いつでも元気

2011年12月1日

元気スペシャル 元気に育つ研修医 長崎・上戸町病院

民医連の医師研修に調査班が注目

 医師は免許取得後、臨床研修指定病院で二年間、研修をおこなうことが義務づけられています。国は二〇〇九年、「医師臨床研修制度の見直し」として、年間の新入院三〇〇〇件未満の病院を「基幹型臨床研修病院からはずす」と決定しました。
 「基幹型」とは、研修医を募集し、研修の中心となる病院です。「基幹型」の認定が取り消されれば、病院存続の危機にもつながりかねず、「新入院三〇〇〇 件以上でなければ医師は育たないという根拠があるのか」など、批判の的になっています。
 こうした批判を受け、厚生労働省は今年三月、六つの新入院三〇〇〇件未満の基幹型病院に調査班を派遣。民医連も三病院が調査を受け、いずれも高い評価を受けました。そのひとつ、長崎・上戸町病院を訪ねました。

10年ぶりに初期研修医を迎えて

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膝と腰が悪く通院ができない患者さんの往診。「ようやく残暑が終わったのに雨で蒸し暑いねえ」と領家医師(右)

 上戸町病院はベッド数一〇四、年間の新入院一四〇〇件未満の、もっとも小さな基幹型臨床研修指定病院のひとつです。二〇〇八年に認可を受け、〇九年、一〇年ぶりに初期研修医を二人迎えました。
 しかし、一〇年ぶりの研修医に職員はとまどいました。指導にあたった近藤慶医師は「私にも指導医の経験がなく、『きちんと教えられるだろうか』『医学的 な知識を身につけてもらうためにどうすればいいか』と焦っていた」と打ち明けます。
 「でも、指導を続けるうちに『知識はもちろん、活きいきと研修できるようにすることが大事だ』と思うようになりました」と近藤医師。「研修医がひとりで ストレスを抱え込まない環境、聞きたいことや壁にぶつかったときに、だれにでも相談できる環境をつくろうと考えたのです」
 その言葉を裏付けるかのように、〇九年に入職してきた初期研修医の今村祐子医師、領家由希医師は、「話し合いをしない日はなかった」と声をそろえます。 計画通りにいかなかった研修があれば、事務担当者と調整。診察した患者さんのカルテは、毎日近藤医師のチェックを受け、アドバイスをもらいました。
 週一回の症例検討会も研修医の学びの場になっています。研修医が担当した外来・入院患者さんのカルテを見ながら、「患者さんの社会的背景などをよく質問 した」と同病院の三島一幸院長。「最初は答えにつまることもありましたが、民医連の病院を選んできた研修医たちですから、すぐに意識するようになり、答え られるようになった」と言います。
 「逆に教わることもある」という三島院長。「研修医が気になって、彼女たちが診察した患者さんのカルテを見ることがあるんです。でも、カルテを見ると医 師だけではなく、他職種、他の施設の職員や、患者さんの家族も呼んで、病状を説明したり、退院後の治療・生活をどうするか、話し合ったりしている。こちら が見習わなければと思うこともありますよ」。研修医たちが頼もしく成長していく姿に、笑顔を見せてくれました。

厚労省調査班からの評価

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民医連のつながりを活かし、福岡・千鳥橋病院で上戸町病院にない産婦人科の研修中。平野慎一郎医師(2年目)

 こうした研修医たちの成長が、厚労省の調査班からも高い評価を受けました。調査班が面接をおこなった際、今村医師、領家医師は「この病院が好き。この病院で、この職員たちとこれからも働いていきたい」と言いました。
 それを聞いた調査班の医師から「後期研修(三年目以降の研修)ではどんな研修がしたいか。どんな医師になりたいか」と質問され、「患者さんの社会的背景 や生活環境などをすべて含め、まるごと診ることのできる、総合医・家庭医をめざしたい」と。“総合内科は専門分化が著しい大病院などで、患者さんを総合的 に診たり、専門科に紹介したりすることを目的に開く”と考えていた調査員は「ここ(こんな小さな病院)で総合内科をめざすの?」と驚きましたが、二人は 「やります」とはっきり答えました。
 調査班による書類の確認では、二年間の研修のまとめと、指導医らによる評価表に興味をもたれました。
 評価表に関する受け答えの中で、今村医師は「五島ふれあい診療所」の地域医療研修で、あるひとりぐらしの患者さんの家へ往診に行ったときのことを語りま した。その患者さん宅は、野良猫が自由に出入りして部屋中が汚れ、たばこの吸殻も散乱しており、手のつけようがないほどでした。

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五島ふれあい診療所で共同組織の方々とふれあいながら、地域医療を研修中。桑本沙織医師(2年目)

 どうにかしようと、看護師、ケアマネジャー、ヘルパーと相談し、家が老朽化していることもふまえ、引越しが必要と判断。市の職員も交えて相談しました。
 患者さんは「引っ越したくない」と拒みましたが、話し合いを重ねるなかで了承してもらうことができました。引越し先では訪問看護師やヘルパーが支援体制を組み、清潔な生活ができるようになりました。
 一般的に大病院では、退院調整などに医師が関わることはそれほど多くありません。上戸町病院の医師研修では医師以外の職員が研修医と関わり、解決につな げている例は他にも多数あり、このことが調査班にも注目され、評価を得たのです。

小さな病院でも初期研修はできる

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「私と先生は信頼関係で結ばれている」と、今村医師に話す入院患者さん

 国はなぜ「新入院三〇〇〇件以上」という「見直し」をおこなったのか。その背景には、一部大学関係者の意向が反映されています。
 大学卒業後、大学病院以外を研修先に選ぶ学生が増えてはいましたが、〇四年に臨床研修制度が実施され、この傾向は強まりました。こうした“大学病院離 れ”をくい止めるために、大病院に研修先を限定することをねらっているのです。
 本来、医師の臨床研修制度は、幅広い分野にわたって基本的な診療能力を身につけた医師を育てることを目的として始まったもの。診療科が細かくわかれていることが多い大病院に研修先を限定するのでは、本末転倒です。
 大病院、中小病院ともに医師不足が深刻な今日、一部の大病院に医師を集めるのではなく、医学部定数を増やし、医師の養成数を抜本的に増やすことこそ必要です。
 新入院三〇〇〇件未満の基幹型病院は二〇一三年度から指定を取り消され、初期研修医を迎えられなくなります。しかし、小さな病院でも医師として必要な基 本的な知識、技術は身につけられることは、上戸町病院に対する調査班の評価からも明らかです。また、小さな病院だからこそ指導医の目が行き届き、きめ細か な指導がしやすく、医師以外の職員とも関わりやすいという利点もあります。

研修病院指定の継続を

 「自分で判断し、診療する幅が広がってきたがまだまだ手探りで、もっと患者さんの社会的背景な ど、全体的に見渡しながら接することができるようになりたい」と領家医師。今村医師も「忙しくなってきたからこそ医者本位にならず、地域に寄り添う町医者 になりたいという、初心を忘れないようにしたい」と語ります。
 厚労省は上戸町病院を含む六病院の調査結果を受け、今後約三〇病院の追加調査をおこなう計画を明らかにしています。
 そのうち民医連も一〇病院以上が調査対象に。どの中小病院でも初期研修にふさわしいと証明し、一方的な「基幹型」認定打ち切りをさせないために全力をあげる方針です。
文・安井圭太記者/写真・酒井 猛

いつでも元気 2011.12 No.242

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