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ニュース・プレスリリース

第33回定期総会 運動方針

憲法を医療と福祉にいかし、激変の時代に
深く地域に根ざして「民医連の医療宣言」を

目 次

はじめに 第33回総会の意義と任務
第1章 「90年代後半の民医連運動の課題」にどうとりくんだか―その到達点
第1節 民医連医療の実践と創造への挑戦はどうだったか
第2節 民医連綱領の実現をめざす人づくりはどこまですすんだか
第3節 共同組織の戦略的強化はどうだったか
第4節 組織機能の強化と全国的な団結の強化
第5節 医療保険改悪反対のたたかいと統一戦線
第6節 国民生活の苦難と民医連経営の急激な悪化
第2章 医療保障の危機と自民党流国づくりのゆきづまり
第1節 国民の苦難と医療・社会保障の危機
第2節 自民党流国づくりのゆくづまりと「財政構造改革」・「行革」、軍事大
第3章 地域の中で共に生きる民医連として、21世紀に向って何をどのようにとりくむか
第1節 民医連の医療と経営を守り抜き、「民医連の医療宣言」をつくろう
第2節 地域に「人権と非営利」をまざす共同の輪を―平和・人権・福祉の新たな日本を
第3節 「科学とヒューマニズム、民主的医療人」―民医連運動の担い手としていかに成長するか
第4節 共同組織の総合的発展を
第5節 民医連運動の団結を新たな水準に
おわりに


■はじめに

―第33回総会の意義と任務

いま、医療のあり方、日本という国家のあり方が問われています。
 ゆきづまり、これまでのやり方を続けられなくなった支配層は、大企業・ゼネコン奉仕、米軍基地国家というあり方を維持し、多国籍企業奉仕の軍事大国にし ていくために、国家リストラ=「財政構造改革」や「行革」をはじめとする国家改造路線に乗り出しました。国民生活は、この攻撃の下で過酷な状況に直面して います。医療・社会保障は、この国家リストラ計画の焦点の一つであり、いま私たちが直面している未曾有のきびしい事態は、この国民生活の困難の反映であ り、一部です。
 一方、新しい平和・福祉の国に日本を切りかえようという運動と国民の声も、医療改悪反対の1800万の署名や96年総選挙、97年都議選に示されたように、どのときにも増して強まっています。
 私たちは、この総会において、まず今日の激変の時代の本質的な流れを見きわめ、情勢を切り開く決意を固めねばなりません。そして、医療抜本改悪を阻止 し、新ガイドラインを許さない広範な世論と体制を築いて、日本の未来を展望しましょう。
 情勢が質的に変わろうとしているとき、民医連運動も脱皮することが必要です。いまこそ、よりいっそう深く地域に根ざして、地域の人びととともに生きてい くものとして、民医連の院所・施設をさらにやさしく力強いものとしてうちたてましょう。21世紀における民医連運動の存立をかけて、文字どおり全職員の力 で「民医連の医療宣言」をつくり上げていきましょう。また、民医連運動の組織も新たな段階に発展させねばなりません。
 今総会は、以上の内容をもつ運動方針と、関連する規約の一部改正を議題としました。また、決算の承認、予算の決定、新しい役員の選出を行いました。

■第1章

「90年代後半の民医連運動の課題」にどうとりくんだか―その到達点

〈この2年間の活動の全体的な評価〉
 前総会は、90年代後半の重点課題として、つぎの4点を掲げました。
(1)民医連医療の実践と創造をいかにすすめるか
(2)綱領実現をめざす人づくり
(3)県連・全日本民医連の団結、組織の強化
(4)統一戦線づくり
 私たちは、これらの運動をすすめる主体を強めていく課題を、つぎつぎに打ち出されてきた医療・社会保障改悪の攻撃にたいするたたかいの中で追求してきました。
 民医連は96年介護保険、97年医療改悪という連続した攻撃にたいして総力をあげてたたかい、全国民的な運動の牽引車の役割をはたしました。その中で医 師会などに積極的な変化が生まれ、県・地域の社保協が広がるなど「統一戦線づくり」のとりくみが発展しました。さらに、足立区長選挙の勝利など多くの自治 体選挙で職員が立候補し、革新勢力の統一と前進に貢献しました。共同組織がたたかう組織に向かってさらに前進しました。
 たたかいの中での共同の広がりを、この2年間の活動の第一の前進面として評価できます。
 第2に、現場からの各職種ごとの「顔のみえる」社保闘争の追求によって、職員は成長してきました。医師はこのたたかいの先頭に立ちました。また、各県連 の制度教育や職種ごとの後継者養成のとりくみなど、「人づくり」の面での前進は明らかです。さらに、97年2月の第2回評議員会が、民医連運動全体をさら に新たな水準に引き上げていくことをめざして提起した「民医連の医療宣言」は積極的に受けとめられ、かつてない規模で民医連綱領の学習がすすみ、「私と民 医連」が語られるなど、民医連が一人ひとりの職員の心の中でとらえられてきました。
 一方、医師問題はさまざまな前進面を生みつつも、中堅やベテラン医師などの退職傾向は続いており、新卒医師の入職は目標にはるかに及んでいません。
 また、今日の情勢と民医連運動のはたすべき役割とのかかわりでみれば、事務幹部の不足をはじめ、「人づくり」の到達はまだまだ初歩的な成果の段階であり、とりわけて医師の確保と養成はひきつづく重大な課題です。
 前進面の第3は、人権を守る共同の営みの医療活動の発展です。「気になる患者」訪問など医療を受ける権利を守るとりくみ、民主的集団医療への新たな挑 戦、歯科の画期的な前進、労働者の健康を守るとりくみなど、日々の地道な医療活動が地域の人びとの信頼と共感を集めています。
 第4に組織的な前進です。全日本民医連の隊列は、加盟1000施設を97年11月にこえました。総会時点で1042です。山梨勤医協は和議債務を1年早 めて完済しました。矛盾と困難は常に生まれてきますが、全日本民医連と県連の組織の強化と団結は前進しています。
 一方、とりわけ97年度に入って民医連の経営は急激に悪化しました。それは、4月以降の消費税増税、診療報酬のマイナス改定(注1)などによる受診抑制 と収入の伸び悩みに九・一改悪が追い打ちをかけることによってもたらされています。そのうえ、98年4月の診療報酬改定は実質大幅なマイナス改定であり、 民医連のみならず日本の医療機関全体が深刻な事態に直面しています。
 経営の困難は、民医連運動全体の足を引っぱる障害になる問題です。医師の不足は経営困難の主体的な要因であり、また経営改善をすすめるうえでどうしても 解決しなければならない問題です。すなわち、医師問題と経営問題が民医連運動全体の解決に全力をそそぐべき弱点として鮮明になってきました。
 私たちは、これまでの前進に確信をもって教訓を引き出すとともに、困難を直視し、問題点を明確にしなければなりません。
 まず、民医連の組織的な到達を確認します。この間に茨城と滋賀で県連が結成され、43県連となりました。

〈民医連の組織現勢〉
 表?を見てください。ひきつづき民医連の組織は拡大を続けています。しかし、空白克服などの診療所の建設のテンポは鈍ってきました。医師体制の困難が反 映しています。準ずる組織の中で訪問看護ステーションがひきつづき大きく伸びています。職員数はとくに97年に2094名増加しました。共同組織の拡大の テンポはやや緩やかになっています。民医連の総収入は約5200億円といえますが、収入の伸びは急速に弱まっており、とくに97年度に入ってからはほとん ど伸びていません。
 外来患者の総数は一貫して伸びています。一件あたり日数は低下傾向です。とくに97年度に入って1日あたり患者数が減少しています。診療所の1日あたり 患者数は減っていますが、96年度までは件数では減らさずにがんばっています。
 入院患者動向は96年までは大きな変化がありません。97年に入って入院の件数、日数ともに減少傾向があらわれています(モニター法人調査)。
(注1)診療報酬マイナス改定 1997年4月1日に改定された診療報酬は、消費税の5%増税へ の「手当て」分というふれこみでしたが、わずかに1・7%の改定幅でした。技術料部分への配分は医科1・31%、歯科0・75%、調剤115%。しかし同 時に行われた薬価基準が1・32%(医療費ベース)引き下げられ、しかも消費税5%への増税による仕入れなどにかかる負担ははるかに改定分を超えたため、 実質的にはマイナス改定となりました。全国公私病院連盟が、98年1月16日に発表した「平成9年6月病院運営実態分析調査」によれば、集計した1142 病院のうち70%(799)が赤字となっています。

第1節 民医連医療の実践と創造への挑戦はどうだったか

1、95年の医療活動調査が明らかにした民医連の医療活動の特徴と97年調査
 95年10月に実施した民医連の医療活動調査(97%の回収)は、「民医連医療」誌NO.288~292で日本全体の現状とも対比したまとめの報告がさ れ、私たちはあらためてみずからの医療活動を鮮明に認識することができました。主な点はつぎのようです。

〈民医連院所の比重〉
 全国の医療機関の0・39%(一般診0・44%、歯科診0・10%、病院156%)の比重ですが、医科外来患者の1・6%、退院患者の2・3%、救急搬入患者数の2・69%(時間外が6割以上)の診療を行っています。
 また、慢性疾患の中では、高血圧(2・47%)、糖尿病(6・14%)、気管支喘息(4・10%)、心疾患(2・88%)、肝疾患(11・9%)、脳卒 中(0・91%)、リウマチ(3・16%)、腎疾患(3・50%)、乳腺(1・46%)の比重となり、慢性疾患管理が積極的にとりくまれていることを示し ています。
 分娩取り扱い数では、全国の出生数の1・02%を占めています。

〈民医連の患者の疾病構造〉
 民医連の患者の疾病構造には、慢性疾患医療と3大死因の疾患などへの積極的なとりくみが反映している、振動病・白ろう病・塵肺などで診療所や小規模病院が活躍している、病院と診療所の活発な連携が反映しているなどです。

〈技術構造の特徴〉
 病院も診療所も全国平均に比して高い技術水準(設備)をもっています。病院は200床台で全国平均の300床台の設備というように、それぞれ100床上 のレベルの水準です。とくに100床~200床台の病院の医療活動は多彩です。労働者、被爆者、住民・共同組織などの健診や保健活動、訪問看護など地域医 療活動に積極的にとりくんでいます。

〈患者の人権、民主的集団医療と共同の営みの追求など〉
 身体障害者診断書(全国の新規発行の3・6%)、SWの積極的配置、副作用モニター、適温適時給食認可は民医連病院の87%、診療録担当者の配置、院所 利用委員会(民医連病院の67・3%、診療所の38・7%)の設置、倫理委員会9病院、臨床病理カンファレンス54病院(35・3%)、家族を含む合同カ ンファレンス(病院の44・4%)、多職種によるカンファレンス(同82・4%)、病院主催の開業医とのオープンカンファレンス(同13・1%)、全職種 3加の症例検討(176診療所、49・7%)などです。全国の病院の1割が講演会や症例検討会を行っているとのことですから、民医連院所の積極的なとりく みは明らかです。また、往診・訪問看護などの在宅医療の比重が大きいのも重要な特徴です。
 さらに97年医療活動調査(回収率=施設調査96・9%、入院1日断面985%)は現在分析途中ですが、主な特徴は以下のとおりです。
 97年9月の延べ患者数は、1日平均外来8万6915人、入院2万4526人です。65歳以上の患者の占める比率は医科外来患者が45・6%(95年 435%)、入院患者は61・4%、退院患者は46・9%(同43・6%)で、いずれも95年調査時より高率になっています。厚生省の96年10月調査と 比べても、民医連は10%前後高率です。老人デイケアは院所の33・5%で実施しており、延患者数は3万5383人となっています。
 保険種別では、外来患者で、老人保健25%(95年22・5%)、健保本人21・4%(同22・3%)、健保家族20・5%(同21・9%)、国保 20・6%(同20・9%)など、健保本人・家族の比率が95年調査時より低くなっています。これは入院患者でも同様の傾向になっています。
 健診は96年1年間で延べ105万317人に実施されました。うち事業所健診が39万6777人、成人病健診が37万330人などで、とりわけ事業所健診へのとりくみが前進しました。

2、患者の人権を守る共同の営みの医療活動の実践
〈医療を受ける権利を守るとりくみとインフォームド・コンセント〉
 この間、患者の人権を守る医療実践は、いっそう豊かに前進しました。前総会以降、医療を受ける権利(受療権、生存権)も医療の中で患者が知り、みずから 決定する権利もともに人権としてとらえ、これらが保障されるために制度的(経済的)な条件を獲得するとりくみと結びつける立場で推進してきました。「気に なる患者」訪問や「1人ぐらし老人調査」などの打って出るとりくみは数多くの院所で系統的にとりくまれ、東京のように県連規模のとりくみとなっているとこ ろもあります。
 そうした中から、患者が経済的理由(電気代、タクシー代など)でみずから医療を制限していることをつかみ、自治体への要求運動まですすめた経験、「1人 ぐらし老人」の社会的孤立をなくすための地域ネットワークづくりに踏み出す、医科・歯科連携の在宅での口腔ケアを通じて「コミュニケーションのできる口」 をめざすなど、貴重な経験が生まれています。
 急速に老人分野の施設整備が行われる中で、集団の力によるリハビリ、高齢者のおしゃれ、デイケアの充実など民医連らしいとりくみが生まれてきました。
 病棟等でのカルテ開示のとりくみもすすめられています。
 「私のカルテ」のとりくみは、院所での慢性疾患管理から在宅患者にも広がっています。インフォームド・コンセントやターミナル・ケアのとりくみも着実にすすんでいます。
 しかし、私たちのこうしたとりくみにもかかわらず、餓死・孤独死や、お金がなくて受診できず、手遅れで死亡という事例は増加しています。阪神大震災の被 害者はいまなお約2万6000世帯が仮設住宅におかれ、政府は個人補償を認めようとしません。
 96年、孤独死の全国調査を行いましたが、142例が報告されています。MSWの「1000字レポート」(注2)は、111点が集約されましたが、 MSWの3分の一ほどのとりくみにとどまり、さらに継続したとりくみが期待されます。
 生活保護患者への救命救急医療を不当な減点によって制限したことにたいして、京都民医連中央病院が起こした訴訟(注3)は完全な勝利をおさめました。患者の人権を守る重要なたたかいでした。

〈薬害エイズとHIV感染にたいするとりくみおよびO―157〉
 前総会の直後にHIV訴訟を支援する不買運動にとりくみ、原告勝利の「和解」に貢献しました。この問題では若い職員が積極的にとりくみました。また、い わゆる第4ルートの問題を重視して実態調査を行い、「民医連の基本姿勢」(96年9月)を明らかにし、第1回医療と社会を考えるシンポジウム「薬害エイズ と医師・医療従事者の責任と役割―構造的薬害を繰り返さないために―」を開きました。「民医連の基本姿勢」にもとづく医療実践上の対応が重要です。
 96年夏、堺市などで発生したO―157食中毒に際しては、それぞれの院所で救急・救命に全力をあげるとともに、自治体・厚生省に安全対策の申し入れを行いました。

〈脳死・臓器移植問題と患者の安全を守るとりくみ〉
 脳死・臓器移植法は異常な手続き(注4)で成立し、97年10月から施行されました。全日本民医連はこれにたいする「見解と対応」を明らかにしました。 当面、民医連院所が直接的にドナー提供施設となることの選択を迫られるようなことはありませんが、今後も人権の立場から推移を見守り、必要な行動をとって いきます。
 新たに厚生省で使用を承認された髄内釘が再骨折の原因とされ、民医連の整形外科で緊急にアンケートをとったとりくみ、ドクター・レターを利用して副作用 などの情報を医師に伝える保険薬局の活動など、患者の安全を守るとりくみがすすめられました。民医連副作用モニターのとりくみは注目されています。
 一方、この間に重大な医療事故や医事紛争となったりする事例も生まれています。患者の安全を守るとりくみは、さらに徹底しなければなりません。民医連独自の医療事故賠償保険をスタートさせました。

3、民主的集団医療の探求と病院の発展方向
 民医連の病院の病床規模別の推移は表 のようです。この2年の間は大きな変化がないように見えますが、内容的にはリニューアルやケアミックスの採用など さまざまなとりくみがあります。大規模法人のいくつかの病院で増床なきリニューアルに着手し、困難を乗り越えるために奮闘していますが、中小規模の場合は なかなか具体化できない状況があります。今後、検討すべき課題です。
 理事会は病院委員会でいくつかの大規模病院の調査を行い、管理運営、医師養成、経営問題などについて検討してきました。民医連における大規模病院の積極 的な存在意義を明らかにし、分業の中で全体が見えにくく、地域との結びつきが個々の職員に実感されにくい現状を切り開く、民主的な管理運営のとりくみが重 要になっています。そしてこの問題は、民主的集団医療のとりくみと大部分重なっています。
 理事会医療活動部は職員アンケートを行い、「民主的集団医療の到達と今後の課題」(案)という問題提起を行いました。全国的な議論が期待されます。
 この間、前総会の方針にもとづいて、多職種型のカンファレンスなどが社会的視点の重視、介護分野の創造、インフォームド・コンセントなどの立場から積極 的にとりくまれています。また、訪問看護ステーションが開業医との新しい関係づくりを実現したり、保険薬局と地域の医療機関の薬剤情報を通じての関係が広 がるなど、いわば民主的集団医療の地域的な広がりといえるとりくみがすすんでいます。

4、老人分野のとりくみ
 31回総会が提起した一県一老人施設づくり運動は各地で積極的にとりくまれ、民医連の老人分野のとりくみはそれぞれが何らかの施設をもって、そこでの実 践の交流と集団的検討にもとづいて社会的に問題を提起し得るという新しい段階に入っています。表 は、民医連に加盟する現在の施設の到達状況です。
 まもなく老健と特養で30近くになり、療養型や老人病床も増加するでしょう。訪問看護ステーションは全国の1割近くを占めるだけでなく、活動の内容にお いて先進的なものを生み出し、大きな役割をはたしています。在宅介護支援センターは、介護情報ネットワークの要であり、すでに民医連のセンターが中心に なって連絡会議をつくり、患者の立場からのレベルアップに努力している経験も生まれていますが、これを民医連が確保していくことの意義は大きなものがあり ます。
 病院・診療所のデイケアは、厚生省による制限が強められる中で共同組織のボランティアの協力を受け、地域ケアの中で不可欠の存在として前進しています。
 理事会は、看護・老人医療部に老人医療・福祉委員会を置き、「訪問看護ステーション」「特養ホームとケアハウス」「老健施設・老人病院(棟)」「在宅介護支援センター」の交流会をそれぞれ組織しました。
 第3回看護活動研究交流集会は、「高齢者の医療・看護」に焦点をあて大きな成果をおさめました。この分野での看護部門の奮闘は顕著です。また在宅、デイ ケアなどの拡大にともなって、リハビリ技術者が積極的に分野を拡大して役割をはたしています。
 全体として、老人医療・福祉の分野での民医連の今後のとりくみには、大きな可能性があることが明らかになりました。同時に、施設整備のとりくみはなお相 対的に見て遅れています。また、老人分野の医学的な追求、実践から運動と政策を生み出すこと、「高齢者が地域で生きる」ことをささえるネットワークをどの ようにつくり出すかなど、介護保険体制の下で探求していくべき課題も明らかになりました。

