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ニュース・プレスリリース

第38期第1回評議員会決定

2008年8月23~24日
全日本民医連第38期第1回評議員会

I章 第38回総会以後の情勢と民医連の運動

 第三八回総会から四カ月半が経過しました。「激動」の期間でした。六月七日には全日本民医連創立五五年を迎えました。
 この数カ月ほど、政治が日常の暮らしに直結すること、団結してたたかえば「政治を変えることができる」ことを実感できた時期はありません。
 後期高齢者医療制度実施や原油をはじめ異常な物価高騰、過酷な日雇い派遣労働の実態、環境破壊、食料自給率の低下、食の安全など、あらゆる分野で矛盾が 噴出し「怒り」が渦巻いています。全国の漁民が抗議のために一斉休漁(二〇万艘(そう))したのは史上初めてのことで、多くの国民が立ち上がっています。
 一九八〇年代に始まり、小泉政権からいっそう加速した「構造改革」政治の破綻を示すものです。一〇年連続で自殺者が三万人を超えました。理由は健康問 題、経済苦が七割を超え、全体の三分の一が高齢者です。一〇年の合計で三二万人を超える自殺者は、新宿区の人口に匹敵するもので極めて異常です。「自己責 任」や「家族責任」のみを求める社会、お年寄りや若者を大切にしない社会に未来はありません。
 こうした時「まっすぐな人権意識」を貫いている民医連へ、運動面でも、患者・利用者の権利を守る上でも、期待と注目が集まっています。目の前の患者さんや利用者さんに寄り添い、医療・介護に全力を尽くしましょう。
 全日本民医連の「再生プラン案」を広げ、毎年二二〇〇億円の社会保障費削減方針を撤回させ、「医療費・介護費増=消費税増税」論を打ち破り、民意が反映される「新しい日本社会」をつくりだしましょう。
 一方、今期に入り、中小病院や地域の医療機関つぶしをねらった診療報酬引き下げによって、経営が急速に悪化しています。幹部が先頭に立ち、たたかいを強 め、経営をめぐる事態を共有し、しっかりと意思統一し、民医連の事業所を守っていきましょう。

1節 切り開いてきた情勢の到達点に確信をもとう

1. 政府を大いに追いつめた後期高齢者医療制度中止・撤廃のたたかい

 後期高齢者医療制度撤廃を求める運動は大きく燃え上がり、参議院で野党が共同提案した廃止法案が可決されました。団結してたたかった結果です。民医連のたたかいにマスコミが注目し、全日本民医連事務局や各県連、事業所、共同組織に連日、取材が殺到しました。
 この国民的怒りで、衆議院山口二区補欠選挙では与党候補が大敗。沖縄県議選では野党候補が大勝し、一六年ぶりに与野党数が逆転、辺野古基地建設反対、後期高齢者医療制度廃止を求める意見書・決議が採択されました。
 民医連は、中央社保協や医療団体連絡会に結集し、全国各地で運動の先頭に立って奮闘しました。政府が国民の批判をかわすために急きょ実施した調査で、 「七割の後期高齢者の保険料が国保より下がる」と発表後、全日本民医連は六〇〇〇人を超える実態調査の結果を発表し、マスコミが大きく報道しました。内容 は「上がった」が四割を超え、「下がった」はわずか六・六%にすぎませんでした。政府は「下がる」とした根拠を失い、参議院での廃止法案可決に大きな役割 を果たしました。年金者組合、共同組織の仲間たちを中心に、全国各地で年金天引きに対する集団不服申請運動を起こしました。その数は三〇〇〇人を超えてい ます。
 しかし、廃止法案を提案した野党のうち日本共産党をのぞく政党が、衆議院で審議をすすめず、臨時国会にその成否が持ち越されました。高齢者や六五歳以上 の障害者の生活に直結する切実な問題を「政争の具」とする手法は、国民の願いに応えるものではなく、厳しく批判されなければなりません。
 一〇月からは、後期高齢者特定入院基本料(一部例外を除き入院九一日目から一般病棟でも九二八点となり、ほとんどが包括される)や回復期リハ病棟での成 果主義報酬の導入(在宅復帰率が六割以上でないと減算、「治ったら」点数がつくなど)、障害者病棟や特殊疾患病棟の制限(脳卒中後遺症、認知症は対象外な ど)で、受け皿もない中で高齢者の追い出し制度が始まろうとしています。こうしたことは、ほとんどの国民、高齢者に知らされていません。年齢で医療に差別 を持ち込み、医療内容に大幅な制限を加えるこのような制度は、あきらかに憲法違反であり、将来にわたり禍根を残す大問題です。その施行は「行政による大量 殺人」を生む行為といっても過言ではなく、絶対に止めさせなければなりません。
 また、〇六年医療改悪の一環として、三六〇〇万人が加入する政府管掌健康保険が解体され、社会保険庁から公法人である全国健康保険協会に移管されようと しています。全国一律の保険料を都道府県ごとに変え、保険料に地域格差を導入し、引き上げをねらうものです。問題点を知らせ保険料を引き上げさせない、制 度を改悪させない運動が必要です。
 国は、一部マスコミ、ジャーナリストなどを利用して後期高齢者医療制度の必要性を説き、部分的な修正と消費税増税のキャンペーンをはり、国民の怒りを抑 えこもうとしています。例えば厚生労働省は、各広域連合に対し、後期高齢者の財源として、国と現役世代から「九割も仕送りしている〝優しい〟制度」と説明 するよう指示するなど、まったく反省していません。
 全日本民医連は、廃案に追い込むまで全力で奮闘します。

