いつでも元気

2012年1月1日

特集1 いのちに やさしい電力を 地域資源を活かしたまちづくり いま、再生可能なエネルギーが注目されています。高知県梼原町とドイツの実践を紹介します。 高知 すべての資源を無駄にしない

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カルスト台地を吹き抜ける風を受け、雄大にまわる風力発電機

 高知県梼原町は、愛媛県との県境、標高一四〇〇メートルに位置する町。人口約三八〇〇人。総面積二三六平方メートルの九一%を森林が占めています。
 この豊かな自然を活用して、再生可能エネルギー・自然エネルギーの普及を促進、電力の二八・五%を自給している町のとりくみを取材しました。

「共生と循環」のまち

 梼原町の歴史は古く、一九一二年(明治45)に六つの村が合併して梼原村となり、一九六六年(昭和41)に町制に移行。「共生と循環」をテーマに、町の区長や五六ある集落の代表などから情報を集めながら、まちづくりをすすめています。

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町役場が入る総合庁舎の屋根一面に設置された太陽光発電装置

 そのなかのひとつが「自然エネルギーを活用した、循環型のまちづくり」です。一九九九年、「地域新エネルギービジョン」を作成。
 標高一三〇〇メートルの四国カルスト台地に、毎時六〇〇キロワットの風力発電機を二基設置しました。
 矢野富夫町長は「風力発電所で発電した電力は四国電力に売電し、年間約三五〇〇万円の収益になっています。この収益を『環境基金』として積み立て、その 他の自然エネルギーの普及・開発に利用しています」と話します。

環境基金の活用

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矢野町長

 矢野町長は「環境基金の活用例のひとつが、太陽光発電装置設置への助成です。住民が住宅に太陽 光発電装置を設置する場合は、発電量一キロワットにつき二〇万円、最大八〇万円まで町が助成します。太陽光発電装置の設置世帯は現在、一○六戸で六%。全 国一の設置率をめざそうととりくんでいます」と思いを語ります。
 環境基金を活用したもうひとつのとりくみが「森づくり」。森林を間伐・整備することで、保水能力の高い山をつくることなどが目的。二〇〇〇年には「森林 づくり基本条例」を制定し、間伐をおこなった森林所有者に、町として一ヘクタールあたり一〇万円を交付すると決めました。
 間伐した木材は建築用資材として使われ、残った端材やおがくずから「木質ペレット」を生産。ペレットは近年、熱量を一定に保つことができる燃料として注目されています。
 町は、梼原町森林組合や矢崎総業株式会社などと共同で「ゆすはらペレット株式会社」を設立し、木質ペレット生産にあたっています。
 同社でつくられたペレットは、特別養護老人ホームや中学校寮に設置された、冷暖房器具などの燃料として使用されています。使用したあとの灰も「循環」させます。農地や森林の肥料として活用されているのです。

100%の電力自給を

genki243_02_04 二〇〇九年、町は温室効果ガス大幅削減にとりくむ「環境モデル都市」の指定を受けました。
 「全国には、森があるところや川があるところ、日照時間の長いところ、風の強いところなどがある。それぞれの地域、気候条件に適した自然エネルギーの活 用をすすめれば、段階的に原子力から自然エネルギーへ転換していくことができると思います」と矢野町長。 「しかし設備にはコストがかかる。自然エネル ギーの普及は、国や自治体が支援体制を充実させることが必要です」とも強調します。
 梼原町は、二〇五〇年までに二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を一九九〇年比で七〇%減らす計画です。
 風力発電機も周辺自治体と協力して、四国カルスト台地に四〇基まで増設し、電力自給率一〇〇%、そのすべてを自然エネルギーでまかなう方針をかかげ、推
進中です。
文・安井圭太記者/写真・五味明憲

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ゆすはらペレット株式会社の工場と、生産された「木質ペレット」
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小水力発電を利用し、梼原町を照らす街灯

