いつでも元気

2012年12月1日

元気スペシャル 地域で手をつなぎ、よりよい社会を いのちと健康を守る共同を広げよう 長野で「地域から『医・食・住・環境』の再生をめざすシンポジウム」開催

genki254_01_01  震災復興、脱原発が国民的な課題となり、消費税増税、TPP参加の推進、社会保障改悪など、国民生活を壊す政治が強まる今日。全日本民医連は一〇月七日、 「いのちと健康を守るため、幅広い市民・団体で力を合わせよう」と長野県で「地域から『医・食・住・環境』の再生をめざすシンポジウム」を開催しました。
 このシンポジウムは民医連外からも注目を集め、五〇〇人を超える参加者で会場のJAアクティーホールはいっぱいになりました。
 シンポジストは六人。TPP反対の意思表明や地域の農業再生、自然エネルギー普及や住民自治、医療・介護などの実践が語られ、「地域がどうなっているか を知ることが大事だと改めて感じた」「農業や自然エネルギーのとりくみを知って、すばらしいと思った」「遠くから参加したかいがあった」などの感想が寄せ られました。

「よい企画だ」と共感広がる

genki254_01_02  開催地の長野県民医連は「つながりのない団体にも幅広く呼びかけよう」とシンポジウムの準備をすすめてきました。県内五〇〇団体に案内を出し、六〇団体を 訪問。佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、長野県看護協会、長野県生活協同組合連合会など三八の団体・個人から賛同を受けました。
 「まさに、待たれていたシンポジウムだった」こう話すのは、長野県民医連の岩須靖弘事務局長です。
 農家が多い長野県では、一〇月と言えば収穫の時期。「農繁期に開いても、人が集まらないのでは」と懸念する声もありました。しかし訪問した各団体からは 「とてもよい企画ですね」「ぜひ協力したい」などの反応が、多く返ってきました。
 長野県の環境部温暖化対策課や、健康福祉部健康長寿課も訪問。これがきっかけで加藤さゆり副知事との懇談も実現しました。副知事は「シンポジストに幅広 い方々が集まって、とてもいい催しですね」と返答。県としてシンポジウムの後援を決めました。

いのちを守る共同に壁はない

genki254_01_03  シンポジストも、これまでつながりのなかった人に登壇してもらおうと力を尽くしました。打診するなかで「私は参加できないが、この人にお願いしてはどうだ ろうか」と紹介してもらうなどつながりがひろがり、「いのちを守る共同に壁はないんだと実感した」と岩須さんはふりかえります。
 岩須さんは、会場を提供したJA長野中央会にも「惜しみない協力をいただいた」と。趣旨に共感し、大槻憲雄会長から「TPP参加はさまざまな規制の撤廃 や改悪をまねくものであり、地域にあたえる影響は甚大なもの。断固として反対だ」とのメッセージが寄せられました。

「架け橋」の実践、全国で

 シンポジウムの閉会あいさつで、全日本民医連の石川徹副会長は、こう締めくくりました。
 「この国の、この地域のあり方を決めるのは、『誰か』ではありません。私たち自身です。全国各地で創意工夫をこらした共同を強めて、安心して住み続けら れるまちづくりをすすめていきましょう。そしてそれは、実際に地域で生活する私たちが手をつなぎ、知恵を出し合って、よりよい社会をつくるために行動する ことの積み重ねによって実現していくのだと思います」
 全日本民医連は全国各地で、同様のシンポジウムを開催しようと呼びかけています。いのちを守る共同を広げる「架け橋」の実践が待たれています。
文・宮武真希記者/写真・酒井 猛

住み続けられるまちづくりを、私たちの手で

「生活している地域のなかで、よりよい社会をつくっていこう」と県内でさまざまな活動を実践しているシンポジスト6人が発言しました。発言要旨をご紹介します。

genki254_01_04■高橋彦芳氏(長野県栄村前村長)

住民自治のまちづくり

 「住民には、今まで培ってきた暮らしの知恵や技がある。それを村政に取り込むことで村は活性化する」と「実践的住民自治」を取り入れ、五期二〇年にわた り栄村村長をつとめた経験を報告。「住民の生活は、住民自治にささえられた社会を基礎としてはじめて成り立つもの。住民自身が主権を発揮していくような社 会にならなければ」と語りました。

 

genki254_01_05■久保木匡介氏(長野大学准教授)

