(得)けんこう教室/苦しくない経鼻内視鏡/97%が「次回もこの方法で受けたい」
勝又 勝 神奈川・医療生協かながわおだわら診療所所長
内視鏡検査を受けたことがある方で、「あんな苦しい検査は、もう二度と受けたくない」という方も少なくないのではないでしょうか。また、受けたことがなく ても、「胃カメラ=苦しい・大変」というイメージが強く、医師に勧められても躊躇(ちゅうちょ)してしまう方も多いかと思います。
口からの内視鏡との違いは
今回は、従来の内視鏡のイメージを一変させるような「経鼻内視鏡」についてのお話をしたいと思います。当診療所でも昨年4月に導入しました。
これまでの「経口内視鏡」の場合は、のどを麻酔して口から内視鏡を挿入します。この際、舌のつけ根(舌根部)にカメラが触れるため、嘔吐(おうと)反射が誘発されます(図1)。検査を始めてすぐに感じる、あの「おえっー」とした感じです。
この反射を軽くするために、安定剤の注射を必要とする場合もあります。また唾液の分泌を抑えるために、胃腸の動きを抑える薬(鎮痙剤(ちんけいざい))の 注射を必要とします。これらの薬には当然、副作用やリスクがあります。もちろん、患者さんは検査中に話をすることはできません。
一方、「経鼻内視鏡」は鼻を麻酔して鼻から内視鏡を挿入します。
太さは経口内視鏡の約半分の5ミリ強なので痛みはほとんど感じません(写真上)。この際、舌根部には触れないため嘔吐反射はほとんどおきません(図2)。安定剤や鎮痙剤の注射も必要としません。
検査中に話をすることができるので、患者さんは疑問点をその場で医師に質問することができ、安全で安心した検査を受けることができます。
医師にとっても、嘔吐反射の強い患者さんの検査の場合は観察が不十分になりがちです。また、「早く検査を終わらせてあげたい」という心理状況になってしまい、病変を見落とす危険が伴います。
経鼻内視鏡の初期は検査モニターの画質があまりよくなかったのですが、その後改良され、現 在では経口内視鏡の画質にほとんど引けをとりません。ただし経鼻内視鏡では、粘膜切除術、止血術、異物除去術などの、内視鏡をつかっての特殊な処置はまだ できません。また、まれに鼻から挿入できない患者さんもいます。
3人の早期胃がんを発見
当診療所では、2007年4月から11月までの間に165人の患者さんに内視鏡検査を実施しました。そのうち、鼻から挿入できなかった患者さんは4%でした。鼻道が狭く、挿入時に抵抗や痛みがあったため、口からに切り替えました。
検査後のアンケート結果では、95%の患者さんが「楽だった」と回答し、更に97%の方が「次回も経鼻内視鏡で検査を受けたい」と回答しました。
自覚症状はなく、検診目的で検査を受けた患者さんの中から3人の早期胃がん患者が発見されました。3人ともすぐに手術を受け、がんをきれいに切除することができました。
ピンチをチャンスに変え
当診療所では計画的に経鼻内視鏡を導入した訳ではありません。2006年12月に、それまで使っていた経口内視鏡が壊れてしまいました。すぐに新しい内視鏡を購入する必要に迫られましたが、予算がありません。
そこで職員会議で討議した結果、「『胃カメラが壊れました』特別増資キャンペーン」を展開しよう! ということになりました。さらに1人でも多くの方に、 気軽にかつ安全に検査を受けていただくために「経鼻内視鏡」を購入しようということにしたのです。チラシを作成し、「診療所だより」でも訴え、「経鼻内視 鏡」をアピールしました。
反響は当初の予想よりもはるかに大きく、多くの組合員さんからの増資により、購入することができました。多くの方が他の組合員さんにも訴えていただき、職員も一同、組合員活動の底力を実感することできました。まさにピンチをチャンスに変えることができたのです。
手遅れのがんをなくせる
食道、胃、十二指腸の病気は「早期発見・早期治療」が重要です。特に食道がんや胃がんは、 自覚症状が出現してから検査を受けてもすでに進行がんになっていたり、治療ができない手遅れの状態になってしまっていることが少なくありません。早期発見 の基本は定期的に内視鏡検査を受けることに尽きます。
がんをなくすことはできませんが、「手遅れのがん」をなくすことはできます。今後も民医連の各病院・診療所で経鼻内視鏡が普及し、ひとりでも多くの患者さんに、もっと気軽に胃内視鏡検査を受けてほしいと思います。手遅れのがん患者さんが出ないことを願ってやみません。
いつでも元気2008年3月号