いつでも元気

2011年11月1日

民医連綱領 実践のゲンバを行く!!(11) 「高額な治療費に苦しむ患者さんを救いたい」 がん患者の負担軽減を求めて立ちあがる 京都・京都民医連中央病院

 いのちと健康、人権を守ろうと民医連ががんばるおおもとには、綱領に掲げられた理念があります。綱領の実践を紹介する連載。第一一回目は、京都の看護師たちがはじめた、患者さんの医療費負担軽減を求める署名運動のとりくみです。

がん患者さんの声をきいた看護師が

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「がん患者さんの治療費軽減を」と国会議員に訴える坂田薫・病棟師長

 日本人の二人に一人が、がんになる時代です。もし、がんと診断されたら、頭に浮かぶ心配事はな んですか。家族や仕事、治療のこと? 医学が進歩し、いまやがんも完治を目標に治療し、長くつきあう病気になりました。一方、闘病をささえる「制度」は遅 れています。問題の一つは患者の医療費負担の重さです。
 署名にとりくんでいるのは京都民医連中央病院。きっかけはがん患者さんの声でした。同院では昨年末、薬の処方を院外の保険薬局に全面移行するという方針 を出しました。すると、待合室の投書箱に「院内処方を続けて」という投書が殺到したのです。    

1回数万円もの薬代負担

 同院では窓口負担分を減免する無料・低額診療事業をおこなっており、この制度を利用するがん患 者さんが少なくありません。しかし保険薬局にはこの制度がないため、病院で無料・低額診療事業を利用中の患者さんにも、院外処方では薬代の自己負担が発生 することに。「ひと月分の投書ほぼすべてがお薬代のことだった、という月もありました」と、同院副看護部長の川原初恵さん。「無料・低額診療事業を利用し ている患者さんには院内処方を続けると決めたのですが、この一件で、がん患者さんがいかに治療費でしんどいのか、思い知らされました」。
 薬剤課が通院中のがん患者さんたちの薬価を調べてみると…内服薬が一錠九〇〇〇円余(白血病)、点滴一回が七万円超、内服と合わせ月四〇万円(乳がん) など。三割の窓口負担として月一〇万円を超える場合も珍しくありません。がんの治療薬は多くが高価な新薬である上、闘病期間の見通しも立ちません。

高額療養費制度の改善求め

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署名に協力する患者さん

 この現状に、同院の看護師長らが話し合い「これは一病院で解決できる問題ではない。患者の医療費負担を減らす運動が必要」という結論に。
 当初は「運動なんてどうやって始めるの?」という、とまどいもありました。しかし、同院の看護師には京都市の周産期医療を改善させたり、患者さんの治療 を認めない行政とたたかった不当減点訴訟など、患者さんの事例を基に運動してきた「伝統」があります。何より、「闘病だけでも大変な患者さんを、さらに苦 しめる治療費をなんとかしないと!」と、元同僚である市会議員の知恵を借り、運動が得意な事務職員にも助けられ、動き始めました。
 請願署名は「高額療養費制度の改善」に絞りました。同制度は、「月の医療費負担が所定額を超えた分は患者に還付される」という負担軽減策です。しかし通 院は入院の場合と違い、明らかに高額療養費の基準に該当する負担額でも、いったん患者が窓口で全額を支払わなければなりません。還付されるのは、早くても 三カ月後。年齢や所得別に設定された上限額も問題です。七〇歳未満の「上位所得者」で月約八万三〇〇〇円、一般で約四万四〇〇〇円まで患者が負担し、それ を超過した分しか還付されません。ですから患者は、通院のたびにまとまったお金を用意しなければならないのです。
 さすがに政府も制度の手直しを検討中です。その動きも意識して署名にはすぐ改善してほしい点をあげました(別項)。

署名の請願事項

1、立替払いの解消へ、外来負担限度額を超える負担について現物支給を速やかに実施すること。(外来でも、高額療養費の委任払い制度を実施すること)
2、高額療養費の限度額を引き下げること。
3、長期治療が継続できるよう、高額長期疾病の指定対象を拡大すること。
 中京社保協などといっしょに「外来がん治療患者等の窓口負担の軽減を考える会」を作ってとりくんでいる。

◆問い合わせは 太子道診療所 TEL075(803)2259


お金の切れ目が“命”の切れ目

 署名のタイトルを見ただけで、協力がひろがり、この日来院した患者さんたちもすぐにペンをとりました。窓口での一回の支払い額は数万円単位という患者さんがほとんどです。
 「国民年金で一人暮らし。治療費は三〇代の息子が。『しんどいからタクシーで病院行け』とも言うてくれますが、節約。バスで来ています」というA子さん (六〇代)は、卵巣がんで闘病中。胃がんの治療で通院中のBさん(五〇代)は「がんになって初めて治療費の重さを知った。僕は妻のサポートで何とかやれて るが、多くの患者が困っているはず。制度の改善を急いでほしい」と。抗がん剤治療をしている間は行動も制限され、フルタイムで働くことはできません。そう なれば収入もなく、貯金を食い潰すしかない。「お金の切れ目が命の切れ目」という言葉は現実なのです。
 「がん患者さんにとって“希望”であるはずの治療が、経済的な問題で苦痛になっているんです」と、国会要請で病棟師長の坂田薫さんは訴えました。

治療継続には経済的支援が必要

 全日本民医連が発表した「窓口一部負担金調査」では、がん患者の一回の窓口支払い額は平均二万 円超にもなっていることがわかりました。大阪・耳原総合病院からは「経済的な理由で治療に来なくなるがん患者が年間十数人」と報告が。同院の乳がん患者会 (すずらんの会)でもこの署名を集めていますが、「お金が続かず治療を諦める」という話を患者さんから耳にすると言います。
 闘病を経済的に支援すれば、治療効果は上がりますか? 化学療法科の野崎明医長に質問すると…「良くなります」と即答。「子どもの学力が親の収入で左右 されるのと同じことが、がん治療にもいえるでしょう。金持ちの方が快適に療養できるという程度の差は仕方ないでしょうが、受けられる医療がお金のあるなし で左右されてはいけません」。
 京都の看護師たちが始めた運動は、全国で待たれていたことでした。患者会や他の病院にも運動への協力を呼びかけ、さっそく数病院が賛同しました。当面の署名目標は一万筆です。
文/写真・木下直子(民医連新聞)

いつでも元気 2011.11 No.241

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