特集1 「医療改悪法」成立したが傷だらけ 「負担増を撤回せよ」は大きな世論となります!
小池晃さん
全日本民医連理事・日本共産党参議院議員 |
座談会
一カ月半も会期延長しながら法案成立率は過去最低だった第一五四回国会。悪法に対する国民の怒りが 集中した結果です。医療改悪法は閉会ギリギリまで追いこみましたが、強行採決。これからのたたかいはどうなるのか。東京・中野共立友の会の亀田朗子さん、 全日本民医連理事・日本共産党参議院議員の小池晃さん、全日本民医連会長の肥田泰さんが話しあいました。
亀田 今度の医療改悪法、中身もひどいけど、通し方もずいぶんひどかったですね。厚生労働委員会で反対に回りそうな委員をさしかえたり、質問者が残っているのに突然やめさせて強行採決したり。
みんなすごく憤慨してます。
小池 そうですね。最後の厚生労働委員会では、質問者が公明、共産、社民、自由と残っていて、私も四〇分間質問する予定でした。じつは二週間前に、宮路副大臣の帝京大医学部への入試口利き問題を追及したんですが、これで厚労省がかなりあわてたらしいんですね。
肥田 あれで相当紛糾しましたから。
小池 最終日にまたなにか大問題になったら、本当に医療改悪が廃案になってしまう。私の前で強行採決するとあまりに露骨だから、その一つ前の公明党のところで打ち切ったのだろう(笑い)、と。これはマスコミがいっていることです。
●医師会・連合とも共同し
肥田 参議院本会議は与党だけの単独採決で、異常さが浮き彫りになりました。
それだけこちらが追いつめたといえます。
はじめは五月の連休明けくらいに通されてしまうのではないかといわれていたのが、どの世論調査を見ても国民の約六割が反対、調査によっては七割、八割が反対という状況になりましたから。
亀田 国民世論としては完全に廃案でしたよ。健友会(中野共立など)は、法案が参議院に回った 六月三日から国会が終わる七月三一日まで、職員と友の会員が連日国会前で座り込みをしました。国会議員への要請行動もしたんですが、自民党の議員も「ぼく は反対です」というんですよ。それだけに悔しい。
小池 たしかに健保法案は通ってしまいましたが、全体として見ると、政府が重要法案と位置づけた法案が、三つも通っていないんです。有事法制も個人情報保護法案も人権擁護法案も。
これは法案の中身があまりにひどかったということと同時に、国会内外のたたかいの成果だと私は思います。基本的には国会の力関係は、選挙でだいたい決まっ てしまう。与党が多数ですから、これはなんとしても通すといったら通ってしまうわけですよ。それを国民のたたかいによってストップさせることができた。
健保は通ってしまったけれど、土俵際まで追いつめて追いつめて、もうどうしようもなくなったから、ああいう無茶な強行採決を連発せざるを得なかったわけでね。たたかえば力関係をこえて、悪法を阻止できると確信できましたね。
肥田 今回は、医師会とか連合(日本労働組合総連合)もふくめて署名が二七〇〇万を超しました。これまでは、医師会や連合は最初は反対を表明しても、最後になると若干の修正にのっかってしまうということがよくありましたが、今回は最後まで反対をつらぬきました。
最終盤では医師会が自民党支持を見直さざるを得ないとまで言明しましたね。
そういわざるを得ない状況が、現場の医師会員、開業医のなかには満ち満ちているんです。医師会副会長が、衆議院の参考人質疑で「条件付き賛成」といったら 各地から抗議が殺到して、会長をリコールする運動をやったらどうかという話まで出たほどです。
小池 医師会とか連合の、現場の力がすごく大きいですね。民間企業の労働者は、中小企業はもちろん大企業でも、負担増に耐えかねているんです。とくに保険料が総報酬制になると、大企業でもかなりボーナスが減ることになりますから。
肥田泰さん
全日本民主医療機関連合会会長
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●いくらかかるか心配で
