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ニュース・プレスリリース

全日本民医連第43回定期総会 運動方針

第43回総会スローガン

○憲法をまもり生かす国民的運動に参加し、人権、民主主義が輝く平和な未来を切り拓こう
○社会保障の営利・市場化に反対し、共同組織とともに、住民本位の地方自治の発展、安心して住み続けられるまちづくりを進めよう
○「医療・介護活動の2つの柱」を旺盛に実践し、経営、職員の確保と育成、運動との好循環を創り出そう

 

【 目 次 】

はじめに

第1章 世界と日本の変化を確信に、時代をいかに切り拓くか

第2章 安倍政権の5年間、私たちをとりまく情勢の特徴
 第1節 安倍政権の暴走と深まる国民との矛盾
 第2節 貧困と格差の深刻化と超高齢化、人口減少社会の中での私たちの役割

第3章 42期回総会方針に照らしての活動の特徴とまとめ
 第1節 憲法をまもり、平和と権利としての社会保障を守る運動の到達
 第2節 震災からの復興支援、福島連帯支援・原発事故対策の到達
 第3節 医療・介護活動の新しい2つの柱への確信と活発な議論・実践
 第4節 経営分野の到達
 第5節 共同組織の活動
 第6節 民医連運動を担う医師の確保と養成
 第7節 職員の確保と養成、各職種の活動の到達
 第8節 全日本民医連の活動

第4章 43期の活動方針
 第1節 憲法をまもり、生かし、平和な日本と北 東アジアを
 第2節 いのちと人権を守り抜く運動、原発ゼロへ向けて
 第3節 「医療・介護活動の2つの柱」をさらに前進させ、地域包括ケア時代に民医連の新たな発展期を築こう
 第4節 共同組織とともに、安心して住み続けられるまちづくりの本格的な運動を
 第5節 経営困難を突破し、民医連の経営基盤を強化するために
 第6節 医師養成新時代、民医連の医師養成・医学生対策のさらなる前進をつくり出そう
 第7節 民医連運動を担う職員養成の抜本的強化
 第8節 全日本民医連・地協結集、県連強化へ向けて

おわりに

■本文中の(※)については用語解説を載せています

はじめに

 第43回総会は、国内で安倍政権が改憲発議をめざし、本格的に戦争する国づくりを完成させようとしている中、市民と野党の共同は分断されることなく前進し、憲法と平和、国のあり方を巡り、新たな段階で正面からぶつかり合う時代に開かれました。国際的にも、核兵器禁止条約の国連採択という歴史的快挙が達成されました。
 国内でも世界でも、政治を動かし、平和と人権が大切にされる、よりよい社会を作り上げていく力は、一人ひとりの市民であることが明確になりました。
 この2年間、私たちは第42回総会方針・3つのスローガンにもとづき、いのち、憲法、綱領の視点からぶれずに、架け橋として総がかり行動実行委員会、安倍9条改憲NO!全国市民アクション実行委員会(※注)、医療と介護を守る運動の重要な一員として、全国で、地域で大いに奮闘してきました。
 現在の民医連綱領確定から9年目を迎えました。民医連綱領を改定し、架け橋として共同と連携を広げるなど運動をすすめてきた世代が、交代の時期を迎えています。次の世代に、確実にバトンを引き継ぎ、共同組織の仲間と力を合わせ、より広範な連帯で平和と憲法を守り抜き、貧困と格差・超高齢社会に真正面から向き合う日常の医療・介護の実践、権利としての社会保障の確立をめざし奮闘することが求められます。
 今総会は、今日の情勢、時代認識を深め、民医連運動の役割と課題を鮮明にし、42期の活動の総括と、43期、今後2年間の活動方針とその実践の先頭に立つ、43期役員を選出、予算を決定しました。
 全日本民医連理事会は、43回総会運動方針をすべての県連・法人・事業所が、学習し、実践していくことを呼びかけます。

第1章 世界と日本の変化を確信に、時代をいかに切り拓くか

 前総会から2年、人類が核兵器廃絶に向かう画期として核兵器禁止条約が国連で採択され、経済グローバリズム(※注)と新自由主義(※注)がもたらした貧困と格差に立ち向かう世界各地の市民運動の高揚や政治変革が模索されています。日本では、戦争法の廃止と立憲主義(※注)の回復を旗印に、戦後初めて市民と野党による選挙共闘が成立しました。平和と人権を実現する運動は、紆余曲折を経ながらも着実に世界と日本を変えています。

(1)核兵器廃絶への巨大な一歩と民医連
 2017年7月7日、歴史上初めて核兵器に悪の烙印を押し、核兵器を違法化し、核抑止力論を全面的に否定する「核兵器禁止条約」が122カ国の賛成により採択されました。長年の核兵器のない世界を求める世界的な運動の成果であり、歴史的画期的な快挙です。
 広島、長崎の被爆から72年、「かくて私たちは自らを救うとともに、私たちの体験をとおして人類の危機を救おうという決意を誓い合ったのであります」という日本被団協結成大会宣言から61年、被爆者の真実と訴え、そして被爆国の市民の運動が世界の市民と平和を願う国々に届き、この巨大な変化を生み出しました。
 一方、これによる政治的、道義的拘束をよしとしない核武装国は反対し、唯一の被爆国である日本の政府も追随しましたが、核兵器廃絶を願う世界の流れを止めることはできませんでした。日本政府の態度は許しがたく、世界に大きな失望を与えています。
 戦後、日本を占領したアメリカは、被爆の被害を隠すため、日本の医師・医学者独自の調査研究を禁止し、被爆者の検査・治療データを独占しました。被爆し、その治療や生活も補償されず、家族までも偏見と差別の中に置かれるという三重苦に被爆者はさいなまれたのです。
 暗中模索の中、各地の民主診療所は、1953年に全日本民医連が結成される以前から、苦しみの中にあった被爆者に寄り添い、人権を守る医療に全力をあげながら、医療従事者自らの課題として核兵器廃絶の運動にとりくんできました。
 1967年の第1回被爆者医療研究集会では、「被爆者の立場に立って、病態を追求し、治療法を探求、確立していくこと」、そして「この医療活動を通じて核兵器の完全禁止、核戦争阻止、被爆者救済の運動に貢献していく」という基本姿勢を確認し、今日まで地道に健診や治療、支援活動を続けてきました。
 この歩みは、人権としての被爆者医療の実践を通じて民医連医療の理念を創る重要な過程でもありました。核兵器禁止条約の実現に最も尽力したのは被爆者であり、その人びとの治療と支援を共同の営みとして実践し、共に核兵器廃絶の運動をすすめてきた私たちの活動に誇りと確信を持ちたいと思います。また、反核医師の会(※注)と共同して運動をすすめてきた「ICAN」がノーベル平和賞を受賞したことも私たちの誇りです。

(2)新自由主義、グローバル資本主義の暴走と対抗
 最大利潤を求めて世界中を駆け巡る多国籍企業や国際金融資本の横暴は、世界各地で貧困と格差の拡大をもたらし、ついに2008年の国際金融危機(※注)に至りました。これに対して、各国やEUによる新自由主義的緊縮政策(※注)が行われる中、これらに反対する新しい市民運動と結びついた注目すべき政治状況が生まれました。ヨーロッパでは、緊縮政策に反対する市民運動と結びついた政党が躍進し、ギリシャやポルトガルでは新政権が生まれました。「人口の1%の最富裕層のための政治でなく、99%のための政治」を主張し、国民皆保険制度の実現など掲げたアメリカのサンダース現象(※注)、韓国では、大統領を弾劾にまで追い込んだろうそく革命が起こりました。同時に、深刻な雇用・生活破壊の改善を求める声は、反緊縮を打ち出せない既成政党への失望や、自国民ファーストを掲げ、雇用・福祉で移民を差別する極右勢力への支持にもつながりました。
 世界的な平均気温上昇を抑えるパリ協定の実際のルールづくり(2018年採択予定)のためのCOP23が開催されて各国の努力がなされているものの、トランプ政権による離脱宣言や先進国と途上国の深刻な対立などの困難を抱えています。また、グローバリズムの中で利益最優先のコストカットをすすめてきた大企業の組織的なルール無視の不正行為があい次いで発覚し、日本のものづくりが揺らぎ、世界的に信頼を失いました。
 今、世界は、緊縮政策、新自由主義政策の継続か転換かが問われる歴史的な岐路にあります。

(3)2回の国政選挙結果と憲法の未来
 2016年参議院選挙では、32のすべての一人区で市民と野党の共闘が実現し、野党は改選前の2議席から11議席と前進、新潟県知事選挙、仙台市長選挙でも野党共闘が勝利を重ねてきました。民進党が分解した2017衆議院選挙では2015年の安保法制=戦争法に反対するかつてない市民運動で湧き上がった「野党は共闘」の流れと参院選の経験と蓄積の上で市民が野党共闘を粘り強く追求、野党三党(立憲民主党、共産党、社民党)が安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合と7項目に及ぶ政策合意(※注)を結び、改選前の38議席から69議席に増加しました。また、無所属の候補者にも野党共闘を支持し、進める議員が生まれました。立憲民主党が野党第一党となったことで、野党は「憲法を守る」立場で一定の地歩を築きました。国会で改憲をめざす勢力が3分の2を占めていますが、改憲勢力に対抗し乗り越えていく確かな力である「市民と野党の共闘」が力強く前進した2年間でした。
 国会軽視、加計、森友問題など国政の私物化に対する国民の批判は大きく、主要な政策への支持も、「安倍首相のもとで憲法改正に賛成36.6%、反対54.8%」、「全原発の即時停止賛成49.0%、反対42.6%」、「高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ法案)賛成25.4%、反対54.9%」(18年1月共同通信調査)など多数ではありません。どの調査でも国民の期待の第一は、社会保障の充実であり、この間の社会保障削減を「成果」と呼ぶ安倍内閣との矛盾は深まらざるを得ません。
 2017年6月の国連の会議で被爆者和田征子さんは「核兵器を作ったのは、人間です。そして使ったのも人間です。そうであれば、なくすことができるのも人間です。私は皆さんに呼びかけます。すべての核兵器を禁止し廃絶しましょう」と訴えました。国民一人ひとりが、憲法9条、25条、13条を掲げて主権者として立ち上がり、当事者として「東アジアにも世界にも核兵器と戦争はいらない」、「社会保障の充実を」の声を上げ、野党をまとめて政府に迫る、世界に発信し連帯する運動にこそ未来があります。

第2章 安倍政権の5年間、私たちをとりまく情勢の特徴

第1節 安倍政権の暴走と深まる国民との矛盾

(1)9条改憲と戦争の現実的危機を招く安倍暴走政治
 2017年5月3日、安倍首相は「憲法9条の1項、2項には手をつけず、自衛隊を明記する条文を追加し、2020年を新しい憲法の施行の年としたい」とのべました。2012年12月の安倍政権発足以来行ってきた立憲主義破壊の政治の上に、仕上げとして9条改憲を強行し、海外で戦争する国づくりをめざしています(A)。2017年総選挙の自民党の主要政策にこの改定案を明示、衆参両院に改憲を志向する議員が3分の2以上を占める中、昨年の12月20日には、自民党憲法改正推進本部が、「1項、2項を維持したうえで自衛隊を憲法に明記するにとどめる」「2項を削除して自衛隊の目的・性格を明確化する改正を行う」という2案を提示しました。しかし、両案とも憲法の平和主義を否定するものであり、認められるものではありません。通常国会中に憲法審査会の審議開始、2018年中に改憲発議、国民投票の実施を狙っています。

 9条に自衛隊の存在を明記するという今回の案は、単に自衛隊の存在を憲法で認めるという単純なものではありません。第一に現在の自衛隊は、すでに安保法制=戦争法の成立と施行で、それ以前の「専守防衛」から海外で集団的自衛権を行使できる実力組織(※注)となっており、この自衛隊を憲法9条に明記することは、制限なく武力を行使する自衛隊を合憲化することになります。
 第二に、それにより日本国憲法の「武力によらない平和の実現」という平和主義は壊され、安保法制=戦争法を合憲化し、「武力による平和」をめざす国に転換するものです。すなわち、現在の憲法と全く違う別の新しい憲法を制定することにほかなりません。また、新法は旧法に優先するという法律の原則からも今回の改憲は9条の1項、2項が守り抜いてきた非戦、平和主義を無効とするものです。
 2015年の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の改定(※注)、安保法制=戦争法の成立・施行により、辺野古新基地建設の強行、日本各地で米軍基地の強化と自衛隊との合同訓練などが急速に拡大しています。すでに、民間船舶の乗務員を予備自衛官として登録する、戦闘地域で任務に就く看護師の教育、研修の実施などもすすめられています。軍備の面でも、トランプ政権の武器購入圧力を受け入れ、北朝鮮の核・ミサイル開発を口実に、新たな地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」2基、長距離巡航ミサイルの導入を閣議決定し、敵基地攻撃能力保有へ道を開いています。日米新ガイドラインでは、朝鮮半島で戦闘が起こった場合には、米軍でなく日本と韓国が防衛する役割となっており、安倍改憲を止めることは日本がアジアで行う戦争を止めることと一体です。

(2)安倍政権による新自由主義政策としての社会保障解体の特徴
 「自然増削減」をくり返している安倍政権のもとで、GDP比に占める社会保障支出の割合が3年連続で減少しています。高齢化率を加味すれば、先進国の中で決して高いレベルとは言えない社会保障財政の緊縮政策をすすめ、医療崩壊を日本中で起こした小泉政権時にもなかった異常な事態です(B)。

 審議中の2018年度予算案でも社会保障費は、高齢化に伴う自然増を約1340億円圧縮し、財政再建計画で「目安」とされた5000億円以内に抑制、診療報酬は、マイナス1.19%(本体部分プラス0.55%、薬価マイナス1.65%)で大幅な引き下げ案です。介護報酬はプラス0.54%ですが、介護事業所の倒産件数が過去最多となるなど前回のマイナス4.48%の改定がもたらした深刻な影響と困難を打開する水準ではありません。また、生活保護費を生活困窮者の生活費と比較し160億円の削減が予算案に計上されています。生活保護受給者の7割に影響を与え、一層の格差と貧困を拡大するものです。
 この予算案において、政府が提案している「全世代型社会保障」とは、社会保障給付を若い世代にシフトすることを口実に、消費税増税と高齢者の医療・介護・福祉を削減することです。そのため、少子高齢化の対策として1億総活躍プランの基本方針を閣議決定しましたが、社会保障給付の充実は一切入っておらず、新自由主義の生存競争に高齢者も含めすべてが参加せよというものです。安倍政権の社会保障解体の特徴は、従来とは異なり、第一に、国家財政と企業の社会保障に係る費用負担を軽減すること、そのために財源を消費税に限定し、「共助」を強調し、国民負担を大幅に増大させること。第二に、公的に保障する医療や介護を営利化・産業化して成長戦略にくみこんで民間投資の活性化につなげようとしていること。そして第三に、「地域共生社会」を打ち出し、新自由主義改革・グローバル競争対応の地域開発と社会保障に対する公的責任を放棄し、その権利性を否定、地域の疲弊に対し住民自身の対応策を強制していることです。

①大幅な国民負担増と給付抑制の進行
 2018年度は、2012年の社会保障制度改革推進法から、15年の医療介護確保推進法、17年の地域包括ケアシステム強化のための介護保険法の一部を改正する法律まで具体化されてきた改悪が本格的に始動します(C)。

 2018年4月から国民健康保険の財政運営主体を都道府県に移管し、市町村とともに国保の管理・運営を行うことになります。都道府県が医療費の見込みを立てて市町村の国保事業費納付金を決定し、全国ルールの算定方式に基づいて市町村ごとの標準保険料率(※注)を算定・公表します。市町村はその標準保険料率等をもとに保険料率を決め、保険料を賦課・徴収して都道府県に納付金を納める仕組みになります。国は、都道府県に国保の財政運営責任を移管することで、市町村から100%納付を義務づけて徴収する役目を負わせます。標準保険料率とこれまでの市町村独自の軽減策等が継続できない場合、国保料はさらに値上げされ、徴収強化も懸念されます。
 「経済・財政再生計画」の改革工程表2017改定版では、2018年度は医療・介護におけるインセンティブ改革を実施し、外来医療費の地域差是正とともに、地域医療構想(※注)による縮減効果を明らかにして、入院医療費の地域差半減もすすめる計画です。十分な地域差の縮減を図ることができない場合、高齢者の医療の確保に関する法律14条(診療報酬の特例)の発動で、都道府県ごとの診療報酬単価に差をつけることも狙われています。
 次期「地域医療計画」に盛り込まれる「地域医療構想」では、全国推計で現在の約135万床の一般・療養病床が115~119万床に減らされて、県によっては3割超の病床が削減されようとしています(D)。

 2017年5月、介護保険法「改正」が31本の法案をひとつに束ねた一括法(地域包括ケアシステム強化法)として成立し、利用料3割化をはじめ新たな負担増と給付削減を利用者・高齢者に押しつける内容が盛り込まれました。特に「自立支援」に成果を上げた市町村への財政支援(インセンティブ改革)は「自立」(=卒業)を競わせるしくみづくりであり、事業所には新たに「自立支援介護」を求めています。政府が掲げる「自立」が、必要なサービスを利用することでその人らしい生活を送るという本来の自立ではなく、介護保険の利用から外すことを意味するものであることをいっそう鮮明にしました。新たに制度化される「共生型サービス」は、介護保険・障害福祉サービスの一体化・効率化をはかると同時に、2つの制度の将来的な「統合」を方向づけたものです。さらに要介護2以下のサービスを総合事業に移すなどを次期改革の検討課題として明記しました。

②社会保障、医療・介護の営利化・産業化
 安倍政権の発足後、毎年出される「骨太方針」から「社会保障の機能強化」の言葉が消え、社会保障は、費用削減の文脈でのみ書かれるようになりました。とりわけ、2015年の骨太方針は、社会保障を「経済・財政再生計画」に位置付け、第一の柱に「公的サービスの産業化」をあげ、社会保障も福祉サービスも含めると明示しました。「改革工程表」では、「民間事業者を活用した地域包括ケアをささえる生活関連サービスの供給促進」などを課題としてあげています。経済成長と「世界一ビジネスしやすい環境づくり」をめざし、社会保障改革と成長戦略を一体のものとして推進しているのが安倍政権です。
 公的給付を「自助・互助」に置き換え、企業が提供するサービスに移し替えていくと同時に、社会保障そのものを経済成長に役立つ内容につくりかえる動きが強まっています。成長戦略の基本方針の未来投資戦略では、医療・介護・予防・健康づくりを需要の創出=ビジネスチャンスに徹底して活用する方向が盛り込まれています。営利企業の参入を容易にするために、一部の自治体から開始して全国に普及・拡大していく「国家戦略特区」を活用し、規制緩和をすすめるなどの動きもみられます。
 こうした中、介護分野での営利化・産業化の動きが加速しています。厚労省・農水省・経産省3省が共同で介護保険外サービスの冊子を作成し、家事代行や見守りのほか「オーダーメイド型訪問看護」を提供する企業を紹介するなど、保険外サービスの本格的な開発・普及が開始されています。それに呼応するかたちで同居家族の食事提供やヘルパー指名料の導入などを可能とする「混合介護の弾力化」が提案されており、東京都・豊島区が混合介護を「選択的介護」と言い換え、国家戦略特区を申請してモデル事業を開始するなど、政府の政策を先取りする動きもみられます。「自立支援介護」がそもそも未来投資戦略の中で打ち出されたことも見逃せません。「卒業」(自立)によって給付費を削減し、「卒業」後は健康産業やシルバービジネスを受け皿にしていくという方向は、社会保障改革と成長戦略を一体的にすすめる政府の改革の本質をよく示しています。

③政府のすすめる「我が事・丸ごと地域共生社会」とは何か
 安倍政権は、2017年4月に、社会福祉法を「改正」、地域で発生する困難に対し、地域住民が「地域の問題を把握し、関係機関と連携して問題解決を図るよう」明記し、公的責任を放棄しました。また、地域包括ケアの上位概念として「我が事・丸ごと地域共生社会」を位置づけ、自助、互助を高齢者だけではなく、子ども、障害者、生活困窮者などに対象を拡大し、「新自由主義的改革」に適応した地域づくりまで提案しました。
 「我が事・丸ごと地域共生社会」とは、地域の住民一人ひとりが、地域で生じているあらゆる他人の生活課題(高齢者・障がい者のケア、子育て、生活困窮など)も自らの問題(我が事)としてとらえ、介護・福祉制度は統合・合理化(丸ごと)し、住民の集団的な責任で生活困難に対応させようとするものです。我が事・丸ごとの強調は、地域の互助強化であって「共生社会」の未来は描けず、結局は憲法13条、25条の言う人権としての社会保障を縮小・解体に導くものです。

(3)原発再稼働、 原発ゼロをめぐって
①原発再稼働を推しすすめる異常な安倍政権

 国民の6割が原発に反対する中、安倍政権は「エネルギー基本計画」(2014年4月閣議決定)にしがみつき2030年時点の原発の電源構成比を20~22%にするため、原発周辺自治体への交付金を増やし、全原発の再稼働、老朽化し廃炉となる原発に代わる新規建設まで議論しています。福島第一原発事故の解決のめどもなく、何万人ものふるさとを奪い、被害がより深刻となる中、この政権の姿勢は異常です。
現在稼働しているのは川内原発一・二号機、高浜原発三・四号機、伊方原発三号機です。さらに大飯原発三・四号機、玄海原発三・四号機が再稼働の準備に入っています(E)。しかし、原子力規制委員長は、規制基準を満たした原発でも「絶対に安全であることを意味しない」とのべ、安全の確認ではないことを認めています。

 東京電力福島第一原発事故の賠償や除染、廃炉などの事故対策の費用の規模が、11兆円から21.5兆円に拡大しています。その費用負担を原発による電力を使用していない新電力にも求め、電気代として国民から徴収する法律が国会で可決されました。安易な国民への負担転嫁ではなく、東電の責任を明確にして、国と東電で必要な資金を確保する原則を確立すべきです。

②原発ゼロに向けた新たな情勢
 2017年12月3日、伊方原発三号機の運転差し止めを求めた仮処分の即時抗告審で広島高裁は、住民の申し立てを認め、運転を差し止める決定をしました。高等裁判所として初の差し止め判断です。地震動に対する安全性についての楽観的な判断など問題もありますが、火山(阿蘇山)の噴火に対して全面的に伊方原発が安全性を有していないとの判断は画期的で、全国の原発にも当てはまる問題です。
 東京電力・柏崎刈羽原発の再稼働が大争点となった2016年10月の新潟県知事選で、再稼働反対を訴えた候補が当選し、総選挙でも小選挙区で再稼働反対を公約した市民と野党の共闘候補が多数、当選しました。
 総選挙では、立憲民主党、共産党、社民党、無所属の野党共闘候補と市民連合が「福島第一原発事故の検証のないままの原発再稼働を認めず、新しい日本のエネルギー政策の確立と地域社会再生により、原発ゼロ実現を目指すこと」で合意し、野党共闘の共通の政策となりました。1月10日には、原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟が「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案骨子」を発表し、野党も連携して通常国会への提出をめざしています。

第2節 貧困と格差の深刻化と超高齢化、人口減少社会の中での私たちの役割

(1)2000万を越える人々が貧困に暮らす日本、 格差と貧困・困窮の一層の広がりと深まり
①経済的困難の実相と格差の広がり

 政府は「子どもの貧困率の改善」を対策の成果としてのべていますが、安倍政権の5年間、実質賃金は低下し、消費支出は減少、貧困は改善しておらず、深刻度は増しています。将来にわたり現在の緊縮政策が続けば、子ども、現役世代、高齢者の全世代に広がっている貧困は改善せず、国民の困窮は固定化します。
 2015年の厚生労働省国民生活基礎調査では、相対的貧困率(※注)は15.6%、少なくとも約2000万人が貧困状態にあり、OECD35カ国中ワースト7位です。また、この間可処分所得が低下しており、生活保護水準以下の所得で暮らしている世帯が増加しています。一人暮らしの場合でみると、16.1%の国民が年収約120万円以下、月収約10万円以下で暮らしています。
 2016年の国民生活基礎調査では、一世帯あたりの平均年間所得は545.8万円ですが、平均以下の世帯が61.4%を占め、そのうち年間所得200~300万円以下世帯が最も多いのが現実です(F)。