2. 私たちの運動がついに医師養成数削減「閣議決定」の見直しを表明させた

 絶対的医師不足の解消を求めて、医療界のオピニオンリーダーとともにすすめた医師増やせの運動 は、各地協や県レベルで医師会はじめ多くの医療機関、医学生との共同に発展しています。医療供給体制の崩壊現象とあいまって、「絶対的医師不足」は世論と なり、国は八二年、九七年の二度にわたる医学部定員削減の閣議決定を改め、増員を行うと表明しました。運動の成果です。予算措置を含め確実に実現させなけ ればなりません。
 中堅勤務医を中心に、日本の医療制度の改善や医師の勤務条件の改善などを求め、「全国医師連盟」が発足するなど新しい動きも生まれています。
 全日本民医連は本田宏・済生会栗橋病院副院長や、邉見(へんみ)公雄・全国自治体病院協議会会長、夏川周介・佐久総合病院長、近藤克則・日本福祉大学教 授、宇敷(うしき)萌・全日本医学生自治会連合委員長の五氏が呼びかけた「加速せよ医師増員、止めよう医療崩壊」署名に全面的に賛同し、医師・医学生の過 半数目標達成にむけ全力を尽くします。
 同時に、現実に公的病院などの医師が大量退職し、医療が崩壊の危機に瀕している地域が広がっています。「一〇年後まで待てない。いま起きている問題をど う解決するのか」という声があふれています。民医連小児科医師集団は学会の場やマスコミに積極的に投書するなどし、安易な集約化に反対する態度を表明し奮 闘しています。「地域医療を守れ」「自治体病院を守れ」という住民運動も起こっています。具体的な医療連携や地域上げての医師確保対策、救急医療体制の確 保にむけて、各医療機関がこれまで以上に連携や協力をすすめることが重要です。こうした運動に民医連も積極的にかかわり、提言を行っていきます。国と自治 体に対し、実情をつかみ財政的支援を含め具体的な対策を求めます。自治労連、医労連との共同を強めます。
 一方、臨床研修指定病院の取り消しや定員削減、僻地(へきち)勤務義務化、臨床研修定員に大学特別枠を設けるなどの動きも強まっています。また、医師不 足を理由に看護師や薬剤師などに、業務拡大で医師の肩代わりをさせようとする動きも見られます。大都市も地方も医師不足であり、絶対的な医師不足を放置し た小手先の対策では、医療崩壊を食い止めることはできません。
 全日本民医連として、研修条件の拡充、医師が働き続けられる条件の確保などを求め、厚労省交渉をすすめます。

3. 医療関連死を取り扱う第三者機関設置の動きと全日本民医連の見解

 全日本民医連は、第三五期より、三度にわたり公正・中立な第三者機関設置の要望を掲げ、医療関 係者、被害者・遺族、各党議員などとの懇談や厚労省交渉を行ってきました。運動の広がりを反映し厚労省は医療関連死を調査する「医療安全調査委員会(仮 称)設置法案(大綱案)」を出しました。民医連が主張してきた内容も反映されています。しかし「大綱案」では、医療安全調査委員会(仮称)による警察への 通知のあり方に問題があること、制度をささえる予算や人的体制が明確でないなど、課題も少なくありません。さらに被害者救済制度創設なども今後の検討課題 です。全日本民医連は、国民と医療関係者との対話、国会の中での積極的な議論を通じて、医療事故の再発防止、被害者救済制度につながるよりよい制度が実現 するよう奮闘するものです。
 同時に民医連内では、警鐘的事例を現場に生かす活動や事故発生時における危機管理のあり方などで前進を見ているものの、事業所間で対応に格差があるのも 事実です。全国の経験や教訓をしっかりと受け止め、全事業所で前進させましょう。

4. 民医連「医療・介護再生プラン案」を広げる活動

 民医連の「医療・介護再生プラン案」を全国会議員、全国のすべての病院に送付し対話を始めまし た。七月一九日には東京で「再生をめざすシンポジウム」を開催し、多くの参加を得て成功させました。税金の集め方・使い方を憲法理念にそって転換すること で新しい日本社会がつくれるとする全日本民医連の「再生プラン案」には、各界から大きな賛同が寄せられています。
 この七月、「毎日」「共同通信」はあい次いで、「社会保障の財源確保のために消費税引き上げの賛否」を問う世論調査を行いましたが、いずれも「反対」が 六割を超え、「賛成」は三割にすぎませんでした。「社会保障の財源にする」は、この間の経過から消費税増税の口実にすぎないことを、国民は見抜いていま す。
 正面からあるべき医療・介護の姿と財源論を提起した、全日本民医連の「医療・介護再生プラン案」を総選挙の大きな争点として打ち出し、運動を起こしましょう。
 この間、日本療養病床協会、日本看護協会などと率直な意見交換を行いました。また鈴木篤会長と茨城県医師会長の対談や、品川正治・経済同友会終身幹事 (全国革新懇代表世話人)との対談(東京大学にて)が注目を集めました。
 歯科再生プラン案もまとまり、運動を起こしていきます。

5. 介護ウエーブを大きなうねりにし、国の政策を変えさせよう

 介護ウエーブが始まりました。介護ウエーブの提起は積極的に歓迎され、民医連外の事業所も巻き込んだ集会が東京、神奈川、北海道、九州沖縄地協などで開催され、成功しています。署名は急テンポで広がっています。
 介護保険制度の発足以来、二度の介護報酬引き下げと軽度者への利用制限・打ち切りによって、事業所の閉鎖や経営危機があい次いでおり、原油高騰などの影響も受けて深刻な事態になっています。
 また介護職は、官によってつくり出されたワーキングプアにならざるを得ない過酷な労働環境と低所得を余儀なくされ、離職率は二〇%を超えています。人材 確保が困難です。利用者にとっても保険料・利用料負担が重くのしかかり、利用抑制が広がっています。介護福祉士の養成施設への入学者数も激減しています。 同居家族がいる場合の生活援助の打ち切りなど「介護の社会化」とはほど遠い状況が広がっています。
 インドネシアなどからの介護士の導入は、根本的な問題解決になりません。介護報酬の引き上げによって、過酷な介護現場の矛盾を打開することが何よりも優 先されるべきです。医療や介護に働く人を増やし、安定して生活することができれば、北欧の例に見るまでもなく経済成長率も高くなります。道路や港などをつ くるより、はるかに大きな経済効果があることが確認されています。
 厚生労働省は「介護労働者の確保・定着に関する研究会」中間報告案をまとめましたが、来年度、介護報酬の大幅な引き上げ、介護保険制度の拡充を必ず実現させることが重要です。
 多くの自治体(保険者)が介護保険財政収支で多額の「余剰」を出していることが報告されており、保険料引き下げ、独自施策などを求める自治体に向けた運 動が必要です。国はさらなる負担増と給付抑制の方向を画策しています。
 民医連の事業所と職員の主体的な運動への参加と、共同組織や利用者家族、他事業所との共同をいっそう強めましょう。

