第46期第2回評議員会方針
2025年2月16日 全日本民医連第46期第2回評議員会
第1章 情勢の特徴
第1節 激動する世界と日本
第2節 平和と人権をめぐる変化と私たちの役割
第3節 国内情勢の特徴
第4節 能登半島地震・豪雨災害の復旧・復興の現状
第2章 全職員の力を結集し経営危機を乗り切ろう
第1節 民医連経営の基本と果たすべき役割 ~なんのために、誰のために~
第2節 この間の民医連経営の到達点
第3節 経営危機の打開に向けて ~2025年度予算編成が当面の最重点~
第3章 総会運動方針実践の到達点と今後のとりくみ
第1節 「ケアの倫理」を語り合い、ケアに満ちた新しい社会をみんなで描こう
第2節 オール地域で平和とくらし、人権としての社会保障を守り抜こう
第3節 一人ひとりの尊厳を大切にする医療・介護活動を充実させよう
第4節 高い倫理観と変革の視点を育む職員育成の前進を強めよう
第5節 困難に直面している医学対活動に正面から向き合い、オール民医連の力で前進に転じよう
第6節 私たちのあらゆる活動のパートナー、共同組織とともに前進しよう
はじめに
全国の県連、法人、事業所、職員、共同組織のすべての仲間のみなさん。
私たちは、総会以後の1年間、46回総会運動方針を具体化し、オール地域の運動、能登半島地震の復旧・復興へ向けた連帯と団結の力の発揮など、全国で奮闘してきました。理事会は、すべての県連、法人、事業所、職員、共同組織のみなさんの努力に心からの感謝と敬意を表します。
急速に医療・介護の危機が進行するもと、私たちは、地域のいのちとくらしを守るため、かけがえのない民医連の事業を守り抜くこと、ジェンダー平等、ケアの視点でいのち優先の社会、豊かな医療・介護のために予算を使う社会への大転換をめざし現場から発信し続けてきました。こうした姿は、地域で共感を呼び、ひろく報道もされ影響をひろげてきました。
事業と経営をめぐってはひきつづき厳しい状況もありますが、よりいっそうの全国的な連帯を発揮し、打開をはかるのが私たち民医連です。
2025年は被爆80年、戦後80年の節目です。また、戦争遂行のため、国民の自由と民主主義、人権をはく奪してきた治安維持法施行から100年です。戦後80年間、いのちの対極にある「戦争」をしない国を続けられたのは、二度と国が戦争することを認めない憲法の存在と、改憲させず、憲法を守り生かす市民の運動の力があったからです。
46回総会運動方針の3つのスローガン(●平和的生存権・人間の尊厳を守る立場で、国連憲章・国際法に反する暴力・戦争を止めるために行動しよう。●大軍拡を止め、多様性の尊重・ジェンダー平等といのち第一の政治を実現するために、共同組織とともに、地域から人権・公正の波を起こそう。●70年の歴史を力に、「ケアの倫理」を深め、「2つの柱」の全面実践で、「人権の砦(とりで)」たる民医連事業所を守り、発展させよう)を掲げ、前進しましょう。
先の総選挙の結果、自民党・公明党の与党は過半数を割り、私たちの切実な要求を前進させられる条件が生まれました。この根底にいのち優先の社会をと運動を強めた私たちのとりくみがありました。7月には参議院選挙があります。いのちの現場から声をあげ、いのち優先の社会へと前進させましょう。
第2回評議員会は、全会一致で①総選挙結果も踏まえ、情勢認識と民医連の役割を一致させ総会後1年間の全国の実践を共有し、到達点を踏まえ46期後半の方針を決定、②46期第1年度の決算と2年度の予算案を承認しました。
評議員会では、ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の代表委員・田中熙巳(てるみ)さんが被爆体験とともに連帯のスピーチを行いました。
第1章 情勢の特徴
第1節 激動する世界と日本
ロシアによるウクライナ侵略が開始され、丸3年が経過しました。ウクライナの無辜(むこ)の市民、両国軍の青年が多数死亡しています。そのなかにはロシア軍に加わった民間人(志願兵)や北朝鮮の人も含まれています。
パレスチナ・ガザ地区での凄惨な人権侵害は、16カ月が経過し、病院へも容赦なく空爆が行われ、多数の女性と子どもを含む4万6000を超えるパレスチナ人が殺害されました。国際刑事裁判所(ICC)は、民間人を意図的に攻撃し、飢餓を戦争の道具として利用したなどの行為を戦争犯罪と認定し、イスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を発行しましたが、アメリカ議会はICC制裁法を可決するなど、イスラエル寄りの姿勢に固執しています。今年に入り、イスラエルとハマスの間で合意が成立し、1月19日から停戦へのプロセスが開始されますが、恒久停戦につながるように国際社会の支援が求められます。
「国連憲章と国際法に反する暴力・戦争を止める」とした今期のスローガンをあらためて確認し、停戦・平和への行動を強化しなければなりません。
欧州各国で政権党の苦戦、自国第一主義、反移民・難民を掲げる右派政党の台頭が見られます。その背景には、紛争などで国を追われる人びとの急増や各国庶民の生活苦、貧困の拡大などがあり、グローバル資本主義をコントロールすることが困難になってきている証左とも言えます。アメリカでの第二次トランプ政権誕生も同様の文脈から捉えることができるでしょう。
日本においても、国民の実質賃金は低下し、経済格差がひろがり、改定入管法にも見られるように、難民に対して極めて冷酷な政策が続いています。右派ポピュリズムが台頭する政治的土壌を放置しない政治的行動が必要です。
トランプ政権の再登場が世界におよぼす影響は甚大です。カナダをアメリカの51番目の州と見なす、デンマーク領グリーンランドをアメリカが領有するために軍事的圧力も辞さない、NATO加盟国への軍事費大幅増額要求、難民の大量送還、各国への高率の関税宣言など、その傍若無人ぶりは目に余るものがあります。日本においてもさらなる軍拡、社会保障改悪に拍車がかかることは必至であり、私たちの生活改善には日米関係のありかたを見直すことが必須であるという状況がより明らかになってきたと言えます。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による非常戒厳発令に対して、野党議員たちは毅然(きぜん)と行動し現職大統領を弾劾しました。軍事政権から民主化を勝ち取った歴史を持つ国民の、民主主義への熱い思いが、権力者の無法を許さなかった、まさに歴史的な出来事でした。
第1回評議員会からの半年間に起こったこうした変化は、私たちの日常の仕事とさまざまな連関を持ちつながってくるものです。Think globally Act locally(地球規模で考え、地域で行動する)の視点で自身の課題を見つめ直すことが重要な局面だということです。
第2節 平和と人権をめぐる変化と私たちの役割
(1)日本被団協へのノーベル平和賞授与にあたって
①「核破局の瀬戸際の時代」に生きる私たち、核兵器禁止条約を実現してきた被爆者と市民社会の運動に確信を
2024年12月10日、ノーベル委員会は2024年のノーベル平和賞を日本被団協に授与しました。「広島と長崎の地獄を生き延びた人びとの運命は長きにわたり隠され、無視されてきた。1956年、地域の被爆者団体と、太平洋で行われた核実験の被害者が日本原水爆被害者団体協議会を結成」「次第に核兵器使用は道徳的に許されないと烙印(らくいん)を押す力強い国際的な規範が醸成された」「広島、長崎(の原爆被害)を生き抜いた被爆者の証言は、こうしたより大きな文脈において唯一無二のものである」(日本被団協へのノーベル平和賞授与理由)。核兵器のない世界の実現をめざす被爆者の努力と、被爆の証言を通じて核兵器の使用をタブーとした貢献が理由です。授賞式のスピーチで田中熙巳代表委員は、「原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府はまったくしていない」ともくり返し指摘し、「戦争の苦しみは国民が受け入れるべき」という日本政府の「受忍論」を厳しく批判しました。
全日本民医連は、今回の授与に心から歓迎の意を表明し、日本被団協、被爆者のみなさんのこれまでの行動に強く連帯し、ともに前進していく決意を表明します。
いま「核破局の瀬戸際」とも言える危機に直面しています。
ウクライナを侵略するロシアは、核兵器による威嚇をくり返し、パレスチナ・ガザ地区を攻撃しているイスラエルは核使用の意思を表明し、アメリカなどの核兵器保有国も先制核使用の政策を継続し、NATO諸国は公然と核兵器の配備を求めています。台湾・米中関係、朝鮮半島の現在の緊張、日本を含むアメリカ主導の軍事ブロックの強化、大軍拡など、東アジアの戦争の危機も生み出されています。アメリカ大統領選挙で、自国第一主義を掲げる共和党トランプ前大統領が当選し、世界の対立と分断にいっそう拍車がかかる危険があります。石破茂首相は、アメリカの「核の傘」への依存を深め、「抑止力」強化を口実に「敵基地攻撃能力」の保有をはじめとする大軍拡をすすめながら、「ロシアのウクライナ侵略は、ウクライナが核兵器を持っていなかったから起きた」とのべ、核不拡散条約(NPT)にも、憲法9条や国是である非核3原則にも違反する「アジア版NATO創設」、「核兵器の共有」まで主張しています。
核兵器と核の抑止力に固執してきた核保有国と核の傘に依存する国のやり方が、今日の深刻な危機をもたらしています。核抑止とは、いざとなればヒロシマ・ナガサキの悲惨な光景を再現することであり、この人道に反する行為を決して行わせてはなりません。被爆者の声と世界の市民社会の運動、世論が、危機を克服する確かな道筋である核兵器禁止条約(TPNW)(注1)を発効させ、人類が生存していくための大義ある方針をつくり出してきました。ウクライナ戦争でもガザ・中東の事態をめぐっても、国際政治の舞台では大多数の国が、各国の主権尊重、国際紛争の平和的解決、主権と領土保全、平和を求めて団結しています。世界の人口、経済力などで巨大な比重を占めるグローバル・サウスの国々も、軍事ブロックや自国第一主義ではなく、国連憲章を擁護する立場からの発言を強めています。
②被爆者とともに歩んだ民医連の被爆者医療のとりくみ
民医連での被爆者医療は、1953年の全日本民医連結成前後から、広島などいくつかの事業所で先駆的にとりくまれ、1954年3月のビキニ水爆被災事件の際は、民医連と新日本医師協会が焼津(静岡)や築地市場(東京)に全国調査団を派遣、大阪などでも健康調査にとりくみました。
1966年、日本被団協は、その後の被爆者運動の発展をささえた「原爆被害の特質と被爆者援護法の要求」(つるパンフ)を作成、全日本民医連は同年の第14回総会運動方針で「被爆者医療」を明記しました。翌年には、第1回「全国民医連被爆者医療研究集会(のちに交流集会)」を開催、「被爆者の立場に立って病態を追求し治療法を確立していくこと」「この医療活動を通じて核兵器完全禁止、核戦争阻止、被爆者救済の運動に貢献していく」と基本的な姿勢を打ち出しました。集会は回を重ね、先駆的な経験を学び合い、全国でとりくみをひろげてきました。集会には、被団協、被爆者の代表も参加して協力関係を深め、集会で講演した日本被団協の伊東壮(たけし)事務局長(当時)は、「被爆者はみんなとなりの医者にかかれるようにしてほしいというのです。しかし、みんな民医連に行く。なぜかというと医療の質がいいからです。質というのは被爆者の立場に立って、被爆者のトータルな状態が判断できるかできないかということです」とのべました。民医連は今日まで、全国各地で、被爆者健康手帳の取得、原爆症認定訴訟、ビキニ被ばく船員、黒い雨訴訟の支援、また東京電力福島第一原発事故による避難者への支援など、核被害者と伴走してきました。
③被爆80年の2025年、すべての職員が被爆者の声を傾聴、継承し、被爆者とともに非戦、核兵器のない世界と日本への転換の年に奮闘しよう
被爆80年の2025年は、3月、TPNW第3回締約国会議、4月、2026年第11回NPT再検討会議に向けた第3回準備委員会、8月の広島・長崎の被爆80年、2026年4月には第11回NPT再検討会議が開かれます。非戦、核兵器のない世界へ向かう転換期となる時です。また、被爆者の平均年齢は85歳を超え、直接に被爆体験を聞き、継承していく機会も減少します。すべての職員が被爆者の声を傾聴、継承し、被爆者とともに非戦、核兵器のない世界と日本への転換の年にするために奮闘しましょう。
日本政府に憲法9条にもとづく平和外交をすすめ、「核抑止力」論からの脱却、核兵器禁止条約の署名・批准を求めていきます。すでに核兵器禁止条約の署名・批准を求める自治体意見書決議は4割に達し、世論調査でも7割を超える国民が求めています。
(2)女性差別撤廃委員会による第9回日本政府報告書に対する総括所見を踏まえて
①総括所見の日本政府への主な勧告
女性差別撤廃委員会(CEDAW)は2024年10月17日、国連欧州本部(ジュネーブ)で8年ぶりに日本報告審議を行い、総括所見を発表しました。女性が不利益を受ける制度や社会システムについて多岐にわたり指摘し、そのすべてが女性の人権といのち・健康にかかわる切実な内容です。多くの日本のNGO団体が渡欧し、障害者権利条約に対する総括所見の時と同様に、当事者団体としてレポートを提出し、さらに審議の合間に各所で独自のチラシなどを用いてアピールしたことの成果です。
世界のジェンダー平等の主流化から取り残されていることが明らかにされ、女性比率(指導的地位、管理職)の目標値におけるパリテ(50:50)の実現、家庭や社会における家父長的態度やジェンダー・ステレオタイプ(差別的固定観念)など、社会の構造的な課題が指摘されています。沖縄の女性たちの訴えもあり、沖縄の在日米軍に言及し、二国間軍事交渉への女性の参加、米兵による性暴力の防止についても新たに盛り込まれました。ジェンダー平等省の創設、女性・市民団体と連携した第6次(次期)男女共同参画基本計画の実施も強調しています。
また、選択議定書(注2)の批准(締約国189のうち115カ国が批准)に対するあらゆる障壁を速やかに解消し、国際水準の人権保障にとって不可欠である個人通報制度の導入、明確な期限を設定した上で、政府から独立した国内人権機関(注3)の設立も強く勧告しました。さらに「フォローアップ項目」(2年以内に書面報告)として、(1)選択的夫婦別姓の実施、(2)女性が立候補する際の供託金の減額、(3)すべての女性と少女の緊急避妊薬を含む現代的避妊法へのアクセスの提供、(4)妊娠中絶における配偶者同意要件の撤廃をあげました(注4)。性と生殖の健康と権利(SRHR:Sexual Reproductive Health and Rights)の著しい遅れも指摘し、人権教育である包括的性教育の実施と、その内容について政治家や公務員が干渉しないよう求めています。
そのほか、PFAS(有機フッ素化合物)に関する最新情報の提供、同性婚を認めること、男女賃金格差の解消、ひとり親世帯・高齢女性等不安定雇用の解消、経済的困難による性的搾取の防止、気候変動や災害におけるジェンダー予算の導入、国際労働機関(ILO)の2011年家事労働者条約の批准など、多岐にわたります。
この間進展した施策として、セクハラや妊娠・出産に関するハラスメントの相談手続きの確立、性交同意年齢の13歳から16歳への引き上げ、配偶者からの暴力の防止等に関する法改正、優生保護法にもとづく優生手術などの被害者への補償金等支給などがあげられました。女性や当事者団体が粘り強く声をあげてきたものです。
