第42期第2回評議員会方針
2017年2月19日全日本民医連第42期第2回評議員会
第1章 42回総会から中間点に立って
第1節 戦争法廃止と立憲主義回復の運動の到達
(1)全国にひろがった総がかり運動と社会保障のたたかい
(2)憲法学習運動とたたかう力の蓄積
第2節 各分野の到達
(1)社会保障解体とのたたかいと平和運動の到達
(2)「医療・介護活動の新しい2つの柱」の実践と探求
(3)医師養成、医学対と新専門医制度への運動
(4)経営改善のとりくみ
(5)民医連運動を担う人づくり
(6)歯科分野
(7)共同組織のとりくみ
(8)全国的なとりくみ
第2章 情勢をどう見るか
第1節 平和と格差・貧困の解消を求める世界の人々の運動の高まり
第2節 憲法改悪と戦争法の実行の局面~平和国家の危機
(1)安倍政権の9条改憲への執念
(2)戦争法の全面的実施、戦争する国づくりへの加速
(3)沖縄高江のオスプレイバッド建設、辺野古新基地建設の強行
第3節 国民生活の現実
(1)まる6年を迎える3・11~被災地の現状
(2)アベノミクスの破たんと一層すすむ格差と貧困の拡大
第4節 社会保障解体へ向けた安倍政権の政策
(1)戦争する国づくりと社会保障解体をめざす2017年度予算案
(2)介護保険制度の見直しをめぐる動き
(3)地域医療構想の策定と医療法改定へ向けた到達
第5節 原発ゼロをめざして
第3章 今後1年間の強化方向
第1節 歴史的な総選挙へ向けた全日本民医連の立場と行動
第2節 今後の諸課題の強化方向
(1)平和といのち、人権を守る大運動を
(2)「新しい2つの柱」の実践と探求で民医連らしい医療・介護活動の追求を
(3)民医連運動を担う医師の確保と養成の前進へ向けて
(4)経営改善の速度を上げ、必要利益の確保をはかろう
(5)民医連運動を担う人づくりを事業と運動の中で旺盛にすすめよう
(6)歯科分野
(7)共同組織
(8)災害対策をすべての県連、事業所ですすめよう
(9)全国課題
はじめに
2017年は、国民主権、平和的生存権、基本的人権を普遍的権利として宣言した世界に誇る日本国憲法が施行されて70年目の年です。安倍政権の暴走は、いまやこの憲法も議会制民主主義のルールも守れないものとなり、国民との矛盾を強権でしか乗り越えられない状況です。一刻も早く退陣させ、今年を憲法といのちが輝く年に転換し、来年2月の被爆地広島での43回総会を平和と人権が大切にされる社会の中で迎える決意を固め合いましょう。
前総会から1年、方針にもとづき新たな民主主義の発揚を確信に、希望ある時代を切り開くため、総がかりの運動、事業、人づくりに総合的にとりくんできました。総会方針が提起した医療・介護の新しい2つの柱、医師の確保と養成、経営課題など重要な方針について全国会議を開き実践をすすめてきました。第13回看護介護活動研究交流集会、第13回共同組織活動交流集会で、確信に満ちた実践が共有されました。共同組織月間を通じ、共同組織構成員は369万、『いつでも元気』は5万6647部に到達しています。
42期の折り返しとなる第2回評議員会は、全会一致で、第1に1年間のとりくみを振り返り、教訓を深め、大きく変化する情勢と時代認識を共有すること、第2に43回総会に向け、今後の運動の強化方向を確認すること、第3に42期第1年度決算と第2年度予算を承認しました。
第1章 42回総会から中間点に立って
第1回評議員会は「今後の2年間は、地域医療構想の確定、新専門医制度のスタート、診療報酬介護報酬同時改定など、医療制度『改革』の大きなターニングポイントです。民医連らしさを鮮明に打ち出して、医師をはじめとした職員の確保・養成と経営の着実な改善の基礎となる無差別・平等の医療・介護の実践と発展が重要です。そして、事業の積極的な連携をすすめる中で新たなつながりも生かして改憲と社会保障削減に突きすすむ安倍政権に総がかりで対峙してゆかねばなりません。42期総会方針実践の本格化をはかる時です」と提起しました。
全日本民医連は、総会方針の学習を土台に、熊本地震への全国支援の継続、参議院選挙など多くの国民的な運動に全力を挙げながら、総会方針の具体化を着実にすすめてきました。無料低額診療事業所は、総会時377事業所から396事業所となりました。
4月に発生した熊本地震に続き、9月に北海道・東北地方の台風災害、10月は鳥取地震、11月にも福島県沖地震など毎月のように災害被害が発生しています。MMAT研修会では熊本地震支援の教訓と対策本部の役割や機能を学び、災害対策の策定について基本点を提起してきました。
2018年医療・介護報酬の同時改定まで1年、経営問題で苦戦しているところが増えており、民医連組織が力を集中してとりくむ課題となっています。
第1節 戦争法廃止と立憲主義回復の運動の到達
(1)全国にひろがった総がかり運動と社会保障のたたかい
2015年12月に結成され全日本民医連も参加した「戦争させない 9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」は全国39道府県、260地域超に広がり、参議院選挙での野党統一候補の勝利に続き、新潟県知事選挙の勝利など市民と野党の共同の力が政治を変えていく希望として広がっています。「安倍政治を終わらせよう」が各分野の共通のスローガンとなり、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」とともに、野党と市民の共同は次の衆議院選挙で自民党・公明党とそれを補完する日本維新の会などの議席を少数に追い込む確かな歩みとして広がっています。「いのちと暮らしを脅かす安全保障関連法に反対する医療・介護・福祉関係者の会」の賛同者は9000人に届くまで伸び、社会保障や貧困問題も運動テーマに加えながら前進しています。全日本民医連は総がかり行動の運営委員会と事務局を担い、全国各地でも県連や事業所、共同組織が奮闘しています。
第1回評議員会では「地域医療構想に対抗するシンポジウムなどを契機に社会保障運動でも総がかり行動を広げよう」と提起しました。長野、宮崎、北海道などで医師会や行政も参加したシンポジウムなど県全体を視野に入れた運動も始まりました。介護ウエーブでは、「認知症の人と家族の会」などの当事者団体や介護施設団体、福祉用具業界との共同など、介護分野の総がかりの経験も生まれています。非正規雇用が拡大する中、最低賃金引き上げを求める運動や社会保障の充実や戦争法廃止も掲げる動きがでています。戦争法廃止の運動団体との共同も広がっています。
(2)憲法学習運動とたたかう力の蓄積
学校教育のゆがみ、新自由主義的な考え方や自己責任論がまん延する中、多くの職員が、民医連に入職して初めて憲法や社会のことを学ぶ機会を得ます。一方でこの間の戦争法の強行、雇用崩壊や貧困の広がり、高額な学費と返済が過重な奨学金問題など、職員自身が将来不安、平和が脅かされることへの強い危機感など自らの問題として感じることで主体的に運動に参加する動きも出ています。ひとりひとりが、人任せでなく、自分の課題としてとらえ、行動する、「当事者性を発揮する」ことがキーワードです。それには学びつつたたかうことが重要です。大きな運動となった戦争法(案)廃止をめざす運動も、8万人以上が参加した憲法学習にささえられたものでした。
民医連は、いのち、憲法、綱領の立場から目の前の患者や利用者の困難な現実、平和のフィールドなどで学んだ現場の事実を大切にします。そして学ぶことで、どんないのちも平等であることなどを理念として培います。患者・利用者の困難を自らの課題とし、いのちを軽んじる政治が暴走するなら、それに立ち向かうという医療・介護の専門職の集団が民医連です。引き続きSDHのとりくみなどとも結びつけ、学びつつたたかう活動を豊かにしましょう。
第2節 各分野の到達
(1)社会保障解体とのたたかいと平和運動の到達
①社会保障を守るたたかいの到達と青年社保セミナーの開催
社保委員長会議では、前期提起した「6つの視点と4つの連携」のポイントを振り返り、重点の第1に、「気づき」から出発し、事例から学び、つかみ、広げるとりくみを強調しました。現場の職員ひとり一人の気づき・事例の共有の重要性を確信にしました。
第2に、国や都道府県、市町村に向けた運動の強化をよびかけ、リーフも活用しながら、2017年通常国会でねらわれている医療・介護の負担増や保険はずしに対して、患者・利用者の実態から議員への要請行動などにとりくむことを呼びかけました。
同時に国保44条や77条の運用改善や、子ども医療費の負担金助成拡充、償還払い制度の撤廃なども重視し、石川や徳島、愛媛など各地で国保証の窓口留め置き問題など国保改善に向けた交渉もとりくまれました。
2016年臨時国会は、TPP批准阻止や年金カット法案、カジノ法案反対と「安全・安心の医療・介護実現」「自衛隊に新任務付与せず南スーダンからの撤回」の議員要請にとりくみ、民医連として4回の国会集中行動を行ってきました。
第3に、社保活動に青年職員が積極的に参加できるよう、ブックレット『あれ? おかしい。』の学習をすすめてきました。看護部門全員が読了した病院、制度教育に位置づけての活用や医学対で奨学生の学習教材としたりと経験が広がっています。6万部の普及目標に対し3万8790部普及(11月末)していますが、県連間で活用に差が生まれています。
熊本県水俣市をフィールドに第4回青年社保セミナーを開催しました。水俣を通して公害と差別、そこから福島や沖縄、広島・長崎にまで思いを馳せて深い学びができました。
②介護ウエーブの前進
無差別・平等の地域包括ケアへ向け、介護保険制度の改悪を目前に介護ウエーブのとりくみを強化してきました。「改悪法案をつくらせない、国会に上程させない」をスローガンに、請願署名、影響アンケート、利用者・家族のひと言カードにとりくんできました。11月の「介護を良くするアクション月間」では、地域社保協と連携し、認知症の人と家族の会などとも協力しながら各地で様々なとりくみがされました。全日本民医連として、国会行動、厚労省交渉などを実施。反対の世論と運動の力が、生活援助の総合事業への移行など、政府の当初の改悪案を押し返してきました。
③第42期平和アクションプランの決定と実践
第42期平和アクションプランを決定しました。「平和な未来を私たちでつくろう~学び、育ち、行動し、つながろう」をテーマに、「平和憲法を学び、身近に引き寄せ、守り活かす大運動にとりくみ、戦争する国づくりをやめさせよう」「新たな米軍基地の建設、機能強化をゆるさず、日米安保の解消に向けて米軍基地の撤去運動にとりくもう」「脱原発、核兵器廃絶に向けたとりくみを強化し、安心して住み続けられる平和な社会につなげよう」を掲げました。
第38次辺野古支援・連帯行動をはじめ、9月からとりくんだ高江のオスプレイ・ヘリパッド建設への抗議行動には12月までに全日本民医連の集中行動に99人、沖縄民医連の金曜行動に42人が参加しました。
核廃絶に向け、原水爆禁止世界大会の成功、ノーモア・ヒバクシャ訴訟への支援にとりくみ、新しく提起されたヒバクシャ国際署名のとりくみが開始され14万筆の到達です。
(2)「医療・介護活動の新しい2つの柱」の実践と探求
医療・介護活動の新しい2つの柱