 その大きな要因である非正規雇用の比率は約37%で、恒常化しています。団塊ジュニアと言われる現在の40歳代を中心に、年金の掛け金が払えず、無年金となる国民が増加、無貯蓄世帯も広がっており、このままでは20年後には困窮する高齢者が今以上に急増します。
 働いている女性の平均年間所得は272万円、平均所得以下の世帯が70%、とりわけ母子世帯は270.3万円(2016年国民生活基礎調査)でOECD諸国最下位の水準であり、日本の母子世帯の貧困率は50%を超えています。また、2017年2月、世界経済フォーラム(WEF)が発表した「男女平等ランキング」では、144カ国中、114位です。
 生活保護受給世帯数は、毎年、過去最多を更新し16年度は月平均163万7000世帯、約214万人に上りました。そのうち、無年金・低年金の影響で65歳以上の高齢世帯が半数を超え、9割が独り暮らしです。
 65歳以上の高齢者のいる世帯では、生活保護基準もしくはそれ以下の世帯が617万世帯、791万人、高齢者世帯の26.2%を占めており(2014年)、2009年以降5年間で120万世帯、150万人も増加していますが、生活保護を受給している世帯は17.0%にとどまっています。住まいの問題、本人・家族の病気や障害、他の支援者の有無や近隣との関係などにかかわって生活上の困難が何層にも重なり、それが世帯全体の問題として立ち現れるケースも急増し困難の複合化・世帯化が広がっています。
 非正規雇用がまん延する若者の中で、市民運動エキタス(※注)によれば、時給1500円が実現したら「診察に行きたい」「歯科の治療を受けたい」などまともに医療を受けたいという要求が上位となっています。国民健康保険料の資格証明書世帯は21万世帯など、医療・介護にアクセスできない層が急増しています。窓口一部負担金に苦しみ、無料低額診療事業を利用する人は2015年でのべ約780万人となっています。私たちがとりくんでいる「経済的事由による手遅れ死亡事例」「介護困難800事例」など深刻な事態は氷山の一角と言えるのではないでしょうか。
 今日の日本の貧困は、所得額のみに注目するのではなく、トリプルワークや過重労働、教育格差、孤立、住宅喪失、社会的排除などの生活の場や労働環境まで含めて貧困と捉える視点が重要です。その中から権利としての社会保障のさまざまな課題が見えてきます。貧困は決して自己責任ではありません。
 一方、富裕層はこの間一層増加し、格差は拡大の一方です。100万ドル(1億1000万円)以上の金融資産を持つ日本人は283万人で世界第2位となりました(1位アメリカ)。国内1の金融資産を持つ富裕者は総資産2兆2644億円、上位40人の総資産の合計は、下位50%の国民の総資産額に匹敵しています。株の配当は年間数十億円あっても課税はわずか20%です。

②貧困と健康格差に立ち向かい、基本的人権としての健康権をいかに守るか
 貧困と所得格差は、「低所得の人の死亡率は、高所得の人のおよそ3倍」など放置できない深刻な健康格差を拡大しています。深刻な健康格差は、基本的人権としての国民の健康権を脅かし、さらにあい次ぐ負担増など制度改悪が追い打ちをかけています。
 民医連は、生活と労働の場で疾病を捉える医療観を重視し、健康の社会的決定要因(SDH=※注)という概念が普及する前から、社会・経済的状況が患者・利用者の健康に影響することを現場の実践から学び取ってきました。診療の場面では、病気の治療とともに社会的な援助も行い、社会・政治を運動の力で変える社会保障運動にとりくみ、健康格差、いのちの格差をなくすために努力してきました。
 私たちは、医療・介護の専門家として貧困を病態、健康のリスクとして捉えるなどSDHのエビデンスを活用し、「社会的処方」(※注)を含めた社会的支援につなげていくことが一層求められています。
 また、社会の仕組みを改善し、社会保障制度を拡充させる中でしか貧困は解決しません。不公平な税制や最低時給1500円、8時間働けば普通に暮らせる社会をなどの運動とも連帯し運動を広げ、健康権を守っていきましょう。

(2)超高齢社会・人口減少社会の中での私たちの役割
 2017年4月、国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」で日本は、2008年のピーク時1億2800万人から減少に転じ、50年後には8808万人、100年後は4286万人程度にまで減少すると推計されています。すでに2015年の国勢調査では日本の総人口は初めて減少しました。日本は21世紀、世界1の人口減少率の国と試算されています。
 急激な人口減少がすすむ一方、高齢者人口は増加し、2060年以後、高齢化率は40%前後で推移し、中学生以下の年少人口比率は現在の13%から8%まで低下する推計です。
 今後の少子高齢化・人口減少は、国策による少子化対策が成功して減少が緩和されても解消できないことは明らかです。東京を中心とする首都圏や大阪など大都市で大幅な高齢者人口が増加し、また、ひとり暮らし高齢者の出現率(高齢者世帯中の単身高齢者の割合)は、全国平均27.3%に対し東京35.8%、大阪34.0%(2015年国勢調査より)と年々増加しており、巨大団地の超高齢化、独居高齢者の急増、孤独死の増加などに対しての支援や介護サービスの不足などに直面しています。地方では65歳以上の高齢者が半数を超える限界集落の増加、産業の縮小や生活インフラの維持困難など、コミュニティーそのものの維持が危うくなるところも出てくるでしょう。
 これらに関連する安倍政権の政策の柱は、東京圏への一極集中や地方での都市機能の集約化を進行させ、首都圏だけ人口減少率を5%にとどめようとしているため、地方では人口が4割減の予測もされるなど、地方での極端な人口減少が生み出されようとしています。こうした中、北海道ではJRが全路線の半分しか維持できないと発表し、通勤、通学ができない、医療機関にかかれないなど住民の足を奪い、地域社会の崩壊を招く深刻な事態も生まれようとしています。
 人口減少を理由に、自治体の整理や合理化を狙う動きもあり、憲法にうたわれる地方自治の本旨に基づく行政の姿勢が問われる事態です。
 このような人口変動は大きな地域差があり、各地域の動向を県連・法人・事業所が把握し、安心して住み続けられるまちづくりの政策を地域住民とともに作り出していくことが必要です。

第3章 42回総会方針に照らしての活動の特徴とまとめ

 この2年間、民医連綱領と42回総会方針を具体化し、「運動は総がかりで、事業は積極的な連携で、職員育成は民医連らしい事業と運動から」という立場で奮闘してきました。特に、平和と人権、社会保障を守る国民的共同の発展のために、それぞれの地域で大きな役割を果たしてきました。
 また、医療・介護活動の新しい2つの柱を提起し、その実践を日常の医療・介護活動の基本に据えたとりくみが前進してきました。患者、利用者、地域の人々の健康権の実現をめざし、現場で起こっているさまざまな困難や問題点をまとめ社会的に発信してきました。運動面でも、医療・介護実践でも民医連への国民からの期待と信頼が一段と高まっています。

〈医療・介護活動の2つの柱〉
 第1の柱‥「貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別・平等の医療・介護の実践」
 第2の柱‥「安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」

 後継者対策では、2年間で、新たに288人の医学部奨学生を生み出し、総数で120人増になりました。新卒看護師も6年連続で1000人以上の受け入れを実現しています。自分たちの力で後継者を確保し育てていくことこそ私たちの運動が未来につながる保障です。
 社会保障解体、社会保障の自然増さえ削減する緊縮政策を推しすすめる安倍政権のもと、公的病院の6割が赤字経営に陥るなど、日本の医療機関・介護施設の経営が危機に直面しています。民医連経営もこれまでにない困難な状況が続いています。英知を集め、たたかいをすすめ、経営改善をすすめる必要があります。

第1節 憲法をまもり、平和と権利としての社会保障を守る運動の到達

(1)安倍9条改憲ストップ、 憲法をまもる運動
 安倍首相の9条改憲発言を受け、全日本民医連は2017年6月、改憲を許さない行動を呼びかける理事会アピールを発信し、第3回評議員会方針で、民医連綱領に「憲法をまもり生かす」ことを掲げ日々実践している組織として、必ず憲法9条を守ろうと提起しました。全国の事業所で、さまざまな街頭宣伝、署名、スタンディング行動、職場宣言づくりなどがとりくまれています。
 9月には「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」が結成され、各県、地域でも新しい共同を作るためのとりくみが始まり、民医連の事業所、共同組織がそれらの重要な一員として奮闘しています。11月3日には国会周辺での4万人集会をはじめ、全国各地で集会やパレードが行われました。
 「安倍9条改憲NO! 憲法を生かす全国統一署名」が、戦後の最大規模の署名運動として2018年5月3日までに3000万の目標でスタートしています。民医連は理事会として300万の目標を決定し、2017年12月末現在9万7896となっています。

(2)沖縄辺野古新基地建設反対、核兵器廃絶をめざして
 沖縄では、41回総会直前の名護市長選挙での稲嶺市長再選、2014年11月の翁長県知事の誕生、2回の総選挙でのオール沖縄候補の圧勝など、辺野古新基地建設中止の民意がくり返し示されました。しかし辺野古では、民意を無視して新基地建設工事が強行されています。辺野古新基地建設反対のたたかいは、沖縄県民の人権を侵害し、憲法にもとづく民主主義も地方自治も破壊しようとする安倍政権が振りかざす権力とのたたかいです(G)。

 全国の民医連は全力でこの沖縄のたたかいにとりくんできました。辺野古支援・連帯行動を第37次から第42次の6回実施、沖縄民医連平和を守るたたかいへの連帯行動、キャンプ・シュワブゲート前座り込み支援、医療班の派遣、埋め立てを巡る国と沖縄県知事の裁判での公正な審理を求めるはがき要請行動にもにとりくみました。
 東村高江では、2016年7月参院選の翌朝、住民への説明がないまま、全国から機動隊が投入され、住民、市民を強制排除し、ヘリパッド建設(※注)が強行されました。9月以降、全日本民医連は高江での座り込み集中行動を実施するとともに沖縄民医連の金曜行動に、38県連が参加しました。
 ヒバクシャ国際署名は、全日本民医連として、2020年9月までに250万筆、43回総会までに100万筆の目標を決定し、11月末現在38万6200筆です。原水爆禁止世界大会には2016年1369人、2017年1370人の参加で、成功に大きく貢献しました。
 1954年3月1日に発生したビキニ環礁での米国の核実験による被ばくに対して元船員らが起こした国家賠償請求裁判は、2018年2月16日に結審を迎えました。13人が申請した労災認定は、2017年12月25日、第1次申請の11人全員に対して不支給決定が出されました。裁判や労災認定を求めるたたかいでは、元船員らの被ばくについての意見書を作成するなど、支援を続けてきました。人道上決して許されない国の不作為に対し、引き続き元船員らの支援にとりくみます。

(3)人権としての社会保障実現を求めるたたかい
①社会保障解体路線とのたたかい

 社会保障運動でも、これまでのつながりを超えた幅広い団体や個人と結びつき、「総がかり」のたたかいを模索してきました。当事者団体、介護を良くする運動、生活保護改悪反対の運動をはじめとして、国の責任による社会保障、社会福祉の充実を求める共同が広がっています。
 2年間で14回の国会行動を行い、医療・介護のいっそうの負担増と保険外しを許さないたたかいとして、各地の事例や患者・利用者の声を届けました。
 地域医療構想や国保都道府県単位化(※注)など県を単位とした社会保障解体に反対する運動では、北海道、山梨、長野、宮崎などで地域医療を考えるつどいやシンポジウムが開かれ、埼玉や奈良で地域包括ケアを考える交流会や学習会などがとりくまれました。広島では「広島県地域医療構想素案」の問題点を整理し「広島県民医連の見解」を県に発表し、また中四国地協として医師委員長会議で地域医療構想の学習や、国保の財政運営の都道府県への移行に伴う国保料の試算の把握を行い、情報共有や交流をすすめてきました。
 2005年4月に、生活保護の老齢加算廃止に対し、京都で最初に提訴された生存権裁判から、11年半、最後の裁判となっていた兵庫裁判が、2016年11月に最高裁への上告を棄却され、不受理の決定が出され終結しました。
 全日本民医連は2007年5月に発足した生存権裁判を支援する全国連絡会に参加し、たたかいを継続してきました。12年に及ぶたたかいで、敗訴しましたが、母子加算を復活させ、福岡高裁では、原告勝訴の判決を勝ち取り、老齢加算廃止が高齢者の健康や人権問題にかかわるとした判決が出されました。またこの運動は、生活保護基準が社会保障全体や賃金のあり方に影響を及ぼすことから国民生活の根幹にかかわる制度だという認識を国民に広げました。

②現場からの社保活動と職員養成、受療権を守るとりくみ
 いのち・憲法・綱領の視点で事例を集め、日常の医療・介護現場から実態や困難を発信してきました。手遅れ死亡事例調査は各県連でも記者発表にとりくみ、受療権侵害の実態や無料低額診療事業のことが、毎月のように、新聞、雑誌、ネットニュース、テレビ、ラジオで報道されました。各県連や法人・事業所では、生活保護実態調査、一職場一事例活動、気になる患者訪問、熱中症調査などが行われ、記者会見や国会要請行動、自治体キャラバン・交渉を通じて、制度改善の運動につながりました。
 2017年5月に全日本民医連は受療権を守る討論集会を開催し、「無料低額診療事業の拡充と可視化」「国保都道府県化と国保44条、77条を実効あるものに改革していく」など討議・交流しました。
 また、無料低額診療事業を利用する患者の保険薬局窓口負担について、厚労省担当者と懇談しました。
 第4回青年社保セミナーにとりくみ、水俣病の実相と民医連のとりくみを学び、疾病を生活と労働の場からとらえ、患者とともにたたかうことなどを学びました。

第2節 震災からの復興支援、福島連帯支援・原発事故対策の到達

(1)熊本地震など災害被害者支援活動
 42期も、地震や台風、集中豪雨による災害が多発しています。2016年4月に熊本地震が発生し、6月の豪雨では広島の福山市の芦田川の決壊により事業所の一部が浸水しました。8月には連続する台風により、北海道、岩手で犠牲者が生まれ農業などの生業に大きな被害をもたらしました。現地法人、県連で対策本部を立ち上げ、支援が行われました。10月の鳥取中部地震では、現地対策本部および中国・四国、近畿地協を中心に支援を行いました。2017年7月の九州北部での豪雨による甚大な被害でも支援がとりくまれました。
 2016年全国で発生した地震は、最大震度7の地震が2回、最大震度6強の地震が2回など震度4以上の地震が192回も発生、2017年は4回の最大震度5強をはじめ震度4以上の地震が37回(11月22日現在)も発生しています。
 全国支援を行った熊本地震について第1回評議員会で総括と教訓を明確にしました。全日本民医連は、発災直後、臨時理事会で全国支援を決定し、1042人(のべ4731人)が現地支援を行いました。死者250人、全壊、半壊、一部損壊を含めて19万6860棟が被害を受け、1年半が過ぎた今(熊本県報告11月13日現在)も応急仮設住宅等の1万8846戸に4万4017人が避難生活を余儀なくされています。東日本大震災からの復興の途上に発生したこの震災で、広域合併や開発優先の都市政策、自治体職員の削減等の構造改革路線、超高齢社会にふさわしいまちづくりのあり方、原発安全神話の崩壊など3.11の教訓が生かされていない現実が露呈しました。被災地では、医療費負担減免への国の支援が昨年9月末でなくなり、熊本民医連の調査で、「持病があっても診察を控えている人が20%以上」と、窓口負担が発生することで受診抑制が広がっています。復興には、被災者の生活と生業の再建が基礎となります。医療費免除の継続と住宅保障など、当面の生活をささえる支援が求められます。
 42期、熊本地震の支援活動を踏まえ本格的なMMAT(※注)の研修交流集会を行いました。これらは、鳥取中部地震での対策にも生かされました。災害対策マニュアルに基づく災害訓練の実施とマニュアルの見直しを日常的に行う事の重要性も浮き彫りとなりました。災害時の事業継続計画(BCP)にとりくんでいる事業所の経験を学び、各事業所がBCP作成にとりくむことを確認しました。今後、MMATメンバーの登録をすすめるため、メンバーの手引きとして「MMAT必携」を作成しました。
 熊本民医連からの呼びかけで、全日本民医連として初めて開催した「被災地県連懇談会」に震災被災地の7県連が参加し、被災地の現状について学習と経験交流をおこないました。今後のとりくむべき課題として、第一に、日常の医療・介護活動と同様に被災地において求められる支援活動は医療・介護活動の2つの柱の実践そのものであること、第二に、「県連および事業所における災害対策指針(2012年12月、全日本民医連理事会決定)」や災害時の事業継続計画(BCP)を踏まえ、県連、法人・事業所で災害対策指針の作成と継続的な訓練を行うこと、第三に、全日本民医連として、MMATの登録と研修にとりくみ、災害医療を担いコーディネート力をもった職員の育成をすすめると同時に、被災地での職員と支援者の健康を守る活動をしっかり位置づけること、第四に、被災者生活再建支援法の充実、被災者への医療費免除の継続など、国の支援策拡大を求める運動を強化し、避難所の環境改善、人間らしい生活が保障される仮設住宅のあり方について専門家とも連携し改善を求めていくこと、を確認しました。また、災害対策全国交流集会2017?東京で民医連の災害支援活動を報告しました。

(2)福島連帯・復興支援活動
 東京電力福島第一原発事故から7年が経とうとしていますが、今なお福島第一原発は廃炉行程を明確にできず、事故は収束していません。2017年春に「居住制限区域」、「避難指示解除準備区域」の一部で避難指示解除が行われましたが、帰還したのはわずか数%、復興公営住宅入居者や避難先で自宅を建てた人、避難指示区域以外からの自主避難者は避難住民の集計から除かれ、いまだ10万人近くの人たちが避難前の元の土地で生活することができていません。必死の思いで避難して、ようやくみなし仮設住宅に落ち着いた人たちに対し、国は住宅補助を打ち切り、住宅を明け渡すよう求める裁判も起こしています。国と東電は、避難住民の居住権をきちんと保障する責任があります。
 原発事故の補償・賠償の裁判は、群馬、千葉、福島で連続して勝利判決が出されました。群馬と福島では、原発事故の責任は東電のみならず、国にあると認める判決でした。これまで安倍内閣のもとですすめられてきた「賠償打ち切り」「原発再稼働」、事故の責任をとらず事故の全容解明に背をむけてきた「ふくしま切り捨て」への批判が司法の場で明確になりました。
 福島第一原発事故後、広野町で入院医療を唯一継続してきた高野病院からの医師支援の要請を受け、原発事故が原因となった地域医療の崩壊の中、患者と地域医療を守る目的で緊急支援を実施しました。
 福島の現状を自らの目で確かめ、伝え、全国の仲間とともにささえる活動を広げようと「福島被災者視察・支援連帯行動」を6回開催しのべ92人が参加しました。また原発労働者の健康相談会を2回開催し、6人から相談を受けました。相談会を通じて劣悪な労働環境、ずさんな健康管理、危険に見合わない低報酬などの問題が浮き彫りになりました。
 東日本大震災後に発足した福島連帯支援委員会は、41期までの全日本の委員会を北海道・東北地協で引き継ぎました。震災と原発事故による影響が続く中で奮闘する福島民医連の仲間の困難を共有し、地協として励ましながら援助をおこなってきました。経営困難の打開、医師・看護師の確保と養成、県連機能の強化に向けて、引き続き援助が必要です。
 医師支援については、福島医療生協わたり病院での月1回の内科輪番当直支援を関東地協で、郡山医療生協桑野協立病院の第3、4土日の当日直支援を北海道・東北地協と東京民医連で担いました。桑野協立病院への支援は2017年12月で終了しました。また、研修医への援助として地協で福島フォーラムを年1回開催しており、43期も継続します。福島第一原発事故からの復旧・復興の道は、今後数十年にわたって続きます。今後も原発事故被害者に寄り添い、福島の切り捨て政治を許さない活動を続けていくことが必要です。

第3節 医療・介護活動の2つの柱への確信と活発な議論・実践

 民医連の医療理念の先駆性や普遍性は、患者の切実な要求に応え、医療・介護活動を共同のいとなみと捉えて患者・利用者に寄り添ってきたこと、憲法に依拠し平和と社保運動を積極的にとりくんできたことによりつくられてきたものです。第42回総会で決定した医療・介護活動の新しい2つの柱は、2010年に「無差別平等の医療・福祉の実現」を掲げた新綱領改定に至る民医連の医療理念の歴史を踏まえたものであり、39期以降の医療・介護分野の安全、倫理、QI活動(※注)、チーム医療などの実践とHPH(※注)やSDH(※注)へのとりくみといった総合的な医療・介護の質の向上の成果が結実したものです。それはまた国連やWHO(世界保健機関)が一貫してすすめてきた、健康権実現に向けた提案や実践と響きあい、重なるものです。
 42期のとりくみの大きな特徴は、11年ぶりに開いた拡大医活委員長会議(2016年・2017年)での提起が積極的に受け止められ、すべての県連で医活委員会が確立されたこと、県連医活委員会の機能強化や医療・介護活動の2つの柱の具体化がすすむなどの前進と教訓を創り出していることです。

(1)県連医活委員会体制の確立・機能強化と教訓―29県連から46すべての県連に
 県連医活委員会は、2015年調査では29県連でしたが、42期末には、46県連すべてで発足しました。今後の課題は、職場での学習や実践にいかにつなげていくか、とりわけ医師集団がいかに議論し具体化していくかです。奈良や広島では、県連長期計画の策定の議論の中で2つの柱を位置付け、「どんな医療活動を行うか」についての医師集団の継続的な議論をすすめています。また、県連と法人・事業所・職場との密接な関係を構築していることが大きな推進力になっています。
 多くの県連では、総会・幹部研修会・制度教育・学術運動交流集会などで医療・介護活動の2つの柱やSDH、HPH、QIなどの学習会が今まで以上に活発に行われています。医療・介護活動の2つの柱講師養成講座(熊本)、SDH職責者研修会(新潟)、制度教育に医療・介護活動の2つの柱、SDHを位置づける(山梨)など職責者・職員に広げるとりくみも始まっています。各県連の議論と実践の教訓は、①医療・介護活動の2つの柱に至る民医連の理念や実践の普遍性や先駆性に確信をもつこと、②医療・介護活動の2つの柱は、「4課題(医療・介護、経営、育成、運動)」を好循環させる基軸であること、③県連の「民医連らしさ」を可視化させること、特にSDHの視点とHPH活動を日常診療へ組み込み具体化していくこと、④県連医活委員会は、「復活」ではなく、「新しい」機能の確立であることです。

(2)各県連での医療・介護活動の2つの柱の実践
①日常的な医療・介護活動におけるSDHのキャッチとアウトリーチ

 日常的な医療・介護の実践の中で患者、利用者のSDHのキャッチやアウトリーチの実践がすすみ、その成果を内外に発信していくとりくみが広がっています。「『気になるカンファレンス週1回30分、気づきのカルテ記載やSDHのサマリー記載』(奈良)」、「『無低診・利用患者の臨床的特徴と社会経済的状況調査』(石川)」、「SDH問診表の開発(奈良など)」、「地域高齢者会員宅訪問と延命治療に関する高齢者100人アンケート(滋賀)」、「地域の『子どもの貧困撲滅円卓会議』へ参加(栃木)」、「地域診断FW‥子どもの貧困と子ども食堂(奈良)」、「2000名外来SDH質問表回収・分析(岡山)」、「保険薬局における一部負担金からみた2型糖尿病患者の治療実態(大阪)」などです。東京では、青年自らが「健康格差・SDH・HPHをみんなで考えよう」をテーマに掲げ企画・実施する「青年学習交流会」が開催されました。

②日常診療へのSDHの組み込みとツールの具体化
 多くの法人・事業所がSDH可視化のとりくみを開始しています。埼玉協同病院では、電子カルテにヘルスプロモーションやSDHの問診票の介入記載をシステム化して経年的に評価しています。さらに、「地域活動の評価基準」を作成し、ヘルスプロモーションの総合的な展開を継続しています。また、健和会飯田中央診療所では、SDHの視点を入れた10項目の患者評価表をレーダーチャートで表し、社会的支援や職員教育に活用しています。

(3)全日本民医連の「新しい2つの柱」の主なとりくみ
①全日本民医連主催の各種集会・セミナーの開催

 全日本民医連は、第2回地域包括ケア交流集会や医療・介護安全交流集会、医療・介護倫理交流集会、第1回民医連QI推進士セミナーを開催しました。また、民医連の事業所が多施設共同で調査・研究を行う場合の倫理的審査を行うために、全日本民医連研究倫理審査委員会を発足しました。

②SDHの視点を活かした医療・介護現場での実践
 トロント大学のギャリー・ブロック医師を招いて、「医師のための貧困治療ワークショップ~診察室で貧困の解決を支援する」を開催しました。カナダの「貧困評価・介入ツール(※注)」を学ぶなかで、貧困を病態として捉え、治療として介入することへの確信が広がりました。
 日常の診療現場で簡単に使える、「日本版貧困評価・支援ツール(問診項目と経済的サポートツール)」の開発を、J―HPHと共同してとりくんでいます。将来的には、患者の社会経済状態を把握できる、エビデンスで裏付けられた問診票を開発し、電子カルテに導入するなど日常診療で活用できるよう提案していきます。
 40歳以下2型糖尿病調査の臨床像に関する多施設調査の予後パイロット調査を行いました。

