第44期第1回評議員会方針
2020年8月22日 全日本民医連第44期第1回評議員会
第1章 新型コロナウイルス感染症の流行ととりくみのふり返り 第2章 いのち、憲法、綱領の視点でコロナ禍をみる 第3章 第2回評議員会へ向けて~第44回総会運動方針の学習と実践をすすめよう~ |
はじめに 第1回評議員会の位置づけと任務
全国の職員、共同組織の仲間のみなさん。熊本で開催した第44回総会の直後から、新型コロナウイルス感染症のパンデミックのもと、私たちは経験したことのない困難の中で、全国で奮闘してきました。
全日本民医連理事会は、不安と緊張が続く中で、がんばってきた職員とささえていただいた家族のみなさん、手づくりマスク、防護具づくり、激励メッセージなど医療と介護、職員をささえていただいた共同組織をはじめ、地域のみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。
この間、毎週のようにマスコミが医療と介護現場の奮闘と苦難を取り上げるため、民医連の事業所を取材し報道しています。困難に直面した時に、その組織の存在意義は問われます。経験したことのない感染拡大と事業の危機、経営の危機にあっても、すべての国民の医療と介護を受ける権利のために、団結して奮闘していることが注目されています。
第1回評議員会は、3つの重要な位置づけで開催しました。第一に新型コロナウイルス感染症への実践をふり返ることを中心に、第44回総会運動方針を深める場としての評議員会、第二に「次なる波」へ備え、この間明らかになった日本の医療、介護、社会保障のぜい弱さを克服するための大運動の中で迎える評議員会、第三に打撃を受けた事業と経営を、力をあわせ守り抜きながら迎える評議員会です。
第1回評議員会の任務は、(1)第44回総会運動方針にもとづく6カ月間のとりくみと新型コロナウイルス感染症への対応についての到達点、第2回評議員会までの重点課題を明確にする、(2)第44期選挙管理委員の選出、(3)決算を決定し、承認しました。
すべての県連、法人、事業所で方針を具体化し、実践していきましょう。
第1章 新型コロナウイルス感染症の流行ととりくみのふり返り
私たちは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに直面し職員のいのちと安全を守り、すべての患者の受療権、事業所と地域住民を守るために全力で努力を重ねてきました。困難な中だからこそ、全国の経験と教訓を学びあい、団結と連帯を強めてきました。
感染の急速な広がりとともに、急激な収益の減少に見舞われ、事業と経営の危機が深刻化しました。私たちは地域、社会に打って出て、メディアへ働きかけ、国、自治体へ要請し、医師会をはじめ医療団体との懇談、連携をくり返し行い、医療・介護事業所を守れの世論をつくり、政治を動かしてきました。
この6カ月間の全国と事業所の実践をふり返り、確信を持ち次への確かな一歩へ踏み出しましょう。
(1)新型コロナウイルス感染症に対する全国のとりくみ~求められる「長丁場」の構え
2019年12月30日、中国で原因不明の肺炎患者が集団発生し、日本国内では、20年1月16日に第1例が発表されました。その後、感染の急速で全国的な拡大、感染経路が特定できない症例の増加、医療提供体制のひっ迫などのもとで、4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」)にもとづき埼玉、千葉、東京、神奈川、大阪、兵庫、福岡に緊急事態宣言(以下「宣言」)が行われました。4月16日には、対象区域は全都道府県に拡大し、上記6都府県に加え、北海道、茨城、石川、岐阜、愛知、京都が「特定警戒都道府県」に指定されました。
その後、感染者数は減少に転じましたが、緊急事態宣言が5月25日にすべて解除されて以後、経済活動の再開とそれに伴う人の移動が始まり、東京と首都圏で感染の大幅増加ののち各地で感染が広がり、感染経路不明の割合も増加、東京では病床もひっ迫してきており「次なる波」を迎えています。沖縄では、7月7~11日の間に、普天間飛行場とキャンプハンセンで米軍62人の集団感染が発生しました。
8月21日現在、米軍基地関係者の感染は356人、米軍基地従業員は14人の感染と報道していますが、米兵は日米地位協定により日本の検疫が免除されており、感染が拡大しています。また、政府は感染が収束してから実施するとしていたGoToキャンペーンについて何ら対策を取らないまま前倒しで強行。感染流行地からのウイルス持ち込みにより、観光立県である沖縄県は、甚大な被害を受けています。
世界的な感染は、8月21日現在、累計で196の国と地域で、2200万人を超えました。1日当たり26万人以上のペースで感染者は増え続けています。経済活動の再開が各地ですすむ中、感染の拡大に歯止めがかからない状態となっています。
国別でもっとも多いアメリカでは570万人を超え、全体の4分の1を占めています。ブラジル、イギリス、イタリア、スペイン、メキシコなどで多数の感染者が報告され、南米、南アジア、中近東、アフリカなどの新興国で感染拡大が続いています。新型コロナウイルス感染症への対応は、数年単位の「長丁場」の対応になることは避けられません。
(2)新型コロナウイルス感染症へのとりくみと運動
①全日本民医連の組織的なとりくみについて
・国内第1例の発生から第44回総会終了まで
1月16日に国内の第1例が発表され、総会終了時の2月22日には全国で135人と感染者が拡大していきました。総会運営では感染対策と健康管理を実施、参加者から感染の発生はありませんでした。現地の熊本民医連は体温計、消毒用アルコールを準備し、ささえました。
総会では、国に対する3点の緊急要望(①すべての人の受療権を守ること、②医療・介護現場へマスク、PPE(個人防護具)、消毒用アルコールなど感染対策の備品をただちに十分提供すること、③感染のフェーズに沿った医療提供体制を国が責任を持ち確立すること)を決めました。定期総会そのものが今日の新型コロナウイルス感染症への対応と運動の始まりとなりました。
・第44回総会終了から現在まで
総会直後に全日本民医連として対策本部を確立し、東京での理事会開催が困難となる中、全日本民医連のWEB会議システム導入、四役会議での会務の執行、5月から理事会、一部の部を除き専門部は6月から実施してきました。3月24日の四役会議で全国方針を決定し、4月7日にはそれにもとづき全職員・共同組織へ向けて増田剛会長のビデオメッセージ「全職員・共同組織の皆さんへ 目前の危機を乗り越えるために」、5月16日の第2回理事会で全日本民医連理事会アピール「第44回総会方針を力に、感染まん延期にふさわしい取り組みで、無差別・平等の医療・介護を守り抜こう」を発出し、感染の拡大状況の分析と対策の構え、全国的な強化課題を決定してきました。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、これまでの大規模災害と異なり、すべての県が当事者であり、移動に伴う感染の可能性をはらむ中で、全日本民医連として従来の人的、物資、財政などを集中した支援や集まることが困難となり、どのように全国組織として団結力を発揮するのか、手探りの状態でした。その中で、全国組織の優位点を生かし、各地の経験・情報の共有と交流(ニュース発行、地協単位での県連会長・病院長交流会、受け入れ病院の院長メーリングリスト、看護部長メーリングリスト、施設内での感染が発生した事業所への全国的な援助、激励など)、専門家の協力(3月7日、聖路加国際病院の上原由紀医師、5月2日、川崎市健康安全研究所の岡部信彦医師の講演とWEB全国配信など)を重視しました。経営課題での全国調査の実施と国へ向けた集中した運動にとりくんできました。さらに防護具の不足など各県連から寄せられる要望を整理し、全日本民医連として政府に対し、11回の要望書提出を行ってきました。
新興感染症の恐怖、先の見えない不安、医療・介護関係者に対する差別、防護具不足などの中で、ある事業所の調査では7割の職員にメンタル不全を認め、職員を守るとりくみを特別に重視してきました。各県連、法人、事業所の責任者から職員や家族へ向け職員を守るメッセージを出すなどの各地の経験を集約・教訓化し、「新型コロナウイルス感染症に関する職員のヘルスケア指針」「職員のみなさんのセルフケアのための10のヒント」(職員健康管理委員会)を発表し、活用してきました。