第1の柱:「貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別平等の医療・介護の実践」
第2の柱:「安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」
① 「新しい2つの柱」の本格的議論と実践に踏み出す拡大県連医活委員長会議の開催
11年ぶりに開いた拡大県連医活委員長会議は、「『新しい2つの柱』を推進する医活委員会の確立」をメーンテーマに全県連から63人の医師も参加し、本格的な議論と実践に踏み出す有意義な会議になりました。「(民医連らしい)新しい2つの柱」の実践と県連医活委員会の確立が、2025年に向かう中長期的な視野からも今後の民医連の未来と可能性を切り開く鍵を握っていることを明らかにしました。また、「新しい2つの柱」の実践は、民医連(病院)の「4課題(医療・介護活動、医師・職員養成、経営改革、運動)を好循環させる要であり、実践的な焦点として、地域医療構想・地域包括ケア、SDH、HPHが強調され、その見える化が求められていることです。
そして、「新しい2つの柱」の実践を担う豊かな医活委員会の新たなイメージがワークショップで明らかにされ、各県連らしい医活委員会の具体化の模索とその確立の「覚悟」が多くのプロダクトで示されました。特に、県連理事会が主導してとりくむこと、医活委員会の構成・体制・権限の検討・見直しや医師委員会とのコラボレーションなど「問題提起」が深まりました。
②「安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」の実践
「安全」と「倫理」への組織的なとりくみは今後の大きな課題です。特に、高齢者・終末期の医療・介護倫理は、「在宅や施設の終末期、急変時の倫理」「抑制と事故予防」「摂食困難者へのかかわり」「認知症ケアの倫理」など多岐にわたっています。
また、介護施設での危機管理や警察対応に関する問題意識から、第7回医療介護管理者・顧問弁護士交流集会は、今回から対象を介護施設管理者まで広げました。特に、「日常現場で認められる窒息の考え方の整理」など臨床・医学的評価の重要性を学び、日常的に顧問弁護士と相談する関係づくりや県連への報告、介護事業所での危機管理、安全管理の必要性とその課題を深めました。
全日本民医連は、オプジーボを契機に高薬価医薬品の問題に対する声明(不透明な薬価の決め方をあらためることと、必要な治療は健康保険の給付とすること)を出すとともに民医連の医療機関・保険薬局として、安全性・有効性と同時に患者の経済的負担に十分留意して治療を行い、その視点で自己点検する見解を発表しました。医局や薬剤部門での討議が始まっています。引き続き、医局を中心に議論し対応していくことが必要です。
国が接種をすすめた子宮頸がんワクチンの副作用で健康被害が生じたとして東京、大阪、名古屋、福岡の各地裁で119人の原告により集団訴訟が始まりました。全日本民医連は、2016年2月22日「HPV(子宮頸がん予防)を接種された方への情報提供や相談窓口の設置、アンケート実施について」の方針を確認し実践をすすめてきました。
③現場から社会へ向けた発信
SDHの探求と実践では、「放置されてきた若年2型糖尿病」の研究結果が、多くの学会でも発表され、論文化されています。またその内容が、雑誌やテレビなどでも取り上げられるなど、格差と貧困が広がる日本社会の中で注目されています。また、看護分野では患者の社会背景の情報共有や症例検討会にSDHの視点を取り入れた実践も広がっています。
水俣病の問題では民医連の医師を中心とした「公害をなくする県民会議医師団」が「最高裁判決後の水俣病検診のまとめ」を発表し(2016年10月)、2012年7月に国が救済を打ち切った問題点を明確にしました。
埼玉や長野では、生活保護基準の引き下げ後の受給者の実態調査を実施し、基準引き下げがより深刻な生活悪化を引き起こしていることを明らかにし、運動につなげています。
④日本HPHネットワークの活動の前進
日本HPHネットワーク(J―HPH)は、「超高齢社会と健康格差社会の中でのヘルスプロモーション活動」をメーンテーマに国内カンファレンスを開催。「医療の質の向上にヘルスプロモーションが貢献する」ことが、確信として広がりました。
J―HPHの顧問である日本病院会や全国自治体病院協議会、日本プライマリ・ケア連合学会、佐久総合病院から大きな期待をこめたあいさつとメッセージが寄せられました。
ヘルスプロモーション活動を治療とともに提供することで、医療の質が高まることが国際的に明らかにされています。超高齢社会と健康格差社会のなかで人々のニーズに応えるヘルスプロモーション活動が、強く求められています。HPHの加盟事業所は、発足時35から現在58事業所(2017年1月6日現在)に増えましたが、民医連内外でのさらなる広がりが求められています。
(3)医師養成、医学対と新専門医制度への運動
①初期研修、後期研修などのとりくみ
オール民医連での医師養成を掲げてとりくみを強化してきました。2016年度、157人が民医連で初期研修を開始しました。初期研修を修了した124人(14卒)の中から73人(59%)が民医連内で後期研修を開始し、後期研修から民医連での研修を開始した7人を加え80人が民医連で後期研修をし、中・低学年から奨学生だった研修医の後期研修定着率は73%と高い比率を維持。より低学年からの奨学生誕生の重要性を示しています。
全日本民医連と医療福祉生協連が共催した「第15回臨床研修交流会」(10月)では、「まちづくり、コミュニティーづくりと医師養成」をメーンテーマに、医師166人を含む298人が参加しました。また、セカンドミーティング(3月)は、研修医119人が参加しました。専門医制度の変更が議論される中、より正確に情報を伝え、地域医療を担う医師として専門医取得後を見据えたキャリア形成を考え、自分の医師像を見つめる機会となりました。
②17卒マッチング到達と課題
17卒の医師臨床研修マッチングは172人、その後の2次募集応募者含めて180人(12月現在)となり、21卒での新卒医師受入れ200人に向けての「ロードマップ」の17卒目標を達成しました。しかし、卒年での奨学生辞退、マッチングがゼロの基幹型臨床研修病院が複数あることなど、奨学生からの辞退を生まないための対応や全病院が継続して毎年マッチングしていくために地協や県連単位での卒年対策会議など手立てが求められています。
③医学対の到達と課題
第1回評議員会で昨年の教訓、特徴を確認し、医学生委員長会議でも深めてきました。2016年11月末で、1年生(22卒)の奨学生は76人で過去最高です。また中低学年の(4年生以下)奨学生でも288人と近年最高水準の奨学生が民医連とともに歩んでいます。県連や事業所で目標を明確にし、そのための活動方針を医学生委員会や管理部、理事会などで協議・決定し実践しているところで前進が見られます。
9月に行った医学生委員長会議では、昨年からとりくまれた「中低学年での奨学生を増やし育てる大運動」の総括の上に立ち、その教訓を共有しつつ、さらに運動を前にすすめるための議論を行いました。奨学生について深め、増やす、育てる、挑む、の「3つのMovement」を提起し、2015年度の「大運動」を上回るとりくみを呼びかけるとともに、来春までの具体的目標として「中低学年で県連1人以上、大規模県連2人以上」の奨学生誕生を目安にとりくみを強めています。医学生委員会のもとに、「奨学生育成」「高校生・予備校生対策」「中小規模県連対策」の3つのチームをつくり、それぞれの領域でこれまでの全国の活動経験の共有・継承、運動をすすめるための方針検討など開始しています。「いのちの平等」を通年のテーマにした医学生のつどいは2ndが「貧困」、3rdQuarterで「障がい」をテーマに開催し、企画内容で意識が変わった医学生が自ら奨学生に決意するなど大きく成功しました。
④新専門医制度の局面と運動課題
日本専門医機構が制度開始を1年延期と決定した新専門医制度に対しては、その後の推移を踏まえ、理事会として11月18日に「国民本位の良質な専門医制度のために~新専門医制度の現局面における提案」を発表しました。
あらためて専門医制度改革において重視すべき視点として、(1)国民本位の公正で必要十分な医療制度をまもり発展させることを何より大切な前提として、そのうえで専攻医が安心して確かな力をつける制度が創られることが重要であること、(2)専門医像としては診療実践をサブスペシャリティに限定せず、他の専門医と協働しながら地域のプライマリー・ケアを一定担うような働き方・あり方が求められること、そのためにも教育研修施設を地域に幅広く配置するべきこと、(3)総合診療専門医がさまざまな診療場面で活躍する状況を遅れることなくめざすべきであること、を挙げています。そして、当面の機構の行動に関する要望・提案として、(1)この制度の地域医療への影響を客観的に調査公表し、併せて地域医療をまもる視点で制度とプログラムの再点検を行う、(2)専攻医が安心して力をつけることができるように必要な整備を行う、(3)多様な診療現場で活躍する総合診療専門医を積極的に養成するための制度設計を行うことを提案し、懸案事項が多く残された状態での拙速な開始、見切り発車に対して反対することを表明しました。
12月16日、専門医機構はあらたに整備指針を決定発表しました。指針の内容は具体性を欠いており各学会への実効性という点では不透明です。実際のプログラムは学会が1次審査することになっており、プログラムの承認の事前協議の場となる各都道府県協議会の議論と運用が地域医療を守るという観点で適切に行われるように働きかけを強めることが大切です。この時期に内科学会は経験症例に初期研修のものを5割含めてもよいなど、サブスペシャリティの研修を早めることを可能にする指針を作成しており研修の総合性を軽視する動きとして見過ごすことのできないものです。また総合診療専門医の養成方針はいまだ提示できない状況であり、民医連の提案もそこに一石を投じる形となっています。
医療・社会保障政策との関係では、この制度が「医師の偏在」、医師数の議論に絡めて、医療費削減政策、提供体制の縮小の手段として利用される動きには断固としてたたかうことが必要です。
⑤医師支援
4月に発生した熊本地震への医療支援を1月末に終えました。民医連としてくわみず病院、菊陽病院、南阿蘇地域へ医師支援を行ったほか、DMAT、JMAT、PCATなど民医連以外のルートでの参加も含め、民医連の医師たちがのべ40県連、233人が参加しました。
熊本民医連への医師支援は現地の被災した仲間を大いに励まし力を発揮しました。くわみず病院は、全国からの医師支援も力にして、被災地にありながらも急性期には平素の倍に届くほどの診療を担い、その後も市民病院の機能低下をカバーする地域での重要な役割を担い続けています。
福島のわたり病院と桑野協立病院への支援は、北海道・東北地協と関東地協として東京・栃木民医連を中心に継続してきました。また、沖縄協同病院への麻酔科医師支援が、北海道民医連から2017年1月まで行われ、これを契機に民医連内の麻酔科医師集団の交流、連携がはかられることとなりました。