6.原爆症認定集団訴訟の判決は「国の責任を断罪」。早期完全救済を求める活動、公害・環境問題など

 総会以後、仙台、大阪高裁が原爆症認定訴訟で国の控訴を退け、長崎地裁、大阪地裁(近畿第二次 訴訟)でも原告団が勝訴しました。これで一〇たび、国の認定基準が否定され、四月から始まった「新しい審査の方針」も「極めて不十分」と断定されました。 被爆者の当時の被災状況やその後の病歴などを総合的に判断すべきとしたもので、民医連医師団意見書を反映した判決内容となっています。しかし、長崎判決に 対し、国は不当にも控訴しました。全日本民医連はただちに、新認定制度の見直しと被爆者全員救済を求めました。
 水俣病では、熊本、新潟の現地で認定を求める新たな申請運動と水俣病関西訴訟も起こされ、被害者完全救済を求める運動が大詰めに入っています。
 全国一万人規模のアスベスト被害掘り起こしのためのCTなどの再読影運動と、国家賠償責任を問う裁判が始まりました。これらの運動を強めましょう。また 「生活と労働」の視点で、病歴の取り方など日常診療を見直し、強めるきっかけにしましょう。
 東京都では、先に和解した東京大気汚染裁判を受けて、八月から都内在住の気管支喘息患者の医療費が免除されます。申請活動を強め、被害者の救済活動を強めなければなりません。
 中国東北部で旧日本軍が遺棄した毒ガス弾による被害者の健康診断も現地で実施しました。

7.公害・環境問題への挑戦

 佐賀地裁は先ごろ、無駄な公共投資、環境破壊の象徴的存在でもあった諫早(いさはや)湾の水門を開くよう命じました。これまでの大型公共投資に対する司法判断であり、粘り強い住民運動の貴重な成果です。しかし、国・農水省は控訴しました。引き続き支援を強めましょう。
 七月、地球温暖化や食料危機、投機による原油高騰問題を重要なテーマに洞爺湖サミットが行われましたが、何ら解決の方向を打ち出せませんでした。環境問 題はまったなしの問題であり、多くの科学者が主張するように、政治の責任で二〇二〇年までに温室ガスを一九九〇年比で三〇%削減させねばなりません。とく に排出量の大半を占める大企業の責任ある行動を求めるとともに、民医連の事業所としてできる具体的な行動が必要です。経験を積み上げ、学びあいましょう。

8.人権に寄り添う民医連の医療活動にマスコミが注目、無料低額診療事業への挑戦

 六月二九日、日本テレビ系列で、石川民医連・城北病院のいのちに寄り添う医療実践「下町人情病 院物語~笑って死ねる病院」が全国放映されました。民医連事業所の成り立ち、共同組織との共同、医療実践が端的に描き出された内容で、評判を呼んでいま す。運動面だけでなく、いのちに寄り添う民医連の医療活動そのものに注目が集まる時代です。
 総会で提起した第二種社会福祉事業にもとづく「無料低額診療制度」に挑戦した、北海道勤医協や山形・健友会の届出が行政に受理されました。
 また、年間六〇〇億円を超える窓口未収金に頭を抱える厚労省は、「医療機関の未収金問題に関する検討会報告書案(二〇〇八・六・二五)」の中で、その対 策として、国保減免制度の拡大や無料低額診療制度の活用などに言及を始めています。国と自治体にむけ国保減免制度の創設(〇六年で制度があるのは一八一八 自治体中一〇〇三)や低所得者を救済するための制度拡充を求める運動や無料低額診療に挑戦し、受療権を守る活動をいっそう強めましょう。

9.平和・9条を守る運動の高揚、労働行政の変化 

 「違法」な日雇い派遣を行っていたキヤノンやトヨタなどが日雇い派遣をやめ、QCサークル活動 を残業として認める、などの状況に追い込まれています。さらにマクドナルドなど「名ばかり店長」への残業支払い命令が出され、違法派遣をくり返してきた グッドウィルが廃業に追い込まれました。
 日本の雇用を劇的に変化させ、働いていても生活保護基準に満たない大量のワーキングプアを生み出した非正規雇用労働者の解消にむけて、労働者派遣法の見 直しの動きが起きています。いま、若者を中心に戦前の非人間的な労働を著した作家・小林多喜二の『蟹工船』が大ブームです。これは「今の自分たちの姿であ り、日本社会そのもの」と直感させる内容だからです。
 名古屋高裁は、自衛隊のイラク派兵は憲法違反との画期的な判決を出しました。「ジュゴンがすむ辺野古の海への基地建設はアメリカ国内の環境保護条例に違 反する」というサンフランシスコ連邦地裁判決も出されました。七〇〇〇をはるかに超える九条の会の草の根の活動や革新懇の活動、五月に行われた「九条世界 会議」の大成功などを受け、改憲をむき出しにした読売新聞の世論調査ですら改憲反対派が多数を占め、「九条はいっさい変えるべきでない」との声が六〇%を 超え「変えるべき」の倍になりました。憲法を守る運動が確実に広がっており、吉永小百合氏、張本勲氏、日野原重明氏など各界の著名人があい次いで平和を守 る運動に賛同しています。
 航空自衛隊のイラクからの即時撤兵を求めます。沖縄、岩国、横須賀、座間などの米軍再編強化に反対します。原水禁世界大会の成功のために奮闘します。
 ベネズエラで開かれた世界平和大会に代表を派遣しました。

2節 日米支配層がすすめる国づくりの姿と民医連経営をめぐる情勢の特徴

1.危険な支配層の動き

 先ごろ福田内閣が決定した「二〇〇八骨太方針」では、軍事戦略をとり続けるアメリカへの加担と社会保障費のさらなる削減がもり込まれました。自衛隊の海外派兵恒久法の制定もねらっています。政界再編の動きも水面下で引き続きあり、軽視できません。
 生活保護老齢加算廃止の撤廃を求める生存権裁判で、東京地裁は加算の廃止は憲法二五条の最低限度の生活に抵触しない、という反動的判決を出しました。民 医連のソーシャルワーカーが行った老齢加算廃止による影響調査や実態を広く知らせ、現実をみようとしない国や司法の反動性をうち破っていかなければなりま せん。