すべての人びとの受療権を守るために、国保・後期高齢者・介護保険料の減免、資格証明書交付世帯への短期保険証の郵送・交付、国が財政支援を決定した国保傷病手当交付金について被用者以外にも対象を拡大させる要請にとりくみました。31県連で県や市町村に対して要請を行い、34の自治体が資格証明書世帯への短期保険証を郵送し、3県で国保の傷病手当金の対象を拡大させるなど前進しました。
6月理事会で、「次なる波」へ全国的な備えをすすめるために、対策本部の構成をすべての地協に広げました。
②医療・介護事業所における活動の特徴
危機が続く中、多くの県連、法人、事業所に対策本部を設置し、情報を集めながら、全職員への方針の周知と双方向でのコミュニケーション、地域での診療の連携や自治体との協力・共同にもとりくんできました。
職員の安全、生命を守ることを大前提に、地域の要求や自治体・地域の医療機関と連携し、発熱外来や帰国者・接触者外来の設置、PCR検査の実施、陽性患者、疑似症の診療を行い受療権を守ってきました。
感染がまん延する中、職員や入院患者に感染が発生した事業所も生まれましたが、日常の感染対策のとりくみを土台に、行政との連携を行いました。
介護事業所や診療所では、職員体制の厳しさや防護具の不足など矛盾と緊張の中、可能な限りの感染対策を講じながら、患者・利用者・家族の生活をささえるために奮闘してきました。利用者の感染・濃厚接触が生じた事業所もありましたが、保健所や病院のスタッフと連携し適切に対応がはかられました。
歯科部から「新型コロナウイルス感染症発生における歯科診療についての基本方針と対応の検討課題」、小児医療委員会から「コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大期の民医連小児科医から子育て中の皆さんへのメッセージ」、精神医療委員会から「事業所の役職員の皆さん、民医連精神科スタッフの皆さんへ~職員そして患者さん・利用者の方々のこころの健康を保つために行動しましょう~」を発信し、とりくみをすすめてきました。
感染防護具が不足する中、韓国社会的医療機関連合会、人道主義実践医師協会、緑色病院、保険医療団体連合、国内の労働組合、個人からマスク、ビニールガウン、サージカルガウン、レインコートなどの寄付がありました。
③共同組織とともに~仲間と地域を守る創意、全国の連帯したとりくみ
感染を広げないために、自宅で過ごす期間が続き、共同組織の班会や交流、健康づくりの企画など集まってのとりくみができない事態が続きました。「ほかの会員は、どう過ごしているのか」と心配し孤立を防ぎたいとの声が起こり、さまざまな工夫をした活動が行われました。自宅でできる体操などをYouTubeで発信、孤立を防ぐための電話での声かけ、担当職員による地域訪問などにも感染に注意して各地でとりくみました。
また、感染状況に合わせてできる共同組織の活動をていねいに事業所から発信し、活性化している経験も生まれています。「次なる波」でも人と人の直接的なつながりが断ち切られる事態は起こります。この間のとりくみを整理して発信していきます。
各地の共同組織から手づくりマスク、防護服など多くの支援が私たちに届けられ大いに励まされました。全日本民医連共同組織活動交流全国連絡会から全国の民医連事業所へのメッセージ動画が寄せられ感動を広げました。
(3)新型コロナウイルス感染症がおよぼした医療・介護経営への影響の深刻さとたたかいの到達
①大規模な減収による日本の医療・介護事業崩壊の危機
新型コロナウイルス感染症拡大を受け、職員や入院患者での陽性確認による新規入院患者受け入れ停止や救急外来などの休止、感染患者や疑似症を受け入れるための空床確保、外来患者の受診抑制、健診の休止などにより、経営はかつてないほど深刻な状態に陥り、全国の数多くの医療機関が経営破たんの危機に立たされています。
全日本民医連経営部が実施した医科法人緊急経営調査(5月度)では、対象医科法人150法人中108法人(72%)が回答し、81法人が経営の影響が深刻と回答しました。外来患者、入院患者、施設利用者が減少し、全体の事業収益は前年比平均87・7%となり、経常利益の合計はマイナス28億円(マイナス7・4%)、償却前利益でも赤字の法人が74法人で、合計でマイナス13億円(マイナス3・5%)と資金が流出しています。この間、多くの医療団体が経営に関する調査を行い、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会での4月度調査でも、1307病院の医業収益が前年比で10・5%減少、全国自治体病院協議
会での調査(286病院回答)でも患者急減により収入が前年比83・6%などとなっています。
民医連の歯科事業所も大幅な患者減(5月実績で前年同月比80・1%、前月比82・5%)による減収減益(前年比87・1%、前月比86・9%)となり、約7割の66事業所で赤字となりました。事業所側が診療を控えたことと合わせて、訪問診療(特に施設)を断られた、抜歯などの外科処置やエアロゾルを発生させる治療の延期、歯周病安定期治療(SPT)をはじめとした歯周病治療や健診の受診控え、とりわけ、ハイリスクの高齢者の受診控えが多く、患者数が減少しています。
保険薬局も、QI参加の薬局の統計で、処方せん枚数が前年同月比で4月マイナス22%、5月マイナス28%、日本薬剤師会の調査でもマイナス20%以上となっています。技術料が20%ほど減少していますが、長期処方の増加により、薬剤料の減少は少なく、医薬品費は減少せず資金繰りが厳しくなっています。
手持ち資金の流出で資金ショートを回避するため、一定の優遇措置のある福祉医療機構などからの緊急融資を申請し、79法人(73・1%)で合計246億円の緊急の融資を受けています(申請予定含む)。融資は本来借りる予定ではなかった借金であり、据え置き期間終了後の5年後には、多額の借金返済が待ち受けることになります。
介護分野でも、感染の拡大に対応して事業経営に大きな影響が生じています。緊急調査(4月度)では、医療系法人(65法人)で昨年同月比減収となった法人が過半数を占めました(34法人、52・3%)。経常利益では39法人(60%)が減益となりました。サービス別で減収となった法人は、訪問介護で50%、訪問看護58・5%、通所介護66・7%、通所リハ69%、短期入所23・1%、居宅介護支援事業47・4%でした。特に利用控えが相次いだ通所系・短期入所サービスでの影響が大きく、通所介護、通所リハでは半数以上の法人が30%を超える減収となりました。コロナ禍のもとでかつてない厳しい状況が続いています。介護分野のこういった事態に対する政府の施策は極めて不十分です。現場の強い声に押され、政府は第2次補正予算で感染対策に伴うかかり増し費用の補てんや介護従事者に対する特別手当などを盛り込んだものの、介護事業所に対する財政支援はいっさいありません。
感染を不安視した利用控えや、事業の縮小・自主休業による利用者の状態悪化や家族の介護負担が増えていることなどが報告されています。緊急事態宣言が解除されて以降、利用者のサービス利用や新規の受け入れなどが徐々に開始されてはいますが、3~5月の経営的なダメージが大きく、地域では小規模事業所を中心に再開・継続のめどが立たず、廃業を決める事業所も出始めています。このままの状態が続けば、地域の介護サービスの基盤を大きく揺るがすことになり、さらに新たな介護弱者を生み出すことにもなりかねません。
②すべての医療・介護事業所への財政支援を求める運動の到達
コロナ禍による医療と介護の大幅減収に対し、第2次補正予算審議に向かう6月1日、緊急財政支援を求める「国民のいのちを守る『医療と介護を守れ』緊急行動」を提起し、1週間のとりくみで1147団体から団体署名が集まり、厚生労働省に提出しました。各地で「緊急記者会見」にとりくみ、テレビ、新聞、インターネットなどを通じて報道され、医療現場の実態を広く訴え、世論を大きくつくりました。日本医師会では、総額7兆5000億円、非コロナ対応の医療機関への減収補償に3~8月分として約1兆3000億円、介護事業サービスへの減収補償も同様に1兆4000億円の要望を提出するなど、すべての医療機関・介護事業所の損失補てんを、すべての医療団体が一致して要求する状況となっています。また、各地の自治体でも超党派で意見書が提案、採択される状況です。
