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ニュース・プレスリリース

【会長声明2019.04.24】「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律案」成立に際して

2019年4月24日
全日本民主医療機関連合会 会長 藤末 衛

 4月24日、参院本会議において、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律案」(以下「一時金支給法」案)が全会一致で可決・成立した。
 2018年1月に宮城県在住の女性が起こした国家賠償請求訴訟を機に、「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とした旧優生保護法のもとで2万5000件に及ぶ強制不妊手術が実施されていたことが明らかになり、こうした経過の中で、与党ワーキングチーム、超党派議員連盟プロジェクトチームが設置され、今回の法案が準備された。「これ以上、被害者を苦しめ続けてはならない」と、国会議員が主導して被害者救済に向けた法律の検討が進められてきたことに敬意を表するものである。
 しかし、この「一時金支給法」は旧優生保護法の違憲性を明記しておらず、また、同法の制定や運用に対する責任の主体が「我々」という曖昧な表現にとどまっており、到底納得しうるものではない。さらに、救済の対象に家族はふくめない、被害の認定は手術を推進した厚労省(旧厚生省)が実施する、法律の周知は個々の被害者に対して直接行うことはしないともされており、これらの内容は、国の責任と違法性を明らかにし、実効性のある手続き・補償内容を盛り込んだ法律の制定を強く求めていた被害者当事者、家族・保護者の願いと大きく乖離している。被害者に支払う一時金については一人320万円とされているが、子どもを産む権利を奪われ、個人としての尊厳を傷つけられた人たちに向き合う額としてはあまりにも低いと言わざるを得ない。また、旧優生保護法制定の経緯や被害に対する調査を実施し、報告書をとりまとめる方向が示されたことは注目されるが、調査機関の権限規定が置かれておらず、十分な検証が行われるのかは不透明である。
 5月には仙台地裁において国会賠償請求訴訟初の判決が予定されている。判決の内容もふまえ、以下の点について同法の再検討・改正を行うことを重ねて求める。

1.旧優生保護法の違憲性を明記するとともに、同法を制定し、問題が指摘されていたにも関わらず運用を続け、「改正」後においても救済策を講じてこなかった国の責任を明らかにすること
2.救済の対象者として、被害者本人に加えて配偶者もふくめること
3.救済法の周知について、被害者の多くが認知や判断能力にハンディがある知的障害者であり、当時の事情を知る親族がいないケースも増えていることから、被害者の人権・プライバシーに十分配慮した上で、本人に直接通知することを原則とし、必要な対応を行うこと
4.被害の認定について、厚生労働省内の機関ではなく、独立した第三者委員会を設置し行うこと
5.基本的人権の尊重を謳った日本国憲法のもとで、なぜ旧優生保護法が制定され、その後政府内で見直しを求める意見や国連機関からの批判があったにも関わらず運用が続けられ、さらに廃止後も長年にわたって被害者の救済が放置されてきたのか、国の機関から独立した第三者機関による検証を行うこと

 旧優生保護法は、憲法で保障された個人の尊厳、自己決定権を否定し、「子どもを産み、育てる」という人間としての当然の権利を剥奪する、きわめて重大な人権侵害を引き起こした。「一時金支給法」という形で救済法が成立はしたが、被害者の真の救済、旧優生保護法に対する本格的な検証に向けた取り組みはようやく出発点に立ったにすぎない。医療界・医療者においてもこの問題を真摯に検証し、二度とこうした事態が繰り返されることがないよう教訓を明らかにすることが求められている。私たち民医連は、被害を受けた方々の尊厳回復に向けて、政府に対し「一時金支給法」の抜本的な改正を求めるとともに、現在各地で闘われている国家賠償請求訴訟への支援を進めていく決意である。同時に、旧優生保護法に関わる検証作業に取り組み、尊厳と多様性が尊重される社会、障がいをもっても生きやすい社会の実現に向けて、引き続き力を尽くしていきたい。

以 上

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