いつでも元気

2010年6月1日

特集1 後期高齢者医療制度 すぐ廃止して299票 続けていて良い21票

 三年目を迎えた後期高齢者医療制度。「新しい制度ができるまで続ける」というのが政府の方針ですが、当の高齢者のご意見は? 昨 年に続き、編集部は大きな投票ボードを手に、ふたたび“おばあちゃんの原宿”巣鴨の人波の中へ。また、厚生労働省が検討中の「新制度」案が姿をみせはじめ ていますが、「いま以上に不安だ」と、さっそく声があがるようなしろものです。三年目でも大目にはみられません。
文・木下直子記者/写真・酒井猛

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これが、巣鴨の声でした

 四月一四日、編集部は東京・巣鴨の地蔵通り商店街でシール投票をおこないました。この日は市の 日、露天がにぎやかに並び、参拝客でごったがえしています。編集部の投票ボードがその参道に登場すると、何が始まる? と視線が集中。協力を呼びかける と、「私にもシールをちょうだい」と、次々手が伸びてきました。
 「高貴高齢者ならまだいいけど。差別だよね」と、八六歳が。七六歳の女性は、「誰だって年をとる。それを別の保険にするなんておかしい。怒ってるよ。もっとみんなに騒いでほしいよ。年金からは、介護保険料やなんか、いろんなものも引かれてるし」
 特攻隊員の生き残りという八五歳の男性は「苦労してきた世代を粗末にして本当に許せない制度だ」と、生活の苦しさ、保険料と窓口負担の重さを語りました。 ことし七五歳になるという女性は、「もちろん、いますぐ廃止よ!」と強い口調で「即廃止」に投票。
 「年金もわずかしかもらってないのに、高い保険料をもっていかれる。しかも年金天引き…私たちが文句をいいたくてもいえないしくみでしょ。鳩山さんにはすっかりダマされた。去年の選挙で、廃止するって公約してたから応援したのに。裏切られた感じ」。
 新政権への期待が、そのまま怒りに変わっているかのような声が目立ちました。
 七五歳の女性はかんかんに怒っていました。「『廃止する』というから、この前の選挙で民主党に入れたのに、約束を破っちゃって。三食食べるのにも困っている人からお金を取るなんてひどいよ」。

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 投票ボードを持って通りに立った武田力記者は、街頭取材初体験。「廃止」の方にシールを貼った 後、記者に向かって合掌していったおばあさんも。「願いがこもっていました。怒りのエネルギーの大きさ、深さを実感しました。一方で、『よく知らない』と いった方もけっこういてショックでした。知らないといいながら『続けていて良い』に投票した方も。ていねいな説明が必要だと思った」
 シールが尽きてしまい、投票は一時間で終了せざるをえませんでした。一票入れたいという人は去年の取材時と同じように存在していました。結果は「すぐ廃止」二九九票・「続けて良い」二一票。

怒って当然!

 怒りが強いのは当然。政府が制度廃止を二〇一三年まで先延ばししたことで、四月から保険料を値上げした広域連合が多いのです。厚生労働省の発表によると、二四都道府県で保険料率アップになりました※。
 また、平均保険料額でみると、三一都道府県が引き上げに。これは全国の六六%にあたります。最大の引き上げは徳島の七・七%で、広島五・八%、大阪五・一%、北海道五・〇%。
 高齢者たちは、年齢差別の制度への怒りとともに、保険料値上げの痛みに、怒っていました。これも政府が約束通りに国庫補助を出していれば、避けられたはずの痛みです。
※一七道府県が均等割額、所得割率の両方を引き上げ、七都府県が所得割率を引き上げ。両方据え置きが一六県、両方引き下げが七県。

とんでもない「新制度」案が出てきた

“姥捨て山”への入山年齢を65歳に?!

1万1000人が「いますぐ廃止を!」 4・3東京集会

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 三月、後期高齢者医療制度にかわる制度として、厚生労働省府が検討をはじめている新制度の試案 が出ました(高齢者医療制度改革会議)。これがまた、不安な内容。「六五歳以上になった人は、原則として国民健康保険に入る。しかしその財政運営は現役世 代と切り離しておこなう」というもの。
 さらに四月一四日に開かれた同会議では、三パターンの財政試算が提示されましたが、厚労省の本音は、三月に示された試案の内容です。高齢者の財政だけ別 にされれば、高齢者の保険料は、高齢者の医療費が増えれば増えるほど高くなっていくしくみになります。
 同会議では、五月に国民や有識者を対象に意見を聞く予定で、夏には新制度の中間報告をとりまとめたいとしています。

“より悪い制度に変えるのか”

 七五歳以上の人たちを別の保険に囲い込んで運営する後期高齢者医療制度が導入されたのは、政府 が出す医療費をなるべく減らしたい、というねらいによるものでした。この制度案で何が違うのか。「対象年齢を七五歳から六五歳に引き下げるという、いまよ り悪い内容です。『受益者負担』『自己責任』の原則をそのままにして、より悪い制度を作ろうというものにしかみえません」と、全日本民医連の湯浅健夫事務 局次長は指摘します。

 巣鴨では、この試案への意見もきいてみました。「ええっ?」と驚いたのは、六五歳になったばかりの女性。「早く死ねといわんばかりじゃない? まだまだ働かないと食べていけないのに」
 八一歳の女性は、「前の政権は長い間、税金を好き勝手使ってきたけど、新しい政権もあまり変わっていないね。年寄りが大切にされない国には将来はないよ」

もとの老人保険制度に

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即時廃止署名にご協力を!

 全日本民医連は「後期高齢者医療制度はすぐに廃止し、もとの老人保険制度に戻せ」の声をいっそう強めよう、と、全国の仲間に呼びかけています。
 なお、もとの老人保険制度に戻すことに関して「手続きがたいへんで二年かかる」と、鳩山首相が説明しましたが、自治体職員は「難しくもなんともない」と証言します。
 「データも残っていますし、これまで実務にあたってきた現場の職員もいまならいます。どんなに時間がかかっても半年、三カ月もあれば戻せます。どうして 『たいへん』なのか、地方自治体の担当者なら誰でも不思議に思います。むしろ、先延ばしするほど難しくなります」(東京自治労連・田川英信副委員長)

 東京では四月三日、「いますぐ廃止を!」を掲げ、明治公園に一万一〇〇〇人が集まりました。吉田万三実行委員長(全日本民医連副会長)がこう訴えました。
 「毎日四〇〇〇人が七五歳になります。三年たてば新たに四百数十万人の後期高齢者が。こういう悪い制度は、『そのうち廃止』ではどんどん悪くなります。このけしからん仕打ちを六五歳までひろげるという話まで出てきた。
 昨年秋の政権交代は、国民の期待に後押しされたものでした。風の力でできた政権だから、『風』が大切。風が止まれば船も止まるし、違う方向から来る風があれば違う方向に向いてしまいます。私たちの運動というエンジンこそ、要求を実現し政治を変える推進力です」

 ふたたび巣鴨でのこと。
 投票結果を腕組みして眺め、声をかけてきた男性が。「こんなに廃止に投票した人たちがいるんだね。いやぁ、嬉しいねえ」都内に住む七五歳でした。 「ニュースは最近報道しないだろ、みんな怒るのをやめちゃったかと、がっかりしてたんだ」と。「ちょうど二年前のこの場所に、鳩山さんが来て、後期高齢者 医療制度は廃止だと演説したから握手したんだけどな。こういうの(宣伝)、どんどんやってくれよ。やっぱり廃止してほしいよ」

いつでも元気 2010.6 No.224

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