(4)水俣病やアスベストなどの被害者救済、 労働衛生社会医学分野のとりくみ
 今でも多くの水俣病患者が放置されています。熊本、鹿児島、新潟では検診調査活動が継続され、救済を求める裁判も熊本、東京、大阪、新潟でとりくまれています。いわゆる「昭和52年判断条件」(※注)は、行政だけでなく医学界の問題でもあり、全日本民医連でも引き続き検討していきます。
 2012年に作成した「アスベスト教本」(CD版)を改良してアスベスト関連疾患診断支援サイトを完成させ、ホームページに掲載しました。呼吸器や労災の専門医だけでなく、多くの医師が活用しやすいように工夫がされています。引き続き普及と活用を図ります。
 また、B型肝炎訴訟の被害者掘り起こしや支援の活動が山梨などでとりくまれています。 熊本地震での職員の健康管理に産業医が早期からかかわることで、メンタルヘルスも含めた職員の健康被害の防止に役立ちました。とりくみの内容を、2016年8月に日本社会医学会総会で「緊急報告」として発表し、高い関心と評価が寄せられました。
 医療部として「オプジーボ」をはじめとした高額医薬品問題に関する声明や「バイエル薬品の不正行為」の抗議声明を出しました。診療の現場での①新薬や高薬価薬を使用する場合は、安全性・有効性を集団的に検討するとともに、患者の経済的負担を考慮すること、②利益相反(※注)に関する自己点検、新薬の採用にあたって薬事委員会の役割の重要性を呼びかけました。

(5)J―HPHのとりくみの前進と広がり
 日本HPHネットワーク(以下「J―HPH」)は、2015年10月発足後、「超高齢社会と健康格差社会の中でのヘルスプロモーション活動」をメインテーマに、毎年J―HPHコーディネーターワークショップとJ―HPHカンファレンスを開催しています。国際HPHカンファレンス(アメリカ、オーストリア)にも連続して参加し、多数の演題を発表しました。また、カナダ家庭医協会の「BEST ADVICE―SDH―」の日本語版(※注)を翻訳し、広く普及しています。
 現在J―HPH加盟事業所は、全国で80と広がっています。民医連事業所での加盟を推進し、特にすべての病院で加盟をめざしていきます。また、民医連以外の事業所に対し、それぞれの地域での医療・介護活動の連携を通じて加盟を訴える事も重要です。

(6)歯科医療
 医科・歯科・介護の連携では、全日本民医連のさまざまな交流集会等のとりくみで一歩を踏み出し始めました。第13回看護・介護活動研究交流集会では、口腔ケアをはじめとした歯科の教育講演や歯科衛生士による病院や施設での口腔ケアのとりくみが発表され、看護・介護の現場での口腔ケアの重要性を共有しました。第2回地域包括ケア交流集会では、口腔崩壊の現実から地域での歯科分野の重要性が確認され、第13回学術・運動交流集会のテーマ別セッションでは、小児、産婦人科、精神分野、歯科分野の模擬カンファレンスが行われ、口から見える格差と貧困(社会的困難)が各分野の症例に共通する困難であることが示されました。
 42期の歯科部の重点課題は、41期に提起した「民医連らしい歯科医療チェックリスト(※注)」「中長期計画作成マニュアル」の具体化としての①歯科酷書第三弾作成、②歯科奨学生確保をはじめとした後継者育成、③社会保障制度を守るための「総がかり行動」として、保険で良い歯科医療を求める請願署名のとりくみでした。歯科酷書第三弾は、社会的困難事例をキーワードに120事業所から事例を、3つのカテゴリー(小児の事例、中断事例、無低診事例)で集めること、全職員が人権を守る歯科医療をすすめる視点で事例を深めることを目指し、とりくみました。事例をとりくんだ所長からは、「自分の事業所には歯科酷書に載せるような事例はないと思っていたが、とりくむ中で職員の中に気づきが生まれ、報告することができた。患者をみる視点が変わった」との報告が寄せられています。
 歯科奨学生の拡大と歯科医師養成のとりくみでは、各県連・大学でデンタル・ナビフェアー(デンナビ)が行われ、研修歯科医や歯科奨学生確保のとりくみが行われた結果、民医連歯科の奨学生は2016年9人から15人に増加しました。全国の歯科医師は、10年後までに58人が定年退職し、第一線から退くことが予想されること、各県連により対策にとりくむ構えと奨学生確保に差があることからも、引き続き重点課題です。

(7)介護・福祉分野
 42期は、介護ウエーブ、介護安全のとりくみや経営改善の課題、総合事業、職員の確保・養成などを重視してすすめてきました。厳しい人員体制が続いていますが、職員・現場の奮闘で活動の前進がはかられています。
 介護ウエーブ2016・17では、介護保険制度の見直しが焦点になり、法案審議の段階では「改悪法案をつくらせない」ことを、法案上程後は法案の「廃案」を目標に掲げ、地域社保協とも連携しながら各地で多彩なとりくみをすすめてきました。財務省による「軽度」切り捨ての改悪提案を見送りに追い込んだことは、現場、地域から改悪中止を求める声を上げることの大切さを改めて示す成果でした。法「改正」後は、政府に対して制度改善、報酬改善、処遇改善を求めるとともに、総合事業や第7期介護保険事業計画に対する自治体に向けた運動が各地でとりくまれています。
 介護実践では安全性の追求と危機管理を重視してすすめてきたことが42期の特徴です。全日本民医連では初めて介護安全委員会を設置し、法人・県連での組織的対応や日常的なリスクマネジメントの強化を提起しました。医療・介護安全交流集会を通して各地の経験を学び合い実践に生かす中で、全国的にとりくみが大きく前進しています。しかし一方で、介護安全委員会の設置や活動状況など、現場でのとりくみが追いついていないなどの現状もあります。介護分野における安全文化の醸成やとりくみ全体のいっそうの強化・底上げが課題となっています。全日本民医連として、重大事故発生時の危機管理上の基本的考え方や対応のポイントについて提起しました(「介護現場の重大事故に対応した危機管理の基本指針2018」)。
 介護事業経営がかつてなく厳しさを増している中、経営改善に向けた努力・対応が重ねられ、加算の積極的な算定や利用者確保を通して経営を好転させた経験が各地で生み出されています。しかし対策を講じているものの効果が出ていない、さまざまな事情で本格的な対策に至っていない法人・事業所も少なくありません。個々の介護事業の収支を算出していない実態もあります。損益管理、現状分析をしっかり行い、法人内外の連携を強め、2018年改定への的確な対応を含めた法人・事業所の経営基盤の強化をはかることが急務です。社会福祉法人の経営について、全日本民医連として統一会計基準に準じた経営指標(案)を検討・作成しました。多くの地協で社会福祉法人委員会が設置され、経営状況の検討や相互診断などの活動がスタートしています。
 職員確保の困難が依然として続いており、新たな利用者確保や経営の困難に直結し、新規事業の拡大のみならず、既存事業の継続そのものに支障を来す事態が生じています。全国調査(介護労働安定センター)と比較すると、民医連は現場の奮闘で離職率は全国平均より低くなっていますが、新規採用数が伸びず、結果として職員の増加率が全国平均と比べて低くなっている傾向が数年来続いています。学生対策や紹介活動など、各地で、職員確保に向けた努力が重ねられています。

第4節 経営分野の到達

 42期は、すべての法人で必要利益を確保すること、県連・地協機能の強化と県連の中長期計画の作成、医師確保と養成を経営問題の中心課題と位置づけること、トップマネジメント機能の強化と全職員参加の経営の追求を重視してきました。各地協で経営委員会の体制強化や経営検討会の開催、困難法人への援助など地協経営委員会機能が強化され、民医連統一会計基準推進士養成講座は過去最多の272人の推進士を養成するなど前進面が生まれました。
 また、地域医療連携推進法人制度が創設されたことに伴い、「地域医療連携推進制度についての留意点」をとりまとめました。
 2016年度経営実態調査などの結果は、民医連経営が厳しさを増していることを示しています。特徴は一時的困難ではなく、この数年の継続した傾向であるということです。同時に、今後いっそうの困難も予測される中で、「無差別平等の医療と介護・福祉の実現」をめざし、受療権と健康権を守る民医連の事業と経営を守り抜くために直面している経営困難をなんとしても打開していきましょう。

(1)厳しさを増す民医連経営
 2016年度経営実態調査では、中期指標該当(※注)5ポイント以上の法人が60法人と過去最多で全医科法人の3分の1を超えており、この状態が継続すれば、深刻な経営困難に直面することになります。医科法人のうち事業で生み出した資金で借入金の返済が賄えない法人が、40法人(26%)と通常設備投資も含めると資金収支のバランスがとれていない法人が多数あります。一般的に必要とされる8%以上の事業キャッシュ率を確保している法人は32法人(20.6%)、7%以上でも50法人(32.2%)にすぎず、必要な事業キャッシュを確保する力は大変厳しいと言わざるを得ません。経常利益で予算を達成した法人は52法人で、約3分の2の医科法人は経常利益予算を確保できていません。必ずしも適切な必要利益が予算化されている状況ではなく、それだけに多くの法人で必要利益が確保できていない状況は明らかです(H)。

(2)経営困難の要因と課題
 このかつてない経営困難の深刻さの要因は、①医療費抑制政策をはじめとする政策的影響、②主体的力量も含めた競争力の弱さ、③困難を打開していく上での事業戦略やマネジメント力の弱さなどにあります。統一会計基準の不徹底、安易な借入金への依存も散見されます。全体としては非常に厳しい状況ですが、個別には困難を切り開き、経営改善を実現している法人は少なからずあります。必要な利益を正面に据えて、それを実現する2018年度予算編成に、全職員、共同組織の知恵を結集してとりくみましょう。
 全日本民医連経営部では、42期中に各法人・県連からの要請を受けて経営調査、中期計画や予算作成の支援などにとりくみました。この間の経営困難に直面した法人の共通した課題は、①経営実態をリアルに認識することが組織としてできていないこと、②予算管理をはじめとして、管理運営に弱点があること③マネジメントのための基礎的な実務や知識の習得が不十分なこと、④経営幹部が、他の法人・事業所の経験に学ぶ行動が弱いことなどです。弱点を正面から受け止め、強みを大いに生かす方向で全力をあげましょう。

(3)経営困難法人への援助をはじめとする県連、 地協経営委員会のとりくみ
 41期以降、すべての地協で経営委員会が発足し、機能が強化されつつあります。一方で、経営実態が深刻さを増し、資金危機が突発的に起こるリスクもあります。また、病院リニューアル等の大型投資を厳しい経営状況で実行せざるを得ない実情もある中で、地協・県連の経営委員会機能の強化をはかる必要はさらに強まっています。この間、地協・県連経営委員会ミニマムや実質的論議のあり方(報告会に終わらず自らの課題として相互批判と知恵をあつめる議論を、など)について提起をし、一定の前進がみられますが、さらなる機能強化に向けた対策が求められています。経営困難を抱えた法人が増加する中、客観的に相互検討する事ができる地協あるいは県連等での経営検討・予算検討などの機会をもつこと、継続的に経営状況を把握し、必要に応じて警鐘を鳴らすなどの意味で、地協・県連経営委員会の役割は重要です。この間も九沖地協、近畿地協、北海道・東北地協などで経営支援がとりくまれました。
 民医連統一会計基準推進士養成講座の地協ごと開催も、42期で3回目の実施となりました。受講者は350人と過去最高となっています。このとりくみは、地協経営委員会の機能強化にも貢献しており、引き続き規模を拡大しながら定着をはかります。42期は医師2人が全国ではじめて受講しています。看護師など事務以外の合格者も出てきています。全職員参加の経営の基礎としても引き続きとりくみを強めて行くこととします。

第5節 共同組織の活動

(1)第13回共同組織活動交流集会
 「決めるのは私たち 憲法をいかし平和・人権・環境を守ろう 地域まるごと安心して住み続けられるまちづくりを」をメインテーマに第13回全日本民医連共同組織活動交流集会?東海・北陸(石川)を石川県加賀温泉郷で開催しました。約2000人が参加して、討議・交流し、各地に学びを持ち帰って活動に生かすことを重視し運営されました。
 発表された演題の4分の1が「たまり場・居場所づくり」「助け合い活動」をテーマとして発表されるなど、たまり場・居場所づくり、助け合い活動のとりくみが大きく前進しています。
 健康づくりでは、脳いきいき班会、転倒予防体操、笑いヨガなど、共同組織を対象としているだけでなく、地域に開かれたとりくみとして広がっています。まちづくりでは、つながりマップ(※注)が前進し、災害に強いまちづくりをめざし、実際に町並みを歩いて防災マップを作成するとりくみなどもはじまりました。つながりマップや防災マップをもとに行政と懇談し、改善させているところもあります。こうした活動が全国で活発になっており、無差別・平等の地域包括ケアへのとりくみとして共有されました。これらのとりくみを普及するために活動交流集会DVDを作成しました。

(2)共同組織の拡大と『いつでも元気』誌の普及・活用
 42期の共同組織構成員は、2017年11月末現在で369万人(目標370万人)、『いつでも元気』誌は5万6665部(目標7万部)です。共同組織構成員は5万人増となっています。
 2回の共同組織拡大強化月間では約6万人の純増となり、拡大目標370万まであと一歩となりました。月間期間の『いつでも元気』普及は、2016年2856部、2017年2335部(10~1月号)で、2017年1月号の発行部数は5万6738部となり、過去最大部数まで663部にまで回復しました。
 月間では、地域に出かけ、共同組織構成員、地域の人々の声や困難をつかむことを方針としてかかげ、訪問行動にとりくんだことです。北海道道央ブロックでは拡大強化月間6年連続で1万人の地域住民と共同組織構成員の訪問を行いました。その中から困難を解決につなげる事例も生まれています。福岡では県連で統一した共同組織向けアンケートを作成し、会員がおかれている状況を把握、分析する中で、共同組織の活動に参加できていない会員ほど、無料低額診療事業(※注)などの制度を知らないことが明確になりました。訪問行動に職員が参加したところでは、「職員が参加すると訪問先で歓迎される」と共同組織の皆さんが元気になり、参加した職員は「地域の実情をつかみ、地域からの期待を直に感じることができた」との感想が寄せられ、相乗効果が発揮されています。
 『いつでも元気』は、第13回共同組織活動交流集会までに6万部を達成しようと呼びかけ、石川では活動交流集会までの目標2300部を達成、北海道では2カ月間で318部拡大、富山では共同組織役員自らが販売所を立ち上げ『元気』誌の普及をすすめるなど、目標を明確にして「月間」前から『元気』誌を増やすとりくみが始まりました。
 42期に誌面をリニューアルし、規格サイズをはじめ題字、表紙デザインを一新しました。写真も大きくなり、全面フルカラーとなっています。また4年ぶりに職員の購読調査を行いました。その結果を踏まえ、半数以上の職員が購読することをアピールとして提起しました。
 42期も、販売所交流集会を開催し、販売所が読者を増やす要となっていると同時に、困難を抱えている事態も明らかになりました。販売所は5部以上の取り扱いで開設できる手軽さがあるものの、販売所の状況を県連・法人・担当者が十分つかめず、配達・集金者がいなくなると同時に、その販売所の取り扱い部数がすべて減誌になる事態が起きています。『元気』誌の増減部数が県連や法人で把握・管理できていないところもあり、販売所の方針について県連・法人で検討が必要です。

(3)要求の実現と担い手の広がり
 子育て世代の母親たちを支援する「離乳食講座」「キッズサロン」「夏休み宿題応援隊」等の活動を通じて、母親の中から医療生協の理事が誕生した(岡山)、2017年にNPO法人を立ち上げて交通支援、配食サービス、学習支援など助け合い活動の中から担い手が生まれた(石川)などの経験がつくられています。これらの特徴は、サークルやボランティア活動、相談活動に参加した人がやりがいを感じ、要求が実現する体験を通じて、担い手になっていることです。
 また、継続的に役員研修会をおこない、情勢を学び、民医連や共同組織の理解を深めながら、担い手づくりをすすめるとりくみも行われています。

(4)共同組織担当者育成のとりくみ
 42期は4年ぶりに共同組織担当者セミナーを開催しました。共同組織担当者が、まちづくりにかかわる地域のさまざまな団体や個人とつながり、民医連事業所と共同組織が求められる課題を自覚し、実践につなげるためのまちづくりコーディネーターとしての役割を学ぶ機会となりました。

第6節 民医連運動を担う医師の確保と養成

 42期は医学対、医師養成、医師集団形成、新専門医制度などの各分野でとりくみをすすめ貴重な前進を開始しました。新専門医制度という大きな変化の準備が進行する中で、国民本位の医療を発展させ、専攻医(※注)が安心して力をつけられる制度となるよう日本専門医機構(以下、機構)へも積極的に働きかけ、同時に民医連内での専門医養成の可能性を追求してきました。医学対活動では過去最高の奨学生数に到達し、さらに前進を続けています。
 その一方で、2015年卒の初期研修医において民医連での後期研修への継続率が低下しました。民医連での初期研修を修了した141人のうち、68人は民医連内で後期研修を開始し、定着率は48%となり、それまでの60~65%台の継続率から今回初めて50%を割りました。新専門医制度からの影響も示唆される一方で内科、総合診療・家庭医の分野でも低下が目立ち、民医連事業所にプログラムがあっても選択されるとは限らない傾向が明確になっています。

(1)新専門医制度の動向と民医連の対応、 国民の願う新専門医制度へ向けたたたかい
 新専門医制度発足にむけての準備がすすめられ、来年度からのスタートにむけて専攻医登録が開始されました。制度改革開始当初に重視された国民の医療要求にこたえるための総合性を重視した視点は、中途より学会・大学主導となるなかでその位置づけが低下しました。また、地域医療への重大な影響が懸念され1年間の延期措置が取られましたが、その不安が払しょくされるような調査も修正も行われず、内科、総合診療科を除いたほとんどの領域が大学以外ではごく限られた医療機関でしか基幹型研修施設になれない制度となっています。国民のための制度には程遠く、学会・大学主導の領域別専門医囲い込みの側面が強まり、日本の地域医療をささえている中小病院の医師の養成はまともに取り扱われませんでした。最終盤になって機構は当初の方針を転換し、専門医取得を必修ではない、とせざるを得ませんでした。大学、研究機関の研究者養成と、地域医療の担い手の専門医養成を両立できない根本的矛盾の一つに医師数の絶対的不足があります。
 制度への対応としては、全国でのプログラムの立ち上げがすすむ中、全日本民医連として情報共有・発信しながら、地協内、オール民医連的連携を推進しました。特に重視した内科、総合診療領域でプログラムの準備を大いにすすめました。同時に、42回総会での「連携拠点病院」の提起も踏まえつつ、他の専門領域でも基幹型、連携型の条件のあるところでは積極的に整備を行いました。
 新専門医制度の動向そのものに対しては41期の「見解」につづき、1年の延期に際して「提案」を発表し、地域医療への影響の精査、地域医療を守る方向でのプログラムの見直し、専攻医の身分保障、総合診療医養成にさらに注力することなどを提案しました。総合診療専門医をめぐっての機構の一部不適切な行動が見られたことから「審査開始にあたっての緊急要望」「1次審査の結果を受けての意見と緊急要望」を機構に提出しました。さらに、「総合診療専門医プログラムの認定作業過程に関する質問」も機構に提出し、民主主義のルールからの逸脱を指摘し、プロフェッショナルオートノミーの危機を訴えました。この間のたたかいは、機構の不合理な手続きを都道府県レベルでの働きかけなどを通じて覆す成果も少なからずかちとりましたが、全面的な是正には至っていません。

(2)医学対での明確な前進の教訓
 41期に提起された奨学生拡大ロードマップにむけた私たちの主体的なとりくみと、医学生の自主的活動の発展、SDHへの関心の高まりが相まって大きな運動の前進が得られました。42期にとりくまれた奨学生を増やし育てる大運動に続いたMovement2016の前進は200人受け入れ500人奨学生集団という目標達成の展望を開きました。Movement2016は、医学生対策のとりくみと運動を、〔増やすMovement〕〔育てるMovement〕〔挑むMovement〕という3つのフレームワークで提起し、また「奨学生とは何か、なぜ増やすのか」を正面から議論すること(「深めるMovement」)を呼びかけました。奨学生の獲得を中心に提起しつつも、奨学生の育成の課題や医学生運動との協力共同、SDHを医学生と学ぶ課題など、複合的な運動の提起でした。年間4回に開催スタイルを大きく変更した医学生のつどいは、各回のつどい参加者も大きく増え、大運動やMovement2016でつながった奨学生の成長に結びついています。
 大運動とMovemen2016の教訓の一つめは、多くの医学生委員長が元気に活躍し、牽引者としての役割が発揮され運動が前進したことです。その中で担当者も励まされさらに活動が進み、相乗効果の中で医師集団でのとりくみが広がりました。二つめは、数年にわたる地道な高校生、医学生とのかかわりが奨学生獲得においても医学生運動の前進においても成果につながったことです。三つめは、地協の団結が全体の前進と同時に、個別の中小県連で前進を生み出す力になったことです。

(3)民医連における医師養成のとりくみ
 統一オリエンテーション(※注)、セカンドミーティング(※注)、指導医講習会、臨床研修交流会、イコリスでの情報発信・交流、ACGMEマイルストーン(※注)の紹介と版権取得などのとりくみをすすめてきました。前回総会ではすべての基幹型研修病院のJCEP受審を目標としましたが、今期新たな受審は4病院で、基幹型臨床研修病院47病院中33病院となりました。現在準備をすすめている病院は4病院です。

(4)民医連の医師集団づくりのとりくみ
 2017年6月に開催された医師委員長・研修委員長会議は「これからの民医連の医療、それを担う医師集団のありようを探そう」と問題提起し、民医連医師集団に求められている重要な柱として「2つの柱を実践する医師集団」をつくりだすことを位置づけました。
 会議では民医連医師のひとりひとりの多様性、民医連事業所の多様性が存在することを認識したうえで、どのような共通項を見出し、どのように民医連を担う医師集団を形成していくのかが議論されました。私たちの目指すもの、働き方の問題、いろいろな面での世代間のギャップ、小病院の医師不足問題、青年医師の教育、研究、交流に関する横断的支援の必要性などさまざまな意見が交わされ、民医連で働く多様な医師たちみんなで医師集団づくりを話し合おうと意思統一されました。

第7節 職員の確保と養成、各職種の活動の到達

 教育指針(2012年版)の具体化として、職場教育と職場づくりの実践交流をすすめ「職場管理者の5つの大切」(※注)の定着をはかることを重視してきました。また、改憲の危機がすすむ中で、全職員と共同組織の中で、憲法を学び生かす大運動が提起され、運動の推進へ向けた、第2期憲法学習大運動をすすめてきました。

(1)職場づくり・職場教育の前進
 教育指針(2012年版)の具体化として、職場教育と職場づくりに力をいれてきました。2月に開催された職場教育・職場づくり実践交流集会では職責者中心に、経験が共有されました。
 特に、①気になる患者カンファレンスを続ける中で職員の患者を見る視点が変化している(栃木)、②職員のよいところ探しで新入職員とベテラン職員が互いに理解できるようになり職場の団結と雰囲気が変化した(奈良)、③職種を超えたケアカンファレンスの開催で各職種が専門的な視点で意見を交換し合い、コミュニケーションの向上、職員同士の信頼関係につながっている(鹿児島)、④ヘルパー職員の集団化をはかり専門職として意識を高めた職場づくり(香川)の経験は教訓に富むものでした。
 無料低額診療を利用している患者の相談活動を行い、生活背景に迫るとりくみで無料低額診療事業への理解が深まり民医連への確信になった、職責者会議を充実させて職場で抱えている課題について交流し、問題解決をはかり経営改善にもつながった、職場づくりを前進させる上で職責者と主任の情報共有を大切にしスタッフ機能を重視すること、など深められ41期に提起した『職場管理者の5つの大切』が積極的に受け止められていることが確認されました。

(2)第2期憲法学習の到達と特徴
 2016年10月から1年間、「職員一人ひとりが憲法を自分の生活や民医連の日常活動にひきよせて理解し憲法を守り生かすとりくみに足を踏み出すこと」を目標に第2期憲法学習運動を提起しました。学習材料として毎月1回「MIN―IREN憲法cafe」を発行、これを活用した学習会1万4577回、参加者数10万6379人、全ての学習参加者15万5569人と、かつてない規模の学習運動となりました。
 「MIN―IREN憲法cafe」は毎月、情勢とリンクした学習記事と職員コラム「現場から見える憲法」、弁護士コラム「憲法は希望」を掲載し、職員が手に取りやすく、気軽に読めるよう工夫しました。職場会議や朝礼、委員会内の短時間での継続した読み合わせ、職責者がチューターとなり、自らがパワーポイントを作成して学習会をすすめた経験も生まれています。また、職場単位での学習をすすめたことで、介護事業所などでは非常勤職員も参加しやすくなりました。
 職場単位、職員同士の語り合いを通して、憲法の内容について「初めて知った」という声も多く、貧困と格差、教育、雇用など自分自身の暮らしや仕事と結びつけて、討議し、感想が交わされました。学習活動が定着した職場では、民医連の機関誌紙を活用した学習が継続しています。「学習する前は“自国を守る軍事力は必要”と少なからず考えていた。戦争が恐ろしいことや9条の真意を知らなかったからだと思う。それでも半ば強行される戦争法へとすすむ政治を果たして止めることができるかと不安にもなる。話し合いと交渉で解決できることが当たり前の世の中になるよう努力したい」「地域の人々の人権を第一に考え、その人らしく生きることをささえるためにチームで力を合わせている」などの感想が寄せられています。
 憲法学習をすべての職場でとりくんだ宮崎や、毎回の職責者会議で議論した京都・熊本、トップ管理者がリーダーシップを発揮し、ほぼ全員が学習に参加した東京・東都協議会など積極的な経験がうまれた一方、なかなかとりくめない職場もありました。各県連で今後の学習に向けた自己点検をすすめましょう。
 憲法学習の推進体制と方針を確立し管理会議や職責者会議等で議論を重ねること、職責者を援助し職員の感想・意見を掘り下げて学びを深める機会を作ることが重要です。また、集約が十分でない県連・法人も見られました。活動集約の意義は、全体状況を把握するなかで事業所・職場の実態をつかみ、教訓を普及し、必要な援助を行い、実践していくことにあります。

