いつでも元気

2010年12月1日

特集2 歯・歯茎の痛み 予防と健診、早めの受診を

相談できるかかりつけ医持とう

 

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吉﨑正仁
徳島・健生歯科なると 所長

 昭和から平成へと時代は変わり、はや20年余りが過ぎました。「歯を白くしたい」「歯並びをよくしたい」「口臭が気になる」など、歯科医院への通院理由も、過去のそれとは様変わりしてきました。
 私が子どものころは「う蝕(虫歯)の洪水の時代」といわれ、どこの歯科医院でも虫歯の治療を希望する患者さんで待合室はあふれかえっていました。当時の 歯科医業の本質は「歯や歯茎の痛みをとる」ことで、患者さんの通院理由もほとんどがそこにあったと思います。一部の専門家・研究者を除けば、日々虫歯の治 療に追われるのが歯医者の姿でした。
 私自身は、乳歯だった子どものころを中心に1~2回虫歯の治療を受けたことはありますが、歯が痛くなり、どうしようもなくなって受診したという経験があ りません。幸か不幸か「歯の痛み」、とくによく患者さんが我々に訴える「昨夜眠れなかった」というぐらいの「激烈な歯痛」を経験した記憶がないのです。

 

表1 痛みの感じ方

「自発痛」:激痛~違和感程度まで
さまざま
「誘発痛」:咬合痛、打診痛、冷温
熱痛、擦過痛など
痛みの感じ方を調べると、診断の
助けになる

 そんな私が「歯や歯茎の痛み」について語るのもおかしなことかもしれません。しかしながら、いまの時代でも歯科医のもっとも重視すべきことに変わりな い、それらの「痛み」について、経験した実例を踏まえて整理して記すことで、少しでも皆様のお役に立てるならと考え、この度の寄稿となりました。

歯・歯茎の痛み方

 歯科で扱う痛みは他にもありますが、今回は歯と歯茎の痛み、それも「自発痛」を中心にお話しします。自発痛とは「じっとしていても痛い」というものです。これに対して「歯に刺激をあたえたときだけ痛い」ものを「誘発痛」と呼びます。
 自発痛にも「神経に触るような鋭い痛み」「心拍に合わせてずきずきするような痛み」「鈍い痛み」「歯が浮いたような感じ」「違和感のみ」など、程度はさまざまです。
 誘発痛は症状によって細かく分類されます。かみ合わせたときに痛い「咬合痛」、たたくと痛い「打診痛」、冷たいものや熱いものがしみる「冷温熱痛」、こすったときに痛い「擦過痛」などがあります。
 強い自発痛が出ているときには痛みが広範囲に渡るため、患者さん自身、どの歯が痛いのかわからないことがあります。しかし原因の歯はほとんどの場合、咬 合痛や打診痛、冷温熱痛をともないますので、一本一本可能性のある歯を診査していけば、原因の歯を突き止められます。

象牙質が露出すると

 誘発痛は緊急を要しませんが、「咬合痛」「打診痛」はこれから生じる「自発痛」の前触れかもしれませんので、何日間も続くなら歯科で診てもらった方がいいでしょう。
 その他「擦過痛」や「冷温熱痛」は、歯の刺激に対して敏感な部分が露出することでみられるようになります(図1)。たとえば歯周病が進行して歯茎が縮んで歯の根っこが表に出てくる、長年の歯ブラシの使用で歯の表面が削れてしまった場合などです。歯の表面のエナメル質は硬く刺激に対して強いのですが、その下の象牙質は間接的に神経と通じているため、刺激を受けると痛みを感じます。
 象牙質が露出した場合、場所さえわかれば、その箇所を覆うことで痛みを緩和できます。しかし神経のダメージが大きく、非常に強い冷温熱痛を感じる場合は、神経をとる治療(抜髄処置)をおこなう必要があります。

