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ニュース・プレスリリース

医療研究室 原爆被害を放射線生物学はどうきりひらくのか

広島民医連 齋藤紀
【広島・福島生協病院 医師】

低線量被曝の意味

 広島・長崎に投下された原子爆弾は、その圧倒的破壊力と放射能による被曝の恐ろしさを世界に知らしめました。あれか ら53年。被爆者の方々は広島・長崎だけでなく全国で生活されており、民医連は「被曝者医療」にも積極的に取り組んできました。今回の医療研究室は「低線 量被曝」について広島民医連の斉藤医師に紹介してもらいます。

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はじめに

 原発労働者の慢性骨髄性白血病事例が労災認定され、低線量被曝が労働行政のサイドから認知されようとしています。低線量については国連科学委員会が、0.2グレイ(Gy)以下を低線量としています。他方、原爆被爆者の低線量被害の認定には、依然として厚い壁があります。

被爆者の「医療特別手当」認定の実情

 図1は旧「原爆二法」および現在の「被爆者援護法」に基づく「認定」の実情を慢性肝疾患の場合でみたものです。爆心 からの被爆距離が1.5km以遠では却下されていることが分かります。DS86に基づけば、広島では0.49グレイ、長崎では0.89グレイ付近といえま す。

残留放射線

 原爆放射線には、爆発後1分以内に空中から放射される初期放射線の他に、中性子が土壌、建築資材などに生じさせた誘導放射能および放射性降下物(フォールアウト)があり、これらを初期放射線に対し残留放射線といいます。残留放射線は低線量被曝をもたらしました。
 図2は屋内で被爆した者が更に爆心1km以内に出入りした場合(B)と、出入りしなかった場合(A)とを比較し、放射能急性症状発症率に違いがあること を示したものです。症状別発生率の比(B群/A群)を3km被爆の場合でみると、発熱2.28倍、咽頭痛3.52倍、脱毛2.97倍です。これは残留放射 線被曝が重なったことを意味しています。(於保源作「原爆残留放射線障碍の統計的観察」医事新報、昭32.10.12)
 図3の曲線は距離別の土壌放射化をみたもので、残留放射線は少線量であり遠距離で激減していることを示しています。(『原爆放射線の人体影響1992』 文光堂、1992)しかしこれら低線量被曝の実際は、図中に記したように1km一週以内入市被曝者で49.3%に急性症状を見(於保論文)、後年のガン死 調査では2km当日入市被曝者で有意の癌死亡率上昇が確認されています。(早川武彦ら「低線量放射線被爆と生体防御機構に関する国際会議」 1992.7.13京都)

逆線量率効果

 低線量被曝の障害機序は不明の点が少なくありません。細胞がうける被曝総線量が少ない場合、単位時間当たりの線量 (線量率)が少ないほど、生物学的影響が大きいとする考え(逆線量率効果)があります。図4はHill(1982)らの報告の図を一部改変し、トレースさ れた曲線のみを示したものです。核分裂中性子をマウス胚細胞由来細胞に高線量率(破線)と低線量率(実線)で照射し、ガン化(トランスフォーム)率を比較 した場合、低線量率照射群(実線)が数10倍高いことを示しています。

最後に

 「放射線生物学」は低線量被曝に対する遺伝子の「応答」に、研究の焦点を合わせてきています。生命の暴力的破壊にで はなく、生命の存続に同伴する「変異」にこそ、解明すべき普遍的課題があるとわかっているからです。つまりそのことは「低線量放射線」が被害として生命現 象に関与した場合、その影響の時間的広がりをいみじくも示唆したものといえます。
 全日本民医連医療活動部会は、昨年『民医連医療の理論・被爆者医療』を発刊しました。低線量被曝のもつ歴史的意味や今日的意味をつかむうえで参考になると思います。


●齋藤紀(さいとう おさむ)医師のプロフィール
1947年生まれ。広島大学原爆放射能医学研究所、広島大学保健管理センターを経て福島生協病院(258床)。1988年病院長。IPPNW(核戦争防止 国際医師会議)日本支部会員。全日本民医連被爆問題委員会委員。専攻は内科・血液学。

Medi-Wing 第11号より