②総括所見を踏まえ、具体的なアクションで、ジェンダー平等実現へ力を尽くそう
民医連は『旧優生保護法下における強制不妊手術問題に対する見解』(以下、『見解』)で、制度が人びとの意識を形づくることへの学びを深め、憲法が保障する基本的人権を侵害するような立法と行為を今後決して許してはならないことを誓っています。また、多くの医療・介護施設の経営困難や処遇の低さは、ケア労働の社会的評価が低いことが背景にあり、ジェンダー差別と不可分です。総括所見のうち、民医連としても照合できるのは83カ所で、そのうち不十分でもとりくんでいるのは10カ所でした(注5)。これは、人権の課題として認識できていない問題が数多くあることを示していると言えます。
総括所見は各団体にも問われるものです。組織内外で具体的なアクションを起こし、ジェンダー平等の社会実現へ力を尽くしましょう。選択的夫婦別姓制度の導入は、多くの政党が公約し、実現の可能性が開けています。地方議会でも意見書が次々あがっています。新日本婦人の会が呼びかけた緊急署名にいっしょにとりくむなど、地域で連帯をひろげましょう。
(3)優生保護法問題~最高裁判決後の動向と今後の課題
①最高裁判決から「基本合意」まで
2024年7月3日、最高裁大法廷は、旧優生保護法下での強制不妊手術国賠訴訟に対して、旧優生保護法が立法当初から憲法違反の法律であり、除斥期間の規定は、同法の被害者には適用しないという画期的な判断を示しました。
この最高裁判決を受けて、国賠訴訟、被害者への補償に関して新たな対応がはかられてきました。2024年9月13日、政府と原告・弁護団との間で「訴訟和解等のための合意書」に調印し、和解によってすべての訴訟を終結することを確認しました(11月15日までにすべての原告について和解が成立)。さらに9月30日、国と原告・弁護団は、旧優生保護法下で、障害者らに強制された不妊手術や人工妊娠中絶の被害回復、旧優生保護法問題の全面的な解決をめざす「基本合意」を結びました。「基本合意」では、(1)国は最高裁判決を真摯(しんし)に受けとめ、人権侵害に対する責任を認め、「心から深く謝罪する」とともに、「障害者への偏見差別と優生思想を根絶し、個人の尊厳が尊重される社会」へ全府省庁をあげて全力を尽くす、(2)すべての被害者の補償に向けて、相談窓口、広報、補償を届けるなどの施策の実施、(3)謝罪広告など名誉回復措置、真相究明のための第三者機関の設置、障害者差別根絶のための法整備、教育・啓発、(4)関係3団体(原告団、弁護団、訴訟をささえてきた優生連)と国との定期協議の実施―などが確認されました。
②新たな補償法の成立と課題
以上の経緯のなかで10月8日、新たな補償法(旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律)が成立し、衆参両院において、国会としての謝罪と被害回復を盛り込んだ決議が行われました。新たな補償法は、前文で旧優生保護法に対する政府の立法・執行責任を認め、謝罪を表明した上で、一時金支給法の一時金320万円に加え、新たに補償金として1500万円、配偶者に500万円を支給(遺族が受け取ることも可能)、さらに同法にもとづいて実施された人工妊娠中絶を強制された被害者に対して、一時金200万円を支給するとしました。不妊手術約2万5000人、人工妊娠中絶約5万9000人、合わせて約8万4000人が補償の対象として想定されています。一時金支給法では、個々の被害者に通知を行わなかったことなどを背景に、認定者は2024年10月末時点で1148人にとどまっています。新たな補償法においても法律上個別通知は行わないとされ、現在、政府は制度の周知について、自治体や関係団体(日医をはじめ医療・福祉の職能団体)に協力を要請しています。また、各地の弁護士連合会では申請のサポート体制が設置されています。新たな補償法は2025年1月17日に施行されました。1人でも多くの被害者が補償を受けられるよう、必要な環境整備を行うことが制度上の課題となっています。
③民医連としてのとりくみ
あらためて『見解』の学習にとりくみましょう。その際、国賠訴訟の経過、最高裁大法廷判決の意義や「基本合意」の内容など、『見解』以降の経過についても学ぶことが必要です。優生連の提言(優生保護法問題の全面解決に向けた提言)、障害者権利条約と総括所見(2022年9月)なども合わせて学習し、障害観(社会モデル・人権モデル)や障害者の人権、当事者の視点について理解を深めましょう。人権と倫理センターとして学習資材を準備します。旧優生保護法問題について、くり返し学び続けましょう。
新たな補償法については、その周知を徹底すること、申請の際は手術痕の確認は必須とせず、被害者の陳述を中心に被害認定を行う仕組みに切り替えることなど、政府に対して制度運用の改善を強く求めていきます。そもそも戦後最大といわれる重大な人権侵害を引き起こした国が、その被害者に被害を検証し、立証する責任を課すことは許されることではありません。あわせて、このような人権侵害を二度と起こさないよう、第三者機関による旧優生保護法問題の全面的な検証と包括的差別禁止法の制定、障害者差別をもたらす優生思想の根絶など、「全面的な解決」に向けた施策を講じることを政府に重ねて要請します。
きょうされんや障全協(障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会)をはじめとする地域の障害者団体、支援者組織との連携を強め、旧優生保護法の学習や、都道府県に対して制度の周知をはじめ補償法の適切な運用を求めるなど、共同したとりくみを積極的に追求していきましょう。旧優生保護法問題の全面解決とともに、個人の尊厳と多様性が尊重され、障害がある人にとっても生きやすい社会の実現に向けて、私たちに何ができるのか、当事者のみなさんといっしょに考え、行動していきましょう。
第3節 国内情勢の特徴
石破政権は2024年度補正予算において能登半島の復旧・復興予算の3倍にあたる、8268億円の防衛費を充てました。自民党は経団連加盟企業から24億円もの企業団体献金を受け取り、それが防衛費増、経済優先の政策実現というゆがみをもたらし(図1)、平和、人権、いのちとくらしに背を向けています。
社会保障分野では、「大軍拡財源確保のため社会保障費の削減、世代間対立をあおっての給付削減、全世代の負担増」(46回総会運動方針)の路線を継続し、全世代型社会保障改革に向けた「改革工程」の実行で、大改悪をすすめようとしています。
医薬品分野での医療給付の削減政策では、すでに生活保護利用者に医療扶助によって原則後発医薬品を調剤、先発医薬品を希望することはできず、先発医薬品を選択する権利をそもそも認めないという人権問題を強行してきました。今回、2024年10月から「改革工程」にもとづいて長期収載医薬品の選定療養を導入、医療のなかでも投薬という中核をなす部分、薬剤の保険給付にまで差額を持ち込みました。マイナ保険証の強行、3年以上も続く医薬品の供給困難な事態を改善できないまま、患者、病院、診療所、薬局などでの混乱をさらに拡大する愚行です。今後、調剤をめぐり漢方薬、ビタミン剤、スイッチOTC医薬品など、さらに選定療養が拡大されるなら国民皆保険制度の崩壊に通じる事態であり、長期収載医薬品の選定療養の撤回を求めます。
選定療養の拡大では、2024年12月から茨城県独自に救急搬送で大病院に搬送され、結果的に入院が必要とならなかった場合など、軽症と診断されれば選定療養費を徴収する制度が実施されています。
2024年12月には、高額療養費制度の上限の引き上げ案を現役世代の保険料負担の軽減(最大で年間5600円、月466円との試算)を理由としてまとめました。しかし、現役世代でも例えばがん治療などでは、医薬品費の自己負担は高額で、この制度により治療が継続できています。社会保障財政の争点は、負担の世代間対立の問題でなく、国と大企業が財政責任を強めるかどうかという点にあります。
2024年末には社会保障審議会医療部会が、「2025年団塊の世代が全員75歳以上に到達するなか、次の社会保障改革の時期を高齢者数がピークとなる2040年頃に定め、『2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革の意見』」をまとめ、1月からの通常国会での法改正をめざしています。
国内情勢として、国民生活の現状の苦難のひろがり、戦争できる国づくりの現状、政府が今後すすめようとしている「改革」の方向をリアルにつかみ、私たちが民医連綱領の立場から公的医療費抑制政策の転換、受療権、健康権保障、医療・介護従事者の処遇改善、いのち優先の社会へ転換していくたたかいを強めていく展望を確認します。
(1)倒産、生活苦のひろがりと機能しないセーフティーネット
2024年の企業倒産は2023年との比較で15・1%増加、11年ぶりに1万件を超え、うち99%が中小企業です。全地域で増加しているとともに、北陸地域は能登半島地震の影響で27・5%の増加となっています。人手不足倒産、物価高倒産、社会保険料や税金が支払えず倒産に追い込まれたケースが急増しています(1月14日の東京商工リサーチ発表)。
2025年は、社会保険料の対象拡大、金利上昇による収益圧迫など中小企業を取り巻く環境は厳しさを増し「大廃業時代(休廃業・解散、倒産件数の急増)」と言われる状況が続くともされています。
こうしたもとで政府が公表した「2024年版自殺対策白書」では、2023年の自殺者数は2万1837人で、前年をわずかに下回ったものの、自殺の原因・動機のうち「経済・生活問題」が2年間で1・5倍に増加しています。2021年の後半から始まった物価高による生活苦への政府の支援の遅れが要因と言えます。また、いのちのとりで裁判全国アクションが公表した資料では、生活保護を利用しながらも「生活苦」を理由に自殺した人が、2023年度は118人と前年比較で40%近く増加しています。
24年度上半期の生活保護の申請件数は前年同期比で2・8%増にのぼっています。新型コロナウイルス感染拡大で景気が悪化した期間や、コロナ禍に伴う生活支援の縮小が低所得者層を直撃した時期の申請件数を実数で上回り、コロナ禍前の2019年同期と比べ16・8%の増加です(図2)。
こうした深刻な状況にもかかわらず、政府の2025年度予算案の生活扶助基準引上げ率の案は0・7%、わずか500円です。24年10月の「生活扶助に相当する物価指数(2020年基準)」は、2人以上世帯で113・5%、単身世帯113・9%にまで上昇しており、生活保護利用世帯の実質的可処分所得を維持するためには、最低でも13%以上の引上げが必要です。このままでは生活苦のさらなる拡大が進行する事態です。
(2)進行する「憲法違反」の戦争する国づくりと増加する防衛費
2022年12月16日に岸田政権が、憲法違反の敵基地攻撃能力の保有や、5年間で43兆円もの軍事費をつぎ込む大軍拡を決めた「安保3文書」(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」、以下、3文書)の策定から2年がたちました。3文書はアメリカが対テロを掲げた世界戦略から、急速に台頭した中国への対決方針に転換したことを背景に「日米両国がそれぞれの戦略を擦り合わせ、防衛協力を統合的にすすめていく」として策定され、アメリカの対中国の軍事戦略に日本を組み込むものです。すでにフィリピンから台湾、沖縄、南西諸島、馬毛島でのミサイル配備と基地強化、自衛隊の戦争する軍隊への変質などをすすめています。また、在日米軍が作戦指揮権を持つために新設された「統合軍司令部」(東京・六本木に設置)によって、米軍が自衛隊を事実上の指揮下に置き、米軍主導の「統合防空ミサイル防衛」に自衛隊が参加することになりました。アメリカが戦争を始めれば、日本は集団的自衛権を発動して参戦し、敵基地攻撃を担うため、敵国から、日本全体が報復対象となります。
中国への軍事包囲のため米軍と自衛隊の共同訓練が質量とも強化され、南西諸島を出発点に、本土から中国の内陸部にまで到達できるミサイルと部隊を配備する、日本領土の軍事要塞化が進行しています。配備増となるミサイルなどを補完する弾薬庫の新設が住宅地、学校、保育所近隣地域も含め、日常のくらしのなかで、全国ですすめられています(青森、京都、大分、宮崎、鹿児島、沖縄)。敵基地攻撃用のミサイル保管の可能性も高まり、有事の際には標的となる住民の不安が増大しています。辺野古新基地建設は沖縄県民の自治権をはく奪し、国が大浦湾の埋め立てに必要な設計を県に代わって承認する「代執行」を強行して1年がたちました。防衛省は2024年12月28日から軟弱地盤への杭打ちを強行しています。また、沖縄での米軍による犯罪は、年々その数が増加、2024年に沖縄県内で摘発された米軍関係者の刑法犯は、過去20年間で最多となっています。特に、不同意性交、強盗などの凶悪犯罪は1992年以降で最多という異常な事態となっています。県民のいのちと人権を守るため、基地強化ではなく、日米地位協定の抜本的改定、米軍基地撤去の決断こそ、政府がやるべきことです。
5年間で防衛費の増額を2027年度にGDP比で2%、11兆円にすると決定し、2022年度の5兆8500億円から2023年度は7兆6300億円、2024年度は8兆7800億円(補正予算分含む)に増加させ、2025年度案では8兆6700億円となっています。安保3文書にもとづく戦争する国づくりへの大軍拡予算が、いのち、くらしを壊しています。
(3)政府のねらう「医療提供体制改革」の方向
①医療提供体制改革議論の経緯~通常国会は医療提供体制改革が焦点
2025年4月からのかかりつけ医報告制度創設へ向け、2024年7月31日に「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会報告書」が公開され、報告を求めるかかりつけ医機能などが定められました。
2024年12月25日に社会保障審議会医療部会で、「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見(以下、「意見」)」がとりまとめられ、2024年12月18日に新たな地域医療構想などに関する検討会でとりまとめられた「新たな地域医療構想に関するとりまとめ(以下、「新構想」)」「医師偏在対策に関するとりまとめ(以下、「偏在対策」)」も、とりまとめ通り確認されました。
また「意見」では、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進について、「電子カルテ情報共有サービス」を法制化するとしています。2025年度から本格稼働させるため、電子カルテ未導入の医療機関に標準型電子カルテを導入し、「3文書6情報」を社会保険支払基金などに対して提供できるよう法制化して、個人情報保護法の例外とすること、マイナンバーカードを活用した医療費助成の効率化として、「公費負担医療、地方単独医療費助成」のオンライン資格確認なども、法整備を行うと明記されています。