2.自民党議員による国会での民医連攻撃とその反撃

 民医連の事業所を攻撃する発言を自民党議員が参議院総務委員会で行いました。医療危機について 問題提起したテレビ番組、NHKスペシャル「セーフティネット・クライシス~社会保障が危ない~」(五月一一日放送)に登場した二つの病院が民医連だった ことから、「政治的中立性を損なう」というものでした。医療の現場に何が起きているかを知らせようとする番組に、積極的に協力した民医連の医療機関への攻 撃です。あまりにも医療現場で起きていることに無知なことを露呈したばかりか、参議院の委員会は、その発言こそ政治介入であるとの判断を全会派一致で確認 しました。この攻撃について、東京大学現職教授は「かくいう自民党議員は、民医連が阪神淡路大震災の時、どの医療機関よりも早く、また最大の医療支援を行 い、当時の厚生大臣が国会で謝意を表明した事実を知っているのか」と批判しました。全日本民医連と当該法人、病院、議員の選出県連は共同組織とともに議員 への抗議行動、制作者への激励を機敏に行いました。

3.国と神戸市、日米財界がすすめる「スーパー医療特区」などの危険なねらい

 国は「〇八骨太方針」で、先端医療開発特区(「スーパー医療特区」)の創設を明記しました。す でに神戸市は、国や財界と協議し、神戸市立中央病院の移転構想と絡めて、混合診療のいっそうの拡大、企業の自由な参入、さらには生命科学への貢献という名 のもとに先端的臨床治験(人体実験場化)をもくろんでいます。
 同意の年齢制限の引き下げや、本人の同意なしでも移植を可能とする「脳死」臓器移植法の改定の動きが出ています。次期国会にも提出される可能性があり、全日本民医連として問題点を指摘し、見解を準備します。
 また二〇〇二年以来、全国各地で開かれている「人体の不思議展」は、内容をいっそうエスカレートさせるとともに、だれの死体を、だれの承認を得て展示し ているのかを明らかにしていません。また「人体」の展示を営利化の道具としているなど、医療倫理上重大な問題を含んでおり、青森、岩手、愛媛などの県連が 会長名で開催中止を求める声明を出しました。これまで協賛してきた日本医師会や日本看護協会など、いくつかの団体が協賛を中止しています。しかし各地の展 示会は、多くの人が見学しています。全日本民医連は問題点を指摘し、開催中止を求める見解を表明しました。
 後期高齢者医療制度における終末期相談料など人間の尊厳を軽視、人権侵害がさまざまな場面で出ています。
 人間の尊厳を守る立場から、倫理上の重大な問題を含むこれらの問題に正面から向き合い、これらの問題点を医療界やマスコミ、国民に知らせ、運動を広げます。また、民医連内での医療倫理課題の向上をめざします。

4.医療制度改悪・08診療報酬改定の影響と民医連経営をめぐる状況の急速な悪化

 二〇〇七年度、民医連経営は全体として改善し、集約法人合計では経常利益で一・三九五倍伸ばす(プラス三九・一五億円↓五四億円)など奮闘しました。しかし外来患者減少には歯止めがかかっていません(件数で前年比九六・三%、のべ患者数で九四・三%)。
 また四月以降、診療報酬引き下げや医療制度改悪のもとで急速に経営が厳しくなっています。
 〇八年度診療報酬は、中小病院や診療所にとって、実質的に大幅な引き下げとなりました。入院時医学管理加算では、算定用件に混合診療である「選定療養」 を組み入れるなど、診療報酬制度を大きく変質させ、第一線で救急医療を担う地域のほとんどの病院で算定ができなくなりました。救急医療をはじめ、地域医療 のいっそうの困難を招くものとなっています。
 また、多くの医療機関がいわゆる「五分間ルール」によって、外来管理加算が算定できなくなり、外来収益に大きな影響を与えています。後期高齢者診療料、 終末期医療相談料をはじめ、回復期リハ病棟における新たな要件や成果主義、7対1看護への新たな評価基準導入など、制度設計上の大きな問題を含む診療報酬 改定で、第一線の医療機関の経営を圧迫しています。現場を無視した「集約化」をねらったものです。現場からの実態を知らせ、改善を迫る運動が重要です。全 日本民医連は引き続き再改定を求めて、厚労省交渉を行います。
 医療費の抑制を目的にした健診の見直しは、保健予防活動に大きな影響を与えています。とくに、後期高齢者の健診は任意事業とされ、自治体によっては独自 に行ってきた健診内容を大幅に削減し、慢性疾患で通院している患者が対象から除外される動きも起きています。また健保家族の健診は、申請しないと受診券が 送られてこないなど、各地で混乱がみられます。これらによって保健予防収入が減少し、経営にも少なくない影響を与えています。
 二〇〇八年度は各法人の経営にとって重要な時期です。絶対的貧困層の拡大や生活困難、窓口自己負担増によって受診抑制がすすんでおり、民医連の事業所で もこの数年間、患者が減少傾向にあります。このことが経営にも深刻な影響を与えています。受療権を守り、患者増に結びつける活動や保健予防活動強化を意識 的に追求することが重要です。
 急激な事業収益減少は資金不足を招き、金融機関の対応次第では一気に資金困難に直面しかねません。経営幹部が統一会計基準にもとづき、経営情報を迅速か つ正確につかみ、医師・看護幹部、医師集団、職員集団や労働組合、さらには共同組織の仲間に経営の現状と分析、改善の方向を提示し、力を合わせて経営改善 をはかることに全力を尽くしましょう。職責者以上は自事業所、職場の経営課題を理解し、課題を具体的に示して職場運営に臨みましょう。
 経営改善の知恵、推進力は「現場」にこそあります。労働組合、共同組織とも地域の医療・福祉、事業所経営を守ること、職員の権利を守ることを共通の土台として、率直に問題提起を行い、力を合わせて奮闘しましょう。
 一方、三八万床の療養病床を二〇一二年までに一五万床にする削減方針に対し、各県からは少なくとも二二万床は必要との整備計画が出され、国の政策はすで に破綻しています。いま必要なのは削減でなく、療養病棟や地域の病院の一般病棟を充実させることです。
 特定健診・特定保健指導も健康増進に寄与する内容となっておらず、内容も単価も大きく切り下げられています。国と自治体にむけ改善を迫る運動を強めましょう。
 経営再建にとりくんでいる川崎や徳島などでは、課題を抱えつつも、職員や共同組織の奮闘で二〇〇七年度、大幅な経営改善を行い、いずれも予算目標を達成 しました。川崎医療生協は、今期首段階で連帯基金を除いても現預金保有高が月収の一・四倍になり、昨年発動した全国連帯基金二億円は、約束通り六月末で全 国各県連に全額返済することができました。あらためてお礼を申し上げます。

