いつでも元気

2013年1月1日

特集1 被災者の生活と健康を まるごと支えたい 宮城・あすと長町仮設住宅

 東日本大震災の発生から、今年三月で二年が経過しようとしています。しかし、復興は遅々として進んでいません。
 そんな現状に心を痛めながら、被災者に寄り添い、地道に支援活動を続ける民医連と共同組織の仲間たちがいます。
 宮城民医連の長町病院が支援している、あすと長町仮設住宅(仙台市太白区)を訪ねました。 (文・武田力記者)

きっかけは「青年ジャンボリー」

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ひとりひとり丁寧に健康チェック(写真:山本耕二)

 長町病院は昨年六月から月一回、同仮設住宅内の集会場で健康相談会を開いています。同仮設住宅は、二三三戸に約四五〇人が暮らす市内最大規模。宮城、岩手、福島など、住民たちがもともと住んでいた地域はバラバラで、六〇歳以上が七割を占めます。
 きっかけは昨年三月におこなわれた「民医連全国青年ジャンボリー」でした。全国から集った民医連の青年職員たちが、フィールドワークの一環として同仮設 住宅を訪れて、健康チェックや炊き出しなどで住民と交流。外に姿を現さない住民に声をかける戸別訪問もおこない、気になったことを自治会役員に伝えまし た。
 同仮設住宅自治会長の飯塚正広さんは、このとき「医療者の眼で住民を見てもらうことの重要性をあらためて認識した」と語ります。「顔色を見て体調をうか がったり、医療や薬の知識を活かしてアドバイスしたりという部分は、私たちにはできません。三月の健康チェックや戸別訪問では、医療者の専門的な視点で住 民が直面している問題を把握して、気になる生活状況や症状などを私たちに伝えてくれた。個人情報保護をタテになかなか情報を共有してくれなかった行政とは 違い、“心強い味方だな”と思いました」と飯塚さん。

要請に「やります」と即答

 飯塚さんはさっそく長町病院に対し、「住民の健康管理のため、継続的に関わってほしい」と申し入れました。長町病院は水尻強志院長らが対応し、「やります」と即答。
 「病院から歩いて十数分のところにある仮設住宅で、とても気になっていました。申し入れを受けて、ぜひお役に立ちたいという気持ちでした」と話すのは、 同院看護部長の長澤絹代さんと同院介護支援センター介護事業課長の花木かよ子さんです。院長を責任者として、ほとんどすべての職種の職員が参加する「生活 支援プロジェクト」が立ち上がりました。
 自治会と共催する健康相談会には、毎回十数人から二〇人以上が訪れます。「血圧や血糖値を定期的にチェックできる」「かかりつけ医に言えないことでも、ここでは気軽に相談できる」と好評です。
 また、被災した住民の痛みやつらさに耳を傾け、寄り添う役目も果たします。「震災や津波で家財など何もかも失い、住み慣れた土地を離れて暮らすストレス は相当なもの。それをはき出す場にもなっているようです」と長澤さん。
 引きこもっている住民や認知症の高齢者など、“気になる住民”のところへ自治会役員に連れて行ってもらい、じっくり話を聞きながら往診もおこなっています。

深まる信頼と期待

 「今後も継続的に関わって、病気が重症化する方や孤独死する方を出さないようにしたい」と長澤さん。使用する健康相談票も経過記録がわかるものに作りかえ、医療講話会を企画するなど、さらにとりくみを強めるつもりです。
 飯塚さんは「いまも週一回の頻度で、救急車が出動して来るような状態です。健康相談会も本当は隔週くらいが望ましい。住民に関する情報を自治体側と共有 する“ケア会議”に長町病院も加わってもらって、もっと深く多面的に関わってほしい」と、信頼と期待を寄せています。
 一方、「これだけの手間と人手をかけてくれているのに、いつまでも無償というのは申し訳ない」と飯塚さん。「行政がきちんと評価して、報酬や補助金などを手当てすべき」との思いも語ってくれました。