福島第一原発事故後、広野町で入院医療を唯一継続してきた高野病院が、院長急死により診療継続が困難となりました。病院より全日本民医連に診療支援の要請を受けました。原発事故により引き起こされた地域医療の崩壊が土台にあり、地域の患者、医療を守ることを目的に緊急支援を決定しました。
(4)経営改善のとりくみ
①民医連経営の現状と課題
医療、介護を巡る厳しい経営環境の中、民医連経営はかつてなく厳しい状況に直面しています。15年度経営実態調査では、5年間連続悪化、事業の継続や健全な発展に必要な利益が確保できていない法人が多数を占めています。医科法人の経常利益は、5年前の129億円(利益率2・2%)から26億円(同0・4%)にまで減少しました。事業活動で必要な資金が生み出せていない実態が拡大しています。事業キャッシュの不足が、借入金の増大にもつながっています。要対策短期指標該当法人は17、中期指標(5ポイント以上)該当法人は53法人(全法人の4割)と増加傾向です。地域要求にあった病床の編成(急性期病床の整理や地域包括病床の導入など)や増加する人件費、借入金の増加など危機感はあっても経営構造の思い切った転換に踏み切れない状況が広くあります。
今日的な経営困難の要因は、(1)自然増さえ削減をはかる社会保障解体政策の影響、(2)医師不足をはじめとするマンパワーの弱さや資金力の問題などから生じる競争力の低下、(3)困難を乗り越えるトップマネジメント力量の不足、全職員の経営を実現するマネジメント力の弱さなどです。この困難を打開するには経営問題の認識の一致をはかるとともに、理念、ビジョンを明確にした中長期計画にもとづく年次計画作成と執行に責任を負うトップマネジメント機能を高めること、全職員参加の経営を実現するために、経営についての現状認識と課題を全役職員が共有すること、そのための具体的な手立てをとること、地協・県連がその役割を発揮できるよう体制を含めて機能強化をはかることが重要です。この間、改善した法人では、地協や県連の経営調査を受け、トップ幹部が、事態を正確に認識し、課題と目標を共有、方針を提起すること、「全職員の経営」に徹すること、そのために経営の情報、目標、課題を迅速に管理者が職責者、職員、共同組織に自らの課題としてとらえられるよう知らせ、理解と実践の援助をやり抜くことなどです。
県連や地域によって困難の原因は様々で、共通の解はありません。地協、県連が経営困難に陥っている法人を早期に把握し、危機認識と原因を共有し、転換へ向け働きかけを組織的に援助していくことが重要です。総会方針が提起した県連、地協の経営委員会などの体制の具体化は、最低限のとりくみです。
②介護事業経営の現状
低く固定化された介護報酬、多様な事業者の参入、慢性的な人手不足などにより、介護事業の経営環境は厳しさを増しています。介護事業の2015年度の経常利益率は法人(89法人)合計で▲1・0%(前年0・0%)でした(介護・福祉部調査)。実質▲4・48%となった介護報酬2015年改定のもとで全体として奮闘している結果といえます。報酬改定への系統的な対応を通して改善がみられる法人、手立てを講じているが、まだ改善基調に至っていない法人がある一方、十分な対策がとられず困難が続いている法人などもあります。職員体制の厳しさが経営困難に直結しています。改定報酬対応、職員確保など、引き続き経営基盤強化に向けたとりくみを強める必要があります。
(5)民医連運動を担う人づくり
綱領を担う職員集団づくりを目的とした職員養成のとりくみは、自己学習や制度教育とともに、日常の民医連らしい医療・介護活動と運動を通して職場で育ちあう「職場教育」と、そのための職場づくりの重要性が強調され、全国で活発な実践がすすんでいます。
①職場づくり方針の実践の特徴と課題
生活と労働の視点、SDHの視点での職場での継続した事例検討や職種横断的なケアカフェ、民医連新聞を活用した情勢や全国の仲間の活動を学ぶ活動、職場でお互いの仕事・活動ぶりのキラリと光ったところを記録し発表しあう「キラリ・ハット」のとりくみ、ペア職場・ペア支部制度で地域の共同組織の支部と交流しいろいろな活動を通して地域を知るとりくみなど職場づくり方針の実践がすすんでいます。
②事務幹部養成学校の県連・地協開催
九州・沖縄地協に続いて、近畿と東海・北陸地協、長野県連などで、大がかりな事務幹部(養成)学校が始まりました。30~40歳代の中から明日の民医連運動をリードする幹部を育成することは、待ったなしの課題になっており、地協や県連あるいは県連共同でのとりくみを発展させていきましょう。
③全職員が憲法を学び深める第2期憲法学習大運動
前期1年間かけてとりくんだ憲法学習運動を土台に、さらに職員1人ひとりが憲法を自分の身近な問題に引き寄せて理解を深めること、国民投票も視野に入れ、憲法を守り活かす行動に踏み出す学習が求められています。2016年10月から第3回評議員会までの約1年間、「第2期憲法大学習運動」を提起し、民医連新聞号外「憲法カフェ」を毎月1回発行しています。職場での読み合わせ、憲法についての意識アンケートなど独自のとりくみも行われています。12月末で「憲法カフェ」を使った学習は469回行われ、のべ3733人の参加、カフェ以外の学習会を含めのべ5494人が参加、常勤職員の9%を超えたところです。
④その他
「民医連のめざす看護とその基本となるもの」、「民医連におけるリハビリテーションのあり方(2016年版)」を確認しました。
(6)歯科分野
第13回看護介護活動研究交流集会でチーム医療を深めるために口腔ケアについて、歯科医師による教育講演や歯科からの報告を行いました。病棟や施設、在宅の医療や介護において口腔機能の維持・向上など、歯科の役割が重要になっています。外来中心から地域に向けた歯科医療へ、歯科単独から医科・介護・地域と連携した歯科医療活動への動きをさらに深めていくことが重要です。中長期計画は全ての事業所で作成され、実践を開始している事業所も出てきており、全体に広げていくことが課題となります。
2016年度上半期歯科経営調査では、患者結集、医療構造の転換、医科歯科介護連携などをキーワードに黒字事業所比率は74・3%、事業所合計の経常利益額は約3億100万円(収益比3・6%)と前年同期を上回りました。経営困難が続いている事業所へのサポートを県連、地協とともにすすめることが求められます。
職員育成の課題は中長期計画の重要な課題です。現在、歯科の奨学生は9人です。将来の民医連の歯科医療を担う歯科奨学生の確保は重要な課題であり、歯科衛生士・歯科技工士の確保と養成、事務管理者の継続的な配置とともに、この課題を中長期計画の柱としていくことが必要です。
(7)共同組織のとりくみ
共同組織拡大強化月間は、構成員が約3万人純増、目標の369万を突破しました。『いつでも元気』は2856部の拡大(10~1月号)で純増1359部、5万6647部となり、過去最高部数まで754部に迫るところまで回復しました。
「決めるのは私たち 憲法をいかし平和・人権・環境を守ろう 地域まるごと安心して住み続けられるまちづくりを」をメーンテーマに第13回全日本民医連共同組織活動交流集会in東海・北陸(石川)を石川県加賀温泉郷で開催しました。約2000人が参加し、発表に終わらせず、討議・交流し、各地に学びを持ち帰って活動に生かすことを重視し運営されました。医療生協、友の会型にかかわらず全国で活動が活発になっていること、無差別・平等の地域包括ケアへのとりくみ、居場所づくりなどで前進していることなどが共有されました。
こうしたとりくみを普及するために交流集会DVDを作成しました。各地で集会の成果を生かし、子ども食堂など職員と一体の要求にこたえた活動が広がっています。
月間では、北海道で構成員、地域住民1万6000軒を訪問、会員の抱える色々な困難を解決につなげてきた経験、福岡ではアンケートを使い、会員自身がおかれている状況を把握するなど、構成員の要求をもとに活動を広げています。支部の単位で行政との懇談や要請を行うなど、自分たちが暮らす身近な地域で無差別・平等の地域包括ケアの実現をめざす実践もはじまりました。『いつでも元気』は300号記念誌を発行、紙面改善を行いました。
(8)全国的なとりくみ
熊本、鳥取と続いた地震災害支援、北海道、岩手の台風被害支援にとりくんできました。熊本支援ではMMATが本格的に活動し、東日本大震災の教訓を生かした職員の健康管理にもとりくみました。第1回評議員会で概要をまとめ、第7回理事会で「2016年熊本地震における全日本民医連の支援活動の中間総括と今後の課題」を決定しました。各地でも熊本地震を参考に大規模災害訓練が実施されています。首都の大規模停電を想定し、全日本民医連が入居する全労連会館でも非常電源装置設置の検討を始めました。
「憲法で保障された“いのち・人権・くらし”を守り抜こう! 民医連の看護・介護の力で~全ての生命が耀く未来のために~」をテーマに、第13回看護介護活動研究交流集会を新潟で開催し、904人が参加、464演題が発表されました。SDHの視点をもった日常の医療・介護の実践、困難事例にも決してあきらめずにとりくんだ実践が多数報告されました。
今期は19県連で新しい事務局長が選出されました。12月に実施した県連事務局長研修会では、第1回県連事務局長研修会の問題提起を踏まえこの2年間の県連機能強化を交流し、会長の42期重点方針の講演、顧問弁護士から民医連組織を守るとりくみを強めるための学習講演を受けました。
長野・あずみの里裁判支援は国民救援会の支援が決定し、他団体からの支援が広がっています。「無罪を勝ち取る会」の署名が16万筆を超えました。介護の未来がかかった裁判をよりよい介護を求める広範な国民と介護関係者の連帯をすすめながら法廷内外でたたかいを引き続き支援していきます。
民医連の行った各種の調査活動をECOSOC(国連経済社会理事会)へ提出するための準備を開始しました。
原水禁世界大会には、韓国から20人を超える医系学生が参加し、広島民医連の被爆者医療や民医連運動を学ぶ交流が行われました。2017年11月にフランスで予定されている「全ての国民のための社会保障制度」をテーマとした国際シンポジウムへの参加要請を受け準備に入りました。
第2章 情勢をどう見るか
第1節 平和と格差・貧困の解消を求める世界の人々の運動の高まり
世界では、戦争か平和か、格差・貧困の放置か是正か新自由主義の暴走を止め、政治の転換を求める草の根からの運動が広がり、大きな影響力を持ってきました。
昨年10月、国連総会第1委員会で核兵器禁止条約の締結交渉を開始することが、圧倒的多数で採決され、12月23日、国連総会本会議で「核兵器禁止条約」の交渉を17年3月から開始する決議が採択されました。戦後の歴史ではじめて「核兵器を禁止する世界」が開かれようとしています。締結されれば「核兵器を非合法とする」世界が実現します。長年にわたる被ばく者の方々の訴えを底流とし、市民の粘り強い運動の成果です。日本政府は核保有国の米露英仏とともに反対しました。日本国内の運動が決定的です。被ばく者とともに核兵器を禁止するという大義ある世論と運動を大きくし、日本政府が決してノーと言えない社会をつくるために奮闘しましょう。