(3)職員の健康管理について
 医療・介護の現場において、職員の健康管理はとても重要です。労働基準法・労働安全衛生法に基づく諸制度の整備を徹底し、積極的に法令を生かしてゆくことは、管理部の責任です。42期も、「健康で働き続けられる職場づくり」パンフレットを基本に、メンタルヘルス、ハラスメント、ノーリフト、災害時の健康を守ることのとりくみや対策を行ってきました。熊本地震の支援活動では東日本大震災の支援の教訓から、支援者、職員へのヘルスケアに本格的にとりくみ、改善がはかられました。訪問事業でのハラスメント対策も検討が必要となっています。
 労働時間管理、疾病を持ちながら働く職員への援助、訪問現場の問題、有害物質から健康を守るとりくみやストレスチェック(※注)の有効活用なども含めて、すべての事業所が安全衛生委員会を適切に開催し産業医を配置することが望まれます。また、民医連として産業医養成の課題も重要です。

(4)37回青年ジャンボリー
 37回全国青年ジャンボリーは、福島の青年の「ぜひいまの福島を自分の目で見てほしい」という思いを受け止め、福島で開催しました。震災、原発事故が人々にもたらしたことの重大さと現実、これから私たちが考えていかなければならないことなど、記念講演やフィールドワークを通じて、大いに語り交流しました。実行委員会に参加した青年職員は、議論を経る中で、さまざまな意見をまとめて集団で一つの目標を達成する経験を積むなど成長してきました。県連や法人・事業所で青年職員全体の成長のなかでJB活動が果たしている役割を把握し、援助をすすめましょう。

(5)各職種、分野の活動
(看護)

 民医連の看護の継承と発展をめざしてブックレット「民医連のめざす看護とその基本となるもの(2016年版)」を発刊し普及と学習をすすめてきました。民医連の看護の歴史への確信とともに民医連のめざす看護への理解と共感がひろがっています。民医連の看護の行動や判断のよりどころとして示された「基本となるもの(患者の見方・とらえ方、看護の視点・優点、社会の見方・とらえ方)」の視点から看護実践をふりかえり、民医連の看護の継承と発展に結び付けることが課題となっています。全看護職員を対象とした学習を強化し看護実践での活用をすすめていきましょう。
 民医連の看護を牽引する看護幹部の養成を目的に看護幹部研修会を2回開催し51人が受講しました。政治経済・現代史・社会科学・医の倫理等を学び、福島や沖縄のフィールドワークを通じて看護幹部としての決意を固める場となりました。
 看護学生委員会では、全国の民医連看護奨学生を対象に、奨学金や学生支援機構等の利用実態調査を行いました(奨学生2194人中1737人が回答)。結果は看護学生受け入れや奨学金制度の改善運動にいかします。新卒看護師確保をめぐる環境変化に対応し新卒看護師受け入れマニュアルを改訂しました。新卒看護師確保は、6年連続1000人の峰を越える活動が展開されています。一方、奨学生確保や新卒採用に消極的な法人もあり、あらためて奨学生確保の意義を確認することが求められています。また、改訂した新卒看護師受け入れマニュアルの活用をすすめるとともに離職対策を一層強化しましょう。
 看護委員会では、2年ごとに実施している「看護管理調査」の内容を再検討し、経年変化が把握できるよう変更しました。
 「特定行為に係る看護師の研修制度」に対する方針を策定している法人は2割弱です。2015年5月の「医療のあり方を大きく変える『特定行為に係る看護師の研修制度』について民医連の考え方と留意点」を参考に方針を検討しましょう。
 在宅での看取りにおける規制緩和として「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン(厚労省)」が出されました。在宅での穏やかな看取りが困難な状況に対応するとしながらも、携帯型心電図による心静止確認、外表検査(全身観察と写真撮影)、死斑・死後硬直の確認、虐待の可能性の判断等を看護師が行い、情報通信機器(ICT)を使用して情報を逐一、医師に送信し医師が直接患者を診ることなく死亡診断を行うという多くの問題が懸念されています。民医連としての見解を表明します。
 2018年9月末に開催される第14回看介研では、「民医連のめざす看護とその基本となるもの」の分科会を行います。旺盛なとりくみを持ち寄り交流します。

(事務)
 2期にわたって開催した事務育成責任者・担当者の集会で全国の経験が交流され、事務育成を強化する機運が高まっています。第3回評議員会では、民医連の事務職員の役割を、「正確な実務と統計・情報管理を担い、それを通して全職員参加の医療・介護事業と経営の前進に貢献すること」「無差別・平等の医療と介護の深化、発展のために、民主的な多職種協働と人づくりをささえること」「日本国憲法の立場から平和と社会保障拡充の運動を積極的にすすめ、共同組織とともに安心して住み続けられるまちづくりの活動の推進者となること」と整理しました。また、この3つの役割を事務集団として果たしていくため、一人ひとりが担当する分野に必要な知識を身につけることはもちろん、憲法と綱領、情勢や総会方針を絶えず学び、地域にとってかけがえのない民医連の医療・介護活動や事業所の存在意義への確信を深めることを呼びかけ、日常的に担当している事務労働が、3つの役割に通じていることを集団として確認していくことが重要であると提起しました。

(薬剤)
 新卒薬剤師確保は回復傾向ですが、退職者数は依然として多く確保・育成と定着が引き続きの課題です。奨学生は、全国的には2017年4月時点325人で増加、奨学生を確実に民医連薬剤師として迎えられるためのサポート体制、薬学生担当者の配置が必要です。実務実習、事業所見学・インターンシップなどのとりくみを充実させましょう。
 中小病院の薬剤師確保は困難を抱えています。長崎民医連への薬剤師支援を10月より開始しました。確保と定着が図られず薬局運営が困難になるケースも発生しています。薬局の困難や課題を病院管理部が把握し、病院全体の課題として改善することが大切です。
 保険薬局では健康サポート薬局としての機能をさらにすすめます。保険薬局における無料低額診療事業の対応について、厚労省との懇談を行いました。薬価改定、処方箋枚数の減少、調剤報酬改定などの影響で、経営が厳しさを増しています。経営管理の強化が求められます。
 2016年7月、福岡・大阪・名古屋・東京の4地裁で、HPVワクチン接種に伴った健康問題に対して、国と製薬企業を相手に集団訴訟が始まりました。現在、原告119人で裁判が行われています。健康被害を訴える方とその家族に寄り添い、裁判傍聴や健康問題の現状について学ぶとりくみをすすめています。

(歯科)
 歯科医師養成の活動は、奨学生、青年歯科医師、中堅歯科医師と世代別のとりくみが定例化されています。青年歯科医師会議では、奨学生会議と合同の日程で靖国神社フィールドワークと憲法についての学習、第3回中堅歯科医師交流集会は「労働」をテーマに開催しました。民医連中堅歯科医師の民医連歯科医師としての成長と中堅のつながりを強め交流を深める場として重要な役割を果たしています。集会では、中堅歯科医師が民医連で働き続けること、そのためにも同世代の(中堅)歯科医師の交流が大切であることを確認しました。
 歯科技工士部門は、2015年の歯科技工士交流集会報告集をまとめ各事業所に技工士の現状と展望について発信しました。
 歯科衛生士部門は、はじめて単独で全国交流集会を開催し地協代表者会議の再構成と複数開催も確立しました。高齢社会における口腔ケアの重要性や生涯を通じた予防活動の役割が重視される中で、専門職としての歯科衛生士の役割はますます重要となっています。今後は、歯科衛生士の集団化・組織化と合わせ、「民医連の歯科衛生士活動とは何を目指すのか」などを確立していくことが求められます。
 歯科事業所では、事務長が配置されていない事業所があるなど事務幹部育成のための具体的な着手をすすめていくことが必要です。
 歯科の経営活動について、2016年度歯科経営実態調査では、黒字事業所比率は72.4%(2014年度67.8%、2015年度70.2%)となり、過去最高の黒字比率、額で5億3600万円余(黒字率3.2%)となりました。その要因は、患者結集を追求し患者増加、訪問診療が前年比で9.3%増加し、事業収益でも増加しています。診療構造の転換による材料費、技工委託費の減少により費用は収益の伸びの範囲に収めており、「増収増益」の体質に変化しつつあります。赤字が固定化し困難な事業所に対する現地調査を行いました。

(リハビリ)
 リハビリ集団の組織化と幹部育成、医療・介護活動の2つの柱のリハビリ部門での実践、リハビリ技術者としての社会への発信行動、の3点を重要課題としました。42期ではリハビリ技術者幹部講座を初めて開催し、平和、経営、幹部としての姿勢と覚悟まで幅広く学び深めました。
 また10年ぶりに民医連における「リハビリテーションのあり方提言」を改定し、学習会はほぼ全国の部会、事業所等でとりくまれました。ICF(※注)の理念とSDHの視点を持ち、人権・健康権を守る為に行動する、といった訴えに大きな反響がありました。今後、リハビリの診療報酬の包括化の流れ、アウトカム評価の強化やリハビリの終了・卒業を前提とした加算、貧弱な基盤の上での総合事業の拡大など、重大な変化が危惧されています。しかし、リハビリ技術者は制度の枠にかかわらず、多様な場面で対応が出来る強みがあります。幹部を先頭に、「知る、つながる、行動する」事で困難を打開する集団に成長する事が求められています。

(検査)
 民医連の検査技師からの要求を、職能団体である日本臨床衛生検査技師会の設立母体別会議に参加し、伝えるなどの活動をすすめています。全国的な民医連の検査技師の交流集会を2017年秋に開催しました。医療・介護活動の2つの柱で、民医連の検査技師がどのような役割を果たしていくのか議論し、チーム医療における役割の深化がもとめられています。

(放射線)
 放射線技師施策(2013年)にそって、女性技師の増加や世代交代をみすえた職場環境の整備、技師集団の育成、安全性の向上などにとりくんでいます。35歳以下の放射線技師を対象に、研修の状況や民医連への共感、職場に対する思いなどアンケートを実施し、2018年11月に開催する全国代表者会議に反映します。医療被ばく低減施設の認定取得(現在4施設)をすすめています。

(栄養)
 入院給食費は、2018年から460円/食の自己負担増となります。今後、金銭的な問題から入院食をとれない状況に追い込まれる患者が増加することが懸念されます。改めて病院食が治療の一貫という立場でのとりくみが重要です。①食の安全と災害時の給食、②嚥下対応食(嚥下調整食)、③民医連を担う職員教育・育成、④経営改善とセンター・委託化の共有、⑤チーム医療における栄養部門の役割の強化について、引き続きとりくみを強めていきます。今期は「民医連栄養部門基礎調査(4年毎)」を行い、各事業所のとりくみが集約されています。積極的に活用していきましょう。

(SW)
 格差と貧困が拡大していく中で、民医連SWは患者・利用者の生活に真摯に向き合い、人権を守る立場から憲法で保障された権利としての社会保障を充実させるため日々活動してきました。前期全日本で初めて開催した中堅職員研修会は近畿地協、九州沖縄地協でとりくまれ、他の地協でも準備が開始されています。2017年6月に病院SW、老健支援相談員を対象に退院、退所にかかわる業務について「SWアンケート調査」「病院・老健概況調差」を行いました。42期は医療部のSDH研究班による貧困介入研究と『いつでも元気』編集委員会へ代表を送りました。現在4年に1度のSW政策指針の見直しを行っています。

(保育)
 2018年4月より保育所保育指針が変わりますが、今後も親の働く権利を守り、子どもたちの豊かな発達が保障されるようとりくみます。

(鍼灸マッサージ)
 保険で安全に鍼灸マッサージ治療が受けられるよう、要求をまとめ厚生労働省との交渉を進めてきました。

第8節 全日本民医連の活動

(1)理事会活動、地協活動
 毎月の理事会、部会活動を軸に全国方針を打ち出してきました。理事会、部会、委員会を合わせると全県連からの参加で全日本民医連の活動がささえられています。また世代交代の時期、新任理事研修の実施や、各月の理事会学習の開催など理事自身が学びながら民医連運動をすすめてきました。
 42回総会で、地域医療構想など都道府県を単位とした運動がより重要となる時代として「県連の出番」を強調し、とりくんできました。県連事務局長研修会、地協・県連を単位とした事務幹部や幹部養成のとりくみ、経営活動のとりくみがすすみました。また、いくつかの専門部では地協単位で構成され、県連、事業所との風通しをよくし、とりくみが強められました。
 複雑で急激に展開する情勢の下で矢継ぎ早に出される国の施策に対し、理事会や各専門部が学習と研究を深め、政策的力量を上げていくことが課題となっています。全国会議の多さ、集会開催時期の問題、「問題提起」のあり方なども、今後改善が必要です。
 震災、天災が多発する中、熊本をはじめとした被災県連への全国、地協からの支援のとりくみ、いくつかの経営困難法人への支援など全日本民医連の連帯の力が発揮された2年間でした。2017年12月、郡山医療生協が経営困難に陥り、経営困難支援規程にもとづく要請を法人と福島民医連から受け、現地調査を実施、1月理事会で全日本民医連郡山医療生協経営対策委員会を設置しました。

(2)学術・運動交流集会、国際活動、共済活動など
 2017年10月に茨城県つくば市で開催した全日本民医連第13回学術・運動交流集会は第42回総会方針に沿った3つのメインテーマを掲げ、全県連から1150人が参加しました。分科会は690演題が集まり、4つのテーマ別セッションと合わせ、おおいに学習と交流を深めました。奈良女子大学大学院の中山徹教授が「政府がすすめる地域の再編に対して、安心して暮らし続けられる地域をどう展望すべきか」をテーマに記念講演を行いました。
 韓国をはじめとする国際活動が活発に行われました。韓国の青年医師や医学生らが、原水禁世界大会に参加し(2016年広島大会18人、うち医学生10人、2017年長崎大会14人、うち医学生8人)民医連職員と交流を深めました。全国青年ジャンボリーへ緑色病院(韓国)から3人の職員が参加し、その後代々木病院で同じ職種が活動する現場の見学と交流を行いました。また韓国の医師が民医連の高齢者医療・介護について西淀病院等での研修を行いました。さらに、市民の健康増進を研究するメンバーが富山民医連の事業所に見学に訪れました。学術・運動交流集会では、健康権を守る日韓の運動と実践を学ぶことをテーマに国際フォーラムを行いました。韓国・人道主義実践医師協議会が設立30周年を迎え、全日本民医連としてレセプションへ参加しました。
 また、フランス国際シンポジウムに招待を受け代表を派遣しました。いずれも、世界的な新自由主義の広がりの中で、反緊縮、健康権の実現へ向けた各国の運動の広がりを確信する交流でした。キューバ視察にとりくみました。中国における旧日本軍遺棄化学兵器被害に対し、引き続き被害者検診や裁判支援に協力しました。その過程で自律神経障害や高次脳機能障害とその後遺症についてあきらかにしてきました。チチハルで初めて中国の医師と協力して検診を行い治療につなげることができました。曝露から10数年経過し、ガンの発症や高額な治療費などの課題があります。
 全日本民医連の共済は設立45年を迎えました。2016年4月の熊本地震で被災した職員への災害見舞金給付は約100件に及び、全国の連帯が発揮され、熊本民医連の職員を励ましました。
 「民医連の共済テキスト」を発行し学習運動にとりくみ、県連理事会をはじめ、県連・法人共済の役員会などで学習会が開かれました。学習運動の目的は、民医連と民医連共済の関係、民医連運動における共済活動の意義を正しく継承することや、新自由主義が猛威を振るい「自己責任論」が強まる中で、民医連共済の役割を再確認することでした。学習を通じて、あらためて民医連共済の歴史と理念、意義と役割が理解されました。特に、民医連共済は民医連運動と一体不離の関係で発展していることや、全職員が加入することを原則としていることが確認されたことは重要です。
 非営利・協同総合研究所「いのちとくらし」長期ビジョンにもとづき、共同組織についての研究を進めてきました。今後、医療政策に関連した取り組みも進めていきます。
 介護の未来がかかった裁判として長野県民医連特養あずみの里裁判への全国支援にとりくんできました。起訴から3年、第1回公判から2年8カ月が経過しました。この裁判は、ずさんな捜査によって不当に起訴されたものです。2017年7月から証人尋問がはじまり、あずみの里の職員をはじめ医師も証言台に立って一つ一つ事実を明らかにしていく中で、被告の無罪を主張しました。裁判はいよいよ終盤を迎えようとしています。この間、多くの民医連職員が裁判傍聴に駆け付け、法廷内のたたかいを注視しています。また、法廷外では県連、法人、事業所で支援者集会や学習会が数多く開かれ、弁護士とあずみの里職員が講師として参加しています。無罪を勝ち取る会が提起した署名は14万筆を超えました。

第4章 43期の活動方針

 今後2年間、民医連は、第一に、新自由主義・経済のグローバル化と軍事大国化による貧困と格差の広がりと戦争を止め、平和と人権のために9条改憲と社会保障解体を許さないたたかいをすすめます。第二に、医療・介護活動の2つの柱の実践を各事業所や部署で目標を持ってすすめます。第三に、共同組織とともに安心して住み続けられるまちづくりの運動、住民本位の自治体づくりに本格的にとりくみます。そしてこれらを通じて、非営利・協同、地域の共同の財産である民医連事業所の経営を断固として守り抜きましょう。
 民医連とその事業所に対する地域の人々の信頼は、民医連綱領にもとづく医療・介護を実践し、健康権・生存権の担い手として奮闘する一人ひとりの職員への信頼から生まれます。事業所は、すべての職種の技術、技能の修練と社会的な使命の自覚が促進されるよう支援し、さらに人間的な発達のできる組織になるよう実践しましょう。
 そして、市民社会を形成する個人、団体が自らの役割を自覚し、政治参加し、力を合わせて希望を実現する、その架け橋としての全職員、共同組織の皆さんの奮闘を呼びかけます。

第1節 憲法をまもり、生かし、平和な日本と北東アジアを

 ノーベル平和賞授賞式で被爆者であるサーロー節子さん(カナダ在住)は「核兵器は、必要悪ではなく絶対悪であること」「(核兵器の存在は)人類を危機にさらしている暴力システム」であると痛烈に核抑止力論を批判し、すべての国に核兵器禁止条約への参加を呼びかけました。アメリカであれ、北朝鮮であれ、また事故による暴発やテロであれ、朝鮮半島で核兵器が使用される事態になれば、日本、アジア全体は壊滅的な被害となることは自明です。
 北朝鮮の核開発やあいつぐミサイル発射などに対し、安倍首相は「対話でなく圧力」、「核の先制使用も選択肢」としたアメリカとトランプ・安倍共同声明(17年2月)を出しました。憲法とともに、被爆国としての役割も放棄し、核兵器を自ら使用しないまでもアメリカが核兵器を使用することを容認するという異常な核抑止力の立場を鮮明にした外交をすすめています。アメリカが7000発もの核兵器を保有しても、北朝鮮の核開発を抑止できませんでした。核に頼ろうとする北朝鮮のような国があるからこそ、核兵器禁止条約が必要です。理想ではなく核戦争を防ぐためには核抑止力論よりもはるかに現実的な政策です。日本と韓国が、「アメリカによる一切の核使用に協力しない」と政策を変更すれば、この壊滅的な危機を回避する方向へと向かいます。日本、韓国、北朝鮮が核兵器禁止条約に入ることで北東アジアに非核兵器地帯を生むことができます。
 武力によらない平和主義を定めた憲法を持つ日本こそが、それを力に外交に当たることが決定的に重要です。非戦の憲法9条、核兵器を廃絶する、この2つは日本国民が戦争から得た最大の教訓です。どちらも壊そうとしている安倍政権こそが、日本と北東アジアの平和にとって最大の脅威です。
 憲法9条を守り抜くことが43期の最大の運動です。改憲の発議を許さず、9条を積極的に実践していくことが大切です。それは、民医連綱領そのものの実践です。「核兵器禁止条約を批准しよう」「戦争より社会保障に財政を」「沖縄の海にも陸にも基地はいらない、平和で豊かな沖縄を」、この声を響かせましょう。

(1)安倍9条改憲ストップへ、共同を広げ3000万署名を推進し改憲発議を止めよう
 自民党はできれば今の通常国会、遅くとも秋の臨時国会で憲法改正の国会発議を行うとしています。今年前半の運動が大切です。戦後、平和と人権を守ってきた憲法を決して変えさせない、この国民的な大運動を必ず、やりあげましょう。
 安倍9条改憲NO!全国市民アクションのすすめる全国3000万人署名の達成で9条改憲ストップの世論を可視化しましょう。3000万の声が集まれば、発議は容易にはできません。万が一改憲案が発議されても、国民投票で改憲を阻止するたたかいの大きな基盤となります。9条の会をはじめ、すべての地域で広範な共同を作り上げていきましょう。民医連の目標は4月末までに、300万です。
 安倍9条改憲の危険な内容を職員・共同組織で学び、運動を広げることが鍵です。憲法学習第2弾のDVDを使った学習運動に100%の職員が参加しましょう。
 発議された場合、全国会議を開催し特別の体制と方針を確立します。改憲阻止を勝ち取りましょう。

(2)辺野古新基地建設の中止、米軍の全土展開に伴う基地反対の運動を全国で強めよう
 戦争する国づくりを止める上で、安倍9条改憲ストップとともに、米海兵隊の最新鋭出撃基地とされようとしている沖縄の辺野古新基地建設、米軍機が約130機も常駐する東アジア最大の米軍航空基地にされようとしている山口・岩国基地など日本全国の米軍基地強化反対の運動をすすめましょう。また米軍再編・強化と一体にすすめられている自衛隊基地強化にも反対していきましょう。辺野古への新基地建設は、砕石搬入などを強行し工事を行っていますが、オール沖縄のたたかいと全国から支援する市民の非暴力の粘り強い運動により予定通り工事はすすんでいません。
 2月4日に行われた名護市長選挙では、2期8年間、辺野古の海にも陸にも基地は作らせない、子ども達の豊かな未来を名護市民自身の手で作り出そうと奮闘してきた稲嶺市長の三選が残念ながら阻まれました。
 今回の選挙結果は、名護市民が辺野古新基地を受け入れたものではありません。選挙を通じて、7割近い市民が辺野古新基地建設に反対の意思表示をし、当選した新しい市長も、辺野古新基地建設を進めるとは一度も発言せず、公約には海兵隊の県外への撤去も明記しています。選挙後も、「選挙結果が辺野古新基地建設に対する名護市民の容認の意思を示すかどうか」と問われ、「そうとは思っていない。私は容認ということで選挙に臨んでいない」と述べています。
 支援した自民党、公明党、維新の会は「普天間」も「辺野古」も一言も触れず市民の最大の関心事である争点を隠しました。また、滞在的観光地として経済を活性化し、全国の市町村でも有数の人口増加を実現している稲嶺市政の実績に対し「名護市経済の遅れ」、「閉塞感」などと事実にもとづかない嘘の宣伝に終始しました。
 市民に、辺野古新基地建設推進を一度も明言しないまま当選した新しい市長が工事を推進することは許されません。民意に沿い市長権限を行使し、工事をストップするよう求めていきます。
 引き続き辺野古新基地建設反対と高江ヘリパッド建設の撤回のたたかいに連帯し支援を続け、11月の沖縄県知事選挙で翁長知事再選のため、全国から連帯を強め、奮闘しましょう。
 名護市沖やオーストラリア沖で墜落し死傷者がでるなど重大な事故が続き、事故率が9月末時点で海兵隊機全体の平均を上回っている欠陥機オスプレイが日米共同訓練の名の下で、全国の市街地上空を飛び回っています。言語道断です、即時撤去を求めます。