ドイツ
エネルギーの倫理を論議し、行動する国
―環境視察の旅に参加して―

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ビルにも太陽光発電のパネルをとりつけている

 今年六月、「大阪から公害をなくす会」の会長を引き継ぐことになりました。私はこれまで、主に健康問題の側面から環境・公害問題に関わってきました。しかし「会長を引き受けたからには、はば広く環境問題を学ばなければ」と思っていました。
 福島第一原発事故以降、「原発廃止・原発ゼロ」を求める運動は、国民のなかに広がっています。しかし、原発を廃止したあとのエネルギーはどう確保するの か? 原発がなくてもエネルギーは確保できる―その現実的根拠を学びたいと思い、「環境視察の旅」に参加しました。

クライスハイムの太陽熱利用

 ドイツ南部のバーデン=ヴュルテンベルク州にあるクライスハイムは、人口三万三〇〇〇人の市です。この市には、連邦・州・民間企業が出資する「市営エネ ルギー供給会社クライスハイム」があり、主に太陽熱の利用と、コジェネレーション(ゴミを焼却した熱で発電する)の二つにとりくんでいます。
 見学したのは太陽熱利用施設です。太陽熱で水をあたため、配管を通じて各家庭に供給する「地域暖房」をおこなっており、設備はドイツ国内最大です。世界 中から見学者が訪れるそうで、日本語訳の説明パンフレットも用意されていました(写真右)。表紙に書かれた以下の文章は、この会社の特徴をよくあらわして います。

〈太陽の力を利用〉
太陽は最大のエネルギー供給源であり、無料で大量のエネルギーを地球に注いでいます。太陽光はと問えば、温水供給や暖房など様々な方法で利用することができます。

 この事業は一九九七年からはじまりました。当初、国内でも「おかしなことをやっている」という受けとめが多かったようですが、現在ドイツには同様の会社が九〇〇近くも存在しています。今では「クライスハイムを見習え」と変化しています。
 太陽光の熱エネルギーを利用している場所は「ヒルテンヴィーゼン2」と呼ばれる場所です。ここは、第二次世界大戦後から一九九〇年代まで米軍基地があっ た跡地で、現在は二〇〇〇戸の住宅と工場が建っています。住宅や工場の屋根、学校などに、熱を吸収して水を湯に変える装置(コレクター)をつけています。 二〇〇三?〇四年にこの施設内に設置され、その後、住居地区と工場地域との間の防音壁として作っていた土手の斜面にも、大型のコレクターをつけました。
 このコレクターで熱湯を作って貯蔵します。ここから配管を通して温水を各家庭に供給します。

残った熱は冬の地域暖房

 夏季には、残った熱を温水にしてセンターの「バッファータンク」に貯めます。そして太陽光が少ない冬の地域暖房に回すのですが、方法がまたユニーク!  この湯に三気圧の圧力を加えて一〇三度まで上昇させます。こうすることで熱の保存効率を一五%アップさせ、地下五五メートルの深さまで配管してお湯の熱を 地熱に変えて保存するのです。地下六〇?七〇メートルのところに地下水が流れており、これ以上深くできないとのことで五五メートルと決めたそうです。
 この熱を保存する施設には、大きな土管のような中に熱湯を貯めるタンクや配管、地熱などを測定しながら調整していく「コントロール室」などもあります。 そして現在三個目の設備を作っており、間もなく完成するとの説明でした。しかし周辺には仰々しい工事風景はなく、「そんな施設、どこにあるの?」という印 象でした。
 ひと目で施設とわかるものは屋根や土手にあるコレクター程度で、そんなに大きな場所を占めているわけではありません。ただし地中には熱を集め、お湯を配るための配管が張り巡らされています。

