第33期第3回評議員会方針
1999年7月16日
全日本民主医療機関連合会第33期第18回定例理事会
はじめに
「憲法を医療と福祉にいかし、激変の時代に深く地域に根ざして『民医連の医療宣言』を」のスローガンのもとに第33回総会方針の実践にとりくみ1年半を経過しました。
医療や社会保障への攻撃に対する「たたかいと対応」とあわせて、克服すべき弱点である経営問題と医師問題について、とりくみの到達点と今後の課題をあき らかにする必要があります。同時に、2000年2月には、20世紀から21世紀につながる第三四回総会をむかえます。これからの半年間は、20世紀とはど んな時代だったのか、そして民医連が創立されてどのような到達点にあるのか。21世紀初頭の情勢をどのように予測し、民医連の存在意義をどのように輝かし ていくべきか、大いに論議を深める期間でもあります。
今回の評議員会方針は、第1に、国民に苦難をもたらしている情勢の背景を探り、新しい時代を切り開く運動の条件が広がるなかで、民医連としてのたたかい の方針を決定すること。第2に、「医療・経営構造の転換」のとりくみや介護保険導入を前にした「たたかいと対応」の到達点と当面の課題など、33回総会方 針にもとづく諸課題を整理すること。第3に、克服すべき弱点としての医師確保と養成の課題に、民医連組織の力を集中してとりくむ意志統一をはかることで す。
第1章 国民の苦難が増大し、社会問題が一層深刻になるなかで、どのように未来への展望を切り開くか
(1)増大する国民の苦難と自民党流政治のゆきづまり
1.雇用・所得・老後など現在と将来への不安の拡大
戦後の混乱期を除くと過去最悪といわれる失業と不況が国民をおそっています。340万人(4・6%)をこえる失業者を生み出し、経済的理由による中高年者の自殺やホームレスの激増など回復のきざしも見えない不況の下で、国民生活はかつてない深刻な状況にあります。
こうした日本の現在と将来について、多くの国民は「雇用」「所得」「老後」などについて不安を強いられています。しかし、自民党政府は「不況打開」にむ けてもっとも効果があるといわれている、消費税率の引き下げを拒否し、結果として景気を支える国民消費は一向に回復しないという悪循環におちいっていま す。企業におけるリストラ、合理化は社会生活を根本から脅かしています。
2.介護保険・医療法などをめぐる情勢の特徴 (介護保険をめぐって)
政府・厚生省が「日本の社会保障抜本改革の突破口」として導入した介護保険は、その内容が明らかになるに したがって国民の不安が高まり、延期論も含めて、国民要求や自治体との矛盾が深まり、政権与党の内部にも動揺がおきるなど、今後の政局の重要な課題になっ てきています。
真の介護保障を求める運動が、この春の一斉地方選挙をとおして全国で大きく発展し、実施主体である市町村では、保険料の設定や徴収、低所得者対策、認定 から除外された人へのサービス問題への対応など実施を前にして困惑をふかめ、市長会や町村会・1200(36%)をこえる自治体から政府へ「国庫負担金増 額など、制度を創設した国としての責務」を果たすことを強く要求する意見書が提出されています。また、国会審議を通していくつかの重要な修正を約束させて きました(注1)。
介護保険は2000年4月の実施に向けて、政令が発表され、自治体での条例制定がすすめられていますが、根本的問題はなに一つ解決していません。一、 40才以上のすべての国民が強制的に多額の保険料を徴収され、二、利用にあたってはきびしい認定基準があり、三、利用料負担がのしかかる、四、そもそも特 養ホームをはじめとして介護サービス基盤がきわめて不足、という状況のもとで、国民にとっては「負担だけが増えて、現状よりサービスが低下する」という最 悪の内容が押しつけられようとしています。
いま重要なことは、ひきつづき介護保障を充実させる運動とともに、介護を必要とする人の申請運動を地域からおこしていくことが必要です。
(医療抜本改悪について)
医療抜本改悪をめぐっては、この間の国民世論の高まりと私たちのたたかいや医師会など医療団体の運動の中で高齢者薬剤費二重負担を撤廃させ、薬剤の負担 増をねらった「参照薬価制」も白紙撤回させ、医師卒後研修義務化をふくむ医療抜本改悪法案の通常国会への提出をはばむことができました。
この間、医療抜本改悪を検討している審議会答申・報告でも国民負担の増大についての否定的な意見を併記せざるをえないなど、あきらかな変化が生まれてい ます。さらに、景気回復にとっても、医療保険制度改悪による国民負担増が悪影響を与えていることを自民党幹部も認めざるをえない状況にあり、政府の政策上 の矛盾も深まっています。また健保連は老人医療費の拠出金の支払いを拒否するなどの事態もうまれています。
しかし、政府・厚生省は、国民世論や景気動向を意識しつつも、あくまで一層の国民負担増をはかり、ベッド削減により医療供給体制を縮減し、国と大企業の 負担を削減する医療法第四次改悪・高齢者から保険料を徴収し一部負担を大幅に増やす高齢者医療制度や薬価制度改悪、定額化を促進し保険外負担を増やす診療 報酬改悪などの医療抜本改悪をすすめる立場であり、秋に予定される臨時国会・通常国会への法案提出を強行するかまえです。
私たちは社保委員長会議の方針にもとづき、ブックレット・ミニパンフ・壁新聞などの宣伝物を大いに活用し、共同組織とともに運動の幅を広げ、たたかいをすすめましょう。
3.平和と民主主義の危機
今年の通常国会では、自民・自由・公明各党による異常な国会運営がすすめられ、「新ガイドライン法」「盗 聴法案」「日の丸・君が代法案」「憲法調査会設置」「省庁再編法案」「地方分権化一括法案」「国会定数削減問題」など、日本の平和と民主主義・地方自治な ど憲法理念を根幹からくつがえす重大な悪法が、まともな議論もなく、自・自・公を中心とした数の力で強行されようとしています。
とりわけガイドライン関連法は憲法の平和理念をふみにじってアメリカの戦争に日本を自動参戦させ、自治体や私たち医療人をはじめとする多くの国民に対し て、戦争への協力を強制するという、あきらかに憲法違反の法律です。アメリカによるユーゴへの爆撃にみられるように、従来「防衛」だけを建前としてきた NATOと日米安保条約を世界のどこでも先制攻撃する内容につくり変えようとするものです。
こうした平和と民主主義を脅かす動きは、政府・財界の多国籍企業国家づくりと一体としてすすめられていることに留意しておくことが必要です。
4.世界と日本の支配層のねらいとゆきづまり
世界や日本の支配層は、どんな考えにもとづき、どのような方向に社会を導こうとしているのでしょうか。その政策に展望があるのかどうかを考えてみる必要があります。
巨大化した企業は、世界的規模で貪欲に利潤を確保するために、「市場原理至上主義」による競争原理の社会(弱肉強食)にすべてをゆだねようとしていま す。いわゆる新自由主義的(注2)な政治・経済の理念にもとづくものです。こうした支配層の戦略は、結果として弱者をきりすて、国民生活を塗炭の苦しみに おいやるばかりか、地球環境などにとりかえしのつかない悪化をもたらしつつあります。