(3)核兵器禁止条約の歴史的成果に立ち、ヒバクシャ国際署名の飛躍と被爆者支援に全力を
 核兵器禁止条約の採択により、核保有国がさらに厳しい立場に追い詰められています。核兵器禁止条約の発効、核兵器廃絶まで、ますます大きな運動が求められています。条約にはすでに56カ国が署名し、4カ国が批准しています。条約発効の基準である50カ国の批准を早期に達成することが焦点です。核保有国や日本も含む同盟国での運動と世論が決定的です。引き続き被爆者とともに世界に広島・長崎の被爆の実相を知らせ、核兵器廃絶の世論を高め、唯一の戦争による被爆国にふさわしく、核廃絶の先頭に立つ日本政府に変えていかなくてはなりません。
 ヒバクシャ国際署名は2020年までに世界で数億人の目標でとりくんでいます。2018年から19年、この目標に到達するための飛躍が世界を変えることになります。
 民医連として、総会までに100万筆、NPT再検討会議が開かれる2020年までに300万筆達成するよう、節と目標を定めて署名にとりくみます。あらゆるつながりを生かしてヒバクシャ国際署名を地域でひろげ、各地域で署名推進連絡会を立ち上げ、世界の流れは確実に核兵器廃絶の実現に向かっていることを広く知らせ、核兵器廃絶の大きな世論を起こしましょう。そして日本政府に核兵器禁止条約の署名・批准を迫りましょう。
 原爆症認定集団訴訟(2002年開始)は、2009年に「原爆症集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」が取り交わされたにもかかわらず認定申請の却下があい次ぐ中、2010年より「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」が始まりました。政府が新しい審査方針(※注)を再改訂し、爆心付近で被爆していても原爆症と認めないため、多くの被爆者が苦しみ続けています。
 昨年11月、広島地裁が「原爆症の認定の取り消しが不当である」ことを求めた原告12人全員の訴えを却下し、これまでの「原爆症認定」を求めて積み重ねてきた「集団訴訟」の流れに逆行する判決をくだしました。原告は亡くなった1人を除く11人が控訴し、裁判闘争が続きます。
 今年「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」は大きなヤマ場を迎えます。大阪高裁(1月16日判決)をはじめ、結審・判決が続きます。これまでに高裁3カ所(東京、名古屋、福岡)、地裁3カ所(大阪、広島、熊本)で民医連の医師が証言に立ち、昨年は東京高裁で医師2人が証人尋問に立ちました。国・行政の怠慢、被爆者援護法の精神に基づいた被爆者救済が行われていないこと、国側証人の指摘の問題点などを明らかにし、被爆者によりそい、国による切り捨てを許さないとりくみをすすめましょう。
 広島・長崎の被爆者は、この2年間で1万8898人が亡くなり、2017年3月末時点で16万4621人となりました。平均年齢は81.4歳と高齢化し、医療・介護、生活支援の必要性がますます高まっています。被爆によって家族を失い、家を失い、就労や結婚の機会を奪われ、貧困、孤老の被爆者が多くいます。老後への不安を抱える多くの被爆者の思いに寄り添い、医療介護だけでなく、生活そのものの支援にとりくみます。

第2節 いのちと人権を守り抜く運動、原発ゼロへ向けて

 2018年、安倍政権による社会保障解体が、本格的な実行段階を迎えます。43期はいのちと人権を守り抜く正念場の年です。
 「無差別・平等の医療と福祉の実現」「すべての人が等しく尊重される社会」をめざす組織である私たちにとって、社会保障運動は「存在意義そのもの」であり、「たましい」です。
 社会保障解体の岐路にたつ今こそ、共同組織、患者・利用者、地域住民とともに、日本国憲法と人権としての社会保障を守り生かしていきましょう。

(1)日常診療・介護の実践の中から、事例にこだわり「学び、つかみ、つながり、広げる」社保活動を強化しよう
 民医連は、現場で困難な患者、利用者に寄り添い医療、介護を実践していることに強みがあります。社会的処方を通じて一人ひとりを救うとともに、貧困の中で苦しんでいる患者や患者になれない病者の事実の重さを知っている私たちが声を上げ、実態・事実を「見える化」し、広範な世論をつくり、さらに運動を強めましょう。そのために、「気になる患者カンファレンス」「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」「生活保護実態調査」「熱中症調査」「寒冷地調査」「介護困難事例調査」「共同組織アンケート」「高齢者アンケート」、無料低額診療事業をとりまとめた「救ったいのち事例」「歯科酷書第三弾」など、事例をつかむ多彩で優れたとりくみをSDHに基づいて評価・アセスメントし、改善方向を明確にし政策化しましょう。
 記者会見やマスコミへの働きかけを行い、報道されることによって世論形成がはかられることは、民医連職員や共同組織の民医連の医療・介護活動への確信にもつながります。こうした「見える化」の活動を通じて、幅広い共闘の構築と運動化につなげていきましょう。

(2)事例にこだわり、職員の学習を重視しよう
 この間の全面的な社会保障改悪に対し、「あまりに急速で学習が追いつかない」「改悪の内容が広すぎて、街頭署名で説明ができない」などの声も出されています。「現場での気づき」を大切にして、自らの職場・仕事に引き寄せて具体的な問題点・疑問点を出し合うことこそ、今求められる活動です。いのちの重さを踏みにじる社会保障改悪に対抗して「事実の重さ」を力に、学び発信する「すべての職員の参画による社保活動」の第一歩です。事例にこだわり、患者・利用者から学んだ地域の課題、医療、介護福祉の実態をSDHと結びつけ、「改善」「予防」するとりくみの強化へ結び付けていきましょう。そのことによって医療・介護にとどまらない、総合的な社会保障を求めるたたかいを展望し、安心して住みつづけられるまちづくりの課題にも結びつけていきます。
 全日本民医連として、情勢に合わせ学習資料、宣伝物をタイムリーに作成します。

(3)受療権保障を社会保障を守る入口に、 アウトリーチの体制確立を
 受療権を保障するための支援やとりくみは、社会保障を守る「入口」となります。総合的な生活保障のためには「受療権」だけではなく「所得保障」「教育」「居住権」「介護・保育・障害などのケアサービス」などが必要です。社保協や障害者団体、難病患者組織、高齢者団体などと連携をすすめ、総合的な生活保障が行えるようにしましょう。
 民医連がめざす「無差別・平等の地域包括ケア」、安心して住み続けられるまちづくりは、事業所の中にいるだけでは実現しません。日常的にすべての職種と共同組織で、アウトリーチでニーズを把握し、権利として医療と介護、くらしを一緒に取り戻しましょう。

(4)「成功体験」の共有化と拡散、共同組織・住民運動や地方自治体との連携を強め、全国的な運動へ
 全国各地で社会保障拡充にむけた貴重な経験が蓄積されています。保険薬局の無料低額診療事業適用や「薬剤費の助成」制度では、全国7自治体で「薬剤費の助成」制度が行われています。2012年5月の中核市長会、2016年及び2017年の大都市民生主管局長会議では、それぞれ国に対し、「無料低額診療に係る調剤のあり方については、国が責任を持って対応すべき」と要望を提出しています。全県連で地方自治体による「薬剤費の助成制度」実現を要求しましょう。全日本民医連としても引き続き厚労省への要請にとりくみます。
 北海道では広範な運動により、北海道教育委員会が道内各市町村教育委員会に、就学援助家庭に「無料低額診療事業」を周知するよう指示し、市町村教育委員会が具体化しつつあります。その教訓を生かして、自治体要請にとりくんだ沖縄でも同様の措置が取られました。こうした「成功体験」、成果を共有し全国の運動へ発展させ、成果を全国的に広げていきましょう。そのために、医療福祉労働者・労働組合、患者団体、障害者団体、家族団体、医療機関、職能団体、教育団体、弁護士会、司法書士会など運動の幅広い共闘をつくり上げましょう。また自治体との連携を強化しましょう。
 野党共闘が社会保障分野でも前進するよう、都道府県議会でも国会でも働きかけ、自治体や国の政策を住民、国民の立場に立った政策へと転換させる運動もすすめましょう。

(5)社保協活動の強化
 県社保協へ結集を強め、事業所や共同組織のあるすべての地域での地域社保協の結成、活動の活性化にとりくみ、地域に社保協の旗を立てて地域住民のよりどころとなるよう、責任を持って個人や運動団体と協力し社保活動を強めましょう。自治体キャラバンや自治体との懇談に積極的にとりくみ、ともに権利としての社会保障を実現する立場で、行政とも向き合いましょう。

(6)消費税に頼らない財源を明確にした社会保障政策の合意づくりを
 安倍政権のもとで、消費税増税8.2兆円、年金削減、医療・介護の負担増等の社会保障改悪で6.5兆円もの負担が国民に押し付けられてきました。一方、大企業は4兆円の減税、軍事費は、5年連続の増加となっています。安倍政権は、全世代型の社会保障と称して「消費税10%」引き上げの一部を教育・子育てに回す、そして高齢者等への負担増を強行しようとしています。教育・子育て充実への切実な願いを人質に消費税の10%への引き上げを必ず実行するとの宣言です。消費税は所得の低い層ほど負担が大きく、財源として消費税に頼れば、格差はさらに拡大します。また必ず増税による消費不況を招き、暮らしと経済がさらに打撃を受けることは間違いありません。
 消費税引き上げは中止し、富裕層・大企業への優遇をあらため、応能負担にもとづく、税制の改革、400兆円を超える大企業の内部留保の活用、すべての国民が人間らしく生きられる社会への転換に回す、こうした財源を明確にした社会保障制度が野党共闘の政策に明確に位置付けられるようにしていきます。
 「人権としての医療・介護保障」をめざす民医連の提言で示した「所得再分配を強める税制改革」「応能負担原則にもとづく社会保険料の確保」「内需を拡大し、地域経済の発展、賃金のアップによる社会保障の充実」など今日的に豊かな内容にして政策提言として充実させていきます。
 また、TPP11(※注)、日米FTA(※注)など、多国籍企業が活動しやすくし、いのちより儲けを優先させる枠組みがくり返し作られようとしています。国際的な運動・連帯も強め反対していきます。

(7)高すぎる窓口自己負担の改善・廃止、子ども医療費助成制度拡充など、保険で良い医療・介護を受ける権利を広げよう
 窓口一部負担金が受診抑制につながり、受療権が剥奪されています。最近はがん治療が外来で実施され、高額な治療薬が長期間使用されることも多く、中断せざるを得ない患者もいます。こうした受診抑制や中断事例などの事態を明らかにして社会問題化し、高すぎる窓口負担の改善、廃止を実現しましょう。
 子どもの医療費助成制度の拡充は、子どもの貧困対策としても重要です。PTAや「子どもの貧困問題」にとりくむNPOや教育関係者、医師会など幅広い共同で、国の制度として義務教育終了時までの助成制度を実現し、さらに18歳以下までの助成制度をめざしましょう。また一部負担金の撤廃を求めていきましょう。子ども医療費や介護保険の福祉用具購入費や住宅改修費などの「償還払い」制度は、受診・利用抑制につながります。現物給付方式を全国一律に実施させましょう。

(8)無料低額診療事業制度の拡充と可視化、すべての事業所が無料低額診療事業の申請を
 低賃金・低収入や自己責任論の影響など深刻な実態がすすむ中、無料低額診療事業が医療継続になくてはならないことが明らかになっています。プライバシー保護に十分留意して無料低額診療事業の実態を可視化し、社会保障制度の問題点や運用上の歪みを明らかにし、社会保障充実のたたかいに結びつけましょう。無料低額診療事業の当事者自身が声を出し立ち上がることは重要です。当事者に過度な負担を与えないように十分配慮しながら、その実態を発信し、ともにたたかいましょう。無料低額診療事業を、共同組織の機関紙や班会でも大いに周知しましょう。
 改めて全ての民医連の対象事業所が無料低額診療事業に挑戦するとともに、自治体病院など民医連以外の医療機関も無料低額診療事業にとりくむことを大胆に提起しましょう。また、多くが持ち出しとなっている現状を踏まえ、適切な税制措置を求める運動を強めましょう。千葉民医連の事業所が千葉県福祉医療施設協議会に加盟し、民医連外の無料低額診療事業を行う事業所と情報交換している経験や、民医連外の実施医療機関や学者、マスコミ関係者も参加する近畿無料低額診療研究会の活動などに学び広げましょう。

(9)地域医療構想、国保財政の都道府県移管と国保法44条、77条の改善、生活保護改悪許さず拡充を
 2018年、医療提供体制を縮小するために地域医療構想が地域医療計画として動き出します。県内の医療圏ごとの運動を、医療団体・関係者とともに高齢者救急の崩壊、多数の介護難民の発生などの問題点を明確にし、世論をつくっていきましょう。また公立病院の縮小・削減などにも地域医療の確保の観点から共同した運動を重視します。
 国保財政運営の都道府県への移管に伴い、国保料が急増する市町村が少なくありません。滞納の増加も想定されます。その実態を可視化し、国保法44条、77条を実効あるものにする要求運動を全国的に大いに展開しましょう。恒常的低所得者への保険料・窓口負担金の減免の実現が重要です。
 小田原市職員の事件に象徴されるように、生活保護行政の中で「自己責任論」の蔓延と、受給者の権利を侵害する実態が広がっています。2018年度の生活保護基準の見直しにおいて、厚労省の生活保護を一般貧困世帯に合わせて引き下げるという本末転倒の提案は受け入れるわけにはいきません。一般困窮世帯への支援こそ国がやるべきことです。生保基準の引き下げは、住民税非課税限度額や就学援助など他の制度にも波及し、ますます低所得者の生活を圧迫し貧困を拡大させます。いのちのとりで裁判全国アクションが提起する支援行動や署名宣伝へのとりくみなど、改悪を許さず拡充させる運動を強めます。国は、「後発医薬品の使用促進や頻回受診対策による医療扶助の適正化等にもとりくむ必要がある」とし、頻回受診者に対する償還払い制度創設の検討にも言及しています。生活保護受給者の受療権を守る運動として改悪反対にとりくみます。
 全国生活と健康を守る会、社会保障研究者とともに、2018年に「健康で文化的な生活」全国調査の実施を予定しています。国民の生活実態と住民の意識を明らかにし、「健康で文化的な生活」とは何かを提言する基礎資料を得ることを目的に行われます。積極的にとりくみましょう。

(10)原発ゼロ・原発事故被害者支援のとりくみ
 原発ゼロの未来へ、これが多くの国民の願いです。私たちは原発推進政策の転換を求め、「原発ゼロの日本実現」の一点での共同を粘り強くすすめながら、原発推進政策の転換を求める運動の前進をめざします。原発再稼働の根拠とされているエネルギー基本計画を見直し、原発再稼働をやめさせ、再生可能エネルギーの比率を大幅に増加させることを求めるとりくみをすすめます。
 福島の実態が報道されない状況は、原発事故などまるでなかったかのように、原発再稼働を推しすすめる安倍政権の意向と深く結びついています。私たちは福島の現実を学び、福島に寄り添い、福島とともに住民本位の復旧・復興をめざし、支援連帯行動を継続します。
 原発事故を収束させ、廃炉へとしていくためには、原発労働者の健康を守る必要があります。引き続き、原発労働者の健康相談活動にとりくみます。また東京電力福島第一原発で働いた経験をもつ労働者も全国に多くいます。全国各地で一般診療を受診する可能性があり、健康問題に関する不安や相談事に応えていくとりくみをすすめます。

(11)2019年春の一斉地方選挙、夏の参議院選挙と民医連の立場
 憲法を無視して暴走する安倍政権の憲法9条改悪、社会保障解体をストップさせ、住民本位の地方自治を作り上げていくうえで、2019年春の一斉地方選挙、夏の参議院選挙のふたつの全国的な選挙は重要な意味を持ちます。
 暴走を止める道は、市民と野党の共同、共闘の力を前進させる以外にありません。今とりくんでいる3000万署名、社会保障解体ストップの市民運動の高揚と野党の共闘を強め、安倍政治を終わらせましょう。
 私たちがめざすのは、憲法にもとづき、個人として尊重される政治を実現することです。県連、事業所もとりくみの具体化をはかるとともに、すべての職員・共同組織の仲間が、「主権者」として参加することを呼びかけます。

第3節 医療・介護活動の2つの柱をさらに前進させ、地域包括ケア時代に民医連の新たな発展期を築こう

(1)民医連の医療・介護活動の新たな「発展期」を築こう
 現在は、社会経済状況と疾病・死亡構造が変化し、医療・介護の提供体制、医師・コメディカルスタッフ教育制度がターニングポイントを迎えており、民医連の医療・介護活動と後継者養成の新たな「発展期」をつくる時です。その「発展期」をつくり出す客観的な条件は、①超高齢社会の到来とともに疾病構造や健康概念が変化し、生活モデル(生物・心理・社会モデル)での介入なくしては地域住民の健康を守れない状況が明らかになってきていること。②日本で広がる貧困と健康格差に立ち向かい、すべての人々の健康権を守る無差別・平等の医療・介護が求められていること。③SDHへの認知度が進み、健康格差対策が政策レベルの課題になり始めていること。④2018年から医学教育のコアカリキュラムにSDHが位置づけられたこと。⑤自治体や医療機関、介護・福祉事業所、NPO、町内会など、今までになく地域に共同・連携の担い手が広がり前進していることなどです。
 まさに疾病を生活と労働の場から捉え、地域に根ざした保健予防活動や在宅医療・介護などに積極的にとりくんできた民医連への注目と期待が高まっています。
 これらの客観的な条件を生かし、地域包括ケア時代に医療・介護活動の新たな「発展期」をつくり出していく上での基軸が医療・介護活動の2つの柱の実践です。

(2)医療・介護活動の2つの柱の実践を通して、無差別・平等の地域包括ケアを切り拓こう
①無差別・平等の地域包括ケアの探求と実践

 無差別・平等の地域包括ケアの土台となるのは、基本的人権が尊重され誰も置き去りにされない地域社会であり、それを保障するのは、公的制度の拡充と地方自治、民主主義です。
 各法人・事業所では、医療・介護に関わる自治体の計画の情報収集や詳細な分析と同時に、地域住民の実状や要求、民医連以外の事業所の動向などをリアルに把握することが必要です。各事業所の医療・介護機能を地域に生かすためには、地域の事業所、地域医師会、住民団体やNPO等との積極的な連携が重要です。
 特に2025年に700万人に増加すると予測される認知症へのとりくみは、日常の医療・介護実践の大きな課題です。地域や共同組織と協力しながら「認知症カフェ」などに旺盛に取り組みながら、全日本民医連が発刊する「認知症実践ハンドブック」を参考に、医療・介護、職員育成、まちづくりの課題を総合的に進め、認知症になっても安心して住み続けられるまちづくりをすすめましょう。また、精神医療委員会がまとめた「基盤としてのこころの診療推進方針案」は、医療・介護活動の2つの柱の実践の上で欠かせないものとなっており、精神科医のいない事業所を含めてよく討議し、課題を明確にしましょう。

②総合的な医療・介護の質の向上のとりくみ
 質の向上のためには、患者の人権を尊重した「共同のいとなみ」を各課題で貫くことを重視し、多職種協働の視点でチーム全体の機能・役割を高め、職場間・職種間の権威勾配の解消、安全や倫理等の職場文化の醸成が求められます。そのための有効なツールとしての「チームSTEPPS」を医療・介護の現場に本格的に普及、定着するために、トップ幹部を対象とした研修会の開催などを検討します。全日本民医連として介護安全のとりくみは、前期、緒についたばかりです。今期は、全面的に強化しなければなりません。法人、県連として介護安全委員会を設置し、組織的な対応をすすめましょう。対応が困難な小規模法人・事業所に対する県連の支援も必要です。前期提起した「介護現場の重大な事故に対応した危機管理の基本指針2018」に基づき、各法人・事業所において重大事故の対応方針、マニュアルの整備をすすめましょう。
 臨床倫理四分割法によるカンファレンスを実践し、倫理コンサルテーションなどをすすめていきます。また、介護分野や小規模事業所での倫理のとりくみを支援するため、県連の倫理委員会の確立と強化を図ります。
 この7年間の蓄積をもとに「民医連QI推進事業」のステップアップをめざして全病院への広がりと医療の質の改善・向上に結びつくとりくみを前進させて行きます。そのためにも医師の参加と民医連QI推進士の配置・養成を強化していきます。医療専門職にとって技術・技能の向上は、必須の課題です。さらに、その技術・技能の向上が、それぞれの地域の要求にあった技術展開であるかについて、専門職が集団的に議論することが大切です。超高齢社会では、医療・介護活動に倫理的な要素が多くあり、高齢者の手術や薬剤の使い方など人権や安全をどのように守るかが問われています。すべての人が年齢に関係なく自分に最も合った医療を受ける権利があるということを認識すべきです。

③各職場で健康格差対策へのとりくみを強めよう
 自己責任論に対峙し、健康格差対策をすすめるには、SDHの学習と理解だけでなくアドボカシー活動(※注)や社会的処方(※注)につながる日常活動、地域活動をいかに推進するかが重要です。
 事業所・職場では、①診療現場におけるSDHを見える化するための仕組みとツールを構築する(電子カルテへの問診票導入)、②貧困治療のための「経済的サポートツール地域版」を作成し、全職種で共有化し活用していく、③「SDH・社会的処方症例検討会」の開催や社会的処方・支援等のチームをつくり地域につなげていくとりくみを強めましょう。
 全日本民医連は、J―HPHと共同して「日本版貧困評価・支援ツール」や「ベストアドバイス日本版」などを発信し、医療・介護活動の2つの柱に基づく職員・医師のための「日本版貧困治療ワークショップ」の開催と、「SDH・社会的処方を学ぶための事例集」等を具体化します。これらを通して貧困を病因・病態の一つとして日常的に評価し、治療するという視点を持った職員養成につなげてゆきます。

④民医連らしい臨床研究を推進しよう
 医療・介護活動の2つの柱の実践に基づいた学術研究活動は、自分達の医療実践のまとめを振り返るとともに、貧困や格差がもたらす健康と生活への影響と困難な状況にある人びとの実状を見える化することです。「経済的事由による手遅れ事例」をSDHや社会的支援の立場から分析することや、無料低額診療事業の実態と医学的評価を社会に発信していくことが求められます。
 SDHやヘルスプロモーションに着眼した臨床研究は民医連に多くの優位性があります。広範な研究者との連携も含め,臨床研究を広げ発展させていくことは、民医連の役割や活動を社会に発信すると同時に、職員養成でも重要な意義を持っています。

(3)新たな「発展期」を築くために病院、 診療所を輝かせよう
 病院・診療所は、医療・介護活動の2つの柱を基軸に新たな「発展期」を築く役割と機能を発揮することが必要です。中小病院、診療所は、急性期や、外来、検診などこれまでのスタイルを事業所の中で待ちながらとりくんでいくだけではなく、貧困と超高齢化、認知症、生活の困難、孤立、孤独、育児や教育の困難などを抱える患者、利用者を地域の中で掘り起し、誰もが健康で安心して、暮らし、老い、最後まで生きられるまちづくりの役割・機能を輝かせましょう。
 民医連が「地域になくてはならない病院」として存続し続けるためにそれぞれの機能を見極めるとともに、あらためて地域におけるポジショニングと役割を明らかにし、具体的な計画をすべての病院で作成しましょう。
 民医連のDPC病床・病棟を有する病院が果たすべき役割は、①急性期医療分野における無差別・平等の医療・介護実践を貫くこと、②患者・住民の困難な現状を共有し困難事例を排除しない地域連携構築に参画すること、③地域医療・地域包括ケアにコミットできる総合的視点をもち、無差別・平等の民医連医療を担う専門医の確保と養成、④共同組織や住民とともに、急性期医療や地域連携の今日的課題を明らかにし、質向上につながる実践を積み重ね、地域に発信していくことです。
 民医連の地域包括ケア病棟は2016年86病院3119病床となっており、障害者病床や一般病床などから転換し、2015年と比べ18病院1027床増えています。無差別・平等の地域包括ケアの担い手となる病棟としての役割を果たしていかなければなりません。
 在宅や施設からの急性期疾患のサブアキュート機能や、急性期病床からの在宅復帰をめざしたポストアキュート機能、さらにはレスパイト入院など在宅患者、家族をささえる役割が求められています。
 「地域包括ケア時代」に求められる診療所の役割は、さまざまな課題が存在する地域の中で、単に、診療所だけの枠でなく、生活者の視点で地域をとらえ、医療・福祉の複合体の機能を発揮して、周囲の中小病院、開業医、介護・福祉事業所、NPO、町内会などと共同して地域の課題にとりくみ、「まちづくり」の有力な拠点のひとつとなることです。住民中心の地域ケア会議の実施や、充実した外来診療とともにアウトリーチで住民ニーズを把握し、住民本位の地域包括ケアを前進させていきましょう。
 「まちづくり」をすすめるためには、SDHの視点で地域の課題に気づける「人づくり」が重要です。地域や職種間の距離が近いという診療所の特性を生かして、地域密着・多職種協働で職員育成をすすめましょう。

(4)県連医活委員会の役割と課題
 ―法人・事業所への支援と情報発信 県連医活委員会の確立や機能強化は、医療・介護活動の2つの柱が全ての県連や事業所で旺盛に実現されるための組織的な保障です。医活委員会の活動は、県連の医師集団の中心的な課題であることを認識し、県連の四役を軸に医師幹部や県連・法人理事を中心とする委員構成とし、その活動に権限をもたせるしくみづくりが重要です。医療・介護活動の2つの柱の実践が、地域・事業所で多様性を持ってすすめられるよう、政策提案や推進の支援と情報発信を行う役割が医活委員会に求められます。民医連の医療・介護活動と運動の継続・発展のためには、若手・中堅職員が医活委員会事務局を担うことが必要です。
 全ての地協で医活委員長会議や医活担当者会議を開催し、現在、全日本民医連で行われている各種集会が地協ごとに行われるように計画・具体化していきましょう。全日本民医連は、地協や県連において医療・介護活動の2つの柱を具体化していく医活委員長や担当者の養成、各分野の推進者・専門家の養成を強化していきます。