5、診療所と外来の医療活動
 病院の外来活動では、救急、慢性疾患、外来看護婦の「気になる患者訪問」、ボランティアの通所介助、通院バスなどさまざまなとりくみがすすめられまし た。また、いわゆる門前診療所がつくられてきました。診療所と病院を格差づけした診療報酬、なかば強制的な病診機能分担などの動きの中で、外来医療をいか に発展させるかについて、さらに検討が必要になっています。
 民医連の慢性疾患医療のとりくみは、外来・診療所の医療の「中心的な柱」(31回総会)として位置づけられ、今日ほとんどの院所で管理基準や年間検査計 画表がつくられ、業務上のシステムとして確立されています。また、最近では「P―man」(注5)などパソコンが利用されたり、「私のカルテ」やカルテ開 示などインフォームド・コンセントに努力されています。
 一方、慢性疾患管理がシステムとして確立されてきたという前進の反面、できあがったしくみの中では職員に患者との共同の営み(なぜ中断するのか、コント ロール不良なのかなどをとらえ、主体的に疾患のコントロールができるように援助する)や民主的集団医療が実感できにくいという指摘もあります。
 また、患者会の運営に苦労が多い中でC型肝炎多発地域で患者会を立て直し、自治体闘争にまで発展させるなどの経験も生まれました。理事会の学術委員会 は、民医連内の研究会を通してアンケートを行い、その分析をもとに「民医連における慢性疾患医療の現状と今後の課題」(案)をまとめました。
 診療所新設のとりくみは、歯科も含めて各地で住民の要求にもとづく新たな運動の盛り上がりを生んでいます。診療所がつくられる前に健康友の会が確立し、 医療改悪反対のたたかいにとりくむなど共同組織の積極的な活動がみられます。また、診療所ではデイケア、在宅、センター病院との連携など積極的な医療活動 がすすめられています。さらに、97年の医療改悪反対のたたかいでは、各地の診療所が非常に大きな役割をはたしました。また、県連に診療所委員会がつくら れ、長計見直しをすすめるなど空白克服に県連が指導性を発揮している経験が生み出されています。
 全日本民医連診療所委員会は、診療所問題責任者会議を開き、こうした到達点を明らかにするとともに、500の診療所建設を成功させるうえでの問題点を明 らかにしました。この時点での県連の診療所計画の合計は465で、32回総会当時の499より後退しており、このままでは達成できません。
 診療所の新設がすすまない最大の原因は医師体制の困難です。今日、診療所群建設の意義と必要性はほぼ全国的な共通の理解であり、この責任者会議では今 後、診療所も医学対、医師養成に主体的にとりくんでいくことと、医師集団の中で常に診療所問題の議論を繰り返していくことを確認しました。

6、歯科の画期的前進
 歯科は、人権を守る歯科医療、社保活動への積極的なとりくみ(『口からみえる社会保障のはなし』の刊行と学習を力に)、96年度過去最高の経営状況 (623%の歯科が黒字)など画期的な前進を実現しました。とくに、各分野が総合的にとりくまれる中で経営が改善している点が教訓的です。
 「口からみえる社会保障の実践課題としての高齢者の食べる権利をいかに守るか」をメインテーマに開催した歯科学術運動交流集会は、内容をいっそう充実さ せて史上最高の3加で成功しました。また、100%の回収率で歯科医療活動調査が実施され、歯科往診、歯周治療、医科歯科連携、技術建設(たとえばインプ ラント施術院所は全国5%前後といわれているが、民医連50%、矯正標榜院所は全国20%、民医連61%など)が積極的にとりくまれている民医連歯科の特 徴が明らかになり、職員の確信となっています。
 今後、「治療計画の共有」を軸に、民主的集団医療、患者との「共同の営み」をさらに前進させる必要があります。
 ブロック活動が開始され、職員交流、中堅歯科医師交流集会、歯科医師支援、経営検討会、空白克服など、さまざまな内容で経験が積み重ねられつつあります。
 また歯科部は、現地検討会や歯科医師支援を組織するなど経営問題での指導を強めました。長期赤字に固定している院所の改善に本腰を入れなければなりません。
 この間、歯科施設の増加は3カ所にとどまりました。医科・歯科連携をはじめ民医連歯科の優点に確信をもって、「全県連に」「100の歯科」に向かって、 さらに県連的、ブロック的なとりくみの強化が必要です。そのためにも全国的な指導体制のあり方が検討されなければなりません。

7、働くものの健康と保健予防活動
 民医連の健診のとりくみは、この5年間で約2倍(88万9600人=95年医活調査)に到達しました。職域健診を通じて労働の実態を明らかにし、改善の とりくみをすすめる努力が払われていますが、最近大きな職場が民医連から健診業者に乗り換えるという事例も生じています。
 国立病院の看護婦2交代制への移行にともなう疲労調査、労働省の振動病患者にたいする治療「打ち切り」の動きにたいして、全日本民医連振動病研究会とし て調査を行うなど、政府の攻撃にたいして科学的調査をもって立ち向かうとりくみが行われました。理事会は「改定された労働安全衛生法に対応し、産業医・産 業看護活動を早急に強化しよう」(97年8月)の方針を決定しました。
 老人保健法にもとづく自治体健診は、多くの自治体が医療機関に委託し、民医連院所は共同組織と一体となって積極的にとりくんでいますが、結果返し、「要 指導」へのフォロー、まとめを充実させることが課題となっています。共同組織構成員の生涯健康管理の探求はひきつづく課題です。
 また、民商健診にも見るように、「要精検」となっても受診するのは3割程度といわれる状況もあります。その背景に今日の国民の生活の困難を見なければな りません。労働者の場合も生活改善に努めようとしても、その中の大きな比重を占める労働の条件はむしろ悪化しているという現実があります。過労死と認定さ れなくても在職死亡は増えています。
 こうした中で民医連、全労連をはじめ多くの団体が結集して「働くもののいのちと健康を守る全国センター」(準備会)が発足(97年12月)しました。1月末には7年ぶりに全日本民医連健診活動交流集会を開きました。

8、薬剤分野の活動
 薬害エイズの問題につづいて医療制度改悪の中でも薬の問題が焦点となり、民医連の薬剤部門はこれらに積極的にとりくみました。薬剤問題を中心にタミさん パンフNO.3を作成し、13万3000部を普及し、法案成立後もいち早く「薬の二重負担をもとにもどせ」の要求を中心に署名運動をすすめ、厚生省交渉を 行うなど、薬剤師集団としてはじめて独自の社保分野のとりくみを行いました。保険薬局は地域の薬局として、医療連携、民主的集団医療、共同組織とのかかわ りなど地域医療の中での新たな役割を模索しています。
 理事会は薬剤・保険薬局部をつくり、保険薬局トップなどの研修を行い、医療整備を重視しました。また、保険薬局政策と民医連統一会計基準薬局版を決定しました。
 第3回の副作用モニター交流会を行い、新薬モニター制度に着手しました。保険薬局の拡大の中で新たに民医連に参加する薬剤師が増えており、病院の薬剤師 を含めて統一した活動をすすめることがいっそう重要になっています。この立場で12年ぶりに薬剤師交流集会(第5回)を開きました。共同購入連絡会は活動 を安定させつつ組織を拡大しています。

9、その他の分野の活動
〈環境公害〉
 水俣病の問題では患者へ一時金260万円を支払い、国と自治体が医療費患者負担分をカバーする制度が発足し、1万2371名が何らかの救済対象となりました。
 95年10月から3年計画で開始した大理石を使っての全国酸性雨調査の、96年12月までの調査結果の中間まとめを行いました。34県連、210調査地 点で行った調査によると、日本海側にもっとも大きく影響が出ており、東北の太平洋側が影響がもっとも小さい、大都市圏は中くらいとなっていること、また季 節による変化が大きい、などの特徴が出ています。
 東京での大気汚染裁判や各地の裁判闘争の前進のために「大気汚染裁判関係院所会議」を行い、とりわけ公害認定患者の遺族補償切り捨て、等級切り下げがめだってきており、患者会などと連携を強化して運動することが確認されました。
 そのほか、福井民医連を中心に全国支援もしながらとりくんだロシアタンカー事故による重油流出から住民の健康とくらしを守るとりくみや、香川民医連のダ イオキシン問題へのとりくみ(注6)など、深刻で多様な環境公害問題にとりくみました。

〈被爆問題〉
 96年11月に7年ぶりに青森市で開催した「第7回被爆問題交流集会」は、民医連として初めて行った肝疾患全国調査のまとめや長崎・松谷訴訟(注7)の 意義など今日的な被爆者医療の課題とともに、6ヶ所村核燃料サイクル施設の見学調査や、チェルノブイリ原発事故による小児甲状腺癌の問題での講演など、今 日の核汚染問題へのアプローチの重要性を確認しました。この集会には青年医師や医学生も3加しました。つづけて3・1ビキニデー関連行事や原水禁大会国際 会議での民医連医師の懇談会、「医学生のつどい」など、意識的にこの分野の後継者対策にとりくみました。ひきつづく課題です。
 また懸案であった「民医連の被爆者医療のまとめ」として、『民医連医療の理論・2-被爆者医療』を97年7月に発行しました。なお、本書の発刊を記念す る意味も込めて「21世紀につなぐ被爆者医療シンポジウム」を98年3月21日に開催予定です。
 長崎・松谷訴訟は97年11月福岡高裁で全面勝利しましたが、DS86という放射線量評価システムで被害を封じ込めようとする国・厚生省の立場を完全否 定した2審判決の意義は大きいものです。不当にも厚生省は最高裁へ上告しましたが、今後の全国的なたたかいが重要です。
 この間の国際活動では、原水禁大会実行委員会の呼びかけにこたえて、マーシャル諸島核実験被害調査に聞間委員長が参加、神奈川民医連から竹内医師が参加し、成功のために力を尽くしました。
 原発・核燃問題では、福井民医連の原発の危険から住民を守るヨウ素剤普及のとりくみや、青森民医連の職員制度教育の中に核燃料サイクル施設問題を位置づけてのとりくみなどが具体化されました。

〈学術分野の活動〉
 全日本民医連学術委員会は、先に述べた慢性疾患の問題でのまとめのほか、「医師養成における学術活動の位置づけ」(案)をまとめました。また、学術活動 調査、2回の学術研究セミナー(96年6月、97年10月)を行うなど、活発なとりくみを行いました。民医連の研究会は現在14ですが、新たに3つの研究 会(大腸肛門病、在宅医療、消化器疾患)の準備がすすめられています。

〈災害時医療対策〉
 今期委員会を設置し、阪神・淡路大震災から学び、災害時における医療活動マニュアルをまとめ、まもなく発表できるところまできました。今後、全日本民医 連として大災害時にどのような対処をするかなどについての方針化が残された課題です。

〈その他の医療活動のとりくみ〉
 第13回精神医療交流集会が「人権とネットワーク」を主テーマに97年11月に開催され、リハビリテーション、精神科看護、総合病院、老人精神医療などのテーマについて深めました。
 乾燥ヒト脳硬膜の移植によるヤコブ病感染問題が日本でも明らかになりました。この問題はHIV問題と同様の構造的な問題であり、国と製薬企業の責任は明 確です。民医連としては全国的に緊急調査を行いました。また、できうる限り使用患者の追跡フォローを行い、患者との信頼関係を築く努力を続けることが重要 との立場で県連医活委員会に通知しました。
 小児医療の問題について、理事会の下にプロジェクトチームをつくり検討してきました。まとめられたものは近々発表する予定です。

10、民医連の医療宣言と医療活動委員会
 97年2月の第2回評議員会は、今日の情勢と民医連運動の歴史的な発展段階とのかかわりから、「21世紀においても続く民医連運動の主として医療面での座標軸となるような『民医連の医療宣言』をつくること」を呼びかけました。
 この提起は積極的に受けとめられ、綱領の学習や「私と民医連」を語る、院所の医療活動の歩みをまとめるなどのとりくみがすすみました。全日本民医連は民 主団体などとの中央レベルの懇談会を開き、医療宣言委員会を発足させました。そして第2回評議員会は、院所の医療宣言づくりの運動を提起しました。
 「医療宣言」のとりくみは、私たちが医療の実践と医療運動をどのようにすすめるのかを広く明らかにすることであり、それをつくりあげる過程は、日々の医 療の実際を内・外の人びとの協力を得て再点検することでもあります。国民と医療機関を分断するために医療不信キャンペーンが繰り広げられている現在、この とりくみはいよいよ重要性を増してきました。
 県連医療活動委員会は、ブロックでの会議が定着する中で活動を前進させてきました。今後、医療宣言づくりを促進するうえで、県連理事会とともに役割を発 揮することが期待されます。全日本民医連医療活動部は数多くの課題にとりくみながら、とくにこの間、民主的集団医療と技術問題について精力的に検討してき ました。技術建設の問題は、97年医活委員長会議でも論議されましたが、ひきつづく課題となっています。
(注2)1000字レポート 31期MSW世話人会が提起した「患者の人権侵害を告発する1000字レポート運動」のこと。21世紀を展望した人権を守る 民医連の医療活動の確立をめざして、MSWの積極的な役割とイニシアチブの発揮が重要という位置づけで提起されました。民医連の機関紙誌への掲載や自治体 要求などのたたかいに反映させていくことも目的。32期世話人会は97年6月に、集約された一部を『聞こえますか?~患者と医療ソーシャルワーカーからの メッセージレポート~』としてまとめました。
(注3)京都民医連中央病院減点訴訟 1989年、京都民医連中央病院が急性リンパ性白血病を再発、急性腎不全と劇症肝炎を併発し重篤となった男性を救命 するために行った治療(13回の人工透析や3回の血漿交換療法)にたいし、社会保険診療報酬支払基金がこの治療を「過剰」として114万600円を減額、 再審査請求も却下しました。その処分にたいし、中央病院側が支払基金と京都市長を被告として、減点された医療費の支払いを求めて提訴しました。97年5 月、大阪高裁で中央病院のほぼ全面勝訴というべき判決が下りました。
(注4)脳死・臓器移植法の異常な手続き 1997年に中山案と金田案の2つの法案が、議員立法として再度衆議院に提出。脳死・臓器移植についての国民的 合意が形成されていない中で、厚生委員会での審議はきわめて不十分、加えて委員会としての結論も出さないまま、いきなり本会議採決にかけるという異常な取 り扱いが、日本共産党を除く各党によって強行されました。しかも衆議院本会議採決では日本共産党を除く各党は「党議拘束」をはずし、各議員個人の判断にゆ だねるという無責任な対応に終始し、橋本首相にいたっては保留の投票をし、その結果として中山案が可決されました。その後、若干の修正のうえ参議院で可 決、成立。全日本民医連では政府提案の重要案件として扱い、慎重な審議をするよう求めていました。
(注5)P―man 慢性疾患管理のためのパソコンソフト。外来の検査、健診データの蓄積や結果表印刷、次回の検査予定月がわかる機能などがあります。愛 知・星崎診療所の内山集2所長が開発。現在は会社が設立され、Windows95対応版も販売。現在、全国92カ所で使用されています。
(注6)香川ダイオキシン問題 瀬戸内海に浮かぶ香川県豊島で起きた、日本最大の産業廃棄物不法投機事件といわれているもの。不法埋め立てが10年以上も 続けられ、有害産業廃棄物は50万トンに達します。香川民医連が中心となり、昨年7~8月住民健康生活調査が行われ、住民の深刻な健康生活不安が明らかに なりました。
(注7)松谷訴訟 長崎市の松谷英子さんは3歳だった1945年8月9日、爆心地から約2・45キロ離れた自宅で被爆し、右半身不随の不自由な身体になり ました。2回原爆症の認定申請をしたのに却下されたため、1988年長崎地裁に提訴。裁判は、大きな支援の輪が広がる中、93年、長崎地裁で歴史的勝利と なったものの、国が高裁に控訴。福岡高裁でも97年11月7日、一審につづき松谷さんを原爆症と認め、申請を拒否した国の処分を違法とするいっそう前進し た勝利判決をかちとりました。

第2節 民医連綱領の実現をめざす人づくりはどこまですすんだか

1、職員数の推移と養成の概況
 この間の職種別職員数の推移は表のようです。
 看護婦・薬剤師の増加が顕著で、事務も配置の変化を含みながら全体として増えています。医師は前総会期に比べると今期かなり伸びていますが、中堅などの 退職があり、医師体制は非常にきびしくなっています。技術部門各職種はデコボコがありつつ、全体的には医療構造の変化を反映しています。新しい技術職種が 増えています。
 福祉と介護の分野の職員が急速に増えています。医師を除いて、人の確保という点では社会状況の変化もあり、ほぼ成功していると評価できます。
 この間、医療改悪反対や選挙などのたたかい、医療宣言の提起にともなう綱領の学習運動、制度教育の前進などを通じて民医連職員の自覚は高まってきまし た。ここからの教訓はやはり“学習を通じての理解と納得、とくにみずからの仕事や体験を通して確信をもつ”ということです。
 こうした職員の成長を、さらに系統的な「職場教育」などを通じて援助していくことが必要です。とりわけ、いわゆる中堅がさらに積極的な役割を発揮できるようになることが求められています。また、医師と事務幹部の不足は深刻です。
 情勢の激変を上回って私たちの主体的な力を強化できるかどうかに私たちの未来がかかっています。

