いつでも元気

2013年11月1日

特集1 軍隊のない日本に 米軍は撤退を 伊佐真次さん×山崎正則さん

 国民の意思を無視したオスプレイの日本配備や高江ヘリパッド工事、辺野古新基地建設の推進。そして絶えることのない米兵犯罪。日本政府は「米軍は日本を守るために駐留している」と言いますが、本当なのでしょうか。
 高江ヘリパッド工事反対の座り込み行動を「通行妨害」として国に訴えられ、最高裁でたたかうことになった伊佐真次さん(沖縄県東村高江)と、妻を米兵に 殺害され、最高裁に訴えを棄却された今年夏までたたかい抜いた山崎正則さん(神奈川県横須賀市)が語り合いました。司会・編集部

人権弾圧、許せない

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伊佐真次さん
沖縄県東村高江在住。米軍ヘリパッド工事反対の座り込み行動を国に「通行妨害」と訴えられ、裁判をたたかっている。

─伊佐さんは、国に訴えられたとのことですが。

伊佐 前代未聞です。裁判は本来、権利を守るために弱い者が 強い者を訴えるものでしょう。国が小さな村の何の力も持たない住民を訴えるなんて、許せない。このような裁判は、「スラップ裁判」(国や大企業など権力を 持つ者が、権利を主張した弱者を恫喝・威圧するために起こす裁判)と呼ばれています。
 今、私の住む高江集落の周辺に六つの米軍ヘリパッドが新設されようとしています。高江区民は、着工前から二回の反対決議をあげました。米軍ヘリの騒音は すごいし、墜落の危険もある。今年もアメリカで構造的に墜落しやすい欠陥機と指摘されている米軍のオスプレイが墜落し、沖縄でも別の米軍ヘリが米軍基地 (キャンプハンセン=宜野座村)に墜落した。二〇〇四年にも沖縄国際大学(宜野湾市)に米軍ヘリが落ちました。
 そんな危険なヘリが高江周辺を日常的に飛ぶことになれば、私たちの命や暮らしが脅かされます。ところが国は住民に納得のいく説明をしないまま、工事を強行した。だから私たちは、最終手段として座り込んだのです。
 それを国は「通行妨害」として訴えた。たとえば四分間ダンプカーをとめて話をしたことも「通行妨害」にされています。

山崎 「お上に楯突くとこうなるぞ」という見せしめのような裁判ですね。

伊佐 まるで「お前たちは非国民だ」と言われているような気持ちです。
 これは高江だけの問題じゃない。今、経済産業省前の「脱原発テントひろば」も立ち退きを迫られ、賠償金まで請求されています。上関原発(山口県)の建設 に反対している人たちも中国電力に四八〇〇万円を請求する裁判を起こされています。
 高江のような裁判を許せば、原発に反対している人たちの願いや人権、表現の自由も、権力を持つ者が弾圧できることになってしまう。負けられません。

10分以上も続いた暴行

─山崎さんは被害者の側なのに、警察の取り調べを受けたそうですね。

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山崎正則さん
2006年に米軍横須賀基地の米兵に妻を殺害され、米軍と国(日本)の管理監督責任を問い、最高裁までたたかった。

山崎 妻の好重は二〇〇六年一月三日、犯人の米兵に道を聞かれ、親切に教えようとして殺害されました。米兵は翌日の四日には捕まった。それなのに私は五日未明まで拘留されました。
 事件直後、警察から電話がかかってきて、妻が「死んだ」と聞かされました。びっくりして「殺されたのですか」と聞いたら「殺されたとは言っていない。な ぜわかるんだ」と最初から犯人扱いですよ。体を壁におしつけられ、写真や指紋をとられました。
 釈放は五日の午前二~三時ごろで、靴も押収された。「靴なしでどうやって帰るんだ」と聞くと「その辺で買え」と。

伊佐 そんな時代錯誤の取り調べが?

山崎 家宅捜査までされました。マスコミも、私を犯人であるかのように報道しました。しかし誰も謝罪していません。犯人とも面会しましたが、謝罪の言葉はありませんでした。
 米軍も私には謝っていません。それどころか、在日米海軍の司令官と(犯人の米兵が所属していた)第七艦隊の司令官が「この事件をきっかけに日米同盟が強 化されることを願う」という日本国民向けの手紙を共同で発表したのです。妻は、日米同盟のために殺されたわけじゃない。妻の命が一番のはずでしょう。
 日本の防衛省も私のところに示談書を持ってきましたが、事務的で謝罪はなく、お金だけで解決しようとするものだったので拒否しました。

─事件当時の音声も残っているとか。

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殺害現場の音声を文字にしたもの(一部)。何度も助けを求めているのがわかる(赤字)

