(得)けんこう教室/コンタクトレンズで入院?!/「これ一本でお手入れ簡単」は大丈夫か
中村啓子 総合病院鹿児島生協病院眼科
入院治療が必要な角膜感染症の40%が、コンタクトレンズの影響だったということをご存知ですか? 2007年から始まった多施設共同の大規模臨床研究(注)で、このことが明らかになりました。
とくに治療困難な「アカントアメーバ角膜炎」が急増したことは、コンタクトレンズの手入れ方法のさまがわりが深く関わっていると心配されています。アカントアメーバは土や水道水、ほこりの中などどこにでもいるアメーバです。
コンタクトレンズに二重の危機
角膜はもともと病原体の侵入を許さない強固なバリアー(防壁)なのです。それなのに、なぜ感染症を起こすのでしょうか。
それは角膜が傷ついてバリアーが壊れているからです。角膜を傷つけた覚えがなくても、不適切なコンタクトレンズの使用で傷ができていることは十分ありうることなのです。
またバリアーに傷があっても、そこに病原体が多数存在しなければ感染症は起きません。コンタクトレンズが病原体にひどく汚染されていると、コンタクトレンズを目につけるのは、角膜に病原体を植えつけているのと同じことになります。
つまりコンタクトレンズを使用するということは、二重の危険(傷と感染)を抱えることだと理解しておく必要があります。
「頻回交換タイプ」が人気だが
1950年代にハードコンタクトレンズ、70年代にソフトコンタクトレンズ、90年代にディスポーザブル(使い捨て)コンタクトレンズが使われるようになりました。
いまでは年間経費が比較的かさまない「頻回交換タイプ」のソフトコンタクトレンズが好まれる傾向にあります。このタイプのものは、2週間または1カ月を期限に、コンタクトレンズを捨てて新しい品に交換するまで洗浄・消毒を毎日繰り返すという扱いをするものです。
歴史の古いハードコンタクトレンズは水分を含まず、また表面が水になじみにくい特徴があります。乾燥した状態での保存もできます。一方、ソフトコンタクトレンズは水分を含んでいて、乾燥させると干からびて縮んでしまうため、液体の中で保存しなければいけません。
水分があるからこそ、細菌やアカントアメーバ、かびなどの病原体が繁殖しやすく、ソフトコンタクトレンズには消毒が欠かせないのです。
MPS消毒法の落とし穴
ではソフトコンタクトレンズの最強の消毒法は何でしょうか。それは煮沸です。アカントアメーバも死滅させることができます。しかし、頻回交換タイプのコンタクトレンズは煮沸すると変形してしまうため、薬液による消毒になります。
これがタイトルの「これ一本でお手入れ簡単」というマルチパーパスソリューション (MPS)で、洗浄・消毒・保存・すすぎのための薬液です。頻回交換タイプに限らずソフトコンタクトレンズを使っている人の80%が、手軽さにひかれてこ のMPSを使っているといわれています。
ところがこの方法、安心ではありません。消毒効果を評価する国際標準では、特定の3種類の細菌と2種類のかびに有効かどうかが判定基準です。問題の「アカントアメーバ」に対する効果は調べていません。
それに細菌やかびに対して消毒効果が不十分だという結果が出ても、「こすり洗いとすすぎ」を併用して合格点に達すれば、「消毒液」とはいえないけれど「消毒システム」として認められるというものなのです。
よって「こすり洗いとすすぎ」をしないで、MPSに漬けてさえおけば安心とは決していえません。食物を冷蔵庫に入れておけば安心だとはいえないのと同じで、MPSの過信は禁物なのです。
安全のために初心に戻って
では安全にソフトコンタクトレンズを使うためにはどうすればよいのでしょうか。それは初心に戻り基本に忠実に扱うことです。
コンタクトレンズを買うときにもらったパンフレットに書かれている内容をもう一度読み直し、また眼科で受けた説明をしっかり守りましょう。
- 手を石鹸で洗う
- はずしたコンタクトレンズは必ず薬液でこすり洗いし、十分すすぐ
- コンタクトレンズをとり出したら、レンズケースは洗って乾燥させる
- レンズケースはときどき更新する
- コンタクトレンズをつける前にもすすぐ
- 3カ月に一度は眼科で診察を受ける
- ネット通販でコンタクトレンズを買わない
間違ってもしてはいけないのは交換期限を過ぎたレンズを使い続ける、人のレンズを借りる、レンズケースに液を入れっぱなしでつぎ足して使い続ける、水道水でコンタクトレンズをすすぐことです。
あなたの角膜を大切に
MPSの改良など、ユーザーの生活パターンに沿ったコンタクトレンズの安全性向上への対策はもちろん必要ですが、きょうからすぐできる「コンタクトレンズの正しいとり扱い」で自分の角膜を守りましょう。情報の窓口としての「かけがえのない眼」を大切にしたいものです。
イラスト・いわまみどり
(注)多施設共同の大規模臨床研究 学会、研究会、医師など複数の施設が協力しておこなう大規模な調査・研究のこと。
いつでも元気2008年10月号