• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

ニュース・プレスリリース

第44期第2回評議員会方針

2021年2月21日 全日本民医連第44期第2回評議員会

はじめに~激動の44期、中間点に立って

第1章 第1回評議員会以後の情勢の特徴
(1)コロナ禍を通じて広がる生活困窮、医療・介護事業所の現状~新自由主義から の転換を
(2)日本の針路をめぐる激突~菅政権の危険性と市民の運動の高まり

第2章 運動方針にもとづく実践の到達と今後の重点課題
(1)新型コロナウイルス感染症感染拡大に対する私たちのとりくみ・今後の重点
(2)社会保障と平和を守る運動の到達と重点課題
(3)コロナ禍の医療・歯科・介護活動の特徴と今後の課題
(4)到達点に確信を持ち、コロナ禍での民医連の役割を語り、医師集団づくりを前 進させよう
(5)コロナ後を見据え、患者・職員を守り抜くため、内部努力とたたかいで経営危 機を乗り越えよう
(6)職員育成のとりくみ
(7)感染対策を強め、コロナ禍でこそ共同組織の活動を強めよう
(8)総選挙へ向かう全日本民医連の立場と方針
(9)全国的なとりくみ

おわりに

はじめに~激動の44期、中間点に立って

 2020年2月の全日本民医連第44回定期総会(熊本)から1年が経過しました。新型コロナウイルス感染症への対応をはじめ、私たちのとりくみは、総じて44回総会運動方針と綱領が示す理念に沿って展開し前進してきました。「まず診る、援助する、何とかする」、アウトリーチやソーシャルワーク機能の強化など、その実践はマスコミなどでも高く評価され、全国の民医連事業所は地域の中でその役割をしっかりと果たしてきました。自施設でのクラスター発生など経験したことのないさまざまな困難を乗り越え、全県連から参加しました。
 感染患者診療の前線で奮闘している職員はもちろん、私たちの医療と介護を実践し続けたすべての職員、私たちを全面的にささえてくれた家族、ともに困難に立ち向かってきた地域住民、共同組織の仲間のみなさんに、全日本民医連理事会として心から感謝いたします。
 丸1年におよぶ新型コロナウイルス感染症とのたたかいは、多くの職員・家族を疲へいさせています。第1回評議員会方針第1項で、職員のいのちと健康を守り抜くことを掲げ、その後も四役会議名で管理部向けアラートの発出など最重点課題としてきました。自施設の感染対策を継続的にバージョンアップし、職員を守り抜くことをあらためて強調します。
 このパンデミックはまだ収束の兆しが見えませんが、この1年間に私たちが経験したことは、これからの民医連運動を展望する上で、さまざまな教訓をもたらしました。特に、医療や介護が国の政策によって大きく影響を受けること、いのちや人権を守るためには政治のあり方こそが問われることなどが、現場で体験的に可視化され、多くの職員の強い認識になったことは重要です。
 新型コロナウイルス感染症は、人は誰もが生きていく上で他者のケアを必要とする存在であり、ケアが社会を維持するために不可欠なものであることを示しました。同時に、エッセンシャルワーカー(主に医療、福祉、農業、公共交通、物流など社会生活をささえる仕事を担う人びと)の重要性とその処遇が低くとどめ置かれている現実を明らかにしました。ケアが大切にされる社会をめざす、さまざまな共同を広げていく可能性が広がっています。
 無差別・平等の医療と福祉を実現することをめざす私たちは、この国の社会保障のあり方について、検討を深め、現場からの発信を強化することが求められています。
 2月13日午後11時7分、マグニチュード7・3、福島県、宮城県では、震度6強を記録する大地震が発生しました。心配された津波は発生しませんでしたが、家屋の破損は多数におよび、コロナ禍で苦しい生活を強いられてきた多くの人びとに追い打ちをかけ、二重の困難をもたらす被害となっています。当該県連と全日本民医連・地協で連携し、復旧・復興へ向けた県内の運動をすすめています。
 44期の中間点となる今回の評議員会では、あらためて私たちが直面する課題を整理し、後半に行うべき重点を確認しました。コロナ禍でさらに深刻化した国民の実態をリアルにつかみ、私たちに何が求められているのか、そのことをしっかりと議論し、打開の方向を定めました。
 44期に掲げた生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系づくりとその方略づくりにとりくみながら、コロナ禍で大幅に拡大した健康格差を乗り越えていくために抜本的な社保活動の強化、医師問題と経営問題での前進、高い倫理観と変革の視点を持った職員育成が欠かせません。これらはコロナ禍の今、いよいよ強く求められています。
 第2回評議員会は、①第44回定期総会からの1年間の到達と今後の重点課題を全会一致で決定、②決算・予算を承認しました。
 この方針をすべての県連、法人、事業所、職場で実践しましょう。

第1章 第1回評議員会以後の情勢の特徴

 第1回評議員会は、コロナ禍をいのち、憲法、綱領の視点で捉え、その背景に新自由主義的政策があることを指摘しました。この6カ月間、世界と日本では貧困・格差、ジェンダー不平等、気候危機など、事実上の新自由主義的政策の行き詰まりが現れています。
 非正規雇用・ワーキングプアの増加、ジェンダー不平等など深刻な労働・生活実態、窮地に陥った不安定な層を救う社会保障制度の不十分さが露呈しました。そしてパンデミックの非常時に対応できない医療・介護提供体制のぜい弱さも明らかになりました。この事態は、いのちと健康、暮らしを自己責任で守ることを国民に強要し、あらゆる分野を市場化し、利潤と効率を最優先する政治がもたらしたものであることが、いっそう鮮明となっています。
 この深刻な事態に対して、昨年9月に安倍政権を継承した菅政権は、自助・自己責任を基本とした対策に終始しています。日本経済団体連合会は11月、「新成長戦略」を発表し、「新自由主義の流れをくむ、わが国を含む主要国での資本主義は、行き詰まりを見せている」としながら、「サスティナブル(持続可能)な資本主義」を提起し、利潤優先の姿勢を堅持し、原発再稼働・新増設にさえ言及しています。新自由主義的政策への反省もなく、逆にコロナ禍に便乗して利潤追求の場を拡大する動きも強まっています。
 同時に、新自由主義と決別し、人権と平和を求める世論と運動も大きく広がっています。新自由主義の先頭を走るアメリカでは、コロナ禍でいのちの格差まで鮮明になる中で、大学の学費の無償化、国民皆保険制度の確立、最低賃金の引き上げ、富裕層への増税などを支持する若者が増加しています。地球規模の気候危機の打開に向けても、新自由主義・資本主義の転換が必要との認識が広がっています。日本でも、市民と野党の共闘が、新自由主義の経済を転換する政策を含めた一致点をつくる状況へと発展しています。コロナ禍での助け合いの活動も、従来にない規模での協力・共同で広がっています。
 いま、「いのち・憲法・綱領の視点」から、平和と個人の尊厳が大切にされる2020年代を展望し、「市民社会が平和と人権を実現する時代」(第44回総会運動方針)として、情勢をとらえることが重要です。直面しているコロナ禍の情勢も、政府やマスコミの報道だけでなく、具体的な事実や事例から出発し、その背景にある国や財界の政策とその本質の学習が求められています。いのちが平等に大事にされ、憲法に明記された平和と人権が保障されるためには、私たちの不断の努力、たたかいが必要です。無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす民医連として、第1回評議員会以降の情勢の特徴を、以下、明らかにします。

(1)コロナ禍を通じて広がる生活困窮、 医療・介護事業所の現状~新自由主義からの転換を
1) 先の見通せない世界と日本の感染状況

 新型コロナウイルス感染症は、昨年1月15日に日本国内で初発例が発生してから1年が経過しました。感染の拡大は、世界でも日本国内でも収まる気配はありません。
 世界の感染者数は1月14日現在、累計9225万1757人、少なくとも198万217人が死亡しました。7日間平均で1日当たりの感染者数をみると、国別ではアメリカで22万人超と過去最多を連日更新、死者数は2700人前後となっています。変異株の感染が広がっているイギリスでは1日の感染者数は5万7000人を超え、死者数は700人を超えて、なお増加しています。
 国内も、1月14日現在、感染者数累計は31万641人、第三波の急拡大が始まった昨年12月の1カ月は8万4741人、1月は14日間で7万899人と急速に広がっています。死者数は4000人を超え、右肩上がりで増加、1日100人規模に迫っています。

2) 限界を超す生活悪化と拡大する格差
①「コロナ禍を起因とした困窮事例調査」が示したもの

 全日本民医連として「コロナ禍を起因とした困窮事例調査」を実施し、435事例を中間まとめとして公表しました。


 特徴は、性別、世代を問わずコロナ禍での困窮が広がり、中でも非正規労働の若者、少ない年金を非正規労働で補ってきた高齢者、性別では、非正規労働が多い女性が4割を占め、広がりが顕著です。12月には民間の調査で、実質的な失業状態にある女性が90万人に達している、と公表されました。非正規労働者が、真っ先に解雇や就労時間の短縮にあい、預貯金がわずかしかない生活から一気に生活困窮がすすんでいます。
 年代別の就労形態では、20代はパート・アルバイトが73%、正社員はいませんでした。30~60代は約6割が非正規労働者でした。70代では失業した人を合わせると86%が非正規労働についています。
 収入が途絶え家賃が支払えないなど、住宅問題も深刻です。住宅問題を抱える人のうち35%がすでに住居を喪失、46%が退去を迫られています。全体で45%が独居でした。今回の調査では、すべての国民の権利である生活保護を申請したのは75事例、家族が偏見・差別をおそれるなどで固辞したケースが33事例、福祉事務所が「生活保護には年齢制限がある」など違法な対応で受けつけなかった事例が22件ありました。

② 「新型コロナウイルス禍における看護学生へのアンケート調査」 が示したもの
 昨年11月末現在ですでに1000人を超す学生が退学し、大学生の8人に1人が退学を考えるところまで追い込まれています。
 全日本民医連看護学生委員会が実施した「新型コロナウイルス禍における看護学生へのアンケート調査」は、全国1127人の看護学生から回答を得ました。①親の収入が減り経済的な事由で在学もままならないこと、②学生自身もアルバイトの禁止やアルバイト先がなくなる中で、それでも学費と生活費のために働かざるを得ない状況に追い込まれていること、③感染リスクのために看護実習が困難な中で教育学習環境の整備を求めていることが明らかになりました。
 このような厳しい事態でも多くの学生が「患者さんのために役に立てる看護師になりたい」と志をさらに強くしています。

③止まらない倒産、 失業の増大
 新型コロナウイルス感染症関連の倒産は、第一波の昨年6月末272件から1月8日現在では875件に広がっています(帝国データバンク発表)。東京が最多で、大阪、神奈川、静岡、愛知、兵庫などが続いています。
 昨年11月の国内の失業者数は195万人と前年同月の比較で44万人増加、10カ月連続の増加です。7月から9月の期間では年収100万円未満の就業者が109万人減少、非正規雇用も125万人減少しました。一方で正社員は45万人増加しており、コロナ禍で失業の増大と格差のいっそうの拡大がすすんでいます。
 昨年11月の労働力人口は11万人減少しました。労働力人口は実際に仕事についている人と失業を申請して職を探している人の合計です。少子化による生産年齢人口の減少があるとはいえ、失業者が増大するもとでの労働力人口の減少は、職を求めることすらできない現実が広がっていることを示しています。
 非正規労働者はコロナ禍の前、2120万人と過去最高となっていました(2018年)。非正規雇用の所得水準は、正規雇用・男性の賃金と比較して、男性は約5割、女性は約4割で、女性ではより低い水準です(賃金構造基本統計調査2019年版)。
 アベノミクスのもとで増やされてきた非正規雇用、その多くを占める女性、低すぎる年金を非正規労働でカバーしてきた高齢者、そのほとんどが休業手当などの支援を受けられていない状態にあります。全日本民医連の困窮事例調査が示すように、こうした不安定な暮らしを押し付けられた人びとの暮らしをコロナ禍が直撃しています。