亀田 私自身はまだそれほど病気をすることもありませんが、義理の母は家で介護保険のお 世話になっていますし、父は病院に入院しています。父は九〇歳を過ぎていますから実際の医療費はそれほどかからないはずですが、オムツとかいろいろな自己 負担の分があって、一カ月にだいたい六万円ちょっとくらいです。両親では負担しきれず、六万円ですんでいるので、うちがなんとか負担しているのですが、こ れが一割負担になっていくとどういうふうになるのかと心配です。
まわりでも六五歳過ぎるとどうしても病気がでてきて、みんな医療費を心配してます。
いくらかかるかわからないというのが不安ですよね。いままでは、七〇歳になったら決まった額をもっていけばいいという安心感がありましたけど、それが一割負担になった。そして六九歳まではみんな三割負担ですよね。
これまではなんとか、早く見つけて早く治療をしてと思ってましたが、検査代もすごくかかるとなるとどうしても病院にいくのが遅くなる。みんな少しでも病院にいく回数を減らすしかないと…。
肥田 一九九七年に健保本人の負担が一割から二割になったとき受診者数がかなり減りましたが、それがずっと続いています。それが今度、三割負担になると、ますますその傾向が強まるでしょう。労働者の賃金が減ってるときですからね。
有訴率といって、具合が悪いという人の数は増えているんです。病気がなくて受診が減っているのだったらいいんですがそうじゃない。これが心配です。
早期発見早期治療が医療費を抑える一つの方法だといわれ続けてきたわけですが、いま国がやっていることは、医療費削減といいながら、ますます逆の方向のこ とをやっています。なんでこんな政治になるのか。小泉内閣そのものが国民の生活実感とはかけ離れた方向で動いていることが、この間、ほんとうにはっきりし てきましたね。
亀田朗子さん
東京・中野共立友の会会員 |
●国民の暮らしをぶっこわして
小池 このあいだ新聞の川柳で「純ちゃんと叫んだ私が恥ずかしい」と出ていました。実際、国会が始まる前と終わったときでは、雰囲気がまるきり違った。始まるときはまだ小泉旋風がある程度吹いていましたが、終わってみると「恥ずかしい」、そういう雰囲気です。
国民が一番失望したのは、私は腐敗政治に対する彼の対応だと思います。彼が自民党をこわすといったときに、国民が一番期待したのは、自民党の古い金権体質 をこわすことでした。ところが彼はなにもしなかった。今度の国会では、国会議員が六人も処分されたんです。加藤紘一、井上裕参議院議長、辻元清美の三氏が 議員辞職、鈴木宗男が逮捕。離党ということでは民主党副代表の鹿野道彦氏、役職をやめたのが例の宮路副厚労大臣です。田中真紀子議員も辞職しましたね。
こういうことに対して、彼はいっさいイニシアチブを発揮しなかった。ぶっこわすべきものはいっさいぶっこわさずに、ぶっこわさなくていい国民の暮らしを ぶっこわした。当初、自民党総裁になるときにかかげた公約とまったく違うことへの失望と怒りが広がっています。
亀田 小泉首相も医療界から、六年間で五七〇〇万円も献金をもらってたんですね。
小池 彼の最大の資金源です。厚生大臣をやっていた一年間だけは一〇万円ですが、厚生大臣をやめた九八年からは、また一千万円以上とふくれあがります。
肥田 宮路の医学部口利き問題も、つねに行なわれていたことで、悪いとは思っていないというんでしょう。やめるときも国会運営を促進するためにやめるのだと。金権体質はまったくなおっていない。
亀田 ほんとです。これからは、どういうたたかいになるんでしょう。
●こんな負担をかぶせていいのか
小池 悪法の実施を許さない、骨抜きにするというたたかいだと思います。
今度の改悪は二段階ですね。この一〇月から、高齢者の負担が定率制になり、来年四月から、健保本人三割負担と保険料の引き上げがある。この改悪を元にもどせというたたかいを大きく広げていくことが大事だと思います。
肥田 社保協でも、「撤回せよ」という署名を行なうことになりました。