同日、厚生労働省は「医師偏在の是正へ向けた総合的な対策パッケージ案」を示しました。地域ごとの人口構造が急激に変化するなかで、将来にわたり地域で必要な医療提供体制を確保し、適切な医療サービスを提供するため、制度改正を含め必要な対応にとりくみ、実効性のある総合的な医師偏在対策を推進する、対策を医療法にもとづく医療提供対策の基本方針に位置づける(新たな地域医療構想、働き方改革、オンライン診療の推進などと一体にとりくむ)とし、関連の法改正を1月からの通常国会に提出するとしています。
地域での医療提供体制に深刻な影響をおよぼす法案の提出に対する、たたかいを強めます。そのために評議員会では、「新構想」と「偏在対策」の内容について要点を確認しておきます。
仮に法案が成立した場合も、地域医療対策協議会および保険者協議会での協議など、都道府県、医療圏、地域の単位で具体的な検討の場が設定される予定です。全日本民医連、県連で情報を把握し、計画が、住民にとって必要な医療を受けられる医療提供体制なのか、地域住民と医療従事者の声にもとづく計画づくりなのか、民医連の医療・介護はどのような役割を果たすのか(機能、ポジショニング)などについて、共同組織、民医連内外の医療・介護事業所とともにたたかいと対応を強めていくことが必要です。
②新たな地域医療構想に関するとりまとめの特徴
「新構想」は、2040年やその先を見据え、2025年度に国がガイドラインを作成、2026年度に都道府県が地域の医療提供体制全体の方向性、必要病床数などを定め、2027年度からとりくみを開始するテンポとされています(現行の地域医療構想のとりくみは2026年度も継続)。
現在の地域医療構想が地域の病床数を対象としている入院医療だけではなく、外来医療・在宅医療、介護との連携、人材確保などを含めた地域の医療提供体制全体のビジョンと位置づけました。今回初めて、精神医療について位置づけたことも特徴です。「新構想」は(1)構想区域ごとに確保すべき機能として「高齢者救急、地域急性期機能」・「在宅医療等連携機能」、「急性期拠点機能」、「専門等機能」、広域な視点で確保すべき機能として医育および広域診療機能を位置づけ、このうち、急性期拠点機能は、構想区域ごとの医療機関数も設定し集約化を促進する、(2)病床機能は現行の4区分(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)を維持するが、回復期の名称を包括期に変更し、高齢者などの急性期患者に治療、入院早期からのリハビリなどを行う定義を追加し役割の明確化をはかる、(3)構想区域は、二次医療圏を原則に、広域な観点での区域は都道府県単位(必要に応じて三次医療圏)で設定し、在宅医療などについては、必要に応じて二次医療圏より狭い区域を設定する見込みです。
役割を明確にするため、医療機関が役割を報告する仕組みを創設しました。
③医師偏在対策に関するとりまとめの特徴
「偏在対策」に示されている現状認識は以下の通りです。(1)医師数は2022年までの10年間で約4万人増加(30万4000人→34万4000人)、地域枠を中心に医学部定員の臨時増員により、若手医師の地域偏在は縮小しているが全年齢でみると縮小していない。中堅・シニア世代を対象としたとりくみが課題。(2)第7次医師確保計画(2020年~2023年度)では、一部の都道府県・地域では地域偏在が解消していないため、都道府県のとりくみとともに都道府県域を超えた全国的な医師偏在対策の基盤となるとりくみが求められる。(3)診療所は「診療所医師が80歳で引退し、後継ぎなし、新規開業なし」と仮定した場合、2040年には診療所がない市区町村が170程度増加する見込みで、診療所の地域偏在への対応も求められる。(4)脳神経外科・外科などで時間外勤務が年1860時間を超える医師の割合が高く、一部診療科で長時間労働により医師の負担が増加。診療科偏在の是正に向けて地域医療構想を通じた医療機関の機能分化・連携の推進や働き方改革の推進による医師の負担軽減と合わせて対策を強化する必要がある、などとされ、絶対的医師不足との認識はありません。
新たな対策として、厚生労働省が候補区域を設定し、都道府県がこれを参考に地域の実情に応じて「重点医師偏在対策支援区域」(二次医療圏単位のほか、市町村単位、地区単位など。地域医療対策協議会および保険者協議会で協議し当該区域を選定する)を設定し、「医師偏在是正プラン」を策定します。緊急的なとりくみを要する事項から先行して策定し、2026年度に全体像を定めるテンポで行います。このプランへの経済的インセンティブとして、派遣される医師や従事する医師への手当の増額などの支援を行い、財源は、保険者からの拠出を求め、診療報酬上の対応も検討していきます。また、規制的手法(地域医療機関のささえ合いの仕組み)として医師少数区域などでの勤務経験を求める管理者要件の対象病院の拡大(公的医療機関、国立病院機構、地域医療機能推進機構(JCHO)、労働者健康安全機構(JOHASが開設する病院)、外来医師過多区域での開業を抑制するための仕組みを法制化し、保険医療機関の指定年数を6年から3年に短縮するとしています。
医療機関の効率化をすすめ、絶対的な不足の状況にある医師の現状を踏まえず、医師過剰地域を指定し、全世代の医師を対象として医師少数区域へ移す、外来医師過多区域を指定し、開業抑制を罰則付きで行うなど深刻な問題を抱えています。
(4)エネルギー・環境問題
①福島を忘れ、原発の「最大限活用」へと大転換する「第7次エネルギー基本計画案」は撤回を
東京電力福島第一原発の過酷事故、ふるさと喪失という甚大な被害から3月で14年がたちます。避難指示が出た地域を持つ12市町村では、震災当時の居住者14万7428人に対して戻れていない人は8万3253人、小学校・中学校の生徒数は2010年比較で15%、双葉町は0人です。医療機関は、病院8から2、診療所61から32、歯科32から9、薬局31から5に減少しました。事故前のくらし、ふるさとは失われたままです。また、調査では、避難者の4割の人がPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいる状況です(早稲田大学災害復興医療人類学研究所発表)。
復興にとってもっとも大切な原発の廃炉の見通しはいまだ立っていません。事故に伴い溶け落ちた核燃料(デブリ)のすべての取り出しは、めどが立ちません。デブリは、いまも短時間浴びれば、人が死亡するような強烈な放射線を出し、1~3号機で推計880トンにのぼるとされ、圧力容器の底を破り、格納容器内の底部に多くが堆積しているとみられますが、分布など全容は確認することすらできません。
東京電力と国が、被害者の漁業者との約束を破って強行したALPS処理水の海洋放出開始から1年半になろうとしています。2024年度の計画ではタンク54基分を放出、新たに汚染水がタンク36基分発生し、実際に減る量はタンク18基分に過ぎません。広域遮水壁の設置などの専門家の知見を生かした現実的な対応に切り替えるべきです。
こうした福島の現実とくり返してはならない教訓を、すべて形骸化させるような国のエネルギー政策の転換が、すすめられようとしています。
2024年12月17日、国の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画の第7次原案」が公表されました。2040年度にめざす電源構成を示し、政府の温室効果ガス削減目標の裏付けとなります。「脱炭素の実現」を口実に、2011年の東京電力福島第一原発の過酷事故以来、政府が掲げてきた「可能な限り原発依存度を低減する」と記してきた文言を削除、破綻した核のゴミ処理問題など原発の抱える問題を不問にし、原発を再生可能エネルギーとともに「最大限活用する」方針に転換しています。(1)原発の建て替え方針をはじめて明記、廃炉した分を既存の原発敷地内で新設することを認めるとともに、同じ電力会社の別の原発敷地での建て替えも認める、(2)新規の原発の開発・設置にもとりくむ、としています。一方で、(3)「再生可能エネルギー」については、現行計画で「最優先の原則でとりくむ」との記載を削除し、G7で唯一廃止期限を表明していない石炭火力は「安定供給性や経済性に優れた重要なエネルギー」とし、火力発電は継続するという内容です。
②気候危機・環境問題
気候危機の進行のなか、世界と日本で異常気象が多発し、多くのいのちと健康が奪われています。2024年度の地球表面の平均気温は観測史上最高を更新、産業革命前から1・55度上昇したと国連世界気象機関が推計を発表しました。温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定で定めた「気温上昇の抑制目標1・5度」を単年で超えたことになります。
2024年11月のCOP29は、途上国は温室効果ガスの排出量が少ないにもかかわらず、気候変動による異常気象などの被害がひろがりやすく、対策やエネルギーの脱炭素化をすすめるための資金が不足していることを直視し、先進国から途上国への資金支援を、2035年までに少なくとも年間3000億ドル(約46兆円)と、現状の3倍に増やすことで合意しました。
COP29会期中に英独仏など25カ国とEUが発足させた、石炭火力発電所の新設に反対する有志連合に、日本政府は、アメリカとともにG7で2カ国だけ参加しないなど、気候危機対策に逆行する行動をとり続けています。世界の気候行動ネットワークから「気候危機を引き起こした歴史的責任を果たさず、気候変動対策のための資金提供から逃げ続けてきた」として「特大化石賞」が贈られる始末です。気候危機からの転換の上でも、第7次エネルギー基本計画案の撤回と、石炭火力発電から早急に脱却し、危険な原発への固執をやめ、省エネルギーと再生可能エネルギーをすすめる方向への転換は急務です。
PFAS問題は新しい公害であり、環境分野の課題であると同時に、健康被害をおよぼす社会的要因の一つとして全国各地にひろがっている人権問題であり、地域住民に寄り添い、活動していくことが重要です。日本政府は、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の報告書がPFAS汚染への日本政府の対応の不十分さを指摘したことに関し、一部を削除するよう求めました。さらに横田基地(東京)で2024年1月に発生した高濃度のPFASを含む汚染水が漏出した事故について、日米政府が非公表の方針で合意するなど、住民の健康を守る立場には立っていません。すでに世界的には「発がん性がある」危険な物質とし、アメリカでは基準を厳格化していますが、日本の暫定目標値は高いままです。しかも、この暫定目標値の曝露より非常に低い母体の血液濃度で出生児の染色体異常が起こることが、環境省の大規模疫学研究であるエコチル調査により報告されました。
(5)総選挙結果が切り開いた可能性を生かして要求の前進を
2024年10月に投開票された第50回衆議院議員選挙が行われ、自民党と公明党の連立与党は選挙前279から64議席(自民党56議席、公明党8議席)を減らし、215議席へ後退、過半数の233議席を大きく割り込み、有権者からの厳しい審判を受けました。与党だけでは、予算も法律も成立できない事態をつくり出しました。また、今回の選挙結果は憲法改正発議に必要な衆議院での3分の2にあたる310議席には、自民党、公明党だけでは95議席届かない結果となりました。改憲に意欲を示している維新の会、国民民主党、参政党、保守党を合わせても72議席しかなく、改憲の動きを停滞させる状況を生み出しました。自民党が組織ぐるみで行った派閥の裏金事件に対し、多くの有権者が政治の金権腐敗を許さなかったことが明確に示された結果です。
総選挙の結果、要求を実現させていく可能性が大きくひろがりました。可能性を生かし、新しい状況を生み出してきたオール地域、市民と私たちの運動を強め、連帯と共同をひろげ、「非戦・人権・くらし」を高く掲げ、平和で公正な社会に向け、現場から声をあげ、要求を実現していきましょう。
第4節 能登半島地震・豪雨災害の復旧・復興の現状
(1)民医連のとりくみ
全日本民医連は、能登半島地震被災地での2024年9月の豪雨災害発生後に石川民医連からあらためて要請を受け、水害泥出し緊急行動、職員のメンタルケア、秋の友の会会員訪問行動、対策本部常駐支援にとりくみました。また、11月30日~12月1日に石川県内で被災地県連懇談会を開催しました。この間に開催された第16回看護介護活動研究交流集会や経営委員長・経営幹部会議、共同組織活動交流集会などの全国集会で、職員の生活再建などへのカンパを呼びかけました。
(2)地震から1年、豪雨から3カ月経過した能登の現在
未曽有の大地震発生から1年、復旧途上を襲った豪雨災害から3カ月が経過しました。11月26日には石川県西方沖を震源に震度5弱の地震が発生し、石川民医連は緊急対策会議を開いて情報収集と課題整理を行い、当面同程度の大きな余震があり得るとする専門家の見解を踏まえて、実施中であった奥能登での訪問行動中止を判断しました。幸い、輪島での被害や大きな余震はありませんでした。
能登の各地では、秋ごろより公費解体がすすみ、ようやく更地が目立ちはじめ、仮設住宅の入居がすすみ、地元の祭や各地での出張輪島朝市の再開、公立図書館の再開、寸断されていた幹線道路の開通など、行政サービスや福祉、インフラが元に戻りつつあるなど、被災住民が生活再建に向けて足を踏み出す姿や明るい話題が増えています。地震による広域2次避難は12月末にすべて解消されました。
一方、市街地でも幹線道路から一歩入れば補修が手つかずの道路が散見され、山間地や沿岸部などではいまだに断水が続くなど、復旧すらすすんでいない現実があります。また、仮設住宅に入居できない避難者や、義援金収入認定による生活保護取り消しなど表面化しにくい事案の発生、豪雨災害後の砂埃に加えて解体作業での粉じん飛来による呼吸器疾患の増加、ボランティアや小規模復旧業者の健康問題など、報道ではあまり取り上げられない実態があります。
災害関連死の認定は増え続けて255人と、すでに直接死を上回り、そのほとんどが70歳以上で、地震によるショック、インフラ途絶による負担増大に次いで、介護施設の機能低下が死因の上位にあげられています。200人以上が審査待ちであり、犠牲者数はさらに増えて合計で500人を大きく超える見込みです。
発災から2年目に入り、被災地への関心がますます薄れ、地元紙でも節目以外の報道は減っていくものと懸念されます。
(3)行政の動向
被災者・避難者に対するさまざまな対応・施策が、発災から1年を節目として次々に終結を迎えています。ボランティア活動も終息しつつあります。自治体によっては避難所はすべて閉鎖されました。仮設住宅は豪雨の被災者分を除き2024年内に必要戸数の設置は完了したとされています。全体として、1年を機に「平時へ」戻そうとする思惑が見え隠れしますが、被災者の生活再建に時間的な区切りはありません。一人残さず、その人自身が選択する生活・生業再建をささえる施策が求められます。
県が作成した「創造的復興プラン」は被災住民の声を盛り込んだとしながらも極めて不十分で、その計画期間は石川県成長戦略とあわせた9年間としています。被災者の生活と生業をささえる復興とすること、成長戦略でなく被災者の目線に立ち、権利を守りぬく復興計画、期間にさせることが重要です。そのためには、ひきつづき被災者の声に寄り添い、要求をつぶさに把握し取りまとめて行政に届け続ける必要があります。
(4)被災者のいのちと健康を守りぬく医療・介護の課題