2、医師の確保と養成
 この2年間の医師受け入れの到達はかなりきびしいものがあります。96年度には55名、97年度には29名が奨学生をやめ、あるいは就職を辞退していま す。したがって、96年度に新たに奨学生となり、あるいは民医連への入職を決意した医学生は123名、97年度は104名となります(表)。奨学生の大量 辞退は、91~92年ころに、民医連についての理解をあまり求めずに奨学生とし、その学生を育てきれなかったことが原因です。
 96年8月の第1回評議員会は、94年につづいて再び「医学対活動の転換」をやり抜くことを提起しました。転換の柱である医学生運動の発展という点で は、医療改悪や保険医インターンに反対するたたかいや医ゼミの成功などの中で前進し、活動家も増えています。一方、こうした学生の変化に民医連の医学対が 対応しきれないところもあり、医学生運動を援助し得る青年医師の配置が課題となっています。
 こうした医学生運動の前進が、受け入れ数の増加にまだ結びついていません。それは民医連そのものについてなお、広範な学生に知らせきれていないなどの問 題とともに、とりわけて入学年度の新歓などのとりくみで奨学生を大きく拡大しながら、中学年でさらに広くさまざまな運動を通じて影響を拡大していくように なっていない、奨学生をそのように育てきれていないことに原因があります。
 しかし、これについても「一医局一サークル」づくりや院所医学対など全職種型のとりくみ、民医連奨学生のつどいなどさまざまな努力が行われています。問 題は、それが各県連の責任において各大学ごとに系統的に追求されていないところにあります。
 ブロックレベルの活動をこの視点で強めることが必要になっています。9州・沖縄、近畿、関東・甲信越などのブロックがこの点で先進的な経験をつくり出し ています。院所医学対の活動は、共同組織の活動とも結びついて、学生が入職を決意するうえで大きな役割をはたし、職員自身の確信にもなっています。
 96年度の常勤医師実態調査を94年度の調査と比較すると、94年74人の増加にたいして、96年は161人の増加となりました。入職後10年までの医 師が増え、既卒医師の採用(以前民医連経験のある医師を含む)が増えている一方、10~20年の医師の退職は前回調査より増えています。この間に民医連の 診療所と老人施設は、新たに60近く開設されており、医師不足はひきつづき深刻です。このまま推移するなら、多忙と余裕のなさから展望を見失うという事態 が広がりかねません。
 この間、民医連の医師集団は医療改悪反対のたたかいにおいて、文字通り先頭に立ってたたかいました。「まじめに患者を診ているだけでは患者を守れない」 「社会を診れる医師になろう」が医師委員長会議や中堅医師・青年医師の交流会の中で共通のスローガンになりました。
 民医連医師の養成についても医局運営の改善、総合研修を取り入れるなどの研修見直し、ブロックレベルでの青年医師の集団化などさまざまな努力が払われて います。診療所における医師の成長を生きいきと描いた『ひよこ医師がいく』が大好評です。全日本民医連医師部は、医師養成方針の作成を最重要課題として全 力でとりくみ、近々まとめることができるところまできました。また、医師の基礎研修の改善のための新たな方針の検討を行ってきました。
 結局、患者・地域の人びととともに生きる、科学とロマンチシズムを統一した医療変革の担い手であるということが、民医連の医師であることでしょう。この 立場を大規模病院においてもどのように貫いていくのか、県連やブロック、全国という民医連組織全体の力でどのように探求していくのか、民主的集団医療や民 主的管理運営の問題ともかかわる課題となっています。
 医師の全国的な制度教育の問題は、今期具体化できませんでした。ひきつづく課題です。

3、歯科医師の確保と養成
 この2年間の歯科医師の確保は66名(新卒31名のうち奨学生18名、既卒35名)です。しかし、退職が55名あり、実質11名の増にとどまっていま す。奨学生は96年1月時点で最高の40名となって以降、減少傾向で98年1月時点で31名です。学生との接点が年々少なくなってきていて、97年度の民 医連説明会、夏期ゼミに3加した歯学生は129名と、ここ数年間では最低となりました。このように歯科医師確保においては困難な状況が続いています。抜本 的な歯学生対策の強化が必要です。そんな中、「民医連歯科奨学生のつどい」が96年より開催されるようになり、歯学生同士の全国的な横のつながりをつくる 契機となってきています。
 中堅歯科医師の退職問題はひきつづきの課題です。しかし、この間の人権を守る歯科医療、社保のたたかい、経営活動の総合的なとりくみの実践を通して歯科 医師が成長し、民医連への確信が深まってきていることが、中堅歯科医師のアンケート結果でうかがえます。歯科医師の成長にとって、職場を基礎に職種をこえ てお互いが成長できる関係をつくること、院所、県連の枠をこえて交流し、より広い視野で日本の歯科医療のあるべき姿と民医連歯科の役割を深め合う場をもつ ことが必要です。

4、看護部門
 新卒看護婦の受け入れは表のようで、3年連続1000名を超えました。98年も1000名に達する見込みです。
 この成功の要因は、民医連看護への確信が職員だけでなく、今期はじめてとりくんだDANS(全日本民医連看護学生ゼミナール)(注8)などの看学対活動 を通じて学生にも広がったこと、高校生からの系統的とりくみ、労働条件の改善などの主体的な努力が第一です。また、客観的状況として国公立などの医療機関 が採用を手控えているということもあります。厚生省は国立統廃合や病院つぶしをすすめながら「2000年には需給過剰になる」としています。
 人権を保障する医療と介護のうえでどのような看護・介護の人的体制が必要か、政策的な検討とたたかいが必要です。また、看護婦確保の地域差、病院による 差は残されており、分析が必要です。また、県連の受け入れ目標を全面的に検討することが必要です。
 こうした受け入れの成功にささえられて、看護部門は訪問看護ステーションや診療所、老人施設など活動の新たな分野を切り開いています。一方、その結果病 院の看護体制がかなり若返り、民医連看護の伝統を受け継ぎ、社保などの運動上の課題を遂行していくうえでの新たな問題も生まれてきました。
 看護部門の前進のうえで看護活動研究交流集会が大きな役割をはたしています。第3回は1000名以上の参加で96年9月仙台で行われました。また、看護 部長・総婦長・教務主任研修会(12回)が毎年、ほぼ全部の病院を結集して実施されてきたこと、看護管理者講座(5回)で幹部養成に努めてきたことも重要 です。
 看護職能分野の問題について、これまでの世話人会を看護制度・統一戦線プロジェクトに改編して「看護をよくする会」と連携しながら系統的に検討してきました。

5、技術部門

〈各種技術者の世話人会活動〉
 今期の各種世話人会の活動の共通した特徴は、医療改悪反対、患者の受療権を守れという大運動に、各職能の分野での働きかけがかつてなく各県連でとりくま れたことです。とくに栄養部門では、この間すすめてきた入院給食費自己負担の自治体助成の運動と合わせ、今回の医療改悪に反対する運動を精力的にすすめ、 署名運動や懇談などを通じて共通の要求運動をすすめる土台が築かれました。
 また、「民医連の医療宣言づくり」運動とのかかわりで、民主的集団医療における各職種の役割や民医連運動をすすめる人づくりの課題にとりくみました。と くに放射線や検査部門における「技師政策づくり」の提起は各県連部会で実践や模索がはじまっています。今後、より突っ込んだ討議と実践課題の明確化が各県 連部会に求められています。
 民医連運動の分野が拡大する中で、各職能の業務範囲が拡大し、それを積極的に受けとめて新たな活動をすすめるための条件をどうつくるかといった視点から の検討が、MSWやリハビリ、栄養などの分野ではじまっています。また鍼灸・マッサージ分野では、困難な状況の中で31期につづいて今期東日本の交流集会 を開き、国民要求に即したこの分野の新たな活動について交流、検討を行いました。
 歯科技工士、歯科衛生士の幹部研修会(1997年10月)では、人づくり、職場づくりが中心的課題となりました。また、民主的集団医療とのかかわり、院 所での位置づけが論議されました。この集会の成功をもとに歯科技工士、歯科衛生士の全国的結集を強め、「世話人会」の体制と活動のあり方を見直していく必 要があります。
 保育の分野にも補助金削減の攻撃が激しくかけられてきました。これにたいして、国と自治体に向けて医労連、福祉保育労、保育団体連絡会とともに交渉した り、補助を受けている病院がまとまって交渉するなどのとりくみをすすめ、多くの県で成果をあげました。97年12月には保育交流集会を開いています。

6、事務職員
 97年6月に事務委員長会議を開き、今日の状況の下で民医連がみずからの組織の力で事務職員の成長をはかり、事務幹部の養成をすすめることの必要性を明 らかにした「事務政策指針」の具体化の状況を交流し、民医連運動を担う事務職員集団を築き上げることを意志統一しました。
 現在、県連に前総会で提起した事務委員会が設置されているのは35、県連事務政策の決定は16ですが、22県連で長期計画の中で位置づけを行っていま す。しかし、これらの中には研修要綱と養成計画が含まれていないものもあります。
 96年と97年には16の県連で事務職員交流集会が行われました。事務職員養成のとりくみがすすみはじめたことは明らかですが、県連ごとの差もめだって います。事務職員の採用の条件は変化し、事務労働の変化もすすんでいます。SEのはじめての交流会を97年9月に開いています。事務職員が内外の組織者と してどのような役割をはたしていくのか、さらに具体的に明らかにしていくことが課題となっています。

7、教育活動
 この間、全日本民医連は「教育要綱作成指針」を決定(96年11月)し、「90年代新教育方針の中間まとめと重点課題」(97年9月)を明らかにしまし た。教育活動の実践をみると、32回総会が県連でのミニマムとして提起した新入職員教育は34、中間職責者教育は26の県連で行われるようになるなど、制 度教育は着実に前進しました。また、その内容においてもマンネリを排して、体験型・3加型など工夫が凝らされています。一方、「中間まとめ」は県連教育委 員会が制度教育に追われがち、制度教育と職場教育の結びつけの不十分さ、各職種で行われている教育活動の掌握ができていないなどの問題点を指摘し、「教育 活動を前進させるうえでの当面のカギは、教育委員会の抜本的強化にあります」と述べています。
 実際、教育委員会が中心となって作成していくべき県連教育要綱は、決定および案作成12県連、作成中19県連、未着手および未報告12県連という状況です。
 職場教育は「職場教育報告書」の採用と管理部による職責者への援助、個々の職員の目標を明確にして援助していくなどの先進的な経験が生まれていますが、 まだ全体的なものになっていません。教育委員会のスタッフ機能も十分に発揮されているとはいえません。
 青年職員はこの間のたたかいの中で大いに成長してきました。全国ジャンボリーは25回(「現在―いま―見つめなおそう」)、26回(「わあい~なんで? からはじめよう~」)のいずれも1000人を超える参加で成功しました。教育部は「ジャンボリー運動のこれからに向けて」(97年1月)で県連・院所の指 導・援助の強化を呼びかけ、また県連のジャンボリー担当者の交流会を開きました。
 その他、教育委員会は綱領パンフレット改訂版(97年3月)を発行し(4万部普及)、教育担当者研修会(97年9月)を実施しました。現在、「物の見 方・考え方」パンフレット、「教育方針・綱領講師用3考資料集」、「綱領ビデオ改訂版」の作業をすすめています。
(注8)DANS 「Dear “ACTIVE”Nursing Students」―全日本民医連看護学生ゼミナールの略。全国の看護奨学生を中心にしながら、医療・看護の情勢を学び、どんな看護婦になるのか交流して 看護学生の全国的連帯をはかるため、第1回は96年東京で、第2回を97年秋田で開催しました。目的は、?民医連への理解を深める、?医療・看護の情勢と 医療人に求められる課題を主体的に学ぶ、?全国の民医連の看護奨学生の交流と連帯感をつくり出す、の3点。第1回は400人(うち看学生258人)、第2 回は415人(同300人)が参加しました。第3回は98年7月31日~8月2日に滋賀県・琵琶湖畔で開催予定。

第3節 共同組織の戦略的強化はどうだったか

 97年の共同組織強化・拡大月間では、構成員の拡大は7万6645人となり、過去2回を上回りました。 97年末の段階で約245万人に達しました。生協型、友の会型に拡大数のうえで大きな差はありません。しかし、歴史のある友の会型の場合、月間で増えても 年度末の整理のときに会費制度とのかかわりで減少し、なかなか総数が増えないところもあります。すでに出されている方針、(基金型=生協の出資金と同様の 扱いとする)の具体化が必要です。
 この月間では、社保学校や保健大学、医療改悪のミニ学習会との結合、班ぐるみの健診活動と結果返し班会、ほとんどのところで行われた健康まつり、ホーム ヘルパー養成講座など多彩で積極的なとりくみが行われました。「いつでも元気」も2000部以上が新たに拡大されました。しかし、共同組織に民医連につい ての理解を広げるという点では消極的なところもあり、今後の課題です。
 共同組織の活動は、全体として前進を続けています。とくに介護保険と医療改悪に反対するたたかいの中で、「ともにたたかうパートナー」として頼もしく、大きな役割を発揮しました。
 全日本民医連共同組織委員会は、これまで「6つの機能」「4つの役割」としてまとめてきた共同組織の活動について、97年6月、「共同組織についての民 医連の方針の発展とこれからの課題」という方針で「5つの課題」として整理しました。
?「共同の営みの医療」をともに築く
?民医連の院所・法人の経営をみずからの、および住民・国民の「財産」として守る
?平和と社会保障を守り、改善し、民主的な地域医療づくり、まちづくりの運動をすすめる
?民医連の医療と運動を担う後継者を民医連とともに育てていく
?連帯の輪を広げ、共同組織そのものを強化・発展させる
 今後、民医連としてはこの5つの課題に照らし、かつ、この課題と職員がどのようにかかわってきたかという視点で共同組織の活動へのとりくみを総括し、方針を具体化していきます。
 この方針を載せた『共同組織と民医連運動』のパンフレットは、月間の中で積極的に活用され、2万4000部普及しました。しかし、普及ゼロの県連が8県連あります。
 雑誌「いつでも元気MIN―IREN」は97年8月、30回総会以来目標としてきた3万部に到達しました。その後も月間の中で拡大を続け、3万2000部を超えています。96年9月に第2回の「元気」普及推進会議を開きました。
 福岡で開かれた第4回共同組織交流集会では、こうした活動の発展のうえに1177人が3加し、活発な確信に満ちた交流が行われました。97年2月には第4回の組織担当者研修会を開いています。

第4節 組織機能の強化と全国的な団結の強化

 この間、とくに医療改悪反対のたたかいで各県連が全力をつくして創意的にたたかい、県連の存在感を高めま した。県連の医療活動委員会が医療活動をつかみ、医療宣言の提起を積極的に受けとめて活動が活発になっています。県連機関紙を発行するところも増えるな ど、32回総会方針の県連の6つのミニマム(注9)を具体化する努力が払われ、県連機能の強化に全体としては努力されています。しかし、一部にはこの間に 県連事務局の体制がかなり弱まるなど、一時的にせよ後退の見られる県連もあります。以前から指摘されている県連機能の格差の問題はひきつづき重視する必要 があります。
 一方、この間、全日本民医連のブロック担当理事会議、ブロック事務局長会議、さまざまなブロックレベルの交流会を通じて、それぞれの県連が学び合い、協力して活動を前進させる経験が蓄積されてきました。
 全日本民医連理事会は、医療改悪反対のたたかいを史上最大のたたかいに発展させ、民医連の医療宣言の提起を行うなど、基本的には情勢に見合った全国指導 部の役割をはたしてきたと考えます。また、今期からブロック担当理事会議を定例化し、企画・調整部を置くなど組織指導の面でも努力しました。こうした努力 の反面、院所の医師体制のきびしさと関連して、とくに医師の理事が任務をはたしていくうえでの困難が増してきました。
 この間、山梨勤医協は和議債務を完済(注10)し、甲府共立病院のリニューアルを含む新たな長期計画の実践という困難な事業に着手しています。
 福岡・健和会(注11)は九州・沖縄ブロックをはじめ全国的な医師などの支援を受けながら、民医連的再建の努力を続けています。医師体制の困難と収入の 伸び悩みなど、状況にはきびしいものがあります。民医連の整形外科医師集団が全国的に連帯して健和会の整形外科をささえ、再建するという新しい経験を生み ました。秋田・明和会の労使紛争は和解が成立しました。
 国際交流では、96年のフランス共済組合(FMF)の総会に阿部会長を団長とする代表団が3加しました。今回の総会にFMF会長のダニエル・ル・スコルネ氏、雑誌「ビバ」編集長のマチウ・モンテス氏が3加されました。
 「民医連新聞」は4万8600部発行され、職員以外にも読者が広がっています。職員の学習などに積極的に活用される例も増えています。97年5月に機関 紙活動交流集会を開きました。「民医連医療」は内容を充実させてきました。97年7月号で300号となり、記念論文の募集とレセプションを行いました。 「民医連資料」は時期的に掲載する分量にばらつきが生じる困難がありますが、系統的に発行されています。
 民医連共済組合は1997年10月に創立25周年を迎え、給付事業、文化スポーツ事業などは着実な発展をとげてきました。民医連に働くすべての職員が、 病気や出産時には公的給付を補完した休業保障制度の確立を運動課題の一つとしてきましたが、この間のとりくみにより新たに2支部連合会(11支部)が制度 化し、6支部を残すのみとなり、大きく前進しました。
(注9)32回総会方針の県連の6つのミニマム 「県連機能についての最低限の任務」として、32回総会方針でまとめられた以下の6点のことです。
   ?県連理事会の定例化、全国方針の討議と県連での具体化、?全面的な民医連運動の実践にふさわしい機構づくりと事務局体制の確立、?法人の経営状況 の掌握とあり方の検討、および指導・援助、?医療活動調査をはじめ、全日本民医連が行う各種調査についての実施と掌握、?制度教育の実施、?民医連への攻 撃、民医連への結集を弱める傾向とのたたかい。
(注10)山梨の和議債務完済 山梨勤医協は1983年4月に倒産したのち、和議法にもとづき15年で債務のすべてを返済するという再建計画を履行してき ました。そして、97年4月30日、債務残高16億円を一括繰り上げ返済し、予定を1年早めて計画を達成しました。
(注11)福岡・健和会の民医連的再建 1985年2月、福岡・健和会は大手町病院建設後の経営難の中で、多額の不渡りを出して倒産状況に陥りました。全 日本民医連はただちに全国的医師支援を行うと同時に、県連機能と新しい指導体制の確立、公認会計士による調査、労働組合との共同の強化などの具体的な指 導・援助を開始しました。その中で、健和会は全日本民医連・福岡県連に結集して再建をはかる路線に転換。89年9月に大手町病院が民医連に加盟し、94年 には全職員参加による長期経営計画の見直しや金融機関との新しい返済覚書を締結しました。その後も、全国の整形外科医師集団が連帯して健和会の整形外科を 支え、再建するなど、民医連の組織らしい再建の努力がなされています。

