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いつでも元気

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特集2 睡眠不足のよる過労死・事故を防ごう 「24時間社会が与える健康への影響は・・・」

 昨年8月に東名阪自動車道で、大型トレーラーが渋滞の列に追突し、5人が亡くなるという痛ましい事故がありました。トレーラー運転手が、3日連続不眠で長時間労働を強いられた結果とみられます。
 

表1 睡眠不足が大事故の主因に
  (近年生じた世界的惨事)
※スリーマイル島原発事故(1979年3月)
※インド・ボパール化学工場ガス爆発事故(1984年12月)
※スペースシャトル・チャレンジャー爆発(1986年1月)
※チェルノブイリ原発事故(1986年4月)
※石油タンカー・バルディーズ号原油流出事故(1989年3月)

 歴史的な大事故のほとんども、労働者の極度の睡眠不足が主要な原因のひとつにあげられています(表1)。また、交通事故死の3倍に達するといわれるアメリカの医療事故死では、最大の原因として医療労働者の睡眠不足があげられています。
 このように、夜勤労働による睡眠不足が大きな事故を招くことは明らかですが、「24時間社会」「国際化社会」の名のもと、最近ますます夜勤労働が広がっ ており、それにともなって、夜勤労働による健康への影響が大きく注目されています。
 
行政にも変化が

表2 夜勤によるおもな健康への影響
★ 循環器(心臓・血管など)
 ・有病率の上昇
 ・夜勤をやめた人に心・血管系の訴えが多い
★ 虚血性心疾患
 ・相対危険度で1.3から2.8で高率
 ・不整脈(期外収縮多発など)
★ 高血圧
★ 糖尿病、代謝障害
 ・耐糖能検査で異常高率
 ・低血糖による発作が起きやすい
 ・インスリン抵抗性が増大する
★ 消化性潰瘍
 ・夜勤者で高率
 ・ピロリ菌陽性者のなかでも、夜勤者の方が十二指腸潰瘍が多い

 夜勤をめぐって、最近重要な動きがあります。
 厚生労働省が5年に1度行なっている「労働環境調査」のなかで、今回はじめて深夜労働者の調査を行ないました。それによると、深夜労働には労働者全体の 20・7%が従事し、そのうち体調不良を訴える人が36%で、「深夜労働の期間が長いほど体調不良が多い」「医師に病気と診断された人が17%で胃腸病 (51%)、高血圧(23%)、睡眠障害(19%)、肝疾患(13%)」と発表しました。
 行政の施策としては、健診を受けられなかった労働者に受診の機会を与える「支援制度」がスタートしています。
 もう一つは「過労死予防のための過重負担対策」です。すでに全国各地で産業医や衛生管理者(注)を対象に指導講習会が開催されており、私自身も講師を務めています。
 さらに厚生労働省からは「1カ月100時間、2カ月平均80時間、6カ月平均45時間」を超えた労働者には産業医による保健指導をさせるとした通達が出 されています。通達では、長時間労働は、睡眠時間を減じ、そのことがさまざまな健康障害を引き起こし、ひいては過労死を生むとしています。
 過労死・過労自殺の急増がこのような施策を生んでおり、労働組合や弁護士・医師でとりくんでいる「過労死110番」の地道な活動がそうした変化を導き出したともいえます。 
 それでは「夜勤の健康への影響」について、実際にはどこまで医学的にあきらかにされているのでしょうか。世界的な到達点と私たちの調査結果を紹介します。
   

(注)産業医、衛生管理者とも、労働安全衛生法により常時50人以上 の事業所で選任を義務づけられている。産業医は、事業所に具体的な改善措置を勧告する権限があり、事業所は勧告を尊重しなければならない。衛生管理者は、 事業所の常勤者で、労働衛生上の管理をする国家資格者。

夜勤の健康への影響

 昨年9月、「第15回国際夜勤・交代制シンポジウム」が日本で開かれました。私はその前に開かれた国内向け特別セミナーで、「夜勤と健康」を担当しましたので、その準備のなかで知りえた内容をお示しします(表2)。インスリンの作用が弱くなり糖尿病になりやすい、日勤者より消化性潰瘍になる人が多いなど、いずれも重大ですが、ここでは、不整脈と高血圧についての調査結果をお話しましょう。
 
眠り妨げられ不整脈が

図1 タクシー運転手の24時間心電図記録
15年の経験があっても夜間は睡眠を求めている
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 図1は、15年の経験があるタクシー運転手の24時間心電図です。1日約9万個の心拍数のうち、1万個もの不整脈があったため入院。安静・治療で改善して退院し、職場復帰して1カ月後の記録です。
 不整脈は深夜に集中していますが、心拍数は夕方5時からどんどん減少しています。
 つまり15年の経験があっても、「当然の睡眠」を身体は自然に求めているのです。しかし現実には、夜勤のため睡眠できません。その反生理的なことが、この方には「不整脈頻発」となって現れたのです。
 同様の結果は、次に紹介するパン製造工でも見出せますし、労働科学研究所の前原直樹所長のトラック運転手の調査結果ほか多くの研究者からも報告されています。
 行政も過労死の原因疾患に、数年前「不整脈」を加えました。