④コロナ禍でも株・金融投資で増える大企業の利益
 今年の第1四半期では、コロナ禍でも大企業(資本金10億円以上、5000社) は、これまでのばく大な内部留保を困窮する労働者への賃金や仕事を増やす投資ではなく、日銀の巨額な金融緩和策を背景に株や金融投資に回し、利益を238兆円から241兆円へと3兆円増やしています。資産では、現金・預金15兆円、株式5兆円、公社債3兆円増加となりました。

3) 崩壊が始まった医療・介護・保健所体制
 第三波が猛威をふるう中、昨年12月21日には日本医師会が、「医療崩壊」にあると記者会見でのべました。


 コロナ受け入れ病床がひっ迫し、入院が必要と判断された患者が自宅やホテルで待機する、あるいはコロナ受け入れでない病院、福祉施設にとどめ置かれる事態、多くの基幹病院で手術の停止、救急の停止など新型コロナウイルス感染症の治療と通常の医療との両立が困難となっています。救急医療体制が危機を迎える中、総務省消防庁によると年末年始の1週間で発生した医療機関への「搬送困難事例」(救急搬送を3病院以上に断られ現場に30分以上滞在したケース)が東京、大阪、横浜などの52の消防本部だけでも2179件に上り、ひと月前の1・5倍に達しています。こうした中で、年齢による入院や治療の制限などあってはならない事態も生まれています。


 医療・介護従事者は休めない状況が続き、極度の緊張状態の継続や、人員不足、防護具不足、新興感染症に対する感染リスクのストレス、差別・偏見などの中、過酷な状態を強いられています。「使命感・責任感」だけでは、ささえきれない状態です。日本看護協会が昨年12月に発表した「看護職員の新型コロナウイルス感染症対応に関する実態調査」(調査期間9月8~28日)では、34・2%の病院が看護職員の不足があったと回答、新型コロナウイルス感染症対応を理由とした離職が全体で15・4%、感染症指定医療機関などでは21・3%にも上る事態です。
 2月12日に厚生労働省が発表した、新型コロナウイルス感染症に関する労災認定数の6割、1738件(うち死亡3件)が医療従事者となっています。
 保健所は、第一波でキャパシティーを超え、感染拡大地域を中心に過労死基準の80時間を大幅に超過する残業、6割を超える保健所で人員不足など、機能不全に陥り、深刻な過重労働に見舞われました。現在の感染拡大の中でより深刻さは増し、疫学的追跡調査や入院調整などの業務が追いつかず、東京では6737人が「入院・療養等調整中」(1月9日現在)となっています。こうした中、発熱者、風邪症状のある患者が地域の相談センターや診療・検査医療機関にスムーズにアクセスできない状況も生じています。警視庁の発表では、昨年3~12月までに自宅や屋外で死亡した人の中で、122人が新型コロナウイルス感染症に感染、うち56人が12月中に亡くなっています。
 感染の爆発的拡大、医療提供体制の崩壊の危機の中、1月7日には東京、神奈川、千葉、埼玉、同月13日には大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、福岡、栃木を対象に2度目となる「緊急事態宣言」が発令される事態となりました。
 経営面でも深刻さは増しています。上半期の日本医師会、3病院団体、全日本民医連調査の結果、共通して第一波で生じた第1四半期の大幅な赤字を克服できず、財政面からの医療崩壊は加速しています。


 そうした状況に対して、多くの医療・介護関係者、団体、個人が声を上げています。民医連も全日本、各県連で多くの医療・介護事業所と共同して要望書を提出してきました。第二次補正予算までに、医療提供体制などの強化に約3兆円、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援金は2兆2370億円(医療1兆6279億円、介護6091億円)が、予算化されました。
 しかし政府は、医療・介護事業所への減収補てんを拒み続け、医療・介護の存続の危機は解消されていません。感染拡大防止のための検査体制の拡充は自治体任せとなっています。日本医師会の試算では、すべての医療機関、介護事業所、歯科などの減収を補てんする総額は、最低でも7兆5231億円で圧倒的に不足しています。あわせて緊急包括支援金(医療分)2・7兆円も昨年10月末現在で0・8兆円しか届いていない事態が、経営困難に追い打ちをかけています。
 昨年12月17日には、超党派医師国会議員の会が、すべての病院・診療所に減収補てんと人員・体制の強化に向けた助成を行うことを緊急に要請しています。

4) 本質的な政治と政策の誤りは何か
 これまでのべてきたようなコロナ禍で広がる日本の大きな矛盾を生み出している根源は、どこにあるのでしょうか。
 それは、歴代の政権がすすめてきた新自由主義の政策にあります。新自由主義は国民の懐を豊かにする経済政策ではなく、一部の大企業を強くする経済政策です。大企業に課せられた規制や負担を軽減、緩和し、企業の「自由」を拡大し競争力を強化するために、かならず社会保障の削減を伴います。そして公共の資源である全国の保健所や公立・公的病院の統廃合をすすめるなど、効率を優先し、医療と介護を壊してきました。
 昨年10月に発表された「新型コロナ対応民間臨時調査会 調査・検証報告書」では、検査体制充実や保健所・衛生検査所の人員増を求めた2010年の「新型インフルエンザ対策総括会議報告書」を政府は学ぶことなく、提言はいずれも実行されず、棚ざらしとされてきた、と厳しく問題を指摘しました。
 必要な医療・介護の提供、いのちのためにこうした政治と政策の根本を変えるしかないことが、明確になった1年間と言えます。

(2)日本の針路をめぐる激突~菅政権の危険性と市民の運動の高まり
 民医連は、自ら現場から調査し、多くの団体、個人とともに声を上げ、要求を前進させてきました。深刻な困窮実態を調査し、困窮者支援制度の延長を求めてきました。国会でも野党の追及で生活保護はすべての国民の権利であると安倍首相が認め、厚生労働省による周知が始まっています。
 市民と野党の共闘により、安倍政権の最大のねらいであった安倍9条改憲を実質的に断念させました。
 昨年秋、大阪市廃止の是非を問う2回目の住民投票が実施され、市民は再び反対の意思を示しました。大阪民医連は全国から支援を受けながら、維新政治がすすめてきた市民病院の廃止、保健所の統廃合など、いのちを守らない施策の問題を訴えました。今回の結果は、事実にもとづきわかりやすい選択肢を示せば、政党の組み合わせにかかわらず、短期間でも有権者の投票行動を変えられることを示しました。
 核兵器禁止条約は51カ国が批准、1月22日に発効し、戦後初めて核兵器を禁止する枠組みがつくられます。中満泉・国連軍縮担当上級代表は「新型コロナウイルスは、武器のみで安全保障がもたらされていないことを明確に示している。核兵器を含めて各国で膨張を続ける軍事費のあり方について発想の転換が必要だ」とのべ、軍縮に舵を切り、社会保障に財政を転換すべきと言及しました。
 昨年9月16日、菅政権が誕生しましたが、「安倍政治の継承」を公約するだけでなく日本学術会議会員の任命を拒否し、憲法が保障する学問の自由をじゅうりんするなど、発足早々「より危険な政権」であることが露呈しました。
 2月3日、多くの医療、感染症、公衆衛生の団体や日本弁護士連合会などが強く反対する中、改定特措法、改定感染症法がわずか4日間の審議で成立しました。全日本民医連は3度にわたり反対の声明を発表してきました。
 第一に検査や入院、宿泊療養などを拒否した人に対して行政罰、過料、第二に営業自粛に応じない事業者への過料、第三に病床確保の勧告に応じられない医療機関名の公表、などが主な改定の内容です。
 入院したくてもできないぜい弱な医療体制、検査を受けたくても受けられない不十分な検査体制などを生み出してきた政治の責任を国民に転嫁するものです。また、地域の中でさまざまな役割分担を行い、地域医療をささえている医療機関に対して、事実上の制裁を行うなど言語道断の内容です。
 何より国民の理解と、政治や行政との信頼関係なしに感染症対策は行えません。また、感染症への差別、偏見を生み出してきた過去の深刻な反省の上に、今日の感染症への原則に人権の尊重、擁護が据えられています。全日本民医連は、今回の改定についてあらためて改定内容の撤廃を求めます。
 さらにいのちより経済を優先させる政策、国民の苦難に対して自己責任を貫く冷酷な姿勢、国民の声に向き合わない姿勢が明らかとなり、内閣支持率は急落、不支持が支持を上回っています。
 第2回評議員会では、平和で人権が輝く日本をめざす視点から、対決点を明らかにします。

1) 自己責任=自助=新自由主義VS権利としての社会保障の激しいぶつかり合い
①自助にもとづく全世代型社会保障改革を強行、 社会保障の解体をすすめる菅政権

 菅首相は所信表明で、あるべき社会像として「自助・共助・公助、そして絆」を唱えました。昨年12月15日に閣議決定された全世代型社会保障検討会議最終報告は、「①基本的考え方に、菅内閣がめざす社会像は『自助・共助・公助』。まず自分でやってみる。家族や地域でささえ合う。最後は国が守ってくれるセーフティーネットがある社会をめざす」と社会保障解体を示しています。


 最終報告では、第一に、今後の医療提供体制について、公立・公的病院の統廃合などをすすめる地域医療構想に固執し、新興感染症の対策は都道府県の医療計画に位置づけるのみで、急性期病床を中心とした病床削減は財政支援も含めて継続する方針です。コロナ禍で、住民にとってなくてはならない公立・公的病院の役割は鮮明になりました。医療崩壊を二度とくり返さないためにも、各地域での医療体制の充実を求める声を無視してはなりません。
 第二に、「現役世代の負担軽減」という理由のもと「年収200万円以上の後期高齢者の医療費窓口負担を現行の1割から2割へ引き上げる」としました。約370万人の後期高齢者の窓口負担が2倍になります。もともと生活費に占める医療・介護の費用が大きい高齢者です。その中で生活保護水準に近い収入世帯に2倍の負担を強いるこの方針は、現行1割負担でも受診をためらい、コロナの影響で二重の受診抑制状態にある高齢者の、まさにいのちを脅かすものであり断じて許されないものです。引き上げの根拠としている現役世代の負担増加は、国が国庫負担を45%から35%に切り下げて現役世代に負担させたためです。最低でも国庫負担を元に戻すことで解決する問題であり、それによる国庫負担の増加はわずか880億円に過ぎません。
 第三に、紹介状なしの外来受診時の定額負担の対象病院拡大と、患者窓口負担について大改悪を導入しようとしています。
 現在、特定機能病院・200床以上の地域医療支援病院では、紹介状なしで外来を受診する際に定額の患者負担(初診5000円)となっています。今回、地域の実情に応じ「主に紹介外来を担う医療機関」のうち200床以上の一般病院も対象に加えるとしました。
 患者の定額負担は、初診の場合2000円以上増額し、新たに対象病院の診療報酬を2000円ほど下げるとしました。これは、患者の負担増とセットに医療機関の保険給付を減らすという、保険診療の基本を抜本的に変える危険な改悪です。
 政府は全世代型社会保障改革をすすめるために、2月2日に医療法等改正案(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案)、2月5日には、医療保険法等改正案(全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案)を閣議決定しました。

