いつでも元気

2013年1月1日

元気スペシャル 「生き延びる」ために脱原発! 生の言葉の力を信じて 俳優・山本太郎さん

 福島第一原発事故以降、脱原発を訴えている俳優・山本太郎さんに、声を上げるようになった決意や思いを聞きました。聞き手は、東京・中野区で脱原発のとりくみに参加してきた中野共立病院附属健診センター(健友会)の粉川潔(こかわゆき)さんです。

原発を止めるために

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山本 太郎さん
1974年生まれ、俳優。高校在学中に「天才たけしの元気が出るテレビ!!」の「ダンス甲子園」出場がきっかけで芸能界入り。ドラマ・映画の出演多数。福島第一原発事故後、脱原発を訴えている。

─脱原発を訴え始めたきっかけは。
 そうするしか、僕もこの国も生き延びる道がないと思ったからです。みんなで動かないと、原発を止められませんから。
 東日本大震災で福島第一原発が電源を失い、原子炉が冷やせなくなった。そこに電源車が用意されて「助かった」と思ったら、しばらくして「電源車のケーブ ルの先があわない」というテロップがテレビで流れて、唖然としました。
 そのとき、わかった。この国の原発に関する危機管理は、“はじめてのおつかい”レベルなんやと。そして「もう爆発する」と思ったときに、心の底から「生 きたい! 生き延びなきゃ!」という気持ちがわき起こったんです。
 ところが国は、事故後「ただちに健康に影響はありません」と繰り返しました。「『後ほど健康に影響があります』と、この国は堂々と言うんやな」と思いま した。恐ろしい。影響がないなら「まったく影響ありません」と言うはずです。
 そもそも国は「原発は放射性物質を『五重の壁』で守っているから安全です」と言ってきた。じゃあ、なぜ五重の壁で守ってきたんですか? 危険だからで しょ。それなのに五重の壁を突き破ったとたんに「安全」だと言う。その説明で「国は、事故を矮小化することに全力を注ぐんだな」とわかりました。
 報道には「真実を伝えてくれるのでは」と、淡い期待を持っていたのですが、これも大本営発表そのままでした。放射能の危険性をきちんと言わない。「国と利害が一致してるんだな」と思いました。
 僕も芸能界にいるから、よくわかる。メディアはお金を出すスポンサーを守る。メディアはスポンサーの不利益になることは一切言えません。

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山本太郎さんは「ふくしま集団疎開裁判で、福島の子どもたちの生きる権利を獲得しなければ」と訴えた(9月21日の脱原発・首相官邸前抗議行動で)

─それはテレビの出演者も?
 もちろんです。スポンサーの不利益になることや、競合することは言えません。電力会社は東京電力だけでメディアに年間二六〇億円、電力会社一〇社で一〇 〇〇億円も広告宣伝費を出しています。しかも電力会社の下に三菱・日立・東芝の原発メーカー、建設会社や製鉄会社、お金を融資する銀行など、国の産業構造 そのものみたいな既得権益ができあがっている。そりゃあ、口をつぐみますよね。

3週間悩み抜いて

─脱原発を訴えれば、仕事がなくなるということですね。かなり悩まれたのでは。
 三週間悩みました。でも我慢できなくなったんです。答えが出た。福島第一原発は直下型地震が襲ったわけでもないのにあの状態。つまり日本中の原発が全部 危ないと証明された。日本は地震大国で、次の過酷事故が起こらないわけがない。

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聞き手・粉川 潔さん
東京民医連・中野共立病院附属健診センターの事務職員。2児の母。

 では次の過酷事故が起こったとき、どうするか。他人に対しては「想定外でした」と言えるかもし れない。しかし自分自身には言い訳できません。危険性を知ってしまったのに黙っていたら、次の過酷事故の片棒を担ぐことと同じ。事故の原因をつくってし まった自分と向き合って生きていけるのか。ムリですよね。「そんな人生、地獄だな」と思ったんです。
 もう一つ、僕が「ぶち切れた」ことがありました。国は国民の積算放射線被曝限度を年間一ミリシーベルトとしてきたのに、原発事故後、子どもに対して二〇ミリシーベルトに引き上げたことです。
 しかしその四分の一にあたる五ミリシーベルトで、チェルノブイリ原発事故では強制移住になったんですよ。「放射線管理区域」と同等の放射線量。放射線管 理区域は一八歳未満立ち入り禁止で、飲み食いもできない。専門知識を持つ「放射線業務従事者」しか入れず、決まった時間が過ぎたら出ていかなければならな い。その四倍の放射線を子どもにあたえて平気だなんて、狂ってる。「この国は未来を捨てたんだ」と思いました。
 なぜ被曝の限度を引き上げるのか。汚染で人が住めないとわかったら東日本一帯の土地の価値がなくなり、日本経済が破たんするからです。しかもきちんと汚 染を調べて補償・賠償をしたら、何千万人という人を動かさなければなりません。莫大なお金も必要です。だから東日本にホットスポット(点在する放射能汚染 地域)が広がっていても被害を矮小化し、汚染地域に人を住ませるのです。
 しかし放射能で健康に働ける人がいなくなれば、結局は将来、経済破たんします。逆に今経済破たんしても人を移動させれば、日本はやり直せる。国民の健康 を担保するわけですから。この国は、目先のお金しか考えていない。だから僕は草の根とインターネットで脱原発を訴え、「少しでもニュースになる可能性があ るなら」と、マスコミのいるところに出て行こうと決意しました。

