Dr.小池の世直し奮戦記 保険のきかない医療が広がる
「患者申し出療養」が問題に
医療保険改悪法案が、自民・公明・維新の賛成で成立しました。高すぎる国民健康保険料(税)のさらなる負担増を招く「国保の都道府県化」や、入院食費の引き上げ、紹介状のない大病院受診に五千円から一万円の定額負担を義務化することなどが盛り込まれました。こうした問題点に加え、参議院の審議では「患者申し出療養」制度の導入について、すべての野党から問題点が指摘され活発な議論がおこなわれました。
混合診療の全面解禁の危険
日本では、保険のきかない診療を保険診療と同時におこなう「混合診療」は原則として禁止されています。保険のきかない治療や検査が歯止めなく広がれば、お金のあるなしで、受けられる医療に大きな差別が生まれてしまうからです。
今回導入されようとしている「患者申し出療養」は、保険のきかない医療をいっそう拡大するもので、「混合診療の全面解禁」に道をひらく危険があります。
実は、既に保険がきかない先進的な治療を、保険診療と併用できる「評価療養」制度が存在します。この制度では、新しい治療法などの安全性を確認するための審査期間は六カ月ですが、今回の「患者申し出療養」では、「実験的な先進医療」も対象とするのに、最初の実施では六週間、前例があれば二週間という“超短期”で承認します。「これで患者の安全が保たれるのか」という私の質問に対して、厚労省は「安全確保に努力する」としか答えられませんでした。役所の“決意”だけでは、患者の命を守ることはできません。
本当に保険適用されるのか?
政府は、「患者申し出療養は将来の保険適用が大前提」「安全性、有効性が確認されれば保険適用する」と繰り返しましたが、どれだけ保険適用されるのかの見込みも示せませんでした。参議院での参考人質疑で、名古屋大学医学部附属病院の石黒直樹院長は「審査体制と管理体制がないデータの信頼性は疑われる可能性がある」「データの信頼性を持たないものが、はたして保険収載の時に審議対象になるのか」と指摘。政府から、この疑問に答える説明は一切ありませんでした。
このままでは「保険適用」というゴールに至らない医療技術がどんどん増えていくのではないか。鉄道にたとえれば、目的地にたどり着かない「引き込み線」が増えていくようなものです。こうして、保険のきかない医療が滞留していけば、「混合診療」の実質的な解禁と、いったいどこが違うのか。多くの疑問を積み残したまま、やみくもに突き進むのはあまりに無責任です。
国民皆保険への攻撃は許せない
安倍政権は「社会保障費の自然増削減」を掲げ、小泉政権時代の年間二千二百億円削減を上回る三千億から五千億円の国庫負担削減を進めています。「社会保障のため」といって消費税を増税しながら、だまし討ちのようなやり方です。
さらに、保険のきかない医療を広げることで、国民皆保険制度の土台を掘り崩そうとしています。こんな暴走を断じて許すわけにはいきません。改悪を具体化させないたたかいが求められています。
いつでも元気 2015.07 No.285