5.医師・医学生対策、看護師・看学生対策の現状と課題

 二〇〇八年度入職の新卒医師は一三五人(マッチング一五二人)で、二〇〇四年度の新医師臨床研修制度発足以来、減少傾向です。また後期研修にすすむ割合も同様の傾向です。
 全体として民医連の初期研修は、理念や技術、知識の体得や先輩医師のていねいな指導と援助によって「満足度」は相対的に高い一方、初期研修を終えて「さ わやかに去っていく」傾向も見られます。後期研修さらには若手、中堅へとすすむ中で、どんな医師像をめざすのか、地域はどんな医師をのぞむのかを明らかに し、研修目標の明確化が必要です。また民医連を担うことを目的意識的にした後期研修の充実強化と、自らの「将来とやりがい」が民医連で見出せるような医師 政策づくりが重要です。先細りでなく、大きな飛躍を図る期間としましょう。
 新卒看護師は目標におよばず、七七六人(目標比六〇%)にとどまりました。背景には、年ねん高校生一日看護体験(六年前より四〇〇〇人減)や看護実習数 の減少(五年前より一二〇〇人減少)、奨学生の減少(三年前より二〇〇人減)があります。担当者の体制の弱まりも指摘されています。一方、目標を超過達成 した県連も五県あります。前進したところに共通することは、低学年から民医連を知らせ、体験や系統的な働きかけと人間的なつながりを大切にして生まれた奨 学生が、主体的に民医連入職を決意していることです。また、新卒への援助や運動への参加、仲間づくりの中で、民医連医療や看護への確信を深め、一~三年目 の看護師の退職率が顕著に減っていることも特徴です。

6.教育学習月間の成果に確信をもち、 さらに学ぶ活動を強めよう

 教育学習月間を二~七月までとりくみました。たたかいの最中に、数千人の新入職員を迎えての学 習月間でした。「7対1」看護の取得や介護事業の展開などで、「民医連をまったく知らず」に入職した人もいて、多忙な日々の中で、民医連を意識できない現 実があります。そんな中、学習運動は大きな変化を生み出しました。ある県連の感想には「入職するまで民医連をまったく知らなかったが、人の命をここまで尊 く考えていること、人としての生活をささえる活動に感銘を覚えました」「就職して数カ月で、民医連とは何かを学び、驚いています。そしてその中にいる自分 の立場を考えました。何ができるのか、何をしなければならないかを考えています」「『まっすぐな人権意識』を自分がどれだけ持ち、スタッフにつないでいる のだろうかと考えさせられました。民医連の病院で働く意義を忘れかけていました。民医連に参加できることを誇りとできるよう、学び、考え、行動していきた いと思いました。たくさんの宝物をつくっていきたい」など、まさに「まっすぐ」な受け止めが行われています。
 このように学習運動を意識的に「県連や法人の未来をつくる運動」としてすすめたところでは、民医連や情勢に対する確信がかつてなく深まり、職員の成長の 機会となっています。DVDも視聴覚に訴えるものとして、たいへん好評でした。民医連運動の推進力は、主体的に参加しとりくむ職員と、職場づくりにこそあ ります。社保テキストで初めて朝日訴訟を知ったという職員がほとんどです。月間は一応終了しますが、「学び」に終わりはありません。総会方針は今後二年間 の民医連職員・職場の指針であり、実践すべき内容です。全職員を対象にした社保テキストの学習運動とともにすすめ、引き続き医師や非正規職員をはじめ、全 職員が学習し、握って離さず追求しましょう。

7.室料差額問題、災害支援ほか、民医連の組織上の課題

 総会で議論になった「室料差額徴収」問題も各地で「自ら」の問題として議論し、総会決定が積極 的に受け止められています。今日の経営をめぐる情勢はたいへん厳しいですが、あらゆる知恵と力を出し合い、室料差額に頼らない経営をつくり出していきま しょう。非営利・協同研究所報六月号の掲載論文は、この問題を考える上で大変参考になります。大いに学習し、討論の素材としましょう。
 当該県連理事会でも建設計画と合わせて議論が継続しています。
 再生プラン案、綱領改定草案、室料差額徴収問題、県連機能問題などを県連理事会、経営幹部会議、法人理事会、管理会議などでじっくり議論していただくようあらためて呼びかけます。

 全日本民医連は、この間起きたミャンマーサイクロン・中国四川大地震および岩手・宮城地震に災害対策特別基金から拠出し、現地にすみやかに届け、全国にカンパを呼びかけました。被災者の生活復興にむけ引き続き援助します。
 全日本民医連に働く仲間の連帯と生活支援を目的に創設された全日本民医連共済制度は、アメリカの日本政府への圧力で自主共済の解散と新保険業法への移行 が迫られました。適用除外を求める運動を強めると同時に自らの制度を守りぬくため、全日本民医連厚生事業協同組合を設立し、三五年間続いた仲間の助け合い 制度を守るしくみをつくりました。昨年度、一年間で二七人の仲間が在職死しています。精神疾患も年ねん増加しています。働く仲間の健康管理を一段と強める 必要があります。
 七月六日、全日本民医連の四六番目の県連として栃木県民医連が結成されました。栃木の医療・福祉の民主化と事業と運動の発展めざし、さらなる飛躍を期待 するものです。栃木県連の加入で「南関東・茨城」地協の呼称を「関東地協」とします。

8.民医連運動を推進する要である事務幹部の、確固たる構えの確立と養成が急務

 事務幹部の姿勢が運動や経営に大きな影響を与えます。職員や共同組織を激励し、運動でも経営でも大いに役割を発揮しましょう。
 この間の経営の厳しさから、事務系の常勤採用を控え、業務委託や派遣に依存する傾向も見られます。また、養成のとりくみが十分でないことを反映し、結 果、民医連運動を担う事務が不足し、次代の担い手のめどがたたない状況が生まれています。「派遣労働について」の考え方を早い時期にまとめ、提起します。
 民医連における事務系の役割は、実務力量をもって運営をしっかりささえること、多職種の要として医療活動や運動の事務局的な役割を担うこと、地域や患者 さん、利用者さんの身近な接点として事業所と地域を結びつける役割など、ほかの医療機関にはないことが求められています。それは民医連事務のやりがいでも あります。もちろんこれらの課題をすべて一人が担うのではなく、各自の成長過程の中で、経験や知識を積み重ねること、集団的な力で総合的に応えることが必 要です。また積極的に県連や地協、全国的な役割を担う中で、視点を高め、さらに力を蓄えていかねばなりません。
 各地協や県連でも事務系幹部養成講座や研修会が行われていますが、全日本民医連として第二回評議員会までに、養成のための今日的な課題を整理し、事務政 策に着手します。そして、総会方針で決定した全日本民医連の事務幹部養成を目的とした恒常的な「民医連事務幹部学校」(仮称)の開校を準備します。