②2021年度予算案、 第三次補正予算の問題点と危険性
 2021年度予算案、第三次補正予算は、コロナ対策6兆円に対して、経済対策を51・7兆円とするなど、コロナ対策への無策どころか、いのちより経済を優先する露骨なものとなっています。
 新自由主義のもと、医療崩壊に追い込んできた社会保障の自然増削減の方針は21年度も継続し、公立・公的病院再編・統合の推進、保健所の保健師増員は保健所職員のわずか3%にとどまり、半減させた保健所の数を元に戻す方向性はありません。
 非正規雇用の正規化のための施策もなく、大企業には税制優遇や各種基金の創設による支援策を強化する一方で、中小企業には「経営転換」を条件とした融資制度などによって、淘汰(とうた)に踏み出すものです。
 また、軍事費は9年連続増額し7年連続の過去最多を更新しました。憲法違反の「海外で武力行使する国」への道を開く、長距離巡航ミサイルの開発・取得、搭載戦闘機を予算計上、「敵基地攻撃」能力の保有に本格的に乗り出し、「いずも」型護衛艦の空母化の予算など、ひきつづき計上しています。

③介護報酬2021年改定の概要と問題点
 政府は2021年介護報酬改定の改定率をプラス0・70%と決定しました。財務省が「介護報酬を引き上げる環境にはない」との見解を示す中、報酬引き上げを強く求めてきた介護現場、関係諸団体の運動の成果です。しかし、介護事業所が現状で抱える困難を打開する上でプラス0・70%はあまりにも低い水準です。コロナ感染症に対してはプラス0・70%のうち0・05%分を充て、しかも実施を2021年9月末までとしているなど、感染対策への対応もまったく不十分です。
 そもそも介護事業所は、低く据え置かれてきた介護報酬のもとで、コロナ以前から経営的な困難を強いられてきました。コロナ禍による利用控えなどがもたらしている大幅な減収はその困難をさらに増幅させており、プラス0・70%程度の引き上げで到底カバーできるものではありません。また、全体として基本報酬の引き上げではなくひきつづき加算重視の方向であり、さらに全世代型社会保障改革が掲げる「生産性の向上」を土台にすえたICT機器導入による人員配置基準の緩和、データ活用による介護の標準化、「自立支援」の推進、生活援助の多数回利用プランに対する指導監督の強化など、現場に負担の増大をもたらし、保険給付に対する行政の介入を強める内容も盛り込まれています。処遇改善については特定処遇改善加算の対象の柔軟化などが盛り込まれているだけで、新たな報酬上の対策はみられません。

④高まる社会保障解体反対の声
 菅内閣がすすめようとする自助による社会保障解体は、市民的な支持も合意も得られるものではありません。
 後期高齢者の医療費窓口負担2割化は高齢者のいのちを奪うものとして日本医師会、医療団体から激しい批判が生まれています。地域医療構想についても、全国的に反対の声が上がり、全国知事会からも再考の強い意見が出されています。また、医療・介護従事者をはじめとしたエッセンシャルワーカーの処遇改善を求める声は、大きく広がっています。
 昨年10月に実施された日本医師会の第7回日本の医療に関する意識調査では、74・3%が「所得に関係なく平等な医療」に、日本のあるべき医療の姿として、賛同を寄せています。

2) 戦争VS平和をめぐる激しいぶつかり合い
 世界には今なお1万3400発の核兵器が存在し、核大国や核の傘に頼る国ぐにが核兵器を「安全の保障」と言い張る中、世界の多くの人びとの願いがこれらの国を包囲し、核兵器禁止条約の発効という軍縮への新たな枠組みをつくり出しました。
 安倍政権が執念を持っていた2020年度中の改憲のもくろみは破綻しました。沖縄・辺野古沖新基地建設をめぐって、沖縄防衛局から提出された埋め立て変更承認申請に対し、1万8904件の意見書が出され、13年の埋め立て承認申請時の約6倍に上っています。
 菅内閣はこうした平和な世界をめざす流れを、無視し戦争する国をめざしています。核兵器禁止条約の批准に背を向け、改憲へ向けて国民投票法の成立をめざす憲法審査会の開催、辺野古沖新基地建設の継続強行、戦争する自衛隊への転換へ向けて攻撃的軍備の調達など、看過できない施策をコロナ禍の中ですすめています。

3) 環境問題、 原発をめぐって
 第44回総会で民医連としてとりくみの強化を位置づけた環境問題でも大きな転換点を迎えています。
 国連気候変動枠組み条約にもとづき、2020年以降の地球温暖化防止の新たな枠組みについて協議していた21回目の締約国会議(COP21)は、2016年に発効した「パリ協定」で190余りの参加国がそろって温室効果ガスの削減にとりくむことを確認しました。それから5年がたち、その実行段階に入っています。
 世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べ2度未満に抑える目標とともに、海面上昇に苦しむ島しょ国などの訴えにもとづき1・5度未満に抑える目標も明記、各国の温室効果ガス削減目標は5年ごとの見直しが義務づけられました。世界196カ国の地域すべてに温室効果ガスの削減を求めています。これには批准手続きと発効要件が明記され、法的拘束力も持ち、長期的には今世紀末までに、人間の活動が原因となった温室効果ガスの排出量を森林などでの吸収量の範囲内に抑える、「実質ゼロ」の目標も明記する画期的な内容です。
 たび重なる異常気象、生態系の破壊に加え、異常な干ばつや海面上昇は人命そのものにかかわる事態を引き起こしています。今、対策に力を合わせなければ間に合わなくなるという世界の危機感が、合意を実現させました。この目標実現に日本が責任を果たすよう、声を強めていく必要があります。
 東京電力福島第一原発事故から3月で10年を迎えますが、原発事故と被害者の実態は、より深刻になっています。しかし菅政権は福島と被災地の切りすて政治をすすめています。原発事故被害者の賠償打ち切りや、避難者の強制帰還、自主避難者の住宅保障の打ち切り、放射能汚染水の海洋放出計画など枚挙にいとまがありません。菅内閣の基本方針の文書から、東日本大震災、原発事故からの復興の記述がなくなったことはその表れでもあります。
 そのような中、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ! 福島第一原発事故被害者訴訟」の仙台高裁判決は、原発事故の国の責任を認め、被害者の賠償も不十分であることを示しました。
 「原発ゼロ・再稼働反対」はいずれの世論調査でも6割以上と多くの国民の願いです。昨年11月の大阪地裁・大飯原発設置許可取り消し判決は、原子力規制委員会の安全基準が不十分であることを指摘しており、この判決に照らせば日本のどの原発も危険であることは明らかです。
 2018年3月に野党4党(当時)が提出した「原発ゼロ基本法」は、自民・公明党の反対で一度も審議されない状況が続き、審議入りを求める声が大きくなっています。
 北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村での高レベル放射性廃棄物受け入れ問題や、青森県六ケ所村核燃料再処理施設の稼働審査合格をはじめ、東北電力女川原発、日本原電東海第2原発、東京電力柏崎刈羽原発など再稼働の動きもあり、原発推進を前提としたさまざまな政策を転換していくことが求められます。

第2章 運動方針にもとづく実践の到達と今後の重点課題

 第44回総会運動方針は、2020年代を平和と個人の尊厳が大切にされる時代とするため、4つの分野(1)平和、地球環境、人権を守る運動を現場から地域へ、そして世界に、(2)健康格差の克服に挑む医療・介護の創造と社会保障の改善、(3)生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系と方略づくり、(4)高い倫理観と変革の視点を養う職員育成の前進、を課題として提起しました。44期はその最初の2年間です。重点を3つのスローガン(「綱領改定10年のあゆみを確信に、『医療・介護活動の2つの柱』を深化させ、医師確保と経営改善で必ず前進を」「共同組織とともに地域の福祉力を育み、人権としての社保運動を旺盛にすすめ、健康格差にタックルしよう」「共同の力で、安倍政権による9条改憲ストップ! 核兵器廃絶、地球環境保全運動の飛躍を」)としてまとめました。
 これらに照らし、10年間を見据え、総合的に民医連の前進をはからなければなりません。


 無差別・平等の医療と介護の実践を土台に、医師確保と経営分野でかならず前進しましょう。気候危機、全世代型社会保障改革の撤回への国民運動とともに、福祉力あふれるまちづくりなどをいっそう推進していきましょう。
 衆議院議員の任期が満了となる今年10月21日までにかならず行われる総選挙で、コロナ禍でいのちを脅かしている「新自由主義政策」から「いのちと人間の尊厳を第一とする社会」に転換しましょう。民医連として、いのち、憲法、綱領の立場から、全力でとりくみ、すべての職員がひとりひとり有権者として、当事者として参加することを呼びかけます。
 第44期前半の1年間をまとめ、今後1年間の課題と方針を提起します。

(1)新型コロナウイルス感染症感染拡大に対する私たちのとりくみ・今後の重点
1) 第1回評議員会以後の全日本民医連対策本部のとりくみ

 全日本民医連は、昨年2月に新型コロナウイルス感染症対策本部を設置し、四役会議、理事会と連携しながら、全国的な状況の把握、専門家との連携や情報の発信、政府・厚労省の情報集約と分析、県連・事業所への情報発信などを役割としてとりくみました。
 8月の第5回理事会で、6月末までのとりくみを中間的に総括し、「新型コロナウイルス感染症に対する取り組みの到達と課題~6月末までの中間的な取りまとめ~」を決定、課題の整理、第一波での事例から感染対策の視点で教訓を整理しました。多くの県連・法人・事業所で歓迎され、学習と自己点検がはかられました。第三波の事業所内の感染事例では、この教訓を生かしきれていないケースも生まれています。くり返し、「中間的な取りまとめ」に学び、事業所の対策を自己点検し、感染対策の水準を引き上げていくこと、全国の経験から学び抜くことを強く呼びかけます。
 第1回評議員会以後、民医連は、発熱難民を生まないよう受療権を守り、地域医療を守るために諸関係者と十分に話し合い、地域で「診療・検査医療機関」などの体制を構築することを呼びかけました。
 検査体制の拡充は、第四波を防ぐうえでますます必要です。第1回評議員会で確認した検査難民を生まない、疑いのある人、発熱者が必要な検査を受けられる体制を求めていきます。また、クラスターの多くを占めている医療機関・介護事業所において必要時に速やかに患者、利用者、職員への検査が実施できるよう検査体制を拡充し、費用の全額を国が負担することを要望し運動を強めていきます。
 民医連の病院では、重点医療機関11病院131床、協力医療機関33病院190床が入院医療で対応しているほか、多くの病院・診療所が診療・検査医療機関として、地域での発熱者の対応にあたっています(昨年11月11日現在)。
 これらを通し、多くの地域でこれまで以上の連携や連帯を深め、関係をしっかりと築いています。地域医療を守る基盤として発展させることが必要です。