避難する権利の保障を

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毎週金曜日の首相官邸前に自転車で駆けつけている東京・健友会のメンバーたち

─海外避難は考えなかったのですか?
 今でも悩んでいますよ。脱原発をめざす「特攻隊」として日本に残るのか。逃げて命をつなぐのか。その二択がある。
 東京都でも、杉並区のある公園で一平方メートルあたり、九万ベクレル(注)超えが出た。防護服を着ていなければならないレベル。しかしどれだけの汚染が広がっているのか、都は調べていません。
 今、いちばんしなくてはいけないことは、東日本に住む人に避難する権利を保障することだと思うんです。子どもを養い、仕事も続けていかなければならない となると、簡単には避難できません。でもとどまれば、健康被害の危険がある。一企業の行きすぎた利益追求のために、なぜ国民が悩み、苦しまなければならな いのか。避難したいと希望する人をバックアップする制度が必要です。
 一般食料の安全基準なんて、一〇〇ベクレル(一キログラムあたり)。3・11以前は黄色いドラム缶に入っていなければならない放射性廃棄物と同じレベル です。それを食べさせて「安全」と言うなんて、明らかにこの国は「被曝の平均化」をねらっていますね。
─たたかうしかないですね。
 不条理だらけの世の中を変えていくには、政治に反映させていくしかない。人々が目を開き、投票という形で行動に移すようにならなければ変えられない。
 草の根とインターネットでしか脱原発を訴えていけないのがはがゆい。でも、目を見て話す「生の言葉」が、テレビで流れる言葉よりも力があると信じて、活動を続けていきたいと思います。

毎日の出会いが支えに

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少なくない国民が、原発推進者の正体に気づき始めた

─行動してきてよかったことは。
僕が折れたり、うつになったりせずに脱原発を訴え続けられるのは、心ある人に毎日出会えるからですね。
─毎日ですか?
 はい。毎日、日本中をまわっていますから。僕、三八歳、無職・住所不定なんです(笑)。すごい人生ですよね。でも、「自分の言いたいことを言うんだ」と いう生き方のすばらしさを感じています。「後悔していないか」って、よく聞かれますが、後悔していません。世の中が変われば、仕事ができるようになります し。

脱原発を基準に投票しよう

─最後に、読者にメッセージを。
 とくにご高齢の方に伝えたいことがあります。原発をなくそうと訴えると「私は先が短いから、若い者に任せた」とよく言われます。そんなとき、人生の先輩 に失礼は承知でこう訴えています。「勘弁してください。三途の川を渡る前にやっていただく仕事があるんです」(笑)。
 選挙にも行っていただきたい。寝たきりの人は、ベッドを押してもらってでも投票する。そして人生の最後まで脱原発の「仕事」をやっていただくためにも、健康で長生きしていただきたいですね。
 そしてすべての方にお願いしたいのは、選挙では原発問題を基準に候補者を選んでほしい。「原発だけ?」と言う人がいますが、僕は(1)原発即時撤退、 (2)東日本から避難する権利を認める、(3)被災地のがれきを広域処理しない、(4)放射能汚染食品の流通禁止、という四つを守る政治家は、TPP参加 反対、反貧困で、憲法を守り、米軍基地も要らないという政治家だと思います。脱原発がすべてにつながっている。だから、この四つを踏み絵にして政治家を選 んでください。
 最後にぜひ民医連など医療関係の方には甲状腺など、全国の子どもたちの健康調査をしてほしい。放射能汚染地域でもそれ以外の地域でも、できるだけ多くの 子どもを調査する。そうすれば将来、健康被害が起こったとき、それが放射能によるものかどうかの証拠になりますから。
─私のまわりにも放射能の子どもへの影響を心配するお母さんがいます。私も医療従事者として健診・相談活動など、やるべきことがたくさんありますね。ありがとうございました。 写真・五味明憲

いつでも元気 2013.1 No.255

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