1992年国連環境開発会議=地球サミットでは、今日の世界は、「人口の増加と食料生産能力後退の危機」「資源エネルギーの浪費と枯渇の危機」「有害危 険物の累積と地球環境の危機」「格差の拡大と貧困・失業・飢餓・人間性破壊の危機」「暴力と核拡散、平和の危機」など「人類はこのままの社会経済システム を続けることは不可能だ」との声明をあげています。
一方で、ヘッジファンドと呼ばれる1日1兆円にもおよぶ巨額の投機資金が1国の経済を崩壊させるなどの事態も広がっています。最近、国民の怒りと批判を 無視して強行された銀行への60兆円もの血税投入や貸し渋りは、バブルではじけた損失を補填するだけでなく、ヘッジファンドの投機で生じた巨額の損失を国 民の負担によって穴埋めしているという事態も明らかになりつつあります。
日本においては戦後社会の中で経済を支えてきた中小零細業者が競争力に敗れて廃業をよぎなくされつつあります。日本の企業を支えてきた労働者の雇用制度 である終身雇用や年功序列賃金制の転換がはかられ、大規模なリストラや労働法制改悪がすすめられつつあります。コメ輸入自由化や大店法の廃止などは、農 民・商工業者などのくらしや営業を直撃しています。
また、日本政府は、海外に生産拠点を移した企業の利益を確保していく上で、国連常任理事国への参加や自衛隊の海外派兵などをとおしたアメリカの世界戦略への参加が避けて通れないとの立場をとっています。
このように、現在の多国籍企業による支配をこのまま続けるならば、世界史的危機は現実のものとなり、その被害は国民にとって耐え難いものとなることは明 らかです。まさに、支配層の政策はゆきづまり、これにとってかわる政治や社会を実現して、人間の尊厳を大切にし、社会生活を豊かなものにするために、どの ような運動と連帯が必要かがさまざまな分野で論議されつつあります。
世界各国でこうした新自由主義の潮流に対する批判や反対の運動が高まっています。最近ではカナダにおける看護婦削減に反対するたたかいなどに見ることができます。
さらに、全国で広がるまちづくり運動の中では、こうした危機を意識し、草の根からその打開をめざすとりくみが進められています。それは、環境をまもると りくみであり、バリアーフリーのまちづくりや介護助け合い活動や産業廃棄物問題など多様です。そこには、次の世代に受け継ぐべき普遍的な課題があります。 医療における人権を守る「最後のよりどころ」として、存在意義を発揮してきた民医連にとって、こうした視点でのとりくみは重要な意味を持つものです。
いま求められるのは、従来の社会経済システムの転換をせまる、「人権と非営利」「安心して住み続けられるまちづくり」の実践ではないでしょうか。その発 展を保障するものとして、真に国民が主人公の政府や住民が主人公の自治体が必要なことはいうまでもありません。
社会経済システムの重要な構成要素の一つとしての「非営利・協同」の組織やセクターの発展が注目され、期待されているのは、多国籍企業の支配に抗して、 社会生活の基盤から、地域から、新たな運動をまきおこしていく可能性を持っているからでしょう。そうした時代の要請に正面から応える立場から、「非営利・ 協同」についての学習と論議を呼びかけています。
(2)国民の変化と闘いの展望
1.地域での変化、医師会などの変化
この間、介護保険をめぐる学習会・懇談会・シンポジウムは1673回開催され、4万名をこえる人が参加し ました。「小学校区単位の学習会が驚くほどの参加で成功」し、「地域の医師会長や民生委員が参加し挨拶」するなど、かつてない規模と広がりをつくり出して います。こうしたとりくみをとおして地域社保協が全国各地で結成され、老人クラブ・購買生協などとの共同、さらに、幅広い「介護保険を改善する会」などが 前進しています。
自治体に向けた要請・交渉・懇談が全国の3割近い自治体で行われ、自治体が介護保険改善を求める要請を政府に求めるという動きがかつてない規模で広がっ ています。同時に、共同組織と一体となって介護事業を展開し、NPO法人を設立するなどのとりくみも広がっています。
また、平和と民主主義の問題では、戦争法をはじめとした悪法制定の強行に対して、運輸関係20労組や宗教者、学者・知識人、マスコミ、教育関係者などか つてない広範な人々がたたかいに立ち上がり、野党間の共同の行動も広がりをみせています。民医連は、こうしたたたかいをとおして、看護学生や青年職員の 「漫画でアピール」したり、街頭での賛否投票など創意にあふれたとりくみをはじめとして大いに奮闘し、国会行動にも継続して積極的に参加してきました。今 後、戦争法を発動させないたたかいを進めるとともに、憲法を擁護するたたかいがいよいよ中心課題となります。
2.一斉地方選と足立区長選の結果をどうとらえるか
今回の一斉地方選挙の結果は、第2回評議員会が示した「国民が主人公、国民生活が中心となる国づくりをも とめる時代の流れが広がっている」ことを示しました。社会保障20兆円・公共事業50兆円など、逆立ちした国政や自治体財政に対して、くらし・福祉優先の 政治・まちづくりを求める世論が大きく発揮され、東京・大阪などの知事選での善戦、議員選挙での日本共産党の躍進、自民党が参院選に続いて過去最低に後退 するなどの結果となりました。
民医連は今回のたたかいの中で、介護問題についての要求を前面にかかげ、紙芝居を活用するなど創意を発揮し、大きな争点に押し上げ、多くの民医連職員が地方議員に当選するなど革新・民主勢力の前進に貢献しました。
その後たたかわれた東京・足立区長選挙では、自民党・公明党など野党勢力の道理のない「区長不信任」に対し、全日本民医連として住民が主人公の自治体を 守り、民主主義を守るたたかいと位置づけ全力をあげて過去最大規模の支援にとりくみました。選挙結果は吉田万三氏が前回得票を1・6倍化し46%を獲得し ましたが、惜しくも当選はなりませんでした。今回のたたかいをとおして、区内の医師会や歯科医師会、薬剤師会の会員訪問などかつてない運動にとりくみ、新 たな共同の広がりを文字どおり実感することができました。
こうした根底には、自民党政治と国民とのあいだの矛盾のひろがりがあり、足を踏み出す中で民医連や革新勢力への期待が大きく高まり、政治を変えるみちすじについての認識が、国民のあいだにひろがりつつあることをしめしています。
2.総選挙で国政革新を
自民党流政治がゆきづまり、追いつめられ、支配層はいっそう反動的な施策をとらざるをえない状況にあります。その結果、従来保守基盤といわれた層からも、悪政に対する批判が高まり、新たな時代を切り開く運動もかつてない広がりをみせています。
私たちは、国会解散・総選挙を要求し、国民各層と共同・連帯して総選挙をたたかいます。多国籍企業優先、アメリカべったりの政治をやめさせ、あるべき日本の未来のために、国民が主人公の政治の実現めざして奮闘しましょう。
(3)これからの私たちのたたかい
1.「人権と非営利」「安心して住み続けられるまちづくり」
「医療・経営構造の転換」のとりくみは、21世紀を前にした当面の重点課題として全体としてさまざまな経験と教訓をつくりだしてきています。