昨年11月のアメリカ大統領選挙では、大方の予想に反しトランプ氏が勝利し、イギリスのEU離脱とともに世界に激震が走りました。この結果が当事国と世界にどのような影響をもたらすかは未知数ですが、双方ともにグローバリズム、新自由主義改革のもとで、深刻さを増した格差と貧困の拡大をこれまでの政権が改善できず、矛盾が拡大したことが背景にあります。一方で、不平等と腐敗の政治を市民の力で改革すると訴えたバーニー・サンダース氏が若年層を中心に圧倒的な支持を得ました。最近のギリシャ、ポルトガル、スペインの総選挙では、押し付けられた緊縮政策に反対する市民運動と連携した政党が躍進しました。平和を求め、格差と貧困の解消へ向けて、世界は激動の時代となっています。また韓国ではパク・クネ大統領の不正・腐敗に怒る国民の大規模な抗議行動が起こる中、弾劾に追い込まれました。
北朝鮮の核開発や中国の東シナ海等での軍事的な行動に対し不安が寄せられています。戦争につながる軍事力で対抗しても解決はできません。外交の力、とりわけ憲法9条を持つ日本が平和的な対話の力によって解決へ向かうことが重要です。
深刻な事態が広がるほど、現状に対する人々の不満が強まり、そこからの脱出路を求めて極端な言動・政策に惑わされる事態も十分予想されます。オスプレイの「墜落」を「不時着水」、南スーダンでの「戦闘」を「衝突」、「年金カット」を「将来年金確保」などと真実にもとづかない言葉で言い換え、政治を行う安倍政権、真実を伝えないマスメディアの報道姿勢により、極右的な排外主義が、日本でも台頭しうるものとして警戒が必要です。反戦と格差是正を求める様々な草の根の運動を背景に、平和と反新自由主義、経済民主主義を掲げる政治勢力が大きく伸びることが真の活路であり、民医連はその市民運動の有力な一員であることの自覚と行動が大切です。
第2節 憲法改悪と戦争法の実行の局面~平和国家の危機
(1)安倍政権の9条改憲への執念
安倍政権は、自民党の憲法改正草案(2012年)を撤回しないまま憲法審査会をスタートさせました。自民党の草案は、憲法前文と103の条文のほとんどすべてを「改正」しようとするものです。9条2項を削除し国防軍の設置を明記、25条がすべての国民に人間らしい生活を保障することを国の責務としたものを草案24条1項で「家族の助け合い」を義務化して自己責任、家族責任にすり替えようとしています。また、国に課せられた憲法擁護義務を国民に移し変え立憲主義を破壊、時の政権の判断で憲法を停止できるよう緊急事態の項を追加するなど国民主権、平和的生存権、基本的人権の尊重など日本国憲法を真っ向から否定する内容です。
安倍政権は、批判の強いこの草案を棚上げにし、通常国会中の憲法審査会で環境権、教育無償化などを野党も一致できる論点を入り口にして憲法改正を準備しようとしています。
また、「国民監視の強化や人権を無視した警察の無謀な捜査を生む」と批判され、これまで3回も廃案となった「共謀罪」を、「テロ等組織犯罪準備罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案として、国会に提出しようとしています。名称を変えても市民監視の本質は変わっていません。自由と民主主義を奪う法を国会に上程させない運動を急速に強めましょう。
(2)戦争法の全面的実施、戦争する国づくりへの加速
集団的自衛権を行使する憲法違反の戦争法により、11月15日に南スーダンPKOへの駆けつけ警護、宿営地の防御という新任務が自衛隊に付与されました。南スーダンでは政府軍と非政府軍の戦闘が発生しており、このまま国連などを警護した場合、憲法9条が禁ずる戦闘行為を行うことになります。自衛隊員が海外で殺し、殺される可能性も極めて高い状態にあります。ただちに自衛隊の撤退を求めます。
防衛省は、戦場の最前線で気道確保や穿刺、輸液や輸血などの医行為を医師ではない自衛隊員が行えるようにする制度を創設しようとしています。准看護師と救急救命士両方の資格を持つ約800人の自衛隊員から選抜し研修を開始します。
17年度の政府予算案では、大学などで行われる研究を兵器開発に活用する予算(安全保障技術研究推進制度)を前年の約18倍と急増させた110億円を計上し「軍学共同」を加速させています。
全国で米軍と自衛隊との一体的な訓練が急速にすすんでいます。また、自衛隊が市街地で訓練するなどの動きもあります。首都を含め133もの米軍基地がある国は世界で日本だけという異常な状態です。横田、京都、岩国、三沢、横須賀、佐世保などでは協力体制の増強がはかられ、一部ではオスプレイの配備・低空訓練が日常化しています。横田では、東京・首都圏上空の米軍専用区域横田エリアで、高度30~60メートルの超低空訓練実施を予定、木更津自衛隊基地では富士重工がオスプレイの装備を強化する工場の建設が計画され、米軍と一体の出撃基地としての機能強化がはかられています。
(3)沖縄高江のオスプレイパッド建設、辺野古新基地建設の強行
翁長沖縄県知事による名護市辺野古の埋め立て承認取り消しを巡り、国が県を相手に起こした不作為の違法確認訴訟で、最高裁判所は十分な審理もせず、県の上告を棄却、承認取り消しを違法とした福岡高裁の判決が確定し、防衛局による辺野古新基地建設の工事が再開されました。すべての選挙で示された沖縄の民意を無視し、民主主義を破壊するとともに、対等・協力関係にある国と地方の関係を無視し国策に従わない地方に対し国の介入を制限なく認めた異常な判決です。
高江では、参議院選挙の翌日から県外から500人以上の機動隊を投入、法的根拠のない警察による検問、道路封鎖、自衛隊や民間のヘリコプターによる資材空輸、非暴力で座り込む住民、支援者の暴力的排除など政府が無法地帯をつくり出し、工事が強行されています。12月13日には、名護市で民家からわずか300メートルの海辺にオスプレイが墜落しました。世界中で墜落事故をくり返す欠陥機オスプレイの訓練施設が高江のヘリパッドです。米軍は墜落事故の検証も説明もないままオスプレイの訓練を再開しました。抗議すらせず容認した安倍政権に沖縄の負担軽減を語る資格はありません。オスプレイ配備の即時撤回、普天間基地の無条件閉鎖・撤去など建白書の実現以外に沖縄県民のいのちは守れません。
強権で辺野古基地建設をすすめても県民の理解のない基地建設は絶対に許されず、困難です。最高裁判決後、翁長知事は「過去、沖縄は日本の独立と引き換えにアメリカの施政権下に置かれた。日本国憲法が適用されなかった米軍統治下時代、苛烈を極めた米軍との自治権獲得闘争を、粘り強くたたかってきた県民は、日米両政府が辺野古新基地建設を断念するまでたたかい抜くものと信じている」と述べました。あらゆる権限を行使し阻止するとの決意は揺らぐことはありません。新基地建設阻止のたたかいは長く続きます。すべての国民が地方自治を守り抜くたたかいでもあります。沖縄とともに日本全土で米軍基地の撤去、沖縄への新基地建設反対の運動をねばり強くすすめていきましょう。
第3節 国民生活の現実
(1)まる6年を迎える3・11~被災地の現状
宮城民医連では、昨年9月に被災者の生活実態を把握し、支援の課題を明確にするために職員と共同組織で災害公営住宅の全戸を訪問し実態調査を行いました。
調査の結果、560件のデータを集約。70歳以上が4割、独居4割、2人世帯以下は8割弱という世帯構成で、また持病のある方も7割おられました。経済的な負担感とともに、生活の不安に過半数が「健康問題」をあげています。被災者医療費免除が縮小され、現在9自治体のみの実施で、国民健康保険の住民税非課税世帯のみが対象という中、持病があっても負担金があるために通院していないケースも調査では散見されました。生業の再建、安心して暮らし続けるための住宅支援、孤立を防ぐためのコミュニティーづくり、経済的不安なく医療、介護が受けられる制度の充実などを国や県に求めるとともに、継続した支援活動、アウトリーチの活動が必要であることが鮮明になりました。
福島第一原発事故は、丸6年が経過した現在も、汚染水が毎日500トン増加するなど復旧のめどが立っていません。福島県民の避難者は8万6000人、うち4万710人が故郷に戻れず、46都道府県で県外避難を続けています。長期化している苛酷な避難生活による震災関連死亡は2097人(宮城45、岩手37)となり、地震と津波による直接死1604人の1・3倍のいのちが奪われています。2016年2月発表の国勢調査では原発立地の双葉・大熊・富岡、隣接の浪江の4町の人口はゼロ人、国勢調査の歴史で初めての事態です。原発の異質な危険性を直視する必要があります。無理な廃炉の工程もありトラブルや労災死亡事故も増加、第一、第二原発で4人が死亡し、8月に2例目の被ばくによる白血病、12月には一例の甲状腺がんが労災認定されました。原発労働者の健康を守る課題が重要となっています。
放射線量が高い、除染が不十分、商店街・医療機関・学校が復旧していないなどの現実の中で、故郷に帰りたくても帰れないのが実態です。安倍政権は、帰還困難区域を除く、居住制限区域、避難指示解除準備区域の避難指示を2017年3月までに解除するという一方的な指示を強引にすすめ、精神的賠償、営業損失賠償、避難者に対する支援を打ち切ろうとしています。
「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」(原発事故の避難先でいじめにあった子どもの手記より)。各地で原発事故の避難先で子どもたちに対するいじめが起こっています。これは、子どものいじめだけの問題でなく、国と東電が加害の責任をあいまいにし、原発事故は終わったと、福島の切りすてをすすめるもとで、帰れる故郷を奪われ、困難な避難生活を送っている深刻な被害の実相が社会に隠されているからではないでしょうか。原発ゼロの理由は福島の現実の中にあります。民医連は、二度と原発事故を起こさないため、そしてすべての被害者への二重の侵害が起こらないよう、被災者に寄り添い原発ゼロの日本をめざします。
(2)アベノミクスの破たんと一層すすむ格差と貧困の拡大
安倍政権が「アベノミクスの成果」をうそぶいても、2年連続で個人消費が低迷し、深刻な消費不況が広がっている現実、格差と貧困の拡大は隠せません。資本金10億円以上の大企業5000社の内部留保は2015年度13兆円増加、313兆円で史上最高となっています。また、超富裕層の上位40人の資産が、全世帯の下から53%が保有する資産に相当する異常な状況です。一方、労働者は5年連続で実質賃金はマイナスとなり、年収200万円以下の労働者が14、15年と2年連続1300万人を超え、それに伴い働く貧困層、「結婚の壁」(結婚したくても経済的理由でできない)と言われる年収300万円未満の層が、労働者に占める割合は、1997年の46・1%から12年では55・1%となり全世代で増加しました(総務省就業構造基本調査)。2016年の預金ゼロ世帯は、30・9%となっています。生活保護世帯は160万世帯を超え、依然として過去最高水準です。
日本の相対的貧困率は上昇しOECD35カ国中ワースト7となっています。6人に1人となっている子どもの貧困は、日本社会の未来を奪います。格差が大きい国ほど死亡率が高くなることは明白です。生存権・健康権を保障する上で、この格差と貧困に立ち向かう医療と介護の活動と運動を強めていくことが特別に重要です。
第4節 社会保障解体へ向けた安倍政権の政策
(1)戦争する国づくりと社会保障解体をめざす2017年度予算案