こうした中、8月6日には、自民党から日本共産党まで参加し「コロナと闘う病院を支援する超党派議員連盟」の総会で、「提言」を発表。「提言」は予備費の即時活用により、現在までの減収補てん、新型コロナ感染者を受け入れている医療機関へは、昨年度実績より落ち込んだ分に対して公的資金で100%の補てん、感染者の受け入れ実績のない病院へは80%の損失補てん、診療報酬の引き上げ、赤字診療所への医療版持続化給付金の創設、高齢者施設について介護版持続化給付金などが提言されました。
第2次補正予算の不十分さ(非コロナ対応医療機関、介護事業所の減収補てんゼロ、借金での支援など)では、医療・介護の崩壊は食い止められません。すべての医療機関・介護事業所への支援をひきつづき要望し実現させていくことが必要です。
第2章 いのち、憲法、綱領の視点でコロナ禍をみる
(1)広がる国民の苦難
コロナ禍のもとで、患者、利用者、地域住民に何が起きているのか、十分に把握できていない現状があります。私たちから働きかけなければ、つながることはできません。第44回総会運動方針は、「困難を抱える多くの人が孤立し、医療・介護・福祉にたどり着けずにいます。もっと多くの人びとに民医連の事業と運動を届けるためにアウトリーチを日常的に」と提起しました。SDHの視点で患者・利用者・地域住民を見つめる、いま、コロナ禍でこの実践が求められています。
①診療・介護の現場から
感染拡大のもとで機能しなかった保健所の相談体制、PCR検査体制の不足、感染を心配しての受診抑制・利用控えの広がり、民医連や共同組織が大切にしてきた人同士のつながりも困難となっています。
各地で発熱や肺炎疑いの患者・利用者が行き場を失い、中には検査を待つ間に自宅で孤独死された痛ましいケースも発生しました。患者・利用者には基礎疾患のある人が多い中、民医連でも2割前後の受診抑制や利用控えが広がりました。電話診察で連絡が取れず、訪問時には意識がなく衰弱し、救急搬送されたケース、糖尿病患者のデータの悪化、内服を隔日に減らしての療養、産後に十分な援助を受けられず孤立した母親、自宅にこもる中での身体機能低下、介護サービスのキャンセルによる衰弱の進行などが報告されています。
各地で無料低額診療事業の申請が増え、ある事業所では5月の相談者の全員が無保険でした。各地でとりくまれた生活と医療、介護の相談では、所持金数千円となって痛みに耐えられなくなってからの相談が後を絶ちません。
社会的経済的に困難な層に感染そのものと関連したリスクが広がっています。
収入が激減することで、自粛を呼びかけられても生きるために働きに出ざるを得なかったり、十分な感染対策が困難な環境などが感染リスクを広げ、また食料の購入や家賃の支払いに困難をきたしたり、医療、教育へのアクセスが妨げられています。
②経済危機の中で急速で大規模な貧困の広がり・生存の危機
6月の企業倒産は、780件と今年最高となりました。経営破たんした企業のうち従業員数が判明した会社の中で5割以上が従業員10人未満となっています。
こうした中で、国の経済対策の最優先であるべき雇用維持の状況は、完全失業率2・9%、それ以外に失業する可能性の高い自宅待機、休業を強いられている労働者が、「宣言」後では、前年同月比で274万人増加し、423万人に達しています。現在、休業で踏みとどまっている中小零細企業の労働者を中心に失業者が増大する可能性が高まっています(総務省、5月の労働力調査)。6月の「新型コロナウイルス感染症に関連した雇止め人数」は見込みを含めて3万1710人と1カ月で1万人増となっています(厚生労働省、7月2日発表)。
解雇、失業者の中では非正規雇用労働者が多くを占め、さらに休業者では、6割近くを占めています。非正規雇用労働者の解雇、失業は生存そのものに直結する重大な問題です。
全国の4月の生活保護の申請件数は2万1486件、前年同月比で24・8%も増加し、2012年4月の統計開始以来で、過去最大となりました(厚生労働省、7月1日発表)。特に「特定警戒都道府県」に指定されていた道府県庁所在地の多くで、申請件数が前年から2~4割急増しています。生活保護の支給を開始した世帯数も1万9362世帯と前年同月と比べ14・8%の増加です。前年同月比で2桁増加したのは、08年9月のリーマン・ショックの影響を受け支給世帯が増加した10年1月以来、約10年ぶりです。受給世帯数は163万4584世帯です。解雇や雇い止めが全国で1万人を超す勢いで、申請は今後全国的に増加する見込みです。
新型コロナウイルス感染症が収束しても、大量の失業者、低所得者があふれかえる社会であってはなりません。生存を保障するための手厚く迅速な休業補償などを、長期化するコロナ禍にふさわしい制度とすることが必要です。
(2)医療・介護の困難はどこから来たのか
①医療・介護の危機を招いた自民党・公明党政権の新自由主義的な国づくりと社会保障費用削減
新型コロナウイルス感染症の経験は、私たちの生活、生命、医療、介護が政治と強くつながっていることを浮き彫りにしました。第44回総会運動方針第1章で民医連綱領改定後の10年間をふり返りました。安倍政権による新自由主義的な国づくり、社会保障の分野では「社会保障と税の一体改革」により社会保障の理念が自立・自助、自己責任に変質させられてきた流れを記述しました。新自由主義は、人びとの連帯を分断し、社会を市場にまかせ、格差と貧困を拡大させながら、人びとに「自己責任」を押し付け、弱者がさらに困難になることも自己責任として許容してきた思想です。
この10年、地方自治体の職員の1割以上の削減、非正規化、下請け化などがすすめられ、特に医療や保健衛生の体制は削減、縮小され、非正規雇用の増加など40代、50代を含めた労働者の貧困の進行、働き方改革の中で雇用によらない働き方としてフリーランスの増加などがすすみました。これらの施策が、現在の新型コロナウイルス感染症の中でさまざまな矛盾を浮き彫りにしています。
また、安倍政権はこうした国づくりと一体に憲法9条改憲をめざし、日本の軍事大国化をすすめ武器を大量に購入してきました。試算では、2020年度予算の防衛費5兆3000億円のうち戦闘機などの購入のための金額は1兆1000億円です。この1兆1000億円を医療に使えば、集中治療室の病床を1万5000床整備し、人工呼吸器は2万台、医師1万人・看護師7万人の給与が賄えます。国民の反対で計画を断念したイージス・アショアの導入には129億円が計上されていますが、この費用でヘルパーを4000人増員できます。韓国の文(ムン)在(ジェ)寅(イン)大統領は、新型コロナウイルス感染症対策を強化するため、補正予算でF35戦闘機、イージス艦の戦闘システムの購入費などを、感染拡大に伴う緊急災害支援金の財源に回しています。安倍政権の対応は異常です。
感染症対策の分野でも09年に発生した新型インフルエンザ感染症の経験から10年6月10日にまとめられた「新型インフルエンザ対策総括会議報告書」での指摘が放置されています。この報告書は、「国立感染症研究所や、検疫所などの機関、地方自治体の保健所や地方衛生研究所を含めた感染症対策にかかわる危機管理を専門に担う組織や人員体制の大幅な強化、人材の育成をすすめる」「PCRを含めた検査体制の強化」「臨時休校の在り方」などを提起しました。しかし、それらは政策として実行されることはありませんでした。
また、14年の「医療介護総合確保推進法」により定められた地域医療構想には、感染症病床に関する記述はないどころか、整備すべき病床として新型コロナウイルス感染症の対策で大きな役割を果たしている公立・公的病院の再編・統合や日本全体の病床削減を中心にした構想として推進されています。保健所は、地域保健法制定(94年)により統廃合がすすめられ、全国で92年の852カ所から2000年には469カ所と削減されています。
日本病院会会長は今日の医療機関の状況を「これまで病院は診療報酬などの影響で、ボクシングで言えば、たくさんのパンチをもらってグロッキーになっている状態のところに、新型コロナウイルス感染症拡大というパンチが飛んできて、ダウンしている状況」「もう少しでノックアウト寸前」と表現しました。病床や検査体制の不足、医師や看護師をはじめとする医療従事者の不足、医療機関を倒産の危機に追い込み、医療崩壊の瀬戸際まで追い込んでいるのは、新自由主義的な国づくりであり、社会保障費用削減政策です。