第5節 医療保険改悪反対のたたかいと統一戦線

〈介護保険と医療保険改悪反対のたたかい〉
 私たちは95年7月の社会保障制度審議会の「勧告」以来、「介護保険の導入をテコとし受け皿とする医療抜本改悪反対」のたたかいに全力をあげてきました。
 介護保険の問題では、共同組織とともにかつてない規模の小集会などの学習運動をすすめ、「抜本的修正さもなくば廃案」を要求してたたかいました。日本共 産党とも協力して各地で介護問題シンポジウムを開く、中央・地方の公聴会で職員が意見を述べる、宣伝・署名などにとりくみました。署名は約40万に達しま した。介護保険にたいする世論は、当初の圧倒的賛成から、「保険あって介護なし」「急増する負担」などの問題が明らかになるにつれて大きく変わり、導入反 対が上回るようになりました。この世論を変えていく上で民医連の活動は積極的な役割をはたしました。
 介護保険法は継続審議のすえ、与党と民主党のごり押しによって成立(97年12月)しましたが、実施までの2年間、具体的に自治体レベルでの問題を明らかにし、国に制度改正を迫っていく運動が必要です。
 96年11月、医療保険改悪のたくらみが明らかとなり、全日本民医連はただちに闘争体制を整え、97年2月の評議員会で「これまでのいかなるたたかいをも上回る最大規模のたたかい」の方針を決定しました。
 そして、97年前半のたたかいは共同組織と一体となって、幹部学習決起集会(1・18)、日本生協連医療部会との共催による2・14一万人集会、2・ 27第一波統一行動、3・17~23の第2波、4・18国民大集会、5~6月の波状的な国会要請デモ、全体で1800万(民医連576万)を超えた署名、 老人団体、医師会などの職能団体、連合系を含めた労働組合などへの申し入れと、これらの団体での運動の広がり、大量のビラ、タミさんパンフの圧倒的普及、 ザ・ニュースペーパーのビデオ、意見広告や署名簿付きのビラなど、まさに民医連の社会保障のたたかいにおける新しい到達点を築いたとりくみとなりました。
 このたたかいの評価と教訓を、第3回評議員会はつぎのようにまとめています。
 第一に、1980年代以降、社会保障の分野でもっとも大きな全国民的なたたかいでした。民医連はこのたたかいで牽引車の役割をはたしました。
 第2に、このたたかいの中で、今後のたたかいにつながるこれまでよりひとまわり広い陣地を築くことができました。
 第3に、職員の確信となる職員が成長できるたたかいでした。
 全日本民医連のそれぞれの職種の部や委員会、世話人会が闘争ニュースを発行するなど、組織の総力をあげました。歯科、保険薬局で画期的なとりくみがあり ました。職員の学習会3加者は2万7000人を超え、とくに若い職員などが具体的な患者の事例と結びつけて学ぶことで怒りを燃やし、創意的にたたかえたこ とは重要です。
 このたたかいを通じて各県、地域の社保協がつくられ、強化されてきました。12月現在、県社保協は38となり、過去において社保協がもっとも活動していた70年代の実質的な水準をすでに上回っています。
 また、このたたかいの中で多くの県や地域の医師会長が「しんぶん赤旗」に登場して医療改悪反対の声をあげるなど、医師層にも大きな変化がありました。
 医療保険改悪法案は、こうした全国民的な運動の広がりの中で修正を繰り返し、国会会期末ギリギリに成立し、9月1日から実施されました。それ以降、私た ちは「医療110番」「気になる患者訪問」など悪法によって悲惨な状態が生まれないようにとりくんできました。
 さらに、自治体にたいして、自己負担を軽減するように交渉し、38県で実績(注12)をあげました。また、薬局をはじめとして「不当な薬の二重負担をた だちにやめることを要求し、さらなる抜本改悪を阻止する署名」のとりくみをすすめ、厚生省との交渉を行っています。
 昨年末には診療報酬についての要求をまとめ、厚生省に申し入れました。

〈自治体運動と政治の革新〉
 全国各地で、医療の現場に根ざした粘り強いとりくみが自治体に向けてすすめられてきました。
 看護婦がオムツ代の家計に占める割合のアンケートを在宅患者に行い、その結果をもって対市交渉してオムツ代の支給をかちとる。一人ぐらし老人の実態調査 をもとに、福祉サービスの改善をかちとる。4年間、気になる患者訪問を続けて自治体に働きかける。10年間、地域の「国保をよくする連絡会」の活動を継続 している、などの優れた経験が学術・運動交流集会で報告されています。こうしたとりくみをふまえて、はじめての自治体運動交流集会(97年5月)を開き、 今後の系統的なとりくみの契機としました。
 いま、地方「行革」を名目とする自治体リストラと自治体の開発会社化によって、福祉や医療がしわ寄せされ、住民のいのちとくらしを守るという自治体本来 の仕事が多くのところでおろそかにされています。しかも、その開発事業の多くが失敗し、そのつけが住民にまわされています。
 この間、こうした自治体のあり方を住民本位のものに切り替えることをめざして、多くの首長選挙に民医連の役職員が革新統一の代表として立候補して善戦健 闘しました。その数は、埼玉県、千葉県、長野県、石川県、岡山県、徳島県、長崎県、仙台市、船橋市、足立区、相模原市、川崎市、松本市、小松市、富山市、 岐阜市、綾部市、奈良県広陵町、茨木市、神戸市、堺市、鹿児島市の計22にのぼります。
 そして東京・足立区では吉田万三(歯科医師)区長を誕生させました。吉田区長の住民が主人公の立場ですすめようとする施策にたいする自民・公明などの野 党の妨害は、きわめて激しいものですが、東京民医連と地域の民医連院所および共同組織は、地域の民主勢力や広範な無党派の人びとと団結して吉田区政を守り 抜くために奮闘しています。
 96年の総選挙、97年の都議選では理事会のアピールを出し、民医連としての要求にもとづいてたたかう立場を明らかにしました。そして、国民に事実を知らせる立場で民医連新聞の号外を発行するなど積極的にとりくみました。

〈反核・平和のとりくみ〉
 96年4月、橋本・クリントン会談による「日米安保共同宣言」とそれを具体化する新ガイドラインという流れの中で、沖縄の米軍基地や演習場が、日本各地 に拡散しています。これがよりいっそう米軍の戦争能力を向上させるためのものであるのは明らかです。また、1兆円を超える税金をつぎ込んで名護市に海上海 兵隊基地がつくられようとしています。これにたいして、各地で民医連は抗議と反対のたたかいを組みました。そして、名護市の市民投票(97年12月)で政 府のすさまじい干渉をはねのけて反対が過半数を制したたたかいに、全日本と各県連から支援者を送って貢献しました。
 この間の原水爆禁止世界大会、3・1ビキニデーでは民医連の参加者は全体の15%ほどを占め、集会の成功の力となりました。世界大会のつど、民医連と共 同組織のつどいが開かれ交流しています。また、97年には広島の国際会議に合わせて民医連医師の交流集会を開きました。
 「核戦争に反対し、核兵器の廃絶を求める医師・医学者のつどい」(反核医師のつどい)は、第7回(1996年10月、名古屋)と第8回(1997年10 月、東京)のつどいを開いています。青年医師の参加が増えていることが、新しい積極的な特徴となっています。
 長崎民医連を先頭に、長崎原爆松谷訴訟を支援する運動にとりくみました。
 97年2月に第2回平和活動交流集会を開きました。民医連の平和活動のとりくみでは、若い活動家が生まれてきたことが特徴となっています。第2回平和運動パンフ(1万5000部)を発行しました。
(注12)自治体自己負担の軽減38県 97年6月の通常国会で健康保険法等の改悪が強行されました。この直後に、改悪の被害を最小限にくいとめるため、 全日本民医連は全国に乳幼児医療費無料化・難病助成重度心身障害者(児)助成、母子家庭医療費助成など、地方自治体が独自に実施している県単独事業にたい して、新たに導入された薬剤費上乗せ負担分も助成対象とするよう求める運動をよびかけました。こうした結果、38都府県が助成を拡大することを決めたもの です。

第6節 国民生活の苦難と民医連経営の急激な悪化

 96年度の経営は8割の法人が黒字となりました。ところが、97年度に入って急激に悪化しています。消費 税増税などによる国民生活の困難は受診抑制をもたらしただけでなく、直接、民医連院所の経費の増加となりました。4月の診療報酬改定は明らかなマイナス改 定でした。そこに九・一改悪が直撃しました。
 厚生省の調査でも97年9月の医療費の伸びは0・0%(前年同期は4・7%)にとどまり、9月単月では調査施設の総数で赤字となっています。民医連のモ ニター法人の上半期調査では、前年同期9億の黒字にたいしていっきに12億の赤字になりました。このまま推移して全体が同じ傾向なら、97年度末には民医 連全体が60億を超える赤字に転落することになります。
 しかもこの困難には主体的な要素もあります。97年の経営委員長会議では、多くの法人で医師体制のきびしさのために収入が伸びない実情が報告されています。職員数はかなり増えています。
 金融機関の貸し渋りのために、多くの中小企業が資金繰りの困難に直面しており、民医連も例外ではありません。そして98年の診療報酬改定は、「財政構造 改革」のために薬価引き下げなど大幅な実質マイナス改定です。私たちは国民医療を守る立場から診療報酬の引き上げを要求してたたかうし、97年度いっぱ い、可能な限りの経営努力をしなければなりません。同時に、今日の経営の急激な悪化が、まさに全国民を襲っているくらしの危機と一つのものであり、国民の 医療を受ける権利が脅かされていることの反映であることをしっかり認識する必要があります。
 98年の国会には、このうえに医療制度の抜本改悪法案が出されようとしています。医療経営をめぐる状況は、過去いかなるときにも経験したことのない過酷 な環境になるといわねばなりません。すなわち、あの手この手の診療報酬上の対応などで短期的に経営改善を実現することは非常に困難な事態にあるといえま す。
 私たちはまず腹を据えて、いかなる事態にあっても患者の人権を守り抜き、民医連経営を全職員と共同組織の力でささえる決意を固めねばなりません。
 こうしたときに、いくつかの法人で事務幹部の不団結などの管理上の問題が生じ、事務幹部の不足があらためて指摘されるようになってきました。事務幹部の養成は全国的な重要課題です。
 97年度経営委員長会議(97年11月)は、この立場から「医療・社会保障抜本改悪阻止のたたかいに全力でとりくむ」「共同組織とともに患者住民との結びつきを強める」「全職員の経営の実現」を呼びかけました。
 経営・共同組織部は、医療整備対策会議、法人監査担当者交流会(4月10~11日開催予定)など組織整備にとりくみ、建設問題とかかわって現地調査を行 いました。また、事務委員会を中心に院所独立会計、部門別損益計算の実施院所の調査を行っています。
 職員の福利厚生上の課題であった職員の健康管理、労働安全衛生委員会の活動については具体化できませんでした。ひきつづく課題です。

■第2章

 医療保障の危機と自民党流国づくりのゆきづまり

第1節 国民の苦難と医療・社会保障の危機

 97年4月の消費税増税、特別減税の廃止、9月からの医療改悪の総額9兆円の国民負担増によって、景気は 再び急激に悪化し、ついに橋本首相は2兆円の特別減税の実施を発表せざるを得なくなりました(97年12月20日)。しかし、この遅すぎた対応策では景気 回復の見通しは立っていません。
 今日の不況はまさに政策不況であり、しかも「大企業・ゼネコン国家」という自民党流の国づくりのゆきづまりがもたらした経済破綻です。生活の困難とあい つぐ医療改悪によって、国民の健康は深刻におびやかされています。自民党政府は、国の最低限の責任さえ投げ捨てて、医療の営利市場化につきすすんでいま す。国民には犠牲を、大企業と大銀行には支援をという逆立ちした政府のあり方に、国民の怒りは高まらざるを得ません。

1、国民の苦しみ
 悪政と経済破綻によって国民は塗炭の苦しみをなめています。
 失業者は236万人(3・5%=97年10月)と史上最高水準です。個人破産は6万件に達する勢いで激増しており、バブル期の青年層から中高年の問題になってきました。破産予備軍は150万人といわれています。
 不況と銀行の「貸し渋り」などによって、97年の企業倒産は1万6365件、負債総額は14兆円と史上最高になっています。中小業者は大規模店舗法の改 悪などの規制緩和と不景気によってその存立を激しくおびやかされ、病苦や生活苦から多くの人が自殺に追い込まれています。しかるに政府は財政構造改革法 で、米軍への思いやり予算より少ない中小企業予算を今後3年間、絶対に増やさないと決めました。
 労働者は、労働基準法の女子保護規定の廃止、国立病院での二交代勤務の押しつけなど過酷な労働強化の中で、自殺や過労死を含む在職死亡が急増していま す。そのうえ、97年12月、中央労働基準審議会は裁量労働制、変形労働時間制、短期雇用契約などの労働基準法の改悪方針を打ち出しました。
 たとえば郵便労働者は、夕方から翌朝まで仮眠時間もなく16時間働く「新夜勤」を導入した93年3月以降の5年間に、40人が突然死しています。激しい 「リストラ」の嵐によって、大企業に忠誠であれば生活が保障されるという企業社会的な生活様式が根底から脅かされています。
 米の輸入「自由化」につづいて、政府は「新米政策」を打ち出し、農民に史上最大の減反を迫っています。政府は学校の米飯給食の補助金(200億円)をも廃止しました(98年度予算)。
 阪神大震災の被災者は、いまなお2万6000世帯以上(97年11月)が仮設住宅で暮らし、「もとのまちに帰りたい」という願いがはばまれています。公 営住宅への入居希望者が6万世帯あるのにたいし、行政の計画は3万8600戸です。仮設住宅での孤独死は3年間で191人に達しました。
 生活の困難と九・一医療改悪による過酷な患者負担は、政府の「予測」(厚生省は医療費の伸びにともなう国庫負担増を940億円下方修正)さえ上回る猛烈な受診抑制、治療中断などを引き起こしています。
 深刻な介護の問題にたいして、政府が打ち出して強引に成立させた介護保険は、国民から保険料を新たにとる一方で給付は保障されない、負担は増えるという、よりいっそう介護の矛盾を激化させるものです。
 いま多くの国民が、これまでの生活を維持することが困難となり、連帯し、たたかわなければいのちさえ危ないという状況になっています。

2、医療保障の危機
 いま国民生活の苦難の中で、「病気のときくらいお金の心配をしないで医療を受けたい」というのは切実な願いです。しかるに政府・厚生省の政策方向は、ま さに「いのちは平等」の理念をふみにじり、医療や介護さえも営利の市場に切り替えようとするものです。

(1)増大する無保険者
 高すぎる国民健康保険料のために、保険料を滞納している世帯は296万世帯(97年11月参院での厚生省答弁)です。
 現在「資格証明書」などで保険証を取り上げられているのは21万世帯ですが、介護保険法と一緒に行われた国保法の改悪によって、保険証の取り上げや給付 の差し止めを「市町村の義務」としました。一世帯3人とすれば、900万人近い人びとが公的保険のカバーを受けられなくなります。この状況に介護保険の保 険料負担が加わり、さらに老人だけの医療保険となれば、さらに多くの人が保険料負担に耐えられなくなるでしょう。まさに現在のアメリカと同様に、人口の1 割以上が無保険という事態があり得る状況となってきました。
 生活保護の対象となる人は急増していくと思われますが、行政による制限はさらにきびしくなる危険があり、生存権を保障させるたたかいが重要になっています。
 まず、もっとも困っている人が保険証をとりあげられるというかたちで国民皆保険による医療保障が崩されつつあります。

(2)患者負担の強化と公的保険医療・介護の制限
 九・一改悪ですでに明らかなように、患者負担がいっきに3倍・4倍になるという事態によって、患者が必要な医療さえ受けられなくなっています。そのうえ に小泉厚生大臣は、医療での老人の定率負担導入を前倒しで行うことを示唆しています。介護保険の場合は、かろうじて毎月の保険料を払ったとしても、いざ利 用する場合はさらに1割の定率負担となります。
 これまでは、自治体のヘルパー派遣を受けていた在宅患者22万9000世帯のうち83%が費用負担がありませんでした。これがいっきに6000円~2万 9000円の負担となります。さらに、家事援助などの業務の相当部分が実際上は保険給付外とされ、これらは自由料金・自己負担となります。このままで介護 保険が実施されれば、負担に耐えかねて患者の側から介護レベルを下げることを要求したり、辞退してくるという状況が生まれることは必至です。いま特別養護 老人ホームに入っている人の半分以上が、費用負担できずに退所を迫られるという事態も生まれます。
 さらに、政府・与党の医療抜本改悪計画では、医療のほとんどの部分を差額制度にすることがたくらまれています。
 まず薬の差額制度です。薬効別に薬を分類して、同一のグループに属する値段も違い患者によっても違うはずのさまざまな薬を、一律一定額しか保険では支払 わないという「給付基準額制度」(日本型参照薬価制度)の導入です。こうすれば医療機関の薬価差益はなくなりますが、保険で支払う薬価はむしろ高値安定に なることは、すでにドイツの経験で明らかです。しかも日本の場合、大手27社平均で16%の利益を上げ続けている大製薬企業の利益を保障するために、新薬 は別扱いとしています。患者は高い薬の差額に苦しめられ、製薬メーカーはさらに利益を上げるための制度といって過言ではありません。
 つぎに診察料の差額が制度化されようとしています。たとえば、一定の条件で認められた専門医の診察を受けるときには特別料金を払わねばならないという、特定療養費のようなしくみです。
 また、施設利用料は「自由化」するとしています。たとえば、1床あたりの床面積が基準をクリアすれば、大部屋でも何でも全病床が差額病床でよいことにな ります。300床以上の大病院は「紹介制」にすることも計画されており、そうなれば紹介がなければ全部自己負担ということになります。お金のない人にとっ て、大病院での専門的医療がますます高嶺の花になってしまいます。
 給食はすでに差額が導入されています。
 歯科は以前から保険給付が限定され、差額と保険のきかない医療にされています。
 政府の基本政策は、公的保険医療や介護を最低限にとどめ、保険のきく医療ときかない医療を一緒に行わせる“混合診療”を拡大していくことです。公的保険 の給付の範囲の限定は、患者負担と表裏一体であり、保険ですべての医療をまかなうという原則がくずされ、医療保障の空洞化がすすむことになります。

(3)医療内容の制限と供給体制の再編成

〈患者の人権侵害をまねく定額制診療報酬の拡大〉
 今日の医療保険財政の危機の原因が、診療報酬の出来高払い制度にあるかのようなすりかえのキャンペーンが行われ、与党の抜本改悪計画は定額制診療報酬を 大幅に拡大しようとしています。入院はすべて一定期間後は定額制、慢性期の入院ははじめから定額、外来も一定の慢性疾患は定額としています。病気ごとに支 払額を決めるアメリカのDRGを導入する検討も行われています。
 医療・介護のあらゆる分野で出来高払いがいいというのではありませんが、出来高払いが医療費を押し上げてきたというのは、これまでの日本の医療費が欧米 諸国に比して低く抑えられてきたことからいってもまったく事実に反します。むしろ国民皆保険制度で国民が医療機関にかかりやすかったことと、出来高払い制 度で病気の早期発見がうながされ、結果として長寿をささえ、医療費を抑えてきたのです。
 医療費抑制を目的とした定額制の導入は、患者から必要な医療さえ奪う人権侵害の危険の大きいものであり、患者の重症化を招き、アメリカですでにそうなっているように、医療費を押し上げることにさえなりかねません。

〈供給体制の再編と営利化〉
 医療と介護の供給体制にも激しい再編成と、ある部分では縮小の攻撃が加えられています。
 地域医療計画を見直し、法律改正もして病床「過剰」地域でのベッド減らしをさらに強引にすすめる。保険者による病院の選別を認めていく。国立病院統廃合 (国立廃止は過去2年間に12カ所、それまでの10カ所に比べて急増)をさらに促進する。公立・日赤、労災、共済なども統合や民営化が計画されている。民 間中小病院の介護施設化をすすめる。これらによって、ところによっては救急病院が減少し、救急車のたらい回しがすでにおこっています。
 地域医療支援病院や有床診療所の療養型病床化などを盛り込んだ医療法改正(97年12月)が行われました。具体化する省令などで不当な制限などが行われ ないように注目していかねばなりません。民間の病院・診療所はその存立をおびやかされ、激しい生き残り競争に追い立てられています。そうした中で差額医療 が拡大しています。この点では、公立や公的な大病院がむしろ率先して差額病床を拡大していることは重大です。歯科は医科以上に経営がきびしく、「もう医療 では食べていけない」「なんとか差額を増やすしかない」などの悲鳴に近い声が保団連のアンケートに寄せられています。
 保険医インターンや医学部の定員削減や廃止などによって、医師数を減らすことが計画されています。看護婦についても遠からず養成数を減らす動きが出てく るでしょう。一方、介護の分野では、企業による訪問看護やヘルパー派遣などの在宅サービスが一般化され、パートなどの人件費の安い労働者が大量に導入され る危険が大です。
 現在、特別養護老人ホームの入所待機者は9万8000人を超え、政府の整備目標(29万床)が達成されてもすでに4万人以上があぶれることが明らかで す。しかも自治体の8割近くが、施設整備やヘルパーの確保を2000年までに達成するのは困難としています。それでも政府は新たな整備計画を立てようとし ません。それとも政府は、特養入所者の多くが費用負担できずに退所し、在宅サービスも辞退するから大丈夫と思っているのでしょうか。
 こうした攻撃は、全体として「保険あって医療なし、介護なし」という事態、医療の公共性が否定される状況を、負担の問題とともに供給体制の面からももたらすことになります。