病院や診療所で検討されている主な課題は以下のような内容です。入院・病棟医療では、「高齢者医療、療養型病床群」「在院日数、病床管理、入院患者確 保」「急性期一般医療、救急医療充実」「医師不足と確保」「高齢者施設確保、医療福祉ネットワーク」「患者接遇、ICや情報開示」など。外来医療では、従 来からの「慢性疾患管理」や「在宅医療」にくわえて、「門前診・サテライト診」「地域活動、共同組織との連携」などです。
在院日数のしばりや病院施設基準の変更などの外部環境の激変と、深刻な医師不足という内部的な弱点は、従来の延長線上での医療・経営活動では対応できない緊急で切実な問題でもあります。
療養型を導入して急性期医療の対応で、在院日数の問題が解決でき、医師体制上も改善できたという半面、術後患者と感染症患者を同室で対応せざるをえな い、看護が厳しくなっている、などの問題もうまれています。門前診療所の開設でデイケアを併設し、医療活動に幅がもて、病院医師数の面でも緩和できた。な ど前進面とあらたな検討課題もうまれています。
打開の方向は、その院所がおかれている県連や地域の位置付けが異なり、かかえている困難性もさまざまで、画一的なものではありません。従って、管理部や 医局を中心に自らの頭で考え、展望をつくりだす必要があります。全国各地のとりくみから、共通性や普遍性、教訓を導き出し、互いに学び合うことも重要で す。この間のとりくみから、いくつかの教訓をまとめてみます。
激変する客観的情勢の認識と政府厚生省の攻撃の本質をしっかりつかむことが必要です。その前提に立って以下の点に留意することが必要です。
第1に、医療攻撃のなか、医師定数などを理由として施設展開や医療活動に行政指導も強まってきていますが、単なる対応でなく”地域住民の医療をまもりたたかいとる”観点での論議が必要です。
第2に、21世紀にむけて、経営問題や医師問題など現状の困難性を突破する気迫をもって検討が必要です。具体的には、療養型病床への対応とあわせて、急 性期医療にどう積極的にとりくむか、医療面での院所の将来像を論議する必要があります。これは、「院所の医療宣言」づくりの論議と不可分の関係にありま す。
第3に、医療活動の展望や施設体系にかかわる問題の性格上、県連理事会や医師委員会での論議と対応が必要です。また、リニューアルや施設体系について法人間連携で検討することも必要になってきています。
第4に、医療・経営構造の転換について、全職員の英知を結集しているか、共同組織に協議をもちかけているかも重要な視点です。どの検討課題も、すぐに結 論を出せない難しさをもっており、管理部だけで悩んでいると受けとめられる傾向もあり、医師集団全体の認識、一人ひとりの職員の参加、共同組織の意見と協 力、に留意してとりくむことが必要です。
2.98年度経営結果の特徴と今後の留意点
これからの秋に向けた私たちのたたかいでは、ひきつづき介護保険・介護保障問題でのたたかいが中心課題と なります。地方自治体・議会に向けて各地の実状をふまえた介護保障要求をすすめ、依然として知られていない介護保険の問題点をすべての国民に発信していく 学習会・懇談会・介護保険改善シンポジウムなど旺盛に開催します。同時に介護問題にとりくむかまえとして、現在私たちが対応している要介護老人(実態調査 対象者)を「一人も泣かせない」事をめざして、具体的な事例もあげて世論に訴え、あるべき介護保障を求める国民的大運動に積極的に参加するとりくみが求め られます。
また、厚生省が準備している「医療抜本改革」は、高齢者をはじめとした弱者を医療から切り捨て、「いつでも」「どこでも」「安心して」かかれる日本の医 療制度のよさを奪い、病院つぶしなど地域医療そのものの存在を脅かすものです。改悪の内容と不当性を知らせ、国民の医療を守り改善する運動をひろげること が必要です。
消費税率をもとにもどすたたかい、年金・福祉などの社会保障の抜本的改善を求めるたたかい、戦争法の発動を許さないたたかい、盗聴法や日の丸・君が代法 制化問題など平和と民主主義をまもる運動にも引き続き積極的にとりくみ、広範な国民各層との共同を広げながら国会解散・総選挙を要求するたたかいをすすめ ましょう。
この期間、私たちは共同組織の拡大強化月間にとりくみます。このとりくみと結合して運動の推進をはかりましょう。また、学習会を重視し、幅広い層の人々や団体との共同の輪を広げましょう。
第2章 33回総会方針実践のおもなとりくみ
(1)医療・経営構造の転換の特徴点と教訓
1.とりくみでのいくつかの教訓
「医療・経営構造の転換」のとりくみは、21世紀を前にした当面の重点課題として全体としてさまざまな経験と教訓をつくりだしてきています。
病院や診療所で検討されている主な課題は以下のような内容です。入院・病棟医療では、「高齢者医療、療養型病床群」「在院日数、病床管理、入院患者確 保」「急性期一般医療、救急医療充実」「医師不足と確保」「高齢者施設確保、医療福祉ネットワーク」「患者接遇、ICや情報開示」など。外来医療では、従 来からの「慢性疾患管理」や「在宅医療」にくわえて、「門前診・サテライト診」「地域活動、共同組織との連携」などです。
在院日数のしばりや病院施設基準の変更などの外部環境の激変と、深刻な医師不足という内部的な弱点は、従来の延長線上での医療・経営活動では対応できない緊急で切実な問題でもあります。
療養型を導入して急性期医療の対応で、在院日数の問題が解決でき、医師体制上も改善できたという半面、術後患者と感染症患者を同室で対応せざるをえな い、看護が厳しくなっている、などの問題もうまれています。門前診療所の開設でデイケアを併設し、医療活動に幅がもて、病院医師数の面でも緩和できた。な ど前進面とあらたな検討課題もうまれています。
打開の方向は、その院所がおかれている県連や地域の位置付けが異なり、かかえている困難性もさまざまで、画一的なものではありません。従って、管理部や 医局を中心に自らの頭で考え、展望をつくりだす必要があります。全国各地のとりくみから、共通性や普遍性、教訓を導き出し、互いに学び合うことも重要で す。この間のとりくみから、いくつかの教訓をまとめてみます。
激変する客観的情勢の認識と政府厚生省の攻撃の本質をしっかりつかむことが必要です。その前提に立って以下の点に留意することが必要です。
第1に、医療攻撃のなか、医師定数などを理由として施設展開や医療活動に行政指導も強まってきていますが、単なる対応でなく”地域住民の医療をまもりたたかいとる”観点での論議が必要です。
第2に、21世紀にむけて、経営問題や医師問題など現状の困難性を突破する気迫をもって検討が必要です。具体的には、療養型病床への対応とあわせて、急 性期医療にどう積極的にとりくむか、医療面での院所の将来像を論議する必要があります。これは、「院所の医療宣言」づくりの論議と不可分の関係にありま す。
第3に、医療活動の展望や施設体系にかかわる問題の性格上、県連理事会や医師委員会での論議と対応が必要です。また、リニューアルや施設体系について法人間連携で検討することも必要になってきています。