2) 第三波の猛威・ 「医療崩壊」 の進行の中で
 市中感染が広がり、感染経路が不明なケースが増大する中で、民医連のどの事業所でも職員が感染する可能性があります。感染を早期に発見し、対策を講じクラスター化を防ぐことが重要です。この間の事例からは、手指消毒の不徹底や医療機器・機材を介しての伝播(でんぱ)、診療やケアの場面以外の更衣室、休憩、食事などの際のマスクを外した会話、仕事を離れた飲食の場での濃厚接触、が感染の原因として指摘されています。普段から、誰が感染しても濃厚接触者を生まない行動が求められます。
 また、コロナ受け入れ病院の病床がひっ迫し、陽性者を転院させられない事態が各地で広がる中、コロナ受け入れでない病院でも、感染者を治療せざるを得ないケースが生まれています。
 対策にあたる場合、事業所管理部は迅速に県連に報告し、事態を報告し援助を受けましょう。また、県連・地協・全日本で迅速にICD(感染管理医師)やICN(感染管理認定看護師)の派遣など、必要な支援を行いましょう。全日本民医連・地協・県連のスピード感のあるイニシアチブの発揮が必要です。
 院内感染対策でICNの果たす役割は重要です。また、新興感染症が拡大すれば、他施設からの支援は容易ではありません。全県連、全病院でのICNの計画的な配置や養成をすすめましょう。

3) 職員のいのちと健康を守り抜く
 第1回評議員会で「職員のいのちと健康を守り抜くこと」を第一義的課題として提起してきました。「新型コロナウイルス感染症(COVID―19)に関する職員のヘルスケア指針」を学び、長期化するコロナ禍で職員のいのちと健康を守るとりくみがすすめられています。また、ケアの実際についての動画をホームページに公開、全国で活用されてきました。その後の全国の実践で浮かび上がった課題を加え補強・改訂しました。
 職員のメンタルヘルスについて定期的に調査しているいくつかの法人では、「コロナ対応病棟の看護師は全員がストレス高リスクと出た」などの報告が寄せられています。また、高齢や基礎疾患を有するなどのハイリスクの職員への感染は重症化する危険もはらんでいます。
 ひきつづき、職員のいのちと健康を守る活動を第一義的課題として全国に呼びかけます。県連・法人・事業所が職員のいのちと健康を守り抜くために、特別の体制をとり、情報の発信や意思統一、職員の健康管理のための手立てを講じきりましょう。

4) 新型コロナウイルスワクチンについて
 欧米諸国をはじめ国内でも医療従事者への新型コロナウイルスワクチンの接種が始まりました。いずれの国でも通常の手続きの承認を得ない段階での一時的な供給認可や緊急使用許可という形で実施しています。今回開発されているワクチンは、従来のものと異なり、ウイルスの遺伝子情報の一部を接種することにより体内でウイルスの一部がつくられ免疫ができる、新しいタイプのワクチンです。
 治験のデータでは、有効性は示されているとは言え、接種後の局部位反応の発現頻度が高いこと、重篤ではないが全身性の有害事象が高頻度で発現すると報告されています。アナフィラキシーショックの例も報告されており、実施にあたっては十分な備えも求められています。新しいワクチンで未知の部分もあるため、事業所としても知見を集め注視すること、国による責任を持った情報開示が求められます。
 今後開催される説明会などの情報を把握・整理しながら、接種受託医療機関となる場合の課題や副反応の状況などを把握し、国に対し必要な要請を行っていきます。
 職員接種については十分な情報を提供し、事前に個々の職員の意思を確認できる仕組みをつくりましょう。
 ワクチンに依存するだけでは新型コロナウイルスは制御できません。これまでの感染対策を適切にすすめていくことが必要です。

5) 兵庫民医連への全国支援について
 兵庫民医連から、尼崎医療生協病院でのクラスター発生に伴う夜勤体制の困難・感染対策強化のために全国的な看護師の支援要請がありました。直接支援として9県連から15人の看護師支援、全日本民医連からの本部支援、沖縄協同病院からクラスター対策チームの支援を行いました。全国からの応援メッセージ、物資が多数寄せられ激励となりました。クラスター対策チーム支援は、現状分析・対策方針の確立と実践など大きな力を発揮し、その後の現地の改善の力となりました。

6) すべての県連、 法人、事業所があらためて 「中間的な取りまとめ」に学び、 6つの課題を強化しよう
 第1回評議員会以後のとりくみを踏まえ、今後の新型コロナウイルス感染症の対応において「中間的な取りまとめ」が提起した6つの課題(①地域の中で受療権を守るために役割を果たす、②収束するまで、職員のいのちと健康を守り抜く、③あらためて事業所の感染対策の水準を向上させる、④介護分野での感染対策の強化と長期化を見据えた対応、⑤法人(事業所)としての新型コロナウイルス感染症に対応したBCP(事業継続計画)の整備、⑥共同組織とともにコロナ禍でこそのまちづくり)がますます重要となりました。
 とりわけ、コロナ患者を受け入れていない事業所でも感染対策を必要な水準に引き上げるために、県連的に交流、支援、相互点検をすすめましょう。

7) すべての医療機関・介護事業所への財政支援をもとめるたたかい
 国による財政支援は、コロナ受け入れ病院への補助に偏り、さらに交付事務の遅滞により、疲へいや混乱を招いています。
 ひきつづき、最大限の補助金を確保していきましょう。申請にかかる医療機関の事務の簡素化について申し入れを行います。

(2)社会保障と平和を守る運動の到達と重点課題
1) 全世代型社会保障改革・社会保障解体とのたたかい

 全世代型社会保障改革阻止に向け、全日本民医連「全世代型社会保障改革」阻止闘争本部を確立しました。
 75歳以上の医療費窓口負担の2割化を許さない運動を重点に、全世代型社会保障改革の学習用ビラを発行し、職員、共同組織の中で学習を強めてきました。さまざまな団体に働きかけ、高齢者の窓口負担増を許さない大きな世論づくりを展開しています。
 署名やアンケートなどを活用して、外来や薬局窓口、病棟、在宅などあらゆる場面で負担増反対の世論づくりをします。共同組織とともに、地域の医療・介護事業所や老人クラブなどに向けて、団体署名を呼びかけましょう。
 公立・公的病院の統廃合の撤回を求める運動が地域で大きくすすんでいます。長野県で統廃合対象の病院長や民医連の医師が参加し、シンポジウムが開催され、地域ぐるみの運動が広がっています。コロナ禍における喫緊の要求としてすべての県連で運動を強めましょう。
 自治体に対して、「75歳以上の窓口2割負担」反対、地域医療構想は地域の実態や医療要求を反映させ、感染症にも対応し得る余力があるものにすること、医師、看護師など医療従事者や介護従事者を抜本的に増やし処遇改善を求める、などを柱に国への意見書採択運動を強めます。
 紹介状のない200床以上病院の外来診療への負担増について、医療団体と懇談も行いながら、導入させない運動にとりくみます。
 総選挙も見越しての国会要請行動、全国で地元選出議員へのFAX要請行動や地元事務所への訪問、要請を強化します。
 保険料や窓口負担の軽減、国保資格証明書発行中止を求めていくことは、最低でもコロナ禍の収束、生活再建まで必要です。低所得者やひとり親家庭の医療費窓口負担の免除や大幅な減額措置実施の実現を求めていきます。
 生活保護基準引き下げの違憲訴訟(いのちのとりで裁判)の名古屋地裁判決(2020年6月25日)では、全日本民医連(2007年)や長野県民医連(2014年)が実施した生活保護実態調査をねじ曲げて引用し、生活保護基準引き下げ処分の取り消しを求める原告の請求を全面的に退ける「不当判決」が出されました。今後続く北海道や福岡、大阪、東京の地裁判決に向けて、支援活動を強めます。

2) 「いのちの相談所」 大運動
 多くの県連、法人などで「いのちの相談所」を常設化し、また他団体と協力した定期的な相談会がとりくまれています。共同組織とともにいのちの相談所ポスターを地域に張り出し、薬局や、商店街から、銭湯、マンガ喫茶まで、快く掲示してもらっています。山梨、京都ではラジオスポットで市民に知らせています。あらためて地域の中で民医連の医療・介護活動への信頼と期待が高まっており、職員や共同組織の確信にもつながっています。


 半年間で私たちがつながることのできた地域の困難はまだごく一部です。「いのちの相談所」や電話相談の常設化、無料低額診療事業の広報、定期的な地域での相談会とソーシャルワーク機能強化とともに、アウトリーチを強めていきましょう。
 学生への生活支援活動を実施しましょう。感染対策を十分に行いながら、地域の隅々でこれまでの枠を超え、幅広いさまざまな団体、個人との共同を広げます。
 治療を中断しているすべての患者への電話かけにとりくみましょう。困りごとをつかみ、地域で孤立させない活動を継続しましょう。
 医療・介護現場の事例にこだわり、気づきをもとに〝気になる患者カンファレンス〟などにとりくみましょう。WEBで開催する社保セミナーや、「人権カフェ(仮)」のとりくみと連動させながら、患者・利用者、家族の困難に気づく人権のアンテナの感度を高めましょう。

3) コロナ禍を経た提言づくり
 全日本民医連としてコロナ禍を踏まえた社会保障、医療保障の提言づくりにとりくみます。専門家の援助を受けながら、当面、医療費一部負担金のあり方、国民健康保険、生活保護制度についての提言にとりくみます。外国人医療費問題について実態把握を行い、その医療制度について提言を作成します。

4) 介護ウエーブ
 第1回評議員会以降、感染対策の強化、介護報酬の引き上げ、大幅な処遇改善、介護保険制度の改善を基本要求として掲げて、とりくみをすすめてきました。
 厚労省が示した総合事業の対象を要介護者にまで広げる省令「改正」案に対して、パブリックコメントなどを通して「改正」の内容を改めさせることができました。各地では介護崩壊ストップ請願署名のとりくみ、実態調査や記者会見の実施、介護事業所への経済支援を求める自治体要請、介護電話相談などがとりくまれました。長野県飯田市での「第12報」(利用者の同意を前提に、利用実績がない上位区分の報酬算定を容認)に対する自治体助成など、いくつかの自治体での独自施策の実現は全体の運動を大きく励ますものになりました。
 利用控えによる心身機能の低下や病態の悪化、認知症の進行、家族の介護負担の増大など、コロナ禍は利用者・家族の介護・生活に大きな影響を及ぼしています。コロナ禍を原因とした失業・廃業により世帯の収入が減少し、利用料の支払いに支障をきたしているケースもあります。実態をつかみ、政府・自治体に対して制度の改善、介護サービス基盤の強化を求める運動につなげていきましょう。
 感染対策の強化、減収補てんをひきつづき求めます。8月から予定されている補足給付(施設・短期入所での低所得利用者の居住費・食費の負担軽減制度)の改悪の中止を求めます。改定報酬の矛盾・問題点を明らかにし、改善・再改定を要請します。人手不足に対しては、「生産性の向上」による現場の効率化・合理化ではなく、抜本的な処遇改善・大幅増員を重ねて求めます。
 コロナ禍は、政府の政策によって介護保障の基盤がいかに壊されてきたかをあらためて浮き彫りにしました。現在の介護保険制度のもとで経済的な理由で利用を控えざるを得ないケースはあとを断たず、家族の介護負担も増大しており、最近では若者が親の介護を担うヤングケアラーの問題も指摘されています。「介護保険20年」という節目にふさわしく、利用者負担の軽減や国庫負担の拡大など、制度の抜本的な改善を求めます。

