(得)けんこう教室/耐えがたい痛み「線維筋痛(せんいきんつう)症」/まわりの理解、心のケアも大切に
坂本和利 北海道・勤医協札幌クリニック内科
線維筋痛症とは、全身的慢性疼痛疾患であり、全身に激しい痛みが起こる病気です。一昨年、テレビ局の女性アナウンサーがこの病気で苦しみ、自殺したことから注目されました。
この病気は自律神経失調症や更年期障害、うつ病、不定愁訴症候群などと間違われやすく、明確な診断や有効な治療がおこなわれないまま、患者さんは医療機関を転々としてしまうことが多いのです。
線維筋痛症は50歳代の女性に多いのですが、若年から高齢者、男性にも見られます。現在、人口の1・66%、全国で約200万人いると推定されています。
原因についてはまだ解明されていませんが、事故や手術などの肉体的・精神的ストレスが引き金となって発症することが多いようです。
最近では、痛みを抑制する機能の低下が主な原因と考えられるようになりました。つまりスト レスその他によって、痛みと感じるか感じないかの限界が引き下げられ、少しの刺激でも痛いと感じるようになったためと考えられています。これに対応して痛 みを和らげる薬や方法などがわかってきました。
診断後、改善した例
札幌市在住・40歳代女性 数年前から肩こり、首筋・背中の痛みなどで悩みはじめ、やがて下痢、腹痛、不眠、冷え性などとともに痛みがひどくなりました。
内科、整形外科、産婦人科、精神科などを受診しましたが、原因不明、自律神経失調症などといわれ、その後も症状は悪化。不眠、うつ症状なども強くなり、日中も寝ていることが多くなりました。
数年後、「線維筋痛症」と診断され、日常生活の中で痛みの緩和、軽減を試みました。少しずつ改善がみられ、いまでは普通に生活ができるほどに回復しています。病名がわかると何より、気持ちが楽になります。生活のなかで痛みをコントロールできるようになることが大切です。
「痛み」の症状が大きく変化
この病気の特徴は広範囲、またはある部分の痛みです。痛みは全身のどこにでもおきます。痛 みの程度は軽度から激痛で耐え難いものまでさまざまです(表)。重症化すると、軽微の刺激(爪や髪への刺激、温度・湿度の変化、音など)で激痛が走った り、痛みの部位が移動したり、天候などによって痛みの強さが変わったりすることもよくあります。
症状が大きく変化するため、「生活に支障がない時」と「悪化して困難になる時」があり、そ のため「なまけ病」とか「廃用症候群(使わないために筋力が低下する)」などと誤解され、つらい日々を過ごす人も多くいます。一般の医療関係者にも理解で きないために、さらに深刻な状況になり、痛みも悪化し日常生活に支障をきたし、自力での生活は困難になることもあります。
また個人差はありますが、こわばり感、倦怠感、疲労感、睡眠障害、抑うつ、自律神経失調、頭痛、過敏性腸炎、微熱、ドライアイ、記憶障害、集中力欠如などの症状を伴います。リウマチや他の膠原病などを併発する人もいます。
痛みによって不眠となりストレスが溜まり、さらに痛みを増強させるという悪循環になり、うつ症状が悪化しますが、この病気のうつ症状はうつ病とは区別されます。進行すると日常生活が困難になり、寝たきりとなることも多いです。
検査で異常が見つからない
明確な診断基準はなく、現段階では1990年アメリカリウマチ学会の分類基準(図)を参考にしています。全身に18カ所ある圧痛点を4kgの力で押して11カ所以上の痛みがあり、また広範囲の痛みが3カ月以上続いている場合、線維筋痛症と判断します。
初期には圧痛だけで診断できますが、進行した症例では併発症などの問題があって、痛みの問 診、経過、身体所見の観察に習熟した医師の診断も大切です。血液、レントゲン、CRPという炎症反応、筋肉の酵素、筋電図、CT、MRIなどの検査でも異 常が見つからないのがこの病気の特徴です。
痛みのコントロールが大切
現在、特効薬はありません。中枢神経の異常によって痛みの回路が変わるために痛みを抑える 体の機能が働かず、痛みを増加させると考えられています。この状態に対して症状の軽減がおこなわれます。鎮痛剤などは効かない場合が多く、薬物療法として 脳内の痛みをコントロールする作用がある向精神薬(抗うつ剤)などを服用することが主流です。その他、抗けいれん剤、自律神経調整薬、漢方薬などを使いま す。
また、他の病気を併発するとその病気の悪化で痛みが増すため、合併症の検査や治療も同時に おこなわれなければなりません。筋力低下防止のための運動、リハビリの効果的な活用とともに、筋肉の緊張をとる効果のあるリラクゼーション(呼吸法、マッ サージ、温泉など)の併用が改善に向けて期待できます。
日常生活のなかで痛みの状況を捉え、痛みをコントロールすることでかなりの改善が得られま す。痛みの変化などを手帳などに記録し、その状況や程度、内容を把握します。そして痛みに対する薬やリハビリなどを工夫してコントロールします。それが適 切な対処であれば睡眠と日中の活動が向上し、痛みが少しずつ改善に向かうことが期待できます。
日常生活での不安や緊張が痛みを悪化させる原因になっていることも多いので、不安や緊張をひきおこす要因を探し、それに対してリラックスできる状況を作ることも大切です。
いつでも元気2008年5月号