医療や介護も甚大な被害を受け、かつ雇用がままならず再開できなかったり、豪雨災害で再び事業停止に追い込まれたりなどの事業所が多数残されています。民間施設の7割は休診や診療縮小に追い込まれ、奥能登の高齢者施設は地震前と比べ3割弱が休廃業したと報道されました。被災者が住み慣れた能登の地で安心して生活再建をめざすには、医療や介護の安定的な維持が不可欠です。
被災者の自宅損壊程度に応じた医療・介護の一部負担金・利用料免除は、2025年6月末まで継続となりました。被災当事者や多くの団体が声をあげ、当初の4月末までから9月末、12月末と期限延長されてきたものです。ただし、当事者や医療機関などへの通知があまりに遅すぎる、延長のたびに使いづらくなるなど、被災者の声に寄り添うものとはなっていません。介護利用料は10月以降の免除適用範囲が限定され、2025年1月以降の医療費については免除証明書を申請、取得し、窓口に提示しなければならなくなりました。医師会などにも多数の照会が押し寄せたと思われ、「周知期間が短いため2月末までは免除証明書提示がなくとも免除可能」との事務連絡が出されました。手間が増えるだけの申請制への切り替えは、受診、利用の抑制につながります。能登の被災者に限らず、金沢市以南のみなし仮設などに居住する避難者も、住み慣れた能登のくらしとは違う環境のもと、さまざまな不安のなかで生活しています。免除継続のための負荷増大や免除終了など、機械的な対応は、避けるべきです。
能登半島地震、9月の豪雨災害をめぐる弊害は、人災とも言える復旧の遅さをはじめ多岐にわたりますが、特に被災者本人の自己選択を無視して「自立(=避難者扱いの終了)」を求める能登回帰施策は重大な問題です。石川県は、能登から県南へ、または県外へ「広域避難させた」被災者を「能登に戻す」方針を掲げ、県内の福祉施設や入居避難者に対し夏から秋にかけて意向調査を行いました。「被災者として能登へ戻る」のか「自立して避難先に残る」のかによって自己負担が変わることになります。県外の広域避難者を石川県に戻すために福祉施設に求めた対応においてもその受け入れはあくまで平時扱いというもので、避難者本人の意向や実情、医療や介護・福祉現場の奮闘や苦悩がまったく捨て置かれています。
全日本民医連は、石川民医連とともに、ひきつづき被災者に寄り添った真の復旧・復興を求めて現状把握や要請行動などにとりくみます。
第2章 全職員の力を結集し経営危機を乗り切ろう
第46期第1回評議員会方針(2024年8月)は「あらためて、経営問題は緊急かつ重大な当面の最重点課題であることを意思統一し、事態にふさわしい、集中したとりくみをすすめましょう」と呼びかけました。
その後、地協県連経営委員長・経営幹部会議問題提起(2024年11月)では、「『たたかいと対応』を一体のものとして力強くすすめる以外に打開の道はありません」とし、「24年度残り4カ月が極めて重要」、「経営幹部としてやるべきことをかならずやり抜く決意を固め」「全国の知恵と力を結集して共同組織をはじめとする地域の人びとや全職員の期待に応えうる改善方針を確立しよう」と提起し、3日間かけて「必要利益」と現状の乖離(かいり)をいかにして改善するかの集中討議を実施しました。また、年明け1月から2月にかけて、2025年度予算での「必要利益」確保に向けた具体策を持ち寄り検討する会議を、地協ごと(北海道・東京・千葉県連は単独開催)に設定、実施しています。
経営の厳しさは当面の間継続することになります。全職員が「患者・利用者を守る、職員の雇用と生活を守る、経営を守る」という共通認識を持ち、力を合わせてこの危機を乗り切りましょう。
民医連運動は困難のなかで鍛えられてきました。民医連の事業所は地域のかけがえのない財産です。直面している経営危機を乗り切るための私たちの努力と実践、共同組織をはじめとする地域の人びとの理解と協力は、かならず民医連運動の新たな前進をつくり出す力となるはずです。
第1節 民医連経営の基本と果たすべき役割 ~なんのために、誰のために~
経営結果は医療・介護活動、運動、地域との結びつき、人材の確保育成、管理運営の到達点など、あらゆる活動の一側面を表しています。その意味で経営改善の課題は、あらゆる活動の前進と一体のものです。また、私たちが、民医連綱領の実現をめざすためには、社会的存在である経営体として存在し続けなければなりません。したがって、事業を継続するために経営体としての必要な利益を確保しなければなりません。同時に、経営は民医連綱領実現に不可欠の「手段」であり、利益そのものが「目的」ではありません。利益(利潤)の追求を自己目的とする営利企業ではなく、非営利・協同の組織なのです。
民医連経営の利益は、①地域要求と期待に応えるための医療、介護活動の水準を維持向上させるため、②職員の生活保障、労働条件の向上のための安定的経営基盤確保のため、③中長期の医療・介護構想実現のために必要です。また、とりわけ、私たちを支持し期待する地域の人びとの資金や公的資金によってささえられている民医連経営が、健全な経営を維持することは社会的な使命です。
民医連経営は「たたかう経営」を掲げています。公的な財政保障が極めて不十分ななか、医療・介護労働者は少ない体制で過重な労働を強いられています。地域の人びとは、低賃金、重税、医療・介護の自己負担増などに苦しめられています。社会保障抑制政策により必要な人的体制を保障できないなど、民医連がめざす医療・介護には限界があります。そのため、民医連綱領の実現を阻む諸制度など、不足する部分をたたかって勝ち取ることが必要となります。
第2節 この間の民医連経営の到達点
医科法人は、「必要利益」との乖離と資金流出構造が継続しており、資金が回らなくなる事態が差し迫っている法人が多数です。社会福祉法人も2024年度上半期の経営状況は、合計の平均収支差率マイナス3・2%(105法人集計)と厳しい結果となっており、資金不足により緊急対策が必要となった法人も出ています。また、保険薬局法人も医科法人の患者数減少などにより、この間の大幅な損益悪化を背景に資金困難となっている法人があります。
医科法人では、2023年度手持ち資金が減少となった法人が139法人中75法人(57・7%)で、合計でマイナス116億8100万円(年収比マイナス3・2%)と多額の資金流出です。こうした到達点を受けてスタートした2024年度ですが、危機は想定をはるかに上回る速度で深刻化しています。8月累計で集約できた130法人(10法人未集約)の状況は以下の通りです。医科法人合計では経常利益率マイナス3・2%とさらなる悪化、償却前経常利益率わずか1・3%となっています。経常利益マイナス100法人(76・9%)とほとんどの法人が赤字決算となり、利益率3%以上はわずか8法人です。ほとんどの法人が「必要利益」に届かない予算となっているなかで、予算経常利益未達成は113法人(86・9%)、前年同期比悪化83法人(63・8%)と、極めて厳しい結果となっています。償却前経常利益マイナスは45法人(34・6%)もあり、5%以上は17法人のみ、予算未達成114法人(87・7%)、前年同期比悪化83法人(63・8%)です。利益確保ができないなかで手持ち資金も大きく減少しています。医科法人合計で132億3300万円(期首残高比マイナス11・4%)が減少。10%以上減少が61法人(46・9%)あり、そのうち30%以上減少法人が13法人(10%)もあります。
第3節 経営危機の打開に向けて ~2025年度予算編成が当面の最重点~
(1)「全職員参加の経営」と経営幹部の役割
経営改善は、すべての職員の主体的なとりくみと、オール民医連の連帯と団結の力がその源泉です。「たたかいと対応」を一体的にすすめるという民医連方針を堅持し実践すること、「全職員参加の経営」の強みをいかんなく発揮することの重要性を確認し合いましょう。すべての職員が県連・法人・事業所の方針に結集し、職場からの経営改善にとりくみましょう。経営幹部は、「必要利益」を全職員の共通認識にするとともに、経営改善の展望を指し示す役割を果たし、現場の実践に寄り添い全職員の知恵と力を引き出す組織運営に全力を注ぎましょう。私たちは、現場の実践のなかにキラリと光る実践と知恵を持っています。こうした力を経営改善と結びつけましょう。経営幹部は、知恵を集め、必要な「決断」を行い、方針として提起し、PDCAサイクルを回さなければなりません。また、危機に直面している時にやるべき仕事の優先順位や、選択ができず、平時のスタイルを変えられない、リポジショニングを定めるための重要なポイントとなる医師幹部・医師集団としっかり向き合って論議できていない、などの傾向も見られます。経営幹部の意識改革がもっとも求められています。
民医連のみならず日本の医療機関・介護事業所が重大な「経営危機」となっています。「オール地域のたたかい」の方針に結集し、「たたかう経営」の真価を発揮しましょう。全職員・職場・職種があらゆる活動に「たたかい」を位置づけるとともに、経営幹部はとりくみの先頭に立ちましょう。
(2)「必要利益」との乖離額を正しく認識し、改善目標額を明確にしたとりくみを
経営危機の深刻度合いは、法人ごとに違いがあります。科学的で正確な経営実態を認識し、リアルな現実を正面から受け止めているかが、経営危機克服・経営改善の出発点です。
現状の利益獲得力(2024年度決算見込みなど)と「必要利益」との乖離額が収益比で5%以上(年収50億円なら2億5000万円)ある医科法人が20法人、2%以上(年収50億円なら1億円)は50法人となっています(全日本民医連経営部資料提出法人集計)。抜本的な収支構造の転換なしには、こうした大きな乖離額を改善することは不可能です。
中長期利益資金計画を検討・確定し、「必要利益」を認識するとりくみは、医科法人では不十分さを残しつつこの1年のとりくみで前進していますが、社会福祉法人、保険薬局法人では整備されていない現状もあります。獲得すべき利益が不明確なまま、気づいたときには資金ショート直前となっていたという事例も少なくありません。法人・事業所・職場で、自法人・事業所の収支構造の改善額を明確にして、なんとしても実現することが求められています。
(3)経営構造転換に向けての課題
民医連運動として、共同組織をはじめとする地域との結びつきをどう強化するか、想像を上回る事態となることが予想される人手不足にいかに立ち向かうか、大きく変化する医療・介護需要や多死社会・看取り場所の変化への備えなど、多岐にわたる課題を包括的に捉え、戦略を持つことが求められています。
赤字には赤字の原因があります。医科法人では、多額の赤字を抱える病院・老人保健施設の構造転換が大きな課題となっています。
社会福祉法人および医科法人の介護事業も苦戦が継続しています。介護事業は、低介護報酬、職員確保の困難、物価高騰のもとで、居宅介護支援、訪問介護など事業所の廃止に踏み切らざるを得ない事態が民医連内でも少なからず生じています。民医連がこの間展開してきた介護事業は、地域の困難と要求に応えるために戦略的にも極めて重要な事業です。この難局を乗り切るあらゆる努力が求められます。病院は、情勢の変化を含む地域要求や主体的力量などを再度評価し、ポジショニングを定めた改革の実行が必要です。老人保健施設、訪問看護ステーション、訪問介護、通所介護、通所リハビリなどの事業は、安定的利益を確保している事業所と赤字が継続している事業所に二極分化しています。民医連内でベンチマークを実施し、赤字の要因を明らかにして改善をはかりましょう。
資金収支がマイナスとなっている保険薬局は、収益の減少に対応した費用削減対策を実行することが必要です。すでに法人単独では事業の存続が見通せないところもあります。法人形態を越えて検討し、全体としての改善方針、経営戦略を持つことが必要であり、県連理事会、県連経営委員会での時宜に見合った、特別の体制を確立することが必要となっています。
歯科事業所は、前年に比べ訪問診療ではのべ患者数、新患数増加、外来ののべ患者数は減少、新患数増です。全体として黒字基調ですが、地協歯科委員会を中心に赤字事業所へ対応していきます。
(4)「必要利益」を確保する2025年度予算の確立を
「必要利益」確保のための収支改善をいかにして実現するかは、2025年度予算編成の論議・確立が当面の最大の焦点です。「必要利益」確保を現実のものとするためには、予算編成方針で法人としての「必要利益」が示され、法人目標にもとづき、法人内全事業所の到達点や構想を踏まえ、事業所ごとの実現すべき目標利益、改善額が示されていなければなりません。「必要利益」の乖離を埋めるために、収益増はいくら可能か、費用削減をいくら行う必要があるのか、具体的な額で実現すべき目標を定めなければなりません。「必要利益」が確保できない状況が継続しているということは、事業と経営の維持ができない事態が目前に迫っているということを意味しています。「必要利益」に到達しない予算では、1年以内に経営破綻となる法人もあります。また、2025年度に「必要利益」を確保できなくても当面はしのげる法人でも、2026年度以降の改善必要額がさらに上がり、具体策がなければますます追い込まれるということにもなりかねません。「必要利益」に到達していない予算利益を、その後の計画もなく容認するような予算論議から決別し、知恵と力を結集して2025年度予算を確立しましょう。『予算管理テキスト』(全日本民医連経営部/編)は、民医連経営の蓄積してきた到達点が示されています。全職員で学び生かしながら、年度末に向けてなんとしても改善のための目標をやり抜き、2025年度予算で展望を切り開きましょう。
(5)労働組合との対等平等・協力共同の前進を
経営実態を反映して、2024年秋闘の第一次回答状況(民医連法人緊急集計速報)は、冬期賞与を予算や前年実績から減額する回答が目立っています。日本医労連の速報でも同様の傾向となっています。こうした事態は、政府の方針による診療報酬でのベースアップ評価料などによる2・5%賃上げが、いかに現実を無視した、ちぐはぐな政策であったかを証明しています。患者・利用者、職員、事業と経営を守る診療報酬・介護報酬の大幅引き上げを、圧倒的世論を組織し実現しなければなりません。複雑で困難な情勢であり、労働組合との対等平等・協力共同を大きく前進させることが必要です。経営責任を負っている法人理事会の責任として労働組合に対して法人の直面している経営状況を正確に伝えきること、労働組合の指摘や提案もしっかり受け止め、前向きで建設的論議ができるよう、さらなる努力が求められます。日本の医療・介護の危機であることの共通認識のもと、可能な法人では「労使共同宣言」などを検討し、経営危機に労使が一体となってとりくめるよう協議をすすめることも、大切な局面となっています。一時的な賃金・労働条件の後退を招くことがあったとしても、2025年度以降の中長期の見通しのなかで、経営を立て直し、賃金労働条件の改善の道筋を示すことが求められます。また、日常的管理運営のなかで、「全職員参加の経営」を根付かせ実践できているかという点も、労使関係の構築にとって重要な課題です。
第3章 総会運動方針実践の到達点と今後のとりくみ