その上、医療機関そのものの存続が危ぶまれる中、第一義的に必要な医療機関への損失補てんを行わず実施した「布マスクの全戸配布」、感染が再度拡大している中、1兆7000億円の予算を使い国民の旅行を促すGoToキャンペーンの前倒しなど政府の的外れな政策が行われています。いつまでも防護具の不足が改善できない、ノックアウト寸前にある医療機関への補助も第1次補正予算で決定したことすら実行できていないなどスピードのなさは、現場の困難をさらに拡大してきました。
②さらに社会保障の解体をすすめる全世代型社会保障改革に固執する安倍政権
これまで、この政策を年ごとに具体化しすすめてきたのが毎年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)です。7月17日に安倍政権が閣議決定した20年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)は、「新型コロナウイルス感染症下での危機の克服と新しい未来」が主題です。「新たな日常の実現」に向けた社会保障の構築として、「『骨太方針2018』『骨太方針2019』などの内容に沿って、社会保障制度の基盤強化を着実にすすめる」としています。高齢化などによって発生する社会保障の自然増すら削減してきた緊縮政策を継続するということです。具体的には18、19年の「骨太方針」には、「医療・介護の負担増と給付削減」「国保料の大幅な負担につながる法定外繰り入れの解消」「診療報酬・介護報酬の削減」そして「公立・公的病院の再編・統合」と「病床削減」が列挙されています。しかしこれらは、コロナ禍で切実となったすべての人の受療権の保障や医療提供体制の充実を否定するもので、この道は決して許されるものではありません。
また、第44回総会運動方針で人権を蹂(じゅう)躙(りん)し生活を破壊するものとして断固撤回を求めた「全世代型社会保障改革」は、6月25日に「第2次中間報告」が出されました。しかし、新型コロナウイルス感染症がもたらした困難を何ら反省することなく、19年12月に「中間報告」で示した「医療提供体制の縮小」「負担増」を打ち出す路線を変えていません。また、「年金・医療・予防介護」という本来の社会保障のあり方に対して、「労働」という新たな項目を入れ、すでに成立した「高年齢者雇用安定法」に続き年金制度改正法を成立させ、支給年齢の引き上げを行いました。同時に「社会保障・高齢者労働一体化」だけでなく、今回の「第2次中間報告」では、コロナ禍で問題となった「フリーランス」を多様な働き方のひとつとして、高齢者から若年者まで「企業との契約」を推奨する方向として打ち出し、正規労働者から非正規労働者への移行をさせることをねらっています。
③転換の方向~新自由主義と決別し、いのちの平等を実現しよう
新型コロナウイルス感染症の体験を経て、良い医療・介護を実現するために、どんな社会を選択するのか、私たちに問われています。
世界でも、イタリアやスペインのように新自由主義、緊縮政策により公的医療を弱体化してきた政策の結果、新型コロナウイルス感染症の猛威の中で医療崩壊が起こりました。新自由主義と市場を万能としているアメリカでは、失業保険の申請は4000万件、労働者の4人に1人が職を失っていることになります。「3カ月間しのぐことができない世帯が6割」となっている調査も公表されました(FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)発表)。CDC(アメリカ疾病対策センター)が実施した新型コロナウイルス感染症による死者1万人調査は、現役世代で死者が非白人に多数という人種格差を鮮明にしました。白人、黒人、ヒスパニックの65歳未満の死者の比率は、それぞれ18%、30%、34%。死亡時の平均年齢も白人81歳、黒人72歳、ヒスパニック71歳で非白人が10歳以上も若くして死に至っています。非白人の現役世代が在宅勤務のできない状況にあることや、住宅環境でも社会的距離の確保が難しいなどが影響していると報道されており、人種差別や貧富の差が、いのちの格差に結びついている事態が浮き彫りになりました。
新型コロナウイルス感染症を通じ、日本でも、世界でも新自由主義と決別しようという声が、いま多くの人から発信されています。政治の腐敗に対する怒り、社会のありように対する疑問が発せられ、野党の中で、新自由主義に反対し、連帯の力で未来を切り開こうという一致点も生まれています。
私たちはこの新自由主義と決別し、平和で、「誰も置き去りにしない」、人間的な連帯を広げ、無差別・平等の医療と福祉が実現される社会をめざし、憲法の理念を高く掲げ、すべての人が等しく尊重される社会をめざしていきます。
(3)新型コロナウイルス感染症の「次なる波」に備えるための喫緊の要求
医療、介護、教育、保育など人をケアする仕事が、社会にとって必須のものであることが浮き彫りとなりました。そもそも医療と介護は、社会のライフラインです。すべての医療、介護のシステムを維持し機能させる責任が、行政にあることは明確であり、新型コロナウイルス感染症へのとりくみは日本の医療を守るたたかいと言えます。
①医療体制の強化と抜本的支援
新型コロナウイルス感染症対策と通常の国民の健康を守るため、危機に直面するすべての医療機関・介護事業所に国が十分な財政補償を行い、財政面からの医療崩壊を絶対に招かないこと、発熱・肺炎の患者が行き場を失わないよう対策を行うこと、とりわけ疑似症患者の受け皿を明確にすること、感染防護具や消毒剤の不足など絶対にくり返さないよう抜本的に支援することを求めていきます。
ただちにすべての保健所の体制を強化すること、病床削減ありきの「地域医療構想」をあらため、公立・公的病院の再編・統合を撤回・中止し、地域ニーズや新興感染症にもしっかり対応できる医療提供体制構築をするよう求めていきます。
②検査体制を抜本的に強める
検査難民を生まず、接触者、疑いのある人、発熱者が必要な時に検査を受けられる体制の構築、病院・介護事業所での施設内感染を防止し、医療・介護の崩壊を防ぐために、必要時、速やかに患者・利用者、医療・介護職員へのPCR検査が実施できる体制、地域の感染動向の把握のためサーベイランスを求めていきます。疾病予防センター確立など行政とは独立した視点で、国家的な感染症対策を推進することを求めていきます。
③コロナ禍を契機に防災基本計画の改善を
国は、5月29日に防災基本計画を修正しました。19年に台風や記録的豪雨により多数の犠牲者が出たことからハザードマップの改善、今回の新型コロナウイルス感染症の発生を踏まえ、「避難所における避難者の過密抑制など感染症対策の観点を取り入れた防災対策を推進する必要がある」と明記し、自治体の防災担当者と保健福祉担当者が連携して避難所の感染症対策に当たること、「必要な場合は、ホテルや旅館などの活用を含めて検討するよう努める」などとしました。
7月の豪雨災害の中で、いくつかの避難所で「3密」が回避できない状況などが発生しています。救えたいのちを絶対に失わないために、豪雨、台風、地震などの災害時の避難所を中心とした感染対策整備を、早急に自治体に具体化させていきましょう。
第3章 第2回評議員会へ向けて~第44回総会運動方針の学習と実践をすすめよう~
この間の実践の根底には、第44回総会運動方針が明確にした綱領改定後の10年間、健康権の位置づけを明確に打ち出し、その視点を明確にした「民医連の医療・介護活動の2つの柱」(以下、「2つの柱」)にもとづき努力してきたことがあります。「より複雑な背景を持つ患者に人権保障の視点で向き合うこと」が無差別・平等の民医連綱領の立場であり、「患者の受療権を守るため『まず診る』『援助する』『何とかする』という姿勢を事業所全体で確認すること」を提起してきました。新型コロナウイルス感染症のもとでの私たちの実践を学びあい、44期の折り返しとなる第2回評議員会へ向け、民医連綱領と第44回総会運動方針の実践を強めましょう。
当面の重点課題を提起します。
(1)全国の経験と英知を集め、職員のいのちと健康を守り抜こう