2017年通常国会は、医療・介護へのいっそうの負担増と保険給付削減の大改悪をすすめる「社会保障解体国会」となります。
12月22日、安倍内閣は17年度政府予算案と「税制改正」大綱を閣議決定、第3次補正予算案とともに通常国会に提出します。総額は過去最大の97兆4547億円となり、軍事費の異常な突出と社会保障予算の抑制が最大の特徴です。
軍事費は5年連続で増え続け、すでに世界で有数の水準にある日本の軍事費を過去最大の5兆1000億円台とし、憲法9条を踏みにじる戦争法の本格的な運用に乗り出すものです。墜落事故を起こしたオスプレイ(4機、391億円)を含め、自衛隊を「海外で戦争する軍隊」に改造する軍備をすすめようとしています。沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設の関係経費536億円も計上、「新基地ノー」の沖縄の民意を踏みつけにすることは許されません。米空母艦載機の岩国基地移駐にも902億円も計上されています。
一方、社会保障予算は自然増さえ賄おうとせず概算要求から1400億円も削減しました。財政健全化目標を達成するために、16~18年度の社会保障費の伸びを1兆5000億円とするため、自然増が見込まれる6400億円を5000億円に圧縮するというものです。1400億円を削減するために、医療分野で950億円、介護分野で450億円の国民負担増のメニューが示されました。医療分野では、(1)高額療養費制度で17年8月から一定以上の収入のある70歳以上を対象に負担上限額を引き上げ、(2)75歳以上の後期高齢者医療制度では、所得が比較的少ない人の保険料を5割軽減する特例を2割に、(3)扶養家族だった人の保険料を9割軽減する特例を7割に、(4)医療療養病床に入院する高齢者に光熱費を負担させるとし、17年10月から医療度の低い人から1日370円、病状の重い人も1日200円を徴収する、その他協会けんぽの国庫補助金の削減などです。またオプジーボの薬価を半分にし200億円の削減も予定されています。
介護分野では、40~64歳が支払う保険料のうち、大企業の社員の保険料に総報酬割を導入、17年8月から、高額介護サービス費の上限を中間所得層世帯で引き上げる計画です。
安倍政権は「アベノミクス」の破綻で15年10月に予定していた消費税の再増税を二度にわたり延期しました。それを口実に、16年度も17年度も予定した「低年金対策」などを延期しました。消費税を基幹にする税制の破綻です。
(2)介護保険制度の見直しをめぐる動き
2月7日、政府は介護保険法等の「改正」法案を閣議決定し、国会に提出しました。財務省が一昨年から「軽度の生活援助の自己負担化」「軽度給付の総合事業への移行」「利用料2割負担の対象拡大」などの改悪案を提案していましたが、強い反対の世論や運動がそれを押し返し、政府は部分的な見直しにとどめざるを得なくなりました。しかし、新たな給付削減・負担増の見直しに変わりはありません。高額介護サービス費の負担上限額の引き上げ、現役並み所得者の利用料3割化、総報酬割の導入、生活援助の人員基準・介護報酬の引き下げ、保険者(市町村)機能強化による給付「適正化」の推進などが盛り込まれています。さらなるサービスの利用控えを生み、介護の質の低下や処遇条件の全体的な引き下げにつながる内容です。同時に、これらが次の制度改革につながる点も見逃せません。利用料3割負担導入は「応能」負担を口実にした2割負担対象拡大への地ならしであり、生活援助の人員基準・介護報酬の引き下げは、総合事業の基準緩和サービスに類したサービスを本体給付に組み込むことで、低コストの基準緩和サービスの促進をはかるものです。さらに重大なのは、当初挙げられていた抜本改革案が次の改革の検討課題として明記された点です。「軽度者支援の総合事業への移行」「利用料負担の引き上げ」「被保険者の範囲の見直し」「ケアプランの有料化」などが次期(2021年度)の制度見直しの方針・論点として挙げられています。
以上の負担・給付以外の部分では、「地域包括ケアシステムの深化・推進」を目的に、自立支援・重度化防止で成果を挙げた市町村への財政支援、療養病床の削減・廃止とその受け皿となる新たな施設として「介護医療院」(仮称)の創設、高齢者・障害者に対応する「共生型サービス」の新設などが盛り込まれています。
政府は、通常国会で、早期に成立させることをねらっています。生活援助の見直しや通所介護などの適正化、成功報酬の導入などをふくめた介護報酬2018年改定の審議も開始されます。また今年4月には介護職の処遇改善を目的に介護報酬の一部改定(プラス1・14%)が実施されます。この間の運動の成果でもありますが、加算の見直しにとどまり限定的な効果にとどまる内容です。
新たな困難を押しつける改悪法案の撤回と介護報酬の引き上げ、大幅な処遇改善を求める介護ウエーブを、職場から、地域から、利用者・家族、共同組織のみなさんといっしょに大きく広げていきましょう。この運動は、政府がねらう次の段階の改悪を阻止する力にもなります。
各自治体では、2017年度は第7期(2018~20年度)介護保険事業計画策定の作業が本格化していく時期でもあります。施設・在宅の基盤整備の強化など、地域の実態・要求にもとづく具体的な提案を行い、働きかけをすすめていきましょう。
(3)地域医療構想の策定と医療法改定へ向けた到達
2017年度中の策定へ向け、現在34の都府県で案も含め地域医療構想が策定され、パブリックコメントなどが実施されています。第1回評議員会が明らかにしたように、病床数の問題に矮小化され、病床機能の分類、在宅医療の整備などは具体性が欠けるものが大半です。また、この間、いくつかの県連がとりくんだシンポジウムなどの中では、医療者、住民の声を反映させることの重要性が共通して出されています。また、都道府県や、県内でも地域による課題の違いがあります。県連として構想の問題点、課題を明確にして運動を強めることがいよいよ重要です。
第5節 原発ゼロをめざして
原発再稼働ストップ、原発ゼロを求める市民と、原発政策をあきらめない政府や企業とのせめぎ合いが国内外で起きています。
安倍政権は2015年7月「長期エネルギー需給の見通し」を閣議決定、2030年の電源構成の原発比率を20~22%としました。これは廃炉が決まった12基の原発を除く42基すべてを再稼働しても到達しない数値で、原発新設と老朽原発の再稼働が前提です。この計画にもとづき現在5つの原発で10基を新基準の検査に合格させ、40年以上経過した老朽原発も稼働検査をクリアさせました。
福島第一原発の廃炉などの処理費用が見込みを大きく超え21兆5000億円となる見通しとなり、ほとんどを国民の電気料金と税金でまかなう構えです。高速増殖原型炉「もんじゅ」は36年間で1兆410億円の国費を投入して250日しか稼働せず、3750億円かけて廃炉にすることになりました。核燃料サイクルは破たんしましたが、政府は、反省の色もなく原子力政策維持に固執し新たな高速炉を開発する方針を決めました。
原発がなくても電力に全く困らないこと、原発の電気の価格ははかり知れないほど高額であること、何より安全な原発など存在せずいのちと原発は共存できないこと、これが3・11以後の常識です。安倍政権の描く日本社会は原発フル稼働、3・11以前の日本であり、認められるものではありません。
原発再稼働ノーの世論は一貫して6割近くを占めています。原発ゼロをめざす市民の運動も新たに広がり、高浜原発再稼働差し止めを認めさせた大津地裁判決や鹿児島、新潟県知事選挙の勝利など地方政治、国政の大きな焦点となりました。福島県議会では12月21日、福島第二原発の4基を廃炉にするよう国に強く求める意見書を全会一致で可決しました。2011年9月に続き二度目の全会一致です。
東電福島第一原発事故を踏まえ、安全性の問題、コスト増加、使用済み核燃料の処理方法がないことなどを理由に、台湾では再生可能エネルギーを増やし2025年に原発ゼロにする国策を決定しました。ベトナムでも日本政府が成長戦略の1つの柱としていた原発の購入を白紙撤回しました。
第3章 今後1年間の強化方向
戦争法が実行段階に入り、国会での改憲議論も始まりました。過酷な社会保障費削減と国民負担増により、一層の貧困と格差拡大、健康権侵害による国民的な被害の拡大が懸念されます。年内にも解散・総選挙が予想される中、たたかいは本気の共闘、事業は本気の連携のスピードアップをはかります。介護保険制度改変、新専門医制度をめぐる攻防などで得た運動の経験や「民医連の医療介護活動の新しい2つの柱」の提起と実践など、42期の前半に得た教訓を踏まえ、43回総会に向けた後半期の活動の強化方向を提起します。
第1節 歴史的な総選挙へ向けた全日本民医連の立場と行動
立憲主義を破壊した安倍政権は、昨年の国会でも抑制がきかず、強権、独裁的となり、三権分立も無視する事態となっています。はっきりと戦争に向かい、憲法99条を無視して改憲を国会に促し、個人の尊厳をないがしろにする安倍政権の暴走を止められるかどうか、次の総選挙にかかっています。その確かな道筋は、市民と野党の共闘しかありません。全日本民医連は、戦争法廃止、改憲阻止、格差と貧困の解消、社会保障の充実、原発ゼロ、市民と野党の本気の共闘をすすめる立場を明確にして行動を開始します。この間行われた東京や福岡の補欠選挙では県連として市民と野党の共同の候補の支持を明確にして奮闘するなど新しいとりくみも開始されています。
全日本民医連は、いのちと憲法、綱領の立場からすべての県連が次の総選挙の特別の位置づけを議論し、市民と野党の共同の候補とともに大いにとりくみを強め、行動することを呼びかけます。安倍政治を終わらせましょう。
日本国憲法に基づき、全ての国民のいのちが何より大切にされ、個人として尊重される国の姿を取り戻すため、総選挙にすべての職員と共同組織のみなさんが「主権者」として参加することを呼びかけます。
第2節 今後の諸課題の強化方向
(1)平和といのち、人権を守る大運動を
①平和を守る全国の運動
綱領を実践する立場から、全県連、法人や事業所で労働組合と共同し「戦争に一切協力しない」宣言運動にとりくみましょう。地域の医療機関や介護事業所、福祉関係者にも広げ、戦争法廃止に向けた共同のアピール行動など、各地域からの戦争法廃止、いのちと人権を守る医療・介護・福祉関係者の総がかり運動を展開しましょう。
憲法共同センターや総がかり行動の19日行動、9日行動などをすべての事業所で一斉宣伝日としてとりくみましょう。地域革新懇とともに共同の運動を広げましょう。
憲法施行70年の5・3憲法集会は特別に重要です。東京では総がかりの枠組みで3回目の開催が予定されています。成功へ向け奮闘しましょう。各地でも共同の集会として大規模に成功させましょう。
沖縄のたたかいに連帯し、オスプレイの即刻撤去、配備撤回を強く求め、自衛隊の強化に反対し、日本からすべての米軍基地をなくす運動にとりくみます。
7月の那覇市議会議員選挙、2018年1月の名護市長選挙などで、翁長知事をささえる地方議会と首長の勝利のため奮闘しましょう。
5月に全日本民医連の辺野古支援連帯行動は40回を迎えます。東村高江のオスプレイ・ヘリパッド建設に反対し、ヘリパッドを使用させない運動、辺野古新基地建設に反対する支援連帯行動を引き続き強めていきます。
