(得)けんこう教室/侮(あなど)れません、低温やけど/気づかないうちに深い傷に
加藤 優子 北海道・勤医協札幌病院皮膚科
すっかり寒くなり、暖房器具が欠かせない季節になりました。電気こたつ、ヒーター、あんか、カイロ、湯たんぽなどは日常的に使っていますが、十分に注意したいのが「低温やけど」です。
低温やけどとは?
熱傷(やけど)は、それ程高い温度でなくても、熱源に長時間皮膚がさらされていると起こります。
例えば、46℃はお風呂の温度より少し高い程度と思われるかもしれませんが、カイロや湯たんぽが体にあたっていると約1時間半で熱傷を起こします。しかし、この程度の温度では熱さや痛みを感じにくいので、気づかないうちに皮膚の深くまで損傷してしまうのです(写真)。
熱傷は傷の深さによって、I~III度に分けられ、「低温やけど」では、最も重症なIII度の熱傷が多く見られます(表)。
発生しやすいところは、熱源に直接さらされることが多い下肢(脚)です。健康な人でも、下 肢は体の他の部位と比べて血流が悪く、感覚が鈍いということも関係しています。特に、すね、かかと、くるぶし、足のゆびでは皮下組織が少なく、すぐ下に骨 があり傷が非常に治りにくい場所です。
冷え性で、電気あんかや湯たんぽなどを使う機会が多い女性で起こりやすいといわれていますが、最近は糖尿病や脳卒中などの知覚障害で熱さを感じにくい方、高齢の方で増加しています。
また熟睡や泥酔時の、熱さに気づきにくい時に起こるケースも多く見られます。小さな子どもでは、熱さや痛みを訴えられないので、大人が十分注意してあげることが必要です。
つけっ放しには注意して!
暖房器具を使用する際は、「つけっ放しにしない」ことが大切です。電気毛布や電気あんかの場合には、寝る前に布団を温めておき、就寝時には電源を切るか、またはタイマーを1、2時間に設定しておきましょう。
もちろん電気こたつでうたた寝しないとか、湯たんぽは厚手の袋に入れて足元から遠く離して置く、もしくは寝る前に布団から出してしまうといった注意も必要です。また、カイロは皮膚に密着させないこともお忘れなく。
十分冷やして早く受診を
熱傷全般にいえることですが、まずは十分に冷却しましょう。流水で30分以上が望ましいですが、むずかしい場合は氷のうや保冷剤をあてても構いません。
その場合、皮膚に直接保冷剤が触れないように(冷え過ぎないように)、タオルを巻くなど工夫しましょう。冷やすことで、ある程度は痛みや炎症を抑えることができます。
その後はなるべく早く病院へ行き(できれば皮膚科を)受診しましょう。見た目にはたいしたことがないように思えても、意外と深くまで達しているのが「低温やけど」の特徴です。
また受傷直後は、正確に重傷度を診断するのが難しく、きちんと手当てをしないと、どんどん深くなってしまうこともあるので、油断は禁物です。
自己判断せず指示どおりに
基本的には病院で指示された通りに処置しましょう。
ここでは患者さんが当院皮膚科を受診された場合に、よくお話しすることを紹介したいと思います。
(1)消毒はしない
患部は水道水、シャワーなどでよく洗うことが大切です。可能であれば、周りの皮膚を含めて石鹸(せっけん)を泡立て、手でなで洗いしてください。
消毒薬は使いません。傷が治っていく過程に必要なさまざまな物質(サイトカインなど)や、それを作る細胞を傷つけ、時に接触皮膚炎(かぶれ)を引き起こすことがあり、かえって治りにくくなることが多いからです。
(2)外用薬を塗り、ガーゼなどで覆う
処方された軟膏(こう)などを一日1~3回、所定の回数塗ってガーゼなどで保護します。ガーゼを換えるときは水で濡(ぬ)らしながら静かにはがすと、痛みも少なく傷に負担がかかりません。
傷を保護し、痛みを和らげながら治療も兼ねる「創傷被覆剤」という、シート状の貼(は)り薬が処方されることもあります。
(3)治ってきたところから保湿剤を塗る
傷は周囲から皮膚が張って乾いてきますが、かゆみが出たり色素沈着が起こったりすることもあります。それらの症状を抑え、また瘢痕(はんこん)(傷あとが少しかたくなったもの)やケロイド(傷あとが盛りあがったもの)を防ぐ目的で保湿剤を塗ることがあります。
いずれにしても、自己判断はせずに治るまできちんと通院することをお勧めします。
いつでも元気2008年1月号