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いつでも元気

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得けんこう教室 「低インスリンダイエット」って大丈夫なの? 大切なのは筋肉をつけ脂肪を減らすこと

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宮川高一
東京・多摩みなみクリニック内科

 いま注目されている「低インスリンダイエット」。ブームを起こした著者の講演は、たくさんの市民で盛況のようです。本当に低インスリンダイエットはよい方法なのでしょうか。どこかに落とし穴はないのでしょうか。

インスリンの働きとは?
 まずインスリンの働きをみてみましょう。
 食べ物が消化吸収されるとき、炭水化物(糖質)はブドウ糖に分解されて、血液中に入ります。これを血糖といいます。血糖値が上がると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。
 インスリンは、血糖を細胞にとりこみ、エネルギーとして利用するのに欠かせないホルモンです。もしインスリンがなければ、からだは栄養をうまく利用でき ません。糖尿病は、インスリンの作用が足りないためにおきる病気ですが、悪化すると「痩せてくる」のはこのためです。
 一方、糖質をたくさんとると、インスリンがたくさん分泌され、余ったブドウ糖は、脂肪にかえられて体内に蓄えられます。インスリンの過剰分泌は、肥満をひきおこすというわけです。
 ですから同じエネルギー量でも、インスリンをできるだけ使わない食物が肥満を予防するのではと考えられたのが、低インスリンダイエットなのです。
 しかし、そもそもインスリンを悪者扱いすることには私は抵抗があります。血糖をインスリンで代謝することが、からだのなかで最も単純で、負担なく、エネ ルギーをとりだす方法だからです。脳はエネルギーとして、血糖しかつかえないことも忘れてはいけません。

20年前にも注目あつめた
 じつは、低インスリンダイエットは、糖尿病患者の治療として以前からあった考え方です。
 一九八一年、アメリカのジェンキンスらが、摂取後に血糖が上昇しやすい度合いを食品ごとに「Glycemic Index」(糖化指数=GI値)として数値化しました。GI値が高い食品は血糖値が上がりやすく、その結果インスリンの分泌を促進し、ひいては脂肪合成 も促進すると考えたわけです。
 この考え方では、米よりはパスタのほうがGI値が低いために望ましい食品となるわけです。このGI値は非常に注目され、八〇年代に欧米でも、日本でも研究発表が相次ぎました。
 しかし学会の大勢は、「GI値についてはある程度、考慮することは有用だが、あくまでダイエットの基本はエネルギー制限と栄養のバランスをとることが重 要であり、それを考慮しないGI値のひとり歩きは科学的でない」というところに落ち着いたと私は考えています。
 たとえば、米のおにぎりはGI値は高いものの腹持ちがよく、空腹時の補食に適しているし、パスタはGI値が低いものの、調理に油をたくさん使い、高エネ ルギーになり太りやすいともいえるからです。またGI値を気にしすぎて、偏食になり栄養のバランスを崩してしまうのも心配です。

いまの流行は非科学的
 最近流行の「低インスリンダイエット」の著者の多くはこの考え方を拡張して、蛋白質や脂質の多い食品にもあてはめたところに問題があります。
 蛋白質や脂質の多い食品は、当然相対的に糖質の割合は低くなりますから、GI値は低値となります。
 ある本では「フライドチキン」や「五目やきそば」「アイスクリーム」を推奨しています。
 蛋白質は多量に摂取すると腎臓に悪いことが知られています。また脂質は高エネルギーですから、肥満のもとになりますし、糖尿病や動脈硬化(心筋梗塞な ど)の原因となります。アイスクリームは蛋白質や脂質が多いためにGI値は低いのですが、高エネルギーです。とてもすすめられる食べ物ではありません。ま たそのような本は「体験談」が中心で、科学的な裏づけが乏しいのも特徴です。

筋肉を増やすことが健康な減量法
 かつては、肥満の治療に極端な「カロリー制限」が行なわれていましたが、現在ではなされません。極端なカロリー制限は、エネルギーを使う組織である筋肉が極端に減少し、エネルギーを蓄える脂肪はあまり減少しないのです。
 これではエネルギーを使う組織がなくなるので、より「痩せにくいからだ」になります。もしリバウンドで多食し、また太れば、前よりもより脂肪組織が多い、「痩せにくい」からだになってしまうのです。
 ですから体重の一〇%減少を目標に、運動できるエネルギー量を確保し(すなわち食べる! 栄養のバランスも重要です)、筋力トレーニングや歩行などの有 酸素運動を併用して、できるだけ筋肉を確保しつつ、脂肪を減らしていくように努めます。減量に「ラクチンな王道」はやはりないのです。
 しかし、この方法が以前の方法に比べ、着実に成功率が高くなっています。

GI値は活用の意味がある
 現在流行の「低インスリンダイエット」は極端で多々問題のあることを示してきましたが、糖質を中心とした食品のGI値を考慮することは、意味があります。
 「これがいい」とその食品ばかり食べるのは問題ですが、栄養のバランスを考慮したうえで、GI値の低い食品の有用性は確かにあるといえるのです。
 GI値の低い食品としては、例えば玄米やそば、大豆などがあります。これらの食品は食物繊維が豊富で、ビタミンやミネラルが多く含まれています。食物繊 維は、よくかまなければいけない食品が多く、ゆっくりと食べることになり、インスリンの分泌をさらに抑えたり、また満腹中枢を刺激し、食欲を抑えるはたら きもあります。
 ファストフードに流されず、古来からの人類がもつ食文化を大切にすることが「ダイエット」の基本であることを示しているのではないでしょうか。

いつでも元気 2002.12 No.134