「核兵器のない世界」へ向け2017年は特別の年です。「ヒロシマ・ナガサキの被爆者が訴える核兵器廃絶国際署名」を2020年9月までに250万筆を目標とし、43回総会までに100万筆以上をやりあげます。県連、法人、事業所で目標を持ち奮闘しましょう。8月の原水禁世界大会参加者交流集会を長崎で開催し、全国から経験を持ち寄り学び合いましょう。
被害と加害の歴史を学び、民医連の平和運動を担う職員の養成を目的に第6回平和学校を行います。
②社会保障総がかり、社会保障解体とのたたかい、大運動を呼びかける
〈社会保障を守る総がかりへ向けて〉
いま、貧困が広範に広がる中、大多数の国民、あらゆる世代にとって安心できる社会保障制度をつくり上げることが人間らしく生きていくための強い要求であり、運動が総がかりとなっていく可能性もそこにあります。この間、子どもが保育園に入れないママたち、奨学金返済に苦しむ青年・学生、非正規雇用や貧困問題にとりくみ、最賃1500円を掲げる「反貧困」の青年運動体エキタス(AEQUITAS)など、安倍政権によって困難を強いられている99%の側の当事者がすでに声をあげ始めています。将来にわたる生活の安心のため、医療・介護にとどまらず、年金、保育、そして雇用や教育などの運動と、個人・団体を問わず一致点で集まれる「25条の会」などの結成も検討しましょう。また、国による財政の限界が振りまかれ、世代間の不公平や弱者へのバッシングなどが広げられている中、暮らしを守る経済の改革、公正な分配などを可視化していくことも必要です。全日本民医連として日弁連など幅広い団体との連携や共同を広げていきます。
〈地域へ出かけ、事例を重視した運動を強めよう〉
民医連ならではの人権のアンテナで患者・利用者の困難な実態や事例、格差と貧困の実態を地域に出てつかみましょう。そして地域のさまざまな団体、個人とつながりながら患者や利用者、家族とともに改善に向けた運動にとりくみましょう。中央社保協と連名で新しい社保署名を開始します。県や地域社保協、共同組織とともに、学習を強め、通常国会会期中に100万筆を目標にとりくみます。憲法学習とも結んで『あれ?おかしい。』の学習を強めましょう。
「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」を全県連からかならず集約しましょう。
ギャンブルを合法化し、依存症を拡大するカジノ法を廃止しましょう。
〈地域医療構想へのとりくみ〉
厚労省が提示した推計方法にしたがってたてた地域医療構想で地域の医療が守れるのか、病床機能再編が地域の実態に見合うものなのか、あらためて都道府県の検討内容を分析、検証が求められます。2017年のとりくみが決定的です。広島民医連がとりくんだような地域医療構想の分析や提言づくりなどを参考にし、地方議員や地域の団体などへの説明、シンポジウムなどにとりくんで地域からの世論づくりをしましょう。
〈国保改善に向けたとりくみ〉
国民健康保険の財政運営の都道府県への移管が始まります。すでに10月には保険料算定システムソフトも配布され、大阪など県単位の統一保険料の動きも起きています。現在でも高い保険料が支払えず、滞納による機械的な保険証の窓口留め置きや差し押さえなどが横行しています。これまでの各自治体独自の減免制度を維持する運動に早急にとりくみましょう。県連が全県を視野に入れることが鍵です。調査、分析し都道府県からの情報収集や懇談、要請行動などにとりくみましょう。また野党の県議会議員へ事例や地域の調査結果をもちこんで積極的な働きかけを行い、社会保障分野の課題で一致できる議員をひろげていきましょう。
〈2018年医療・介護同時改定にむけて〉
12月21日に中医協総会が開催され、夏ごろまでに主な論点を整理し、秋までに具体的な方向性、年末までに改定の基本方針を踏まえた対応についてとりまとめるとしています。一方、薬価制度の問題をめぐって中医協のみの議論ではなく、経済財政諮問会議などでも診療報酬改定や薬価制度の検討を行う方向であり、これまで以上に抑制と市場化を求める動きも強まっています。17年度予算編成では社会保障費の自然増分の抑制を打ち出しており、このスタンスでの改定が実行されれば、再び医療崩壊の危機につながることは間違いありません。自然増の抑制をやめさせ、大幅な底上げを求める事こそ重要です。私たちの運動で、これらの動きを跳ね返しましょう。
〈生活保護基準引き下げ違憲訴訟(いのちのとりで裁判)支援〉
2016年11月、新たに全国で行われている生活保護基準引き下げ違憲訴訟(いのちのとりで裁判)支援を目的に、「いのちのとりで裁判 全国アクション」が設立され、全日本民医連も賛同団体となりました。全国で支援活動をすすめましょう。
③原発ゼロ、福島の切りすてを許さない運動
福島の切りすて政治を許さず、国と東京電力に責任を果たさせることは、原発ゼロをめざす運動と結びつくとりくみです。ふくしま復興共同センターと原発をなくす全国連絡会が呼びかける「とめよう! 原発再稼働 かえよう! 福島切りすて政治 国と東京電力が責任を果たすことを求める請願署名」を3・11までに20万筆集めましょう。まる6年を迎える3・11前後に、首都圏反原発連合、さようなら原発1000万人アクションの三者合同のNoNukesウイークが行われます。3月4日東京・日比谷野外音楽堂での大集会をはじめ、各地でとりくみましょう。
原発ゼロは政治の決断で実現します。より大きな共同をつくり総選挙の野党共通政策に原発再稼働ノー、原発ゼロを位置づけ、実現をめざしましょう。
福島第一原発事故に対し国の不作為と東電の責任を問う各地の裁判の判決が、3月の群馬地裁を皮切りに予定されています。国と東電の事故に対する責任を認めさせ、勝利のため支援をすすめましょう。
3月末で打ち切りが予定されている自主避難者に対する継続支援を求める運動を強めましょう。すべての県で支援団体とともに運動を起こしましょう。
全日本民医連の福島被災地視察・支援連帯行動、各県連の支援活動を活発にとりくみましょう。
(2)「新しい2つの柱」の実践と探求で民医連らしい医療・介護活動の追求を
①医療・介護活動の新しい2つの柱」の理解を深めるとりくみ
「新しい2つの柱」は、現綱領の「無差別平等の医療・福祉の実現」に至る医療理念の歴史・到達点を踏まえたものであり、国連やWHOの歴史的な提案や努力と響きあい、重なるものです。また、民医連の存在意義が問われた事件・事故からあらためて安全・人権の医療・介護の探求や「医療・介護保障の提言」などの政策、そして現場事業所からの力強い発信や国内外の研究者との連携・協同をもとに39期からの実践が結実したものです。
各県連、事業所、医局で「新しい2つの柱」の提起に至った経過と意義・位置づけについて各地の医療活動の歴史の振り返りとともに議論して深めることを呼びかけます。拡大医療活動委員長会議の時に民医連の医療理念・医療論の歴史年表なども資料として示しましたが、「新しい2つの柱」の考え方と実践が「民医連らしさ」とどうかかわってくるのかといった議論を旺盛に行いましょう。
②2017医活委員長会議へ向けて、各県連・地協のとりくみ
「新しい2つの柱」の実践は、県連医活委員会の確立を軸に、医療・介護活動と医師養成の一体化を一層強め、経営改革や社会保障運動と結びつけ、全役職員で推進することが大切です。2017年拡大県連医活委員長会議をめどに、各地協では、地協医活委員長会議(医活担当者会議)などを開催し、実践的な議論と交流を推進しましょう。県連では、理事会で拡大県連医活委員長会議報告と問題提起の議論・共有、医師集会・学習会などを開催し、自県連の「民医連らしさ」の議論と行動を開始しましょう。特に、事業所でアウトリーチで地域・住民ニーズを把握し、具体的な実践を地域の中で起こしていきましょう。
広島・熊本・愛知・埼玉などの県連では、医師集会などの開催、関東・東海北陸地協などでは、地協医活委員長会議の具体化が始まっています。
③全日本民医連としてのとりくみ
全日本民医連は、2017年医活委員長会議の開催などと併せて、県連・事業所の「新しい2つの柱」の実践を推進するために、次のとりくみを重点にしていきます。
これまでの医療安全交流集会、医療倫理交流集会を介護まで広げた実践の交流の場として開催します。
さらには、第2回地域包括ケア交流集会を開催し、「無差別平等の地域包括ケアとは何か」について、さらに実践的な議論・交流を行います。今回は、「地域・在宅で患者・利用者をいかにささえ・連携するか(仮)」をテーマに具体化していきます。
QI事業のステップアップについては、「民医連QI推進士研修会」を開催し、医療の質改善活動全体のレベルアップをはかっていきます。特に、医療の質を可視化する指標を設定・測定し、適切にフィードバックできる民医連QI推進事業を推進するスペシャリスト(QI推進士)の計画的な養成に着手していきます。
「SDH評価・介入ツール作成のための研究・調査」の具体化をすすめます。日常診療・活動のなかで、貧困をはじめとしてSDHは「見えにくい」「聞きにくい」「答えにくい」現状があります。カナダの家庭医・総合診療医は、「貧困介入ツール-患者の貧困をレーダーで写しましょう」を作成し活用しています。貧困と健康格差が広がる中で、SDHを可視化し、診療現場で活用できる、簡潔で、根拠にもとづいたSDHの評価・介入ツールを作成します。また、「放置されてきた若年2型糖尿病」研究の5年後追跡調査を検討します。アスベスト診療支援サイトを立ち上げ、普及していきます。
④「新しい2つの柱」と介護・福祉分野の活動
〈民医連綱領と「民医連の介護・福祉の理念」を土台に〉
「医療・介護活動の新しい2つの柱」のとりくみは、「3つの視点」(利用者のおかれている実態と生活要求から出発する、利用者と介護者、専門職、地域との共同のいとなみの視点をつらぬく、利用者の生活と権利を守るために実践し、ともにたたかう)と、「5つの目標」(無差別・平等の追求、個別性の追求、総合性の追求、専門性の追求、まちづくりの追求)を掲げた「民医連の介護・福祉の理念」を深め、実践に生かすことそのものです。「民医連の介護・福祉の理念」を学習し、日常の実践に活かすことが必要です。ひとつひとつの事例を深め、法人・事業所単位で「実践事例集」の作成にとりくみます。
〈制度改悪による困難層、中重度対応の強化〉
低所得者やひとり暮らし、老々世帯など従来から困難が集中している層に加え、特養入所対象の制限、利用料の2割化、補足給付の要件見直しなどの制度改悪による新たな介護困難、生活困難が広がっています。また、「新しい総合事業」などにより軽度給付が縮小されていく中で、要支援者をふくむ軽度者の生活をどう守るのかは大きな焦点となります。共同組織との連携も強め、あらゆる手立てを尽くし、利用者の生活を守り抜きましょう。
病床再編のもとで加速化している在宅の重度化への対応を強めます。医療と介護の連携をいっそう強化し、24時間365日対応をはじめ安定した療養生活の継続をめざします。在宅での急変時に対応する病床機能の確保も必要です。
〈介護の安全性のとりくみ〉
介護分野の特徴をふまえ、医療の経験にも学びながら介護の安全性を追求します。