(4)国民の健康と安全を脅かす規制緩和
 いま日本でも世界でも、規制緩和が経済困難を解決する万能薬であるかのように叫ばれています。元来、資本主義は利潤追求のための自由競争、弱肉強食が本 性です。この本性を野放しにすれば、経済的弱者はとことんしぼりとられ、社会的な矛盾が激化します。それゆえ労働者の団結したたたかいなどによって資本主 義にさまざまの規制=ルールがつくられてきました。もちろん規制=許認可が官僚の権限とされ、それが政・官・財の癒着と腐敗の原因となっている事例もあり ますが、それは行政をどう民主化するかの問題です。
 医療の分野のさまざまな規制の中にも、国民の健康と医療の公共性を守るために重要なものが多くあります。いま、これにたいして激しい攻撃が加えられています。とりわけ薬の問題で顕著です。
 これまで医師の処方が必要だった薬がまちの薬局で買えるようになる(スイッチOTC)。その最初の実験が胃腸薬として売り出されたH2ブロッカー(ファ モチジンの薬価で50円60銭が、小売価格では103円33銭以上)です。もともと副作用がかなりある薬が十分な説明なしに売られ、その結果潰瘍が悪化し て入院という事例がすでにあらわれています(愛知・南生協病院)。そのうえ、コンビニでも薬が医薬部外品として売られようとしています。いわば、「薬の保 険はずし」と「薬の薬はずし」がすすめられようとしています。
 副作用などの国民の健康と安全に重大な影響をおよぼす問題を顧慮することなく、規制緩和と称して市場拡大をはかろうというのは許されません。H2ブロッ カーの扱いを元にもどし、危険な薬の「保険はずし」「薬はずし」を認めないことを要求し、国民の声にしていくことが必要です。
 政府の諮問機関である規制緩和小委員会は、さらに企業による病院経営や特別養護老人ホームの経営、訪問看護やホームヘルプ事業への企業の3入を規制する など主張しています。規制緩和の面からも、国民の健康を守る医療保障が危うくされています。

(5)98年度政府予算案
 97年12月25日に閣議決定された政府予算案は、「財政構造改革法」でいう3年の集中改革期間の初年度の予算であり、医療・福祉・教育・中小企業など国民生活のすべての場面で国民に犠牲を強いるものとなっています。
 医療では、1973年の制度創設以来はじめて、難病医療に自己負担が導入されました(入院月1万4000円、外来1回1000円、寝たきりと身体障害者 手帳1・2級を除く)。これによる国庫負担減は62億円。老人の入院費用負担が1日100円引き上げられました。
 厚生省は当初、98年度には医療費で国の負担増を4200億円圧縮する必要があるとしていました。予算編成ギリギリになって、九・一改悪を含む97年4 月以降の医療費の伸びが低かったことの影響を940億円と見込み、薬価の切り下げ(9・7%、1900億円)、診療材料の切り下げ(100億円)、老人の 重複診療の是正など医療費「適正化」対策で600億円削減、老人医療費への国保からの拠出金を労働者保険に振り替えることで、国保への負担を560億円削 減するなどとしています。
 入院給食費と高額療養費の患者負担引き上げは今回は見送られました。参院選とかかわっての与党の政治判断ですが、そこに私たちのたたかいの反映をみるこ とができます。また、98年の税制改悪によって退職引当金の限度額の切り下げ(20%)、賞与引当金の廃止など経営内容は悪化(従来なら赤字)しているの に、税金は増えるという状況がもたらされようとしています。98年度は医療機関の経営にはきわめてきびしい年になろうとしています。
 医療費「適正化」対策としては、重複受診者に保健婦が訪問する、高額医療費の市町村に削減目標を立てさせるなどとしており、お年寄りにたいする受診制限 になります。また、レセプト審査が猛烈に強化され、減点・査定がかつてない規模になることが予測されます。さらに、薬剤では長期収載薬品が大幅に引き下げ られようとしています。麻酔薬のラボナールは麻酔科の医師たちの運動で製造中止が中止になりましたが、安全で安い薬が姿を消すという事態につながりかねま せん。
 新ゴールドプラン、障害者プランの予算の伸びは大きく抑制されました。
 母子家庭への児童扶養手当支給の所得制限強化(年収270万以上の8万世帯が排除)、高年齢求職者給付金への国庫負担の削減、失業給付への国庫負担削減など、福祉と雇用への予算は軒並み削減されました。
 教育では国立大学の授業料が年47万8800円に引き上げられ、さらに99年からは在学生も新料金になる「スライド制」が導入されます。公立学校の施設 費は削減、高等学校の施設整備の補助金は廃止、私学助成は1円も増やさないと文教予算は前年より減らされました。
 まさに、国民生活にも景気にも背を向けた予算です。その一方で政府は大企業向けの法人税などは減税(7520億円)し、金融安定対策と称して30兆円もの公的資金を銀行支援につぎ込もうとしています。

(6)老人いじめ、医療機関つぶし、最悪の98年4月診療報酬改定
 98年2月23日、中医協が答申した診療報酬改定は「1・5%引き上げ」という宣伝とは裏腹の大幅なマイナス改定です。厚生省みずからの医療費の試算 (98年1月)でも、98年度には1954年に統計開始以来はじめて、97年度より1・1%国民医療費が減少するとしています。
 実際、薬価の引き下げは医療費換算でマイナス2・7%(R幅を5~2%にする)。これだけでも引き上げ分よりマイナスが大きいのですが、そのほか診療材 料価格の引き下げ(R幅で△30~50%)、検体検査料の7・4%の引き下げ、病衣貸与加算の廃止、高血圧減塩食の特別食加算の廃止、理学療法などリハビ リテーションの逓減制の起算日を発症の日からとするなど、医療経営に深刻な打撃を与えるものです。
 今回の改定の重要なもう一つの特徴は、介護保険導入と関連させた老人いじめです。看護料の届出要件である平均在院日数の短縮(2対1看護の場合は25日 に)と3・5対1看護までの拡大、デイケアつぶしともいうべき制限(著しい精神障害のある痴呆性老人以外は週3日、食事加算の廃止)、老人慢性疾患外来総 合診療料(外総診)を200床未満の病院と診療所に限定など、現場での大きな混乱と老人患者の悲しみと怒りを生まずにはおかない改定です。この点ではとく に、署名その他広く世論に訴える緊急のとりくみが必要です。
 さらに今回の改定は、特定機能病院、地域医療支援病院、診療所の療養型病床など医療機関の格差化、類型化を具体的に促進するものです。
 たとえばペースメーカー移植術、経皮的冠動脈形成術などを実施するうえで、施設基準と医師の経験年数が要件とされました。また、新看護体系へということ で、基準看護では入院診療計画加算がとれなくなりました。歯科では、「抜本改革」の先取りとして、う蝕多発傾向者にたいする継続管理という成功報酬的な制 度が導入されました。この最悪の診療報酬改定の内容を広く知らせ、世論に働きかけていかねばなりません。また、予算編成とかかわって早急に綿密な対策の検 討が必要です。

(7)医療改悪攻撃の手法

   ―不正請求キャンペーン
 こうした医療保障を解体・変質させる攻撃のうえで、一部の不正を行った医療機関の事件(安田病院事件など)を利用した新聞・週刊誌などのキャンペーンが 特別の役割をはたしています。これは、医療保険財政の危機の原因をおおいかくし、医療機関にたいする不信をかきたて、国民と医療従事者の統一したたたかい を妨げるものです。
 すなわち、保険財政の危機は医療機関のせいではなく、国が医療費への国庫負担の割合を減らし続けたこと、労働者の収入が伸びず保険料が伸びないこと、 政・官・財の癒着構造の中で、不当に高い薬価にしてきたことなどが原因です。人口の高齢化などによる増加も当然ありますが、国庫負担割合をもとに戻すだけ でもこれまで行われたような患者負担増は必要ありません。また、日本の医療保険ではヨーロッパなどに比べて企業の負担割合が少ないのも問題です。
 しかもこのキャンペーンでは、たとえば「不正請求3222億円―95年度」と大きく報道されていますが、そのうち1837億円は被保険者の保険が変わっ たり、切れたりなどの資格移動によるものであり、残りのうちの相当部分に事務上のミスが含まれています。まして「不正請求9兆円!」(「週刊朝日」)に 至っては何の具体的な根拠もありません。
 一方、医療の実態が国民の多くに理解されていないという現実もあります。経営内容を明らかにすることも含めたさまざまな「医療公開」のとりくみをすすめ、全国民的な医療抜本改悪を許さない運動を築いていくことが重要です。

3、年金をはじめとする社会保障全体の改悪
 政府与党の首脳部によって構成される財政構造改革会議が97年6月に決定した「財政構造改革の推進方策」が、これまで述べた医療改悪攻撃の原点です。こ れにもとづいて、補助金の打ち切りや社会保障費用の削減を政府に義務づけた法律が97年11月に成立しました。医療以外の社会保障にたいしても、年金制度 の改悪、高齢失業者への失業保険の支給廃止(98年度予算案ですでに一部実行)、生活保護制度を改悪して保護費削減などが打ち出されています。
 年金改悪について97年12月5日、厚生省は「5つの選択肢」を発表しました。?年金の水準を維持するために掛け金を2倍にする、?年金を1割減らし、 掛け金を7割増、?年金2割減、掛け金5割増、?年金4割減で掛け金15%増、?厚生年金の廃止、という5つの中からどれがいいですかという、まったく国 民をバカにしたような提案です。そのうえに、年金の賃金・物価スライド制のうち賃金スライドをやめる、65歳以上の働く高齢者や高額所得者は年金を減額す る、ボーナスからの保険料の引き上げ、専業主婦からも国民年金分の保険料を徴収するなどがたくらまれています。こうした改悪で、現在150兆8000億円 (1年に年金会計から支出する額27兆円の5・5年分)に達している積立金を982兆3000億円まで積み増すというのです。これほどのため込みをしてい る国はほかにありません。このため込まれたお金は、大蔵省資金運用部を通じて第2の予算といわれる財政投融資などにまわります。
 年金改悪法案は1999年の通常国会に法案が出される予定です。医療改悪阻止につづいて年金改悪もストップするためにたたかわねばなりません。

第2節 自民党流国づくりのゆくづまりと「財政構造改革」・「行革」、軍事大国路線

 1997年をあらわす文字として選ばれたのは「倒」でした。今日、60年代以降の自民党流の国づくりの破綻は誰の目にも明らかになっています。

〈許しがたい暴挙―税金を担保に30兆円を銀行に投入、国民の立場からの景気対策を〉
 山一、拓銀の経営破綻をきっかけに政府はマスコミも使って金融不安をあおり、いっきに税金を担保にした公的資金30兆円を預金保険機構に投入することを 決めました。預金者保護は口実にすぎず、バブルの不始末をかかえる銀行をその経営責任を問うことなく、救済・支援することが目的です。
 国民のきびしい批判を浴びた96年の住専破綻処理への6850億円の税金投入のときに、もう税金を使わないとした国会での約束にも反しています。政府・ 与党は反対する国民の声を無視し、国会審議の中で日本の銀行が全体としては預金者を守る体力があることを認めるなど税金投入の論拠がすっかり崩れたにもか かわらず、30兆円の銀行支援法案を強行成立させました。
 一方、大蔵省と銀行の「接待汚職」が明らかになっています。政治家と証券会社や銀行の癒着や政治献金もあとを絶ちません。このような政・官・財の腐敗し た結びつきの下で、銀行や大企業を守るために税金を使うから医療や社会保障は切り捨てるということになり、消費税をさらに引き上げるということになるので す。
 日本の経済を再建していくには、まず恒久的な大規模な減税を行う必要があるということは、今日もっとも広範な世論になっています。「減税」「社会保障」 「銀行救済」などの重大問題を、国民の意志を問うことなくすすめることは許されません。国会を解散し、総選挙を行うべきです。
 軍事費と公共工事予算を減らして社会保障を充実し、国民のくらしが成り立つようにすることが本来の景気対策です。社会保障の切り捨てなどのために、国民 が将来のくらしに不安を抱いていることも景気の回復を遅らせている大きな要因です。実際には、社会保障に税金を投入した場合の経済効果は、公共事業にくら べて生産で約2倍、雇用で約3倍にのぼることが明らかになっています。(「しんぶん赤旗評論特集版」NO1089、1998・1・19号有働正治「社会保 障の生産、雇用効果は公共事業より大きい」参照)

〈大企業・ゼネコン本位、米軍基地国家という国のかたちが問われている〉
 国と地方自治体の公共事業に投じられる税金が50兆円、社会保障には20兆円、欧米諸国ではこの比率が社会保障費5、公共事業が一程度とまったく逆転し ます。多すぎる公共投資を削って社会保障に、というのは世論になりつつあります(たとえば、「朝日新聞」97年11月10日付解説)。
 米軍基地国家という点では、96年4月の橋本・クリントン会談による「日米安保共同宣言」によって安保条約が実質的に改悪され、自衛隊がアジアなどでの アメリカの戦争に自動的に3戦するしくみづくりを「新ガイドライン」として具体化しつつあります。
 この新ガイドライン具体化の目玉といえるのが、なぐり込み部隊である海兵隊の基地を機能強化して移転させる沖縄県名護市の海上基地計画です。これにたい して名護市民は、政府の激しい干渉にもかかわらず、きっぱりと反対の意志を住民投票で示しました。名護市長がこの結果を無視して受け入れの意志を示して辞 職したため、市長選挙が行われました。この選挙に26県連から111名が支援に駆けつけました。選挙の結果は残念なものでしたが、これは名護市長選挙が基 地を容認したことを意味しません。実際、選挙のさなかに大田沖縄県知事は住民投票の結果をふまえて、海上基地反対を明らかにしました。日本を守るためでは なく、アメリカの世界戦略にもとづいて本国にいるより安上がりだからと居座っている海兵隊が、アメリカに帰ることによって問題を解決することが本筋です。 沖縄民医連のこの問題でのとりくみを全国的に支援していかねばなりません。
 前総会は、こうした流れの背景として、「安保体制下の多国籍企業国家づくり」と指摘しました。また、32期第2回評議員会は「橋本首相がかかげた6大改 革(行政・経済・財政・金融・社会保障・教育)は、多国籍企業化の中での大競争時代(メガ・コンペティション)に対応した国家づくりの意味もあります」と 述べました。すなわち、多国籍企業は進出した相手国における権益を守るために、政治大国・軍事大国であることを求めます。また、進出先と比較して日本が高 コスト構造(法人税、賃金、物価)であるとし、さもなくば日本から企業はなくなるとおどして、その「是正」と「規制緩和」を要求します。
 こうして新ガイドラインと医療改悪、「構造改革」が一体のものとしてすすめられています。
 国民はこれまでのような「自助」型の、あるいは家族の力や企業福祉でなんとかするという生活設計が困難となり、社会保障への要求が強まらざるを得なく なっています。そこに改悪が直撃するのですから、怒りと運動が広がらざるを得ません。また、国民に犠牲を強いるだけの悪政は、医師会にもみられるように、 保守勢力の基盤そのものを掘りくずしています。
 いま、大企業・ゼネコン本位の米軍基地国家を維持するためにさらなる国民犠牲を強いるのか、それともせめてヨーロッパの資本主義国なみに社会保障を重視するのかが激しく問われています。

〈新しい平和・福祉の日本をめざすたたかいの高まり〉
 支配勢力は小選挙区制を強行し(94年)、日本共産党をのぞいて社会党(当時)を含めてほとんどの政党を「安保賛成・6大改革賛成」の側に引き入れ、国 民犠牲の政治を強行しようとしています。しかし、こうした破綻している自民党政治に合流した勢力に未来はありません。そのことは97年末の新進党の6分裂 にはっきり示されました。民主党を中心とした統一会派などにつづき、さまざまな動きが今後出てくるにせよ、安保容認、大企業本位の流れにある限り、そこに 日本の未来をたくすることはできません。
 国民犠牲の政治にたいする国民の抵抗も新しい高まりを示しています。96年、はじめての小選挙区比例代表並立制の総選挙で日本共産党が726万票を獲得 し、躍進しました。97年の東京都議会議員選挙では、日本共産党が第2党になりました。日本共産党と政治の変革をねがう無党派の人びとなどが協力して、各 地の自治体に民主首長を誕生させています。
 社会保障の分野でも、97年の1800万の署名を集めた医療保険改悪反対の運動の盛り上がりがありました。県・地域の社保協が広がり、自治体レベルで福 祉や社会サービスを充実させるためのまちづくりの運動がすすんでいます。橋本内閣の6大改革の路線では、日本の国民に未来の展望が開けないことが明らかな いま、新しい平和・福祉の日本をめざす運動の流れを急速に大きくしなければなりません。そして、21世紀のできるだけ早い時期に、私たちもその一員として 加わる民主的な政治を実現しましょう。そこに日本の新しい未来があります。
 実際、規制緩和万能論に立った社会保障切り捨ての路線は、各国の国民的なたたかいによってすでに国際的に審判が下されています。イギリスとフランスでは社会保障切り捨てをすすめた保守政権が崩壊しました。
 労働、所得、教育、医療・福祉などの社会サービス、住宅・環境などの権利を国民が享受し得る、米軍基地のない平和な新しい21世紀の日本をめざして、医 療抜本改悪を阻止し、参議院選挙・総選挙の勝利をめざして奮闘するべきときを迎えています。