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主な痛みの原因は3つだけ

 患者さんの来院目的が多様化しているといっても、歯や歯茎の痛みをどうにかしてほしいという訴えはなくなりません。強い「自発痛」が続けば日常生活にも差し障ります。痛みの原因と場所(患歯)を突き止め、早急に治療しなければなりません。
 意外に思うかもしれませんが、歯と歯茎に起こる痛みの原因は主に3つしかありません。痛みの場所さえはっきりすれば、約9割の痛みがわずか3つの病名で説明できます。
 (1)歯髄炎 歯の中にある神経が炎症を起こしている
 (2)根尖性歯周炎 歯の根の先で炎症が起きる
 (3)辺縁性歯周炎 歯の周りの歯茎が腫れている
 以上です。原因や経過はさまざまですが、最終的にはこの3つの状態にたどり着いて、歯や歯茎の痛みとして自覚されるのです。

歯髄炎

歯の神経が炎症を起こす

 歯の神経(歯髄)はエナメル質や象牙質などに守られており、通常は血液しか中に入り込めません。ところがエナメル質や象牙質が何らかの原因で欠けると、神経が細菌に感染して炎症を起こします(図2)。
 最もわかりやすい例が「虫歯」です。虫歯で歯に穴があき、神経に到達するような深さになれば、神経が細菌の攻撃を受けます。こうなると、痛みをとるには、先ほど述べた抜髄治療しかありません。
 この他、ケガで歯が欠けたり、ひびが入ったり、歯の表面がすり減って細菌に感染することもあります。
 ただ、虫歯にもいえますが、歯髄炎で痛み出す前は「冷たいものがしみる」などの知覚過敏を経験することが多く、この時点で受診すれば神経を取らずに済むことがあります。

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根尖性歯周炎

歯の「根」の先で炎症が

 虫歯治療をしていない歯の根の先が突然膿みだすことはまれです(虫歯を長い間放置していれば別です)。ほとんどが抜髄治療をおこなった後の歯に起こります。
 神経が細菌感染を起こし、抜髄治療をした歯の根の中には少なからず細菌が残っています。免疫の力で細菌の活動が抑えられていても、体調をくずすなどして 免疫の働きが弱まると細菌の活動が活発になり、根の先で炎症を起こすことがあります。結果、膿がたまると根の周辺が圧迫され激しい痛みを起こします(図3)。
 治療は、膿がたまっている場合は膿を取り除くことを優先します。そして根の中を掃除・消毒して炎症を鎮めます。
 患者さん自身が根尖性歯周炎を予防するのは難しいのですが、定期的に歯科医の検診を受け、痛み出す可能性のある歯をチェックし、早めに治療することは可 能です。痛みが出ても症状が軽ければ、抗生物質で膿を「散らし」て治ることもあります。

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辺縁性歯周炎

歯茎が腫れる

 歯茎が広範囲に腫れる場合と、部分的にぷくっと腫れる場合があります。前者のような腫れ方はほとんど歯周病と考えていいと思います。歯周病は30歳以上の方の9割がかかっている病気ともいわれていますが、軽度ではあまり症状がなく、自覚しにくいという特徴があります。
 歯周病が進行すると、歯のまわりの歯周ポケットが深くなり、酸素を嫌う歯周病菌が住みつきやすい環境が整います(図4)。 歯周病菌が増え、菌の活動が活発になれば、歯茎は炎症を起こして痛み出すようになります。治療は、膿がたまっている場合は膿を出し、歯の周りの清掃や消 毒、薬(抗生物質)の服用で、できるだけ菌の数を減らし、痛んでいる歯を刺激しないよう安静を保つことです。あまりにも進行している場合、残念ながら時期 を見計らい、その歯を抜かざるを得なくなります。
 ぷくっと腫れる原因は歯周病以外にも、前述のように根の先が膿んだり、外からの力で歯の根が割れた場合などにも起こり得ます。親知らずが腫れて痛むのも、広い意味での歯周病です。

