(得)けんこう教室/AEDと救命処置/あなたの勇気で救命のチャンスが広がる
角南(すなみ)和治 岡山協立病院内科NPO救命おかやま・監事
AED(自動体外式除細動器)をご存知ですか。正常に動かなくなった心臓に電気ショックをあたえる救命器機です。
ここ数年、駅・空港・学校など公共施設に広く設置されています。昨年から新幹線の車内にも置かれ、街ではAED搭載の自動販売機も見られるようになりました。設置台数は、約12万9000台となり(2007年12月・厚生労働省調べ)、3年間で約20倍に増えています。
今年3月の東京マラソンでタレントの松村邦弘さんが突然倒れましたが、AEDを用いた迅速 な対応で救命されたのは記憶に新しいところです。2005年の愛知万博では、会場の300メートルごとにAEDが設置され、6カ月の開催期間中に、4人も の人がAEDで救命されました。
生き返らせる魔法の器械?
AEDはどんな状況でも命を助けてくれる、魔法の器械というわけではありません。AEDが威力を発揮するのは、突然、人が倒れて意識を失ったときなどにおこる「心室細動」(心臓がけいれんのようにピクピクと動くだけの状態)、いわゆる心臓麻痺(まひ)の場合だけです。
それでは役に立たないのかと思われるかもしれませんが、人が突然倒れたときの多くは心室細動になっており、この時点では救命のチャンスが残っています。
心室細動がおこる主な原因は、急性心筋梗塞をはじめとする心臓病ですが、ボールや肘などが 胸にボンとあたっておこる「心臓震盪(しんとう)」も同じ状態です。心室細動では、全身に血液を送ることができず、何もしなければ5~10分で心臓は完全 に止まってしまいます。ただしAEDで、早期に電気ショックをあたえれば、心臓麻痺の状態を抜け出して元の正しいリズムで動くようになり、救命できる可能 性が高まります(図1)。
消防庁の調査によると、一般市民によるAEDの実施件数は、2005年92件、2006年264件、2007年486件と着実に増加しています。
また、2007年に一般市民が目撃した心肺機能停止傷病者のうち、市民による応急処置がされなかったときの一カ月後の社会復帰率は4・4%です。応急処置があった場合は7・9%ですが、さらにAEDが実施されたときは実に35・5%と、大きな成果をあげています。
AEDの操作は簡単
2004年7月、法律上でも一般市民の緊急時AED使用が認可されました。現在、数社の製品がありますが、いずれもその操作は簡単です(図2)。
ふたをあけると電源が入り、音声ガイドが流れるのでそれに従います。倒れている人の胸をあ け、肌に直接シール状のパッドをはりつけます。器械が自動解析をおこない、電気ショックが必要かどうかを判断します。ショックが必要であればボタンを押す 指示が出ますので、ボタンを押してください。このとき高エネルギーの電気が流れますので、周囲の人も含め、倒れている人のからだに触れないよう注意が必要 です。
このように、はじめてでも簡単に操作できるようになっています。講習会で一度経験すると自信になると思います。
AEDと心臓マッサージは車の両輪
では、目の前で人が倒れたとき、具体的にどうすればいいのでしょうか?
「大丈夫ですか~」と声をかけ、反応がないときは、すぐに「119番通報」です。協力してもらえる人がいるときは、通報をお願いしてください。最近では携帯電話からも地元の消防署につながるようになりました。AEDがあれば、近くの人に指示してもってきてもらいます。
ここで救急隊到着までじっと待つだけではいけません。ただちに「心臓マッサージ」(胸骨圧迫)を開始します(図3)。
胸の真ん中(左ではない)の固い骨の上(高さは左右の乳頭を結ぶところ)に、掌(てのひ ら)のつけ根をおき、1分間に100回くらいのペースで押し続けます。絶え間ない心臓マッサージをおこなえば、先述の図1のように10分後でも救命できる 可能性は数十%まで増加します。
AEDがいかにすばらしい器械でも、AED到着までの心臓マッサージがなければ効果を発揮 できません。万一のとき、とにもかくにも心臓マッサージが重要です。AEDが到着したら、器械の指示に従います。AEDで電気ショックをあたえた後も、た だちに心臓マッサージを再開してください。しばらくすると、再びAEDが自動解析をおこない、電気ショックが必要かどうかを音声で案内します。
突然の心停止のときの人工呼吸は、特殊な状況(注)を除き、救急隊到着までの間に絶対に必 要というわけではないことがわかってきました。東京と大阪での大規模な研究で、心臓マッサージだけでも救命率が良好であることが証明され、いずれも世界的 に高い評価を受けています。現在、日本の蘇生ガイドラインでも人工呼吸は省略してもよいとなっています。
勇気をもって行動を
一般市民による救命処置実施率は、まだ30%台です。救命には、そばに居合わせた人の対応が不可欠です。119番通報―心臓マッサージ―AEDといった組み合わせだけで簡単に対応できます。
目の前で人が倒れたとき、頭の中が真っ白になり、足がすくんでしまうかもしれませんが、ぜひ勇気を出して手を差し延べてあげてください。
あなたの勇気がきっと、ひとりの大切な命を救う大きな力になると思います。
(注)特殊な状況…小児、溺水・外傷・気道閉塞・急性呼吸器疾患・薬物過剰摂取による無呼吸など
いつでも元気2009年8月号
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