■第3章

地域の中で共に生きる民医連として、21世紀に向って何をどのようにとりくむか

 これからの2年間は、情勢の面からみれば医療保障を根本からくつがえす連続する医療改悪攻撃が加えられ、 介護保険実施の準備がすすめられ、国民生活と医療経営の困難は増し、国民の怒りとたたかいが広がらざるを得ない時期です。また、98年3院選をはじめとす る選挙のたたかいなどを通じて、新しい日本を築く力を大きくしていく可能性の開けた時期です。すなわち、支配の側がゆきづまり、追いつめられ、それゆえに より反動的な施策をとらざるを得ず、それによって国民の側は大きな被害を受け、同時に支配の基盤が崩れていきます。このときに、社会の進歩を願う民医連な どの自覚した社会勢力が、国民の変化に見合ってその力を発揮し、影響力を拡大していくなら急速な変化を実現していくことができます。
 国民生活の苦難は、医療の場面では受診抑制、治療中断、手遅れなどの重症化、病苦に経済負担が荷重されることによる自殺などの人権侵害となってあらわれ ます。医療機関にたいする攻撃は、まず民間医療機関の重大な経営危機、民医連院所も例外ではない存立を危うくされる事態をもたらします。さらに、差別医療 が制度化されていくなら、人権侵害と医療機関のサバイバル競争の中で医療破壊(医療保障の解体・変質、すなわち本来のいのちは平等という医療でなくなる) がすすむことになります。
 こうした中で私たちは、地域の人びとと苦難をともにし、その人びとの生きる権利を守り、ともにたたかって民医連医療を守り、創造していかねばなりませ ん。また、いかなる事態にあっても共同組織の人びととともに民医連院所を守り、綱領の立場から医療変革の志を持続する職員集団を築き上げていきます。
 同時に、こうした情勢はたたかって政治を変えることによって大きくよい方向に変えることができるものです。実際、これまでも私たちのたたかいによって厚 生省の改悪プログラムはそうとう遅れ、狂ってきているのです。私たちは、97年のたたかいで全国民的なたたかいをリードする力を示しました。いま、医療機 関と国民を分断して医療の内容にかかわる改悪の攻撃が加えられているとき、組織的に患者・住民と結びついている民医連が、全国民的な団結したたたかいのう えでまさにその役割をはたさねばなりません。
 それゆえ、これからの課題の第一の柱は、医療抜本改悪を許さないために97年よりもさらに壮大なたたかいを巻き起こし、改悪法案を阻止し、参院選で勝利 することです。第2の柱は、断固として人権を守る医療と経営のとりくみをすすめながら、地域の中でともに生きるものとして私たちは何をするのかを、全職員 であらためて確立する「民医連の医療宣言」のとりくみをすすめることです。そして、こうした課題を追求するのにふさわしく、民医連の組織の改革をすすめね ばなりません。

第1節 民医連の医療と経営を守り抜き、「民医連の医療宣言」をつくろう

 民医連の院所、施設の存立を保障する大道は、なくてはならない医療機関として地域の人びとに守られること です。そのためには第一に、共同組織の人びととともに、地域の中から手遅れで死亡などの悲惨を生まないために、人権保障の共同のとりくみをすすめることで す。第2に、同じ苦しみにあっている地域の医療機関とも手をつなぎ、地域ぐるみの運動をすすめ、人権と福祉の豊かなまちづくりをすすめねばなりません。そ して第3に、日々の医療実践の中で共同の営みの医療、患者の立場に立った民主的集団医療を追求し、文字通りの全職員の経営を実現していくことです。
 すなわち、「いのちは平等」の旗を掲げ続け、実践し続けることに民医連の存立の意味と保障があります。
 そして、90年代において全日本民医連が打ち出し、実践をすすめてきた諸方針は、全体としてこの考え方に貫かれ、かつ今日の日本の社会の中で経営活動を 行っているという現実をふまえたものでした。そして、これまで民医連は“右肩上がりの成長”を続けてきました。
 たとえば共同組織、人権を守る総合的医療活動、診療所重視、施設体系、老人・在宅分野の重視、医薬分業、統一会計基準や院所独立会計など、90年代に全 日本民医連が重視し、実践してきた方針は法則的なものであり、今日なお重要です。最近では、他の医療機関でも健康友の会を組織する動きもあります。
 長期的には、こうした総合的な方針の下に、民医連は医療と介護・福祉にもかかわる総合的な運動組織として拡大し、発展していかねばなりません。
 しかし、当面の一定期間は、客観情勢のほかに、全体としては医師体制は労働強化をさらにすすめることのできない限界に近いという困難な主体的条件をも考 慮するなら、経営的には低成長、とくにこの2年間はきびしい支出抑制型の経営とならざるを得ないのです。この期間を、たたかいをすすめながら内部の団結を 強化し、医師体制を整え、共同組織を発展させ、地域での運動を前進させ、つぎの飛躍のためにいっそう地域に深く根をおろす期間としていかねばなりません。
 いまこそ医療と経営を一体のものとしてとらえ、民医連の存在意義を輝かし、団結して困難を乗り越え、前進しましょう。民主的医療人―民医連職員としての 誇りをもって、患者の人権を守り、要求にこたえるために献身的に奮闘しましょう。そのとりくみへの患者と地域の評価こそが、私たちの新しいエネルギーとな るのです。

1、98年度医療・経営方針について
(1)まず県連、法人、院所の指導部が今日の情勢を正確にとらえ、団結して98年度の方針や予算づくりのうえで指導性を発揮することが重要です。
 こうした時期に目が内向きになって、知らず知らずのうちに経営主義的な対応に陥らないように、とりわけ「打って出る」活動に全職員がとりくみ、民医連を 守り抜く決意を全職員が固められるように、管理部が先頭に立たねばなりません。同時に、リアルに経営の現状を把握し、具体的な改善の手だてを講じ、断固と して「利益」をうみだすことを追求しなければなりません。
 きびしい経営状況の下では内部矛盾が激化しがちです。県連が機敏に法人の問題を把握し、解決のための援助、指導を行うことが必要です。この点はブロック(地協)レベルでも重視します。
(2)「気になる患者訪問」「中断患者訪問」「一人ぐらし老人調査」「医療改悪反対署名」など、打って出る医療活動とたたかいの中で地域の人びとの状況を よくつかみ、この運動方針の討議と合わせて、情勢と国民の困難の現実を全職員の共通の認識とすることです。
(3)非営利・協同(注13)の医療機関である民医連院所が、患者の「最後のよりどころ」になることです。
 患者の受診のうえでの障害を具体的に解決しなければなりません。共同組織とともに、地域の中でもっとも困っている人びとを見つけ出し、共同組織のボラン ティア活動の協力も得ながら、収入に直結しなかったり、持ち出しにある程度なることがあっても、「こまったらあの病院(診療所)へ」と地域でいわれるよう に、まず何よりも患者・住民の現在の苦難を解決するために奮闘します。また、自治体等にたいして、現実の困難を解決するよう要求し、運動にとりくみます。
(4)人権を守る医療活動を貫き、インフォームド・コンセントに努力するなど、患者の理解と納得が得られる医療を追求します。患者の苦情にこたえ、かかり やすさを追求します。すべての患者に共同組織への加入を働きかけ、今日の医療情勢を知らせ、一緒にたたかってもらえるように訴えます。
(5)こうした活動を社会的にアピールします。また、医療宣言づくりの懇談会などで、私たちがどんな医療をしたいのか訴えていきます。
(6)こうしたとりくみを通じて、患者件数の増加に努力します。そして、医師の労働負担が過重にならないように、あらゆる職種が最大限にその力を発揮していくことに努めます。
(7)予算編成のうえでは、早くから準備して支出の抑制に力を注ぐとともに、収入予算については診療報酬改定の内容が明らかになってから厳密に検討するこ とが必要です。春闘ともかかわることなので、事前によく労働組合と話し合うことが必要です。また、労組とは情勢認識、医療改悪反対のたたかいの方針など全 面的な内容で協議をつくし、共同のたたかいをすすめることを追求します。全日本民医連としても日本医労連と懇談します。

2、民医連経営の優点を全面的に発揮しよう
 今日の経営をめぐる状況には未曾有のきびしさがありますが、民医連の経営にはそれにうち勝つ本質的な強さがあります。それは、全職員の経営であり、共同組織の人びとの経営であるからです。
 この2つの核心を含めて、いまこそ「民医連経営の4つの優点」(注14)を全面的に発揮しなければなりません。この優点を全面的に発揮するうえで、経営 指導部が民主的管理運営の中での指導の責任をはたすことの重要性が、あらためて強調されねばなりません。経営状況を正確にとらえ、適切な方針を練り上げ、 多数の合意を形成して断固として貫く気魄が求められています。
 また、医師の確保と養成は経営上も最重点課題です。県連・法人の理事会などで毎月必ず時間をとって討議し、経営幹部が先頭に立って医師受け入れ目標を突破し、民医連医師の養成を成功させねばなりません。

(1)全職員の経営の力を引き出す
 まず、なぜ民医連経営を守るのかが全職員の自覚にならねばなりません。打って出る医療活動とたたかいを通じて、志気の高い職場づくりをすすめねばなりま せん。このことを前提(時間的な段階ではなく)に、情勢とみずからの経営状況をリアルに職員が認識し、みずからの経営を守り改善していく決意を固めること が第一です。
 職員の自覚的な水準の高い労働こそが民医連経営の宝です。そして、みずからの労働の成果を正確に知り、活動を改善していくために院所独立会計、部門別損 益計算を活用しましょう。医師を含めた民主的集団医療活動が現実に行われている単位ごとに、具体的な収支の目標を立て実現しましょう。労働組合との協議を つくし、民医連の医療と経営を守るための協力・共同に努力しましょう。

(2)共同組織に依拠し、地域に根ざす
 共同組織の人びとに、経営をめぐる状況をわかりやすく知らせ、地域の中での人権を守るとりくみを通じて院所利用の拡大をはかりましょう。出資金、基金、無利息債などの大衆資金を拡大しましょう。
 大山診療所(山形)のデイケアボランティアのように、新しい水準のボランティア活動が職員を励まし、全職員の経営にもつながっています。老人・在宅・自 治体健診など伸ばせるところは可能な限り伸ばし、活動のあらゆる面で共同組織に依拠し、地域の民主勢力と連携して深く地域に根ざしましょう。

(3)患者の立場に立つ民医連医療の強みを打ち出す
 これまで述べてきた医療活動方針を全面的に実践しましょう。たとえば、多くのところで患者負担を減らすために外総診を採用しましたが、モニター法人の調 査では3カ月を経過した段階で明らかに有意の差(外総診ではお年寄りの患者が増えている)が生まれています。私たちの医療活動が患者の納得と理解を通じ、 共同組織を通じて多くの人に知られることが、実患者数を増やす基本になります。

(4)組織的な強みをいかす
 全国の方針に学び、みずからの経営の組織的な検討を受けることが経営改善のきっかけになった経験は無数にあります。
 一方、矛盾や困難を法人内部にかかえ込み、爆発しそうになってから県連などが知らされるというケースもあとを絶ちません。今日の状況は、時期を失すると きわめて危険です。県連経営委員会を強力な全職種型に抜本的に強化し、各法人の経営について損益のレベルの分析にとどまらず、財務と資金繰り、それぞれの 法人の医療・経営構造まで踏み込んだ検討を行い、政策的・予防的な改善方針を打ち出すようにしなければなりません。全国的にも年1回の経営委員長会議だけ でなく、ブロック(地協)レベルで適時に検討の場を設けていきます。
 病院のリニューアル、とくに中小規模の問題について検討します。
 共同購入のとりくみを重視します。
 民医連経営の本質的な強さとは、別の言葉でいえば「非営利・協同」の経営組織の強さです。すなわち、その目的が働く人びとのための医療を行うことをはじ め、民医連綱領に示されているように公共的なものであり、私的所有でなく、国公立でもなく、直接地域の人びとが所有し、運営に3加しています。内部に階級 的な対立は基本的にありません。それゆえに営利追求に走ることが基本的にありません。
 このかたちの経営は、たとえばスウェーデンで医療の協同組合化が急速にすすめられているなど、今日、世界的に注目されています。私たちの経営のあり方が 決して特殊なものではなく、医療の未来の大道につながっていることに確信をもってがんばりましょう。
 事務幹部の養成は急務です。病院管理研修会は重要な成果をおさめていますが、さらに多くの事務幹部養成をどのようにすすめるか、方針化を全日本民医連の課題とします。法人専務、病院事務長の全国会議を制度化します。
 最近、税務などで民医連の法人が調査を受ける事例が多くなっています。また、さまざまな民医連や民主運動にたいする攻撃が強められる危険があります。医 療整備、実務整備、組織防衛をとくに重視し、必要な会議をもちます。職員の健康管理と労働安全衛生委員会の活動について調査を行い、全国的な検討を今期は 必ず行います。

3、患者の人権と安全を守る共同の営みの医療のひきつづく追求
 悪政による国民生活の困難が医療における人権侵害を生んでいる状況の下で、人権を守る共同の営みの医療は、いっそう重要性を増しています。「気になる患 者訪問」、中断患者を出さないとりくみなどの実践とともに、とりわけて共同組織が地域の中に「くらしと医療の相談員」のネットワークを張りめぐらし、医療 を受ける権利を具体的に地域の中で守り抜くとりくみをすすめることが重要です。第3回評議員会の互助的活動、救済基金の提起は当然限界のあるものですが、 地域ごとに民主勢力や共同組織と慎重に検討しましょう。
 また、自治体を患者・住民の受療権を守る姿勢に立たせることがきわめて重要です。対市交渉などとともに、具体的な実例を通じて自治体職員の現実への理解をすすめることがだいじです。
 難病患者や肝疾患患者の医療費無料制度(自治体独自のものを含む)の打ち切り、心ペースメーカー患者の身障者等級引き下げなどの攻撃にたいして、その人 権侵害の本質を鋭く明らかにしてたたかいます。JPC(日本患者団体協議会)など患者団体と連帯して、者の人権を守るとりくみをすすめます。
 さらに、これまでの蓄積の上に立ってインフォームド・コンセントのとりくみをひきつづき重視し、日々の医療実践の中で患者の権利を守る「私のカルテ」な どのとりくみを着実に前進させます。また、医療不信キャンペーンとかかわって共同組織の人びとが医療の現実をよく理解し、具体的に地域の中で語れるような とりくみを重視します。院所利用委員会の活動をより全面的なものにしましょう。
 倫理委員会を設置している院所は多くありません。重視し、方針に沿った民医連らしいものをつくっていきましょう。患者の安全を守るとりくみは、これまで 何度となく強調してきました。医師や看護婦の教育の中に位置づけることや、医療事故防止の手引きの作成を検討します。また、減点攻撃が強められようとして いるとき、京都で勝利した裁判の教訓に学び、不当な減点を許さない毅然とした姿勢で法的手段も含めてたたかうことが必要です。

4、民主的集団医療と民主的管理運営、病院・病棟の医療活動

〈いまなぜ民主的集団医療なのか〉
 患者の人権を守る医療活動を実際にすすめるためには、病院の規模が拡大し、仕事が複雑になっている今日、あらためて民主的集団医療のとりくみを強めねば なりません。患者は全人間的な共同の営みとしての医療を求めています。民主的集団医療は患者の人権を守る医療をすすめるうえで必然的なものです。
 歴史的にみて70年代に、若い医師や看護婦たちが学生運動も含めた共通の世代体験を基礎に、慢性疾患管理グループ、院所の医療活動委員会、全職種参加の 症例検討など民主的集団医療の実践をすすめました。それらがその後業務化され、できあがったシステムとなり、それぞれの職種が独自の課題への追求を強める 中で、若い多くの職員にとって民主的集団医療が実感されにくいものになってきました。
 また、保険薬局、老人施設、訪問看護ステーションなど新たな分野の拡大は、民主的集団医療のあり方の面からも課題となっています。民医連医療への確信を 新たなものにしていくためにも、民主的集団医療があらためて重視され、再構築されねばなりません。

〈民主的集団医療をすすめるうえでの留意点〉
 民医連における民主的集団医療は、一般的にいわれるチーム医療と当然重なるものを含んでいます。しかし、?患者を社会的にとらえる(生活と労働および療 養の条件)視点で情報を集中し、その解決(運動)にまでつなげる、?各職種の対等・平等の関係にもとづく民主的議論(多職種型カンファレンスなど)の保 障、?民主的集団医療を保障する管理に基本的に努力されていること、?患者・住民の主体的参加(患者会、共同組織)などの点で、一歩すすんだ内容をもって いるといえます。
 私たちの民主的集団医療は、まず何よりも患者のためのものです。同時に医療従事者の労働は医師を中心に行われています。すなわち、「患者中心―患者の立 場に立つ」ことと「医師を中心とする」は両立する、両方ともに必要なことです。
 また、医療活動の分野の拡大の中で、看護をはじめ医師以外の職種の役割の比重が増してきました。医療活動のさまざまな場面でそれぞれの職種がどのように 役割をはたしていくか、今後さらに実践と理論の両面で探求していかねばなりません。
 一方、患者の問題を解決するための問題提起のイニシアチブはどの職種からも提起されるべきであり、医師はそれを受けとめねばなりません。また、医療チー ムをまとめ調整する機能と、統率する機能は区別することができます。病院に院長と事務長がいるように、医療チームの事務局の役割は重要であり、この点で事 務の役割が期待されます。同時に、医師は医療チームの団結の中心となり、技術管理上の責任をはたし、医療方針をつくってチームをリードする責任をはたさね ばなりません。
 70年代に医師は、学んできた技術を民医連内で展開するためにチームをつくり、学習会を組織し、医療を築き上げてきました。当時と状況は異なっても、医 師のリーダーシップへの他の職種の期待は変わりません。医師がマネージメントの力量を向上させることが重要です。民主的集団医療を保障するために、院所管 理部は人の配置や活動の掌握など積極的な指導を貫かねばなりません。

〈大規模病院における民主的集団医療と民主的管理運営の追求〉
 民医連の一定規模以上の病院は、高度医療がお金のない人には保障されないという状況が強まってくる中で、そうした人びとのいのちを救うかけがえのない存 在になろうとしています。また、医師の確保と養成のうえでも幹部養成のためにもなくてはならないものです。
 一方、「病院が大きくなって民医連らしさが感じられなくなった」と地域の人びとからいわれたり、「診療所では全体が見え、元気だったけれども、病院に 戻ったら診療に追われ地域も見えなくなった」という医師のなげきが聞こえる状況があります。この状況を打ち破って大きな病院も地域の中でしっかりささえら れ、職員が生きいきと成長できるようにしなければなりません。
 そのためには第一に、共同組織の活動に全職員がとりくむ、「気になる患者訪問」など、打って出る医療活動を徹底して強化することが必要です。管理部はそ のために診療体制なども検討し、断固として具体化しましょう。第2に、民主的集団医療を目に見えるかたちで具体化することです。病院全体の課題を鮮明に し、全体に情報をゆきわたらせるのに格段の努力を行い、医局が団結して、医師集団が医療と運動の先頭に立ち、それぞれの職種ごとの活動をすすめるととも に、病棟別・疾患別など実際に医療が行われている場面で、医師が医療管理上の責任がはたせ、各職種の患者についての情報がカンファレンスなどで集中され、 業務が調整され、患者中心の医療を日常的にすすめられる機構をつくることです。この点では、先に述べた「民主的集団医療の到達と今後の課題」(案)をよく 討議することが大切です。
 病棟の看護部門は、こうした民主的集団医療の中で、主体的に民医連看護を築き上げていかねばなりません。
 これらをすすめるうえで、院長を先頭とする管理部の役割は決定的です。とりわけ、医療管理とかかわって院長の任務が重要です。全国病院長会議を開くこと など、全日本民医連としても検討をすすめます。医師幹部と事務幹部の団結、緊張した民主的関係が民主的運営の中心にあらねばなりません。

