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いつでも元気

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特集1 「国民健康保険」をたてなおせ! 「最悪の国保行政」福岡・北九州を現地調査 中央社保協 全国から265人が3日間

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自らの収入と国保料を板書して
市職員につめよる参加者(福岡市)

 不況で生活そのものが苦しいなか、高い国民健康保険料や自己負担が追いうちをかけ、保険料が払えない人には「保険証取り上げ」「資格証明書発行」という制裁措置も強められています。
 中央社会保障推進協議会(中央社保協)は、6月26日から3日間、北九州市と福岡市で国保の現地調査をしました。両市は、全国に先がけて短期保険証や資 格証を発行してきた自治体。資格証発行数はともに滞納世帯の2割以上、「全国で最悪」といわれる国保行政をしてきたところです。昨年四月には北九州市で、 32歳の女性が国保証を取り上げられ、重病なのに受診できず亡くなる事件も。今回の調査では、まともに医療を受けられない市民の実態が明らかになりまし た。

●不況に苦しむ市民に国保の追いうち
 調査に参加したのは、北海道から沖縄までの都道府県社保協などから75人、地元か ら190人の合計265人。現地の民主商工会(民商)や生活と健康を守る会(生健会)の会員、民医連の職員などから医療の実態を聞き取るとともに、市当局 や窓口職員、徴収員とも懇談。約30カ所にわたって調査しました。
 何よりも鮮明に浮かび上がったのは、市民の生活・医療の苦しい現実と、それに追いうちをかける国保行政の冷酷さ。
 北九州市のNさんは、経営していた設備会社が四年前に倒産。前年の収入に応じてきまる国保料が40数万円にもなり、失業中で払えず無保険のままできまし た。ことし5月に高熱が3週間も続き、とにかく受診したいと市役所窓口にいったところ、職員は、滞納分60数万円を払わなければ保険証は出せないの一点張 り。
 「あきらめて家に帰り、意識ももうろうとして倒れていたんです。伝え聞いた以前のかかりつけ医が『金はいいからとにかくきなさい』といってくれて」。医 師の紹介で、民医連の病院に救急車で運ばれ、肺水腫で緊急入院。少しでも遅れていれば、生命にかかわる重症でした。
 福岡市の民商会員Fさんはスナックを営んでいました。不況で客が減り昨年自己破産。国保料の滞納が約15万円になりましたが、昨年9月から月1万円ずつ 払い、ことし3月までの短期保険証を渡されました。しかし、4月からは受診時に医療費全額を払わされる資格証明書に。
職員に保険証を要求しても、「必要なときは窓口にくれば渡す」と国保法にさえ反するようなやり方です。「虫歯が悪化してものも飲み込めないほど痛むんですけど、治療も受けられないんです」

 

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これが資格証明書。
窓口で全額払わねばならないという証明書だ

●高額の保険料が国民を圧迫
 山梨県から調査に参加した高山理恵さん(甲府共立病院の医療ソーシャルワーカー)は、北九州市の生健会会員などに話を聞きました。
 ――68歳の大工さんは、妻が脳血栓で老人病院に入院中。仕事がなく、昨年の年収が152万円で、12万円の国保料はたいへん。妻は障害者医療を受けら れますが、保険外のオムツ代月3万5千円は自己負担。国保料の減免を申請しましたが、わずか2万円の所得オーバーで棄却され困っている、といいます。
 ――失業中の男性は、妻が入院中で医療費の自己負担分が月30万円。あまりに高額でおどろきましたが、「高額療養費は後で返ってくるから」と思い、親類 などから借金して支払ってきました。ところが、市の国保課では「還付分は保険料滞納分にまわす」といわれ、ほとんど返ってこなかった、というのです。
 高山さんはいいます。「四人家族の左官業の人は、年収400万円で国保料が60万円以上。払えるわけないじゃないですか。なかには、生活保護の相談で市 役所に通い、33回目で初めて申請書を渡されたという人もいました。私も仕事でたいへんな生活実態に接していますが、聞きしにまさる北九州の現実でした」
 福岡県社保協は調査の期間中、民医連の病院などを拠点に「国保110番」を実施。事前におこなった分とあわせ100件近い相談電話が寄せられました。
 ――母子家庭で高校生と予備校生を扶養している女性「パートで年収150万円。国保料を数カ月分滞納し、現在は三カ月の短期保険証。行政に相談し、今月は2万3千円、来月から1万円ずつ納めることにしたが、国保証をもらえない」
 ――腰痛で運送業を廃業し、いまも通院中の男性「生命保険を解約し、貯金をおろし、田畑を売って生活費と治療費にあててきたが、すでに貯金は10万円台に。田畑の売却で国保料が44万円になったが払えない。先行きが不安です」
 不況で仕事や生活もたいへんななか、高すぎる医療費や保険料が暮らしを圧迫している状況が明らかになりました。