 四月一二日、第一五次辺野古連帯支援行動中に束原(つかはら)進・全日本民医連副会長を海難事 故で失うという痛恨の事態に直面しました。理事会はこの問題を真摯に受け止め、事故調査を行い、第一次報告をまとめました。またシュノーケルの使用につい て、経済産業省に対し、安全対策を求め要望書を提出しました。
 私たちは束原副会長が願ってやまなかった平和と「いのちの平等」をめざす民医連運動を、いっそう発展させる決意で今後の運動を発展させていきます。現地 のたたかいは続いています。原因究明、再発防止策をきちんと確立し、遅くない時期に連帯支援行動を再開したいと考えています。
 また、原水禁世界大会の成果を踏まえ、各地で平和と憲法を守り発展させる活動をよりいっそう創造的にすすめましょう。全日本民医連として新たに平和アクションを提起していきます。

II章 第2回評議員会までの重点

 この間の活動や情勢をふまえ、以下の重点を提起します。全国的な討議と実践を通じて、第三八回総会方針の創造的具体化をはかりましょう。

1.後期高齢者医療制度廃止、医師・看護師・介護職員増員、医療・介護再生にむけて、全国、地協、県連、法人・事業所が連帯し、とりくみをいっそう強めよう

(1) 臨時国会で後期高齢者医療制度の廃止求めて、「一点署名」を提起しました。第五弾ビラ(通称‥青空ビラ)も用意しました。すべての自治体で後期高齢者医療制度廃止の請願採択をめざし、地方から国に攻めのぼりましょう。
(2) 全日本民医連再生シンポジウムを踏まえ、各地協や県連、地域で計画し、懇談など旺盛にとりくみましょう。医師会や各医療関係団体や住民との共同を重視しましょう。
(3) 「加速せよ医師増員」署名は、医師・医学生自身による、医師・医学生三二万人の過半数を目標にする史上はじめての運動です。当事者による運動で日 本の医師養成政策を変えるという歴史に残るとりくみとして、必ず成功させましょう。全日本民医連は、この運動の先頭に立ち、一気に広げましょう。
(4) 一〇月一九日、東京で「STOP! 医療・介護崩壊 増やせ社会保障費一〇・一九中央集会~医師・看護師・介護士を増やして、安全安心の医療・介 護を~」を実行委員会をつくり開きます。医師などが積極的に参加できるよう、日曜日の開催にし、これまで以上に幅広い団体や個人の結集を呼びかけていま す。全日本民医連の参加目標は職員、共同組織合わせて三〇〇〇人以上です。各県で具体的参加目標を決め、また各地の運動の節目として大きく成功させましょ う。
(5) 現在二〇万筆を超えた第二弾看護師増員署名は国会決議の実施を迫る運動です。年末までに五〇万筆を実現しましょう。
(6) 介護ウエーブを当事者が主体となり、さらに大きく発展させましょう。全日本民医連としても、来年の介護報酬改定などを来年度政府予算に反映させる べく要望書や財務省、厚労省交渉をすすめます。各自治体への要請行動にとりくみます。
(7) 自治体病院は財政赤字、医師不足を理由に各地で切り捨てられようとしています。自治体病院や社会保険病院など公的病院や地域の中小病院を守る運動 は「安心して住み続けられるまちづくり」運動そのものです。地域ぐるみで地域の共有財産である医療機関を守る運動を強めましょう。
(8) 秋には医療関連死を取り扱う第三者機関設置の法案が出される予定です。全日本民医連は私たちの見解を広げ、よりよい制度となるよう役割を果たしていきます。

2.受療権を断固守り抜くとともに、民医連の経営を全職員、共同組織の力で改善し、前進しよう

(1) 国保資格証明書・短期保険証発行の撤回、減免制度の拡充、健診制度の拡充、公費助成制度拡充などを求め共同組織や地域社保協の仲間とともに粘り強く自治体に運動し、具体的な成果を得ましょう。
(2) 医療や介護を受けることができず、遠ざけられている人が急増しています。民医連の事業所の周りや地域でも孤独死や介護疲れによる無理心中、保険証 取り上げによる手遅れ死亡事例が多発しています。そうした生活困難な人びとに徹底的に寄り添い、「気になる患者訪問」活動や医療・生活相談活動などにとり くみましょう。実態調査や困難事例をまとめ、記者会見を通じてマスコミなどに積極的に問題提起を行いましょう。全国の経験に学び、「困ったらあの事業所 へ」「あの共同組織の方へ」といわれるよう民医連事業所や共同組織の存在意義を高めましょう。引き続き無料低額診療事業など受療権を守るとりくみに挑戦し ましょう。
(3) 介護保険の給付抑制策、自治体の恣意的判断による利用の制限に対して、必要なサービスを確保し給付実績を積み上げることは、利用者の生活を守ると りくみであると同時に、なしくずし的な制度の後退を許さないたたかいでもあります。日常実践の中でいっそう重視してとりくみましょう。
(4) 健診活動を重視しましょう。特定健診の限界にとらわれず、政管健保指定事業所の取得や共同組織健診、インフルエンザワクチン接種などの運動化や青 空(星空)健康チェック、健康相談活動などに「目標を持ち、目標にこだわり」とりくみましょう。また、反貧困ネットなどとも連携し、ワーキングプア層への 健康診断・健康相談活動にとりくみましょう。アスベスト健康管理手帳など、患者の立場や権利を守るために今ある制度を積極的に活用しましょう。
(5) 安全で有効なジェネリック薬品への切り替えを医師集団に提起し、また患者や共同組織とともに議論し、積極的に切り替えを推進しましょう。全国的連 帯の力で、史上最高の利益を上げ続けている製薬大企業へ価格引き下げを迫っていきます。
(6) 全日本民医連は早い時期に、経営課題での事務幹部の交流会や医師幹部などを対象にしたDPC病院検討会、いくつかの中小病院現地調査を行い、経験 や教訓を発信していきます。病院委員会、診療所委員会を四役直轄委員会として理事会の総力をあげてとりくみます。
(7) 一〇月四~五日、第三回全日本民医連顧問弁護士交流集会を開催します。また今秋、厚労省の調査時期に合わせ民医連医療活動実態調査を三年ぶりに行います。