(5)歯科分野
①「歯科事業所完結型」から転換し、連携のもとでの無差別・平等の地域包括ケアをすすめよう

 口腔ケアが誤嚥性肺炎を予防することはもちろんのこと、滑舌の低下や食べこぼし・わずかのむせ、噛めない食品の増加など口腔機能における軽微な衰え(オーラルフレイル=※注)は身体のフレイルの入口であり、早期発見、早期介入することが重要です。何よりも高齢者の「口から食べる楽しみ」をささえることはQOL向上に大きな効果をもたらします。地域包括ケアにおける歯科の役割は、虫歯や歯周病の治療のみならず、口から食べる機能(咀嚼)の維持・回復を含めた「口腔ケア」が居宅・病院・施設で実施されているかを把握し、多職種連携により対応できるようコーディネートすることといえます。歯科医療の視点を広げ、患者を中心とした多職種協働、チーム医療の中での歯科医療に転換し、「歯科事業所完結型」から医科、介護、地域との連携をすすめ、無差別・平等の地域包括ケアを実践しましょう。

②民医連らしい歯科医療をめざし、「歯科酷書第三弾」から学び行動を
 「歯科酷書第三弾」の活用は、「生活の質をささえ、人間のいのちと尊厳を口から守る歯科」としての活動をすすめるものです。医療制度が改悪される時、患者に住民に社会的困難が降りかかる時、まずは歯科の制度上に困難が訪れ、歯科受診の患者に困難が現れ、中断や受診抑制による口腔崩壊が広がります。歯科酷書では、「口腔崩壊」の原因でもある生活困窮がすすみ、さらに手遅れとなる状況が目の前で起こっている実態が複数の事業所から報告されています。医科歯科介護の協働で、口の中から全身へ、多職種協働の地域包括ケアの実践と日常の気づきから人権を守る運動へ、酷書を手に地域へ実態を知らせることで、酷書からいのちを守る運動へつなげていきましょう。

③中長期計画の中で、歯科医師の後継者養成と必要利益の確保をすすめよう
 次代を担う歯科奨学生のとりくみを、全国的にも地協、県連でも連携をして本格的にすすめていきましょう。また、中堅歯科医師、青年歯科医師の世代別の集団づくりも重要です。これまでの中堅歯科医師交流集会や青年歯科医師会議を継続し発展させていきます。奨学生確保と養成のとりくみでも、医学対のとりくみにも学び、共同の企画等連携をすすめていきます。
 中長期経営計画の実践として、人づくりや、施設リニューアル、設備投資などを行える必要利益確保にとりくみ、事業所経営を黒字体質に転換しましょう。2016年度歯科医療活動調査結果から、医療活動上の課題を整理し中長期計画の裏付けとなる経営計画をすすめ、2018年歯科診療報酬改定の内容を学習し、対応策を早急に検討しましょう。

④職員育成、その他の課題
 歯科衛生士は、役割の重要性を活かしていくために、歯科部でのとりくみを強めていきます。歯科技工士は、前期から引き続き歯科技工士交流集会のまとめを具体化していきます。事務については、事業所においてその配置と保全が重要です。
 前期は、全地協からの歯科部員の選出ができない職種もありました。今期は早期に全地協から歯科部の体制を確立することとします。

(6)介護・福祉分野のとりくみ
 無差別・平等の地域包括ケア、医療・介護活動の2つの柱をとりくんでいくことは、「民医連の介護・福祉の理念」の実践そのものです。介護ウエーブ、事業展開、日常の介護実践、経営活動、職員の確保・養成などすべての活動の土台に民医連綱領と「理念」をすえ、介護・福祉分野での「たたかいと対応」を旺盛にすすめていきましょう。日常の実践をまとめ、民医連がめざす介護について深め、発信しましょう。

①介護保険法制定20年・施行17年の現状と課題をどうとらえるか
 2017年は介護保険法の制定20年、施行17年目の年でした。介護保険は「介護の社会化」を求める国民の声を背景にしながらも、社会保障構造改革の牽引車として位置づけられ、高齢者医療費・福祉費用の削減、ビジネスチャンスの創出を目的として創設されました。そのため、利用者・事業者間の契約方式、要介護認定や給付上限の導入、応益負担制、在宅事業への営利企業の参入容認など、高齢者・国民からみれば「構造的欠陥」といえるしくみを最初から組み込んで設計されました。2000年の施行後は、自公政権による一連の制度改革によって、この「構造的欠陥」が増幅し続けてきました。とりわけ2012年度以降は、病床再編(削減)の受け皿として位置づけられた地域包括ケア構想のもとで、「給付の重点化」「自立支援」の名によるサービスの削減・負担増を徹底する方向がさらに強められ、その結果、制度への信頼失墜、人手不足の深刻化、招来しかねない財政破綻など、介護保険自体が「持続可能性の確保」どころか、制度的な危機に直面するに至っています。
 個々の改悪の中止・改善を求める運動とともに、介護保険制度そのものの抜本改革を求めることが必要です。それは憲法25条に裏打ちされた必要充足原則、応能負担原則(※注)を貫く制度への転換であり、利用料や認定制度・給付上限の廃止、保険財政に対する国庫負担割合の引き上げなど制度の根幹にかかわる改革です。私たちがめざす無差別・平等の地域包括ケアも公的介護保障の充実があってこそ実現するものです。現在の制度のもとで困難を抱えている利用者・高齢者の生活・権利を守り抜く実践を推進するとともに、介護保険の抜本改善、人権としての介護保障の確立を求める世論と共同を大きく広げていきましょう。

②介護ウエーブにとりくむ意義と課題
 2018年度から「改正」保険法、改定介護報酬、自治体では第7期の事業計画がスタートしています。利用者・現場の実態に基づいて制度を検証し、国や自治体に対して改善を求めます。
 私たちが介護ウエーブに継続的にとりくんでいるのは、第一に、介護保険はそもそも公的保障の弱い制度であり、改悪を許さず改善を求める世論が常に存在していることを示し続けることが必要なこと、第二に、具体的な制度改善、改悪中止は、世論と運動なしには実現しないこと、第三に、介護職員が介護の専門性や社会的地位の向上のために自ら声をあげることは不可欠であり、同時に、声をあげられない多くの利用者・家族の要求・意見を代弁することは人権の担い手としての専門職の役割でもあるからです。
 介護ウエーブのとりくみを社会保障運動の中で位置づけ、法人全体ですすめましょう。「介護を良くする会」などの地域組織づくり、障害者団体との連携、利用当事者の参加を引き続き追求します。事例にこだわり、事例から学び行動しましょう。介護の専門性、やりがいを発信していくことも必要です。

③「たたかいと対応」の視点でとりくむ総合事業
 大半の市町村は現行相当サービスのみでスタートしていますが、基準緩和サービスを実施している市町村では、低い単価設定のため受託事業所が少数にとどまっていたり、担い手の養成がすすまず、事業対象者を既存の体制で受け入れて経営悪化が生じているなどの事態がみられます。ボランティアへの無理な移行によって生活困難が生じているケースもあり、一部の市町村で深刻な健康悪化や人権侵害が発生していることもマスコミ報道などを通して社会問題化しています。
 事例に基づいて問題点を明らかにし、事業内容の改善を自治体に求めます。必要なサービスをプランに位置づけ、確保することや、状態像の評価など要介護認定への対応も必要です。基準緩和サービスや住民主体の支援などの事業を受託するかどうかは各法人の判断になりますが、各市町村の事業内容や方針を分析し、地域や法人の実情に応じ、事業対象者に対する支援の確保や健康づくり、まちづくりなど地域の要求に応えていく視点で検討します。市町村ごとの方針を明らかにし、とりくみをすすめましょう。

④介護・福祉事業を展開する上での重点課題
 「入院から在宅へ」「医療から介護へ」の流れが強められる中で、在宅での重度・重症化がいっそう進行することが予測されます。入院と在宅、医療と介護の連携を強め、病床機能の本格的な再編、重度・重症化に対応した在宅分野・介護分野の総合的な強化が求められます。特に地域ニーズや今後の政策動向との関係では、訪問看護や看護小規模多機能型居宅介護、小規模多機能型居宅介護などの地域密着型サービスの展開が今後重視すべき事業課題となります。低所得でも入居でき、「暮らし」が保障される住まいに対する要求は切実です。各地の経験を学び合い、地域に必要とされる民医連らしい住まいづくりをすすめましょう。
 自治体では第7期の介護保険事業計画が策定されています。計画内容をよく分析し、法人の長計ともすり合わせながら事業展開の方針を検討・具体化します。地域包括ケア事業(包括的支援事業)として位置づけられている医療・介護連携推進事業、認知症施策、日常生活支援体制整備事業など、条件があるところは受託を積極的に検討します。
 民医連の地域包括支援センターは84カ所となりました。「生活と人権を守る地域の砦」として、民医連綱領と「介護・福祉の理念」に沿った活動がすすめられており、求められる役割は大きくなっています。法人内での連携、支援をいっそう強めます。機能にふさわしい条件整備を自治体に求めていくことも必要です。
 民医連に加盟する事業所を有する社会福祉法人は、29県連46法人となりました。「我が事・丸ごと」路線のもと、民医連社会福祉法人への期待・役割がいっそう増しています。高齢化の進展、貧困・格差の拡大のもとで、地域の要求に応え、単に介護保険事業にとどまらない、障害、児童分野をはじめとする社会福祉事業の展開が求められています。住まいづくり、地域福祉を推進していくうえで、可能な都道府県では社会福祉法人の設立に挑戦しましょう。

⑤介護・福祉分野での職員の確保・養成
 介護職の確保に向けて、養成校との関係づくり、介護学生対策、紹介運動や広報活動など、他の経験にも学び、事業所任せにせず、法人の総力をあげてあらゆる手立てをつくしましょう。処遇改善や実効性のある確保対策を求める運動と結びつけた総合的なとりくみが必要です。同時に離職を生まない職場づくりを追求します。退職分析を行い、日常業務、管理のあり方について必要な見直しを行いましょう。日常の仕事の中でやりがいを日々実感できる職場づくりをすすめることが大切です。やりがいを「見える化」し共有し合うことは介護の質の向上にもつながります。
 引き続き民医連綱領と「民医連の介護・福祉の理念」(※注)を「自分の言葉で語ることができる」職員の養成をすすめます。「キャリアパス作成指針」に基づき、民医連らしいキャリパス、養成システムを確立し実践していきましょう。地協、県連で管理者・職責者養成のとりくみを強めます。
 介護職部会が30県連で設置され、介護ウエーブや研修、実践の交流などがとりくまれています。介護職が専門職として自ら集い、日常的な交流を強め、介護の質や専門性について集団的に議論し発信していく組織づくりは重要な課題です。引き続きすべての県連での設置をめざします。政府が掲げる「自立支援」や制度改悪に正面から向き合い、利用者・家族の権利と生活を守り抜く「たたかうケアマネジャー」への期待がいっそう高まっています。報酬改定や今後の事業展開に対応したケアマネジャーの系統的な養成や集団化、ケアマネジメントの質の向上などにとりくむケアマネ政策を法人として確立することが必要です。「ケアマネジメント委員会の問題提起」(2017年)と「民医連のケアマネジャーの役割について」(2013年)の議論と実践をすすめましょう。

(7)災害時の医療・介護活動の前進へ向けて、MMATのとりくみ
 43期はMMATメンバーの登録を開始し、各県連・法人・事業所において災害マニュアルにもとづいた訓練がすすめられるようとりくみを行います。2012年に作成した全日本民医連災害対策指針について、熊本地震などこの間の支援活動の教訓を踏まえ補強します。
 災害時の事業継続計画(BCP)を計画作成にとりくんでいる事業所の経験を学び、各事業所がBCP作成にとりくんでいきましょう。
 南海トラフなど大規模災害が発生し、全国的な支援が必要な事案も現実的に想定される状況です。43期の中で当該地域の県連等と全日本民医連として協議をすすめ対策を強めていきます。
 災害時の医療介護減免の制度、住宅保障、避難所施設の改善に対する政策要望を引き続き国と自治体に求めていきます。

第4節 共同組織とともに、安心して住みつづけられるまちづくりの本格的な運動を

 民医連の事業所と共同組織は、無差別・平等の地域包括ケア、安心して住み続けられるまちづくりを掲げて活動をすすめてきました。政府が公的責任を放棄するような「地域共生社会」を掲げる今日、これに対抗して、高齢化と人口減少が同時に加速する社会においても住み続けられるまちづくり運動をすすめることが重要になります。
 安心して子育てでき、老いても暮らし続けられる地域の基盤を確保し、人口が減少しても、住民の生活の質が低下しない、むしろ向上するようなまちづくりこそ必要であり、公的責任が曖昧であってはなりません。平和・社会保障の運動、医療・介護の事業に並ぶ民医連の事業所と共同組織の重要課題として「まちづくり運動」を位置づけ、方針化することを提起します。全日本民医連として、こうした活動を推進するための体制を確立します。

(1)「地域の福祉力」を高めるまちづくりを共同組織とともに
 私たちのめざす「誰もが安心して住み続けられるまちづくり」は、「地域の福祉力」を高め、地域を「福祉の場」につくり替えていく実践であり、民医連綱領の実践です。事業所や共同組織が、地域のさまざまな団体や個人と結びつき、連携を強め、まちづくりの一翼を担う存在となっていくことが必要です。
 事業所と共同組織が協力し居場所つくり、助け合いやささえ合いをすすめること、その中で職員が医療や介護、福祉の専門職として地域で力を発揮することが不可欠です。まず、まちづくりの「当事者」として、SDHの視点を学び、共有することが必要です。そしてその視点をもって地域に出かけ、人々のニーズを把握し、医療・介護の提供だけでなく、つながりの実現、暮らしの改善にいっしょにとりくむネットワークをつくりましょう。共同組織がとりくんでいる班会や居場所に職員が定期的に出向き、地域の人を対象に、健康や介護、生活相談をすすめ、支援につなげるなど、「まちの保健室・相談室」のような活動も大切です。行政組織はもちろん、地域の医療や介護・福祉の事業所、NPOやボランティア、民生委員、町内会など、地域の人たちの暮らしをささえ、まちづくりを「共同で行う組織・個人」も視野に入れて具体化しましょう。こうしたまちづくりの中で、病院・診療所の役割を鮮明にし、貢献できる施設として発展させていきましょう。そのためには、中学校区や小学校区を基本にどういった共同組織をどのくらいの規模でめざすのか、「400万の共同組織、10万部の『いつでも元気』」を踏まえて改めて検討します。
 共同組織担当者は、まちづくりについての事業所等の方針を具体化し、職員や共同組織、地域の人たちをコーディネートする役割を担う職員として力をつけましょう。
 各事業所は、共同組織と定期的に話し合い、中学校区や小学校区などの単位で、どんな課題があり、それを解決するためにどうしていくのか、まちづくりの方針を持ちましょう。職員の配置や育成、「まちづくり企画室」などの設置、検討をすすめましょう。また、県連内に多くのNPOやボランティア組織、社会福祉法人のあるところでは、経験の交流や活動の促進、自治体との連携・交渉など県連理事会のイニシアティブが重要です。

(2)政府の 「我が事・丸ごと地域共生社会」に対抗し、住民本位の自治体を求めよう
 貧困と差別が現実に存在する社会において、共に生きるという意味での「共生」が市民の側から提起され、実行されることは尊いことです。しかし、貧困と差別が市民の努力だけで解決できないからこそ、日本国憲法はすべての人が尊厳を持って生きてゆくことを人権として保障する義務を政府に求めています。
 住民の活動は公的制度の補完ではなく、公的制度を前提に展開されるべきものであり、自治体の役割は「住民福祉の増進」にあります。「我が事・丸ごと、地域共生社会」の方針のもと「自助・互助」の流れがいっそう強められようとしており、介護保険の総合事業をふくめ、公的支援の住民への下請け化を許すことなく、自治体としての責任・役割を求めていくことが重要です。そうした中で、自法人の活動の内容や実績を伝え、必要な支援・助成を求めることもすすめていきましょう。

(3)共同組織を強く、大きくしよう
①共同組織の担い手づくりを重視しよう

 あらためて「安心して住み続けられるまちづくり」をとおして共同組織の担い手づくりをすすめることを意識してとりくみましょう。同時に民医連の方針や医療介護活動について学ぶことが重要です。役員研修をはじめ、学術・運動交流集会や社保学習会など、あらゆる場面で職員とともに学ぶ機会を保障しましょう。計画的な担い手の養成をすべての法人・事業所・共同組織で話し合い具体化しましょう。

②構成員の拡大といつでも元気を通じての学びあいを重視し普及をすすめましょう
 構成員の計画的な拡大とともに『いつでも元気』の普及を重視してすすめます。『いつでも元気』は、全国の努力で、日本の健康、医療雑誌の中で6万近い部数を維持する有数の雑誌になりました。また、各地の民医連と共同組織をつなぎ、医療・介護の実践、平和と人権を守る運動、「安心して住み続けられるまちづくり」のとりくみ、病気、健康、介護、社会保障、原発や平和の問題にいたるまで、写真、イラストをまじえわかりやすく伝えています。『いつでも元気』を購読し、学習し、実践に生かすことで共同組織の活動が前進し、豊かになります。
 県連をはじめすべての事業所で『いつでも元気』の普及目標を決め、職員・共同組織・地域での読者拡大について方針をたてましょう。
 販売所については増減部数を県連や法人で把握・管理できるようにするとともに、販売所をささえるための方針を県連や法人で具体化しましょう。

③第14回共同組織活動交流集会へ全県から参加し活動の交流と飛躍を
 「横浜の白帆に憲法9条かかげ、平和・いのち・くらし輝く未来を!笑顔つなぐ共同の“わ”いまこそ共同組織を強く大きく」をメインテーマに第14回共同組織活動交流集会は2018年9月9日~10日に横浜で開催されます。
 総会から半年後、安心して住みつづられるまちづくりなどの実践を持ち寄り、職員とともに県を超え交流し、活動を学び合う場として成功させましょう。目標は2500人以上です。医師をはじめ多くの職員の参加を呼びかけます。すべての県連から連絡委員を選出しましょう。

第5節 経営困難を突破し、民医連の経営基盤を強化するために

 社会保障が削減され、格差と貧困が拡大するなか、診療報酬・介護報酬改定に対しても、病床削減や医療・介護からの患者・利用者の追い出しを図る誘導策とたたかいながら、医療と介護の質向上という側面から収益増に結びつけるとりくみを強めることが求められています。民医連の「強み」を生かし、まちづくりの活動を通して地域の新しい人びととの接点を広げ、地域のニーズに応えることを通して患者・利用者増につなげていくとりくみをすすめましょう。

(1)民医連の「強み」を活かし、 医療・介護活動の2つの柱を正面に据え、 地域との接点のかつてない広がりを
 貧困と格差が拡大する中、医療・介護活動の2つの柱を正面に据え、地域に出向き、受診困難な方に寄り添うアウトリーチを事業活動としても位置づけ、無料低額診療事業を含む社会資源の活用により、無差別・平等の医療と介護の実践の追求が重要です。
 このような状況の中、外来機能を私たちの病院、診療所への通院患者だけでなくあらゆる地域住民との結びつきの量と質として捉えることが必要です。主要な活動である対患者への通院・救急・在宅・健診・介護・住宅の提供に加えて、他事業所との連携、行政・住民・共同組織との結びつきなど、総合的機能が、経営課題としても重要であるということです。そのことを踏まえた、外来機能を全方位で強化する視点を持ち、戦略的重点を定めることが重要です。
 また、地域医療構想調整会議など本格的な地域医療計画と病床機能分化と削減の議論が始まります。診療圏の状況をよく把握し、病院の使命と地域における役割、主体的力量や発展方向を検討し、中期的な医療構想を明確にすることが必要です。社会保障の解体と都道府県単位の医療費抑制が掲げられる中で、地域医療と住民を守り抜く姿勢が重要です。
 入院医療、病棟機能分化への対応では、現状の患者層からみた診療報酬上の適正な選択(ポジションを認識する視点)と戦略的な機能強化による病床選択(ポジションを取りに行く視点)の2つの視点から方向を見極めることが重要です。病棟の経営判断は、病院経営の当面の最大課題です。7対1病棟の絞り込み政策や療養病棟の施設基準の見直し等に対する対応方針を確立しておくことが必要です。地域医療支援病院を含む公的医療機関はすでに2025年プラン(※注)の提出を求められました。地域医療計画の中で求められる、5疾患5事業などで自院が果たす役割なども明確にし、データの見方、活用の仕方も学びつつ、全病院・診療所で民医連としてのプランの作成をおこないましょう。

(2)中期経営計画を策定し、予算管理の力量を抜本的に強化しよう
 この間の全日本・地協による経営調査・経営検討会・経営懇談などからみて、「必要利益」にもとづく予算作成と予算管理の重要性を改めて強調します。少なくない民医連法人の予算編成と予算管理のあり方には、不十分さや我流が存在し、そのことが経営改善のとりくみの不十分さにつながっています。必要利益を確定するには、キャッシュフローや自己資本比率の見通しなどを総合的に検討しなければなりません。当然こうした利益目標は、中長期的にみて必要な投資や借入金の返済、退職金の支払いなどを踏まえた中長期経営計画をベースとして算出します。その意味で、中長期的な視野での資金見通しが明らかでない法人は、2018年度予算編成方針に中長期経営計画の確立を位置づけることが必須の課題です。
 2016年度経営実態調査では、予算の段階で、通常の設備投資が自己資金ではまかなえない水準です。資金不足であるとすれば、そのことを正面に据え、先送りせず、知恵を結集して打開しなければなりません。単年度での見通しが不十分とならざる得ない場合でも、中長期の計画を描き、着実に実行することが経営責任です。
 事業所ごとの予算も法人としてしっかりと論議すること、事業所任せにせず改善方針も示しながら論議することも必要です。また、経常利益赤字が固定化している事業所、明らかに資金流出構造となっている事業所などは早急な改善が必要です。基本は、全事業所が単独で必要な利益を確保し将来のリニューアル等の大型投資にも対応できる利益水準をめざすことです。予算は、仮の数字や試算ではなく実行計画です。具体的な医療活動、職員の行動計画と一体のものとして作成することが重要であり、この計画の進捗を月次、あるいは四半期ごとなど節目ごとに進捗を評価・管理するPDCAサイクルを確立し、達成することにこだわりましょう。

(3)トップマネジメント機能を高め、全職員の経営を追求し、経営幹部の育成をすすめよう
 幹部が経営実態を直視し、全体をつかんで職員の意欲を引き出し「全職員参加の経営」で経営問題を克服していきましょう。そのためには、まず経営幹部が経営を正確に把握すること、その上で職員に正しく知らせることが前提です。一時的、部分的な経営改善策の実施で打開できる時代ではありません。事業所の目標と職員の生きがいの一致、共同組織の存在、住民患者からの信頼、労働組合との協力・共同が民医連経営の優れた特徴です。職員が経営を改善するために職場がすべきこと、自分がやるべきことを考え、話し合い、行動に移せることが重要です。ここに依拠して経営危機を突破していきましょう。まさに幹部の姿勢と決意、質が問われる時代です。
 中長期経営計画を作成することとあわせて、経営幹部の育成はトップ幹部が果たすべき最重要課題です。幹部の育成には中長期的な視点で育成計画を明確にしましょう。

(4)法人の管理・運営の強化、 医師の確保と養成に全力を
 民医連におけるこの間の内外の経営環境は、事業の拡大と多様化にともなう法人運営の多角化、経営的困難、世代交代による幹部の意識と青年職員の変化、非正規職員の増大による職場づくりの困難さ、目標管理をはじめとしたマネジメント技法の普及、政策や制度の動向などめまぐるしく変化しています。こうした変化の中でも、法人の機能を引き上げ、民医連の非営利・協同の医療・福祉複合体という強みを発揮しなければなりません。その意味でも、民医連統一会計基準、事業所独立会計、部門別損益計算などの管理会計の未整備や形骸化がないか、また、法人の内部監査制度、監査監事による監査・公認会計士による監査などが有効に機能しているかなど、法人の機能強化の観点からも改めて、自法人の現状と課題を検証し、強化をはかりましょう。
 今日、医師の確保と養成は、経営と民医連運動にとって重点です。経営課題として位置付け、経営幹部の中で責任者や専任者を配置するなど、体制を確立しましょう。また、新専門医制度や「働き方改革」などの動向に留意し、必要な整備と医師体制の強化のために実行計画を持ちましょう。