5) 平和を守る課題の重点
 安倍前首相が公言した2020年改憲施行に向けた改憲手続き法(国民投票法)改定案の審議入りを食い止め、改憲発議も許さず、安倍首相を退陣させた私たちの運動に確信を持ちましょう。
 新しく誕生した菅政権は安倍政権の戦争する国づくりを継承し、改憲手続き法改定案の審議入り、敵基地攻撃能力保持など戦争法の具体化に向けて暴走しています。改憲発議阻止の緊急署名は目標100万筆に対して22万3980筆(2020年12月現在)となっています。19日行動、スタンディングなどにひきつづきとりくみましょう。
 核兵器禁止条約の署名・批准国が51カ国となり1月22日に発効しました。結成以来、いのちを守る医療・介護従事者として核兵器廃絶を求めてきた私たちは、ともに歩んできたすべての被爆者とともに心から歓迎するものです。この運動に大きな役割を果たしたヒバクシャ国際署名は1370万2345筆が集約され、民医連で74万4748筆でした。
 同条約は、核兵器の非人道性を告発し、違法化する初めての国際条約です。アメリカなどの大国の妨害にまったくひるむことなく、条約の起草、採択、発効の先頭に立ったのは経済力では小さな国や途上国であり、世界の大きな変化を示す勇気と展望も与えています。
 同条約の発効により、世界は核兵器の禁止を確固として位置づけた軍縮の枠組みに入ります。
 菅政権は、この条約を批准しないと明言していますが、唯一の戦争被爆国である日本が条約を批准することは、道理であり、使命です。すでに、日本政府に対して署名・批准を求める意見書も520自治体(1月7日現在)が決議し、次の総選挙に市民連合は、野党への共通政策として日本政府が条約を批准することを求めています。昨年11月から始まった「唯一の戦争被爆国である日本の政府に核兵器禁止条約への署名・批准を求める署名」の民医連の目標は100万筆です。
 日本政府に批准を求める私たちの声を可視化しましょう。すべての県連、事業所が政府に批准を求める事業所宣言をつくり掲示しましょう。毎月の6・9行動とともに、22行動などにとりくみましょう。
 ビキニデーはオンライン開催が決まりました。全国での視聴を呼びかけます。また、3月5~14日に行われるビキニデーin高知に連帯してとりくみましょう。
 辺野古支援・連帯行動は2021年5月再開の予定でしたが、再開のめどは立っていません。新たな学習資材を準備します。職場、地域で学習をすすめましょう。米軍と自衛隊の一体的な運用が強化されています。一方で、日本全国の米軍基地、自衛隊基地の強化に対する運動が各地で起こっています。県連的に体制を整備し、共同して運動を強めていきましょう。

6) 東日本大震災から10年の課題と民医連の災害対策の課題
①東日本大震災から10年、 真の復興めざして

 未曽有の被害をもたらした東日本大震災から10年を迎えようとしています。道路や建物などインフラの復興がすすむ一方で、震災の記憶が薄れ、被災者の生活や抱えている困難が見えにくくなっています。


 メンタルヘルスを含む健康問題、経済的格差、地域コミュニティーの再建など、課題はより複雑になっています。
 被災地の10年の現実を直視し、実態把握をすすめ、被災者の支援と人権を守るとりくみを継続しましょう。
 原発をなくす全国連絡会が提起した「福島の真の復興と原発ゼロ基本法の制定をめざす大運動」にとりくみます。「原発を廃止し、再生可能エネルギーに転換する原発ゼロ基本法の制定を求める請願署名」は、原発ゼロ基本法の制定で一致するあらゆる個人・団体に呼びかけられ、宗教団体や青年団体、女性団体などでも支持され、広がりをみせています。全日本民医連として原発ゼロ基本法の制定で一致するあらゆる個人・団体に呼びかけ、100万筆を目標に幅広いとりくみとしてすすめます。東京電力福島第一原発事故から10年の福島の現実こそが、原発ゼロ実現の理由です。3・11前後に行われる各地の集会などにとりくみましょう。
 全日本民医連は、原発事故から10年の節目に、福島の今と原発問題を考える企画を準備し、7月の被ばく問題交流集会で具体化します。

②大規模災害への支援・MMATの活動
 2020年7月の熊本を中心に九州などで発生した豪雨災害支援は、全国から1900万円超の義援金が寄せられ、被災地に届けました。熊本では医療、介護費の減免の継続や避難先への支援が粘り強く続けられています。
 地震活動期、気候変動による酷暑、超大型の台風など大規模災害と隣り合わせの時代であることを直視し、MMAT、法人、事業所でのBCP、災害訓練などのとりくみを強めること、被災者への国の支援、コロナ禍での避難所の改善など、事業活動、被災者支援の運動の課題を全国で強めていきましょう。
 新任県連事務局長を対象として民医連の災害支援の研修、BCP作成の研修をMMATで実施します。

(3)コロナ禍の医療・歯科・介護活動の特徴と今後の課題
1) 医療

 新型コロナウイルス感染症拡大による医療活動や患者の変化を把握し、私たちの医療活動を検討していく必要があります。
 外出制限により運動不足での免疫力低下や緊急事態宣言下での、自粛による運動不足・飲酒量増加などで、血圧異常値が前年より6%増加する調査結果が報道されています。
 東京保健生協は、職員、共同組織などを対象に、2020年4~5月の緊急事態宣言下の健康、生活状態の変化の調査を行いました。それによると日常生活関連動作、口腔機能、閉じこもり、認知機能、うつ傾向のすべての指標が悪化。うつ傾向が強かった回答では、「孤独を感じている」「気分が落ち込む」「不安である」と答え、閉じこもりで体重が増加した群からの回答が多く寄せられています。
 日常診療でも「外来患者数やウオークイン患者が減少」「小児科などでは大幅な外来数減少」「HbA1cも悪化、アルコール依存症やアルコール性肝障害が増加」「受診控えで、疾患の悪化や進行、高齢者のフレイルなどに危惧」「市の健診や組合員健診も減少、健診時期に大幅な遅れ」などの変化が見られます。慢性疾患管理を強め、臓器合併症を出さない、進行がんを出さない、基礎疾患のコントロールで、新型コロナウイルス感染症への不安解消や重症化予防をはかりましょう。また、自殺数が増加しており、心身の変化に留意していくことが必要です。
 「病院・施設でのやむを得ない面会制限の一方で、不穏になる人が増えた」「オンライン面会など地域の感染状況に応じた対応が求められる」、「コミュニケーションの減少で、発声がうまくできない、認知症が進行」など多岐にわたる影響が出ています。
 事業所でもこうした変化をリアルにつかみ、分析し、「医療・介護活動の2つの柱」の実践、住民の受療権を守ることを土台に、安心してかかれる、継続できる外来医療のあり方、診療科別の医療活動方針などの検討が必要です。
 事業所の2021年度の医療活動方針の中で整理し発展させましょう。県連の医活委員会での集約・検討、全日本民医連の各専門領域、自主研究会などでの検討、発信をすすめていきます。
 社会的困難事例が増加する中、さらに地域の中でソーシャルワーク機能を発揮するための体制を確立し、医療活動として前進させましょう。
 チーム・ミナマタでは、昨年8月30日に「メチル水銀中毒症シンポジウム」を開催しました。このシンポジウムでは、日本神経学会がいう「水俣病の診断には神経内科専門医による神経的診察が必要」「メチル水銀中毒症における曝露停止から発症までの潜伏期間は数カ月からせいぜい数年」「神経徴候が大幅に変化する場合には、中枢神経系の器質的病変によるものとは考えにくい」に、何の根拠もないことを明らかにしました。そして、あらためて日本神経学会に環境省への「メチル水銀中毒症に係る神経学的所見に関する意見照会に対する回答」(2018年5月10日付)の撤回を求めました。また、シンポジウムの報告書および動画を全国の県連へ発信して水俣病の現状を知らせました。今日に至るまで正式な回答がないことから、昨年11月に再度要望書を提出しました。学会が適切な措置を講じることを求める運動をすすめています。

2) 歯科
 2020年4月の歯科診療報酬改定は、「重症化予防の取組の推進」「口腔機能低下への対応の充実」「地域包括ケアシステムの推進のための取組の評価」などにより、プラス0・59%の改定率で実施されました。「骨太方針2020」でも「口腔の健康と全身の健康との関連性」「生涯を通じた歯科健診」「フレイル対策」などの強化が確認されましたが、この方針はいかに効率よく経済を回すかがその課題であって、歯科医療の質を追求した方針ではありません。必要な歯科医療が実施されるよう、国が責任を持って、診療報酬にも反映させることが重要です。
 新型コロナウイルス感染症拡大は、歯科医療にも大きな影響をおよぼしました。特に、緊急事態宣言が出された2020年4、5月は、厚労省や日本歯科医学会連合などから、「急がない治療の延期」が注意喚起として出され、治療内容の制限や受診延期、受診控えが起こりました。
 全日本民医連歯科部では、「コロナによる影響調査」を4~8月度に行いました。寄せられたさまざまなとりくみの分析を行い、①院内感染を防止するためのとりくみ、②歯科医療従事者が感染源とならないためのとりくみ、③歯科診療内容・職場運営についてのとりくみ、④地域歯科医療の継続と関係機関との連携のとりくみ、についてまとめ、BCP作成の提言を出しました。また、民医連内外との連携・協働や自治体への働きかけについても、①民医連内での連携・協働、②民医連外との連携・協働、③自治体の対応、の3点について提案しました。
 格差と貧困の拡大、コロナ禍でより困窮が広がるもとで、「人権としての歯科医療」を実現することが今後の基本です。
 第一に、「歯科事業所完結型」から脱皮した歯科医療活動をさらにすすめ、情報発信を強化する課題です。同じ患者・利用者を医科、介護などでも診ている場合に、歯科医療で必要な情報提供を求めることに加え、歯科からも口腔内の状態や治療内容の情報提供を積極的に行うことが重要になります。歯科治療についてわかりやすく伝えることを中心に、SDHの視点で「口腔崩壊」などの社会的困難事例を捉えることが大切です。それらを患者情報として共有し、「社会的処方」などを通じて患者の生活全般の問題を解決していくとりくみを、多職種協働ですすめていきましょう。
 第二に、民医連らしい歯科医療を担う職員育成の課題です。研修歯科医の確保は、重要な課題です。民医連の歯科医師臨床研修施設を拡大するために、指導歯科医交流集会を定期開催し、魅力ある初期研修の実施や指導歯科医の質の向上をはかり、民医連内での指導歯科医講習会の開催をすすめていきます。
 第三に、『民医連歯科読本』の改訂の課題です。民医連歯科の医療活動や経営活動をはじめ、各職種の職員育成についてとりくみをまとめ、今後の課題にそくした改訂にとりくみます。
 第四に、「保険でより良い歯科医療」を求める署名をはじめ、社保運動の課題です。「コロナによる影響調査」で明らかとなった「困難事例」を集約し、『歯科酷書第4弾』の発行をめざします。外来・往診患者・家族へ「生活状況に変化がないか」確認し、「人権を守る」アンテナの感度を高めるようとりくみましょう。
 「子どもの矯正治療に保険適用拡大を求める請願」は、署名活動や自治体での意見書採択の運動など、「保険でよい歯科医療を」全国連絡会と連動したとりくみを継続します。
 第五に、「全県連に歯科を」、そしてあらゆる事業所に対応する歯科の建設をすすめるため、歯科事業所から発信し議論する課題です。医療・介護の現場では口腔ケアにとどまらず、食べる機能回復を含めた歯科へのニーズが高まっています。地協運営委員会でも、歯科の課題を位置づけるために、地協歯科運営委員会とも連携し、情報共有をすすめましょう。