すすんだ経験を共有し、日常的なリスクマネジメントの強化をはかります。転倒(骨折)や誤薬など発生頻度の高いリスクへのとりくみを強めます。事故発生時の対応について、各地の教訓をふまえ、基本的な考え方や対応のポイントなど全日本民医連として整理・検討します。
今期、全日本民医連として初めて介護の安全性の課題を取り扱う委員会を設置しました。介護の質の向上につなげていくための課題を整理し発信します。3月には医療・介護合同で安全交流集会が開催されます。各地の経験を交流し、県連・法人・事業所での日常的なとりくみの強化・前進をはかる契機にしていきましょう。
〈「たたかいと対応」の視点でとりくむ「新しい総合事業」〉
政府は、「新しい総合事業」を地域包括ケアの「入口」として位置づけています。「たたかいと対応」の視点を土台に、無差別・平等の地域包括ケアの実現に向けた活動の一環としてとりくみます。「新しい総合事業」の問題点や本質をしっかりとらえることが必要です。また、事業の具体的内容は市町村によって異なります。法人の定款地域内の市町村ごとに方針を確立し、とりくみをすすめていく必要があります。
第1に、現在の重点は「たたかいの課題」です。すでに実施されているところでは実施後の影響をしっかり検証し、2017年度から開始されるところは、計画されている事業の内容を把握・分析することを通して、「新しい総合事業」がサービス切り下げや受給権の侵害、地域のサービス基盤の後退をもたらさない事業として実施されるよう、地域社保協などとも協力しながら当該の市町村に働きかけることが必要です。現行相当サービスの継続、不当な単価の切り下げを許さないなど、各市町村の実施・計画内容に合わせて必要な改善を重ねて求めましょう。事業実施後は、具体的な事例を通して「新しい総合事業」そのものの矛盾や問題点を明らかにし、国、自治体に発信していくことが必要です。
第2に、対応上の課題としてあげるのは現行相当サービスが「見なし指定」となるため、法人・事業所として対応せざるを得ない事業課題です。また、サービスの縮小や地域の事業所の撤退などで、在宅生活を続ける上で様々な支障が生じることも予想されます。新たな困難を抱える利用者・高齢者の生活をささえる視点から検討・具体化しましょう。「新しい総合事業」の内容に振り回されるのではなく、法人の事業や共同組織の活動の中に取り込みながら推進する視点が重要です。
単価を大幅に切り下げた基準緩和サービスを事業者に提案している市町村もあります。事業内容や利用者の実態、経営的な側面、地域や他の事業所の動向などから総合的に検討する必要があります。住民主体の支援、一般介護予防事業などは、助け合い・居場所づくりや健康づくりなど共同組織の活動に重なるものであり、地域の様々な社会資源を掘り起こし、まちづくりにつながる課題です。市町村に対して活動の実績をふまえた具体的提案を行うことや、これらの事業を公的サービスの代替手段、サービス切りすての「卒業」先とさせず、住民の意思を尊重した内容で実施するよう求めることも必要です。社会福祉協議会や地域包括支援センター、自治会・町内会などとの連携も追求しましょう。
⑤料低額診療事業を広げ、受療権を守る運動を全国で強めよう
受診抑制の最大の要因は、医療費自己負担の高さです。2015年度 370事業所から寄せられた報告では、減免額は5億5000万円、のべ減免患者数は、32万231人です。その中で99・1%の人は公的保険に加入していますが、窓口負担の支払いが困難であり、公的保険がセーフティーネットとして機能していない現実があります。自己負担軽減の運動を本格的に強化する必要があります。国保法44条、77条、生活保護、子どもの医療費無料化の拡充と償還払いから現物給付への改善など権利としての社会保障の拡大の運動を強めましょう。
多くの困窮者が無料低額診療によって治療に結びつき、その支援の中で権利の当事者として社会保障制度にたどりついています。運動を強めるとともに、無料低額診療事業を拡大していく意義はますます重要です。
運動を強めてきた保険薬局の薬代自己負担分への自治体補助は7自治体に広がり、実施へ向けて要望書をあげた自治体も生まれています。こうした民医連の自治体への運動が反映し、昨年7月、平成29年度予算編成にあたって大都市民生主管局長会議が「無料低額診療に係る調剤のあり方について」という要望を国へ出しました。要望は、「診療代が無料(または低額料金)であっても保険調剤薬局(院外処方)で自己負担が発生し、保険調剤薬局において経済的理由で治療を中断される方の存在があり、制度の趣旨に反していると指摘、早期に保険調剤薬局も無料低額診療事業の対象とすること、国がこの問題で責任を持って対応すべき」としています。
無料低額診療事業をさらに広げていく運動をとりくむことを提起します。
運動の柱は、民医連に加盟するすべての事業所が無料低額診療事業に挑戦すること、保険薬局や訪問看護などへの適用拡大、または地方自治体による保険薬局での薬代一部負担分に対する助成制度を確立すること、民医連以外の事業所、とりわけ公的な医療機関、公立の医療機関などで積極的にとりくむよう働きかけること、実施事業所の財政負担を国と自治体が責任を持つよう要請することの4点とします。そのために、無料低額診療事業の事例を「見える化」し、世に問いましょう、すでに県連に無料低額診療事業にかかわる委員会を設置し、職員学習や県内の医療機関への働きかけを実施している県連もあります。マスコミからの関心も高く、協力して広げていきましょう。5月に「第42期受療権を守る討論集会」を行います。全国から経験を持ち寄り、運動を飛躍させる機会としましょう。
(3)民医連運動を担う医師の確保と養成の前進へ向けて
①学生対策のとりくみ
200人の受け入れと500人の奨学生集団をつくるロードマップが実践されています。2016年4月までの「大運動」は、日常的に奨学生を増やし育てる民医連に向かっての「組織の変革」を提起しました。現在はその組織変革の途上でありさらにとりくみを発展させていきましょう。新臨床研修制度発足から10年以上となりあらためて「奨学生とは何か」を集団的にとらえなおし「増やし育てる」課題の意義を組織全体で確信にする論議と実践を強めましょう。新歓での新1年生への働きかけの準備を行いより多くの受験生や新入生に民医連の存在を伝えていきましょう。また、18卒、19卒は17卒に比べ、大きく遅れた到達です。職員・共同組織の力も大いに発揮して、各地域の実情に合ったとりくみをすすめ、地協単位での必要な協力を行いましょう。また、新専門医制度を巡って医学連を先頭に医学生のとりくみが一層活発となり大きなインパクトを創り出しています。前進する医学生運動との協力共同を積極的にすすめていきましょう。
②新しい2つの柱」の実践に向けて
「新しい2つの柱」を民医連医師集団が正面から受け止めその実践のさらなる一歩を踏み出すことが求められます。そしてまたその医療実践そのものの中に研修医や青年医師が民医連の医師として育っていく力があります。民医連で現在、奮闘している先輩医師自身がその医療実践を通じて成長していく姿を見せることが次世代を育てる力にもなります。歯科酷書や小児の貧困問題へのとりくみなど、各医療委員会や自主研究会が、調査活動など格差と貧困の把握と発信、克服へむけた挑戦を開始しています。そうした調査研究活動に参加した初期研修医が「民医連での後期研修」を選択する経験も生まれています。秋の医療活動委員長会議へ向かうとりくみの中で、討議実践をすすめていきましょう。
③医連の医師養成の前進を
新専門医制度は、日本の主要な医療団体も強調している地域医療の現場の主力である中小病院の役割の重要性とそこで活躍する医師の養成の必要性について具体策を示せていません。地域の中小病院で求められる医師像とその養成の方針を各団体、広く国民と共同して練り上げていくチャンスでもあります。併せて、「無差別・平等の活動をすすめる民医連の医療を担い創造する医師を養成することであり」(第41回総会決定)、「地域が本当に求める専門医を総合診療の分野でも領域別専門医の分野でも養成する」(第42期第1回評議員会)私たち民医連の医師養成を常に磨きをかけながら発展させ、医学生と初期研修医に民医連への合流・参加を大いに呼びかけていきましょう。
(4)経営改善の速度を上げ、必要利益の確保をはかろう
①2018年大転換へ向かう2017年度のとりくみ
2017年度は、診療報酬・介護報酬の同時改定、地域医療構想にもとづく医療計画、介護保険事業計画、医療費適正化計画、実施が延期された新専門医制度、地域医療連携推進法人制度の開始などが同時に相互に関連しながらすすめられる年です。「惑星直列」「分水嶺」(厚労省幹部)といわれ大転換が迫られる情勢です。また、地域医療構想の具体化の中で、急速に公立病院、公的病院の再編、一定規模以上の病院の機能再編が行われる中で、医療圏における医療提供体制に大きな変化が生じている地域もあります。医療機関同士のM&Aや業務提携、連携強化などの動きも激しくなっています。
2017年度の予算編成にあたっては、事業の健全な継続性や今後の必要な投資などを踏まえた資金の確保という視点から、中長期的な経営計画を作成し、必要利益を明確にした利益目標を設定しましょう。それを達成するために何が必要かを具体的な実行計画として描く予算を作成します。経営の改善は、管理の改善と一体です。予算づくりを全職員参加で行い、作成した予算にこだわり、実行計画をやりきる、予算差が生じた場合には迅速に分析し、対策を講じる管理運営を徹底しましょう。
病床稼働率が低下している病院は、必要に応じて病床構成の見直しを行うことや、同一医療圏に複数の民医連事業所がある場合、これまで以上に法人・事業所間の医療・介護連携、人的な交流や業務提携、場合によっては、法人を超えた病床機能や構成の見直しなども含めて、地域住民に民医連の医療と介護を届ける方策を検討し、地域の中で本気の連携をすすめる実践を事業計画にも反映し、無差別・平等の地域包括ケアをつくり上げる計画としましょう。
②介護分野の前進へ向けて
介護事業所ごとの収支をしっかり把握しましょう。経営実態の把握・分析は改善に向けたとりくみの前提です。介護分野では職員確保の困難が経営に直結しています。事業所任せにせず、法人として介護職員の確保に総力を挙げ、あらゆる手立てを尽くしましょう。経営が分かる幹部の配置、職員の養成をすすめることは重要な課題です。
あわせて、費用負担の軽減、介護報酬の引き上げ・改善、職員確保対策など、制度の改善を求める運動ともつなげて経営基盤の強化をはかる視点・とりくみが重要です。この間、特定事業所集中減算(居宅介護支援)をめぐり、自治体に独自のルールをつくらせるなどの成果を得ています。
社会福祉法人については、施設建設などを実施した法人もあり、医科法人との連携状況、今年度の経営実態などをふくめ、県連としても経営状況を把握し必要な対応を行うことが必要です。全日本民医連として、民医連統一会計基準を参考にしながら社会福祉法人経営に対する一定の経営指標を検討・作成します。
2017年度は、前段でのべたように、同時改定や諸計画など2018年度に向けた政府や自治体での検討が本格化する時期となります。第42回総会方針では 「『2018年改革』に向けて何が必要か」という視点から、事業の現状分析、方針の組み立てが必要であることを提起しました。政策の動向をふまえながら、引き続き2015年報酬改定への的確な対応を実施・継続させましょう。2015年改定の基本的内容は、今後の法「改正」・報酬改定にも直結するものです。法的整備(法令遵守)もぬかりなくすすめます。
