いつでも元気

2013年7月1日

元気スペシャル 原発からの脱却 自然エネルギーをいかしたまちづくり──北海道

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大友さん

 福島第一原発事故以降、全国で「脱原発」の運動が広がり、自然エネルギーへの関心が高まっています。しかし、「原発抜きで本当に大丈夫か」「自然エネルギーの普及と言われても、想像がつかない」という人も多いのでは。
 今号では、自然エネルギーの実践や普及にとりくむ三つの例を紹介します。

原発は使えない技術

 3・11以前から“原発の危険性”を指摘し、自然エネルギーへのエネルギー転換を実践してきた、自然エネルギー研究センターNERC(ネルク)の代表取締役・大友詔雄さん。
 一九八四年、大友さんは二九歳の若さで、原発を推進する日本原子力研究所(現・日本原子力研究機構)の専門委員に抜擢された経歴の持ち主です。「将来、 原発が一番のエネルギーになるだろう」と考え、北海道大学原子工学科の助手として研究を重ねていました。
 しかし、原発について学ぶにつれて「安全性を満たしていないのでは」と思うようになり、三〇歳の誕生日に同委員を辞任しました。

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ペレットボイラーの前に立つ村石さん

 そして大学で“原発は使えない技術だ”ということを証明するための研究を開始。すると学内では 同僚や学生との接触、講義やゼミの開講、会議への参加なども禁じられ、「大友という人間は大学にいない」という扱いを受けます。しかし大友さんは「間違っ たことをしているわけではない」と意志を貫き、六二歳まで同大学で研究を続けました。
 「昇進もしないので妻から給料のことを言われましたが、『その分自由を買ったと思えば安いものじゃないか』と言ったら、妙に納得していました」と、大友さんは笑いながら当時を振り返ります。

もうけがなくても仕事ができる

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廃校を利用したペレット工場

 一九九九年、大友さんは大学在職中にNERCを設立し、自然エネルギーを扱う事業を開始します。そのとりくみの舞台となったひとつが足寄町で、香川県の三分の二ほどの大きさ。行政面積の八三%が森林(一一万ヘクタール以上)で、その広さは沖縄本島に匹敵するほどです。
 町役場の村石靖さん(地域資源エネルギー担当主査)は「足寄町は山に囲まれているため畑作もさかんでなく、比較的貧しい町です。なんとか町にある資源で 雇用を生み出せないかと考えたのが、自然エネルギーのとりくみを始めたきっかけです」と話します。

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足寄町有林のカラマツを使用して建てた足寄町役場

 二〇〇一年から、大友さんと同役場の岩原榮さん(経済課課長)を中心に、町が策定した「新エネ ルギービジョン」と「木質バイオマス資源活用ビジョン」をもとに、豊富な森林資源を活かす木質バイオマス(ペレットやチップ)の事業を計画します。二〇〇 四年に町役場の支援を受け、町内一〇社と町外四社で「とかちペレット協同組合」を設立。翌年、組合が廃校を利用して建てた木質ペレット工場の稼働が始まり ます。
 さらに二〇〇六年には、町役場の新庁舎にペレットボイラーを導入し、床暖房に使用。工場で生産されたペレットは、保育園や一般家庭でも使用され、年間約六〇〇トンを出荷しています。
 「組合に、もうけはほとんどありません。しかし、木材の集荷やペレットの生産・販売などにより、仕事がない冬の雇用にもつながり、町内でお金が循環するようになりました」と村石さんは目を細めました。

赤字を活かす「美幌方式」

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土谷町長

 大友さんは「美幌町のとりくみもおもしろい」と言います。美幌町も森林豊かな町で、町の面積の六二%を占めます。
 土谷耕治町長は「山をしっかり育てれば恵みをいただける。そこからいろんな事業を興そうと、木質バイオマス事業にとりくみました」と話します。
 そして二〇一一年に、今まで化石燃料を使用していた町営のプールと温泉の燃料を、木質ペレットとチップに変更。
 当初ペレットは足寄町などから購入していましたが、「この町でもつくれないかと考え、地元の運送会社に実証実験をおこなってもらい、企業化となりまし た」と、土谷町長。「ペレットは化石燃料より費用がかかりますが、チップとトータルで見れば大幅に燃料費を削減できています()。これを大友さんが“美幌方式”と名付けました」。
 赤字でもペレットを使用しているのには「ペレット工場を運営することで、町に雇用を生む」という理由があります。また、化石燃料から木質バイオマスに変 更したことで、これまで“外に出ていたお金”を町内で循環するようになったのです。
 ほかにも町は、町民がペレットストーブを購入する際に二〇万円の助成をおこない、普及を推進しています。現在、助成をおこなった数は三九件で、なかには 化石燃料による子どものアレルギーが購入のきっかけだというケースも。
 土谷町長は「ペレットストーブをリビングに置けば、家族がそれぞれの部屋にちらばるんじゃなくて、ストーブを中心に集まってくるんじゃないかな。そんな光景が目に浮かびませんか」とほほえみました。