第4に、医療・経営構造の転換について、全職員の英知を結集しているか、共同組織に協議をもちかけているかも重要な視点です。どの検討課題も、すぐに結 論を出せない難しさをもっており、管理部だけで悩んでいると受けとめられる傾向もあり、医師集団全体の認識、一人ひとりの職員の参加、共同組織の意見と協 力、に留意してとりくむことが必要です。
2.98年度経営結果の特徴と今後の留意点
第33回総会方針は、「今日の経営をめぐる状況には未曾有のきびしさがありますが、民医連の経営にはそれにうち勝つ本質的な強さがあります。それは、全職員の経営であり、共同組織の人びとの経営であるからです」と提起しました。
医療経営環境が厳しさを増す中で経営の一層の悪化が懸念されましたが、98年度の民医連経営統計では、前年より14・6%上回る76・7%の法人が黒字 決算となりました。また、全法人合計の経常利益率も前年の0・5%から1・9%へ四倍に拡大しています。さらに、今回の経営統計は各法人の総会等への報告 された決算書とは別に民医連統一会計基準に基づく決算書の提出を求めました。そのため、これまで必要な引当金等の計上を行ってこなかった法人が98年度に 多額の引当金の繰入を行ったために人件費が大幅増加し赤字決算となった法人が少なくなく、全体として経営改善のための取り組みが大きく前進しています。
医業収益に対する比率でみると人件費(57・8→57・7%)と経費(12・3→12・3%)は変わらないのに対して材料費(23・6→22・4%)が大幅に減少しており、これが経営改善の主因となっています。
一方、黒字決算となった法人のうち、1割の法人では医業収益が前年より減少しているにもかかわらず、賞与の大幅削減等の人件費削減で黒字を確保しており、今後本格的な経営構造の転換をもとめられている法人も少なくありません。
また、98年度の全法人合計の設備投資額は300億円にのぼっています。これは全法人合計の減価償却費と税引前利益の合計額270億円を30億円も上回 る金額で、リニューアルなどの為の資金需要が大きく、厳密な資金対策が必要な状態が続いていることを示しています。
(今後の経営活動での留意点)
第1に、院所や法人の経営実態を管理部と職員全体が、総合的に、正確に、把握し認識しているかという問題です。民医連経営の優点の一つにかかげられてい る課題ですが、問題はどの程度深められているかです。民医連統一会計基準にもとづき、判りやすく、迅速に経営資料が公開されているかは前提条件となりま す。
第2に、全面リニューアルや改造は、情勢上からも院所の老朽化への対応からも不可欠です。その際、月別や年度毎の収支状況(損益計算書)だけでなく、ど れだけの財務力量(貸借対照表)があり、貸し渋りのもとで資金繰り(キャッシュフロー)は大丈夫か、などをふまえた厳密な検討が必要です。
第3に、医療をまもり、職員の生活をまもり、院所をまもるうえで、「利益確保」の重要性はこれまでも強調してきました。単年度が黒字であっても累積が赤 字であれば、地域住民と職員の宝である院所や法人の資産を食い潰していることにほかなりません。
1.「共同の営み」としての医療
私たちは、患者の人権と安全を守る共同の営みの医療を追求し、日常医療活動にとりくんできました。
21世紀を前にして、情報化社会の広がりや人権意識の高まりのなかで、人権にもとづいた医学・医療のあり方が求められ、医療における情報の公開を求める 声が大きくなってきている状況をふまえ、全日本民医連理事会は「診療情報開示(いわゆるカルテ開示)にむけて討議ととりくみをすすめよう」の方針を提起し ました。その内容は、「共同の営み」の医療を発展させる立場から、患者の「カルテ開示」の求めに誠実に応じていく努力を行い、そのために県連・法人・院所 で共同組織の人びととも協力しながらカルテ開示に向けての討議と実践をすすめることが中心です。また、厚生省が打出したカルテ開示の法制化には、多くの問 題点を含んでおり、「拙速に法制化すべきでない」との立場を表明しました。方針提起にもとづく論議を深めましょう。
最近、医療事故に関するマスコミ報道が、意図的と思われるほど連日行われています。患者の生命を守ることを使命としている私たち医療従事者は、医療事故 そのものを避けるための最大の努力が求められています。院所では、医療整備委員会や事故対策委員会、アットハット委員会や安全委員会などが設置されていま すが、こうした日常的なシステムの点検だけでなく、分業化されたなかでの患者をとらえる視点や文字どおり「共同の営み」としての医療のあり方を深め合うこ とが必要です。『民医連医療』誌99年6月号(NO323)で「医療の安全性と民主的集団医療」の特集を出したところです。これらを参考にし、県連および 法人・院所の責任で総点検運動と討議をよびかけます。全日本民医連としても継続的なとりくみの方向を検討します。
なお、コンピューター2000年問題では、可能な限りの対応をすすめるとともに、不測の事態にそなえた大晦日の体制などの配慮が必要です。
医療活動部では、最近問題になっている結核の院内感染について、考え方や対応についての検討チームを設置し、問題提起の準備をしています。
(2)介護保険制度の実施をまえにして
1.「たたかいと対応」の到達点
介護問題は、たたかいをとおして重要な社会問題になりました。民医連は、「要介護老人実態調査」のとりく みで老人の介護問題を地域、生活の視点から明らかにし、自治体への要求運動や政策活動などで全国的に大きな役割をはたしました。全国各地で「安心して住み つづけられるまちづくり」をねがう広範な団体、人びととの新しい「共同の輪」も広がり、「人権と非営利」の真の介護保障をつくりあげる地域の運動の一環と して、在宅介護の各種事業、施設建設運動を大きく発展させてきました。
2.当面するたたかいと対応上の課題
第1は、社保協をはじめ地域の介護保険をよくするさまざまな運動と連帯し、「介護保険の問題点」を地域住民にしらせ、真の介護保障をつくる運動を本格的にすすめることです。民医連と共同組織が中心となって、「1万回懇談会」にとりくみましょう。
(国にむけての具体的な要求)
一、介護保険料軽減。必要な人すべてに市町村が介護サービスを保障できるよう国の負担を増やす。
二、政府は必要な介護サービスが提供できるよう制度の問題点の改革ができるまで、介護保険料の徴収を延期すること。その間は国と地方自治体の責任で介護サービスを提供し、いまの福祉水準を低下させないこと。
三、介護保険制度の具体的な問題点について、療養型施設やデイケアの問題などについて、「医療上の必要があると判断されるものについては医師の判断で医療保険制度からの給付を認めさせる」ことを中心に要求をつよめます。
(自治体にむけての具体的な要求)
一、「保険料減免・利用料の撤廃」について、一般会計からの繰り入れや「貸付制度」「家族手当」「基金制度」など自治体の実情にあわせて実施すること。
二、「認定もれ」を出さない運動を重視し、老人福祉による救済や自治体独自の認定基準や認定審査会のあり方の検討などを要求する。
三、上乗せ、横だしについて、自治体一般財源での措置を要求する。
