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ニュース・プレスリリース

(得)けんこう教室/「百日咳」おとなも注意/子どもにうつすと大変です

鈴木 隆 群馬・高崎中央病院小児科

 百日咳とは、名前のとおり咳が長く続く呼吸器の感染症です。かつては子どもの病気と考えられ、予防接種の普及により患者はだいぶ少なくなってきていました。

 ところが最近になり、大学で集団感染がみられるなど、成人になって百日咳にかかる人が増えてきています。今回は、百日咳の特徴や注意することなどをお話しましょう。

子どもがかかると危ない

 百日咳を起こすのは、百日咳菌という細菌で、患者の咳やくしゃみが飛んでうつります。感染後7~10日すると、鼻水や咳などの風邪症状がはじまり、やがて咳の回数が増えてきて激しくなります。多くの場合、熱はないのですが、短い連続的な咳き込みがとぎれなく続きます。

 症状がひどくなると、顔が真っ赤になってむくむほど咳き込み、吐いてしまうこともあります。また、この咳き込みは夜に強く出るので、睡眠不足になったりして、長い間つらい症状が続きます。

 「百日」というのは大げさですが、通常こういう症状が一カ月くらいは続きます。

 子どもがかかりやすく、乳児では呼吸が止まったり、肺炎になることも少なくありません。時には重症になり、いまでも死亡することがあるので、とくに注意が必要です。

抗生物質が感染を防ぐ

 典型的な症状が出れば、ほとんど判断できますが、最終的には血液検査で診断します。百日咳 菌に対する血液中の抗体価を測るのです。抗体価の検査結果が出るまでに数日かかりますが、子どもの場合は、白血球(とくにリンパ球)が大きく増えるので、 この方法でもある程度の見当がつきます。

 治療は、マクロライド系の抗生物質が有効です。咳はしつこくて治療を始めてもすぐに止まるわけではありませんが、ほかの人への感染を防ぐためにも、百日咳かな? と思ったら早めに抗生物質を始めるのがよいでしょう。

予防にはワクチンが有効

 百日咳には予防接種が有効です。日本のワクチンは副作用も少なく効果は優れています。百日咳、ジフテリア、破傷風のワクチン・トキソイドを一緒にした「3種混合」とよばれているものです。

 生後3カ月を過ぎたらBCGに続けて、できるだけ早く受けましょう。1カ月間隔で3回接種し、1年後にもう一回おこないます。

 回数が多いので、いろいろな事情でうまく続けて受けられないこともあると思いますが、そんなときは小児科医に相談してください。それぞれのお子さんに一番よい方法を考えてくれます。

いま成人で流行している

 ワクチンの開発と普及、乳幼児の予防接種が定着してきたことで、子どもの百日咳は順調に 減ってきました。逆にここ数年は、10歳以上の患者が多く見られるようになりました。昨年5月には香川大学で学生に大流行し、一時休校になるといった事件 もあったように、流行のようすが変わってきました。

 国立感染症研究所による最近の統計では、2008年1~5月に全国で2177件の報告があ り、そのうち20歳以上の患者が約40%を占めていました。このように成人の患者が急に増えてきています(図1)。いくつかの施設の報告では、長引く咳 (2~4週間ほど)のある成人患者の20~25%に百日咳の疑いがあるといわれています。

kenkou_2008_08_01

 なぜ成人でこんなに増えているのでしょうか? それは、予防接種の効果が短期的で、10年 以上たつと効果が落ちてしまうからです。子どもの時に予防接種をしていても、この間に患者と接触する機会がないと十分な免疫がなくなり、感染してしまうよ うです。最近の「はしか」の流行と同じことがいえるようです。

思春期にもワクチン接種を

 全国の感染症の報告を見ると、2008年は今まで以上に早いペースで患者が増え、5月はことに大幅に増えました(図2)。早急な対策が望まれます。

kenkou_2008_08_02

 成人の患者の症状は長引く咳だけなので、風邪との見分けがつかず、数週間で自然におさまっ てしまいます。しかし、「1人の患者から平均10人に感染する」といわれるくらい感染力が強いので、まだ予防接種を受けていない小さい子にうつすと大変な ことになります。早めに診断して治療を始めることが大事です。

 咳がすぐにおさまらなくても、抗生物質を飲めば、ほかの人への感染力はなくなります。気になったら早めに受診して、血液検査で確かめてもらってください。

 同じように成人の百日咳が流行した欧米では、思春期にもワクチン接種の機会を設けています。アメリカでは2005年に成人用の3種混合ワクチンが認可されています。

 日本でも思春期のワクチン接種を検討する段階ではないかと思われます。この間流行した「はしか」対策に続いて、いま行政の機敏な対応が求められています。

 (図1・2とも国立感染症研究所「感染症情報センター」ホームページより)

いつでも元気2008年8月号