山崎 私は、犯人がかけられた刑事裁判のときに、その音声を 傍聴席で聞きました。妻が何度も「助けて」と叫んでいるのに一〇分以上にわたって殴り、蹴り続け、殺害した。普通の人間じゃそんなことはできない。米軍の 「人を殺す訓練」の習性が出たのです。「妻はどんなに怖かったか、苦しかったか。あの声は、私に助けを求めていたに違いない」。そう思うと、涙が止まりま せんでした。
 実は事件当時、犯人は酒に酔った状態で、勤務先の横須賀基地に「遅れる」と電話しています。これは出勤途中に「これから人を殺すので遅れます」と言っているようなものです。
 米軍は、米兵犯罪が起こるたびに「綱紀粛正」と言いますが、何が綱紀粛正ですか。私の妻の事件の前にも横須賀基地周辺では事件が多発している。その後に も、タクシー運転手が同じ横須賀基地の米兵に殺された事件(二〇〇八年)がありましたね。米軍には管理監督責任がある。国も犯罪防止の手立てをとる責任が ある。そう考えて、事件が起きた年の一〇月に裁判を起こしました。

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証拠VTR。米兵(右)に声をかけられる好重さん
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好重さんが殺害された現場。黒塗りで隠された部分から血痕と思われる赤色がはみ出す

私たちは負けない。あきらめないからだ

隣り合う米兵犯罪の危険

─沖縄では、米兵犯罪の危険はより身近に感じますか。

伊佐 私は木工職人をしていますが、その仕事場にも、米兵が入ってきたことがあります。仲間と数人でいたからまだ良かった。女性一人だったら何をされていたかわからないという怖さを感じます。
 高江の近くにある北部演習場は、一帯が米軍用地でフェンスもないため、米兵が迷ったフリをして住民に食事をねだったことがありました。民間地や公道を米 兵が軍服で歩くんですよ。軍服で演習場の外に出てくるなんて、米軍の規律にも反しているんじゃないですか。
 昨年末も読谷村で、米兵に少年が顔をなぐられた事件が起き、有名な繁華街の国際通り(那覇市)の近くでも、米兵が住居やベランダなどに侵入する事件が相 次ぎました。暴行やレイプの危険は、沖縄では常にあると感じます。

山崎 米軍は、日本を守るために存在するわけじゃない。私の 裁判でも、東京高裁が「米軍は、日本人の生命や身体を守るために駐留しているのではない。米軍が監督するのは、軍の運用をスムーズにおこなうためにすぎな い」という判決を出しました。だから日本人の被害に、米軍は責任を負わないと言う。最高裁も私の上告を棄却した。いったいどこの国の司法なんだと思います ね。
 日米地位協定も問題です。米軍が「公務中」と認定すれば、米兵が交通事故を起こして日本人が亡くなっても、日本の警察は逮捕できない協定になっている。 地位協定はなくすか、平等なものにすべきです。本当は日米安保条約をなくし、米軍基地そのものをなくすのが一番いい。

─今年三月に沖縄で起きた交通事故でも、被害者は亡くなったのに米兵は「公務中」と認定され、不起訴になりました

伊佐 日本政府も米軍の言いなりです。ヘリが墜落しても米軍が大丈夫と言えば、「米軍が大丈夫と言っているから、大丈夫です」と言うだけです。
 今年の米軍ヘリ墜落事故のときも、墜落現場には日本の消防も警察も入れてもらえなかった。沖縄国際大学に墜落したときも、日本の大学なのに米軍がシャッ トアウトして、日本側は誰も入れてもらえなかった。現場検証も非公開で、日本政府は何も言えない。まだ沖縄は植民地なのかと思いますね。
 北部演習場だって、かつて枯れ葉剤を使っていたという元米兵の証言もありますが、日本政府は何も調査していません。

全国どこでもできることを

─最後に、読者にメッセージを。

山崎 命を守ることを仕事にしている民医連・共同組織のみな さんには、ぜひ現場に行って、基地の問題を見て、感じて、考えたことを周りに広げてほしいと思います。それが平和運動の原点ではないでしょうか。とくに若 い人にがんばってほしい。「こんな事件があったんだ」「こんな実態があるんだ」ということを知って、わかってもらえるだけでもうれしい。

伊佐 共感の声が、私たちの力になります。高江に来てもらうのが一番ですが、全国どこにいてもできることがあります。憲法は陸海空軍すべての戦力を保持しないとうたっています。この憲法を運動の力できちんと国に守らせることができれば、米軍基地も日本からなくせます。
 そして毎年、日本のどこかで必ず国政選挙や地方選挙があります。憲法を守る人、安保をなくす人を当選させれば、日本が変わるし、沖縄も変わります。
 私の仲間の間で、こんな言葉が流行っているんですよ。「私たちは負けない。決してあきらめないからだ」。がんばります。

─オスプレイの演習が全国に広がろうとしている今、米軍基地問題は、日本全国の課題ですね。ありがとうございました。

写真・酒井 猛

いつでも元気 2013.11 No.265

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