第二は、民医連の介護保険事業へのとりくみを、単なる事業展開に陥らない視点を重視することです。そのためには「たたかいと対応」をそれぞれ担当者任せ にするのではなく、管理部が院所・法人における「戦略と計画」に責任をもち、全職員、全共同組織構成員によびかけて運動を展開することが重要です。
(県連、法人・院所が検討すべきいくつかの課題)
一、現在約半数の県連が「方針をもっている」と報告されていますが、すべての県連が「介護保険を改善するたたかいと対応」の方針をもち、各法人・院所のと りくみを指導・援助する体制と力量を持つことが必要です。そして県内全体の視野から介護問題に運動の面からも、また事業展開の面からも検討し方針化するこ とが必要です。
二、たたかいと対応の基本に、少なくとも「要介護老人実態調査」の対象者すべてを「介護保険によって切り捨てさせない」との立場を、たたかいと対応の基本 に据えること。また、「まちづくり」の視点からの地域ネットワークづくりをふまえることが重要です。こうした視点でのとりくみによって民医連院所の地域で の存在意義を高め、医療と福祉の活動のあり方を職員、共同組織、地域住民がともに考え、展望を切り開くことができるでしょう。
3.全日本民医連としての対応
介護保険は10月からの認定申請開始、4月施行をまえに、介護保険料の設定や介護報酬など基本部分がいまだに未確定です。また各院所・法人でも介護事業にとりくむにあたってNPOなども含めて計画づくりに苦心をしている現状にあります。
全日本民医連はこうした現状をふまえ、老人医療・福祉委員会を中心に、最新情報を素早く提供するとともに、「民医連におけるケアマネージャーのあり方」 「介護保険における主治医意見書の意義とポイント」など、介護保険を真の介護保障に改善させるとりくみに役立つ資料の提供やすすんだ経験の普及と交流につ とめます。
また、「1万回懇談会」に活用できる学習資料「介護保険のしくみと問題点」などを準備します。
(3)同仁会再建の到達点と全日本民医連としての総括
1.とりくみの到達点
同仁会の経営危機が表面化して、すでに1年半を経過しました。98年度に11億円の利益をめざすという再 建1年目の経営改善の目標は、全職員の努力で超過達成し、12億5000万円の経常利益をうみだしました。全国の県連や法人、大阪の他法人から借り入れて いた8億2000万円を約束どおり期日内に返済を完了しました。
同仁会の「前倒産に至った要因と改善に向けての自己点検(案)」は、論議が遅れていた医師集団や看護婦集団の自己点検が進みつつあります。また、債務超 過を3カ年で解消する方針のもとで再建1年度の総括と第2年度の方針も確定し、99年度利益目標を当初の計画どおり8億円とし、医療・経営構造の転換にと もなう病院の必要な改造、門前診療所の建設、カットしていた賃金の回復など順調に再建運動にとりくんでいます。
財務状況も、この間の利益確保と全国や地域の人たちの協力による同仁会基金によって健全な状態にあります。職員での経営学習会、社会保障運動、共同組織 の強化なども活発に行われ、大阪民医連の中で民医連運動の牽引車の役割をはたしています。
大阪民医連では、2月に開催された県連総会で、「同仁会問題の教訓を大阪民医連の財産に」との総括が行われ、「同仁会問題は大阪民医連が克服できずにきた体質の反映である」として、県連機能の自己点検が行われました。
2.同仁会問題から学ぶべきいくつかの教訓
全日本民医連理事会は、山梨勤医協や福岡健和会などの倒産に際しての教訓をふまえつつ、危機管理における全日本民医連としての指導性を発揮し、全日本民医連の新たな団結と地域住民や民主団体の協力をえて、倒産という危機を回避することができました。
今回の同仁会問題をとおして、全日本民医連は経営危機という非常事態に対して貴重な経験をつんできました。再建を可能にした要因は、同仁会の医療活動に 対して患者・地域住民の熱い信頼があったこと。職員が民医連運動に対して誠実で確信をもっていたこと。再建の課題に労働組合が正面から向き合ったこと。そ して、全国や大阪民医連のあたたかい連帯があったこと、などがあげられます。
同仁会および大阪民医連の自己点検をふまえ、同仁会問題から学ぶべき教訓は次のとおりです。第三四回総会方針に反映できるよう、積極的な論議を期待します。
第1は、「医療と経営の乖離」「病院と地域との乖離」という問題です。今回の経営危機の直接的要因は銀行の貸し渋りと資金回収にありますが、根本的には 長期にわたって赤字構造を放置しつづけたことにあります。法人や院所の経営実態を無視、あるいは総合的に把握しないまま「主観的なよい医療」にとりくむ状 況にありました。また、法人や院所が大きくなる中で、地域住民の創設当時の努力や思いが忘れられ、現在の病院に対する意見が届かない状況に気がつかなくな るという危険性です。
第2は、民主的管理運営の弱点、特に職場からの民主主義の欠落という問題です。大規模法人や大規模院所になれば、専門分化や業務の分業化がすすみ、法人 や院所の全体を把握することが困難になります。ひとりひとりの職員は自分の業務に専念し努力しますが、常に全体の状況についての情報提供や問題提起がない かぎり本質的な矛盾は拡大するだけです。その意味で管理部の役割と責任は重いといえます。
第3は、資金管理や利益管理についての事務系幹部の力量、統一会計基準の理解と遵守、という問題です。言い換えれば、「資本・経営・所有」に対する認識 の問題でもあります。財務管理や経営管理は事務系幹部集団の役割です。医師がとってかわることはできません、目的・意識的に事務系幹部を育てることが必要 です。また、事務系に限らず、経営のわかる職員集団を育てることは緊張関係をつくり、法人や院所の全体の力量をひきあげることにもなります。
第4は、法人の自覚的な県連への結集と県連機能の問題です。県連における法人の比重が大きければ大きいだけ、結集を強めつつ自分の院所を相対化する謙虚 さが求められます。また、県連で問題点に気がついていても、困難性のまえにたじろぎ放置するか、法人まかせになりがちです。県連での経営委員会の力量と機 能を高めることが必要です。
3.全日本民医連として今後、検討すべき課題
同仁会の経営報告では、要対策法人に該当しないという状況にありました。これまでは損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)を中心とした報告書でしたが、資金繰り表(キャッシュフロー)を加えるべく、現在統一会計基準の見直しを行っています。
「県連の経営委員会の機能と力量強化」「監査制度の実践と内容改善」「法人の県連への自覚的結集と結集しやすい環境づくり」などが今後の課題です。ま た、「危機管理時における対応」についての全日本民医連経営委員会のあり方なども検討を要します。
(4)「院所の医療宣言」づくりの推進を
民医連綱領の学習や「私と民医連」を語る運動、「職場・職種の医療宣言」づくりは、創意あるとりくみがあ りますが、「院所の医療宣言」づくりは全体としてすすんでいません。さまざまな課題の一つとして並列的にとらえるのでなく、地域の要求や期待、職員のやり がいや思いをとらえ、院所の医療宣言づくりにむすびつけていく、指導部の役割が必要です。21世紀の展望論議と結合してとりくみましょう。