新興感染症の拡大に対して長丁場のとりくみが必要です。全国の英知を集め、「職員を守る」を第一に備えていくことが必要です。
そのために感染予防の水準を高めていくこと、新型コロナウイルス感染症の診療を安全にすすめられるシステムなど常に新しい情報を確認し、全国の実践・教訓から学んでいくことが必要です。
また、すでに活用が始まっている「新型コロナウイルス感染症に関する職員のヘルスケア指針」「職員のみなさんのセルフケアのための10のヒント」を活用し、段階に応じた対策やセルフケアをすすめていきましょう。緊張状態が長期に続く中、法人管理部は何より「職員を守り抜く」姿勢を示すとともに、トップ幹部・管理者のセルフケアの重要性も増しています。全管理者向けパンフレットとして3万部を送りました。積極的に活用していきましょう。
(2)各地の新型コロナウイルス感染症へのとりくみと結びつけて、総会運動方針を学ぼう
第44回総会運動方針「学習月間」(6~9月)は、感染対策で集合研修などが困難な中でスタートしました。各地で、「こういうときこそ民医連について確信を深める学習をしよう」「新型コロナへのとりくみのひとつひとつが運動方針の実践にほかならない」と積極的に位置づけ、日ごろの活動と結びつけながら、工夫を凝らした学習運動がすすめられています。「平和でなければ健康は保てないことは最近の状況で強く感じる。誰もが安全に安心して健康に生きていける社会を実現したい」「綱領を日々の医療・介護活動、経営の羅針盤とし課題にとりくみたい」などの感想が、若い世代からも寄せられています。
総会方針学習動画「未来へのカルテ2020」(DVD、全日本民医連ホームページ)は多くの職場で視聴され、感動を広げています。「コロナ禍でいっそう貧困と格差が明らかになっている。病院に来られない人がどんどん増えており、アウトリーチが大切」など積極的な受け止めも聞かれます。「すべての職員に動画視聴を」を合言葉に広げましょう。さらに、「総会方針実践事例を募集」(福岡)、「学習月間中に各職場1回以上、気になる患者への電話かけ提起」(奈良)など、行動に結びつける実践も各地で始まっています。
綱領改定10年にあたり現綱領の意義をつかむことは、第44回総会運動方針の大きな柱です。前期に発行した『学習ブックレット 民医連の綱領と歴史』は、民医連についての基礎学習として活用が定着しつつあります。新入職員からも、「戦前の無産者診療所をルーツとし、困窮した労働者や農民にも医療を受ける機会を与えてきたのが民医連。そして現在もなお無差別・平等と言えない現実があることを知った」「新型コロナの苦難の時に指針となる綱領をはっきり示す民医連の教育方針は素晴らしい」などの感想が出されています。総会運動方針学習と合わせて活用をすすめましょう。
感染対応で独自の苦労を抱える事業所も少なくない状況ですが、困難な状況だからこそ民医連綱領と総会運動方針が羅針盤として力を発揮します。幹部が責任を持って「学習月間」の推進体制を確立し、県連として大いに経験を交流しながら新たな時代を切り開く力となるよう励ましあってとりくみましょう。
多くの県連では、感染対応のため新入職員へのフォローが十分にできず課題となっています。基本の制度教育、『学習ブックレット民医連の綱領と歴史』の学習、横のつながり(職場・事業所・法人・県連)、交流を大切にして援助しましょう。
(3)「いのちの相談所」の大運動で、人権を守り抜く活動を
コロナ禍でよりいっそう深刻さを増した高齢者、障がい者、子ども、外国人などあらゆる層の困難や、倒産の広がりや解雇・失業など雇用の危機に立ち向かい、憲法25条にもとづいた社会を追求し、すべての人びとの人権を守り抜きましょう。
1) 受療権を守る運動を大規模に広げよう
①「いのちの相談所」常設へ
「いのちの相談所」の大運動をひきつづきすすめます。群馬のように地域の電話相談などに恒常的にとりくめるよう当面「常設化」を提起します。そしてさまざまな困りごとに具体的に対応できるよう、社会保障推進協議会(社保協)や地域の他の団体と共同した相談体制を整えていきます。親の収入の激減やアルバイトがなくなる中で、若い世代、学生の困難も広がっています。そうした中、医学生をはじめ学費軽減を求める運動などが広がっています。こうした世代への支援や連携を広げましょう。
②ソーシャルワーク機能強化を
社会保障制度やさまざまな救済制度の学習を事業所や職場で位置づけ、すべての事業所でのソーシャルワーク機能を高めていきましょう。
③国保制度改善の運動を
厚生労働省は新型コロナウイルス感染症への対応として、国保法77条にもとづいて保険料(税)の徴収猶予などの取り扱いを示し、補正予算によって保険料(税)減免を実施する市町村などに緊急財政支援も行うとしました。これらをコロナ対応の臨時的な対策に終わらせず、受療権を守る制度改善、加入していても負担が大きく使えない制度となっている国保の改善へ向けて、国保法44条、77条を使える制度にする運動を強めます。また資格証明書の発行をやめさせる、あるいは短期保険証に切り替えさせるなど、とりくんでいきます。解雇、失業などによって無保険になることがないよう、自治体に対して、国保加入について広報し、周知するよう要請しましょう。
④生活保護の積極的活用を
必要な人すべてが生活保護を利用できるよう働きかけます。また窓口で生活保護を申請させない対応や、煩雑な申請制度をやめるよう自治体に要請しましょう。地域の人びとに生活保護は権利であることを知らせ、ためらわずに活用するよう呼びかけましょう。
⑤無低診にとりくもう
こうした社会保障制度の活用を積極的にすすめていくために、地域の困難な人たちとつながる「入口」として無料低額診療事業にとりくみましょう。そして自治体に対し無料低額診療事業の制度を広報するよう要請しましょう。
⑥事例から実態の告発を
地域で起きているさまざまな事例を集約し、国民の実態を告発する記者会見を開くなど可視化していきましょう。
2019年の経済的事由による手遅れ死亡事例調査は51事例が寄せられ、7月29日、厚生労働省内で記者会見を行いました。男性が8割近くを占め、年齢層は60~70代が6割、世帯構成では、独居が半数を超えました。一方、現役世代の40~50代が4分の1近くとなり、非正規雇用で収入が低く不安定で、保険料の滞納や窓口負担への不安から、受診が遅れた事例が多いことも特徴です。コロナ禍で収入減や失業が広がれば、こうした事例が地域でさらに増えることが危惧されます。全県連で記者会見を行い、国民健康保険や生活保護制度の改善、無料低額診療事業の周知などを訴えましょう。
2)「全世代型社会保障改革」を許さないたたかいを全面的にすすめよう
①学習を強め、総選挙も展望し、全世代型社会保障改革に反対の世論を広げよう
共同組織をはじめ、幅広い地域の諸団体・個人とともに運動を大きく広げましょう。
今回のコロナ禍を通じて、医療や介護、くらしを守るために「社会保障制度」はどうあるべきなのか、地域の中で議論を深め、総選挙も展望し、政治を変えることが求められています。
医療供給体制の深刻な問題点、医師、看護師、介護職などの不足も鮮明になっています。この間のさまざまな連携と運動の広がりは、運動の分野でも新しい条件を生んでいます。力を合わせて転換させましょう。秋には、ドクターズ・デモンストレーションなど多彩にとりくみます。
共同組織の構成員とともに学習をすすめる資材を発行します。来年1月からの通常国会に提出される負担増の法案を提出させないための運動を重視し、ネット署名、映像での学習などコロナ禍での運動推進をはかります。
②公立・公的病院を守り、地域住民のニーズに応え得る医療・提供体制の確立に向けて
コロナ禍のもと、実質的に破綻が明らかになった地域医療構想による公立・公的病院の再編・統合や、地域の病床削減をストップさせ、地域全体で、地域に必要な医療・介護提供体制を守り拡充させる、攻勢的な国民運動を確立しましょう。秋田県で全市町、鳥取県で7割の市町村で意見書が採択されています。地域医療構想調整会議に地域住民の意見を反映させるためアンケート活動にとりくんでいる地域もあります。
各県連において、社保協などとともに「再編統合の再検証」に名指しされた公立・公的病院や県・市町村との懇談、自治体キャラバンなどに積極的にとりくみ、自治体から国に向けた「再編統合」反対の意見書などの採択の運動をすすめます。
