いつでも元気

2008年7月1日

“今までと同じ”なんてとんでもない! 後期高齢者医療制度 検査や処置、健診対象者も制限

 高い保険料、年金からの天引きなどをめぐり、後期高齢者医療制度に対する国民の怒りが沸騰。しかし制度の問題はほかにもあります。厚生労働省は「今までと同じ医療を受けることができます」といいますが、診療報酬(注1)に医療を制限するしくみが持ち込まれたのです。

粗診招く後期高齢者診療料

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制度の中止・撤廃をもとめて会見(厚生労働省記者クラブで=5月14日)

 代表的なものが「後期高齢者診療料」です。診療所(注2)が届け出るもので、「医学管理料(診 察代)」「処置」「検査」などまとめて一カ月六〇〇〇円でというものです。医療機関は処置や検査をやるほど経営が苦しくなり、逆に何もしなくても六〇〇〇 円が収入になるという矛盾があります。
 急に病状が悪化した場合は別に検査ができますが、五五〇〇円以上の検査という条件つき。腹部エコーなどは五三〇〇円のため、実施しても医療機関の収入にはなりません。
 さらに後期高齢者診療料は「主病」を治療する「担当医」だけに認められます。患者は治療中の慢性疾患から必ず一つの「主病」を選び、「担当医」を決める ルール。しかし病気が複数あり、別々の医療機関にかかる必要がある高齢者もめずらしくありません。「医学的根拠がない」と批判の的になっています。
 しかも「担当医」が決まると他の医療機関の収入が下がるしくみまであります。「担当医」以外は同じ患者を見ても後期高齢者診療料はもちろん、治療計画、 運動、栄養、自己注射、服薬指導などにかかわる「医学管理料」もとれなくなりました。
 後期高齢者診療料は一つの医療機関に高齢者を縛り付け、他の医療機関は敬遠するようにしむけるもの。厚労省は「いつでも好きな病院に行ける」「担当医が 必要な方のみ、お医者さんに申し出ればよい」といいますが、「将来は通院を制限しようとねらっています」と全日本民医連・室田弘事務局次長は指摘します。

入院でも高齢者追い出し

 入院の診療報酬にも患者追い出し、医療費抑制のしくみが。七五歳以上で「退院困難な」患者を退院させると病院の収入となる「後期高齢者退院調整加算」 や、「回復を見込むことが難しい」高齢者について患者・家族と終末期の診療方針を話し合い、文書にまとめると収入になる「後期高齢者終末期相談支援料」も 導入されました。ねらいを厚労省保険局の土佐和男氏は、解説書『高齢者の医療の確保に関する法律の解説』でこういいます。
 「後期高齢者が亡くなりそうになり、家族が一時間でも、一分でも生かしてほしいと要望して、いろいろな治療がされる。(略)家族の感情から発生した医療 費をあまねく若人が支援金として負担しなければならないということになると、若人の負担の意欲が薄らぐ可能性がある。それを抑制する仕組みを検討するのが 終末期医療の評価の問題」
 土佐氏はことし一月に石川県で講演。「医療費が際限なく上がっていく痛みを後期高齢者が自ら自分の感覚で感じ取っていただく」制度が後期高齢者医療制度だといい放っています。

健診対象者は75歳以上の3%?

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大雨の中、厚生労働省前に600人が集った(5月14日)

 さらに七五歳以上の健診も各広域連合の義務からはずされました。厚労省は血圧、コレステロール、血糖を下げる薬やインスリン注射などを使っている人は「健診対象者からはずせ」と指示しています。
 過去一年間に医療機関にかかった人を対象者からはずし、健診対象者は七五歳以上のわずか三・五%という広域連合も(徳島県)誕生なんと、歯科にかかった高齢者まで対象者からはずしてしまったのです。
 厚労省は“生活習慣病で医者にかかっているのだから健診の必要はない”と説明します。しかし健診は治療していない病気も発見するものです。厚労省の説明は、健診をしなくてよい理由にはなりません。

都道府県医師会も異議

 後期高齢者医療制度に二七都道府県医師会が異議を申し立てています(五月五日現在)。中国四国医師会連合は五月、総会で後期高齢者診療料に反対する決議文を採択。
 後期高齢者診療料の担当医を届け出た医療機関も、全国で内科診療所の一四%という少なさです。五月二三日、民主・共産・社民・国民新党が中止・撤回を求める法案を参議院に提出しました。
 全日本民医連も後期高齢者診療料を届け出ず、「いままで通り高齢者が医療を受けられるように」と呼びかけています。
 「税金の無駄遣いを削る。大もうけしている大企業にも応分の負担を求める。そうすれば、消費税に頼らずに社会保障制度を立て直せます。その展望を民医連 は『医療・介護制度再生プラン』(案)として提案しています」と室田さん。「いまこそ医療従事者と国民が手をつなぎ、医療制度を動かすときです」と強調し ました。
 文・多田重正記者/写真・五味明憲

(注1)病院や診療所などがおこなう医療に対する医療保険からの支払い。
(注2)診療所が四キロ以内になければ病院も可。

年金天引き許せない!
不服審査請求1万人めざす

全日本民医連が呼びかけ

 「保険料の年金天引きは許せない」「こんな制度に加入した覚えはない」と、後期高齢者医療制度の年金天引きなどに抗議する高齢者らによる「行政不服審査 請求」運動が起きています。4月の石川を皮切りに、すでに北海道、大阪、京都、東京、福岡などが集団申請を実施、運動の輪が広がっています。
不服審査請求は行政不服審査法に基づいたもの。都道府県の後期高齢者医療審査会に対して、保険料などの決定通知を受け取った日から60日以内にできること になっています。市区町村役場を通じておこなうこともできます。
全日本民医連は全国で1万人の不服審査請求を提起。全日本民医連共同組織活動交流全国連絡会も、「差別された当事者と、すべての国民が立ち上がり声をあげる時」と訴えています。

いつでも元気 2008.7 No.201

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