全日本民医連として、病院が地域の中でどのような役割をはたすべきかを論議し「病院憲章」として発表すべく準備をしている院所、リニューアルにとりくむ なかで共同組織の人たちの意見を聞き「院所の医療宣言」にまとめた院所などの経験を、秋の学術運動交流集会にむけて集約します。
「全日本民医連の医療・福祉の宣言(第1次案)」について、全日本民医連として他の団体や学者・研究者などの意見を聞く場をもうけます。また、県連理事 会での討議内容を集約し、次期総会までに第2次案をつくるかどうかをひきつづき検討します。
いずれにしても最も重要なことは、「院所の医療宣言」づくりが生きたものとして、地域の中で広がっていくかどうかです。大いにとりくみを強めましょう。
(5)21世紀目標をめざす共同組織拡大強化月間
共同組織の構成員は246万5000となり、『いつでも元気』の発行は3万8409部に到達しています。 共同組織活動交流集会は、開催してから10年を経過しました。共同組織の活用内容は、地域になくてはならない医療住民運動組織として前進し、「安心して住 み続けられるまちづくり」の豊かな実践が各地でとりくまれ、まさに「転換」がはじまっています。共同組織の存在とその力は、まちづくり運動にとっても民医 連自身がよりゆたかに発展していくうえでもかけがえのないものです。
10~11月は、共同組織の拡大強化月間です。21世紀までに300万の組織と『いつでも元気』5万部を達成するにふさわしい目標をかかげて奮闘しましょう。
(6)その他の課題
1.地方協議会の活動
今日の情勢と到達点をふまえ、民医連組織も「脱皮」が必要との認識から、総会方針で「全日本民医連と院 所・現場の距離を近づけること、すなわち一般的な方針だけでなく、法人・院所のさまざまな問題について全日本民医連が県連を通じて機敏に具体的な指導援助 を行えるようになること」を目的に、理事会の執行機能の具体的実践の場として「地方協議会」を設置しました。
理事会は、地方協議会としての協議の時間を毎月確保して、そこで今期の最大の課題である「経営問題」「医師問題」を継続的に論議し、さらに医療・経営・ 運動、人づくりや共同組織、県連機能の強化など総合的な視点で県連をみる努力を行ってきました。また、すべての地方協議会が、県連会長や事務局長にくわ え、評議員の参加も得て総会を定期的に開催し、医師の養成と確保、事務系幹部養成講座の開催などのさまざまなとりくみをすすめ、連帯も強まりつつありま す。九九年度より全日本民医連会計から一定額の地協活動費用を計上しました。
全日本民医連理事会の運営も、委員会別の機構から総合的になり、県連からも相談しやすいとの声もよせられています。ひきつづき民医連の団結を新しい水準に引き上げる努力をします。
2.学術運動交流集会など秋からのとりくみ
九月には、「新しい世紀をめざして、すべての地域に『人権と非営利』をめざす共同の輪を広げ、民医連の医療宣言をつくりあげよう」をテーマに第四回学術運動交流集会が長野で開催されます。医療宣言企画も準備されています。
10月には鹿児島で青年ジャンボリーが行われます。なお2000年の開催はとりやめ、ジャンボリー担当者交流集会や青年担当者の会議などを開催し、21世紀の民医連運動を担う青年の成長をめざす討議を行います。
8月は、医学生のつどいやDANSなどもおこなわれます。
第3章 医師の確保と養成の課題で民医連組織の力の集中を
(1)「医師問題」をどう位置づけ考えるか
今、看護をはじめ多くの職員や共同組織の人々のなかに、院所の医師体制の困難と医師労働の激化を心配する声が広がっています。そして、医師の確保と養成の課題を自分たちの切実な問題として共有し、協力して事態の打開をめざそうという気運が高まっています。
全日本民医連第33回総会方針が指摘した民医連運動の弱点のひとつである医師問題は、依然として「ひきつづく重大な課題」です。民医連の医師数の伸びは この二年間で33人と、70年代以降最低になっており、内科、外科、整形外科などの医師数が減少しています。医師労働の激化は、医師集団の疲弊感、閉塞感 を助長し、また院所の医療活動を縮小せざるをえないところも出ています。
問題は、新卒医師受け入れで飛躍をつくりだしていないこととあわせ、何よりも医師の退職が続いているということです。この間の常勤医師実態調査では、 6~10年目の医師退職が最も多くなっています。これらの問題の克服に本格的に民医連組織の力を集中する必要があります。
この間全日本民医連は、21世紀をめざす新たな医師養成の方向を、「民医連の医師・医師集団は何をめざすのか(案)」にまとめて論議をよびかけ、その具 体化の一環として、「医学対活動の新しい前進のための問題提起」「民医連基礎研修の課題と展望(案)」を発表しました。各地でこれらについて論議と実践が 一定すすめられ、さまざまな貴重な成果も生まれています。今後とも、中長期的な展望をもって、地協や県連で具体化していく必要があります。
一方、医師問題の打開のためには、目的を明確にした医師労働の軽減の問題、重要な組織機構である「医局」づくりに関わる問題、県連・院所の指導部集団の かまえと位置づけの問題など、ただちに手を打つべき諸課題がうきぼりになっています。
〈医師問題を考える基本的視点〉
今日の医師問題を考えるうえでの基本的視点は次のとおりです。
第1に、民医連の医師集団の歴史的な形成と活動の到達点、その日本社会における積極的な意義を確認することです。
民医連は70年代から80年代にかけて「一県一研修センター病院」をスローガンに、主として病院を中心とした発展を遂げてきました。県連長期計画や医師 政策をつくり、医師の受け入れと研修についての諸方針にもとづいて組織的に医師対策に力を入れてきたことが、今日の到達点を築く条件になりました。80年 代半ば以降、民主的医学生運動の停滞・後退、医療法改悪による病床規制など内外の状況が変化し、医師の受け入れが困難に直面しましたが、それでも毎年 100人を超える新卒医師受け入れを実現し、現在約3000人の医師集団を形成するに至っています。
私たちは、医療専門家の中心であり、社会的視点をもった医師集団を歴史的にこれだけの規模で組織してきたこと、それによって人権を守る総合的医療活動な どを発展させ、日本における医療の民主化と社会進歩を統一的に追求し積極的な貢献をしてきたことを、大いに確信にする必要があります。
第2に、21世紀に向けて民医連運動への国民の期待がいっそう強まっているなか、医師問題の壁を打ち破らなければその期待に応えられず、民医連運動発展 の客観的可能性を自ら閉ざすものになることです。逆に、この壁を突破することは、民医連のみならず日本の医師のあり方に積極的な影響をおよぼすものになる ことは間違いありません。
第3に、医師の問題は全国的に共通した客観情勢が背景にあると同時に、「それぞれの県連・法人の民医連運動の歴史的・全体的な問題(矛盾)を集中的に反映している問題」(全日本民医連第31回総会方針、1994年)です。