46期、人間の尊厳を断固守り、ジェンダー平等・ケアの視点で「非戦・人権・くらし」を高く掲げて、平和で公正な社会の実現に向け、大きく前進するため、(1)日本国憲法の理念のもと、国連憲章に反する戦争や市民への暴力を止めさせ、日本の戦争国家づくりを断固阻止するために行動すること、(2)社会保障改悪を止め、地域で共同をひろげ、いのち第一のまちづくりと政治変革に挑むこと、(3)「医療・介護活動の2つの柱」を全面実践し、「人権の砦(とりで)」としての民医連事業所の事業と経営を守り抜くこと、(4)個人の尊厳・多様性を尊重する組織風土を確立するとともに、人権・倫理を重視した職員育成をすすめ、医師増員を勝ち取り、個人も地域も守られる働き方を実現することを重点とし、これらすべてのとりくみを共同組織とともにすすめてきました。
折り返し点に立った私たちは、重大な決意で今期の46期後半に臨まなければなりません。第1章、第2章で示したように、現状はかつてない厳しさで私たちの前に立ちはだかっています。「新しい戦前」というワードが話題になって2年が経過しましたが、それがより現実的になっています。社会保障やくらしがどんなに傷ついても、財界はとことん利潤を追求し、政府は、新自由主義政策にしがみつこうとしています。医療・介護事業所を取り巻く経営環境はひきつづき大変厳しく、民医連事業所も事業の維持・継続において、かつてないほどの危機に直面しています。
47回総会までの1年間、民医連全組織をあげて議論を深め、全職員の力と共同組織に依拠し日々の実践を強化し、現状を乗り越え、未来を切りひらいてきましょう。
第1節 「ケアの倫理」を語り合い、ケアに満ちた新しい社会をみんなで描こう
第46回総会は「ケアの倫理」を深めることを提起しました。全日本民医連では、学習動画のほか、同志社大学教授の岡野八代さんの「ケアの倫理~ケア実践に引き寄せて」と題した講演、第16回看護介護活動研究交流集会で「ケアの倫理」を考えるセミナーを開催し、『民医連医療』でも連載「『ケアの倫理』を学ぶ」を2025年2月号より開始しました。
ケアとは、人間が生きていく上で必要なニーズを満たす実践とされます。人は誰でも「脆弱(ぜいじゃく)性」を抱え、他者に「依存」し、他者のケアを必要とする存在です。「ケアし、ケアされる」関係性のなかで、ケアの担い手は受け手のニーズをつかみ、「応答」することが求められます。同時に、ケアの担い手自身も他者のケアを必要とする存在です。ケアの担い手が搾取(注6)されることなく、ケアの担い手と受け手の双方に必要なケアを制度的に保障し、生存・生活にかかわるニーズを満たすことは政治の責任です。また、ケアの場面では、担い手と受け手は立場や権威など、力の差から不平等な関係に置かれやすく、軋轢(あつれき)や暴力が生じがちです。そういう場面では担い手こそが、支配や暴力に訴えないようにする努力を、ケアの倫理は強く求めています。
ケア実践で重要なのは、注視・応答・敬意に満たされながら、(ケアしケアされることで)一人ひとりの尊厳が守られ、誰とも取り換えがきかない価値を持った存在として大切にされることです。ケアは人と社会をささえ、ケア実践は社会から放置され傷つけられる人びとに関与していくことで、その人(当事者)が声をあげられるようにするなど、共同のいとなみで個人の尊厳を守ることに最大の価値をおく民医連綱領の実践につながります。
医療・介護・保育などの現場では、社会保障抑制政策によって、思うようなケア実践ができない、人手が足りない、処遇が低すぎるという異常が常態化しています。このような社会の仕組みによるケアの搾取の背景には、企業の利益を最優先に、軍拡をすすめ、経済格差を拡大していく新自由主義があります。「ケアの倫理」は、そこに「ケアニーズに応えようとしない政治」という視点を与え、その根本にケア労働を「私的なもの」として無償で女性に引き受けさせてきた社会の構造(家父長制)が存在することも明らかにしています。「ケアの倫理」を学び深めていくことは、ケアに自己責任論を持ち込む新自由主義に抗し、また一人ひとりの尊厳を消してしまう戦争・暴力に対峙(たいじ)する、民医連の日常活動と運動を発展させることにつながります。
第47回総会に向かう1年、私たち自身の言葉で「ケアの倫理」を語り合い、多様性を認め合いながら深めることが、次の方針につながっていきます。
4月からは「ケアの倫理を深めるCafe企画」を開始し、医療・介護・保育などのケア実践に引き寄せて語り合える内容も準備します。これらも活用し、それぞれの職場で「ケアの倫理」を語り合い、第47回総会が豊かな学びと実践の交流の場となるよう、とりくみをひろげましょう。ケアに関する物語は、職種やセクシュアリティなどさまざまな属性、その人の歴史や生活環境などによって多様です。それぞれの語りに耳を傾け、互いに関心を向け、誰もが個として尊重されていることが実感できる組織への変革をめざしましょう。
そして、ケアに満ちた新しい社会へ、どのような政策が求められるのか、語り合いましょう。
第2節 オール地域で平和とくらし、人権としての社会保障を守り抜こう
政府が推しすすめる社会保障抑制政策は、医療・介護事業および地域住民のいのちと健康に多大な影響をおよぼしています。平和なくしていのちや健康は守れません。基本的人権の保障なくして安心して住み続けられるまちづくりはできません。私たちが日々直面し、奮闘している医療や介護の実態や権利を拡充させるための運動課題は、そのすべての背景である国の姿勢を変えさせること抜きに、根本的な改善を勝ち取ることはできず、かつ、直面している経営危機克服にとっても重要なとりくみです。すべての運動課題において、他団体を含む「オール地域で」の視点と構えで、総合的かつ一体的なとりくみと位置づけて旺盛に繰りひろげることが必要です。
(1)健康権、受療権を守るとりくみ
「マイナ保険証の強要中止、現行の健康保険証をのこして」の運動では、学習、街頭署名、スタンディング、健康まつりでブースを設置しての署名宣伝、外来での患者アンケートなど、工夫しながら多彩なとりくみがひろがりました。2024年11月に、医団連、社保協、マイナンバー制度反対連絡会などの共同で保険証の存続を求める署名提出集会が開催され、全体で約33万筆(累計177万筆)、民医連は約14万筆を提出しました。
国民健康保険制度では、2024年4月から始まった第3期国保運営方針のもとで、国保料水準の統一化や法定外繰り入れの解消がさらにすすみ、かつてない規模の大幅な国保料値上げや滞納者への制裁措置強化などによって、いのちやくらしが脅かされる事態が各地でひろがっています。そうしたなかで国保改善、高すぎる国保料の引き下げの要請など、自治体に向けた運動や自治体キャラバンにもとりくみました。
「保険でより良い歯科医療を求める」請願署名の運動が始まりました。民医連は、20万筆目標で、「オール民医連」でとりくみが始まっています。
生活保護基準引き下げ違憲訴訟(いのちのとりで裁判)では、各地で事務局を担うなど積極的にかかわるとともに、いのちのとりで裁判全国アクションが開始した最高裁向け署名にとりくみ、11月末集約までで約3万筆の到達となっています。
「医療・介護・福祉に国の予算を増やせ! 9・26いのちまもる総行動」には、民医連からは現地1000人、オンライン視聴296人が参加し、医療・社会保障費を増やせ、医療・介護・福祉従事者の大幅増員や、診療報酬・介護報酬の再改定、地域の医療・介護まもれの要求を掲げて大きくアピールしました。
2024年10月の総選挙では、民医連の総選挙要求を掲げ、投票の呼びかけ、患者、共同組織への要求チラシ配布、プラスターでの宣伝などにとりくんできました。とりくみを通し、あらためて日頃からの学習、職場討議の重視、選挙を通じて社会のありかたが変えられることへの確信を培うことなど、教訓が寄せられています。
全世代型社会保障改革がすすめられていくなか、全世代の給付抑制と負担増がすすめられ、国民生活の困難がひろがっています。下記の重点課題にとりくみむとともに、職場づくりと結び、「現場の気づきからはじめるソーシャルアクション(『民医連医療』連載)なども参考に、1職場1アウトリーチ実践を具体化しましょう。
①従来の保険証廃止、マイナ保険証強要の中止へ向けて
2024年12月、従来の健康保険証の新規発行が停止され「この保険証はいつまで使えるのか」「認知症の親の受診時にマイナ保険証を持参させるのが不安」「体調の悪い患者が顔認証できずに無理をされていた」「院外で対応している発熱外来でマイナ保険証のみ持参した方の資格確認ができなかった」「保険証原本と異なる誤った保険情報が紐付いたマイナ保険証を持参された人がいた」など、不安と混乱が続いています。
従来の保険証の廃止を中止させ、マイナ保険証の強要をやめる法案が野党で準備されています。事例を集め国会議員要請や厚労省交渉、記者発表などにとりくみ、地域宣伝を重視し、法案成立へ向けとりくみます。
誤解や不安から、受診控えや中断が起きないよう、正確な情報を届け、必要な人に確実に「資格確認書」が届くように、自治体や保険者に対してのていねいな情報発信を求めて、要請行動にとりくみます。マイナンバーカードの健康保険証としての利用登録解除方法の情報周知もすすめます。
②医療・介護現場からの事例にこだわり、職場からとりくむ社保運動をすすめます。
2024年経済的事由による手遅れ死亡事例調査の実施を通じて、国保・生活保護の改善、無料低額診療事業の制度についても発信し、参議院選挙までに全県連で記者会見を実施しましょう。
③国保改善
全国でひきつづき社保協が呼びかける国保改善オンライン署名にとりくみながら、社保協や共同組織、国保加入者とともに、国保44条、77条を活用しつつ、自治体に向けてその切実な声を届けましょう。国保財政への国庫負担引き上げを求める意見書採択、都道府県に対して一般会計からの法定外繰り入れで、国保の納付金引き下げを求める要請、市町村にも、国が認める一般会計からの法定外繰り入れ(決算補てんなど目的以外)を活用した国保保険料減免の要請などにも大いにとりくみましょう。
④後期高齢者医療の窓口負担2割化実施後のアンケート調査(第二弾)を実施します
調査の実施にあたっては、全職員が参加して高齢者の声を聞き、高齢者と現役世代の分断を乗り越える学びの機会にします。
⑤生活保護基準引き下げ違憲訴訟(いのちのとりで裁判)
最高裁向け署名のとりくみを軸に、各地の裁判支援と2025年度予算での基準引き上げのとりくみを、いのちのとりで裁判全国アクションと共同して強めます。
⑥患者負担の改善を求めるとりくみ
「保険でより良い歯科医療を求める」請願署名、子ども医療費18歳までの無料化を国の制度とする署名を推進します。
⑦自治体に向けたとりくみ
各地の自治体キャラバンの要求項目や実績を共有して、民医連としての自治体に向けた重点要求項目をとりまとめます。全県連でもそれぞれの地域にねざした要求実現をめざしましょう。2026年度予算へ向けた要請を夏までに自治体要請やキャラバンで実施できるよう、準備をすすめましょう。
⑧全日本民医連社保セミナー
6月から第1クールを開始し、各地協社保委員会と共同して人権を学ぶフィールドワークを重視していきます。
(2)医療・介護への財政支援、ケア労働者の処遇改善の大運動のとりくみを
①医療・介護を守れ、大幅な財政支援の実現を
2024年6月に「今こそオール地域でたたかいの前進を~診療報酬の再改定をめざして~」を提起しました。医療機関への経営状況アンケートは1242件(回答率6・2%、うち病院876件)の回答が寄せられ、「資金繰り状況」は「厳しい」が64%と深刻です。団体署名は1505件(回答率6・8%、うち病院417件)、他団体事務局が圏域内施設にいっせいに呼びかける例などもうまれ、「廃院も検討」など悲痛な声とともに賛同が寄せられています。19県連で県や自治体との交渉や議会請願がとりくまれました。連携施設や医療団体に訪問し率直に問題意識を伝えるなかで「地域医療を守る点で補助金拡充を」「患者利用者に価格転嫁できない医療・介護への手厚い支援を」との声が多数聞かれます。四病協が病院への緊急財政支援を国へ要望するなど主要な医療団体も続々と声を上げ始めています。共通するのは、低報酬政策に対する憤りであり、単に自事業所の経営問題にとどまらない地域の医療・介護、日本の医療保健の危機でもあります。民医連にとっては、経営と同時に民医連運動の危機でもあります。「たたかいと対応」を掲げる組織として、日常的につながりがある連携施設、公的病院などに積極的に働きかけるなど、私たち自身がもう一歩踏み出し、オール地域で、地域のなかから、医療・介護を守れの声を大きくするとりくみを強化しましょう。補正予算で実現した財政支援の実態を把握し、ひきつづき他団体や地域の医療・介護事業所と共同して、国に対しての要望を行い、診療報酬・介護報酬の再改定も含め、抜本的な支援策の実現をめざします。
②絶対的医師不足解消、真の働き方改革を実現しよう
2023年12月にスタートした「医療崩壊を防ぐための医師増員を求める請願署名」の到達は7406筆(12月31日現在)です。2024年8月、政府の偏在指標によって「医師少数県」とされる県知事を中心とする「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」が「医師不足や地域間偏在の根本的な解消に向けた実効性のある施策の実施を求める提言」をまとめ、国に提出しました。提言は「今日、我が国の地域医療の現場では医師の絶対数の不足や地域間・診療所間の偏在などが極めて顕著となり、いわば『地域医療崩壊』の危機的状況にある」とのべた上で、地域の医療を安定的に確保するために、医師の絶対数を増やすことが必要であると主張し、医学部新設を含め医学部定員の大幅定員増を提起しました。一方、10月には「医師多数県」と位置づけられている13県が厚労省に対し「必要な診療科の医師が確保できない地域があり、医学部定員の臨時定員を削減するのではなく、合理的な対策を検討するべき」と要望しました。双方から声があがったことは、この間の私たちの訴えが響き合うものであり、政府の偏在指標が地域の実情を反映しない機械的なものであることがあらわになっています。しかし、財務省の財政制度等審議会は2024年11月に「秋の建議」をまとめ、「2030年頃には医師は供給過剰になると見込まれており、日本社会全体の人口減少に対応した医学部定員の適正化」が必要であるとし、医師数削減とともに強力な偏在対策を講じる必要があると主張しています。まさにせめぎ合いの情勢です。しかし、運動が止まってしまった県連も半数ほどあります。あらためて署名の意義を確認し、残りの期間で重視することを5点(①全県連が運動を継続する、②県連内医師の署名は、最低でも8割をめざす、③医師・医学生向けWEB署名については、各医師のつながりを生かしてひろげていく、④地域医療機関への働きかけができていない県連は足を踏み出す、⑤医学生一人ひとりへの声掛けを行う)提起します。
③ナース・アクション、「高等教育無償化実現へ道を開こう」
2024年看護管理実態調査では、離職の増加、看護養成校の定員割れなど、看護師不足の問題が明らかで、医療・介護活動および経営への影響は甚大です。あらためて、民医連の看護実践に確信を持ち、看護奨学生の確保、職員育成指針の実践、働き続けられる健康な職場づくりを、事業所全体でとりくみましょう。同時にケアが大切にされる社会へ、オール地域でのたたかいを全事業所でとりくむことを呼びかけます。