緑を取り戻す活動 カールスルーエ

 州の東端あたりのクライスハイムから西端のカールスルーエに移動。ここでは緑化のとりくみを学びました。
 カールスルーエでは環境保護、自然回復、緑の創出のとりくみが意欲的におこなわれていました。湿地や野原、農村を大事にしていて、ビオトープのとりくみ に特に力を入れているそうです。ビオトープとは「人の手が加わらず、自然に動植物が生息できる環境を再び取り戻そう」という意味です。
 街を緑の中の街、庭園の街にするとりくみとして、幅の広いアウトバーンにふたをして、その上を緑化するとりくみや、路面電車の軌道に芝生を植えて緑を増やし、同時に雨水を吸いこませ、騒音も減らすとりくみなどをおこなっています(写真上)。

太陽光発電を利用するフライブルグ

 古い城塞都市・フライブルグでは、太陽光発電展示施設で説明を聞きました。
 太陽光発電とは、シリコンなどの半導体で太陽光を受け、これを直流で蓄電し、交流に変換して使用します。その電気を市が固定価格で二〇年間買い取っているそうです。
 ソーラーパネルの設置も計画的で、市では、どこの建物の屋根にソーラーパネルをつけるかを航空写真で探して決めているとか。
 設置場所は主に集合住宅で、一九九五年にはなんとサッカー場の屋根に設置。これはヨーロッパ初のとりくみでした。設置費用一〇〇万ドイツマルクは、サッカーファンたちが払ったそうです。
 太陽光発電のある場所の道路際には表示パネルが設置されていて、現在の発電量と設置してから現在までの総発電量が表示されています。発電量の数字は刻々と増加しており、街のあちこちに太陽光発電のパネルをつけた建物が点在しています。
 また、街中に電気自動車の充電スタンドが三〇カ所設置されています。職業学校の教員が一人乗りの小さな電気自動車で出勤して、充電スタンドを利用していました。仕事が終わって帰る頃には「充電完了」です。

エネルギー転換で真の「独立国」に

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電気自動車の充電スタンド

 ご存じの通り、ドイツでは二〇二二年までの「段階的脱原発」を決めました。原発事故を起こした国の政治家が今なお原発にしがみつき、遠く離れたドイツが原発廃止に切り替える方向に乗り出しているのは何故なのか? 考えざるを得ません。
 最も根本的な違いは、エネルギーの倫理、あるいは地球環境保全に対する倫理という点を、政治家、経済界、電力会社がどう考えているかということに尽きる のではないかと思います。今回の視察では、都市計画が行き当たりばったりではなく、系統的かつ継続的に立てられ、実施されているということがよくわかりま した。しかも「開発オンリー」ではなく、同時に自然との調和を考え「自然環境をつくっていく」という考え方が貫かれていることは重要です。日本の政治家、 都市計画部門の担当者にも、ぜひ学んでほしいと思います。
 ドイツの自然エネルギーはものすごいスピードで普及しています。ドイツ国内で再生可能エネルギー一〇〇%に到達している地域・自治体はすでに一二・ 七%、一〇〇%を目指している地域も八%あるということです。多分この一?二年で、一〇〇%の地域はさらに激増するでしょう。
 日本には、原発の四〇倍にもなるさまざまな自然エネルギーが存在しているようです。火山の地熱も豊富にあります。四方を海に囲まれているので、海流・波 のエネルギーも使えるはずです。さらに、日本はドイツより緯度が低いので、太陽のめぐみはドイツ以上にあるはずです。
 日本は第二次世界大戦以降、アメリカから原発の建設をすすめられ、普及した経緯があります。原発に傾注したエネルギー・資金をもってすれば、容易に安全 に環境汚染・国民への健康被害なしに、再生可能エネルギーへの転換が可能になり、大きな成果を得ることでしょう。そのとき日本は核大国アメリカべったりで 国際的にひんしゅくをかっている「従属国」から、倫理的で品性のある「独立国」に脱皮でき、国際的な尊敬を受ける国になることは間違いないと考えるのは、 夢想家の寝言でしょうか?
 今回の視察は、これから取るべき日本の方向に確信を持つことができた貴重な時間でした。一層しっかりした視点と倫理・理念をもって「原発ゼロ」「自然エネルギー利用」の運動にとりくみます。

いつでも元気 2012.1 No.243

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