それだけに、それぞれの地域での民医連運動のあり方や今後の展望との関係で、県連・法人・院所の指導部集団が医師問題を中心課題として位置づけ、局面を打開するためのイニシアチブの発揮が重要になっています。
(2)医師としての社会的使命と生きがいをとらえ直そう
―医師集団(医局)にゆとり、連帯感、知的輝きを
医師問題の克服のために、各地で苦悩しつつ懸命な努力が始まっています。
―「医師の基礎研修の改革に着手し、ベッドフリーの研修指導医体制を確立するためにパート医も導入した。そして病院全体、医療活動全体を医師養成のための『学校』として見直した」
―「医師集団で他職種とともに、気になる患者訪問や選挙活動などを積極的に位置づけ、民医連運動についての自信をとりもどした」
―「指導部集団で、今日の情勢や時代論、民医連の諸方針の学習を徹底して重視し、医局でも学者・文化人・議員など外部講師を招いていろいろなテーマで連続学習会を開いて各自の視野を広げている」
―「自分が病気になってみて、医局の人間関係が冷たくギスギスしていることを痛感した。専門分化のなかで、『一日中カテ室にとじこもる』『一日中内視鏡をのぞいている』ような状態を転換しなければ、相互不信がつのる」
―「地域開業医らとのカンファレンスや医療連携、介護充実などでの共同をすすめ、地域での民医連院所の役割を実感している」
―「県連や院所の指導部、事務幹部が個々の医師の状況を掌握し、悩みの相談や生活上の困難を援助している」
医師退職をくいとめ医師数を伸ばしていたり、医学生対策で前進しているところは、法人・院所の指導部集団が民医連運動の今後を展望(あるいは憂慮)し、 医師問題に力を集中して、医師養成(特に研修)の成功めざすとりくみをきっかけに、医療活動の見直しや医療・経営構造の転換をはかりつつ、医局づくりを重 視していることが共通しています。これらの経験・教訓とその考え方を、お互いに大いに学びあうことが重要です。
〈民医連運動の発展と医師としての生きがいを結びつけて〉
1.医師集団が大いに学び知的輝きを
第一章で明らかなように、新自由主義の台頭と一方での「人権と非営利」の共同の広がりという、21世紀に 向かう日本社会の基本的な対立軸のなかで、民医連運動はどうあるべきか、民医連の医師集団の役割は何かを議論し深めることが大事です。それは、地域におけ る人々のいのちと生活という視点で、民医連運動の存在意義や医師としての社会的使命、生きがいをとらえ直すことでもあります。社会や医学・医療の現実と今 後の展望について、医局を中心に学び語り合い確信にしていくことが重要です。
時代の変革期こそ、知的に輝き成長し合えるような医師集団づくりが必要です。全日本民医連としても、医師を対象とした研修会(講座)の開催を積極的に検討します。
2.地域に目を向けより広範な人びとなどとの交流と共同を
民医連とその医師集団に関わる矛盾や困難は、日本の医師全体や地域の人々が抱える問題と共通するものが少なくありません。日本の医療界には、支配層による医療・福祉の営利化路線に乗じて生き残りをはかるような動きがあるのも事実です。
しかし、この間の最大の特徴は、医療・社会保障切り捨て政策による地域での犠牲者の続出という状況を前にして、医師会・開業医層などのなかに、医療人の 本来あるべき姿についての論議がまきおこり、営利化路線に反対し国民の立場に立って、地域の医療や介護の充実をめざすさまざまなとりくみに自主的に参加す る人々が増えるなど、積極的な変化が生まれていることです。
また、大学や研修病院で日本の医師卒後研修の改善につながるような論議や実践がすすめられ、医学生も含む共同のシンポジウムが各地で開かれるなど、政 府・厚生省が企図した保険医インターン制を阻止する運動が発展したことはきわめて重要です。
民医連の医師集団が外に目をむけ、日本の医師層でのこうした積極的変化を機敏にとらえて、さまざまな課題でより幅広く協力・連帯していくことが大切です。
3.医師集団が医療・経営構造の転換と医療宣言づくりの先頭に
院所の医療・経営構造の転換の課題は、当面の経営問題の対応や施設問題にとどまらず、地域の要求や医療・ 福祉・介護の状況をふまえて、これまで蓄積してきた医療内容や専門的技術などを21世紀に向けてどう(再)構築し、革新していくのかという問題です。この 視点が欠落した医療構想の論議は、ともすれば、各科の意向の寄せ集めで中途半端に終わっていたり、青年・中堅・ベテラン医師の世代間の誤解や不団結を招い ている場合があります。広い視野に立った真剣な論議を尽くして、こうした事態をのりこえていかなければなりません。
民医連の医療・福祉宣言づくりは、以上の全体を貫く重要なとりくみとして提起されたものであり、医師集団はその論議の過程を大切にしつつ、院所の宣言づくりの先頭に立つことが大事です。
〈現状の打開のためにただちに手を打つべき諸課題〉
1.目的を明確にした医師労働の軽減
医師労働の軽減は、民医連の医師がものをじっくり考えたり深めたりできるゆとりと時間の確保(地域の人々や民医連外の医師らとの交流、医局での学習や諸方針の論議、研修指導、医学生対策など)や、健康上の問題の解決のためにただちに手を打つべき課題です。
一部に根深くある「軽減なんてどうせ無理」という発想がどんな問題を招いているか、真剣に考えなければなりません。各科同士あるいは県連内の院所・医局 同士で仕事の大変さの「競い合い」ともいえる状況があり、また外来などの診療場面で「親切でよい診療」とはほど遠い事態を生む場合もあります。
場合によっては、職員・共同組織の合意による医療活動の縮小、パート医師の導入も含め、断固とした軽減への着手が必要です。
2.連帯感に満ちた医局づくりと幹部の役割
また、医師集団にとっての医局という組織機構の重要な意義をあらためて鮮明にし、個々の医師が大事にされ連 帯感あふれる医局づくりのとりくみを徹底して強化しなければなりません。医局会議などで、民医連の方針を日常の医療活動や研修と結びつけて論議し率直な意 見を出し合えるような運営を目的意識的に追求することが大事です。 医師問題の局面を打開していくうえで、法人・院所の指導部集団、特に事務幹部の役割は決定的であり、個々の医師の状況をよく掌握し積極的なイニシャチブ を発揮することが必要です。医師と事務幹部の協力による医局づくりを、これらの中心環として位置づけ重視します。また、県連理事会や医師委員会は、法人・ 院所の指導部集団への積極的な問題提起を行うなど役割を果たすことが重要です。
(3)医学対活動での飛躍をめざす大運動について
医学生対策での99年卒受け入れは111人でした。今年に入り、1年生をはじめとして全体で新たに100人近い奨学生が生まれるなど、民医連への参加を決意する医学生が増加傾向にあります。