ナース・アクションとしてとりくんできた「高等教育無償化を求める請願署名」は通常国会に第2回目を提出しました。この間の政府交渉でも、「授業を受けたあとで6時間バイトをしている」「子育てしながら高学費と生活の両立は大変」など、学生の切実な声を届けました。日本の高等教育予算はOECD(経済協力開発機構)のなかでも「最低水準」で、学費の7割は家計がささえているとされます。国際人権規約は、無償の高等教育を漸進(ぜんしん)的に導入する措置を国に義務づけています。日本政府は、2012年に高等教育無償化条項の留保を撤回しましたが、その後10年以上も議論されないままです。衆院選では主要政党が「無償化」「負担軽減」を公約しています。声をあげ続け、無償化への道を開きましょう。また、ひきつづき職能団体、民医連外の医療・介護事業所との懇談を重ね、看護師の養成、処遇・労働環境の改善などを国・行政に求め、オール地域で住民のいのちとくらしを守る運動をひろげましょう。
④介護ウエーブ、介護改善をめざし「3つ丸ごと」ウエーブをひろげよう
2024年の介護・老人福祉事業所の倒産件数は、過去最多の172件(前年比40・9%増)に達し、これまで最多だった2022年の143件を29件上回りました。このうち訪問介護事業所が81件にのぼっており、基本報酬引き下げが倒産を加速させています。2024年は休廃業数とあわせて過去最多(529件)となりました。介護職員の給与は全産業平均から月額6万8000円も低い実態があります。人手不足も深刻化しており、2023年度の介護従事者が介護保険創設以来、初めて前年を下回りました。こうしたなか、政府は2年前に反対の世論で先送りに追い込んだ「利用料2割負担の対象拡大」「ケアプランの有料化」「要介護1・2の生活援助等の総合事業への移行」の審議を再開させ、2025年末までに審議会の報告書をとりまとめ、2026年通常国会に「改正」法案を提出しようとしています。
訪問介護の基本報酬引き下げ撤回を求める声が強まるなか、地域の訪問介護事業所を対象にしたアンケート調査は、これまでに15を超える県連で実施されており、かつてないとりくみとなっています。調査結果は記者会見を通して発信され、自治体交渉や地域シンポジウムの企画などに力を発揮しています。「介護請願署名2024」も、これまでつながりのなかった団体、事業者などに大きくひろがっています。国に対して訪問介護の基本報酬引き下げ撤回などを求める意見書は1月7日現在、212の自治体で採択されており、民医連のアンケート調査結果が重要な役割を果たしています。
ひきつづき、訪問介護の基本報酬引き下げ撤回、事業者支援などの予算措置を重ねて政府に要請します。2025年は、利用料2割負担の対象拡大などの改悪案の審議が再開され、さらに介護保険施行25年の大きな節目となる年でもあります。改悪案の検討中止と制度の抜本改善、介護報酬の底上げ、全産業平均水準の給与の実現を強く求めていきます。介護保険財政における国庫負担割合を引き上げること、処遇改善は利用料に反映する介護報酬ではなく、全額公費(国費)で実施することが政策上の重要な焦点です。制度改善を国に求める意見書の採択、事業者への独自支援や実効性のある確保対策を求める懇談、要請など、自治体への働きかけを強めていきましょう。
2025年は参議院選挙が予定されています。衆議院の与党過半数割れという新たな情勢は、私たちの要求を実現させる重要な足がかりとなるものです。
公的に保障されるべき高齢者ケアが決定的に不足しているなか、介護保険制度の立て直しは一刻の猶予も許されない課題です。各政党・地元議員に対する働きかけを強め、介護現場の実情や利用者・家族の実態、制度改善の課題を共有し、介護問題を国政の大きな争点に引き上げていきましょう。看護、医師、診療報酬のたたかいと共同したとりくみを追求します。地域の事業所とともに、障害者団体、認知症の人と家族の会などの当事者団体ともひろく連携し、制度改善を求める「民医連丸ごと」「地域丸ごと」「ケア丸ごと」の3つの丸ごとウエーブを大きくひろげていきましょう。全日本民医連として「介護困難事例調査」を実施します。
(3)憲法を守り生かす運動
全国でとりくんでいる憲法署名は、44万5937筆に到達しました(1月末現在)。
「憲法・平和守るイチオシのとりくみ交流会」をWEBで開催し、各地協から候補を募って「楽しみながら」「地道にコツコツとりくむ」工夫を交流しました。また、若い職員も憲法を守り生かす運動に親しみを持って参加しやすいよう、2024年10月より「憲法闘争本部」を「憲法まもりたい! 民医連ネットワーク(略称:まも憲ネット)」に名称変更しました。
自民党の憲法改正実現本部が自民党の改憲に向けた論点整理をとりまとめたのを受けて、憲法共同センターから新署名が提起され、新しい解説チラシ付きの署名用紙を作成して全国にとりくみを呼びかけました。2024年12月、まも憲ネット主催で「総選挙後の政局と憲法をめぐる情勢、今後の展望について」をテーマに、一橋大学名誉教授の渡辺治さんを講師に、幹部向けの憲法学習会を開催しました。
参院選に向けて、各政党の憲法政策を調べるとりくみを提起しています。社保委員会や職員育成委員会、選挙へ行こう実行委員会などを中心に、各政党のホームページの検索、地元の政党事務所、地元出身の議員や予定候補者へのアンケートなど、若い職員も参加しやすい方法を検討して、具体化しましょう。ひきつづき全職員向けの連続学習会を実施します。「選択的夫婦別姓と憲法」「ジェンダー平等と憲法」「学ぶ権利と憲法」などをテーマに、WEBで開催します。
(4)核兵器廃絶、辺野古新基地建設反対のとりくみ
被爆体験を聞き、ひろげ、引き継ぐのは私たちです。すべての職員が、患者、利用者、共同組織のなかの被爆者をはじめ、多くの被爆者の声を傾聴し、証言を継承していきましょう。日本政府に核兵器禁止条約の批准を求める活動、被爆者健康手帳の取得、原爆症認定、「黒い雨」被爆者と長崎の被爆体験者、ビキニ被ばく船員、国家補償を求める被爆者・核被害者のたたかいを支援しましょう。
日本政府に核兵器禁止条約への署名・批准を求める署名は、目標100万筆に対して25万8000筆の到達です。ひきつづきの署名へのとりくみと、日本政府に核兵器禁止条約への参加を呼びかける自治体意見書決議の運動などにとりくみます。
沖縄県では米兵の犯罪行為がくり返され、さらに日米地位協定のもとでこれらの犯罪に対して毅然とした態度をとれない日本政府に対して、国民の怒りが高まっています。日米地位協定改定は待ったなしです。新たな米軍基地建設をやめさせ、基地のない平和な沖縄を求めて連帯したたたかいを続けます。また、平和憲法を無視し、米軍基地・自衛隊基地増強に反対する運動にとりくみます。
(5)参議院選挙へ向けて
自ら問題意識を持って情報を入手して深める学習を重視します。また、まも憲ネットの連続学習会とタイアップしながら、憲法を軸に人権、平和、ケアなどをテーマに取り上げた学習をすすめます。大軍拡、戦争する国づくり許さず、核兵器廃絶、平和な世界の実現や、ケアの倫理、ジェンダー平等と憲法、国際的な人権保障の到達を、国会での予算や法案審議など、具体的な課題と結びつけながら学ぶ工夫をしましょう。
選挙で社会を変えられる体験ができるよう、核兵器禁止条約、選択的夫婦別姓、ケア労働者の増員、処遇改善、子ども医療費18歳まで国の制度で無料化、生活保護、外国人の人権と受療権などのとりくみや、原発ゼロ、人権を守る視点での震災・災害被災者支援と被災地の復旧・復興実現への運動を強化していきましょう。
全日本民医連参院選要求を作成します。現場での学習に活用するとともに選挙要求が自分事になるよう、「わたしの参院選要求」を考える運動なども提起します。
第3節 一人ひとりの尊厳を大切にする医療・介護活動を充実させよう
医科
2023年5月、新型コロナウイルス感染症が感染症法上の5類に位置づけられて以降、病床確保料などの政府による特例措置は漸次縮小され、2024年3月までにすべて終了となりました。コロナ禍が下火となり、地域の社会や経済が活気を取り戻すのと反比例するように、医療機関の経営環境は極めて悪化し、この一年間は民医連のほぼすべての法人が経営難に苦しむことになりました。背景には、コロナ禍の最中から民医連を含む多くの医療団体が医業経営の窮状を訴えてきたにもかかわらず、社会保障削減、医療費削減の方針を変えない政府・厚労省の施策があります。がんばっても好転しない経営状況に心が折れそうになり、日常診療への意欲や情熱、人と触れ合い感謝されることの感動を忘れてしまいがちですが、私たちはコロナ禍の苦しい時期にも民医連の灯を消さず、綱領と「医療・介護活動の2つの柱」の理念のもとに地域に寄り添い、室料差額を取らず無料低額診療にもとりくみ、受療権・健康権を守るために奮闘してきました。まずはそのことに確信を持ちましょう。
(1)高齢者救急と在宅医療へのとりくみ
外来・入院医療のニーズは多くの地域ですでにピークを過ぎて減少局面に入っており、一方で高齢者を中心とした救急医療、在宅医療は2040年にかけて増加していくとされています。厚労省は新しい地域医療構想のなかで、地域型病院(治しささえる医療)と広域型病院(治す医療)の病院類型を創設するとしています。民医連の多くの中小病院は地域型の病院に位置づけられると考えられ、限られた体制のなかではありますが可能な限り積極的に高齢者救急と在宅医療にとりくむことが望まれます。医療・介護・福祉の複合体であるだけでなく、地域の強力なパートナーである共同組織を持つ民医連の強みを生かしていきましょう。
(2)かかりつけ医機能の充実
2025年4月からは「かかりつけ医機能報告制度」が創設される予定で、その報告事項は、日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能に加え、(1)通常の診療時間外の診療、(2)入退院時の支援、(3)在宅医療の提供、(4)介護サービスなどと連携した医療提供、(5)その他厚生労働省令で定める機能、となっています。民医連の事業所はこれらの機能を十分に果たしてきましたが、今後の地域の変化を考えると、さらなる機能の充実が必要と考えます。
民医連はコロナ禍以前より「医療・介護活動の2つの柱」の実践を深めるため、医療と介護の連携をテーマに、課題整理や各地の工夫の交流などにとりくんできました。その過程で、医療と介護の制度上の違いに加えて、価値観や時間軸の違い、情報共有の難しさ、権威勾配の存在、お互いの役割を理解し合うことの重要さなどを学んできました。ICT(情報通信技術)の普及により、テキストデータだけでなく画像情報もリアルタイム共有できるようになり、診療報酬、介護報酬上でも多くの評価がなされるようになりました。一方で、権威勾配の解消や相互理解という面では、データのやり取りだけではない、対面でのコミュニケーションに優位性があると考えられます。「顔の見える関係」づくりをすすめましょう。
(3)かかりつけ医機能を拡張するまちづくり機能
地方では人口減少と高齢化に伴うサービスの維持、都市部では高齢化と単身世帯の増加が課題となるなか、フレイル、社会的孤立、認知症などは、かかりつけ医機能だけでささえることはできず、もう一歩すすんだ積極的な地域への関与が必要です。事業部門としては、医療の専門職が社会的処方を実践したり、健康教室などを通じて地域活動に参加したり、共同組織の活動に積極的に参加することが求められますが、それ以外にも地域の困りごとの相談に乗り、解決策をともに考えるソーシャルワーク機能、相談会や訪問行動を通じて地域に積極的に出かけて課題を掘り起こすアウトリーチ機能を、充実させる必要があります。また、フレイルや近親者の喪失などで、社会とのつながりを失ってしまった人たちをささえるためには、地域の人同士がささえ合う仕組み(インフォーマルサービス)が欠かせません。人びとが集まる場や仕組みをつくる機能、すなわち、まちづくりコーディネート機能も必要です。そのために地域の人たちの声を聞いて、必要な情報を診療部門に伝えたり、地域包括支援センターとの連携、地域でのイベントの企画をする職種(まちづくりコーディネーター、リンクワーカーなど)の設置を検討しましょう。さらに、地域診断をベースに行政や企業との連携を模索したり、教育現場や商店街など、他業種との連携を考える地域戦略を企画する部門の設置も望ましいと考えます。
医科・歯科・介護の一体的提供プラスまちづくりの典型例として、「地域で食にこだわる活動」があります。高齢者をはじめすべての人にとって、食べることは生きていく上での基本です。それは、医療・介護現場だけでなく、まちづくりにもかかわる活動です。地域での嚥下(えんげ)支援チームや地域NSTの活動、調理指導や配食サービスなど在宅の「食」をささえるさまざまな活動、子ども食堂やフードパントリーなど、食を通じた生活支援と多世代交流、「地域で食べて生活する」ことをテーマとしたシンポジウムの開催など、多くの職種や共同組織、地域の人びとを巻き込んだとりくみをすすめましょう。
(4)「医療・介護活動の2つの柱」の深化に向けて
2024年10月に熊本で開催した看護介護活動研究交流集会、11月に広島で開催された国際HPHカンファレンスを通じて得られた学びは、医療・介護の連携に加えてまちづくりに積極的関与することと、健康的な社会を実現するために政策決定者に向けて発信することの重要性でした。政策決定に反映するためには客観的なデータが必要です。「医療・介護活動の2つの柱」の実践を客観的なデータでふり返ることは、私たちの確信につながることでもあり、政策決定に強く迫る根拠ともなり得ます。健康的な公共政策づくりは、ヘルスプロモーションの重点活動分野でもあります。必要に応じて研究者の協力も得ながら、臨床現場からの発信を続けましょう。
2024年9月に岡山で開催した共同組織活動交流集会では、活発な共同組織の活動に触れることができました。一方で、コロナ禍を通じて医療・介護の現場と地域は感染対策を理由に分断され、その影響で職員が地域にかかわる活動は低調のままです。職員に積極的に地域に出ることを勧奨するとともに、良い経験、良いとりくみを共有する機会を増やしましょう。2025年10月の第17回学術運動交流集会(東京)、県連や地協単位での学術運動交流集会や「2つの柱」実践交流集会の開催、機関誌やニュースなどでの情報共有、現場でのカンファレンスの充実などを通じて感動や喜びを分かち合いましょう。
(5)認知症施策推進基本計画の充実へ向けたとりくみ
2024年1月に施行された認知症基本法にもとづき、政府内に認知症施策推進関係者会議が設置され、2024年11月に認知症施策の指針と基本計画がとりまとめられました(認知症施策推進基本計画)。誰もが認知症になり得る、認知症を自分事として捉えることを前提に、重点目標として、「新しい認知症観の理解」「認知症の人の意思の尊重」「地域での安心なくらし」「新たな知見や技術の活用」の4点を掲げ、認知症になっても地域で安心して生活できる新しい認知症観の普及をはかり、当事者が住み慣れた地域で、周囲とのつながりから希望をもってくらし続けられる社会をめざすとしています。基本計画の推進に向けて、具体的な施策や財政的な保障を求める運動課題としてもとりくむ必要があります。
(6)住民とともに全国でPFAS汚染対策のとりくみを強化しよう
PFAS汚染源は、米軍基地の泡消火剤の流出、企業の廃棄物などが考えられ、徐々にその実態が明らかになっています。各地で住民の会が組織され、いくつかの県連・事業所ではPFAS血中濃度検査、相談外来が始まっています。また、「健康リスク調査」をするためには民医連内で血液検査を実施する施設が必要との要望が出され、東京民医連で募金活動を行い病体生理研究所で血液検査を開始しました。目標額へ向け全国からの募金活動を引き続き強めていきます。