班を結成してフラダンス

 同仮設住宅内には、長町病院友の会の新しい班もできました。中心になって友の会への“おさそい”をすすめたのは、仙台市若林地区から避難してきた赤間順 子さん。長町病院と同じ法人に所属する若林健康友の会の元理事です。
 入居から半年ほど経って落ち着いてきた一昨年一〇月、同じ地区から避難してきた顔見知りの住民を中心に声をかけ、十数世帯で「さわやか班」を結成しまし た。「まずはみんなが明るくなれることをしたい」と始めたのが、フラダンスです。
 「そうしたら、みんなに火がついちゃって…。被災して気持ちが落ち込んでいた中で、心から楽しめることを求めていたんですね」と赤間さん。「全身を動か すし、健康にいい」「頭の働きもよくなったみたい」と大人気で、長町病院の「新春のつどい」にも参加し、出し物の“最優秀賞”を獲得したほどの熱の入れよ うです。

班会で配食サービスを体験

 「さわやか班」が次にとりくもうとしているのが、買い物などに困難を抱えるひとり暮らしや高齢世帯への配食サービスです。配食サービスは、すでに二〇〇
 六年から長町病院友の会のボランティアグループ「ほっと亭」がとりくんでいるもので、これを同仮設住宅の住民にも広めようというのです。
 一一月一六日、「さわやか班」の班会に「ほっと亭」代表の寺島知子さんを招いて、配食するお弁当の試食会を開きました。一一人の班員が参加したこの日の メニューは、はらこ飯、鰆の西京味噌焼き、キャベツの煮浸しなど。
 「地元の農家から仕入れた旬の食材で、安心・安全。すべて手作りで、栄養のバランスも満点です」。長町病院などで管理栄養士を務めた寺島さんの言葉にう なずきながら、「上品な味でおいしい」「これなら安心して近所におすすめできる」と箸がすすみます。

テレビ局の突撃取材も

 班会の途中、テレビ局の突撃取材を受けるハプニングもありました。この日の午後に衆議院が解散され、「総選挙で重視する政策について、一人ずつ聞きたい」という報道番組の取材でした。
 一人が「消費税!」と答えると、「みんな同じだよ」「増税はやめてほしい」との声が次々。消費税増税は、日々の生活費にも、自宅を再建する際にも大きな重荷として被災者にのしかかります。
 さらに、「福島県南相馬市から避難してきた仲間もいるが、原発推進は絶対に許せない」「(候補者は)一度でいいからここに来て、被災者の生活を見てほし い」と、怒りの声が噴出。テレビ局の取材班も圧倒された様子でした。
 取材班が帰ったあとも、「いま困っていること」が話題に。やはり一番の心配は今後の住まいのことです。「家のローンを払い終わったと思ったら、全部津波 で流されてしまった。この年齢になって、住宅ローンなんて組めるわけもないし…」と悲痛な声があがります。
 また、三月末(福島からの避難者は二月末)で窓口負担免除が終了する予定の医療費の問題も切実です。此田道子さんは、「(身体の)上から下まで悪いとこ ろをあげていったらきりがない。医療費の窓口負担がいきなり二割になったら、病院にかかれなくなる」と不安な表情を浮かべました。

光る「さわやか班」の存在

 班員たちの会話にじっと耳を傾けていた寺島さん。班会のあとで感想を聞くと、「季節ものの衣類や生活用具など、まだまだ支援が必要なのだとわかった。切り詰めて生活しているようすも伝わってきた」と。一方で、人と人をつなぐ友の会の存在が光っているとも感じています。
 「先日、仮設住宅で避難訓練をしているところに偶然居合わせたのですが、『さわやか班』の方々が積極的に中心的な役割を担っていました。結束力のある明 るい集団が、コミュニティーを形成する上でとてもいい役割を果たしているようです」と寺島さん。「仮設住宅への配食サービスをきっかけに、『さわやか班』 が住民同士の見守りや支えあいの核になってほしい。楽しい活動もしながら、信頼しあえる仲間をさらに増やしてほしい」と、期待を込めて語りました。

いつでも元気 2013.1 No.255

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