③たたかいの体制と全国的な交流
全日本民医連として、理事会のもとに「全世代型社会保障改革」阻止大運動の推進体制を立ち上げます。具体的には、四役のもとに直轄で社保運動・政策部、医師部、医療介護福祉部、経営部などで闘争本部を確立します。各県連の運動の交流の場を設け、全国の運動をさらに広げます。
(4)コロナ禍のもとで、まちづくり、共同組織の活動の推進
コロナ禍のもとで、人と人との連帯を深め孤立を生まないまちづくりは、さらに重要性を増しています。また、「自粛」による体力の後退や認知症の進行など健康づくりのとりくみが期待されています。職員のアウトリーチ活動の強化とともに地域の感染状況を踏まえながら、感染対策の具体策も示したうえで徐々に活動を充実していきましょう。
生業を奪われ、生活継続が困難になっている人が増え、あらゆる階層で、今も声も上げられず助けを待っている人が、私たちの近くにいます。高知民医連では、共同組織を中心に購売生協などとも協力し、生活困窮学生への食料提供活動にとりくんでいます。生活を守り社会的孤立を少しでも防ぐために、組織としてソーシャルワーク機能を発揮し、共同組織の仲間とともに多くの「困難」とつながることが必要です。地域の福祉力を育み、個人の尊厳が大切にされるまちづくりをめざして攻勢的にとりくみましょう。
3月に共同組織向けに発売した『健康格差の原因―SDHを知ろう―』のパンフレットは、2万7000部が普及されています。支部、班での学習会などで活用しましょう。
共同組織拡大強化月間は、各地の感染状況を踏まえながら時期を全国一律とせずとりくんでいくこととします。『いつでも元気』はコロナ禍でも健康づくりをすすめるため編集を工夫してきました。宣伝誌を思い切って活用できるようにします。また、新入職員の購読を大いにすすめましょう。とりくみ状況の紹介をニュースや映像で届けるようにします。
(5)医師分野の前進を
1) 医学生対策の前進を、200―500のロードマップ達成へ向けて
4月の医師の入職は192人と目標達成にあと一歩まで迫りました。卒業により減少した奨学生は6月末に500人まで回復しました。医学生の病院見学や実習が困難になる中、全国の医学生担当者の創意工夫や、高校生からつながりのある医学生への地道な働きかけが実を結びました。
20年は200―500のロードマップの200人の目標達成の最終年になります。目標達成に向け6月に医師部から「現在の情勢における医学対活動のポイントと行動提起」を発信しました。奨学生の拡大や卒年での決意者を増やすためには、新型コロナウイルス感染症への医療現場のさまざまなたたかいの中で、多面的に民医連が果たしている役割を医学生に届けることが求められています。とりくみの仕方については、WEBの活用など創意工夫を加えながら、さらに医学対の活動を広げていきましょう。千葉民医連では故中村哲医師を取り上げた学習企画をWEBで開催したところ、全国の医学生30人が参加するなど、民医連と医学生が新しくつながる可能性が広がっています。
中止を余儀なくされた医学生のつどい(3月)、「みんフェス」(6月)にかわる企画を、地協や各県ごとでよく検討していきます。新しい医学生のつどい事務局が現在組織されており、感染防止に留意しながら、来年3月に何らかの形で開催することをめざして準備をすすめます。
2) 臨床研修病院の定員問題へのたたかいと対応
都市部定員を削減するために、民医連の臨床研修病院でも定員削減が求められている病院があり、全体で10人程度の削減となる見込みです。県によっては、結果のみを一方的に押し付け、理由も明らかにしないなど不透明です。全日本民医連として厚生労働省に改善を求めました。ひきつづき各都道府県の地域医療対策協議会などに対して、臨床研修病院の定数を削減しない立場にたつように求め、定員削減を食い止めるとりくみを強めます。また、中小病院の研修の質の向上やアピールを行うことも含めた中長期的な定員問題についての全日本民医連のとりくみの方針についての検討を行います。
年間新規入院患者が3000人未満の病院については訪問調査を条件とするいわゆる「アンダー3000」問題に関連して、複数の民医連の基幹型臨床研修病院が理由もなく一方的に基幹型の取り下げを求められました。県当局などに基幹型の維持を求めていますが、打開できていません。このようなことがくり返されないよう、NPO法人卒後臨床研修評価機構(略称JCEP)受審をすすめ、基幹型病院としてさらに整備をすすめましょう。
3) 医師養成
第44回総会運動方針で、「2つの柱」を実践する民医連の担い手としての成長をすすめること、新たに専攻医(後期研修医)100人の受け入れの具体化とその戦略づくりを提起しました。
初期研修の定員削減と同様に専攻医の定員も削減の動きがあり、状況の把握と対応を検討します。定数問題だけでなく、2階建ての設計や総合診療専門医のプログラムに関してなど、依然として日本専門医機構のあり方は不透明かつ不適切です。適切な情報開示などを求めていきます。
早く専門医にという流れが強まる一方で、じっくりと総合的な力をつけることをめざすトランジショナル・イヤー研修(TY研修)のニーズも確実に存在し、研修の整備をすすめていきます。
新型コロナウイルス感染症にとどまらず感染症への対応力は、診療科を問わず、すべての医師に求められる力量です。そうした対応力はもちろんのこと、アウトリーチや社会をどうみるかなどについて、しっかりと研修できるように内容の充実をはかりましょう。
初期研修医についても、安全や同意に十分配慮しつつ、初期研修の中でもしっかりとした感染症対応の力量を身につけるようにしていくことは、プライマリー・ケアの第一線で医療活動を行うからこそ可能です。
新型コロナウイルス感染症の影響でセカンドミーティング、新入医師統一オリエンテーションが中止となりました。ほかにも総合診療領域での指導力量や、プログラム改善をすすめるための総合診療ブラッシュアップセミナーも中止・延期となっています。
日本医療福祉生活協同組合連合会との共催企画である臨床研修交流会などWEBなどを活用し具体化をすすめます。精神科領域、整形外科領域、産婦人科領域などでは、領域別委員会として専攻医の確保に向けたセミナーなどの具体化をすすめています。
4) 新型コロナウイルス感染症への対応と医師集団形成の課題
新型コロナウイルス感染症に医師集団としてどのように対処していくのか、正しい情報を集め、局面を評価し、議論しながら自分たちの方針をつくっていくことができる集団になっているかどうか、今回のコロナ禍はあらためて私たちに問いかけています。この数カ月をふり返ることとあわせて、「未来に向かって民医連の医師と医師集団は何を大切にするのか」の議論と、第44回総会運動方針と綱領学習討議をすすめましょう。
常勤医師確保に向けて、専門医制度修了者へのアプローチや処遇のあり方についての検討を、医師部としてすすめていきます。医師集団づくりと新専門医制度対応の目的で小児、精神、産婦人科、整形に加えて、内科、外科、総合診療分野(家庭医を軸にした診療所後継者づくりを含む)の立ち上げについて検討していきます。
医師の働き方改革については新型コロナウイルス感染症対応で中断してしまったところが多いと思われますが、対応の具体化を先送りしないようにしましょう。
青年医師の学術研究活動助成制度が実現しました。さらに研究サポートなどの具体化を検討していきます。
中小病院の医師確保と養成での前進のための方針について、医師部での検討をすすめます。
(6)医療・介護事業・経営を守り抜くとりくみと運動を強めよう
1) 組織をあげてすべての医療と介護事業所への補償を求める運動の共同を広げよう
私たちがめざす健康権は、到達可能な最高水準の健康を享受する権利であり、その提供を行う医療・介護・福祉の事業を維持することは、憲法25条が定める国の責務です。長丁場が予想される中、経営破たんによる地域医療の崩壊はあってはなりません。新型コロナウイルス感染症に立ち向かい、国民のいのちと健康を守るためにも、事業活動、経営を継続することは私たちの社会的使命です。