3.総選挙で国民本位の政治転換をめざし、大いに政治を語り、運動を広げよう

 まもなく実施される総選挙は、「日本社会のあり方」が問われる重要な選挙です。財界と日米支配 層による政治を、大転換するチャンスです。「社会保障を切り捨て、国民生活を犠牲にする政治」「アメリカべったり・軍事大国化の政治(軍事費世界第五 位)」「大企業べったりの政治(非正規雇用化など)」から「医療や福祉、教育重視など平和・人権・民主主義が大切にされる政治」へと三つの転換をはからな ければなりません。いまほど、三つの転換が誰の目にも見える時代はありません。職員や共同組織の中で「医療・社会保障と政治」について大いに語り合い、 「怒りを要求に、要求を政治に反映させる」政治の転換をめざしましょう。
 全日本民医連はチラシや学習資料を作成し、広く職員や共同組織の仲間に知らせます。一〇〇%の職員、一〇〇%の共同組織の仲間が選挙に行き「運動を通じ て医療も政治も変わる」ことを実証させましょう。一〇月に奈良で開催される全国革新懇交流集会の成功めざし奮闘しましょう。
 九月に行われる神奈川県・座間市長選挙(在日米軍司令部移転予定自治体)をはじめ、各自治体での民主的変革をめざして奮闘しましょう。

4.地域に意識的に打って出る活動を重視し、地域とともに歩む職員づくり、共同組織の強化月間を大きく成功させよう

(1) 一〇月から一一月までの二カ月間、共同組織拡大強化月間にとりくみます。主要な課題は、 (i)仲間ふやし、(ii)支部、班活動を強め、健康づくりや仲間の連帯、助け合いの活動強化、(iii)出資金・地域協同基金などの増出資、(iv)平 和と社会保障の改善のとりくみ強化です。対応する各共同組織ともよく相談し、目標を明確に、スタートダッシュよく、この運動を大きく成功させましょう。全 日本民医連の共同組織は現在三二八万、『いつでも元気』五・三万部です。第二回評議員会までに三四〇万共同組織、『いつでも元気』六万部を実現すること、 月間終了時までに少なくとも八割を達成しましょう。まずは、各県連、法人で具体的な目標を確認しあいましょう。全ての職員が共同組織に加入すること、『い つでも元気』を購読しましょう。
(2) 全国連絡会は来年六月二一~二二日に長崎で開催される第一〇回全国共同組織活動交流集会(長崎)にむけ、各県連から運営委員の参加を得て準備しています。今から位置づけ、成功にむけて準備を強めましょう。

5.医学生、看護学生対策はじめ、職員の確保と養成、職場の団結の水準引き上げをめざして奮闘しよう

(1) 民医連の医学生対策は、すべての医学生を対象とし、医学生運動との協力共同を広げること と、民医連の奨学生運動を重点とします。ドクターウエーブの運動を通じて医学生運動の前進や医学生の成長を援助しましょう。奨学生の確保と成長にむけての とりくみに当たっては、経済的な支援だけに留まらず、低学年から民医連の医療や理念を知らせ、職員や共同組織の仲間とのふれあいを通じて、民医連運動に共 感する医学生を育てましょう。第二回評議員会までに総会時より一〇〇人の奨学生を増やしましょう。また、奨学生運動を日常的に援助できる体制を確立しま しょう。
(2) 初期研修受け入れを重視しましょう。全国的に一五〇人以上、すべての管理型病院で研修医を必ず受け入れましょう。後期研修の充実がいっそう重要で す。県連は、地協の協力などを得て、民医連運動の後継者として成長できる具体的でイメージできるプログラムや研修計画をつくりあげましょう。七月に開催し た医師委員長会議の問題提起を踏まえて、県連医師政策づくりをすすめ、反映させましょう。
(3) 看護学生対策では、来年度新卒者一〇〇〇人以上を必ず達成させましょう。新卒看護師(保健師、助産師など含む)は年間約四万人です。三%近い受け 入れが目標です。高校生一日体験、看護実習、再就職セミナーなどの経験、共同組織に依拠した紹介運動など六月の看護委員長・看護学生委員長会議や看護師受 け入れ担当者会議での問題提起や経験から学び、V字回復しましょう。
(4) 民医連の看護師の定着率を高め、成長するために、何が必要なのかについて看護委員長会議で深めています。より働きやすい環境づくりや職場づくりが いっそう重要です。また七月には、国民医療研究所との共同事業で「民医連看護実態調査」を行い、内部の改善に生かし、日本の看護の現状と改善提言を行い、 発信していきます。
(5) 第九回看護介護活動研究交流集会を九月に札幌で開催します。各地から七〇〇題を超える演題の応募があり、どの内容もキラッと輝く民医連看護・介護 の「宝物」が詰まっています。「看護の仕事は『その人らしく、生きる権利を守ること』『人間が人間をケアする価値を広げ、笑顔と優しさで質の高い看護 を』」と私たちのすすめる看護をいつも支援してくれている川嶋みどりさんが記念講演します。参加すれば、必ず元気になる集会です。積極的に参加を組織し、 確信を深める機会として、大いに交流しましょう。
(6) 薬学部六年生化によって二〇一〇年、二〇一一年の卒業空白が生じます。今年度、確保に向け特別に奮闘しましょう。

6.職員の民医連的成長を基礎に、民医連運動を前進させよう

(1) トップ幹部が、職員を信頼し、研修や体験などあらゆる機会を通じて意識的に育てる視点を貫くこと、情勢に立ち向かう構えを創り出すことが必要です。一〇月、第七回トップ管理者研修会を開催します。積極的な参加を呼びかけます。
(2) 来年一月(一七~二四日予定)で医療大国といわれるキューバの医療、社会のあり方などをさぐる視察ツアーを行います。また第二回平和学校を開校します。
(3) 全日本民医連として、綱領改定草案についての討論の場として「民医連新聞」、「民医連医療」、また討論会などを開催して意見交流、集約していきます。
(4) 引き続き身近な事例検討や地域に出かける活動、体験などの活動と結びつけ、総会方針、社保テキスト学習、制度教育を重視し、職員の民医連運動への確信と成長のために奮闘しましょう。