〈保険薬局、訪問看護ステーションなどと民主的集団医療〉
 すでにいくつかの新しい試みが生まれていますが、一つの病院の中だけで医療が完結しなくなる中で、保険薬局などと病院・診療所の関係を民主的集団医療の 角度からも探求しなければなりません。まず、近い病院・薬局、訪問看護ステーションなどの、患者についての必要な協議・検討の場を県連として(県連の名を 冠して)設けましょう。
5、労働者をはじめ働く人びとの健康破壊を許さないとりくみ
 日々の診療の中で患者の実態をつかむ努力を強め、カルテ等にそれを反映し、労働と生活の改善を実現するための患者・労働者自身のとりくみを支援していきます。
 健診活動交流集会の成果に立って、健診活動を強めます。職域健診の質を重視し、中小企業労働者の健康問題を重視します。裁量労働時間制などによるホワイトカラー労働者の健康破壊を許さないとりくみをすすめます。
 厚生省はがん検診を「老人保健法に規定する健康調査からは除かれる」として国庫負担規定からはずし、地方交付税で措置することの通達を出しました。全日 本民医連はただちに厚生省に撤回を申し入れましたが、自治体にたいして早急に申し入れ行動を起こし、検診事業を後退させないとりくみをすすめねばなりませ ん。老健法にもとづく自治体健診の医療機関委託を広げ、内容の充実を要求します。
 産業医・産業看護婦を増やし、その活動を強めねばなりません。県段階で「働くもののいのちと健康を守るセンター」をつくっていくことが課題となります。県労連などとよく話し合い、応分の力を入れてとりくみます。

6、老人・在宅分野のいっそうの強化
 これからの2年間は介護保険の実施準備の時期です。98年度には自治体の介護保険事業計画がつくられます。99年10月から申請受付、保険料徴収とサービス提供は2000年4月です。
 私たちはこの分野の実践をすすめながら、市町村に向けて介護保障といえるものになるように改善を要求し、運動しなければなりません。また、国にたいして も明らかになる矛盾にもとづいて迫っていきます。とくに、介護保険導入によって5000億円の国庫負担が減少する分を、介護保険の充実にまわすことを要求 します。
 まず第一に、施設・在宅のサービス提供体制をすみやかに整えさせることです。市町村の介護保険の対象となる人がどれだけいて、どのようなサービスが必要 なのかを明らかにして、市町村のそれを保障する事業計画をつくらせましょう。可能なところでは適切な自治体を選定し、共同組織などとともにみずから調査、 判定を行って要求を鮮明にしましょう。
 第2に、介護保険の一割定率負担によって、これまでほとんど負担のなかった人がいっきに3万円近い負担となることが予測されます。負担増は特別養護老人 ホームも同じです。利用料と保険料の減免制度を要求して運動しましょう。さもないと介護給付の大量辞退ということがおきかねません。
 第3に、ところによっては現在よりも給付水準の低下するところがあります。また、市町村独自で給付を付加する場合には、その財源としてその市町村のお年 寄りの保険料があがるというしくみにされています。一般財源を投入して(保険料の荷重な負担を生じさせずに)、介護給付の水準の引き上げを要求します。
 第4に、認定の問題を重視し、実態にあった公正で人権尊重の立場で行われるよう、認定審査会が情報公開など民主的なものになるように働きかけていくこと が重要です。これらの運動をすすめ、かつ、地域住民自身の力で人権尊重の介護を実現していくための組織を自治体ごとにつくり上げていくことが必要です。
 この運動をすすめながら、共同組織と地域の要求にもとづいて、介護を必要とするお年寄りの人権を守るためにも、民医連の老人施設、訪問看護ステーショ ン、在宅介護支援センターなどの整備をできるだけ急がねばなりません。また、地域での民主的な合意をふまえ、共同組織の協力を得てホーム・ヘルパーの養成 に努めて、ヘルパー派遣事業にも着手しましょう。
 厚生省はこれまで行われていた家事援助などの業務を保険適用外にし、「在宅介護の主役は民間」としており、営利企業の大量参入が必至です。民医連は訪問 看護ステーションの展開では大きな比重を占めていますが、ヘルパーの分野に手をつけなければ、看護の分野でも後退する危険があります。共同組織のボラン ティア活動や「良心的な事業」としてのこの分野にもとりくみ、介護保険の適用拡大をはかっていくことが必要です。また、ケアマネージャーの養成は緊急課題 です。介護の分野は、今後の民医連の長期的な経営の構造ともかかわって重視されねばなりません。
 これらを全体として福祉のまちづくりのチャンスとしてとらえ、住民自身による「高齢者が地域の中で生きていくネットワーク」づくりをすすめ、広範な人び ととともに建設的な提案を行って、自治体全体に実現していくとりくみをすすめましょう。全日本民医連としてこの分野の指導を強め、政策提言に努力します。
 高齢者大会、国際高齢者年(1999年)のとりくみを、諸団体と協力してすすめます。

7、診療所・外来の医療を前進させよう
 病院の外来と衛星診療所なども含めて、全体としての外来医療をとらえ、総合的に発展させていきます。時間外、救急の医療をひき続き重視します。外総診を 採用する施設が増えていますが、慢性疾患医療の到達点をふまえてひき続き患者の全身管理、合併症予防に力を注がねばなりません。定額制医療が拡大される状 況にあっても、よい医療のために最善の努力をつくすことこそが、患者の信頼を勝ち得て民医連医療を前進させる道です。「生活習慣病」などのさまざまなイデ オロギー攻撃を重視し、労働と生活の視点からのとりくみを強めます。
 全日本民医連として慢性疾患医療の交流、検討会をもつことにします。
 診療所の新設は医師体制の強化をはかりながら着実にすすめます。すべての県連に診療所委員会を置き、系統的にとりくむことが必要です。私たちは民医連の 医療と運動をすすめられる拠点として診療所をつくっていくのであり、この立場で常に論議し、あらゆる可能性を追求することが大切です。県連規模、必要な場 合はブロック規模で、診療所の交流、診療所問題のとりくみ方の検討を行って、診療所の医療活動をさらに発展させ、新設を促進します。

8、全県連に100の歯科施設をめざして
 100の歯科施設の達成まであと18です。空白克服の計画が数県連でもたれていますが、まったく検討されていないのが7県連あります。この間の画期的前 進を教訓に、すべての県連で歯科をつくる2つの意義(民医連の医療活動、とくに老人医療を総合的に前進させるうえで、また全国的な民医連歯科医療運動をす すめるうえで不可欠)を深め、積極的に歯科の建設を検討しましょう。
 この課題では、県連間の協力など、ブロック規模で開設を援助していきましょう。全日本民医連としては、「98年度版歯科開設の手引き」(仮称)をつくっています。すべての県連、ブロックで論議しましょう。
 歯科開設においては、歯科医師をはじめとするスタッフの確保養成と同時に、歯科をよく理解し、運動をすすめうる事務幹部の養成が重要です。
 こうした発展に見合って、総合的活動の指導をさらに強めながら、全日本民医連の歯科分野の組織的体制を、事務局体制の強化を含め発展的に検討していきます。

9、薬剤分野の活動―地域医療の変革に貢献する保険薬局に
 薬害問題をひき続き重視し、根絶のためにとりくみます。
 ひきつづき薬の制度改悪は、医療改悪の中でも重大な位置を占めます。薬剤師集団はこのたたかいの先頭に立ちましょう。
 民医連の薬剤師集団が一体となって民医連綱領を実現していく活動と、保険薬局が地域の薬局として開業医などとの連携を深め、地域医療の変革に貢献してい くとりくみとを、統一して推進することがもっとも重要です。病院内でも地域でも、民主的な集団医療のとりくみに積極的にかかわっていくことが大切です。
 保険薬局は今後も拡大の可能性をもっていますが、これまで民医連運動の視点が弱いまま経営対策として薬局をつくり、県連薬剤師集団の団結ができていない ところでは維持するのに困難を来しているところも出てきました。この教訓をふまえることが必要です。あらたな体制となることの多い薬局での民主的な管理運 営を重視する必要があります。共同組織とのかかわりを含め、民医連保険薬局の活動を創造し、職員の民医連職員としての成長を実現していくことが大切です。
 全日本民医連として、医師を含めたこの分野の指導体制を確立し、政策活動を強めます。副作用モニター、新薬モニターの活動をさらに発展させます。共同購入連絡会を重視します。

10、その他の分野の医療活動

〈被爆問題〉
 今日、全日本民医連の被爆者健診数は医活調査によれば全国で3万人にのぼります。この健診のデータを被爆者の後障害の疫学的な検証に耐えうるものとし、 21世紀につなげていくためには、全国で統一した健診結果の記載をすすめるシステムが必要です。今期は「民医連被爆者データベース」の検討を開始します。 被爆証言集の普及など、被爆の実相を伝えるとりくみを実現します。
 ひきつづきこの分野を担う多くの後継者養成にとりくむとともに、国際的な被爆問題に協力していきます。
 原発・核燃料サイクル基地の問題を重視し、エネルギー政策の見直しの運動や調査活動を、この問題にとりくむ広範な人びとと力をあわせてすすめます。

〈環境・公害問題〉
 環境・公害問題の多様化、広域化、深刻化の中で民医連が求められる役割にこたえていくためには、各県連にこの分野を担当する委員会の存在が不可欠です。 国民の関心が高く、さまざまな市民運動がある中で、共同組織のこの分野での活動家を増やし、市民運動との連携をつくっていくとともに、民医連の職員が専門 家としての役割を強化しましょう。
 ひきつづき大気汚染裁判の勝利のたたかいに役割を発揮するとともに、ダイオキシンや農薬、食品、地球温暖化問題などに学習・調査活動や自治体運動、住民 運動の一翼として活動しましょう。全国的に環境公害問題学習交流集会の開催を準備します。

〈精神医療〉
 精神医療のとりくみを強めます。精神障害者の地域での暮らしを支えるネットワークシステムの強化をはかります。子どもや思春期のメンタルヘルス、働き盛 り世代の精神疾患の問題や老人医療における精神疾患のとりくみについて、他科との連携による医療活動の強化をはかる必要があります。

〈母子保健・小児医療〉
 高齢化の反面として少子化がすすんでおり、女子保健の分野は重要です。出生数減少の中で、「共同の営み」・参加型のお産のとりくみやよりよい育児へのサ ポートシステムをつくり上げていくとりくみを重視し、一定数以上の分娩数の確保に努力します。子どもをとりまく環境が年々悪化している中で、民医連の小児 医療は、地域の中で積極的な役割をはたしていかねばなりません。発表される問題提起などによる検討が必要です。

〈学術活動〉
 毎年1回の研究会代表者会議、学術・研究セミナーをもつなど、学術活動をひきつづき重視し、とりくみをすすめます。
11、民医連の医療の新たな旗印=「医療宣言」を文字通り全職員の力でつくりあげよう
 「民医連の医療宣言」は、これからの私たちの活動の「主として医療面での新しい座標軸」となるものです。それは、情勢の発展と民医連運動の今日の到達点から必要とされた課題です。
 医療宣言づくり運動は、全日本民医連が宣言するだけでなく、すべての院所、施設が宣言していくとりくみです。全職員の思いを集め、共同組織の協力を得て宣言をつくりあげ、民医連運動への確信をあらためて心にきざみましょう。
 まず、97年9月の理事会で決定した「民医連の医療宣言と院所の宣言づくり運動のすすめ方」で提起した5項目の内容を、すべての県連・院所でとりくむことが必要です。
?民医連綱領の学習、とくにパンフの「民医連運動の到達点」の「医療活動について」の部分は読み、討議する。
?「私と民医連」などを語り合う企画をすすめる。
?県連・院所で、「懇談会」など対話のとりくみをすすめる。
?院所の医療活動を歴史的にまとめ、地域の中で院所のはたすべき役割を明らかにする。
?打って出る医療活動とたたかいの中で「地域を知り、くらしを知り、私たちへの要求を知る」とりくみをすすめる。
 こうしたとりくみを院所管理部が促進し、内容を集約し、県連に集中し、交流していくことが大切です。
 医療宣言づくりのとりくみは、職員だけの討議でつくっていくのではなく、共同組織はもちろん、広く開かれた議論の中でつくりあげていかねばなりません。必ずすべての県連で広く呼びかけて懇談会を開きましょう。
 このとりくみは、「民医連とは何か」を民主団体や労働組合に理解してもらう上でも大きな意義があります。地域での懇談会では、その院所がどんな役割をは たしていくのかということともに、必ずその地域の医療と福祉・まちづくりをどうするのかが話題にならざるを得ません。これを積極的にとらえて、開業医や保 健・福祉の関係者、共同組織、民主団体、労組などで自治体ごとの「まちづくり懇談会」などをつくり、共同の政策(地域の医療宣言、まちづくりの政策)に結 実させるように努力しましょう。
 一方、これとは別に、独自に私たちの院所・施設が地域の中でどんな役割をはたしていくのかを明らかにするのが院所の医療宣言です。
 いくつかの院所で「私の医療宣言」「職場の医療宣言」がはじまっています。さらに医療チームや委員会、県連レベルの職種部会でも、自分たちはどんな医療 をしていくのかを議論し、宣言しましょう。そして地域懇談会をすすめて院所・施設の宣言をまとめていきます。院所の宣言づくりの委員会などに、対応する共 同組織の代表に参加していただくことは歓迎すべきことです。
 全日本民医連は、こうした全国のとりくみを集約、促進、交流し、医療宣言委員会を中心に作業をすすめ、99年2月の評議員会で全日本民医連の宣言草案を 発表し、2000年の総会で決定することをめざします。院所レベルの宣言が全日本民医連の発表前に数多く生まれることが期待されます。
 こうした医療活動全体の推進の上で、県連医療活動委員会がまさにカナメの役割をはたさねばなりません。たとえば、県連規模で気になる患者訪問をすすめるなど医療活動面での統一的なとりくみを重視します。
(注13)非営利・協同 医療はすべての人に国の責任で保障されるべきもの、すなわち公共的なものであり、それゆえにこの分野をも営利市場とすることはな じみません。実際、アメリカの医療の現実をみれば「市場の失敗」は明らかです。また、今日の日本と世界の状況をみれば、市場原理や規制緩和だけでは、失業 そのほかの多くの悲惨をうみ、国民がしあわせになれないこともはっきりしてきました。一方、旧ソ連のように、非民主的な官僚統制でもうまくいきません (「国家の失敗」)。そこで経済民主主義の立場から、国家でも営利企業でもない、非営利・協同の経済組織が注目されるようになってきました。民医連も大き な枠組みとしてはこの「非営利・協同」の中に入ります。この点について、詳しくは「民医連医療」NO304の角瀬保雄教授の論文を参照して下さい。第3章 第2節でも強調していますが、医療営利化の攻撃にたいして、今日、非営利の原則を前面に打ち出すことは重要です。
(注14)民医連経営の優点 民間企業(私的企業)と比べて民医連経営の持ってる優位性をさします。第32回総会方針で、この方針にも述べられている4点にまとめました。

第2節 地域に「人権と非営利」をまざす共同の輪を―平和・人権・福祉の新たな日本を

1、医療抜本改革を阻止するためのたたかい
 いま、医療改悪の攻撃は、医療と介護の営利市場化―医療の公共性の否定―人権侵害と差別の制度化をめざしています。これに対置されるのは、社会保障とし ての医療、医療の公共性を守ること(「いつでも、どこでも、誰にでも、よい医療を」)であり、そうした医療を住民と医療機関の協力によって、地域に築いて いく運動です。すなわち、「人権と非営利」をめざす共同の輪を広げることです。
 また、国のレベルでは大企業本位の軍事大国路線に対置して、憲法にもとづく平和・人権・福祉の新しい国づくりの運動をすすめることです。私たちはこの立 場ですべての民主勢力、無党派、保守を含む要求を同じくするすべての人びとと手を結んでたたかいます。
 差別医療の制度化、薬の差額制度、定額制診療報酬、老人だけの保険制度、病院つぶしと医師減らしなどを内容とする「医療改悪法案」を、厚生省は97年の 通常国会に提出するとしています。この改悪は、医療連続改悪の中心環であり、社会保障全体改悪の当面の焦点です。97年のたたかいを上回る全国民的なたた かいで断固として阻止しましょう。
 同時に、このたたかいは負担増というだけでなく制度改悪を含むものであり、複雑ななかみがあります。マスコミでは医療改革必要論が流布されており、私た ちの対案が重要です。また、労組などへのこの問題での理解を広げる活動がとりわけ重視されねばなりません。
 それゆえ、まず第一に、これらの内容を明らかにしたパンフレット『いのちの平等を守れ』(タミさんパンフNO4)の徹底的な普及と、これを使った小集 会、懇談会を無数に開きましょう。職員3~4人で1回の小集会、全国で1万回懇談会を提起します。
 第2に、労組など他の団体に申し入れ、学習懇談会をもってもらうことを要請します。当然、民医連の側に講師団が必要です。
 第3に、地域の医師、医師会との懇談を追求します。それぞれの職種の職能団体に働きかけます。また、病院団体への働きかけを重視します。ビラをはじめ創意的な大量の宣伝を行います。
 署名目標は1000万とします。
 4月中旬に全民主勢力の結集する集会を開きます。
 こうしたたたかいの中で、文字通り全県に社保協をつくり、その体制を強め、院所のある地域はもちろん、ない所にも共同組織等の力に依拠して地域社保協をつくって、持続的にたたかう体制を築いていきます。
 全日本民医連の闘争体制を整え、とくに政策活動を強化します。政策活動に外部の研究者などの協力を得ることについて、研究所的なものも含めて検討していきます。

2、経済問題・年金・労働法制改悪反対のたたかい
 30兆円の公的資金投入に反対し、大幅・恒久的減税、消費税の廃止、軍事費と公共工事予算を減らし、社会保障の充実を求める、国民の立場からの景気対策 を要求するたたかいに積極的に参加します。年金問題・労働法制問題の学習を強め、労働組合とともにたたかいます。

3、自治体レベルのたたかい
 介護保険の具体化とかかわって、みずから自治体の状況を分析し、要求と政策を練り上げ、実現をはかるとりくみをすすめます。また、国保改悪にともなって 無保険者の問題が深刻になってきます。国保世帯の平均所得は230万8000円(95年調査)であり、所得なしが21・7%、200万円未満が圧倒的な比 重を占めます。減免制度の拡大など具体的な要求を突きつけ、未交付をやめさせ、医療を受ける権利を守りましょう。生活保護など既存の制度が、人権尊重の立 場でいかされるように、民生委員との懇談をもつなどとりくみます。
 医療宣言懇談会からまちづくり懇談会へ、地域社保協づくり、地域革新懇などの運動を合流させて自治体の民主化をめざす運動の母体をつくり、首長選挙の時期をにらんで系統的な活動をすすめましょう。
 民主的な地域医療づくりのうえで、保険医協会との運動面のみならず医療の面でも連携することも重視し、追求していきます。

4、安保新ガイドラインのたたかいと参議院選挙・総選挙
 日本に米軍がほとんど永遠に居座り続けることを許さないために、海上基地の建設を許さないたたかいをひきつづき強めます。
 安保新ガイドラインと有事立法の危険性を広く知らせ、米軍基地のない日本のためにたたかいます。憲法9条の世界の平和に貢献する積極的な意義をつかみ、 憲法改悪を許さないとりくみを重視します。原水禁大会など平和を守るとりくみをさらに強めます。
 参議院選挙・総選挙で職員の政治活動の自由を守って、要求にもとづいてたたかいます。

