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ニュース・プレスリリース

医療研究室 HUSの機構解明が待たれるO-157

阪民医連 小松孝充医師
【大阪・耳原総合病院 小児科医師】

ベロ毒素を産生し、腸管粘膜に出血をおこすVTEC

病原性大腸菌O-157とは

 大腸菌は通常人や動物の腸管内正常細菌叢を構成する細菌の一種であるが、一部の大腸菌は下痢を引き起こし、下痢原性 大腸菌あるいは広義の病原性大腸菌と呼ばれる。病気の起こり方から5種類に分けられる。(図1参照)  ベロ細胞(アフリカミドリザルの腎臓細胞)という培養細胞に障害を与えることから、ベロ毒素と呼ばれる毒素を産生する大腸菌をベロ毒素産生と呼び、 O-157もその一種である。VTECによる腸炎は軽度の発熱、下痢ではじまり、激しい腹痛と鮮血便をともなう出血性大腸炎をおこすことから、腹管出血性 大腸菌とも呼ばれる。Oー157H7とは菌体抗原のうち157番目、鞭毛抗原(H抗原)の7番目を意味する。(図2)  病原性大腸菌O-157は、1982年アメリカでハンバーガーを原因とする集団食中毒が起こった際に初めて検出され、日本では1984年に初めて報告さ れ、1990年埼玉県浦和市の幼維園で集団発生し、以後毎年集団発生が散発している。(図3)

 

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図1 図2
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図3 図4

出血性大腸炎

 VTECによる出血性大腸炎の特徴は、①潜伏期は2~7日と一般の食中毒に比べてかなり長く、少ない菌量でも感染す る(100個程度)。一般に大腸菌は腸管で増殖して、10の7乗~10の9乗ミリリットルに達すると下痢をおこす。症状は血便と激しい腹痛を伴う。②溶血 性尿毒症症候群 HUSを0.2%~2%位の割合で合併する。③死亡率はHUSのうち3~5%のときに10%位となり、特に免疫能の弱い幼少児と老人に多 い。しかし、感染した人すべてが腸炎を発症するのではなく、無症状に保菌する例や軽度の下痢症状のみの例なども見られる。逆に重症化例(HUS発症例)で は多くは頻回下痢か血便が認められている。VTECの特徴は、ベロ毒素という外毒素を産生し、腸管上皮細胞に付着し、腸管粘膜に潰瘍性病変形成による出血 をおこす。

VT(ベロ毒素)の作用機序

 VTは赤痢菌の志賀毒素との類縁関係にあり、分子量約7万の蛋白からなる。Aサブユニットが標的細胞の蛋白合成を阻 害し、Bサブユニットが標的細胞のレセプターに結合し、VTが細胞内にとりこまれる。VTには志賀毒素と同じVTー1と一部のアミノ酸が違うVTー2の2 つのタイプが存在し2型の方が毒性が強いといわれている。
 VTが毛細血管内皮細胞を障害し、血栓性毛細管症の状態となり、HUSをおこすとされているがまだその機構は解明されていない。

溶血性尿毒症症候群 HUS

 HUSは急性腎障害・血小板減少症・溶血性質血を主症状とし、成人に多い血栓性血小板減少性紫斑病と類似疾患と考え られている。アメリカではHUSの約90%がVTECによる感染が認められる。一般に小児のHUSでは保存療法で改善する例が多いが、中に血液透析や血黎 交換を要する例もある。死亡例では神経症状を伴うものが多い。後遺症は、小児の下痢後のHUSでは10%程度の高血圧・腎障害を残すとの報告もある。(図 4)

Medi-Wing 第6号より