自治体や国に向けて汚染源の調査、検査の実施や公費負担、健康被害の実態調査などを求めて働きかけが行われ、岡山県吉備中央町、千葉県鎌ケ谷市では血液検査の公費負担が開始されました。9月に第1回のPFAS問題交流会を開催し、39県連、282人が参加しました。さらに具体的なとりくみについて交流するため、第2回交流会を2025年3月に開催予定です。民医連の全国組織の強みを生かした調査・研究活動、日常的な相談支援体制や地協での体制の確立などが今後の課題です。
歯科
医科・歯科・介護の一体的提供を通じて行う「食」への総合的支援は、歯科分野では歯科口腔(こうくう)保健を人権として位置づけ、歯科医師をはじめとした職員の確保と育成のとりくみをすすめてきました。歯科奨学生会議をWEB開催、青年歯科医師会議は、大阪で「釜ヶ崎フィールドワーク」を行い、格差と貧困の実態を学び、グループ討議で日常診療や研修についての交流を行っています。全国歯科衛生士交流集会を開催し、「民医連歯科衛生士の基本となるもの」を討議し、完成させました。
(1)国の歯科医療提供体制の動向と課題
厚労省では、2021年より「歯科医療提供体制等に関する検討会」が開催されてきましたが、2024年5月に「中間とりまとめ」が報告されました。そのなかでは歯科医師をはじめ、歯科衛生士、歯科技工士の人材確保、育成などの課題や、歯科医療機関の機能分化と連携、医科歯科連携・多職種連携などを踏まえ、都道府県など行政において歯科医療提供体制の検討をすすめていくことがとりまとめられています。12月の第10回「検討会」では、現状の歯科医師の偏在や高齢化の課題があることから、今後の歯科医師の必要数や適切な配置について議論をすすめていくことが提案されています。
この間、国がすすめてきた歯科医師数抑制政策のもとで、地域の歯科医療を維持することが危ぶまれ、全国の歯科診療所数は2000件近く減少しています(2020年3月の6万8332件から2024年9月の6万6384件)。「歯科署名」の運動を通じて、口腔疾患を持つ4000万人をはじめ、誰もがお金の心配がなく受診できる歯科医療の実現と、歯科医療をささえる歯科医師や歯科衛生士、歯科技工士、歯科事務幹部など職員の確保と育成を十分に行えるためにも、歯科の低診療報酬制度を転換させ、事業が継続できるように改善させることが求められています。歯科医療提供体制の構築や必要な歯科医師などの確保については、国の責任で行われることが重要で、今後の厚労省での議論も注視していきます。
(2)民医連歯科の発展と後継者育成の強化
民医連でも後継者育成は喫緊の課題となっています。県連、法人の中長期計画では5、10年先の歯科医師体制について把握し、歯科医師確保・定着と育成についての方針の具体化が必要となっています。
歯科事業所においては、「歯科奨学生」「青年歯科医師」「中堅歯科医師」に対して、フィールドワークなどを通じた平和学習や現状の課題の共有、将来の民医連歯科の担い手づくりのためにも各集会・会議への積極的な参加を事業所方針に位置づけましょう。歯科衛生士の確保が困難な状況にあり、「民医連歯科衛生士の基本となるもの」を活用し、確保と育成について議論して具体化にとりくみましょう。歯科技工士の課題は、院内技工士の役割を再確認し、具体的な確保と育成にとりくみましょう。歯科事務長は、複数事業所兼務や職種の兼務(技工士や衛生士の兼務)が容認され、後継者育成も計画的に行われない状況のなかで、事務長の負担が大きくなっています。経営分析にとどまらず、運動方針の遂行、地域との共同強化、後継者対策など、幅ひろい役割を担う歯科事務幹部の育成は、法人、県連との共通課題にしていく必要があります。歯科事務長の役割の確認と交流も兼ねて、10年ぶりに新任歯科事務長の研修会を2025年5月に開催します。
介護
(1)2024年介護報酬改定への対応、事業活動
ひきつづき2024年度介護報酬改定への対応を強め、介護の質の向上、医療・介護の連携強化をはかりましょう。民医連外の事業所との連携はもとより大切ですが、まずは県連・法人内の連携をいっそう強めていきましょう。地域の要求や自法人の役割を踏まえた事業の見直し・再編を検討することも必要です。介護の質の向上、医科・歯科との連携の強化、経営改善に向かう流れを、早期に、確実につくり出しましょう。
第9期の計画期に入り、厳しい状況のなかでも地域密着型サービスを中心とした、新たな事業が開始されています。増大していく医療・介護の複合ニーズに応え、「医療・介護の一体的提供」をすすめる事業活動を追求していきましょう。圏域・エリア単位で、地域の要求、各事業所の実情や課題をしっかり共有すること、利用者の紹介や職員確保など、あらゆる分野で共同組織との連携を強めていくことが不可欠です。生活困難と社会的孤立のひろがり、政府の医療・介護政策を背景に、無差別・平等の医療・介護と生活支援の一体的な提供、まちづくりは、今後の方針を検討する上であらためて重視される視点・課題となります。事業基盤の強化をはかり、「選ばれる事業所」として地域の要求にいっそう応えていきましょう。
(2)職員の確保・職場づくり
ここ数年間の民医連の就業状況は、介護労働安定センター調査と比較して「離職率」は低く抑えられているものの、「採用率」が伸びておらず、その結果「増加率」が低くなっている傾向が続いています。職員確保をめぐって一段と厳しい状況が続いていますが、ひきつづき法人の総力をあげて確保対策にとりくみましょう。SNSやYouTubeの活用など、「発信力」の向上がはかられていることが特徴です。職員確保と大幅な処遇改善を求める運動を一体的にとりくみましょう。自治体に対して実効性のある確保施策の実施・拡充を求めていくことも必要です。
介護現場では、職員の高齢化、他業種からの転職、外国人介護職の増加など、働く人、働き方が多様化しています。さまざまな価値観を尊重しながら、より良い職場・チームづくりに向けて、「民医連の介護・福祉の理念」をくり返し学び、共通理念として日々の介護実践や職場づくりに生かしていきましょう。ノーリフティングや福祉用具の活用、ICT機器導入による記録業務の軽減など、働く人、働き方の多様化への対応が職場づくりの革新にもつながっています。一方で、入職1年前後で退職するケースも少なくありません。「職員育成指針2021年版」を活用し、やりがいと成長を体感でき、「働き続けたい」と感じられる職場づくりをめざしましょう。
(3)日常の介護実践、介護ウエーブから「ケアの倫理」を深めよう
介護現場の実践や現状の問題に引き寄せながら「ケアの倫理」の学習を深めましょう。「ケアの倫理」から日常の介護実践の価値をあらためて捉え直す、逆に日常の介護実践の内容から「ケアの倫理」の核心を掘り下げる視点が大切です。認知症ケアや終末期ケアなど日々の実践、ヤングケアラーなど家族介護者への支援、虐待防止や身体拘束への対応などのほか、必要な介護を提供できないジレンマ、現行介護保険制度の問題点や限界、介護従事者の低賃金の背景、介護ウエーブの意義など、「ケアの倫理」が示す視点からあらためて考えてみましょう。「民医連の介護・福祉の理念」から「ケアの倫理」をとらえ、深めることも今後の課題です。
第4節 高い倫理観と変革の視点を育む職員育成を強めよう
(1)総会運動方針の学習を力に、あらためて『職員育成指針2021年版』(「7つの具体的指針」)にもとづいた活動の強化を
第46回総会運動方針学習月間(3月~7月)は、学習会のべ6649回、参加者のべ4万8625人、職責者以上の読了率は60・6%となり、前期と同程度の到達となりました。
職責者の全文読了、学習DVD「未来へのカルテ2024」の視聴をはじめ、総会代議員による報告会などで全国の貴重な経験や確信などが交流されました。「能登半島地震で自宅に帰りたいという患者さんの思いを地域の連携で実現し、まさに民医連の医療だと感じた」「県議会ウオッチャーにとりくみたい」など、活動交流の機会にもなりました。方針学習が、職員育成の拠点としての職場づくり、多職種連携の実践、アウトリーチなどを後押しする力となっています。また、スローガン、「非戦」「ケアの倫理」への共感がひろがり、日常のケア実践や社会変革と結びつけて語られています。
さらに、平和、憲法、米軍の女性への性暴力の問題、ジェンダーやLGBTQ、外国人の人権など国際人権、原発、PFASなど多彩な学習も、地域の運動とともにひろがっています。「健康で働きつづけられる職場づくり」パンフの改定を踏まえ、心理的安全性やメンタルヘルス、多様性に配慮したヘルスケアなどが、組織の維持や経営の課題として捉えられています。
一方、「業務に学習を位置づけることが共通認識となりにくい」などの悩みや、推進体制確立の困難など課題が共有されています。職員育成は事業と運動をすすめる基盤であり、民医連綱領、憲法、人権を要とした学習と日々の実践、それを通した職員の成長が民医連運動の土台です。いかなる状況においても、あいまいにしたり、軽視することなく、不断の努力が必要です。軍事大国化やかつてない経営危機という厳しい情勢のなか、社会や組織の課題を見抜き、現状を変えていくためにもいっそう重要な活動となっています。
その点で、今期提起された「ケアの倫理」を深めることは、「高い倫理観と変革の視点を養う」活動を発展させる上で大切です。「ケアの倫理」は、誰もがケアなしでは生きられない脆弱性をもった存在であることを基本に、「人と人との関係性の倫理として、一人ひとりが人間として尊重され依存し合い、共感と信頼によって相互作用するというもの」です(46回総会運動方針第1章第1節)。社会や組織の変革と同時に、「健康で働き続けられる事業所・職場づくり」にもつながります。4月から「ケアの倫理を深めるCafe企画」にとりくみます。すべての事業所や職場への組織的援助をトップ幹部が認識し、全職員の学ぶ機会を保障して、いきいきと活動できる職場づくりをめざしましょう。あらためて、「職員育成指針2021年版」(「7つの具体的指針」)にもとづいた活動を呼びかけます。
(2)「全国青年ジャンボリーin兵庫」の成功に力を合わせよう
青年職員の育成は、民医連を次の時代へ継承・発展させていく上で不可欠の課題です。「職員育成指針2021年版」では青年ジャンボリー(JB)の活動について、「青年職員育成の重要な一環として位置づけ、その活動を保障し、自主性・自発性を尊重しつつ援助をすすめる」ことを強調しています。今期の全国青年ジャンボリーは、2025年11月27~29日に兵庫県で開催します。6年ぶりの集合開催となり、実行委員会で準備を重ねています。県連によって課題はさまざまです。今日的な支援のありかたを模索しながら、県連や地協で青年職員を支援する体制をあらためて確立し、成功に向けて力を合わせましょう。
第5節 困難に直面している医学対活動に正面から向き合い、オール民医連の力で前進に転じよう
①医師の確保と養成の到達点~奨学生は常勤医師確保の要
2024年11月、「医師の受け入れと定着を前進させるための経験交流集会」を開催しました。この集会は、「常勤医師確保のための全国会議」(2018年)を発展させ、非常勤医師を含め多様な働き方とジェンダー平等の視点を取り入れて医師の受け入れをめざし、さらにいかに定着をはかるかの視点も重視し、経験を交流しました。集会を通じ、あらためて奨学生・初期研修医への丁寧なかかわりと、いったん民医連を離れてもつながり続けること、そして「医師一人ひとりの多面性・多様性とそのなかにある共通項を見つめる」医局づくり・医師集団づくりをすすめることが重要であることが確認されました。
隔年で実施している全日本民医連常勤医師実態調査において、常勤医師数はおよそ3500人と10年横ばいですが、この30年で見ると医師の平均年齢は39・2歳から50歳に上昇し、高年齢化がすすんでいます。世代構成では、青年医師の退職の増加もあり、39歳以下の医師が大幅に減少(60%から29・9%に)しています。一方で、初期研修修了後、民医連内や民医連とつながりのある専門研修にすすんだ医師の割合は、奨学生であった研修医は約7割、奨学生でなかった研修医は約3割となっています。また、その後の動向調査で6年目の継続率は全体で75%となり、新専門医制度施行後も、奨学生であった医師の継続率が高いことが明らかとなっています。新専門医制度のもと、沖縄協同病院が立ち上げた外科専門研修プログラムは、学会調整で定員2人増の計4人の受け入れが可能となり、2025年度は4人の専攻医が研修をスタートするなど、制度対応がすすんでいます。
こうした状況のなか、第41回総会運動方針(2014年2月)で提起した500人の奨学生は、コロナ禍直前に528人に到達しましたが、2024年12月時点では379人と減少しました。2019年度の同時期比では中低学年でマイナス75人(26%減)、1~2年生に限るとマイナス61人(44%減)となっています。また、医師臨床研修マッチングにおいてもマッチング数が減少し、2024年度は162人と、直近10年では下から2番目の到達となりました。
第46期運動方針で、医学生担当者(以下、担当者)の大幅な減少と、これまでの医学対活動が十分に継承されていない現状を提起しましたが、担当者数は増加に転じていません。さらに、他の業務を兼任する担当者は総会時から増加し(全体の22%から35%に)、担当者の奮闘はあるものの、医学対活動は困難に直面しています。
②医学対活動の困難は、なぜ起きているのか?
困難の要因は、(1)コロナ禍で直接医学生と接する機会や高校生対策が制限され、担当者配置が縮小されたこと、(2)全国のマッチング定数の減少を受け、特に都市部の研修病院では定員が埋まりやすい傾向にあり、奨学生の確保に消極的な声が一部にあること、(3)卒業後の進路にしばりがある地域枠の学生が増加し、民医連奨学生の対象者が減っていること、(4)事務職員の育成上の課題や採用減から、担当者の配置に支障が生じるとともに、配置をしても組織的なフォローが丁寧にできていないこと、(5)医師体制の厳しさ・多忙さから医師の医学対活動への参加が難しくなっていること、(6)経営的な厳しさおよび医療・構造の転換期のなかで、幹部が目の前の課題に追われ、長期的な視点やオール民医連の視点に立つことができない状況が生まれていること、があげられます。
この困難は、絶対的な医師不足、かつてない経営危機など、政府の医療費抑制政策の表れと考えます。しかし、自前での後継者対策に力を注ぐことができなければ、地元大学に在籍する奨学生・つながり学生(自県連・他県連問わず)との日常的なかかわりは薄くなるとともに、多くの医学生とつながり、民医連を届け・伝え、奨学生数を回復することはできません。「私たち民医連の事業所に多くの医学生が参加してくれるよう働きかける活動は医師の大切な仕事の一つ(2019年4月:未来に向かって民医連の医師と医師集団は何を大切にするのか)」であり、民医連運動を担う医師の後継者を誕生させ育成することは、医師集団の責任です。医師委員長・研修委員長・医学生委員長を中心に、あらためて各県連の「組織的な医学対活動」の到達と課題を明らかにしましょう。
③民医連にとってなぜ医学対活動が重要なのか? 何を大切にするのか?