●市民に目が向かない国保行政
 北九州市では半年間の国保料滞納で、福岡市では一年四カ月程度の滞納で、ほぼ機械的に資格証明書が発行されていることもわかりました。
 そんな行政の現場で働く市職員の実態はどうでしょうか。福岡市の場合、国保課の窓口に正規職員が35人、嘱託職員が7人とのこと。滞納が約8万5千世帯 なので、職員1人で2千世帯以上を受け持つ計算。とても、「ていねいな対応」などできる態勢ではありません。
 千葉から現地調査に参加した石塚俊彦さん(千葉民医連花園診療所事務長)は、北九州市で、国保料の徴収員や窓口職員と懇談しました。
 「20人ほど会った徴収員が口々にいうのは、国保料が高すぎるという話。介護保険とあわせて年60万円近い保険料、窓口負担も高い。保険料を払わず、自 費で病院にかかる人が出るのも当然。問題は高すぎる保険料にある、というのです」
 保険料を徴収する嘱託職員の立場も深刻でした。基本給は11万円で、あとは収納率に応じた歩合制。徴収割り当ての85%がノルマで、これを3カ月下回っ たら解雇。市民の生活を考えるより、とにかく徴収に追い立てられ、「夜9時すぎでも徴収にいく」「アパート入り口で3時間待ち、入ってくる人ごとに『○○ さんですか』と聞き続けた」といいます。
 「強制加入の制度なのだから、成り立つようにしてほしい」「市の一般会計からの繰り入れや、国からの補助がなければ国保は成立しない」。日々市民と接す る徴収員の声は、「国民皆保険」を保障するはずの国保がいままさに崩壊の危機にひんしている現状を物語ります。
 一方、別の調査チームが懇談した、国保運営協議会の委員をしている大学教授は、「私は何もわかりません。委員に選任されたときも『素人だから』断ったの ですが、『素人がいいんだ』と市職員にいわれました」。協議会は年2、3回、視察は温泉場。協議は一時間ほどで、ほとんど市職員の説明だけ。意見をいう委 員はまずいないが、自分も何も知らされていないので意見のいいようがないと、運営協議会の実態を赤裸々に語ってくれました。
 調査を終えて石塚さんは、「国保課窓口の職員は、『とにかく忙しい』としかいいません。懇談中に国保課に電話をしたのですが、25回鳴らしても誰も電話 を取りませんでした。これで市民の医療を守れるのか。少なくとも北九州では、国保は限界にきていると感じました。年末の市長選に期待したいですね」と。

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●「これでどうして暮らせるのか」
 調査団は福岡市で国保課の部長以下5人の職員とも懇談しました。
 ここでは、事前の国保110番に連絡してきた男性が、みずからの収入を板書して市職員に詰め寄る場面もありました。
 「退職前は720万円の所得で健保料は18万円だった。いまは214万円の年金に対し、国保料は56万円にもなった。他に税金も払って、これでどうやって暮らせるのか」
 国保料が高すぎて払えない事態は中間層にまで拡大しているのです。
 高い国保料の大きな原因は、国が84年に国保の負担を切り下げたこと。しかも北九州市や福岡市では、収入に関係なく国保料がかかる「応益負担」を50% 以上に設定し、低所得層に負担を押し付けてきました。当然、滞納率は増えますが、これにたいし市は資格証発行など制裁措置を強化。しかし、収納率はさらに 低下し、担当課長自身が「ジレンマのなかにいる」と発言するほどです。
 同様なことは古賀市の担当職員も「昭和62年から資格証を発行してきたが、収納率アップの効果はなかった」と話しています。
 昨年、国は滞納者に資格証明書を発行する制裁措置を自治体に義務づけましたが、こうしたやり方が国保の建て直しと反対の方向を向いていることは明白です。

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ききとり調査

●国保は「相互扶助」の制度ではない
 懇談のなかで中央社保協事務局次長の相野谷安孝さんが市職員にこう質問しました。「皆さんはすぐに『国保は相互扶助の制度だ』といいますが、その言葉は国保法のどこに書いてあるのか教えていただけますか」
 職員があわてて法令をめくりますが、最後まで返答はありません。相野谷さんは次のように締めくくります。
 「国保法には、『この制度は社会保障である』と書かれていて、どこにも『相互扶助の制度だ』とは書かれていません。国保本来の原点に戻って、ともに保険制度を立て直すために力を尽くしていきましょう」
 参加者から「生活保護以下の収入からなぜ保険料をとるのか」「1カ月の短期保険証で入院を断られた」など切実な声が出され、担当部長もこう発言せざるを えませんでした。「医療保険制度は根本的な改革が必要な時期にきています。制度の矛盾はわれわれからも国に訴えていく段階にあると思っています」

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全体集会で発言する参加者

●医療と暮らしを守る国民的大運動を
 調査団団長をつとめた九州大学助教授の伊藤周平さんは、初日の講演と最終日のコメントで語りました。
 「行政は何かというと金を払わなければ権利はないという。それは社会保障の理念に反します。今回の調査で、国民皆保険の空洞化、ひいては憲法25条の空 洞化が進んでいることがはっきりわかりました。この現実を広く知らせ、もう一度社会保障の仕組みとは何かを考え、実態から反撃していく必要があるのではな いでしょうか」
 副団長で金沢大学教授の井上英夫さんは語ります。
 「いま私たちは、『健康権』を掲げるべきです。国際的には確立している健康権は、『できる限り最高水準の健康を保障する』というもの。国保の制裁措置や 医療を受けられない現実は、明らかに健康権に反している。ひどいといっているだけではだめ。健康破壊を統計的に調べ、具体的な憲法違反、国保法違反の事例 を、審査請求など法的手段によって追及することが重要になってくる」
 「国民皆保険」が事実上崩壊しようとするいま、国に国保への国庫負担を八四年以前の45%以上にもどさせ、社会保障としての国保、医療を国民に保障させ る運動を高めていかなければならないことが、今回の現地調査で明らかになりました。

文・矢吹紀人/写真・酒井猛

いつでも元気 2002.9 No.131