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 図2 夜勤専業パン製造工の血圧の変化
(眼底出血し退社した人の例)
 図3 深夜帯には全員が「疲労」
パン製造工でのフリッカー検査
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図4 深夜パン製造工(30歳男子)の
1日の血圧の変化を見ると
図5 深夜パン製造工(50歳男子) 
仮眠で血圧が改善した例 

深夜労働による高血圧発症

(1)夜勤専業パン製造   
 いま、夜勤の形態は多彩です。そのなかで「専業」といって夜だけ働く方がけっこういます。まずその影響をみてみましょう。
 図2は、もともと血圧が低かったのに、4年目に高血圧になり、5年目に眼底出血して退職した労働者の健診時の血圧の推移です。職場全体でも平均値で明らかに血圧値の上昇がみられました。
 図3は、労働時間に沿って、点滅する光をどれだけ認識できるか調べた(フリッカー検査)結果です。 多数の労働者の傾向をまとめた図ですが、全員、深夜帯に著明な疲労状態を示しました。
 この時間帯に眠らず働くことは、身体に悪影響が出るのは当然です。
私たちは血圧上昇がその影響の代表と考えています。 
 しかし、従来そのことがあまり強調されなかったのは、昼の血圧だけしか計っていなかったことにあったのでないかと考えられます。そこで私たちは血圧の状態を24時間血圧計(ABPM)で検査してきました。
 図4は、深夜帯にパンを造る労働者で労働時間帯後半に200mmHgにも達する上昇を見た例です。昼の睡眠時間帯を含む日中の血圧は120mmHg以下の低い値です。この時間帯に健診があっても、高血圧はないということになってしまうわけです。
●せめて「2時間仮眠」の実行を 
 図5は、産業医の私が企業に提案した「深夜帯2時間仮眠」による効果を示しています。従来、この工場の夜勤では、1時間の仮眠をとっていましたが、それでは、ほとんどの方が十分眠れていませんでした。それが、2時間仮眠制度では深い眠りが得られ、血圧値も下がっています。
 この2時間仮眠は、工場にパンの製造工程も変更させて実現したものです。労働者は当初「むしろ早く帰りたいのだが」と反対していましたが、導入後、「寿命が10年延びたような気がする」と感謝されました。
 どうしても避けられない夜勤であれば深夜帯での十分な仮眠が不可欠です。実際、この結果を参考に「2時間仮眠制度」を導入した企業も増えています。

(2)そうざい工の深夜・早朝作業
 夜勤労働者のなかで女子の占める割合が増えていますが、子育て世代でも増えているのが特徴で、健康への影響が心配されます。
 産業としては、とくに深夜から早朝にかけて働く方がそうざい業(弁当屋)で増えています。そこでは、通常4時間から6時間、週5日固定した時間帯に働きます。
●日中の血圧は正常だが

 図6 深夜そうざい工になって血圧が変わった
 30代女性  (収縮期血圧)
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 私たちは、こうした方々も対象に、24時間血圧記録計を用いた夜勤者健診を実施しています。深夜3時から朝7時まで働いていた35人の女子労働者の検査結果では、1日平均値で「境界域」「異常域」を合わせての高血圧群が半数を超していました。
 図6を見て下さい。日勤で生命保険勧誘の仕事をしていた30代の女性が、仕事を変わり、深夜3 時から朝7時までの4時間そうざい工として働きました。前の仕事のときと現在の、それぞれの24時間血圧記録です。昼間働いていた時の労働時間帯の血圧 は、140mmHgくらいで、非労働時間帯は110mmHgくらいです。
 深夜働きますと、その時間帯は150mmHgから170mmHgくらいに上がっています。通常健診が実施される時間は日中ですから、すでに始まっている血圧上昇を見逃し続けていることになります。
 ここの工場で年2回実施している夜勤者健診では、かなりの数の高血圧者が見出され「一時休業」「日勤移行」「降圧剤治療」等の対策が打たれてきましたし、高血圧症が持続し退職された方もおられます。

長時間・夜勤労働に歯止めを

 冒頭に述べたように、過労死の予防がようやく行政からも叫ばれるようになってきました。その決め手は「過重負担軽減」、具体的には「長時間労働」の解消とされています。
 長時間労働は「睡眠不足」につながり、結果として過労死を生むのですから、たとえ軽い労働であっても「大丈夫だろう」ではなく、健康や安全を脅かし家庭 生活、地域生活にも犠牲を強いる「夜勤」すべてに対し「回避できないか?」の眼を向け歯止めをかける活動がいまこそ求められていると思います。

いつでも元気 2003.2 No.136