いつでも元気

2014年1月1日

元気スペシャル すべての患者に愛情を 仲間に支えられて育つ研修医

 二〇一三年も民医連に新入医師一三九人が入職しました。医師たちはどんな経験を積み、どんな学びを得ているのでしょうか。
 福岡・千鳥橋病院の初期研修は、「基本的力量と豊かな人権意識、健康増進への意識を備えた地域医療を志向する医師を養成する」という理念をもとに、研修医を育てています。

女性医師が元気な病院

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山北さん

 千鳥橋病院・医局事務部の医学生担当者は、九州大学や佐賀大学などの各大学で月一回おこなわれる民医連の「奨学生会議」に参加して、奨学生の面談をおこなったり、奨学生たちに昼食を振る舞う会を開いたりしています。
 山北舞穂さん(医学生担当)は「千鳥橋病院の医局には垣根がない」と言います。医局の食堂では、医師たちがご飯を食べながら「この患者さんこういう病気 なんですけど、どう思いますか」などと、気軽に話し合う姿が見られます。
 「JOYJOY(女医・女医)の会」も大好評。この会は女性医師が集まる飲み会で、同性ならではの悩みを話し合うこともでき、 “女性医師が働きやすい職場”づくりに一役かっています。
 「医局の雰囲気がいいため、後期研修(三年目以降の研修)も千鳥橋病院に残る医師が増えました」と山北さん。

研修医をみんなで支える

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この日は指導医の長谷川久美医師(奥)といっしょに8件の往診をおこなった

 一年目の研修医・緑 春奈医師は、大学三年生のときに民医連職員の叔父に勧められ、千鳥橋病院を見学。男性医師から「うちの病院は女性医師が元気。そういう病院は全体的にも元気なんだよ」と声をかけられ、医局のアットホームな雰囲気にも好感をもち、民医連の奨学生に。
 同病院が往診をはじめ、地域医療や総合内科医の養成にも力を入れていることも魅力的に感じました。そして「この病院なら私のめざす医師像に近づける」と、入職を決めました。
 入職して一カ月間は、看護師や事務職員などとチームを組み、地域を歩きながら住民にインタビューをして、問題点などを発表する「地域レポート」をつくり ました。「このとりくみで同期の他職種との交流が深まって、わからないことがあっても気軽に聞くことができるようになりました」と緑医師は話します。
 その後は、総合内科の研修を三カ月。週一回、先輩医師が「困っていることはないか」「指導医や上級医(研修医と指導医の間に入る若手医師)に聞きにくい ことはないか」などを聞いてくれる、細かいフォローも充実。「研修医の意見を聞きながら育ててくれようとする姿勢がうれしかった」と緑医師は微笑みます。
 総合内科の研修中に、緑医師は受け持ちの患者さんから「家に帰らせてほしい」との強い希望を受け、指導医や看護師などと相談した結果、退院を許可することにしました。
 その患者さんが退院した数日後、カルテを見ると、「亡くなられている」と記載されており、頭が真っ白に。緑医師は「もっとできることがあったんじゃないか」と自分を責め、悩みました。
 そんな緑医師の変化に気付いた先輩医師が角銅しおり医師(初期研修委員長)に報告。看護師を含めた話し合いの場が設けられました。「患者さんが亡くなっ たのは、緑医師が担当したからではない。治療は適切だったと思う」「治療方針も先生が一人で決めたんじゃなくて、チームで決めたものだから」と励まされ、 元気を取り戻すことができました。

心に残る実例

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担当の入院患者さんと

 緑医師が初めて担当した高齢の入院患者さんとの関わりも、大切な経験となっています。
 患者さんが退院できる見通しが立ったときのこと。患者さんは「家に帰りたい」と言うものの、介護者である娘さんがご主人の両親の介護にも追われており、退院させることができずにいました。
 緑医師は施設入所も考えましたが、患者さんの思いや、施設で亡くなってしまう可能性なども考え、葛藤します。しかし娘さんが体調を崩して精神的にも不安 定になったことで、療養型の病院に転院してもらうことを決めました。
 患者さんには「ずっと入院するんじゃなくて、娘さんの体調がよくなるまでです。家からも遠くないので、娘さんも今までよりもすぐに会いに来れますよ」と、説明しました。
 「その患者さんには、たいした治療はできなかったとの思いがあります。それでも『ソーシャルワーカーと相談して、施設を探してみましょうか』と提案した ときの娘さんは、ほっとしてとても救われたような表情でした。患者さんやご家族とまっすぐに向き合い、いっしょに悩んだ事例です。いつまでも忘れたくな い」と緑医師は話します。

研修医の成長が職場を元気に

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同期の医師たちと医局で談笑

 角銅医師は「研修医が元気だと職場が明るくなる」と話します。食堂にあるホワイトボードには、研修医が苦手な手技の指導を求める書き込みが見られます。
 「研修医が処置や検査などで、できなかったことができるようになると、先輩医師たちも自分のことのように喜んでいます」
 また、各科に研修医が入ると、指導医がかんたんにできることでも研修医にとっては難しい診断や医療技術などがあり、疑問をもつことがあります。「それな らば追究して、会議で発表してみよう」と、学術的にも深まっています。
 「そんなことがきっかけで、研修医が『○○科もいいなあ』などと発言したことを指導医に告げると、指導医も『本当?』と、うれしそうにするんですよ」と、角銅医師も微笑みます。
 また、同病院の外来患者は約三割が生活保護受給者です。「研修医たちには “その人たちの生活を見ながら診療をする”ということはどういうことか。“その人たちの、生活保護費が削減される”ということはどういうことか、を考えな がら診療してもらいたい」と角銅医師は話します。「患者さんと出会って病気の原因を追究しようとすると、生活などで困っていることに突き当たる。その原因 をひもとこうとすると、医療だけでなく社会保障や憲法についても学ばなければいけない」と力を込めました。
 緑医師は今後の目標について「どの科の研修も楽しく、興味を惹かれます。でも今は、どんな患者さんにも愛情をもって接することができる、総合内科医めざしてがんばりたい」と目を輝かせました。

文・安井圭太記者/写真・酒井 猛

いつでも元気 2014.1 No.267

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