反貧困・暮らしと雇用を守る上小ネットワークの活動から

 久保木さんは上田市を中心とした上小地域で活動している反貧困ネットワークのとりくみを報告。 「貧困と格差の拡大とともに、貧困は連鎖するということを実感している。本来平等であるべき医療や教育へのアクセスに格差が生じている。生存権や人権の保 障は、地域社会や人間関係のなかで実現していかなければと強く感じる」と述べました。
 また、生活困窮者を支援する活動を続けるなかで上田市が公共施設をシェルターとして貸してくれるようになるなど、自治体の力を借りながら活動がすすんで きた経験を語り、「『共助』を『公助』におしあげる循環をつくっていくことを展望しながら、人権を尊重して貧困を許さない地域づくりを実践していきたい」 と発言しました。

genki254_01_06■市川英彦氏(鹿教湯病院名誉院長)

私の医師人生とTPP

 県内で過疎化・高齢化、核家族化が重なりあって進行している実情を訴えた市川さん。高齢の患者 さんから、退院が決まっても「うちに帰っても誰も喜んでくれない」と言われたことや、家に何度も電話をかけ「見舞いに来て」と懇願する姿を目の当たりした 経験から、高齢者は「孤独」と「疎外」のなかにおかれていることを知ったと述べました。
 そしてTPPについて、「アメリカのアメリカによるアメリカのための究極の自由貿易協定」と断言。日本がこれに参加すれば、「医療は自由診療開放に向け て動くことが懸念され、農業も壊滅的打撃を受けるだろう。人間の生活を壊して、人間を不幸に導くTPP参加には反対だ」と述べ、「すべての国民に、TPP 参加反対の共同を呼びかけ、心と力を寄せ合って壮大な運動にしていこう」と訴えました。

genki254_01_07■小原恒敏氏(農事組合法人・「北の原」代表理事)

農業再生で地域を支える

 小原さんは長野県駒ヶ根市・北の原地区で、地域の農地を守り、農業ができる地域の機能維持・発展のために尽力している実践を報告しました。
 北の原の組合員は現在七八人。これまで農家ではない家庭から「たい肥が臭う」「早朝から草刈り機の音がうるさい」などの苦情が多数寄せられていましたが 「地域のなかで農業を続けていくためには、地域住民の理解が必要」と感じ、野菜づくりを通して子どもたちと交流するキッズ農園など、地域の農業を応援して もらえるよう工夫を凝らしていることを紹介しました。また、国の農業政策が変わる中で「農業を続けていくためのハードルは、どんどん高くなってきた。後継 者育成が大きな課題」と語りました。

genki254_01_08■蓬田裕一氏(おひさま進歩エネルギー株式会社)

創エネと省エネで循環型社会を

 蓬田さんは飯田市で「地産地消」のエネルギーの普及にとりくんでいる「おひさま進歩エネルギー株式会社」の事業を紹介。
 飯田市内の私立保育園や公共施設に太陽光パネルを設置し、子どもたちの環境教育にも活用した実践や、日本ではじめて“自然エネルギーを普及して温暖化問 題の解決に貢献したい”との気持ちを持つ市民の出資で「南信州おひさまファンド」を設立した経験などを発言しました。
 「太陽光パネルを設置したいが、初期投資がネック」という家庭向けに、九年間月額定額料金で設置する事業にとりくんでいることも紹介。「自然エネルギー という地域の資源を使ってお金の流れを変え、持続可能な未来をつくっていこう」と訴えました。

genki254_01_09■熊谷嘉隆氏(長野県民医連会長)

地域の医療・介護ネットワークで住民のいのちと健康を守る

 熊谷さんは介護保険制度導入以降、飯田地域の一般病床が一七二床減り、医師数減少や特別養護老 人ホームの入居待機者も年々増加するなど、県内の医療や介護のニーズに応えきれていない現状を告発しました。住民同士が「絆を強くし、助け合う」という地 域のネットワークの重要性を強調し、「健康を破壊する原発に終止符を打とう」と訴えました。

 

シンポジウム前夜には

田中・木曽町長が記念講演

genki254_01_10  シンポジウムに先立って前日の6日夜、長野県木曽郡木曽町の田中勝巳町長を招いて「信州木曽での住民の知恵とアイデアいっぱいのまちづくり」と題した記念 講演を開催し、128人が参加しました。1998年に町長に就任した田中町長は、住民の声を聞き、農作物の直売所を設けたり、町民が低料金で利用できる循 環バスを走らせるなど、「住民参加のまちづくり」を模索してきた実践を語りました。

いつでも元気 2012.12 No.254

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