3) 介護
 介護事業所では、感染リスクに対する大きな不安と緊張を背負いつつ、最大限の感染対策を講じながら利用者・家族の生活をささえてきました。民医連内でも少なくない介護事業所で陽性者、濃厚接触者が生じていますが、医療機関と連携し、保健所の指導を受けながら対応がはかられています。

①感染対策の向上
 感染対策にとりくむ意義は、第一義的に職員・利用者を守ることにあります。同時に感染のフェーズに応じて事業内容のリスクを評価し、質の高い感染対策を実施することは、事業を行う上での不安を最小化させ、安定した事業運営を継続するうえでも欠かせません。いつ、誰が感染してもおかしくない現在の状況では、仮に事業所で感染者が出ても、「濃厚接触者を出さない」「クラスター化させない」ことを常に念頭に感染対策を講じることが求められます。
 感染対策の基本は、「標準予防策の実施」と適切な個人防護具の着用など「経路別予防策」です。適切な情報収集、医療との連携・医療からの支援が必要であり、県連内の連携医療機関・専門チームとの連携・支援体制(場合に応じて地協内の支援体制)の構築をはかることが重要です。
 2021年報酬改定ですべての事業所に対してBCPの作成が運営基準上で義務づけられることになります。状況に応じて継続的に見直し、実地訓練やシミュレーションを定期的に実施するなど、「生きた計画」として作成・定着させましょう。
 「ヘルスケア指針」にもとづき、医療との連携を強め、必要な援助を得ながら職員のヘルスケアにとりくみましょう。

②経営改善、 事業基盤の強化、 報酬改定への対応
 地域の要求にいっそう応えるために、経営改善をはじめとする事業基盤の強化をはかりましょう。①日常の経営管理の強化、②安心して頼られるための介護の質・専門性の追求、③医療・介護連携、民医連内外の連携の強化、④職員の確保と養成、⑤幹部の配置と全職員参加型経営の追求、⑥貧困に立ち向かうまちづくり・居場所づくりが課題です。
 当面の焦点は介護報酬2021年改定への対応です。内容をよく分析し、「介護の質の向上」「医療との連携強化」をはかる視点から加算の算定を追求しましょう。そのことが結果として経営改善にもつながります。現場任せにせず、法人・法人グループの総力をあげ、対応のタイミングを逃すことのないようスピード感をもったとりくみが求められます。
 介護事業経営は上半期の収支差前年比9・8%減(79法人)という結果になりました。地域によって影響の現れ方は一様ではありませんが、総じて、通所系サービスを中心に利用控えなどによる減収の影響を打開できないまま推移しています。他方で、利用控えは多少あったものの、訪問サービスでの新規利用者の確保などにより改善がはかられている法人もあります。自法人の経営の実態をよく分析し、第44回総会運動方針で提起した「2つの転換」(発想の転換、とりくみの転換)を追求しましょう。ポイントは全職員参加の追求と、必要利益にもとづく予算作成・予算管理です。改定報酬への対応とも重ねながら、予算にこだわる職場風土づくりをすすめましょう。

③職員の確保・養成
 職員の確保は依然として厳しい実態にあります。民医連内では、介護職で7割、ヘルパーで8割、ケアマネジャーで4割の法人が不足の状況にあると回答しています(介護・福祉責任者会議の事前アンケート)。もともと続いていた体制の厳しさをコロナ禍が加速させています。多くの法人が紹介・派遣会社に頼らざるを得ず、多額の紹介料が事業経営を圧迫しているとの報告が寄せられています。こうした紹介・派遣の実態を社会問題化させていくことがあらためて必要です。コロナ禍による失業・廃業が広がる中で、異業種からの入職を受け入れて資格取得をサポートするなどのとりくみもすすめられています。コロナ禍であらためて明らかになった介護の社会的な役割や「介護の魅力」をまとめ、発信することが職員の確保・養成の上であらためて重要です。

④2020年代、 切れ目のない民医連の介護事業の展開を展望して
 第44回総会運動方針は、「2020年代10年間を視野に入れた方略」づくりを提起しました。介護分野では、第8期(21~23年度)の対応が焦点になります。第8期介護保険事業計画の「基本指針」において重点とされている内容を押さえ、民医連の「強み」をあらためて確認しながら、今後の事業展開に向けて、たたかいと切り結んだ法人の計画づくりをすすめましょう。検討する際の留意点として、①今後の高齢者などの予測を踏まえ、当面する経営や職員確保に対応していくこと、②医療と介護の一体的提供をすすめる計画を県連・法人で検討すること、③介護基盤整備や職員確保について、たたかいと切り結んだ事業展開をはかること、④多職種協働をすすめる上でも医療と介護の人事交流を通じた職員確保と養成をすすめること、⑤共同組織との協力・共同ですすめること―、などがポイントです。

(4)到達点に確信を持ち、 コロナ禍での民医連の役割を語り、医師集団づくりを前進させよう
1) 医学生対策のとりくみと課題

 コロナ禍で、医学生対策分野においても、医師研修の分野においても従来の活動形態が大きく制約されました。インターネット環境を生かしてつながりを深め広げるとりくみや、経済的困窮や勉学環境の変化、仲間づくりへの困難を抱える医学生へのサポートが始まりました。高知民医連がとりくむサポセンでの食材支援は、困っている医学生への支援となっただけでなく、新しいつながりづくりにもなりました。医学生自身がとりくみに加わっていることが、周りの医学生にも勇気を与えています。千葉民医連が行ったペシャワール会講演会は、学生の学びの支援として企画され、ネット開催によって、参加者が大きく広がりました。東京民医連や大阪民医連が行った奨学生ミーティングは、奨学生が主体となって準備する中で、学生同士が成長をささえ合う関係づくりや、医ゼミへの参加につながる企画となりました。滋賀民医連は医学生が加わるLINE無料塾のとりくみやVR診療所体験を行いました。


 学生に広がる生活困窮や困難に対し、「医学生の差し迫ったリアルな現状を把握し、求められる医学生・奨学生への援助3つのポイント、医学生委員長からのメッセージ」を発出しました。さらに勉学や生活に支障をきたしている学生や、今春入学する新入生が少しでも安心して学生生活が送れるよう、学生へのサポート活動を紹介し、寄り添う活動に積極的にとりくみ、多くの医学生とのつながりを広げましょう。
 コロナ禍での医療活動は医学生の関心事でもあります。格差と貧困の広がりが社会的弱者に集中している現状、医療体制ひっ迫の状況の中でも民医連が受療権を守る医療活動にとりくんでいること、地域での「いのちの相談所」活動の実践などを知らせましょう。
 現場からの発信や医師集団の議論やとりくみを医学生に届ける中で、社会から求められる医師像が深められ、民医連の医療への共感に結びつきます。学習の機会を大いにつくりましょう。
 医学生運動のセンターである医学連は、新型コロナウイルス感染症の中で医学生の状況を全国アンケートで調査し、文科省などとも交渉するなど積極的な役割を果たしています。毎年開催されてきた全国医学生ゼミナールは、今年度はWEB開催でしたが、例年と同規模の参加者で成功しています。医学部の地域枠をめぐっては、山梨県で地域枠の離脱にペナルティーを課す動きが新たにあり、医学生からも疑問の声が上がっています。
 奨学生集団のロードマップ達成500人に対して513人(昨年12月理事会時点)の奨学生集団を維持していることは、全国の医学生委員長や担当者の奮闘の素晴らしい結果です。昨年12月には「みんフェス」をWEBで開催、全国の奨学生に民医連を伝えるとともに、仲間づくりの第一歩となり、3月末には、医学生のつどいをWEBで開催します。
 6年生の卒業に伴って奨学生数は95人減少します。昨年のとりくみの教訓に学び、WEBの活用など工夫を凝らしながら500人の奨学生数の確保とさらなる発展をめざし、新入生歓迎運動にとりくみましょう。

2) 初期研修をめぐる新たな情勢と医師養成
 初期研修の受け入れ目標200人に対して、マッチング結果は昨年度をやや下回る187人でした。コロナ禍で医学生が研修病院への訪問や実習ができない中で、さらに地域偏在解消の目的で基幹型臨床研修病院の定員削減とアンダー3000の病院への締め付けも加わり、民医連全体の初期研修定員が10人以上削減された背景があります。その後、2次募集で研修予定者は200人に迫っています。
 研修の質を担保するために、JCEPの受審をすべての基幹型臨床研修病院で行うなど、ひきつづき臨床研修の整備をすすめましょう。今年度は200人受け入れの目標達成の年であり、最後まで目標にこだわりましょう。民医連の初期研修における医学生への訴えの文書について、今日的な改定作業をすすめます。
 43期第3回評議員会で掲げた目標「後期研修で100人の専攻医」の獲得に向けた本格的なチャレンジが始まっています。各地協の医師委員会や研修委員会では、ひとりひとりの研修医への働きかけ状況を把握するとりくみなどがすすんでいます。
 全日本民医連医師部と医師研修委員会は、民医連の後期研修についての考え方をバージョンアップしました。2020年入職の新入医師統一オリエンテーションは中止となりましたが、昨秋にはWEBによるセカンドミーティングを開催しました。「全国のスケールメリットやつながりを実感できた」との声も寄せられています。21卒研修医についても、4月にWEBでの統一オリエンテーションの開催をめざします。感染状況もみながら、地協レベルでの集合研修なども模索します。担当者の成長とシームレスな医師養成をめざし、研修担当事務連続学習会、医学対・研修担当事務合同新人スクール、医学対ゼミナールを行いました。また、産婦人科医療委員会・精神医療委員会などでは、独自の後期研修説明会を開催、整形外科医療委員会では後期研修の説明も兼ねて総合診療領域を希望する研修医も視野に入れた「第1回地域医療に必要とされる運動器セミナー」を開催しました。サテライト会場を10カ所設け、多くの初期・後期研修医が参加し好評でした。とくに総合診療分野に関しては、総合診療領域の全国的な委員会結成も意識し、指導医のブラッシュアップセミナーを準備しています。外科領域についても全国的な領域別診療委員会を検討していきます。
 初期研修医・専攻医ともに研修上もさまざまな制約を受けていますが、流行状況を踏まえながら、ひきつづき退院患者訪問やアドボガシー活動など、必要な研修にとりくむことが、民医連医師としての成長を促す上で大切です。コロナ禍という困難に直面する中での「医療・介護活動の2つの柱」の実践を通じて、民医連の理念や地域で果たしている役割を、研修医は身をもって感じていると思います。研修上のふり返りのみならず、医師集団や研修担当事務など、かかわりを持つ多職種と、節目節目で語り合い、共感を育む中で、ひきつづき民医連の医療活動の主体者となることを率直に訴えることが重要です。
 医師の確保の課題は、経営問題とともにコロナ禍でより鮮明となっています。新型コロナウイルス感染症に民医連の医師集団が団結して立ち向かうためにも「大切文書」も意識しながら自らの存在意義を確かめ合う議論が重要です。新型コロナウイルス感染症対応と通常診療のバランスをとりながら医療活動を続けています。流行拡大地域では、医局での集団的な議論を経て、診療科の壁を越えてひとりひとりの医師が、悩みや葛藤を抱えながらも民医連綱領を実践し、受療権を守る立場で感染症対応に当たっています。直面する困難に立ち向かう時にこそ、組織としての真価が発揮されます。その中で、民医連医師としてのあり方や自らの役割がより鮮明になり、共同組織や住民、さらには地域の医療機関や介護事業所、行政からの信頼や連携の発展にもつながっています。
 一方で、コロナ禍で医療構造も変化し、事業所のリポジショニングを検討せざるを得ない状況も生まれています。「大切文書」の議論は、コロナ後も見据えた医療構想や医師政策の土台となる議論です。事業所・法人・県連で、これまでどういう医療に価値を置き、今後どういう医療を展開するのか、それに応える医師養成のために何が必要か、ビジョンを医学生や研修医にも示せるように、現行の初期研修制度や新専門医制度のもとで、地協やオール民医連での対応も視野に入れ、議論を深めましょう。
 「大切文書」で示されためざすべき医療・介護活動と、どのような医師と医師集団をつくるのかの提起や、これまでの歩みを引き継ぎながら、これからの時代に求められる無差別・平等の医療を次世代に創造してほしいという呼びかけは、コロナ禍だからこそ、心に届く内容です。スマホ版も活用し、つながりのあるすべての医学生、医師にあらためて届けましょう。