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原発廃炉で雇用が生まれる

 自然エネルギーのとりくみが広がる一方で、国は原発の再稼働をねらい、国民のなかにも、「原発を稼働しなければ、経済が落ち込むのでは」という声が少なからずあります。
 「確かに原発を“止める”だけでは経済は停滞します」と大友さんは話します。「しかし、“廃炉にする”と決めた瞬間に、雇用が生まれます。なぜなら、原 発は廃炉にするまでに何十年もの期間がかかるし、多くの作業員が必要になる。さらに自然エネルギーは、一部大企業が独占する原発よりも地域に密着している ため、雇用を生むんです。
 足寄町ではペレット工場をつくったことで、一三九人の雇用が生まれた実績があり、すべての自治体が燃料工場をつくれば、全国に一〇〇万人以上の雇用が生まれます」。
 大友さんは「木質チップはお風呂などで大量にお湯を使う介護・福祉施設や病院などに適しています。ペレットストーブやボイラーも家庭に導入すれば、灯油 やガスなどの化石燃料を使わないため、二酸化炭素の削減にもなる。ぜひ、民医連の事業所や『元気』読者の家庭にもとり入れていただきたい」と期待を語りま した。
文・安井圭太記者
写真・五味明憲

市民の共同出資で太陽光発電を普及

長野・おひさま進歩エネルギー株式会社

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明星保育園。建物の上に太陽光発電パネルが見える

 「地産地消の自然エネルギー普及」をとりくんでいる、おひさま進歩エネルギー株式会社(長野県飯田市)。二〇〇四年に特定非営利法人(NPO)として発足し、「市民にできる地球温暖化防止を」と、とりくみはじめました。
 発足直後、寄付による太陽光発電の普及に挑戦しました。その第一号が同市内にある民間の明星保育園です。園長さんや保育園の理事らに話を持ちかけ、市民らの寄付で太陽光発電パネルを設置しました。
 発電量は三キロワットと小規模で、その電気が各家庭にまわるわけではありませんが、「そこに来た子どもやお父さん・お母さんに関心を持ってもらい、地球 温暖化防止の活動の輪を広げるツールにしようと思った」と同NPOを発足させた原亮弘さん(現・おひさま進歩エネルギー株式会社代表取締役)は言います。
 マスコットキャラクター「さんぽちゃん」をあしらった独自の発電量表示パネルやシールも作成。シール台紙の裏には、誰もが気軽にできる一〇項目の省エネ を印刷して保育園を利用する子どもたちに持ち帰ってもらい、家庭に普及するなどの工夫もこらしてきました。

設置費用0円で家庭にも

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公民館の屋上に設置した太陽光パネル

 しかし「寄付は集まりにくい」ことから、次にとりくんだのが、市民の共同出資による太陽光発電パネル設置。共同出資は今日まで通算約一二億円になっています。市の支援も受けながら、保育所やスーパー、介護施設などをまわり、屋根に太陽光発電パネルを設置しました。
 二〇〇九年一一月には「余剰電力買い取り制度」の開始にともない、「おひさま〇円システム」という家庭向けサービスを開始。「家庭に太陽光パネルを設置 し、その電力を売る」という形式のサービスで、家庭は毎月定額(一万五〇〇〇円~二万四〇〇〇円程度)の料金を同社に九年間支払えばよいというものに。設 置費用は市民共同出資などが元手で、同社が全額負担します。
 余った電力は電力会社に売ることができるため、「実際の費用負担はそれまでの電気料金よりも五〇〇〇円~六〇〇〇円程度上乗せされるだけですむ」と原さ ん。「九年間の支払い」となっているのも、制度による余剰電力買い取り期間(一〇年)のなかで事業を運営するためです。

とりくみを「点」から「面」へ

 共同出資者は飯田市に留まらず、長野県内の他の市町村や全国に広がっています。「自分の家に太陽光発電パネルをつけられなくても自然エネルギー普及や地球温暖化防止の役に立てば」という善意が、全国から集まっているのです。
 「自然エネルギーが広がれば、設備の設置業者などの雇用が生まれ、お金が地域に循環します。消費も生まれて自治体への納税額も増え、地域が元気になる。 私たちのような“地産地消の自然エネルギー普及”にとりくむ市民や電力会社が、全国に広がることを期待しています」と原さんは語りました。
文・多田重正記者
写真・酒井 猛

環境にやさしい薬局づくり

(有)大阪ファルマ・プラン 廣田憲威

 大阪ファルマ・プランは大阪市に七薬局、吹田市に一薬局と福祉用具貸与事業所を運営している、 民医連の薬局法人です。私たち職員は福島第一原発事故を経験し、原発技術がいかに危険なものであるかを痛感させられました。そして、「原発に依存しないた めに何ができるのか」を考えました。
 昨年八月、法人内で最も大きいあおぞら薬局(大阪市西淀川区野里)で、すべての照明をLEDに変更しました。
 さらに、ビルのオーナーの福島琺瑯株式会社の協力を得て、今年四月、屋上に太陽光パネルを設置(一日最大一一・五キロワット発電)。発電の様子が患者さ んや地域の方々にもわかるように、薬局の室内外にモニターを設置しました。
 最近は導入費のもとをとろうと売電するのが主流ですが、私たちはエネルギーも「地産地消」が大切と考え、電力会社に売らずに、自己消費しています。将来 コストが下がれば蓄電池を設置し、休日に発電した電力の活用も計画しています。
 今後は、ほかの薬局でもLED化などのエコ対応をすすめ、「ひとや環境にやさしい薬局づくりをめざしていこう」と考えています。

いつでも元気 2013.7 No.261

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