通常国会で成立した第2次補正予算では、第1次補正予算より大幅な増額となり、総じて感染症対応医療機関、特に入院受入れ病院については、一定の財政支援規模となった一方、それ以外の医療機関および介護事業所の減収に関する具体的な支援は示されませんでした。他の医療団体とともに、第2次補正予算を上回る国家的財政支援を求めていくことが、たたかいの喫緊の課題です。また補正予算に関しては実施主体が都道府県となるため、各県連が都道府県の動向をつかみ、必要な財政支援を勝ち取る必要があります。「たたかいと対応」の両面からとりくんでいくことが必要です。
すべての医療機関・介護事業所を守れの運動の中で、「地域の医療・介護を守れ」の思いで声をあげることができる時です。全日本民医連、県連、法人一体に、経営幹部が先頭に立ち、日本の医療と介護を守り抜きましょう。
2) 全職員、共同組織とともに経営改善を断固としてすすめよう
コロナ禍で苦しんでいる地域住民へのアプローチ、無料低額診療事業の広報など、コロナ禍で発揮してきた無差別・平等の医療と介護の実践を貫くことが、さらに求められています。管理部が、職員と共同組織に今日のコロナ禍での民医連の実践を伝え、経営の困難を共有し、打開のための方針、事業継続計画(BCP)を提起することが、全職員参加の経営の力を最大限に発揮していくことにつながります。
新型コロナウイルス感染症のもたらしている大きな経営上の課題は資金問題です。県連、地協の経営委員会が、すべての法人の資金状況を毎月確実に評価し、時機を逸せず困難な法人への支援・援助を行いましょう。地協経営委員会の機能強化が必要です。これまでの方針通り地協の体制強化を早急に実施しましょう。
現在の経営危機はすべてが新型コロナウイルス感染症の影響と言い切れない側面を持っている点に留意しましょう。もともと弱点を抱えていた法人ほど、今回のコロナ禍によって、さらに厳しさを増しています。いま、急がなくてはならないのは緊急に融資を受けることで資金を確保し、地域の医療・介護を守ること、そして職員の生活を守ることです。その上で、コロナ禍の影響による経営悪化対応と、そもそもの経営課題での対応をきちんと区別し、これまでの弱点から目を背けることなく、必要利益を正面に据えて、利益の予算差異をきちんと分析する中で、危機を突破することが求められています。
3) 超高齢社会をささえ、くらしをささえる柱として介護事業を守り抜こう
介護の分野では、現場が直面している困難の打開、介護事業所への財政支援、「次なる波」を想定した介護体制の強化をひきつづき政府に強く求めていきます。
6月から実施されている介護報酬の特例措置は、通所系サービス・短期入所を対象に、現行のサービス内容のまま上位区分の報酬(加算)を割増し算定することを可能とするものです。算定の可否については、事業所や地域の実情などを踏まえた各法人の判断になりますが、算定に際しては、利用者への説明や利用料が増えた分を軽減する手立てを講じるなど適切な対応をはかる必要があります。今回の特例措置の根本的な問題は、介護事業所の減収補てんを利用者の費用負担に転嫁する点にあります。利用料が増えることがサービス利用に新たな困難をもたらすとともに、算定の可否が利用者の同意によって左右されることから、事業所にとっても必ずしも十分な補てん策にはなり得ず、仮に算定しても5月以前に生じた減収分をカバーすることはできません。あらためて、政府に対して公費の投入による3月以降の減収分の補てんを要請します。今回の特例措置に対しては、報酬の割増し分を利用料や支給限度額の算定から除外するよう運用の改善を重ねて政府に求めます。
介護報酬2021年改定の審議が再開されています。介護報酬の大幅な底上げ、感染症に対応した運営基準などの見直しは、処遇改善と合わせて当面の中心テーマです。各自治体では第8期(2021~23年度)に向けた計画の策定作業なども今後本格化していきます。感染症に対する独自施策の実施・拡充、地域の実情を踏まえた基盤整備、介護人材の確保、介護保険料の引き下げなどを自治体に求めていきましょう。
新型コロナウイルス感染症は、低い介護報酬、慢性的な人手不足によって疲弊しきっていた介護事業所を直撃しました。コロナ禍は、政府がすすめてきた給付削減一辺倒の政策がいかに地域の介護基盤を毀損させ、利用者・家族に困難を押しつけてきたかを浮き彫りにしています。「介護保険20年」を経過した節目の時期でもあります。利用者・家族が抱えている困難を具体的につかみ、介護保険制度の抜本的な改革を求めていきます。
4)「2つの柱」の実践を軸に、「次なる波」へ全県・地域、民医連の備え、事業継続計画(BCP)の立案を
「次なる波」へ向け、都道府県の医療提供体制整備がすすんでいます。地域でのポジショニング・連携と役割分担を県連でよく論議し、民医連の病院の役割を鮮明にし、県連として交流と討議をすすめましょう。
「全日本民医連新型コロナウイルス感染症に対する取り組みの到達と課題~6月末までの中間的な取りまとめと課題整理」を学び深め、感染対策の水準の向上、整備について準備をすすめましょう。
感染が広がる中で、介護サービスの利用を控え、身体機能の低下や疾病の発生が起こります。少しでも低減するうえで、医療と介護、利用者や家族との連携を緊密にしていくことが、今後の医療・介護活動の重要な柱です。介護・福祉分野と医療との連携を具体的にすすめられるよう計画を持ちましょう。
医療・介護・福祉分野での事業継続計画(BCP)をすべての事業所が整備しましょう。健康診断再開、手術再開など休止していた業務再開などを急ぎすすめましょう。
歯科では、各発生段階におけるBCPの立案についての提言をまとめること、地域での連携の課題を整理すること(法人や県連の医科歯科介護での情報共有や自治体、歯科医師会、保険医協会などとの情報交換や連携など)、地域での歯科医療継続のための運動(消費税ゼロ税率、損失補てん、災害対応など)につなげること、社会的困難事例に対するアンテナの感度を上げ、患者の置かれている困難に対しての運動(窓口負担ゼロや軽減、生活保障など)につなげ、保険で良い歯科医療を求める運動と合わせてすすめていくこと。これらを、短期的、長期的な課題としてとりくみましょう。
介護事業所では、地域の感染状況を踏まえながら、新規受け入れも含め、事業活動を戻していくことが課題となっています。日常的な感染予防策の継続・強化、通所介護をはじめとするケアの内容や提供方法の見直し、ヘルパーなど職員体制の確保、衛生用品の備蓄をはじめとする「次なる波」への備えなどが求められます。この間の利用控えや事業の縮小、世帯収入の減少などでさまざまな影響、困難を抱えている利用者・家族をしっかりささえていきましょう。空床の状況や利用者・家族の事情などにより、在宅・施設で感染した利用者・入所者(濃厚接触者)への対応が求められる場合もあります。感染が生じた場合を想定したシミュレーションや、具体的な対応方針を確認し共有しておくことが必要です。医療との連携を強化し、必要な援助を受けながらとりくみましょう。情報の収集と発信、法人間の調整など、県連の役割も重要です。新型コロナウイルス感染症対策や対応に追われる中でも、第8期に向けて地域で求められる介護保険事業を積極的に自治体に提言し、在宅をささえる看多機・小多機や定時巡回などの地域密着事業をはじめ、医療と介護の一体的提供に資する事業展開などの検討・具体化をはかりましょう。
(7)改憲阻止、核兵器廃絶、辺野古新基地建設ストップのとりくみ
1) 安倍9条改憲を断念させよう
「9条改憲について、改正しないほうがよい」69%、「改正するほうがよい」29・9%(「憲法に関する世論調査」時事通信5月実施)と反対は多数を占めています。通常国会でも憲法審査会をまともに開くことはできませんでした。自民党は次の臨時国会で国民投票法案の成立をめざす方針を示し、憲法に違反する「敵基地攻撃能力」の保有をめざそうとしています。第44回総会運動方針が示した9条改憲の危険な内容を学び、広げ、緊急署名のとりくみをひきつづき強めて改憲断念に追い込んでいきましょう。
2) 被爆75年核兵器禁止条約の実現、辺野古新基地建設の中止
総会後も、核兵器のあらゆる活動を禁止する核兵器禁止条約を批准した国は、10カ国増加し44カ国へと前進、条約発効まで6カ国となっています(8月22日現在)。年内発効の可能性もあり、発効されれば核兵器廃絶の「措置」を検討する締約国会議が開かれ、核兵器廃絶は新しいステージに移ります。核兵器禁止条約に背を向ける日本政府に対し、核兵器禁止条約への署名・批准を求める自治体の意見書・決議も岩手県では、県と全自治体が提出・決議するなど地方自治体に広がっています。このとりくみに地域の団体と協力して運動し、あわせて2020年秋国連総会提出を最終目標としているヒバクシャ国際署名にひきつづきとりくみます。民医連の目標は250万筆で、7月31日現在72万筆の到達です。目標達成に向け6・9行動など継続したとりくみをしましょう。