3) 医師の働き方改革へのたたかいと対応
 全世代型社会保障改革では、医師の働き方改革についても「改革」のためのテコに利用しようとされています。医師の働き方改革の推進に関する検討会は昨年12月に「中間とりまとめ」を公表しましたが、さまざまな利害が入り混じり、医療現場の実態を踏まえて医師の働き方を改善するものというよりは、複雑なルールをさらに現場におしつけるものです。地域医療構想の推進や医師増員なき改革は、地域医療解体への道であり、ひきつづき医師増員と地域医療を守るとりくみを強めます。同時に、国による期限のある改革スケジュールへの対応も迫られており、コロナ禍であっても、たたかいと対応の具体化が必要です。
 44期の医師部では、子育て世代の医師の働き方についてのシンポジウムを踏まえて、プロジェクトチームによる具体的な検討に着手しています。中小病院における後継医師確保と中小病院の展望について、44期のうちに、医師部として問題提起を準備します。

(5)コロナ後を見据え、 患者・職員を守り抜くため、 内部努力とたたかいで経営危機を乗り越えよう
 コロナ禍で、破壊的なダメージを受けている医療・介護事業の再生にとりくむことが求められています。
 変化した地域住民の要求、地域のネットワークの変貌などを分析し、第44回総会が提起した人生に寄り添った事業と施設体系づくりを視点に、民医連の事業所が果たす役割や自院の医療内容の点検・見直し、新たな地域連携の構築などが必要です。
 自己完結型医療からの脱却、大胆な在宅分野の拡大、健診の質の向上など、コロナ禍で変化している住民と地域のニーズにスピード感をもって対応していくことが求められます。コロナ禍以前を超える構えで、質・量ともに経営改善をすすめましょう。

1) 資金的な危機に直面している民医連経営の現状
 民医連の経営は大きな危機に直面しています。この危機はコロナ禍に起因しているとともに、大本には、この間の医療費抑制政策と内部にある経営管理上の弱点を克服しきれていない2つの問題があります。
 医科法人では、強化してきた地協経営委員会の力を生かし、初めて上半期決算を受けた全数調査を実施し、対象法人148法人中135法人(91・2%)を集約しました。結果は、史上最悪の経営成績であることが確認され、医科法人合計の経常利益は予算差マイナス3・8%のマイナス95億円(利益率マイナス3・2%)、前年からもマイナス3・4%と大幅な減益となりました。償却前利益率も予算差マイナス3・6%の0・9%となり、借入金返済やリース料、設備投資に必要な資金確保ができず、資金が大幅に流出する構造となっています。そのため福祉医療機構などからの緊急融資に頼らざるを得ない状況となり、97法人(71・8%)の合計で約400億円と、135法人の平均月収の約8割に相当する額となります。福祉医療機構などからの借入金を除いた上半期時点の現預金残高が月商倍率0・8倍を下回る法人は37法人、マイナスとなる法人も5法人と、利益で資金の源泉を生み出すことに困難を抱えている法人が多数となっています。
 全体としては、若干の回復基調にあるものの、第1四半期に生じた大きな穴を埋めることはできず、赤字幅を拡大させています。

2) 中長期の視点を持ちつつ、 経営活動の基礎となる土台づくりを強めよう
 昨年11月に開催した地協・県連経営委員長、経営幹部会議は「ピンチをチャンスに! ~厳しい自己点検をすすめ、悪政にもコロナにも負けない強い意志。リアルな危機感と楽観的展望を持って反転攻勢を~」をメインテーマに開催し、オープン学習企画含め454人が参加しました。現在の危機的経営状況を確認するとともに、経営幹部が患者・職員と経営を守るためにたたかい抜くことの重要さ、全職員参加の経営と共同組織との協力共同、経営管理上の弱点を見つめ直し、克服に向けて自己点検と改善の具体化をすすめることを全体で確認しました。
 先が見通せない状況であるからこそ、2021年度予算編成に向けて、下半期の見通しを持った決算予測が重要であるとともに、それを踏まえ2021年度を、コロナ後の医療・介護のあり様も見据えた中長期経営計画の初年度として位置づけ、そこから導き出される必要利益にこだわることが重要です。また経営活動の基礎となる土台づくりを抜本的に強めることが、経営困難を打開する大前提です。今日的にすべての県連、法人、事業所であらためて次の点を確認するよう呼びかけます。①民医連統一会計基準・事業所独立会計などの管理会計の基本整備、②中長期経営計画にもとづく予算編成と予算管理、③会計や経営の基礎的知識、④経営幹部集団の構えと全職員に対する提起、⑤労働組合との対等平等・協力共同の前進のための方針とその実践、⑥地協、県連経営委員会の機能強化、⑦社会福祉法人、薬局法人の経営状況を把握し、連携して改善をすすめる、の7点です。

3) ぜい弱な日本の医療と介護の経営基盤を抜本的に変革するかつてないチャンスの時、「たたかい」 を強め、 長年にわたる要求を実現しよう
 日本の医療・介護の窮状が、この間の新自由主義的な政策にもとづく社会保障費の緊縮政策によってもたらされていることが、多くの医療・介護従事者、国民の中に明らかになりつつあります。今こそ、国民とともに、すべての医療・介護従事者が立ち上がり、真正面から私たちの根本的な要求を掲げ「たたかう」時です。
 危機的な経営状況を突破するためには、コロナ禍による減収減益に対する財政支援を求める「たたかい」と、診療報酬・介護報酬の大幅な引き上げなど、医療機関・介護事業所の経営基盤を抜本的に強化することを要求する「たたかい」が求められます。「たたかい」なしに、地域住民のいのちと暮らしと健康、そして日本の医療・介護を守り抜くことはできません。
 財政支援を求める「たたかい」は、昨年度実績より落ち込んだ減収分に対しての公的資金での100%の補てん、診療報酬・介護報酬の特例的加算の継続、医療機関・介護事業所への支援金創設、控除対象外消費税の還付などを求める運動を強化します。
 この間の政策によりコロナ禍以前から、日本の医療機関のほとんどが経常利益率1%に満たない状況となり、経営体力は非常に厳しい状態に追い込まれ、現場で働く職員も余裕がなくなり、労働も厳しさを増しました。すべての医療機関・介護事業所の経営基盤を強化する観点から、2022年度診療報酬改定での大幅な引き上げと、介護報酬の再改定を求めます。同時に、政府がこの間引き上げてきた患者・利用者の自己負担の実態を告発しつつ、真正面から引き下げを要求しましょう。すべての医療・介護団体、医療機関・介護事業所、医療・介護従事者とともに要求を掲げ、菅自公政権を包囲しましょう。

4) 東信医療生協経営対策委員会の到達と今後のとりくみ
 43期第20回理事会で、長野県民医連からの要請で東信医療生協経営対策委員会を設置しました。全日本民医連として現地調査を行い、「事実上倒産」しており、倒産回避には相当の困難があるとの認識を出発点に資金対策、事業改善の援助、管理会計整備など対策をすすめ、2021年1月末時点で、「倒産の危機」を回避し年度末の経常利益予算を確保できる見込みに至りました。
 全日本民医連、北関東・甲信越地協および長野県民医連の支援を受け、経営管理上の重要な課題はまだあるものの、再建を旗印に職員も団結し、再建への道筋がつくられつつあります。
 対策委員会として中長期再建計画の見直し、それにもとづく2021年度予算編成作業支援をすすめています。

(6)職員育成のとりくみ
1) 第44回総会運動方針学習月間の到達と教訓
①コロナ禍での大奮闘に確信を持とう

 第44回総会運動方針学習月間(6~9月)は、「コロナ禍だからこそ励まし合い、よりいっそう学習にとりくんだ月間だった」と言えます。職責者(主任)以上の読了率は59・1%で、43期、42期を上回りました。2県連(栃木、滋賀)が100%終了し、9割超が1県連(福岡)、8割超7県連、7割超8県連、6割超10県連などの到達です。「動画視聴をすべての職員に」のとりくみも追求され、学習会(読了、視聴含む)の参加者数はのべ6万1544人(43期5万973人、42期4万6635人)、『学習ブックレット 民医連の綱領と歴史』は、主に新入職員を対象にのべ5122人が学習しました。集合研修や制度教育も開催が困難な中でしたが、これまでにない努力によって新たな到達を築きました。
 一方、体制が十分にとれないなど課題を抱える状況もありますが、困難を乗り越えるためにも第44回総会運動方針に立ち返り、職員育成の課題を理事会で共有するなど、位置づけを高める努力が必要です。

②SDH・アウトリーチに結びつけたとりくみの前進
 コロナ禍だからこそ、SDH、アウトリーチと結びつけて第44回総会運動方針をより豊かに深めたとりくみがすすみました。パンフ『健康格差の原因』も活用した学習会(青森、長崎)、医師を含む多職種による「私とSDH」の連続報告会(福岡)などです。また、動画視聴を機会にネットカフェを訪問(愛媛)、外来患者減を受けて気になる患者訪問や電話かけ(長野、奈良)、ホームレス状態の人へのシェルター紹介からアパート契約まで自立サポート(北海道)など、地域の深刻な実態に寄り添った活動によって、第44回総会運動方針と綱領への確信がいっそう深まっています。

2) 看護学生への生活支援・給付型奨学金求め要望書提出
 看護学生へのアンケート調査結果を受け、全日本民医連は1月12日に厚生労働省と文部科学省に要望書を提出し、①学生支援給付金の支援要件の緩和と新たな給付、②国の教育予算を増やし、学費無償化、補助金の拡充、看護学生への給付型奨学金の創設、③コロナ禍での看護職養成校への必要な助成を求め、記者会見も開催しました。