(5)介護事業の経営強化へ向けて
 介護事業の経営課題を担当者任せにせず、法人全体の課題として幹部が責任を持ってとりくむことが必要です。あい次ぐ制度改悪と報酬改定の引き下げにより、介護事業経営の厳しさがかつてなく増しています。このままでは、私たちが最も寄り添わなければならない地域の人たちをささえられない事態が生じかねません。経営改善に向けた2つの転換をはかります。ひとつは、「赤字慣れ」から一刻もはやく脱却し、すべての事業・事業所で、経営改善・黒字化をめざすという発想への転換です。ふたつめは、経営改善・黒字化に向けて、従来の延長線上にとどまらないとりくみへの転換です。情勢の動きや政策の動向、地域の要求を見きわめ、地域における法人の立ち位置を改めて明らかにし、事業所の再編、新規事業への挑戦、法人間連携など、中長期構想に位置づけながら思い切った見直しの検討が求められます。医療機関併設事業所をふくむサービス事業ごとの損益の把握・分析は経営活動の前提です。事業連携の強化、とりわけ居宅介護支援事業所と法人内事業所との連携を重視し、強めることが必要です。相互理解を深め、介護の質の向上、地域要求に応える事業展開につなげていきましょう。
 介護経営が分かる幹部の継続的な配置・養成は欠かせません。職員の確保対策と一体的にとりくみます。受給権の保障、報酬改善を求める運動とも切り結びながら総合的にすすめます。
 社会福祉法人では、前期提案した経営指標(案)に基づく分析と必要な対応を図るとともに、県連、地協内での相談・支援体制の確立をはかります。
 介護報酬2018改定(プラス0.54%)は、引き続き「機能の評価」を基本としています。加算を積極的に算定し、介護の質の向上、管理力量の引き上げを図る契機として位置づけ、事業基盤の強化を図り、地域の要求にいっそう応えていく攻勢的な対応が求められます。介護、医科・歯科、薬局を含む法人(グループ)としての総合力、調整力の発揮が必要です。法的整備を抜かりなくすすめます。

(6)県連、地協経営委員会機能のさらなる前進を
 県連・地協の経営委員会機能のさらなる強化のために、会議の開催頻度、体制補強、決算資料など経営情報の集約力の強化、実質的論議のあり方などについて、求められる役割が発揮できる機能に高めていきましょう。都道府県単位の医療費抑制政策、地域医療構想に基づく調整会議、この中で、求められる2025年をみすえた医療構想づくり、これらの問題にとりくむ上で、県連として、県連内の病院それぞれの役割や位置づけを明確にして総合的な戦略を描くことが不可欠です。
 地協としての専任・半専任の配置検討を地協運営委員会とも相談しながら、全日本民医連経営部としても検討を深め具体化をめざします。また、医師問題とともに、地協運営委員会、県連理事会での、経営問題の論議を位置づける必要があります。運営委員会に地協経営委員会の報告や提起を行い、状況を把握し、必要な対策を打つこと、県連理事会でも経営問題の報告論議をきちんと行うことなどは、必須課題です。地協・県連の機能は、民医連組織の基本であるとともに、人材育成や相互協力という点でも民医連の強みであり、各法人・事業所の経営改善の力となるものであり、さらなる機能強化をめざしましょう。

(7)全日本民医連経営部のとりくみ
 県連、地協の機能を強める課題と併せて、全日本経営部の機能強化も課題です。経営や会計の教科書的な書籍の発行、法人専務理事に対応する経営セミナーや交流の企画、経営幹部の相互交流の促進、改善事例の発信などあらたなとりくみも検討をすすめます。共同購入などをはじめとする民医連の共同事業の強化を図ります。

第6節 医師養成新時代、民医連の医師養成・医学生対策のさらなる前進をつくり出そう

(1)民医連の医師状況をどうみるか
 医学生の中に民医連への共感が広がっている一方で、民医連への青年医師の定着が減少しています。医師集団が右肩上がりには大きくなれないという状況に面しており、また少なくない小病院で医師集団の維持、発展に対して一層の困難を抱えている状況です。民医連医療の最前線ともいわれる診療所の後継者確保も同じく困難を抱えています。
 医師委員長・研修委員長会議の問題提起を受けての医師集団づくりの議論が各地で開始されています。そこで率直に一人ひとりの意見を出し合った県連や事業所ではあらためて民医連医師集団としての共通項を探しながら多様性を前提としての持続成長可能な医師集団づくりへの話し合いがすすんでいます。先進的にとりくまれた沖縄県連での医師集団へのアンケートでは無差別平等の医療方針への圧倒的な支持が表明されています。
 SDHに正面からとりくむ活動、地域での行政や教育者との共同など街づくりをすすめる活動、問題意識を共有する民医連外の医師たちとの共同、スケールメリットを活かした研究や教育活動など、全国の民医連医師の活動は現在の国民の置かれている困難を正面から受け止めながら前進しています。そして、その推進者として中堅医師たちがネットワークをつくりながら奮闘しています。
 我が国の初期研修制度は2019年~2020年にその到達目標を含め制度改定が予定されています。一方で格差と貧困、超高齢社会という大きな課題に対して新専門医制度は処方箋を出せないでいます。
 この「医師養成新時代(42回総会方針)」に、私たちは民医連の医師集団の役割をあらためて探求し、その形成にとりくむことが求められます。現状の困難と課題を患者、地域住民、民医連で働く仲間とともに乗り越え、時代を切り拓いていく医師集団をつくるときです。

(2)地域住民と患者に寄り添い人権を守り抜く医師集団をつくりつづけよう
①医療・介護活動の2つの柱を実践する具体的行動を

 医師集団による実践は、ⅰ)医療活動、ⅱ)調査研究・エビデンスの発信活動、ⅲ)職員育成の3つの分野にわたります。ⅰ)地域包括ケア時代を認識した医療の質の向上へのとりくみ、SDHを認識したアドボカシーを医療活動の中に取り込むことをはじめましょう。ⅱ)調査研究活動はまさに医師がイニシアティブ発揮を求められる分野です。その活動への支援システムづくりを事業所、県連、地協など可能なところから追求しましょう。ⅲ)多職種とともに医療・介護活動の2つの柱を学び、SDHへのアンテナを高める学習の牽引者としての役割を担いましょう。

②命の格差を許さない活動・共同を地域からつくろう
 病人が患者になれない、ケアの必要な人にケアが届かない、そういう地域を変えていくとりくみに医師が果たす役割は大きなものがあります。地域における医師同士のつながり、医療・介護従事者の連携の中で、憲法25条を生かそう、命の格差をなくしていこうという世論形成を働きかけていく役割を担いましょう。

③引き続き「私たちの医師集団作り」を深め実践しよう
 42期医師委員長・研修委員長会議の問題提起とその後の議論を重ねて全日本民医連の医師政策作りを目指します。多様性を前提にしながら、どのように民医連綱領を実践する医師集団を形成し続けるのか、持続発展可能な働き方へのギアチェンジをどうすすめるのか、引き続き「私たちの医師集団づくり」を各事業所、各県連で深め実践しましょう。

(3)医療・介護活動の2つの柱を実践する医師養成をすすめよう
 民医連綱領を実践する医師の養成において、医療・介護活動の2つの柱の実践を研修医とともにすすめていくことがとても重要です。医療・介護活動の2つの柱をすすめるために求められるコンピテンシーの核になるものとしては、①地域包括ケア時代に求められる力量、②SDHを認識しそこに患者住民と一緒に働きかける力③常に医療の質を向上させる目と実践力があげられます。そして民医連の医師養成の特徴である①多職種の中での医師養成、②地域の中での医師養成、③研修医自身が研修づくりに参加する医師養成、④役割を担ってとりくむ医師養成をさらに進化させましょう。医師養成はもちろん、医療活動においても重要な役割を担う事務職員の関わりと育ちあいを強化すること、SDHを意識する風土づくりの中での研修、地域に存在するネットワークの中での学びを創り出し深めることが重要です。

(4)医療・介護活動の2つの柱も力に医学対のさらなる飛躍をかちとろう
 Movement2017に総力をあげてとりくみ、500人奨学生集団を今期実現させましょう。ロードマップで掲げた21卒200人受け入れは定員の80%を受け入れるという高い峰であり、医学部卒業生に実際に選ばれる民医連でなければ到達しえません。医師集団形成の前進、医師養成での発展とあいまってこそ達成できる課題です。医学生委員会はもちろんですが、県連、事業所のトップ幹部、医師委員会をはじめあらゆるレベルでこの200人受け入れの目標に団結し工夫と努力を集中しましょう。
 医療・介護活動の2つの柱を医学対活動の中に取り入れていくこととは、医学生とこれからの時代に求められる医師像・医療像を探ることであり、民医連の医療活動そのものを理解してもらいながら、医学生に日本の医療をどう変えていくのかを問いかけるものです。医療・介護活動の2つの柱を医学対担当者もよく学び医学対活動をより深める力にしていきましょう。
 この間の前進は医学対2つの任務(①医学生のさまざまな自主的活動を援助し医学生の民主的な成長と運動の発展を促すこと、②民医連運動の後継者を確保すること)の両者をあいまいにせず追求してきたからこそつくり出せたものです。医ゼミの成功、医学生の要求実現を掲げる医学連の活動など医学生の間に良心とヒューマニズムに裏打ちされた大きなエネルギーの発揮があり、また、SDHへの関心もかつてなく広がるなど今と次の時代を見つめる医学生の輪は強く大きくなっていきます。医学部卒前教育のコアカリキュラムにSDHが明記されたことは、今後の我が国の医師養成に大きな質的影響を与える可能性があります。経済的状況や地域枠や大量留年問題など、医学生のおかれている状況にも目を向けながら、2つの任務の医学対活動を大きく前進させましょう。

(5)医師数増と地域医療の担い手としての医師養成を国民の声に
 医師数の絶対的不足は医師の働き方の実態でも専門医制度の経過と顛末でも明確です。また地域医療の担い手としての医師像とその養成については種々の医療団体が独自の養成方針を立ち上げています。民医連外の団体や個人と積極的に交流して医師数問題、地域医療の担い手の養成について国民的議論を呼び起こす活動をすすめましょう。

第7節 民医連運動を担う職員養成の抜本的強化

 民医連への確信を培うことは、医療と介護の実践をすすめていく保障です。発展期を本当に現実的なものにする為の鍵は、「民医連の職員集団の成長」です。
 世代交代期に入る中で、確実にバトンを引き継ぎ、民医連運動をつなげていくことが、民医連の未来をつくります。民医連運動への主体性、当事者性を高める事をめざし、職員養成の活動を抜本的に強めていきましょう。
 今日の情勢とたたかいの展望、民医連の理念と方針への理解と確信が民医連運動を前進させる原動力です。幹部自らが「民医連とは」を、確信をもって語り広げましょう。
 憲法、民医連の歴史、理念を学ぶことが重要です。民医連の歴史と綱領・憲法の学習、職場づくり・職場教育の一層の充実、青年育成、幹部養成を重点にとりくみます。事務養成は、第3回評議員会方針の具体化を軸に促進します。
 それらの前提として、総会後にとりくむ総会方針学習月間を100%の職員の参加で成功させましょう。

(1)憲法を土台に民医連綱領を学ぶ大運動を
 綱領改定後に入職した職員も増加しています。一人ひとりを育てていくことが私たちの運動の未来です。あらためて民医連の歴史と綱領の学習を強めましょう。民医連は綱領で憲法理念の実現を掲げています。私たちの目指す無差別・平等の医療、介護、福祉は平和で人権が尊重され、民主主義が息づく社会でこそ実現できるものであり、憲法と綱領の学習は民医連の教育活動の基本です。憲法を土台に綱領を学ぶ大運動を計画し、第一回評議員会を目途に学習用「民医連綱領パンフレット」を作成します。

(2)教育指針(2012年版)の改定へ向けて
 教育指針(2012年版)の実践は、民医連の教育活動の重要な前進を作り出してきました。その内容を引き継ぎながら、情勢の変化を踏まえどのような点を教育として重視するのか、「職場管理者の5つの大切」や職場づくりの重要性、医療介護活動の実践を職員育成に生かし、多職種で育ちあう教育活動をすすめるなど41期、42期に確立した内容をどのように盛り込むのかなどを論点に43期に改訂版を作成します。

(3)制度教育の充実
 制度教育は多くの県連・法人で定着がはかられてきました。一方で、制度教育の内容が毎年同じくり返しでマンネリに陥っているところも見受けられます。社会や民医連を取り巻く情勢は日々大きく変化しています。憲法や民医連綱領の学習、ものの見方や考え方、哲学や経済学など初歩的な社会科学の学習を制度教育に位置付けることも重視しましょう。

(4)あらゆる活動の中で青年職員の育成の視点を
 現代の青年は、新自由主義的な構造改革のもと、貧困と格差の広がりや、異常な学力競争にさらされ、自己責任論の影響を強く受けています。「他者不信」に陥ったり「自己肯定感」が持てない傾向があるという調査もあります。それらを乗り越えるには、つながりを回復し、「他者が自分をささえてくれる」「自分の居場所がある」という実感のもてる関係性のなかで自分への自信と主体性を回復していくことが重要です。
 民医連は、貧困などの問題を個人の問題ではなく、社会の問題として認識できるような学びや、憲法の学習を重視してきました。青年自身も辺野古支援、福島支援、ホームレス支援などのフィールドワークを通じて体験し、その事実から出発することで大きく成長します。こうした民医連の優位性や自主性を大切に、青年職員の成長を援助し、未来の民医連運動をつくり上げましょう。
 はたらきかけによって、青年が大きく変化することも確信にする必要があります。青年の成長過程の背景を理解し、青年たちがとりくむ諸活動を把握しサポートする担当者の配置や青年委員会の設置など、青年職員への懇切丁寧な援助をすすめましょう。第38回全国青年ジャンボリーを成功させましょう。全日本民医連として青年援助担当者の交流会開催を検討します。

(5)事務養成
 四役のもとに事務養成のためのプロジェクトを設置し、推進していきます。全国的な事務養成の実践交流会を開催し、教訓の普及につとめます。各地協の事務幹部学校が定着しています。カリキュラムの交流など、全日本民医連としての援助を検討します。

(6)幹部養成
 民医連の事業と運動、職員育成を総合的にすすめるために、幹部集団の力量の向上は欠かせません。いくつかの職種で旺盛に幹部研修会が追求されてきました。それも踏まえ、全職種を対象としたトップ管理者研修会を具体化します。

第8節 全日本民医連・地協結集、県連強化へ向けて

(1)全日本・地協への結集と県連機能強化
 四役、理事会を軸に全国の連帯と団結を強めていきます。地協機能の強化へ向けて、地協事務局長会議の定例化など具体的にすすめていきます。
 県連事務局長会議に加え、今期新しく、県連会長会議、病院長会議、病院事務長会議を実施します。評議員会のあり方について43期で検討をすすめていきます。

(2)全日本民医連理事会活動の改善
 総会方針に沿った重点課題に対して、理事会としての政策活動を重視します。理事会の研究・学習を重視します。42期の活動を通じて出されている組織的な論点、「広報部の設置」、「領域別委員会の体制強化」、「まちづくりを総合的にすすめる組織体制」なども含めて専門部の見直しを新理事会で検討し、具体化します。
 全国会議の開催は、全国と地協の分担をすすめ効率的に実施できるようにします。
 中央団体として共同の時代にふさわしい役割を果たせるよう共同運動を担う体制の整備を行います。

(3)民医連の共済活動
 民医連の共済活動は、民医連綱領の実現をめざす職員の健康と生活をささえることが目的です。引き続き、 法人・県連・全国のネットワークとして、傷病・出産休業補償や医療費助成、災害や病気見舞金給付などを行うとともに、文化・スポーツ活動などを通じて、民医連職員の親睦を深めていきます。また、公的年金が引き下げられる中で、退職者の生活をささえる一助としての退職者慰労金制度を継続発展させます。そのためには、「民医連は一つ」の立場での連帯と団結が何より重要です。また、共済組織を規制しようする攻撃を許さず、自主共済を守る運動を広げていきます。

(4)国際活動について
 国連活動(ECOSOC)(※注)への各種レポートの提出と提言にとりくみます。国際活動では、韓国、キューバとの交流、中国の遺棄毒ガス被害者(※注)支援等をすすめます。

(5)民医連綱領改定後10年へ向けたとりくみ
 2018年6月7日、全日本民医連は創立65年、2020年2月には、改定された民医連綱領が10年を迎えます。民医連はだれによって作られ、なんのために、だれのために存在するのか、歴史を踏まえ、次代に引き継ぐ時です。民医連綱領をその中心に据えて豊かに事業と運動を発展させていきましょう。民医連綱領改定後10年に向けた企画を準備します。海外視察も取り入れ、次代を担う多くの職員が参加できる企画を検討します。歴史的な資料の管理について検討をすすめます。

(6)43期の全国会議の開催県連について
 第44回定期総会は、熊本で開催します。被災地の人間的復興は、新自由主義に対抗し、誰もが安心して住み続けられるまちづくりの実践です。2年間、運動を前進させて集まりましょう。
 第14回看護介護活動研究交流集会を宮城、第14回学術・運動交流集会を長野、第38回青年ジャンボリーを岐阜、第14回共同組織活動交流集会を神奈川で開催します。

おわりに

 今、全国で無数の平和と人権を守る活動が行われ、毎日、いのちを救う民医連と共同組織の仲間の実践が行われています。
 「発達した資本主義国の中で、民医連のような医療・介護の事業体がなぜ、存在できるか」、韓国、フランスで行われたシンポジウムでの共通した質問が寄せられました。
 民医連綱領による連帯と団結、共同組織の存在など特質すべき特徴があります。常に地域の実態と要求から出発すること、事業と運動、担い手の養成を自前で統一的にすすめること、他の組織や団体、個人との共同がすすんでいることなども教訓です。
 そして、今から72年前、戦争の悲惨な教訓と人類の多年にわたる自由獲得のたたかいの成果を盛り込み、日本国民が、自分たちの手で、国民主権、平和的生存権、基本的人権を普遍的権利として新しい憲法を作り上げました。民医連の前進はこの憲法の存在と実現をめざした運動を不断にすすめてきたことにささえられています。日本という国の未来は、この憲法の中にしかありません。この憲法を傷つけることなく未来に手渡しましょう。
 故肥田舜太郎医師は、「ただ、憲法を学んで憲法はいいことを言っているから守りましょうという程度ではだめです。本当に憲法を守るということは、人権を守り通すということです。大事なことは、地球上で誰もが安心して暮らし、だれもが不幸にならないで生き抜いていける日本にすること。そういう力は一人ひとりの国民しか持っていない」「21世紀を生きる若い皆さんには日本国憲法をほんとうに学んで、自分の命の主人公になってほしいと思います」とのべられました。
 安倍政権が、憲法改悪を強行しようとしています。私たちは、一人ひとりがいのちの主人公となり、憲法をまもり、生かす国民的運動に参加し、人権、民主主義が輝く平和な未来を切り拓いていきましょう。

以 上

■ 用語解説

【はじめに】
○市民アクション実行委員会
 正式名称「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」。安倍政権による憲法9条の改憲阻止を目的に、2017年9月、瀬戸内寂聴、香山リカ、田原総一朗、浜矩子など19人の呼びかけで発足した。「安倍9条改憲NO!憲法を生かす統一署名」(通称3000万人署名)を推進。

【第1章】
○経済グローバリズム
 地球全体を視野に、経済活動を推進する考え方。しばしば多国籍企業の経済的利益を追求する観点から、自由貿易・規制緩和などを主張する。

○新自由主義
 経済活動の規制を取り払い、企業の競争を促進することで経済も発展するという考え方。労働者を守るルールや社会保障制度も「自由な競争の障害になる」などの理由で縮小・廃止を主張し、公営事業の民営化も進める。1980年代のアメリカ・イギリスから世界に広がり、日本でも中曽根内閣(1982~1987年)以降、新自由主義的な政策がとられるようになった。

○立憲主義
 憲法によって国家権力にしばりをかける考え方。17~18世紀のイギリス・フランス・アメリカなどの近代市民革命を経て確立された。圧政を防ぎ、人権を保障することを目的としており、日本国憲法にもこの立憲主義が貫かれている。

【第1章】(1)
○反核医師の会
 「核戦争に反対する医師会」が正式名称。「医師の社会的責務および良心から、健康にとって最悪の敵である核戦争に反対し、核兵器廃絶の実現をめざして医師の声を結集する。さらに、被爆者医療に関ってきた医師として、再び被爆者を生み出さないよう人々に広く訴えていく」(設立趣旨)ことを目的に設立された。核戦争防止国際医師会議(IPPNW)とともに、2017年度のノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の日本における構成団体の一つでもある。

○「ICAN」
 International Campaign to Abolish Nuclear Weapons 核戦争防止国際医師会議を母体に2007年オーストラリアで発足。核兵器禁止条約の交渉開始・支持のロビー活動を行う目的で設立された国際的な非政府組織の連合体。核兵器廃絶国際キャンペーンを世界的に展開した。

【第1章】(2)
○国際金融危機
 2007年、米国のサブプライム住宅ローン(低信用者向け住宅ローン)の破綻からニューヨーク株価が大暴落し、世界的な金融危機が始まり、リーマン・ショックを引き起こした。金融資産が実体経済よりふくれあがり、投機マネーが暴走して実体経済を左右する事態が進み、アメリカでは経済成長が急激に減速、失業者が急増し、インフレ率が上昇。世界中に深刻な影響を及ぼした。日本でも中小企業への貸し渋りや貸しはがしが横行し、倒産が増大。2008年末には大量の派遣切りが起き「年越し派遣村」のとりくみも行われた。

○新自由主義的緊縮政策
 規制緩和や民営化などをすすめて経済成長を促そうとする新自由主義経済のもとで引き起こされる財政危機に対し、医療や介護、年金などの社会保障や教育・子育てなど、国民生活分野の財政を削減する政策。2010年頃から債務危機に陥ったギリシャの他、フランス、英国などでも緊縮政策のもとで公共サービスの改悪や縮減による貧富の格差が拡大。反対する市民運動も起き、大統領選などへも影響。

○サンダース現象
 アメリカ大統領選挙の予備選挙で、民主党のバーニー・サンダース上院議員が大統領候補として、反戦平和、大企業・富裕層への増税、最低賃金引き上げなど民主主義的な改革を政策に掲げ、若者をはじめ多くの識者の賛同・支持を集めて大健闘。選挙後もサンダースの掲げた政策実現にむけた運動が継続している。

【第1章】(3)
○市民連合と政策合意(合意7項目)
 市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)が2017年9月、衆議院選挙に向けて野党四党(民進党、日本共産党、自由党、社民党)に選挙戦のたたかい方と政策に関する要望書を提出。合意7項目は、①安倍政権が進めようとしている9条改正への反対、②特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法などの白紙撤回、③福島第一原発事故の検証のないままの原発再稼働を認めない、④森友・加計学園、南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明、⑤保育、教育、雇用に関する政策を飛躍的に拡充、⑥8時間働けば暮らせる働くルールを実現し、生活を底上げする経済、社会保障政策を確立、⑦性的マイノリティーへの差別解消施策、女性に対する雇用差別や賃金格差の撤廃など

【第2章】1節(1)
○海外で集団的自衛権を行使できる実力組織
 安倍政権は、2014年7月1日の「閣議決定」で、集団的自衛権行使容認の「閣議決定」を行い、2015年9月19日に戦争法=安保法制を強行。この安保法制には、「戦闘地域」での米軍等の兵たん(武器調達・補給・輸送など)の拡大、戦乱が続いている地域での治安活動(改定PKO法)、地球上のどこでも米軍を守るための武器使用(装備品防護)、集団的自衛権の行使という、自衛隊が海外で武力行使できるしくみが盛り込まれている。そのため、自衛隊を憲法上に明記して憲法9条2項の「制約」は自衛隊には及ばなくなれば、海外での武力行使が無制限に可能になる。

○『日米防衛協力のための指針(ガイドライン)』の改定
 戦争法案が国会に提出される前の2015年4月末に策定。自衛隊は「米国又は第3国に対する武力攻撃に対処する」ために「武力の行使を伴う適切な作戦を実施する」とし、日本の集団的自衛権の行使を明記。その際に、米軍と自衛隊が協力して実施する作戦例として挙げたのは、「(兵器などの)アセットの防護」や「艦船を防護するための護衛作戦」「機雷掃海」など。事実上の日米統合司令部である「同盟調整メカニズム」を恒常的に設置し、米軍と自衛隊との「運用面での調整」や「共同計画の策定」を行うとし、情報共有や訓練、計画策定などを通し、日米共同の軍事作戦を事前に準備しようとするもの。自衛隊はあらかじめ米軍の戦争計画に組み込まれ、米国が戦争を始めれば日本は自動的に参戦する極めて危険な仕組み。

【第2章】1節(2)
○標準保険料率
 国保の財政運営が都道府県に移管されると、都道府県が市町村に負担させる金額を決めたり、上納させたりするしくみなどによって、国保に関わる医療費を抑える役割を担うことになる。都道府県は市町村の医療費水準と所得水準に応じて国保事業費納付金を決定し、納付金を納めるために必要な「標準保険料率」等を提示し、市町村はそれらに基づき保険料率を決定し住民に賦課・徴収し、100%上納する義務を負わされる。そのため「標準保険料率」は、圧力となり市町村が決める国保料に大きな影響を与える。また、納付金100%納付によって、市町村の住民からの保険料徴収が強化されることも懸念されるとともに、これまで市町村が保険料増大を抑えるために行っていた一般会計からの繰り入れは、標準保険料率には反映されないため、繰り入れ解消を迫られ、保険料が引き上げられかねない。

○地域医療構想
 2014年国会で成立した「医療介護総合確保推進法」により、都道府県は医療計画の中で「地域医療構想」を定めることとなった。2025年に向け、原則第二次医療圏を単位とする「構想区域」ごとに、急性期から回復期、在宅医療に至るまでの医療提供体制の構築がすすめられ、病床の機能分化、在宅医療・介護、医療従事者の確保・要請等について検討がすすめられる。