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原因がわかりにくい痛み

表2 歯の関連痛

・咀嚼筋の筋肉痛
・顎関節症の痛み
・頭痛
・別の歯の痛み

これらが歯の痛みとして感じられる

 歯と歯茎の痛みには、痛む箇所だけ調べても原因がわかりにくいものもあります。
■関連痛
 患者さんは痛む歯がどこかはっきり自覚しているのに、痛みの原因が訴えとは別の場所(歯)にある場合、これを「関連痛」といいます。たとえば「右上の奥 に虫歯があって痛みが出ているのに、右下の奥歯の痛みと錯覚する」などです。もちろん、本当の原因の歯を治療することで、痛みもなくなります。
 その他、咀嚼筋(あごの筋肉)の酷使で生じた筋肉痛が歯の痛みとして感じられる場合などが代表的です。
■上顎洞炎
 上あごの骨の中には「上顎洞」と呼ばれる、鼻腔とつながった空洞があります(図5)。風邪を引いて鼻の調子が悪くなる、などのきっかけでこの部分が炎症を起こし、歯の鈍い痛みとして感じることがあります。
 抗生物質の服用でよくなりますが、前述の「根の先の炎症」が引き金で起こることもあり、その場合は原因の歯の根を治療しなければなりません。重度になると、耳鼻科と連携して治療することも必要です。

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■三叉神経痛
顔面の知覚をつかさどる三叉神経が障害されて痛みが起きている時、それがあたかも歯の痛みであるかのように感じることがあります。治療はペインクリニック(痛みをとる治療が中心の診療所)や脳神経外科でおこないます。
■いわゆる「不定愁訴」
歯や歯茎をはじめとして、痛みの原因となるであろう全ての箇所に異常が見あたらず、痛みの説明がつかないケースもあります。いわゆる「不定愁訴」(これと いった原因が見あたらないが症状の訴えがある)であり、精神面、体調面に問題を抱えるときは、歯科だけでは対応に窮することがあります。

歯科2大疾患を予防して

 歯科の2大疾患は、虫歯と歯周病です。歯や歯茎の痛みもこの2つが出発点となるものがほとんどです。自分で予防したり、定期検診で被害の小さいうちに見つけ、痛みが出る前に治療することが大切です。
 虫歯、歯周病とも徹底したプラークコントロール(歯垢=プラークを除去して歯・歯茎をきれいに保つ)が、予防の基本です。虫歯も歯周病も細菌が原因なので、細菌の住みか(歯垢)を極力無くせばよいのです。
 一般的に奥歯の噛み合わせの面にある溝、歯と歯の間、歯と歯茎の境は歯垢がたまりやすいのですが、これ以外にも、その人その人の歯の形や歯並びで歯垢が たまりやすい箇所が存在することがあります。歯科医院でチェックしてもらい、適切な指導を受けてください。
 自分でできる虫歯予防のポイントは、次のようなものです。
▽食後の歯磨きを習慣づけ、間食も極力避けることで、口腔内が酸性になる時間を短くする
▽フッ素入りの歯磨き粉などで歯を強化する
▽食後にキシリトールガムをかむ

 また、歯周病を進行させないためには次のような、歯科でしかできない処置も必要です。
▽定期的に歯石を除去する
▽すでに歯周病が進んでしまっていたら、不良な歯茎を切除するなどして、菌のたまり場をなくす

 何かあったらいつでも相談でき、継続して歯・歯茎の健康管理をお願いできるかかりつけの歯科医院を確保しておくことも、安心感につながると思います。
 生活習慣病と同じように、虫歯や歯周病も日ごろから気を付けることで予防できます。虫歯・歯周病の予防を心掛ければ、間接的に糖尿病や心臓病の予防につ ながるという利点もあります。心と体の健康を保つためにも、まずお口の中の健康に気をつけていただきたいと願っています。

いつでも元気 2010.12 No.230

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