3) 全国青年ジャンボリーオンライン開催の新たな挑戦
 民医連全国青年ジャンボリーは2021年11月にオンライン開催します。昨年12月には各県連代表が参加して第1回実行委員会を開催しました。綱領学習では「新型コロナウイルス感染症に苦しむ今、未来に向かって何ができるか考える契機になった」など、新たな時代を切り開く主権者としての学びを深めています。また、「これからを担うすべての若人の原動力となる企画にしたい」「オンラインだからこそ気軽に話せる雰囲気もあり、同世代でつらいことも共有したい」「県や職種を超えた交流が大きな魅力と再確認」など、新しいスタイルでの開催をかならず成功させようと意思統一しています。

4) 今後1年間の重点
 ①ひきつづき職場教育、職場づくり、制度教育などのとりくみを具体化しましょう。運動方針が掲げた「高い倫理観と変革の視点を養う職員育成の前進」「世界的な人権保障の到達点に学び、人権と共同のいとなみを価値とする組織文化の定着」の促進のため、教育指針の改定をすすめます。また、世界の人権保障の到達を学び、人権について多角的に語りあう「人権カフェ(仮称)」にとりくみます。②通常の制度教育が難しい中、ひきつづき新入職員の育成が課題となっています。臨地実習の不足を余儀なくされた各職種の新人職員受け入れも創意工夫が求められます。組織が責任をもって青年職員育成にとりくみましょう。全国青年ジャンボリーは、オンラインによる実行委員会や事務局会議での学習と交流が青年の成長の場となっています。新たな挑戦をしている青年職員を励まし、業務保障や環境整備など援助を強めましょう。③看護学生の経済的困窮実態を県連として把握し、援助しましょう。看護専門学校は、国や行政の十分な助成がないため、コロナ対策に必要な教育環境整備にかかる学校の負担が大きくなっています。行政と懇談するなど、看護学生と専門学校の実態を社会へ発信しましょう。

5) 事務育成のとりくみ
 42期第3回評議員会で整理した「民医連事務の今日的役割」の3点を踏まえ、43期は全国会議でさらなる前進を目的として問題提起を行いました。今期、事務育成委員会では、コロナ禍での奮闘も含め育成の現状を把握し、その教訓と課題を明らかにするとりくみをすすめています。

6) 薬剤分野
 コロナ禍の中でも、病院薬剤師は供給不足に陥った手指消毒剤を院内製剤するなど、医薬品供給に奮闘し、感染対策チーム(ICT)の一員として感染防御に他職種とともにとりくみました。保険薬局も発熱外来の患者の調剤と服薬指導にとりくみました。それでも保険薬局では処方せんが前年比で10%程度減少し、経営がいっそう厳しくなっています。薬剤委員会では各県連に、低くおさえられている財政支援と職員全員を対象にした慰労金支給を求める要請行動を呼びかけています。神奈川民医連では県知事あてに要望書を提出し、保険薬局全職員を対象とした慰労金支給を勝ち取りました。
 コロナ禍においてこそ、薬剤師政策の2つの視点「綱領実践と健康権保障の担い手としての薬剤師の視点」「医薬品を社会的にとらえる視点」を大切にし、民医連薬剤師の5つの目標を基本に豊かな実践をめざしましょう。今後、特例承認された治療薬やワクチンの投与が予想されます。県連・法人・事業所の薬事委員会機能を強化し、安全で有効な薬物治療、ワクチン接種を追求します。またコロナ禍で格差と貧困がさらに深刻になる中、保険薬局への無料低額診療事業の適用を求めて自治体へ要望しましょう。
 薬学生や奨学生へのつながりの継続が厳しくなっています。医系学生担当者とも連携し、工夫して働きかけを続けましょう。

(7)感染対策を強め、 コロナ禍でこそ共同組織の活動を強めよう
 感染に最大限の留意をしながらとりくまれた、この1年間の共同組織の活動は、人と人との連帯を深め、孤立を生まないまちづくりそのものでした。昨年11月には1万6306人の仲間が増え366万4434人・世帯、『いつでも元気』は5万654部に到達しています(同12月1日現在)
 昨年9月理事会で「コロナ禍のいまこそ共同組織の役割を発揮し、人とひとのつながりを強めて孤立を生まないまちづくりと、いのちと暮らしを守る共同組織活動を推進しよう」のアピールを確認し、全国でとりくみをすすめてきました。アピールではコロナ禍で感染対策をしっかりと行い、370万の共同組織のすべての仲間、ひとりひとりを大切にし、共同組織とともにいのちの相談所活動、アウトリーチなどにとりくみ、まちづくりをすすめていく、などを提起しました。
 各地では、職員と協力して、「お元気ですか訪問」やスマホによる「WEB新年会」の実施、フィジカルディスタンスのため少人数班会を多数開催、有償ボランティアで小さな困りごとに対応など、つながりを保つことを大切にしています。電話対話で、薬代など経済的な負担の相談、お手紙作戦では、次々と返信があり、さびしい思い、困りごとが多く出されています。地域訪問では、孤立の中で思い詰めていた高齢者を診療につないだ経験もありました。『いつでも元気』を利用した筋力トレーニングや独自に室内体操のDVDを配布し、外出制限の中で起こる「健康二次被害」対策にもつながっています。
 職員をささえようと、最前線で診療にあたる職員への激励や支援が各共同組織から連日寄せられ、私たちをささえてくれています。
 「いのちの相談所」は、自宅、商店街へのポスターの張り出し、市役所や社協などでのチラシ配布の申し入れなども行いました。チラシを見て「足が悪くてフードバンクまで行けない」など電話が入り、地域の困難に向き合っています。これらの活動に、若手職員が参加しやすいよう工夫し、共同組織活動に参加、育成につながっています。
 感染の収束が見通せない中で、新型コロナウイルス感染症やワクチンなどの正確な情報提供、感染対策に法人・事業所の管理部が責任を持ち、コロナ禍でひとりひとりの会員・家族のいのちと健康を守りましょう。
 会えない、集まれない中で、機関紙(お便り)や『いつでも元気』がよく読まれています。コロナ禍でも健康に過ごせるような情報発信を重視していきます。
 ひきつづき「いのちの相談所」活動にとりくみ、コロナ禍でも地域で高齢者や困難を抱える住民を孤立させず、地域の〝困った〟に対応しながら、安心して住みつづけられるまちづくりをすすめましょう。
 各地で豊かに生まれている工夫や知恵を集約して、全国で共有していきます。共同組織委員長会議を6月に開催し、コロナ禍で前進させてきた全国のとりくみを交流します。
 今年9月に延期した第15回共同組織活動交流集会in山梨は、新型コロナウイルスの感染状況の中、1年間延期し、9月6日に共同組織活動ミニ交流集会をWEBで開催します。
 『いつでも元気』は発刊30年を迎えます。記念事業を共同組織とともに行います。

(8)総選挙へ向かう全日本民医連の立場と方針
 コロナ後の日本社会の針路をどういうものにしていくのか、いま、私たちは、自己責任からいのちと人権、平和が大切にされる社会への大きな転換点に生きています。コロナ禍を経験した私たちは、コロナ後の社会において、いのちを粗末に扱い、医療、介護、いのちを効率ではかってきた社会には決して戻るわけにはいきません。
 新たな感染症のパンデミックは今後もくり返します。巨大な台風、猛暑など環境破壊による気候危機は毎年、地球を襲い、大規模な地震や災害は、いつでも起こる状況です。
 コロナ禍を経て、①新型ウイルス感染症、自然災害にも備えられなど危機に対応できるゆとりある医療・介護の提供体制をつくること、②国民に必要で十分な医療・介護を充足できる提供体制とすること、③財源は国民負担ではなく国と大企業が応分に負担すること、④感染症の病床を充実させ、専門家や検査体制を十分に確保すること、⑤公立・公的病院を充実させること、⑥公衆衛生の拠点である保健所数、保健師を抜本的に増やすこと、などを最低限の課題として求めていきます。
 菅政権はこれまで見てきたように、コロナ禍を経てもなお自己責任の社会に固執し、新自由主義をより強めようとしています。
 この政権に私たちや患者、利用者の現在も未来も何ひとつ任せられません。
 全日本民医連として今回の総選挙をコロナ禍の教訓を踏まえ、医療と介護、社会保障の抜本的充実と平和な日本への転換、いのちの平等を実現していく決定的に重要な機会として位置づけます。
 野党の政策に対する市民連合の要望書は、「政治の最大の使命は、いのちと暮らしの選別を許さないことにある」とのべ、「いのちと人間の尊厳を守る選択肢」を15項目で示しています。これを軸に民医連としての要求を作成し、すべての小選挙区候補、政党に支持、不支持を求め公表します。
 各小選挙区において、他の団体とも共同して市民と野党の統一候補の擁立に協力し、その勝利に向けて力を発揮します。共同組織と力を合わせ、全職員が自分ごととして投票行動にとりくみましょう。権利を行使しかならず日本社会を転換しましょう。
 理事会をあげてこの特別な総選挙へのとりくみをすすめていきます。

(9)全国的なとりくみ
 全日本民医連第15回学術・運動交流集会は10月22~23日、当初予定していた香川県開催から変更し、WEB開催とします。スローガンは「憲法が生きるコロナ後の新しい社会へ力を合わせよう」です。コロナ禍における実践や苦労、発見を大いに交流する機会としましょう。記念講演には政治学者の岡野八代さんを迎え、エッセンシャルワークの価値、ジェンダー平等の実現などから憲法が生きる社会について考えます。オンラインの利点を生かし、現場からも多くの参加を期待します。
 第44回総会運動方針で決定した、県連会長・事務局長研修会にとりくみます。コロナ禍での第45回定期総会の開催形態について理事会で検討し、提案します。
 ひきつづき乳腺外科医師裁判への全国支援にとりくみ、無罪を勝ち取りましょう。
 旧優生保護法について各地の裁判を支援するとりくみを続けてきました。43期第2回評議員会で案として提案した見解についてひきつづきプロジェクト会議、理事会で検討していきます。
 SNS、動画媒体を中心とした広報活動を強化していきます。
 全日本民医連結成70年へ向けた、とりくみの検討を開始します。

おわりに

 総会後の1年間、民医連の歴史の中で一番苦しい時期にあるのだと思います。同時にそれがあぶりだした日本社会の問題点、ぜい弱すぎる社会保障の課題をそのまま要求に変え、市民総意で実現させていくのが次の1年間です。
 「この瀬長ひとりが叫んだならば、50メートル先まで聞こえます。ここに集まった人びとが声をそろえて叫んだならば、全那覇市民にまで聞こえます。沖縄70万県民が声をそろえて叫んだならば、太平洋の荒波を超えてワシントン政府を動かすことができます」
 米軍支配下にあった時代、沖縄医療生協結成を実現した中の一人である故瀬長亀次郎衆議院議員は、米軍支配を打ち破り、沖縄の平和と自治を取り戻す不屈のたたかいの中で、「声を上げ」「力を合わせる」ことの大切さを訴え続けました。
 激動、転換点に私たちは、民医連で働いています。
 無差別・平等の医療と介護を実践し、多くのいのちを救いましょう。ひとりひとりの仲間、未来の医療・介護従事者を守り抜きましょう。いのちの平等のため、たたかいを強め、未来を切り開いていきましょう。困難は、全国の団結と連帯の力で乗り越えていきましょう。
 理事会はその先頭に立ち、奮闘します。

以 上