第3節 「科学とヒューマニズム、民主的医療人」―民医連運動の担い手としていかに成長するか

 民医連がめざし、実践している医療のあり方は特殊なものではなく、本来のあるべき医療のあり方です。いま の日本の現実の下でそれがゆがめられ、さまざまな障害にぶつかるから私たちは運動にとりくまざるを得ません。阪神大震災において、私たちは医療人の本来の 使命を保障し得る組織であることを示しました。
 民医連の人づくりの目標は、科学的なものの見方とヒューマニズムの感覚の生きている民主的医療人となることです。それは、民医連の規約にいう「民主的で 階級的」であることと内容として同じです。私たちは、医療においても社会についても科学的に問題をとらえられる、あたたかい心ある人間として、お互いに成 長し合いましょう。

1、医師の確保と養成
 第一章で述べたように、この間、医師の確保と養成にさまざまな努力が払われました。しかしなお、壁を打ち破って前進を開始したといえるところまではきて いません。この課題に成功するかどうかは、まさに民医連運動の未来があるかないかにかかわる課題です。
 これまでの延長線上のとりくみでは不十分です。確保と養成のとりくみを抜本的に強化すること、とりわけ養成のとりくみに全職種の力を集め、新しい段階を画するとりくみにしていかねばなりません。

〈医学対の活動〉
 90年代最高の波になろうとしている医学生運動への援助を、担当する医師の配置を含めて強めます。民医連そのものについて、より広範な学生に知らせることを追求します。
 これまでの教訓に学んで奨学生の成長に大きな力をそそぎます。この点では、医学対担当者の力量向上に努めるとともに、とくに院所医学対の役割が期待され ます。医学生の医師になろうと考えた初心が、地域と結びついて職員が民主的に協力してすすめる民医連の医療活動と共感することで、民医連の医師になる決意 を固めることになります。この志をはぐくんでいかねばなりません。
 1人ひとりの奨学生の状況が院所でつかまれ、医学生がみずからのフィールドとして院所のさまざまな活動、共同組織をはじめとする地域の活動に参加できる ようにし、奨学生が多くの医学生に働きかけられるようにとりくみを強めましょう。
 ブロック(地協)レベルの医学対活動をさらに強化し、県連相互に励まし合って医師受け入れ目標を追求します。

〈医師養成について〉
 まず、数年がかりの作業によってまとめられ、まもなく発表される「医師養成方針」を全県連理事会、法人・院所の指導部、医師集団、管理者集団でよく読 み、討議し、みずからの課題を明らかにすることが重要です。そして、医師がみずからどんな民医連医師になるのかを集団の議論の中でつかみとっていくことが 何よりも大切です。
 各県連で医師養成方針をつくり上げましょう。みずからがなろうと努めている医師像こそが、医学生に何を訴えていくのかの力であり、大学や他の医療機関も 研修に力を入れているとき、地域・患者・職員の中で医療変革の運動の主体的な担い手である民医連の医師になっていく方針を確立しましょう。
 このとりくみは「医療宣言づくり」と結びついたものにしていかねばなりません。それぞれの院所がどんな医療をすすめるのかを地域に明らかにする「宣言」をつくるうえで、医師集団は文字通り中心であらねばなりません。
 全国ではひきつづき医師研修のあり方などについて検討をすすめます。
 また、医師集団の機構(医師委員会、層別会議、各科のライン、医局会議など)についても検討し、政策化につとめます。医師集団の県連的形成と団結がもっ とも重視されねばなりません。民医連の医療と経営を守ることが最重要課題となっているとき、院長をはじめとする管理部医師の役割は重大です。
 全国的な医師の制度教育を具体化していきます。多くの県連で行われている医師団合宿、総会などの際の講演などを年一回の制度教育の角度から位置づけ直すことを検討しましょう。
 法人・院所管理部が医師労働の状況をよくつかみ、院所全体の力でささえ、受け入れと養成のとりくみに全力をあげねばなりません。

〈医療抜本改悪反対のたたかいなど〉
 医療抜本改悪反対のたたかいのうえで、それが本来の医療のあり方をどんなに破壊するものであるかを具体的に明らかにして、先頭に立って奮闘しましょう。 医学生運動と連携して保険医インターン反対のたたかいを大きく発展させましょう。保険医協会の活動を重視し、さまざまな地域医療のうえでの協力したとりく みをすすめましょう。

2、「全県連に」「100の歯科施設」にふさわしい歯科医師の確保と養成
 民医連歯科を飛躍的に発展させるには、弱点となっている歯科医師の後継者対策を成功させることが重要です。しかし、歯学生の中に自治会などの学生運動は なく、サークル運動もありません。その現実から出発して、思い切って多くの歯学生と接点を広げる歯学対運動をつくり上げることが重要です。
 全職員がかかわる運動として、夏期ゼミ・夏期研修をすべての院所・県連・ブロックで開催しましょう。そのとき、夏期ゼミを狭い歯学対運動ととらえず、? 後継者確保、?職員教育、?歯系学生に民医連運動を知らせる、の3つの観点からすすめることが大切です。  数年先には、全国レベルでのゼミ・歯学生集会を開催します。奨学生のつどいはひきつづき重視します。奨学生は早期に80名の達成をめざします。次代を担 う中堅歯科医師の全国的交流の場として、中堅歯科医師交流集会を開催します。

3、看護部門のさらなる発展をめざして
 県連の受け入れ目標を検討し、ひき続き受け入れのとりくみを強めます。不足している助産婦の確保を重視します。DANSの発展のうえに、看学生運動とのかかわりでどのような課題を設定していくか十分に検討します。
 97年カリキュラム改定をふまえ、また看護大学が増えていく状況をおさえて、新しく迎える看護職員にも民医連看護がより魅力的なものになるように、民医 連の看護論を築き上げ、民医連看護を世に問うとりくみをさらに重視していきます。この点は、看護の分野にもお金のあるなしでの差別が急速に広げられようと していることとのかかわりでも、非常に重要です。
 第4回看護活動研究交流集会は「激変する情勢の中で、いまあらためて問い直そう“国民の求める看護”を~看護から発信しよう『民医連の医療宣言』」をメ インテーマとして、1998年9月に青森で行います。看護管理者講座の成功のうえに、婦長・主任クラスが民医連看護の伝統を受け継ぎ、民医連運動の担い手 として看護婦を成長させていく力をつけていくことを重視し、そのための研修などについて検討していきます。
 老人・在宅の分野をひきつづき重視し、看護と介護の共同を強め、実践の中から明らかになる課題を運動に結びつけていきます。介護職員の力量の向上に努め ます。そのために介護職員の研修・交流などを積極的に検討していきます。民主的集団医療の中での役割を看護の面からも理論的に追求し、医師養成の課題に積 極的にかかわっていきます。
 「看護をよくする会」と連携し、看護制度問題のとりくみを強め、職能分野の活動を重視します。

4、技術部門
 この間の職種ごとのとりくみの前進をふまえて、国民・患者の人権侵害と地域医療の崩壊をまねく医療保障の解体・変質とのたたかいに、本腰を入れてとりく まなければなりません。地域で人権保障の共同のとりくみをすすめ、日常の医療活動で共同の営みの医療を民主的集団医療ですすめる、この視点から各職能の役 割を明らかにして活動しましょう。
 また、それぞれの職能分野の活動を重視し、民医連の技術部門各職種が全国的にまとまって政策的に指導的な役割がはたせるように、全日本民医連の体制の面からも検討します。また、ブロック(地協)レベルでの交流を重視します。

〈薬剤師〉
 薬をめぐる情勢が急激に変化する中で、地域の薬剤師に変化があらわれています。職能分野での活動と地域的な連携が重要です。先に述べた諸課題にとりくみながら、後継者対策(受け入れと育成)を重視しなければなりません。

〈放射線〉
 97年4月現在、全日本民医連の放射線技師数は933名で、この2年間に160名の技師を確保しました。奨学生は48名を超え、退職問題も一定改善して きました。今後、各県連部会をいっそう強化し、「民医連とは何かをつかみ、民医連運動を主体的に担う技師集団」づくりに本格的にとりくむことが重要です。 日常医療や地域で人権を守り抜くためにどうすべきか、を活動の中心に据えてとりくみましょう。同時に医療抜本改悪に反対する職能の戦線を拡大するために奮 闘しましょう。

〈検査〉
 臨床検査はひきつづき診療報酬点数の引き下げ、マルメ強化、定額制の促進などきびしい状況におかれています。さらに今後医療費抑制政策が強められること は明らかであり、検査部門での対応はいっそうきびしくなることが予想されます。社会保障を守るたたかいと結びながら、患者の権利を守り、経営を守る立場か らどう検査活動を展開するか、将来展望との関係を明らかにしながら討議を重ねることが重要です。その意味からも、97年10月に開催した「拡大県連代表者 会議」で提起した「臨床検査技師政策(案)」の県連部会での討議をすすめましょう。

〈リハビリ部門〉
 この間、老人デイケアや訪問リハビリ、脳卒中のリハビリのとりくみが全国的に大きく広がる中で、専門家集団としてのPT、OTなどリハビリ技術者の役割 はますます大きくなっていますが、とりくみの拡大に比して技術者の確保は十分ではありません。各県連・法人での計画的な確保と養成の計画が不可欠です。全 国の世話人会は実態を把握するとともに課題を整理し、提起します。

〈栄養部門〉
 ひきつづき入院給食の自己負担を自治体に助成させる運動を、ねばり強くとりくみましょう。同時に、老人施設や在宅など老人福祉分野の拡大にともなう地域 要求にこたえ、「食」という基本的人権を保障するみずからのとりくみと、自治体など公的責任を求める運動を結合して、大いに活動分野を拡大していくことが 求められます。また「食」の安全性を求める広範な運動や日本の食糧を守る運動などに、専門家として社会的役割を発揮してとりくみましょう。

〈MSW〉
 増大する国保の無保険者、介護保険の上に老人だけの保険制度による無保険者、生保対象者の激増など老人をはじめ国民の医療・福祉、生活全般の危機が進行 します。こうした中で、民医連MSWが「国民の人権を守る」専門職としてはたす役割はますます大きくなります。とりわけ介護保険制度成立にともなって、そ の内容を改善させる自治体や国への運動に役割を発揮するとともに、ケアマネージャーの資格取得に努め、日常の相談活動から患者の人権を守ってたたかいぬく ことが求められます。資格制度問題についてはひきつづき職能団体とともに検討を深めます。

〈鍼灸・マッサージ〉
 国民要求にもとづく民医連の総合的医療活動に位置づけて活動します。また保険適用の拡大と診療報酬の改善を求める運動に積極的にとりくみます。

〈歯科衛生士・技工士〉
 歯科分野の全国的な指導体制の強化と関連して、世話人会の体制と活動を検討し、とりくみを強めます。

〈保育〉
 エンゼルプランの進行状況などを見きわめながら、発展方向についての政策的検討を深め、活動を前進させます。

〈その他〉
 臨床工学技士が増え、県連の部会もうまれており、全国的なとりくみについて検討します。その他の新しい職種についても、その発展の段階に応じて検討してきます。

5、事務職員
 すべての県連に事務委員会を確立し、事務政策をつくり、研修要綱・養成計画をつくります。年1回の制度教育を実施します。研修要綱・養成計画の内容につ いては、看護部門の教育システム(ローテーション、その他)に学び、しっかり制度化(形をつくる)することが重要です。
 民医連の事務職員の場合、単に担当する業務に精通している(これは当然にクリアすべきことです)というだけでは、民医連の事務にたいする、あるいは他の 職種からの期待に十分こたえることはできません。また、民医連の中でのみずからの生きがいを見出すこともむずかしくなりがちです。共同組織の活動、社保の とりくみ、民主的集団医療の事務局などに積極的にかかわる総合力のある事務を目標に、職場長を中心とする職場教育をすすめ、管理部がこれを促進し、個々の 職員の成長の状況が系統的につかまれるようにしていかねばなりません。また、事務職員がみずから集団化(学習サークルなど)していくことが大切です。

6、教育活動
 まず県連教育要綱を、文字通り全県連でつくり上げねばなりません。そして、県連・法人の教育委員会の構成を、各職種の教育活動の内容がつかめ、問題提起 ができ、管理のラインからの職場教育の情報が入り、教育のこれらの分野について政策的なスタッフ機能がはたせるような強力なものにしていくことが必要で す。
 県連の教育委員会が制度教育の実施に追われ、政策的な検討ができにくい状態を改善していくために、今後は県連教育委員会がみずから実施するのは新入職員 教育と職責者、管理者教育ぐらいにして、その他の制度教育や年1回の全職員の制度教育はできるだけ各職種ごとの委員会や部で実施していき、教育委員会はそ の内容の相談にあずかり、報告を受けるという方向を追求していきます。職員数が少ない職種についてはブロック(地協)レベルで実施することも検討します。
 職場教育の経験の普及につとめ、職場長を中心に志気の高い職場づくりと民医連運動の活動家づくりを促進します。
 第27回(山形)と28回ジャンボリーについての県連の援助を強め、班長・助言者の役割を重視して成功させます。
 医療宣言のとりくみを職場教育の視点からとらえ、教育委員会が促進するうえで積極的な役割をはたさねばなりません。
 33期教育月間は、総会前の議案討議を全職員ですすめることを前提とし、たたかいとの結びつけを重視して4~5月とします。

第4節 共同組織の総合的発展を

 医療改悪反対のたたかいをすすめ、地域に「人権と非営利」をめざす共同の輪を広げていくこれからの運動の うえで、民医連運動の不可欠の構成要素である医療住民運動組織、すなわち共同組織にたいする私たちの期待はこの上ないものです。共同組織が民医連以外の医 療機関にも働きかけ、自治体と交渉するなど民主的な地域医療づくり、まちづくりのうえでまさに主役として立ちあらわれてほしいのです。私たちはそのため に、共同組織の拡大と質的強化に全面的に全職員でとりくみます。友の会型組織の地域健康友の会への発展など、「共同組織についての民医連の方針の発展とこ れからの課題」で打ち出した方針の具体化が必要です。
 以下、5つの課題に沿って当面の重点的な課題を提起します。
(1)共同の営みの医療を築くという課題のうえでは、まず院所の医療宣言に共同組織の声を反映させねばなりません。また、新しい水準のボランティア活動 (地域の中のもっとも困っている人びとに目を向け、その問題の解決にあたる。介護などの分野での民医連の事業的なとりくみをもささえるなど)をすすめま す。院所利用委員会を活発にし、院所利用を拡大していく、自治体健診の活用も含めた生涯健康管理に向けたとりくみをすすめるなどが重要です。医療と社保の 両方の課題にかかわりますが、地域に「くらしと医療の相談員」の網の目をつくっていくこと、そのために保健大学や社保学校を大いに開いていくことをもっと も重視しなければなりません。
(2)経営面では資金協力を強める、民医連の方針などに照らして院所の実践がふさわしいものになっているか点検し、改善に協力していただく、そのための共同組織の指導部の力量向上に民医連として努力するなどが重要です。
(3)みずからの要求として共同組織が医療抜本改悪反対のたたかいをすすめることが、もっともだいじです。「班に1人の社保活動家」の課題をひきつづき追 求していきます。県および地域社保協や「まちづくり懇談会」に共同組織が加わり、持続的な運動のうえで中心的な役割をはたすことが期待されます。とくに介 護保険と国民健康保険にかかわる要求の運動を重視します。また、民生委員や老人クラブなどに影響を広げることが期待されます。
(4)院所の医学生委員会と協力して、学生が地域の中で変わっていくように、後継者の確保と養成のとりくみに積極的にかかわっていただくことが大切です。
(5)組織の拡大・強化のとりくみでは、とくに大規模病院で友の会型の組織であるところでの拡大が、相対的にみて遅れています。職場選出の友の会委員会を 通じて、身近に共同組織が感じられるようにするなど、すでに出されている方針を具体化し、患者数などにふさわしい組織をつくり上げましょう。また、先進的 経験に学んで地域名の友の会に次第に発展させ、名実ともに自立的な医療住民運動にしていきましょう。
 雑誌「いつでも元気MIN―IREN」はつぎの長期目標を10万部とします。いつまで、どんなテンポで拡大していくのかについては共同組織活動交流連絡 会と相談して決めます。共同組織の全国的な経験・情報の交流を強めていきます。

第5節 民医連運動の団結を新たな水準に

 いま、全日本民医連と院所―現場の距離を近づけること、すなわち一般的な方針だけでなく、法人・院所のさ まざまな問題について全日本民医連が県連を通じて機敏に具体的な指導・援助を行えるようになることが必要です。また、この間の九州・沖縄連絡会議、近畿ブ ロック、関東・甲信越ブロックなどの経験から、ブロックレベルの活動が具体的な問題を解決していくうえで有効であることが明らかになってきました。
 以上のことから、今総会で規約を改正し、理事会の執行機能の具体的実践の場として「地方協議会」(従来のブロック―略称地協)を設置し、そこでこの方針 に述べられた諸課題を推進することとします。地協の運営は別に規則を定めます。地協の運営上の責任は、理事会(日常的には地協担当理事会議―月1回相当の 時間をとって会議を開いて、各県連・法人・院所の状況をつかみ、検討する)にあります。
 現在の全日本民医連の部・委員会制は、80年代はじめにつくられました。その後、民医連運動の発展にともなって、理事を増やして対応してきました。しか し、それも今日の分野の拡大に対応しきれず、理事の任務過重が問題になっています。そこで、従来の部を中心にした制度から、委員会を中心とした制度に再び 切り換えます。これには、全国的な幹部養成の意味もあります。
 理事会の協議事項をしぼり、重要課題を深く論議するようにします。そのために、四役会議の指導性を高めるとともに、常駐理事会議の役割を向上させ、四役会議と理事会の準備を十分に行えるようにします。
 県連の力量を向上させ、経営問題をはじめ民医連運動のすべての分野で力強い指導性を発揮できるようにすることが急務です。全日本民医連として、県連のあ り方についてさらに深めて方針化することを今期の課題とします。県連事務局員研修交流会を開きます。直接加盟院所である宇都宮協立診療所は、栃木県連の結 成を展望して、東京民医連に加盟して活動をすすめることとします。
 福岡・健和会の民医連的再建のとりくみをひきつづき支援します。山梨勤医協の長期計画の実践について系統的に報告を受け、必要な援助を行います。
 情勢に機敏に対応した機関紙誌の活動をすすめます。「民医連新聞」への通信活動をさらに強めます。「民医連医療」と「民医連資料」の普及をすすめ、内容 をさらに充実させます。「民医連資料」は98年3月号で300号になります。総索引集を発行します。「いつでも元気」を全職員に普及します。
 民医連共済年金は安定した財政基盤の確立に向けて、終身年金の有期化をはじめとした抜本的な改定作業をすすめています。改定案は現在支部討議に付され、 また現在支給しているすべての年金受給権者にたいする説明会を開き、意見を求めるなどしています。年金改定に