各地で民医連の奨学生が中心となり、医療問題の自主的な学習会や患者訪問などの「奨学生活動」が活発に行われて、「第20回民医連の医療と研修を考える 医学生のつどい」(8月17~19日、東京・千葉)の成功に連動しています。特に「つどい」の実行委員の医学生が、いろいろな角度から民医連についての学 習を積み重ね、将来の医師としてのあり方を語り合い仲間を増やしながら成長している姿は、私たちの希望になっています。日本の医学生は今、大学・教育をめ ぐる問題状況(世界一の高学費と極端に貧困な施設、知識詰め込み授業、試験の連続と留年の多発など)や医療改悪の進行のなかで、現状への不満と将来への不 安をいっそう募らせ、「どういう医師になるか」「どのような場で国民の立場に立つ医師としての役割、使命を果たせるか」など、生き方を激しく模索していま す。卒後研修制度の改革の動きが活発になるなか、少なくない医学生が進路選択の基準をもちえないままいろいろな研修施設を見てまわりつつ混迷するといった 状況があります。
民主的医学生運動の中心である医学連(全日本医学生自治会連合)が、このような医学生の悩みや要求をとりあげて、医学教育や卒後研修の改革の運動をすす め、実際に成果をあげつつ、組織的前進(医学連加盟校の拡大など)を遂げていることは重要です。医学生の要望や期待にこたえて、民医連が、第四二回全国医 学生ゼミナール(岐阜大)をはじめとする自主的なとりくみの成功を援助、応援することは一段と大事な課題になっています。
この間、民医連への参加を決意する医学生の多くは、いろいろな企画への参加と民医連職員との交流を通して、「今まで民医連について独善的なイメージを もっていたが、医療や福祉、卒後研修を良くしていくために民医連外のいろいろな人たちと協同して真剣にがんばっていることがわかった」「医師になろうと 思った初心と民医連の姿が結びついた」という発言をしています。
たくさんの医学生が実習などで院所に訪れるこの夏、医師集団はもちろん、すべての職種・職員が医学生との交流を深め、医療や民医連への思いを語り合いましょう。
県連・院所の医学生委員会と医学対担当者は指導部集団と力を合わせて、いかに多くの医学生と民医連との結びつきをつくるか、いかに多くの医師や職員集 団、共同組織の人々がこの活動でそれぞれの役割を果たすかという観点で、医学対活動の内容を見直し(ワンパターンやスケジュール消化型に陥らず)発展させ ることが重要です。
〈「大運動」の目標と基本方針〉
夏のとりくみの到達点に立って、全日本民医連として、9~12月の期間、「医学対活動の飛躍をめざす大運動」を提起します。
医学生の民医連運動への合流の条件と可能性が客観的に広がりつつある今、私たちの力を集中したとりくみで、それを現実のものにしていかなければなりません。
大運動の目標を、全学年を通して新たに100人の奨学生を増やすこととします。重点的な内容は、6年生対策で早期に昨年実績(111人)を上回ること、 5年生・4年生の奨学生をそれぞれ120人(+約30人)、100人(+約20人)に到達させることです。そのために、つながりのあるすべての医学生との 対話・懇談を行います。
大運動の基本方針は次のとおりです。
- 全日本民医連として、宣伝・対話の基調となるリーフレットを作成する。
- 地協・県連ごとに目標を明確にし、結びつき名簿(実習・見学経験者、各種企画参加者)を整え、連続的なトーク集会や懇談会などを開催する。
- 対話・懇談では、医師集団と事務幹部が先頭に立つとともに、全職種、共同組織の参加を徹底して重視する。
- 医学生が医学生に働きかける活動を促す。そのために、全日本あるいは地協で奨学生(県連代表者)会議を開催する。
- 全日本民医連、地協担当理事会議、県連理事会で推進の責任をもつ体制を確立する。
- 地協として重点大学に対して共同の働きかけを行う。
この大運動を全職員と共同組織の積極的なとりくみにするうえで、全日本民医連として別途アピールを用意します。各院所でも全職員と共同組織にむけた「訴え」を独創的につくりましょう。
なお、卒後研修についての医学生の多様な関心にこたえるためにも、民医連の全国組織ならではの特徴を生かすことが重要です。地協としての医師養成方針の 確立を展望しつつ、臨床研修指定病院の取得や診療所研修など地協レベルの研修協力の論議と具体化を急いですすめましょう。
おわりに
医療の分野が完全に「営利・市場化」のもとにおかれているアメリカでは、いのちの尊厳よりも経済効率が優 先され、医療を受けられない患者が続出し、無保険者が人口約2億6000万のうち4000万人に達し、景気が上向きといわれる中でもその数は増大しつつあ り、弱者が悲惨な状況におかれています。
これらは、「市場原理にもとづく選択と競争」ともいわれる新自由主義にもとづく戦略のもとでひきおこされています。日本の支配層もこうした「羅針盤のない航海」に突入しつつあります。
来年の民医連総会は、21世紀初頭の情勢を大きな視点から把握し、患者・地域住民の人権を守る立場から医療や福祉の分野でどのような方針を打出すか、重 要な総会となります。二一世紀論を大いに学習し、論議を深めようではありませんか。
語句説明
(注1)
〈たたかいで約束させた修正〉
(1)保険料、利用料の減免を「経済的理由」に拡大させ、その財政措置を国が努力すると厚生大臣が答弁、(2)高すぎる保険料を軽減するために国が 2000億~3000億円の予算措置を検討(3)自治体独自の「上乗せ、横だし」を保険料でなく自治体の一般財源を使うことも自治体の判断とする事を認め る答弁を引き出した?特養ホームへの自治体の補助事業に対し厚生大臣が「福祉の後退につながらないように措置すべき」と答弁(4)特養ホーム入居者の入院 については三カ月間は認めると答弁(5)介護保険に含まれない介護サービスに対する国の補助事業の継続、など。
(注2)
〈新自由主義〉
資本主義は当初、市場での自由な経済活動によって社会が順調に発展すると考えられていました。その後1929年の世界恐慌を経て、自由放任では失業問題 などが解決できず、国家が財政支出を増やして需要をつくりだすことで失業者を救済できると主張したケインズ理論が各国に広がりました。しかし、七〇年代に はいり、財政危機やスタグフレーション(インフレと不況の同時進行)など、資本主義の矛盾がさまざまな形で深刻になりケインズ理論の破たんがさけばれるよ うになりました。新自由主義は、こうしたケインズ理論に変わって、徹底的に市場での自由競争にすべてをゆだねようという考え方として優勢になり、アメリカ のレーガン、イギリスのサッチャー、日本の臨調「行革」路線に代表される保守政府の経済理論として採用されました。この政策は、「小さな政府」「自由な経 済と強い国家」、すなわち社会保障の削減、大資本がはばをきかす弱肉強食の社会、軍備の増強を主張します。
(注3)
〈「人権と非営利のまちづくり」の課題〉
社保委員長会議では、まちづくりの課題に民医連が参加していくうえでのひとつの考え方として、次の四点が提起されました。
- 施設展開や医療・介護のネットワークづくりを通して担う役割
- くらしや営業・文化・教育など、地域住民の要求にもとづきすすめられるとりくみへの参加
- 配食・ホームヘルパーなどのボランティアや介護NPO法人など、非営利セクターとの共同
- 革新自治体建設、自治体要求運動など住民が主人公となる自治体づくり