医学対活動の本道は、「将来の日本の医療を担う医学生の民主的成長を援助することであり、そのことを通じて民医連運動の後継者を生み出すこと(2003年8月・全日本民医連理事会)」です。そして医学対活動は、すべての医学生を対象とした、オール民医連で力を合わせる綱領の実践であるとともに、民医連経営の中心的課題でもあります。社会情勢が混とんとしている時代だからこそ、医学生が民医連と出会うことの意味合いは大きくなっています。民医連との出会いは社会との出会いであるとともに、医学生運動をはじめ、社会や日本の医療をより良くしていこうという運動との出会いでもあります。医学対活動の根底には「排除ではなく包摂」の考えがあります。出会いを通して社会や医療をともに学んでいくことが、医学生が新しい視野を得て未来に希望を見出すこと、そして「なんのために、誰のために医師・医学者になるのか」を考えていくことにつながります。2年時に奨学生となった沖縄出身の学生は、米軍基地が人権にどのようにかかわっているか考えたことはありませんでした。しかし、奨学生活動を通して、なぜいのちや人権よりも戦争政策や経済が優先される社会なのか考え、自身が働くことになる地域に公害問題があることを知り、「何科の医師になるのか」から「誰のための医師になるのか」へと考えの変化が生まれています。
医学生は民医連と出会い、丁寧なかかわりのなかでかならず変化します。しかし、私たちの主体的力量と客観的状況から活動を縮小したことにより、今まで以上に医学生との出会いをひろげることができていません。すべての医学生を対象としたオール民医連の医学対活動を実践する体制と構えをつくり、組織全体のものにすることが求められます。
④オール民医連で、今日的な医学対活動への転換をはかろう
自己犠牲的な長時間労働を容認する医師の業務構造があるなかで、担当者も、そうした医師に合わせた自己犠牲的な働き方が求められることが多く、そのことが可能な担当者に依存し続ける現状もあります。一方で、育児や介護のケアの実践を日々行いながら、仕事を担う担当者も増えてきています。また、社会運動の経験が少ない若手の事務職員が多くなっており、「医学生の民主的成長を援助する」との方針の「民主的成長」についてイメージが難しい現状もあります。全日本民医連はこれまで「(医学生を)育てる医学対」を提起してきました。しかし、医学生同様、若手担当者も民医連と出会って社会と出会い、医学生といっしょに実習・フィールドワーク・奨学生会議・医学生のつどいなどに参加することが学びになります。その活動を通して、自らの成長につなげていく「(医学生とともに)育ち合う医学対」を提起します。
民医連運動の後継者を生み出すための前提は、各県連・法人の医療構想・中長期経営計画と医師政策で、この2つが車の両輪であり、この両輪を示すのは幹部の最重要課題です。あわせて、医学生担当者の配置・育成・援助に責任を持ち、担当者の多様性を尊重するとともに働き方を見直し、担当者任せでない活動に転換していくことが必要です。医学生委員長・医学生委員を中心に、全職員による医学対活動を質・量ともに前進させることを呼びかけます。
2023年に開催した医学生委員長会議では、奨学生は「民医連を発展させ、ともに未来をつくっていく仲間」であるとし、「奨学生1・2・3大作戦(0人から1人→2人→3人へと)」を提起しました。現状の常勤医師約3500人の維持・増員をはかるためには、各年代80人以上の医師が必要となります。この間、500人の奨学生集団・新卒医師受け入れ200人・専門研修(TY含む)100人を掲げてきましたが、前述の6年目の継続率から、(1)500―200―100(修了後帰任予定を含む)の目標設定が妥当であること、(2)奨学生が一定存在することがその前提となることが明らかになりました。すべての医学生を対象とした活動を行い、「奨学生1・2・3大作戦」を本格的に実施するなかで、新たな奨学生を全国で誕生させましょう。今回、新たに新卒医師受け入れ200人のうち、奨学生活動で学び成長した医師100人を、オール民医連で受け入れる目標を提起します。
今こそ、求められる活動に見合う体制を幹部が責任をもって構築し、2025年の新歓活動での前進をかならず勝ち取り、民医連の未来をともにつくっていく仲間である奨学生を、全国で迎え入れましょう。医学対活動の方針の骨格は1990年代につくられましたが、医師・医学生をめぐる情勢と職員の働き方は大きく変化しています。「医学対活動の2つの任務」のブラッシュアップも含め、今日的方針について今期中に提案します。
第6節 私たちのあらゆる活動のパートナー、共同組織とともに前進しよう
(1)第16回共同組織活動交流集会in岡山の成功
2024年9月に第16回共同組織活動交流集会in岡山を開催し、「地域からつながり広げ、平和・いのち・人権が大切にされる世界へ~あらたな担い手とともに誰ひとり取り残さないまちづくりを~」をテーマに、全国から1700人が参加し大きく成功しました。
初参加の共同組織活動交流集会全国連絡会連絡委員は、「初めての交流会参加、演題発表でした。コロナ禍での縮小活動から、新しい企画や従来の企画も見直し、各地の仲間の努力奮闘の姿が、頼もしく、すごいと思いました。民医連の連帯の輪がますます強くなる予感がしました」と感想を寄せています。6年ぶりの対面集会で、手探りのなかでの開催でしたが、集会を通じて多くの学びと、民医連と共同組織のとりくみへの共感がひろがりました。集会冒頭の能登半島地震の報告は、直前に起きた豪雨の状況やとりくみも含めて、現地の民医連職員と共同組織の奮闘、そして全国からの支援に大きな感動が寄せられました。参加者から120万円ものカンパが集まったことに驚きと、民医連の連帯へ共感が寄せられました。発表者の多くが、コロナ後でそれぞれ悩みながら苦労が多いものの、いきいき楽しくとりくんでいる姿が伝わり、同じ思いで実践されていることへの共感、身近にいま行っている活動に取り入れられそうなものも多く、学び合いがひろがっています。また、岡山での開催を中国・四国地協全体でささえようと議論され、しばらく連絡委員が出ていなかった県連からも新たに選出され、集会成功に向け位置づけられたことは貴重でした。
共同組織とともに、積極的に地域へのアウトリーチにとりくみ、熱中症対策のエアコン調査、自治体への対策の要請行動、受診の妨げである交通問題など、交流集会の学びを生かし、地域の困難に寄り添い、共同組織とともに安心して住み続けられるまちづくりをすすめていきましょう。
第17回共同組織活動交流集会は、2026年9月、東京開催で準備に入りました。
(2)10~11月共同組織拡大強化月間のとりくみ
共同組織は、拡大強化月間のとりくみを通じて、2024年11月末報告で4938増、348万6058の到達です(未報告3県連)。『いつでも元気』(以下、『元気』)は月間を通じ60部の増誌となりました。2024年12月1日現在の職員読者比率は28・3%で低下しています。
「あらゆる課題を共同組織とともに」を掲げながら、月間では、職員もともに地域に出て、仲間増やしや『いつでも元気』読者拡大などにとりくみました。特徴的なとりくみとして、職責者や青年JBも参加しニュースで訴える「秋の月間!! ペンリレー」(北海道)や、職員と共同組織の人びととの訪問行動(長野、他)、外来ブースでの友の会声かけや、あらゆるつながりを生かして行きつけのお店や公園体操仲間にも入会と、『元気』購読を呼びかけ(京都)、病院の組合員コーナーを改装、強化月間飾り付けで呼びかけ(鳥取)など、工夫して活発にとりくまれました。「『元気』のダイジェスト版を作成して班会で紹介して拡大」(長野)、「職員全員に総当たりする方針を立て、共同組織加入を訴えた。『元気』の職員読者比率は7割」(福岡)など成果に結びついた法人もあります。また、月間中に地域でさまざまなイベントなども開催され、地域行事に健康チェックで参加(福島)、地元の小学校の協力で「健康チャレンジ」を実施(宮城)、フレイル予防学習会(神奈川)、グランドゴルフ大会開催(鳥取)、地元小学校での「ときめき健康チャレンジキッズ」(愛媛)、初期研修医が講師として保健講座を開催(熊本)など、健康づくりにも積極的にとりくみました。
一方で組合員、友の会会員の拡大、『元気』の拡大とも、県連や法人によってばらつきがありました。戦略的課題として共同組織や『元気』の拡大にとりくむことが求められます。
(3)職員の『元気』購読と活用を強めよう
46期総会運動方針で職員の共同組織活動への参加を重視しようと掲げました。そのためには、共同組織の魅力や全国の仲間のとりくみを伝える『元気』は、職員の日々の活動への参加に役立ちます。『元気』の職員5割購読も早期に達成しましょう。毎日の朝会後の短時間、民医連新聞とともに『元気』を開いて記事を読み合わせて学習する(岐阜・みどり病院総務課)、『元気』の表紙に載りたいと通信、実現した表紙の写真を卓上ノボリにして『元気』購読を訴え、健康教室の資料にも活用する(福井・つるが生協診療所)など、各地で積極的に活用し、読者拡大もすすんでいます。幹部や職責者が率先して購読して『元気』の魅力を職員に語りながら、職場会議でも学習資材として大いに活用しましょう。
第46期共同組織委員長会議を2025年6月に開催します。共同組織の発展には、組織担当者が重要な役割を担っています。
職員が積極的に共同組織の活動に参加できるよう、学習パンフレットの改定を行い、職員学習をすすめます。
おわりに
第2回評議員会方針は、冒頭で戦争の問題に触れながら、平和と人権の方向での世界と日本の大きな変化を記載しました。「一人ひとりのかけがえのない、いのちと自由と尊厳を奪っていく戦争の対極に、私たちは医療・介護従事者として立っています。そしてその立ち位置は、国の内外で、経済格差の是正、気候危機への抜本的対策、平和と核兵器の廃絶、人種やジェンダーをはじめ、さまざまな差別の根絶を求めて立ち上がり前進している人たちとつながっています」と総会運動方針で、私たちの立ち位置をのべたことにつながっています。
「民医連70年の歴史、何を引き継ぐか?」として、第1にいのちに寄りそう医療・介護活動、第2に「たましい」としての社保・平和活動、政治を変える運動、第3に職員の成長と健康を守る活動を土台に、第4に非営利の事業と全国的結集・団結、第5に「共同のいとなみ」をあらゆる活動に、この5点を総会運動方針は明確にしました。総会からの1年間の実践は、この視点を大切に奮闘してきた12カ月でした。
47回の岩手総会へ向かう準備が開始されます。「自分の世代が語り継ぐことができなくなったとき、次の世代は何をすべきだと思いますか」と質問を受けた田中熙巳さんは、「未来への期待は希望によって開かれていくと思います。ですから、若い人たちが希望を持って、自分たちが豊かでいのちが大事にされる、そういう社会をつくっていきたい、そういう社会をつくれるのだという確信を持って、希望を持って働くということが大事だと思っています。みなさんの未来はみなさんでつくり上げていくんだ、開いていくんだということをお願いしたいと思っています」と答えました。
岩手総会へ向けて、いのちが大事にされる、そういう社会をつくっていきたい、そういう社会をつくれるのだという確信を持って、希望を持って、地域の人びと、共同組織、日本中の医療と介護の仲間と手を取り合ってすすんでいきましょう。
以 上
(注1)核兵器禁止条約
2017年7月7日、122カ国の賛成で採択された条約。2020年10月24日に、批准国が50カ国に達し、2021年1月22日に発効。2025年1月15日現在で署名93カ国批准70カ国となっている。前文は、核兵器のいかなる使用も国際人道法に違反し、二度と使用されないよう保証するための唯一の方法は、核兵器の完全廃絶であるとのべている。日本政府は、アメリカの核抑止が必要という立場に固執し、署名・批准しない姿勢をとっている。
(注2)選択議定書
世界人権宣言採択後、国際社会は30以上もの人権条約をつくった。国連は、そのうち国際人権規約と7つの条約(人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問禁止条約、子どもの権利条約、移住労働者権利条約、障害者権利条約、強制失踪条約)をあわせて、中核的人権条約と呼んでいる。条約を補完するための選択議定書に規定されている個人通報制度は、加盟国の国民が国内で救済されなかった場合に国連に直接通報し審査を依頼できる制度で、国連は審査結果を公表して、加盟国に条約を守るよう呼びかけることができる。日本はこの選択議定書について、いずれも批准していない。
(注3)国内人権機関
政府から独立した人権機関で、裁判所とは別に、人権侵害からの救済と人権保障を推進するための国家機関。国連が世界各国に設立を求めている国際的な人権基準を国内で実行するためのシステムの一環。裁判所に訴えて損害賠償を得るにも時間がかかる場合や、迅速に人権救済がなされなければ意味がないケースに、素早く調査し、差別や人権侵害が認められた場合は直ちに勧告し、解決をはかる。世界では110の人権機関が設置されているが、日本には設置されていない。
(注4)妊娠中絶における配偶者同意要件の撤廃
1995年に中国・北京で開催された第4回世界女性会議で採択された「北京行動綱領」では、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)が「女性の権利」とされたにもかかわらず、いまだ日本では人工妊娠中絶(堕胎行為)が刑法上犯罪とされている。「母体保護法」(1948年の旧優生保護法を改定し、1996年に成立)により一部合法化されたが、差別的な(女性のみが処罰される)自己堕胎罪は残されたままで、配偶者の同意が必要となっており、女性が自分の健康を自分で決定できない。前回も勧告されていたが、今回はフォローアップ項目として勧告された。
(注5)「総括所見のうち、民医連としても照合できるのは83カ所で、そのうち不十分でもとりくんでいるのは10カ所」
総括所見では60項目の分野で懸念や勧告が指摘されている。多くの項目ではさらに細かく指摘がされ合計150以上になる。全日本民医連ジェンダー委員会が、総括所見の指摘カ所と民医連の活動を照合したところ、民医連としても参考となるのは83カ所あった。そのうち少しでもとりくんでいるのは10カ所だった。総括所見の和訳は、全日本民医連ホームページ⇒職員のページ⇒職員育成部⇒職員育成動画の部屋⇒国連女性差別撤廃委員会総括所見学習会(関連資料・総括所見)
(注6)搾取
雇用主が、労働者を生活維持に必要な労働時間以上働かせ、その成果を取得すること。コロナ禍で注目された「やりがい搾取」とは、労働者に「やりがい」を強く意識させることでサービス残業(長時間労働)や不払い労働を勧奨し、本来支払うべき賃金などの支払いを免れること。「やりがい搾取」は、東京大学教授で教育社会学者の本田由紀さんにより名づけられたとされる。
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