○総合事業
 「介護予防・日常生活総合支援事業」の略。2011年法「改正」で介護給付費削減策の一環として、要支援者の訪問介護、通所介護を廃止・移行する受け皿として制度化され、14年「改正」で全市町村での実施が義務づけ。予防給付と同等の現行相当サービスのほか、人員基準を緩和したサービス、住民主体の支援(ボランティア)、介護予防マネジメント、一般介護予防事業などで構成。国のガイドラインでは、毎年の事業予算の上限が設定され、事業の単価や委託費を切り下げたり、できるだけ住民主体の支援に誘導する(卒業)、また「基本チェックリスト」を活用することで、介護保険の利用を申請しても要介護認定を受けさせずに総合事業に直接まわすことなどを可能とする仕組みを導入。事業をどう運用するかは市町村の裁量に委ねられているため、その内容次第でサービスの取り上げや受療権の侵害をもたらす事業になりかねない。政府は、軽度者(要介護2以下)の全サービスを総合事業に移行させることを今後の検討課題として打ち出しており、さらに「我が事・丸ごと地域共生社会」をけん引する事業のひとつとしても位置づける。

○国家戦略特区
 2014年2月25日に閣議決定。指定の6か所の特区には、政府主導で特定区域での規制・制度を緩和するもの。1979年以降、政府は医学部の設置を認可しなかったが、「世界最高水準の『国際医療拠点』をつくるという国家戦略特区の趣旨」から、「国際的な医療人材の育成」のために成田市での医学部医新設が認可された。「既存の医学部とは次元の異なる」特徴として、留学生や外国人教員の確保、海外での診療経験がある教員の配置や海外臨床実習などが検討される。日本医師会や成田市は、「地域医療の崩壊を招く」などと懸念。

【第2章】第2節(1)
○相対的貧困率
 全国民を可処分所得順に並べて、真ん中にきた人の所得を中央値として、その中央値の半分に満たない「貧困ライン」以下の人が全人口に占める率。

○エキタス(AEQUITAS)
 エキタスとはラテン語で「正義」や「公正」の意味。2015年9月に若者を中心に結成。格差と貧困の拡大に対し社会的正義の実現を求め、最低賃金1500円などの要求を掲げ、デモやネットでの発信などの活動を続けている。

○SDH
 健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health)の略。健康は、遺伝子や生活習慣だけでなく、その人の社会経済的な地位をはじめとする社会的要因によっても決定される。世界保健機関欧州地域事務局が98年に公表した「Solid Facts(確かな事実)」では、社会的決定要因として、▽社会格差▽ストレス▽幼少期▽社会的排除▽労働▽失業▽社会的支援▽薬物依存▽食品▽交通、をあげ、それらが健康に与える影響を説明した。近年、社会疫学の進歩により社会的要因が健康に与える影響について多くの根拠が示されている。また、生活習慣もその人が置かれた社会経済的地位や出生から幼少期までの環境に影響される。日本でも「健康日本21(第2次)」で「健康格差の縮小」と「社会環境の質の向上」等が政策課題として取り上げられている。

○「社会的処方」
 貧困や孤立など社会的なリスクによって病気になったり、治療がうまくいかない人々に対して、必要な社会的資源を「処方」することで疾病の予防やケアにつなげるとりくみのこと(socialprescribing)。医療機関では、主に総合医・家庭医が患者のコミュニティーの非医療的な支援資源につなぐしくみが求められているが、これまで十分対応できていなかった、患者の社会背景の問題、健康格差の問題にとりくむアプローチとして注目されている。社会的なストレスによる不安や抑うつの抑制など精神面の課題に加え、服薬の管理や適切な生活習慣の維持など、身体的な健康への効果も期待される。世界各国でとりくまれ、国内でも一部の医療機関で行われてきた。イギリスでは、国を挙げた制度化に乗り出しており、国民健康制度のもと、「社会的処方」に対応する機関が各家庭医(GP)と契約を結び、多様な福祉サービスや地域の自主組織と連携。チャリティの参画も進行。民医連で無料低額診療制度を適用したり、共同組織活動につなげることも「社会的処方」の重要な活動。

【第3章】第1節(2)
○ヘリパッド建設
 日本政府は、SACO合意に基づき沖縄県北部訓練場の半分を返還する条件として、返還予定地にあるヘリパッド(ヘリコプター用の離発着場所)を東村・高江周辺に移設すると決めた。米軍のオスプレイ配備とともに建設をすすめ、地元住民の座り込みによる抗議が続いている。

○国家賠償請求裁判
 1954年にビキニ環礁で米国が実施した水爆実験で、周辺海域で操業していた漁船の元船員や遺族ら45人が、被ばくによる慰謝料など計約6500万円を求めた全国初の国家賠償請求訴訟。原告側は、第五福竜丸以外の被ばく検査記録を国が故意に開示しなかったため、元船員らが米国に賠償請求する機会を失い精神的苦痛を受けたと訴え。

【第3章】第1節(3)
○国保都道府県単位化
 政府・厚生労働省は、医療費適正化計画の一環として、公的保険制度を都道府県単位に再編・統合し、都道府県ごとに給付と負担が連動する仕組みを導入しようとしている。現在、市町村が運営している市町村国民健康保険は、都道府県単位で広域化をめざし、市町村国保を段階的に統合するなど、都道府県単位の財政運営に切り替え、都道府県の医療給付費を反映した保険料を設定する計画。健康保険組合も、一部は都道府県単位に再編・統合することも考えられている。

【第3章】第2節(1)
○MMAT(MMAT委員会)
 MMAT(エムマット‥Min―iren Medical Assistance Team)。2011年3月11日の東日本大震災では、かつてない甚大で広範な地域におよぶ被害に対し、全日本民医連は全国をあげて長期的・継続的な支援を実施。この経験を経て、全日本民医連は2012年にマニュアルの改訂版「災害救援活動の指針」をまとめた。その中で、民医連の災害救援活動の経験を継承し、災害時に機敏に災害救援を行うことを目的に、MMAT設置が提起され、活動を開始。現在は事業所の災害訓練を進める為、事業所の対策マニュアル交流、災害医療の基本学習、BCP(事業継続計画)学習、施設別での机上訓練の研修を行う。

【第3章】第3節(3)
○QI活動
 「医療の質の指標・改善QualityIndicator・Improvement」の略。医療指標は、診療の質を構造、過程、結果の3つの側面から測定・評価し、「安全、倫理、共同の営みなど総合的な医療・介護の質の向上」につなげる。全日本民医連では、11年から「医療の質の向上・公開推進事業」を開始。厚生労働省「医療の質の評価・公表等推進新事業」に5度採用され、高評価を得る。現在、DPC情報を活用した指標も含め61指標82項目を95病院がとりくむ。

○HPH
 Health Promoting Hospitals & Health Servicesの略。「人々が、自らの健康とその決定要因をコントロールし改善できるようにするプロセス」がヘルスプロモーションだが、HPHは、それを実践する医療機関や介護・福祉の事業所のこと。国際HPHネットワークは、WHOが採択したオタワ憲章(1986年)にもとづき、ヘルスプロモーションを地域で実践する病院を世界に広げようと、90年に発足。45カ国900以上の施設が加盟。日本では、日本病院会や全国自治体病院協議会などが発起人となり、15年にネットワークを結成。現在は79事業所が加盟。地域社会、企業、NPO、自治体などと共に、患者、職員、地域住民の健康水準の向上や幸福・公平・公正な社会の実現に貢献すべく活動中。

○貧困評価・介入ツール
 カナダ・オンタリオ州の家庭医グループが開発した「貧困‥プライマリケア提供者のための臨床ツール」のこと。多くのエビデンスから貧困は病態であり、健康のリスクであることが証明されており、貧困状態にある患者には社会資源を活用することで健康水準の向上を図ろうと開発。具体的には、診察室で患者の経済状態を簡易な質問でスクリーニングし、貧困状態にある患者に社会資源を「処方」する。民医連事業所も加盟するJ―HPHでは、「日本版貧困評価支援ツール」の開発、「暮らしぶり調査」や「経済的支援ツール」の作成をとりくんでいる。

【第3章】第3節(4)
○「昭和52年判断条件」
 環境庁発足時の昭和46年次官通知は、四肢末端の感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄などのうち一症状で水俣病に認定されたが、昭和52年、複数症状が必要とした厳しい基準に変更された。

○利益相反
 外部との経済的な利益関係により公的研究で必要とされる「公正」かつ「適正」な判断が損なわれる、または損なわれるのではないかと第三者から懸念が表明されかねない事態のこと。ノバルティス社のディオバン問題で表面化した、医師主導臨床試験の不正問題は、利益相反の弊害を象徴する事件となった。日本学術会議は2013年に「臨床試験にかかる利益相反マネージメントの意義と透明性確保について」を提言、産学連携活動において企業との研究者の受け入れを含む労務の提供・原稿執筆料などを正確に開示し、透明性を確保することや、研究者主導臨床試験は、原則として奨学寄附金ではなく、委託研究費、共同研究費など資金提供の目的が透明化されるようにすべきことなど、利益相反の透明性の確保と企業からの様々なバイアスの排除が提起された。

【第3章】第3節(5)
○「医師のためのベストアドバイス―SDH―」日本語版(「ベストアドバイス」)
 患者が抱える健康の社会的決定要因(SDH)の改善方法について医師に具体的なアドバイスをするためにカナダ家庭医協会が作成した冊子。医療機関には、社会的・経済的に困窮している多くの患者が来る。社会的な課題にうまく対応することで、病気や生活のケアもうまくいくことが多々あるが、逆に社会的課題を無視すると、うまくいかないことも多い。問題を抱えた患者が受診した時の対応やそのような課題を社会で解決していく活動に医療従事者がどう関与すべきかを解説している。

【第3章】第3節(6)
○民医連らしい歯科医療活動のチェックリスト
 歯科医療の質を追求する指標として、貧困と格差、少子・超高齢社会に立ち向かう、民医連の「医療活動8つの重点課題のとりくみ」をもとに、作成した歯科独自の事業所チェックリスト

【第3章】第4節(1)
○中期指標該当(短期指標)
 1992年に設けられた医科法人の「要対策項目」は、経営危機の兆候を早期に把握し対応することが重要であるとして、各法人が自己点検するために定められました。その後、2001年、2007年、2011年と3回の改定を行い、各法人の経営診断、県連、地協、全日本での組織的対応を行う上で有効性を発揮してきた。短期要対策項目は2項目、中期要対策項目は13項目のチェック項目を設けている。短期要対策項目は、資金的に危険な状況にある可能性があり、1項目でも該当すれば「緊急要対策法人」として、県連及び全日本民医連に速やかに報告書を提出しなければならない。中期要対策項目は、収支のバランス、事業の発展性、大きな赤字や連続する赤字、資金繰りや投資の有効性、財務の状態などをチェックする。該当項目が多い法人は、このまま推移すれば危険な状態に陥る可能性があるものとして、対応を検討する必要がある。該当項目が5ポイント以上の法人は全日本民医連への報告を求めている。

【第3章】第5節(1)
○つながりマップ
 施設、他団体、市民、行政などの連携がわかるように地図に落として、地域における社会資源の現状や、まちづくりの課題などを明らかにすることを目的にしたもの。医療福祉生協連が積極的に推進している。

【第3章】第5節(2)
○無料低額診療事業
  無料低額診療事業とは、低所得者などに医療機関が無料または低額な料金によって診療を行う事業です。無料低額診療事業には2種類あります。一つは法人税法の基準に基づいて実施するものと、もう一つは、社会福祉法 (昭和26年法律第45号)に基づく第二種社会福祉事業として実施するものです。いずれの場合も、生計困難者が経済的な理由により必要な医療を受ける機会 を制限されることのないよう無料又は低額な料金で診療を行うものです。 社会福祉法第2条第3項第9号 は、「生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業」と定めています。病院や診療所の設置主体に関らず、第二種社会福祉事業の届け出を行い、 都道府県知事などが受理をすればこの事業を実施することが出来ます。

【第3章】第6節
○専攻医
 2年間の初期研修に続き、19の専門領域から1つの領域を選択し、おおむね3年から4年の後期研修をし、専門医資格を取得。そのための期間を初期研修医と区別するために専攻医と呼ぶ。専門医資格取得後はさらにサブスペシャルティー領域の研修が想定される。

【第3章】第6節(1)
○総合診療専門医
 「総合医」の定義は様々で社会的にも明確でない。例えば日本医師会は総合医を「自身の専門性を生かした『医療的機能』と『社会的機能』を備え、保健・医療・福祉の諸問題にも応じるなど全人的視点での対応を併せ持つ医師」と定義し、総合医≒かかりつけ医であり、総合医≠総合診療医と考えている。ちなみに「かかりつけ医」の定義は「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」とする。「総合診療専門医」の呼称は新専門医制度では、他の専門医資格と同様に、ある領域の専門性を示す名称として使われる。日本専門機構では「総合診療医」を「主に地域を支える診療所や病院において、他の領域別専門医、一般の医師、歯科医師、医療や健康に関わるその他の職種などと連携し、地域の医療、介護、保健など様々な分野でリーダーシップを発揮しつつ、多様な医療サービスを包括的かつ柔軟に提供する医師」と定義。
 民医連は、「総合医」の定義を明確にしたことはないが、「民医連の総合医養成」と表現する場合は以下のような思いを込めている。家庭医であれ、病院での総合診療医であれ、また、領域別に専門医療にとりくんでいる医師であれ、各々の各専門領域での能力の基盤として、基本的な総合性(基本的診療能力は勿論、平和や民主主義を大切にする姿勢、人権擁護やSDHの視座、憲法を活かす視点、倫理や安全への配慮など)を備え、民医連綱領の精神に沿って変革の視点で日々の仕事に臨むことができるような医師づくりを追及することが重要だということ。

【第3章】第6節(3)
○新入医師統一オリエンテーション
 全国の民医連の臨床研修病院で初期研修を始める新入医師を対象に行うオリエンテーション。(1)全国組織のスケールメリットを活かし研修をすすめるための出発点とする、(2)民医連の歴史・理念と活動方針や初期研修医に期待することを伝える学習する場とする、(3)全国の初期研修医が一堂に集まり、繋がりを持つことで青年医師の集団形成につなげるなどを目的に2010年から開催。

○セカンドミーティング
 研修2年目を迎える研修医を対象に開催。(1)1年間の初期研修を修了し、研修内容や医師としての成長・気づきなどを同世代で意見交換・交流し、2年目を迎えるにあたり上級医としての指導スキルを身に付ける、(2)地域医療を担う医師として専門医取得後を見据えたキャリア形成を考え、自分の医師像を見つめる機会とする、(3)専門医制度について正しい情報を知り、民医連の後期研修を考える場とするなどが目的。

○ACGMEマイルストーン
 アメリカ卒後医学教育認可評議会(ACGME)が示す医師の獲得すべきコンピテンシーの評価表。アウトカムベースで医師研修の到達度を指導医や研修医が評価することができる。全日本民医連医師臨床研修センター(イコリス)では、早くからこの評価手法に着目し、ACGMEから翻訳・利用の許諾も得て活用を促進している。

【第3章】第7節
○職場管理者の5つの大切
 職場管理者には最低限必要で、すぐにでも実践してほしい5点。内容は①職場づくりの「夢をかたちに」(どのような職場づくりをしていくかの中期的構想(夢)をもちつつ、職場の年度方針と目標に具体化する)、②学ぶ機会の保障(制度教育や職場外のいろいろな企画への職員の参加を大切にする、職場目標と結びついた個人目標づくりを援助し、育成面接を重視する)、③職場会議の開催と充実(職場会議の充実は職場づくりの最も重要な場であり、時間の確保や学習・事例検討を取り入れるなどあらゆる工夫をして前進をはかる)、④学習と「民医連新聞」の活用(管理者が自ら学ぶ姿勢をもつこと、いのち・憲法・綱領の3つのものさしにもとづき情勢を深め、民医連の方針や全国の仲間の経験を学ぶうえで「民医連新聞」をはじめとする機関誌紙を大いに活用する)、⑤管理者の集団化と団結。

【第3章】第7節(3)
○ストレスチェック
 労働安全衛生法の改正に伴い、年に1回ストレスチェックの実施、高ストレスと評価された労働者から申し出のあった時の面接指導、その結果に基づき医師が必要と認める時は就業上の措置を行うことが50人以上の事業場に義務化された(2015年12月施行)。目的は職場のメンタルヘルス対策の第1次予防で、「心身のストレス反応」「職場のストレス要因」「周囲からの支援」の3つの要素を含む項目が必要。本来は集団分析による職場環境改善が目的だが、今回改正では努力義務。民医連の職員の健康管理委員会では、法的対応をしつつ「健康職場づくり」を土台に活用方法の検討を提起した。

【第3章】第7節(5)
○ICF
 正式名称は「生活機能・障害・健康の国際分類」。1980年にWHOが試用としてICIDH(国際障害分類‥機能障害・能力障害・社会的不利)を刊行、2001年の総会でICFとして改定版が採択。ICFでは、ICIDHに対し、①障害というマイナス思考から生活機能というプラス思考に視点を移した、②生活者を取り巻く相互関連性を重視している、③生活者の社会的側面(社会モデル)を重視しているなどが特徴。入院・入所においては、より早期から「心身機能」と向き合いつつ、退院・退所後の生活を見据えた必要なサービスを総合的に行うことが求められる。

【第4章】第1節(2)
○名護市長や沖縄県知事の工事に対する様々な許認可
 辺野古新基地建設は北側の護岸工事が3分の1程度の場所で停止し、南側でも工事を開始しているが、工事をすすめるには名護市長が権限を持つ辺野古漁港への作業ヤード設置のための漁港使用許可や、美謝川の水路変更などが必要。また埋め立て予定地の地質調査も続行中で、軟弱地盤・活断層の疑いがある海底工事の工法変更や、護岸工事の延長上の海域にある貴重なサンゴの移植には、沖縄県知事の許可が必要。これらをクリアしない限り辺野古に新基地建設はできない。

【第4章】第1節(3)
○「原爆症集団訴訟の終結に関する基本方針に係わる確認書」
 麻生太郎総理・自民党総裁(当時)と日本被団協との間で、集団訴訟の終結に向けて取り交わされた。確認書により、国・厚生労働省は控訴を取り下げ直ちに認定する、敗訴原告に対しては基金を設けて救済する、今後の訴訟の場で争う必要のないように厚生労働大臣との定期協議を行うこととした。

○「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」政府が新しい審査方針
 疾病ごとに被爆条件が提示され、その条件に該当する場合に積極的に認定される。しかし、積極認定の範囲を超えた認定は、現状では裁判に勝利した原告だけという実態がある。

【第4章】第2節(8)
○TPP11、FTA
 TPPは関税撤廃、関税以外の貿易や投資の障壁の大幅緩和などにより、多国籍企業が活動しやすくすることが目的の貿易協定だが、トランプ政権発足後、米国が環太平洋連携協定(TPP)離脱を表明。17年11月、米国抜き11カ国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム)の閣僚会合で大筋合意した。米国復帰を前提に医薬品の開発データ保護やISDSなどは凍結。しかし、コメや小麦、牛肉・豚肉などは日本への影響が避けられない内容である。現在、最終調整中で3月上旬には協定文を確定し署名の方向。一方、トランプ大統領は離脱後も2国間交渉で農産物などの貿易・投資の拡大を要求しており、日米FTAで米国に譲歩すれば、日本経済に深刻な打撃に。TPPの断念、公平・平等な貿易ルールの確立が求められる。

【第4章】第3節(2)
○アドボカシー活動
 権利を阻害された人たちのための権利擁護の活動。自らの専門性や影響力を用い、当事者の代弁・行動だけでなく、患者団体やコミュニティーと共に活動すること。2つの水準があり、一つは、個々の人のための権利擁護の活動で、障害者の権利擁護といったこと。また、病院が患者の苦情に応えるのもアドボカシー活動の一例。もう一つは、公共的な課題の解決や具体的な政策目標の実現のために広く社会と政策決定者および同決定プロセスに働きかけること。政策立案者への専門的な提案にとどまらず、まちづくり活動や社会保障運動など変革とたたかいの視点を持つことが重要。

○チームSTEPPS
 Team Strategies and Tool to Enhance Performance and Patient Safety 協働すべき「チーム医療」の多職種のメンバーがともに研修し、ヒューマンエラーや医療事故を未然に防ぎ、医療安全の推進、安全文化を醸成するためのチームトレーニングのひとつ。2005年に米国で開発された。チームSTEPPS研修では、「リーダーシップ」「状況モニター」「相互支援」「コミュニケーション」の4つを学び、最終的にはチームのパフォーマンスを改善し、より安全なケアを提供し、組織の安全文化の醸成を目的にする。

【第4章】第3節(5)
○オーラルフレイル
 口腔機能の軽微な低下(滑舌低下、食べこぼし、わずかなむせ、かめない食品が増える、口の乾燥や食の偏りなど)を含む身体の衰え(フレイル)の一つ。健康と機能障害との中間にあり、可逆的なものであるため、早めに気づき適切な対応をすることでより健康に近づく。特に高齢期では、これを予防し、人とのつながりや生活の広がり、共食といった「社会性」を維持することで、多方面の健康分野に関与することが明らかとなっている。

【第4章】第3節(6)
○「必要充足原則」「応能負担原則」
 医療、介護など公的社会サービス制度で貫かれるべき原則。「必要充足原則」は、「給付」に関する原則で「給付は負担に応じてではなく、必要に応じて」、「応能負担原則」は「負担」に関する原則で、「負担は給付に応じてではなく、(負担)能力に応じて」、「非営利原則」は「提供主体」に関する原則で、公的介護サービスは営利を目的としない提供主体によって担われるべき、との考え方。

○「民医連の介護・福祉の理念」
 第40期第11回理事会(2012年12月)で確認。介護・福祉分野の活動の土台として、学習を深め、日常の実践や養成のとりくみ、介護ウエーブに活かすことを提起。全文は次の通り。
 民医連の介護・福祉の理念
 私たちは、民医連綱領を実現し、日本国憲法が輝く社会をつくるために、地域に生きる利用者に寄り添い、その生活の再生と創造、継続をめざし、「3つの視点」と「5つの目標」を掲げ、共同組織とともにとりくみます。
 3つの視点 1利用者のおかれている実態と生活要求から出発します 2利用者と介護者、専門職、地域との共同のいとなみの視点をつらぬきます 3利用者の生活と権利を守るために実践し、ともにたたかいます
 5つの目標 1(無差別・平等の追求)人が人であることの尊厳と人権を何よりも大切にし、それを守り抜く無差別・平等の介護・福祉をすすめます 2(個別性の追求)自己決定にもとづき、生活史をふまえたその人らしさを尊重する介護・福祉を実践します 3(総合性の追求)生活を総合的にとらえ、ささえる介護・福祉を実践します 4(専門性と科学性の追求)安全・安心を追求し、専門性と科学的な根拠をもつ質の高い介護・福祉を実践します 5(まちづくりの追求)地域に根ざし、連携をひろげ、誰もが健康で、最後まで安心して住み続けられるまちづくりをすすめます

【第4章】第5節(1)
○2025年プラン(公的医療機関等2025プラン)
 医療法の定めで、公的医療機関に加え、共済組合、健康保険組合、地域医療機能推進機構などが開設している医療機関を公的医療機関等としている。2017年8月に厚生労働省より、これらの公的医療機関等に加え、地域医療支援病院、特定機能病院に対して、「他の医療機関に率先して、地域医療構想の達成に向けた将来の方向性を示していただくことが重要」として、自院の現状と課題や将来持つべき病床機能や病床数、具体的な事業計画等を明示するとともに、地域医療構想、地域医療計画との整合性をはかるよう求めている。

【第4章】第8節(4)
○ECOSOC(国際経済社会理事会の協議資格)
 国連憲章で定められているNGO参加のための公的な体系をもった唯一の国連機関。略称はエコソク。国際連合経済社会理事会(United Nations Economic and Social Council)は、国際連合の主要機関の一つで、経済および社会問題全般に関して必要な議決や勧告等を行う。民医連がこの協議資格を取得すると、日本政府が放置している健康権の侵害や、貧困と格差拡大の実態などを国際的に明らかにするため、国連への意見書提出や配布、会議への参加や傍聴などが可能となる。2012年、日本のNGOでECOSOCの協議資格をもつヒューマンライツ・ナウの要請で、国連特別報告者のグローバー氏が来日して福島の放射線被害の実態を調査、2013年に報告書が国連に提出され日本政府に勧告が行われたのも一例。

○遺棄毒ガス被害者
 終戦時に日本軍が廃棄、隠匿・埋設した遺棄毒ガス兵器(その多くはサルファマスタードおよびルイサイトというびらん性毒ガス)は中国全土で70万発~200万発にもおよぶといわれる。その廃棄処理作業は遅々としてすすんでいない。1970年代以降、中国の各地で建設現場などから曝露被害が発生、とりわけ2003年には中国黒竜江省チチハル市で大量の曝露事件が発生。また国内でも茨城県神栖や神奈川県寒川で被害が発生している。