被爆75年の今年、原水爆禁止世界大会は、コロナ禍のためオンラインでの開催となりました。8月2日の国際会議、6日広島デー、9日長崎デーが行われ、全国で1700人の職員・共同組織が視聴しました。また6日から9日まで世界中で平和の波が提起され、8日にオンライン「民医連平和の波交流会」を開催しました。韓国・緑色病院から動画メッセージ、学習講演、各地のとりくみなど多彩な企画で全県連600人以上が視聴参加しました。
7月29日、黒い雨訴訟で広島地裁は原告84人全員を被爆者と認め、「大雨地域」外も対象地域とし、内部被ばくにも言及する画期的な判決を出しました。しかし国は8月12日、「地域拡大も視野に入れ検証する」との条件を出し、県と市とともに控訴しました。
ビキニ労災訴訟裁判は、3月30日に労災認定と損失補償を求め高知地方裁判所に提訴しました。同日、ビキニ労災訴訟を支援する会が結成され、全国支援が呼びかけられました。全国でひきつづき支援をすすめていきましょう。
6月に行われた沖縄県議会議員選挙では、辺野古新基地建設に反対し玉城デニー知事をささえる議員が過半数以上の議席を占める結果となり、県民の基地建設反対の強い意思が再度示されました。しかし、安倍政権は、コロナ禍の20年4月には軟弱地盤改良のための設計変更申請を行い、県議選挙の直後から工事を再開するなど民意を無視しています。全日本民医連がこれまで第48次まで実施してきた辺野古支援・連帯行動はコロナの影響により20年度は開催を見送りましたが、21年5月から再開します。今期も多くの職員の参加で成功させましょう。
(8)「長丁場」を乗り越えていくための全国的な運営について
広域な移動を避けながら、全日本民医連の活動をすすめるために、全日本民医連の理事会機能として全国に団結して地協単位のとりくみをいっそう重視します。また、WEBによる会議、広報活動に積極的にとりくむため、広報部を確立し全日本民医連事務局のスキルアップにもとりくみます。全国理事会、各種委員会、全国的な集会は感染状況を踏まえながら具体化していきます。
(9)旧優生保護法へのとりくみ
6月25日、旧優生保護法(1948~96年)下で障害者らに不妊手術がくり返された問題で、医学系の学会でつくる日本医学会連合の旧法検証のための検討会が報告書を公表しました。医学・医療関係者が被害救済に向けてただちに行動を起こさなかったことへの「深い反省と被害者らへの心からのおわびの表明」などを提言しました。職員教育にも取り入れながら、全日本民医連としての見解の検討を継続していきます。
6月30日、旧優生保護法下で不妊手術を強制された東京都の男性が国を相手に損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地方裁判所は、原告の請求を棄却する不当判決を出しました。強制不妊手術を実施したことの違憲性、および国に損害賠償責任があることを認めましたが、不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する除斥期間が経過したとして、原告の損害賠償請求をいっさい認めませんでした。不妊手術の強制は国策による人権侵害にほかならず、機械的に除斥期間を適用し人権を否定することは断じて認められず、ひきつづき、裁判支援にとりくみます。
(10)2020年7月豪雨災害からの復興をめざして
7月4日に発生した7月豪雨災害は、死亡82人、行方不明4人、住宅被害は、熊本県で630棟の全壊をはじめ、35県で1万7795棟におよぶ甚大な被害となっています(8月7日現在)。
熊本民医連、福岡民医連、京都民医連で対策本部を設置し、地協、全日本民医連で連携し、被災状況の把握、被災地への支援にとりくんでいます。全国に義援金を呼びかけ、激励と連帯の行動をすすめています。発災直後、国に対して医療・介護費用の減免、保険証がない場合でも医療機関を保険診療できるように要請を行いました。
熊本民医連では、新型コロナウイルス感染症との複合災害のもと被災した民医連外の特別養護老人ホームからの支援要請を受け、看護支援にとりくんでいます。また大牟田では、大牟田市サービス事業者協議会の要請を受け介護事業所などへ、清掃などのボランティアに入っています。長期となる支援活動を連帯してとりくんでいきましょう。
第44回総会運動方針は、頻発する災害に備え、マニュアルの見直し、整備をすすめるうえで、各県連、事業所からMMATへの登録を呼びかけました。今後、研修などの具体化をすすめていきます。
(11)東京高裁「特別養護老人ホームあずみの里判決」、「乳腺外科医師えん罪事件判決」について
7月28日、東京高等裁判所は特養あずみの里の事件に対して有罪の一審判決をすべて覆す完全無罪の判決を出しました。8月11日には「判決内容を十分に検討したが、適法な上告理由が見いだせなかった」と検察は上告を断念、起訴も一審判決も全くの間違いであったと認めさせることができました。私たちは、入所者の存命中からずさんな捜査を行った長野県警捜査第1課、司法解剖がされていないにもかかわらず、県警の報告を鵜呑みにし「過失致死」で起訴した検察、2度の訴因変更を認め、明らかな事実誤認をもとに不当な有罪判決を言い渡した長野地裁松本支部に対し、あらためて強く抗議します。東京高裁の判決は、被告人とされた看護職員に過失はなかったことを明らかにするとともに、さらには介護施設での食事提供が利用者の人間らしく生きることをささえるかけがえのない意義を持つことまで言及しました。誤った一審判決により萎縮した全国の介護現場と関係者には安心と未来への希望を、利用者には生活の喜びを取り戻すものとなると確信します。
無罪を勝ちとるために昼夜をわかたず奮闘された弁護団をはじめ、支援していただいたすべてのみなさんに感謝いたします。
一方、7月13日、東京高等裁判所は、東京地裁で全面的な勝訴となっていた乳腺外科医師えん罪事件について有罪の不当判決を出しました。術後せん妄状態についての専門家の医学的判断、また地裁段階で、そのあまりにずさんな鑑定に対して信頼ができないとされた科捜研の鑑定資料を「信頼性が直ちに損なわれない」と地裁とは全く逆の判決を出しました。日本医師会会長は記者会見で「怒りに震える」判決と述べ、事実と科学を否定するものです。弁護団は最高裁に上告しました。全国からさらに大きな支援をつくり上げていきましょう。
おわりに
第44回総会は、2020年代の私たちの課題を、(1)平和、地球環境、人権を守る運動を現場から地域へ、そして世界に、(2)健康格差の克服に挑む医療・介護の創造と社会保障制度の改善、(3)生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系と方略づくり、(4)高い倫理観と変革の視点を養う職員育成の前進と提起しました。
こうした10年間の展望に立ち、この2年間のスローガンを、○綱領改定10年のあゆみを確信に、「医療・介護活動の2つの柱」を深化させ、医師確保と経営改善で必ず前進を、○共同組織とともに地域の福祉力を育み、人権としての社保運動を旺盛にすすめ、健康格差にタックルしよう、○共同の力で、安倍政権による9条改憲ストップ! 核兵器廃絶、地球環境保全運動の飛躍を、と呼びかけました。
総会後の新型コロナウイルス感染症へのとりくみの中で私たちが経験したことは、さまざまに、この方針の実践の重要性を浮き彫りとしています。第2回評議員会へ向け、より全面的な実践をはかれるよう奮闘していきましょう。
また、県連により、大きな困難を抱えたところもあり状況は異なります。しかし民医連綱領、総会運動方針の実践では同じ役割があります。困難が大きな県連・事業所をささえましょう。そのために地協があり、全日本民医連があります。
共同組織とともに、たくさんの患者・利用者・地域住民が民医連を待っています。必ず、職員と事業所、日本の医療と介護を共同組織、国民とともに心ひとつに守り抜き、時代を切り開いていきましょう。
以 上