(5)民医連運動を担う人づくりを事業と運動の中で旺盛にすすめよう
医師、医学生対策、看護、リハビリ部門など様々な職種の全国会議でいかに民医連らしさを高めるのかを提起し、議論してきました。また、新しい医療・介護の2つの柱の提起と実践においても、民医連綱領に確信を持ち、民医連の医療と介護、運動を担う人づくりにどう結び付けていくのかを議論してきました。民医連への確信を培う上で、憲法学習と、民医連の歴史、理念を学ぶことが重要です。憲法学習は、憲法理念の実現をめざす民医連綱領の理解と実践の前提となります。また、民医連という組織がだれによってつくられ、なんのために、だれのために存在するのか絶えず確認し、深めることが民医連運動への主体性、当事者性を高め合う上で重要です。こうした視点で43回総会へ向けて活発に人づくりの活動をすすめていきましょう。
①2月に行う「職場づくり・職場教育実践交流集会」の内容を大いに学びあい、そして憲法学習を職場づくりに生かし、実践に生かしていきます。職場づくりでは職場責任者の姿勢と目的意識的な追求が大切です。法人・事業所の重要な管理課題として、教育委員会などとともに促進のための必要な援助をすすめましょう。
②第3回評議員会をめざして、全職員が憲法を学び深める第2期憲法学習大運動へと活動を発展させましょう。事業所内外の9条の会や総がかりの運動を広げ、学びあう気風に満ちた事業所、職場づくりにつなげていきましょう。
③「民医連のめざす看護とその基本となるもの」、「民医連におけるリハビリテーションのあり方(2016年版)」などを積極的に活用していきましょう。
(6)歯科分野
各事業所の中長期計画の実践と合わせて「2014年度歯科医療活動調査報告」と「民医連らしい歯科医療チェックリスト」を活用して医療活動を点検し、新たな活動への契機とします。診療室内だけにとらわれず、地域に出る活動にも積極的にとりくみ、全ての事業所でつかんだ格差と貧困の実態を第3弾「歯科酷書」にまとめ、発信し国会要請行動や自治体交渉などに活用していきます。
後継者づくりの課題では、歯科奨学生確保のとりくみを中長期計画に位置づけ、その具体化をはかりましょう。各法人の個別対応に留まらず、地協や全国で共有してすすめていくことも重要です。2015年度「保険でよい歯科医療を」の実現を求める署名は19万9900筆を集め、2016年度診療報酬改定に影響を与え前進させました。2017年度の署名活動ではこのことに確信を持ち、全ての事業所で目標をやりきりましょう。
(7)共同組織
43回総会までに370万の共同組織を全国の奮闘で実現しましょう。紙面改善を生かし『いつでも元気』を早期に史上最高の発行部数に到達しましょう。すべての職員が『いつでも元気』を購読することを目標にすべての法人・事業所で、職員の購読率50%を早期に達成しましょう。民医連新聞とともに職場学習に大いに活用しましょう。配達と集金、拡大の要である販売所の第2回交流集会を9月に予定します。
共同組織活動の中心課題として培ってきた「安心して住み続けられるまちづくり」のとりくみを、無差別・平等の地域包括ケアの実践として発展させていく正念場となります。これまでの実践をいかし無差別・平等の視点を貫く構えを、あらためて民医連事業所と共同組織とともに確認しあいましょう。市民運動や労働運動とも連帯し、まちづくりの大きな運動の一翼となりましょう。職員とともに積極的な地域のニーズ把握と、社会的孤立や貧困を軽減するための活動を旺盛にすすめましょう。
共同組織の活動が広がり、地域での役割が大きくなる中で、その事務局を担う組織担当者の役割も大きくなっています。組織担当者の成長をはかるための援助を思い切って強めましょう。共同組織テキスト「共同組織とともに」や共同組織活動交流集会DVDを活用し、すべての職員が共同組織について学び理解を深めましょう。全日本民医連として、7月に共同組織担当者研修会を行います。
共同組織どうしが交流し、活動や経験を学び合うことも重要です。県連内の共同組織連絡会の立ち上げや県連理事会と共同組織との懇談、県連や地協での共同組織活動交流集会の開催などを具体化しましょう。
第14回全日本民医連共同組織活動交流集会は、2018年9月、神奈川です。全県から連絡会に結集し、全国の経験を学び合い、活動を前進させていきましょう。
(8)災害対策をすべての県連、事業所ですすめよう
南海トラフ地震が50年以内に起こる確率が90%など災害多発時代に突入しています。2016年9月に行った「災害対策アンケート調査2016」では、43県連と186事業所(対象事業所の77・2%)からの回答がありました。マニュアルが無い県連・事業所、マニュアルはあるが内容の見直しなど課題が残されていることが報告されています。災害の規模や内容は様々ですが、全日本民医連として今後も基本となる研修と情報の発信をすすめます。また要望の多い、各種の手順についてホームページに掲載します。
(9)全国課題
第13回学術運動交流集会は、今年10月6~7日に茨城県で開催します。演題募集を開始しました。積極的にとりくみましょう。42期の全日本民医連トップ管理者研修を具体化します。福島県で開催する全国青年ジャンボリーの成功へ向け、全県連からの参加をめざします。第6回キューバ視察、国連への働きかけ、国際シンポなどの国際活動をすすめます。2018年9月に宮城で開催する第14回看護介護活動研究交流集会の準備をすすめます。
おわりに
私たちは2010年39回総会で新綱領を改定し、構造改革路線のもと、新自由主義的「構造改革」に対抗する中で、発展させた理念と自己認識を明記、憲法に依拠し、世界の平和と健康権・生存権保障のための方針と展望を明示し、自らの歴史と教訓を次世代に引き継ぎ、豊かに発展させてきました。
2014年41回総会では60年の信頼と前進を築いた3つの要として「生活と労働の視点」「共同の営み」の医療観と自立的な後継者養成、住民参加と非営利の原則、科学的管理と民主的運営による事業展開、憲法に依拠した平和と社会保障のための社会・政治運動の実践をあげ、3つの要からの逸脱は重大な危機を招き、全国の連帯の力で克服してきた歩みなど、『無差別・平等の医療をめざして』にまとめてきました。
2016年42回総会は、これらの実践を踏まえ、「運動は総かがりで、事業は積極的な連携で、職員育成は民医連らしい運動と事業から、新たな展望を主体的に創りだす2年間としよう」と呼びかけ奮闘してきました。
いま、安倍政権の暴走により、戦争法の全面的な具体化、その戦争政策と一体となった社会保障解体など憲法が示す国の在り方が否定されようとし、平和と民主主義、国民の生活、健康権・生存権がこれまでにない深刻で危険な事態に直面しています。
それと真正面からぶつかりあう市民運動と政党の共同が、憲法、立憲主義を守り、個人の尊厳を何より大切にする国づくりへとすすもうとしています。いのちの平等を掲げ63年間奮闘してきた私たち、共同組織のなかまと力を合わせ希望を持ちこの道を前進させようではありませんか。
【理事会アピール】「共謀罪」(テロ等組織犯罪準備罪)法案を阻止しよう
2017年2月17日 全日本民医連理事会
「戦争する国づくり」をすすめる安倍政権は、特定秘密保護法の制定や盗聴法(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律)の改悪に続けて、2017年通常国会に「共謀罪」の上程を狙っています。安倍首相は、「テロ対策」を口実に、この共謀罪を成立させなければ「2020年東京五輪・パラリンピックが開催できない」かのように説明し、しかも「一般の方々が対象になることはない」と強調しています。しかし「共謀罪」は、憲法に保障された思想・信条の自由や表現の自由を侵し、ものごとを自由に討議する民主主義の土台をゆるがすものです。戦前、特高警察が戦争に反対する思想を弾圧した「治安維持法」のように、「戦争法」遂行のために国民を監視し、「戦争反対」など国民の声を封じるためのものにほかなりません。これまで3度も国会提出されながら、そのたび国民の大きな世論と運動で廃案にしてきました。憲法に反する重大な危険性をもつ「共謀罪」の国会上程は、断固阻止しましょう。
1.「共謀罪」法案の危険な中身
①憲法で保障された思想・信条、内心の自由を侵す
近代刑法では、被害が生じた場合にその犯罪行為を処罰するのが原則です。日本の刑法も実際に犯罪をおこさなさければ処罰されません。しかし「共謀罪」は犯罪行為について話し合い、「合意する」ことが罪になり処罰され、憲法で保障された市民の内心(思想・信条)に踏み込んで捜査されます。政府は、今回上程予定の法案は、「話し合い・合意」だけでなく「準備行為」がなければ処罰できないよう要件を厳格にしたとしますが、「準備行為」に関与していない者も共謀していれば処罰でき、しかもどのような行為が「準備」にあたるかは警察の判断です。人権を守るべき国家が市民の心の中を監視し、内心の自由を侵すことに変わりありません。
②「テロ対策」どころか、広く市民や団体を監視する
政府は「テロ対策のために共謀罪が必要だ」と強調しています。しかし、共謀罪が適用される犯罪(4年以上の刑の犯罪)は600を超え、「テロ」とは無関係の公職選挙法や道路交通法など、広く市民生活に関わる犯罪も対象です。国民の批判もあり、政府は対象犯罪を絞り込んで上程するとしていますが(2月24日時点で適用は277と報告)、対象となる「組織的犯罪集団」の定義もあいまいで、市民団体や労働組合も対象にされかねません。いつ、どこで、だれが犯罪について「話し合い・合意」するかを捜査するため、日常の会話や電話、メールなども監視されることになります。
③警察の日常的監視、「密告」社会を招く
共謀罪が新設されれば、日常的に会話を盗聴する捜査がおこなわれる恐れがあります。戦前の隣組のように、市民同士の相互監視や密告をさせる社会を生み出す危険があります。昨年、他人の犯罪を密告すれば自分の刑が軽くなる司法取引制度が導入されました。物的証拠がないまま、「犯罪の話し合い・合意をしていた」と嘘の密告をされる危険性もあり、多くの冤(えん)罪がおこる懸念があります。また、「おとり」の捜査員を団体に潜入させて「共謀罪」を成立させ、団体をつぶすことにも利用されかねません。
2.共謀罪阻止に向けたとりくみ
①署名・宣伝
総がかり行動実行委員会が実施する「『共謀罪』の創設に反対する緊急統一署名」にとりくみます(5月末集約、6月初旬に提出)。職員、共同組織、患者・利用者に広げましょう。すでに弁護士の団体や国民救援会など署名や宣伝にとりくみ始めています。ともに街頭宣伝・署名行動にもとりくみ、「共謀罪」の危険な中身を知らせていきましょう。
②学習資材
『一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』(頒価200円) 日本消費者連盟
『合意しただけで犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―』(無料) 日本弁護士連合会(ホームページからもダウンロード可能)
以上