 中年の女性へのからかいや陰口にもよく使われる更年期障害(表)ですが、正確に理解していただきたいと思います。
 50歳近くになると卵巣の働きが悪くなるため、十分なホルモンの分泌ができなくなります。いままで規則正しくおきていた排卵もおこりにくくなり、月経も 不規則になってきます。これにともない、精神的に不安定(個人差はかなりあります)になることが多くあります。
 また完全に月経がなくなってしまう(閉経)と、そのころから、のぼせ・急な発汗・動悸などの自律神経失調の症状が現れます。
 これらの症状が強いために日常生活に支障をきたし、治療を必要とするものを「更年期障害」といいます。同時にうつ病を併発することもあり、その場合は抗うつ剤による治療も必要となります。
 更年期の症状は、環境や性格によって個人差がたいへん大きいので、対応もいろいろです。当事者が「しんどい」と思うときには受診されるようおすすめします。

更年期障害の症状
血管運動系障害 顔のほてり(ホットフラッシュ)
汗をかきやすい(発汗)
手足の冷えなど
運動系障害 肩こり、腰痛、関節痛など
精神神経障害 頭痛、不安、イライラ、不眠、憂う
つなど
知覚障害 手足のしびれ感
感覚がにぶる
蟻が体をはう感じなど

子宮体がん
ストレスや少産傾向で
 子宮内膜は、規則的な月経のあるときには毎回はがれ落ちてしまいますが、卵巣からのホルモンの分泌が不規則になるとともに、はがれ落ちずに厚くなってい くことがあります。これがきっかけで、前がん病変である子宮内膜増殖症や子宮体がんがおきてきます。
 もともと月経の不規則な人や妊娠・出産の機会の少なかった人は、リスクが高いといわれてきましたが、現代の女性のストレスの多さや少産傾向は、食生活の 欧米化による肥満傾向とともに子宮体がんをふやす要素になっているようです。子宮頸がんと子宮体がんの割合は、9対1から8対2に近づいています。

骨粗鬆症・高脂血症
ホルモン補充療法で予防できる
 骨粗鬆症は骨折により、高脂血症は大事な臓器の働きを損なうことにより、「寝たきり」の重要な原因となりうる疾患です。
 月経のある性成熟期に卵巣から分泌されるエストロゲン(女性ホルモンの一種)は、排卵や妊娠だけでなく、骨の維持・コレステロールの代謝にも深くかか わっています。このため、卵巣の働きが止まってしまう閉経を境に、骨はもろくなり、コレステロールはたまりやすくなります。
 これらのトラブルに対し、エストロゲンを補充していくのが、ホルモン補充療法(HRT)です。卵巣から分泌されていたより少なめに維持できる量を補充し ます。ただし、エストロゲンだけを補充すると、子宮体がんを増やすことになるので、プロゲステロン(これも卵巣から分泌されるもの)との併用が一般的には 行なわれています。
 HRTはいろいろな利点がありますが、乳がんや子宮体がんの方には使えません。喫煙している人も使えませんし、肥満度が高い場合も注意が必要です。使用 中に太ってくる場合もあります。また、治療中には、これらのがんの検診をふくめ、全身の管理は欠かせません。
 最近、アメリカで、乳がんと冠動脈疾患が増加したためHRTに関する臨床実験を中止したというニュースをお聞きになった方もおられると思います。そうで なくても一般的に、「ホルモンはこわい」との見方が、日本には多いようです。
 アメリカ人のデータを、そのまま日本人に当てはめて考えるべきでないという意見もふまえて、いまその人にとって、どういう治療が必要なのかを、ホルモンを使い慣れている婦人科の医師に相談していただきたいと思います。

 いろいろ書いてきました。女性の皆さんがご自分の(また男性のみなさんがパートナーの)健康について考えるきっかけにしていただければ幸いです。

いつでも元気 2003.3 No.137