小池 来年四月からの負担増を実施するなという声は、大きな世論になりうると思うんです。とい うのは、来年四月は医療費の負担増で一兆五〇〇〇億円、そのうえ介護保険の高齢者の保険料が三年ごとの見直しで上がる。年金は、いま物価スライドの凍結解 除ということがいわれていて、下手をすると月額五千円くらい減るということになりかねません。それから雇用保険の保険料の引き上げもある。
合計三兆二千億円以上も、社会保障の負担が増えることになっています(表1)。
これだけ景気が悪いときに、こういうことをやっていいのか。この声は、与党の議員だって無視できないと思います。
しかも来年四月はいっせい地方選挙があるでしょう。そのときにこの問題をほんとうに問いかけていって、こういう負担増をしていいのかということを、大きな争点にしていけると思います。
亀田 なるほど。
肥田 介護保険も、通ってしまったからおしまいというのでなく、実施された後も中身を改善する運動をやっています。
同じように今度も、法律として実施させない運動、撤回させる運動にとりくもうということですね。いままでにない大きなとりくみとして、医師会や労働組合も ふくめて、まだまだこれで終わっていないという運動をやる必要がありますね。
●「6カ月超す」は撤回させよう
亀田 四月にあった診療報酬改定も問題ばかりですね。六カ月超す入院が特定療養費(差額)になるのも、一〇月から?
肥田 ええ。これは何としても撤回させたいですね。民医連は、基本的にはとらない方向でがんばろうと提起しています。
急性期の病院はそれほど対象者も多くないのですが、療養型病院では入院の一〇%とか二〇%の人が六カ月を超すということもあります。そうすると、とらないと経営がなりたたないところも出てきますから、一律にはいきませんが。
問題は、保険でみる部分を今回一五%カットしてその分患者から差額でとれ、というふうにしたわけですが、向こうはさらに四〇%、五〇%カットをねらってい る。最後は一八〇日を超したら全部保険ではみないとする布石なのです。だからこれは元へ戻せと。入院が長くなっても必要な人は保険でみろというとりくみを ぜひやらなくてはと思います。
小池 実際、公立病院ではとらないと決めた自治体もでてきています。
肥田 急性期の自治体病院なら、それほど重大な問題にならないでしょうし。
小池 民医連も一緒になってとらないということで、全国で実質化させない、骨抜きにさせてしま う。同時に、こういったものを撤回せよとせまっていくことが大事かと思います。医師会も共通要求になるはずです。医師会と歩調をあわせて、各地で集会やシ ンポジウムもどんどん開いていく必要があると思います。
●国民の要求である限りは
肥田 制度が変わってこれはできなくなりましたから、はいもうやめましょうというのではなくて、それが国民の要求である限りはしがみつきながら、なおかつそれを制度的にも保障させていく。そういうことを民医連はこれまでもやってきたし、それが存在意義にもなっています。
小池 差額ベッドもこれまでとらないできましたよね。そういうことの意味を、共同組織の方みなさんに伝えていくことがすごく大切だなと思うのです。
民医連だととらないんだな、よかったなということで終わるのではなくて、とらないということは経営の面からみれば大変なことなんだ、大変だけどこういう問 題があるからやっているんだと。そういうところまで共同組織のみなさんに訴えていって、だから制度そのものをいっしょにたたかって変えようじゃないかとい うことが、すごく大切だなと思います。
亀田 どしどし訴えてほしい。共同組織は、民医連の病院を「私たちの病院」なんだ、この病院を絶対になくしてはいけないって思ってますから。
肥田 だいたい経営が厳しくなると職員の目が内向きになりがちです。でも病院や診療所も大変な のだけれども、患者さんが一番大変でね。一歩外へ出て、共同組織や地域の人たちといっしょに、自治体や国に対する要求のとりくみを広げること、それがこの 秋、非常に求められていると思います。病院のなかだけではぜんぜん解決になりません。
亀田 いっしょにがんばりましょう。
写真・尾辻弥寿雄
いつでも元気 2002.10 No.132