おわりに

 民医連運動を前進させる力は幹部の構えと職員、共同組織の総合的な成長、民主主義や団結の水準 にかかっています。「たたかい」は民医連の「たましい」です。対応のみでは運動も事業も発展させることはできません。団結を固め、全国や地協、県連的な連 帯の力でさらに一回り大きな運動、事業所、職場をつくっていきましょう。

まとめ発言(長瀬文雄事務局長)

 栃木民医連の天谷静雄会長は「民医連運動を必ず前進させる」と意気高く決意表明しました。
 この評議員会を節目に、次の第2回評議員会ではさらに大きな前進を勝ち取りたいと思います。
 その一つは「平和」に関しての前進です。滋賀の今村浩評議員は「二〇一〇年に行われるNPT再検討会議のNGO行動に、職員五〇人を目標に参加させた い。諸団体とともに全自治体を訪問し、NPT行動に中学生や小学生を送ろう、市長には平和市長会議に参加しようと呼びかけている」と発言しました。小さな 県連からの大きな発信と受け止めました。現在、全国には約一八〇〇の自治体があります。ぜひ全県連で、自治体にも、また民医連の職員や共同組織にも呼びか けて、NPT行動に向けて運動しましょう。
 一六番目の医師・医療者「九条の会」が、千葉で結成されたという発言がありました。まだ三一県が残っています。徳島では、職場と事業所に一一〇の「九条 の会」があり、創意的な活動をしているという報告もありました。沖縄から「辺野古のある名護市に診療所をつくる」という決意があらためて表明されました。 「平和」は民医連が一貫して握って放さない課題です。この分野のとりくみをいっそう強めたいと思います。
 次に後期高齢者医療制度廃止、介護保険改善、看護師増員、ドクターウエーブなどでの前進です。さまざまなとりくみが報告されました。たとえば、長野の山 形村議会は、後期高齢者医療制度中止撤回の決議を、共産党以外が全員反対して一度は否決しました。それを(住民や社保協などが)もう一度、全議員に話に行 き、学習会で理解を求め、次の議会では全会一致で可決という報告です。
 私たちはいろいろなウエーブを起こしています。今度は歯科のウエーブも起こします。かつてないとりくみで共同を広げ、制度の改善、充実に向け奮闘しましょう。
 地域医療の崩壊にどう立ち向かうかというテーマで発言がありました。北海道からは、江差診療所の職員と友の会が、自治体病院のおかれている状況を学ぶこ とから始め、議論し、市長や病院長を招いて思いを聞き、「道立病院を守る住民集会」を開いたと報告されました。同様なとりくみが鹿児島や東京からも報告さ れました。民医連と共同組織は、わが事業所だけを守るという組織ではなく、現実に起きている問題で、日本の医療全体に働きかける組織でありたいと思いま す。
 経営改善では、徳島の久保田滋評議員、埼玉の中島あきこ評議員から発言がありました。中島さんは「川口診療所では毎月一回地域訪問をし、ニーズを聴いて 開設した運動外来は口コミでいっぱいになった」と言いました。久保田さんは「理由のない赤字、理由のない黒字はない。黒字にする上手い手はないが、職員と 共同組織のエネルギーを引き出し、徹底的に地域に出向く」とのべました。徳島では学習運動を重視し、出向中や産休中の職員も含め全員を対象に学習していま す。他にも多くの発言がありました。これらに学び、経営改善と運動も合わせて強めたいと思います。学ぶことの大事さもあらためて感じました。

 いくつかの問題について全日本民医連の見解を述べます。「人体の不思議展」については、見解も出しましたが、熊本の板井八重子評議員の発言のように、主 催者は怪しげな団体で、ホームページもありません。「人体の不思議展に疑問を持つ会」の調査によると、中国・大連での政治犯の死刑囚の遺体を使用し、中国 当局はノーコメントだそうです。各地で開催され、二巡目、三巡目の所もあります。熊本のようなとりくみで市民に知らせ、中止させていきたいと考えます。
 生活保護の老齢加算・母子加算の廃止で、生存権裁判がたたかわれています。最高裁が、当該地裁に対し何か指示を出したとも言われます。証人すら受け付け ない状況の中、民医連のSW委員会の調査が重要な内容で、弁護団もこれを証拠に採用すると言っています。新潟地裁では民医連のSWが証言する予定です。こ れを支援していきたいと思います。
 血糖測定の微量採血用穿刺器具に関わる全日本の対応が遅いのでは、という指摘がありました。直近の会議で意思統一し、通達も出し、厚労省交渉を行いまし た。「一遍の通知を出し、徹底しない医療機関が悪いというのはおかしい」と指摘し、交渉の翌々日に厚労省は、その趣旨を受け止めた新たな通知を出しまし た。
 また、福島県立大野病院事件についてです。「これは医療事故であり、刑事事件として扱うことは馴染まない。被害者の救済と原因究明・再発防止を行う第三 者機関が必要」という立場で、国民と医療関係者を結びつけるのが民医連の役割です。
 無料低額診療に関して山形から発言がありました。厚労省の「医療機関の未収金問題に関する検討会」の報告書(案)では、未収金が増加する中、防止策とし て無料低額診療に言及しています。新たな変化でもあり、全事業所でとりくんでほしいと思います。
 南医療生協の新病院移転建設に関しては、九月二八日に起工式が行われる予定です。しかし残念ながら、公表されている経営資料はまだ一年半前のものという 状況です。私たちは、差額ベッドがない新築計画として成功するよう、経営計画、人づくり、民医連運動の理念に関わる問題について、仲間として粘り強く協議 を求めていきたいと考えています。
 入院時医学管理加算の算定要件に選定医療が組み込まれた問題で、早く見解を出したいと思っています。宮城の長澤清光評議員が指摘したように、診療報酬史 上初の大問題と言えます。診療報酬本体と、任意で取るはずの選定療養をリンクした点で極めて重大です。しかも中医協の委員が知らなかったといいます。今改 定で加算が取れなくなった病院と共同して運動し、加算を取れる可能性がある当該法人と協議をすすめたいと思います。
 方針の最後にある「民医連を前進させる力は、幹部の構えと職員、共同組織の総合的な成長、民主主義や団結の水準にかかっています。たたかいは民医連のた ましいです。対応のみでは運動も事業も発達させることはできません。団結を固め、全国地協、県連の連帯の力でさらに、ひとまわり大きな運動、事業所、職場 をつくっていきましょう」の立場でお互いにがんばりましょう。