副作用モニター情報〈629〉 モルヌピラビルの中枢神経症状
新型コロナウイルス感染症治療薬モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)は、広域スペクトルを有する直接作用型抗ウイルス薬で、2021年12月に特例承認されました。ハイリスクの軽症~中等症の患者を対象としています。SARS-CoV-2のスパイクたんぱく質上の変異の影響を受けない作用機序を有しており、コロナウイルスに対する有効性、耐性ウイルスの発現が起こりにくいことが示されています。
モルヌピラビルの主な副作用は、下痢、悪心嘔吐(おうと)、浮動性めまい、頭痛、発疹などです。
今回中枢神経症状の副作用が報告されましたので、2例紹介します。
症例1)70代後半男性
喉の痛みで受診、コロナ陽性。モルヌピラビル5日分処方。夕食後から服用開始。初日夜よりおかしな感じあり。2日目、隣人の名前もわからなくなるなど、意識障害の兆候が現れたため、薬の副作用と思い自己中断。中止後回復した。
症例2)80代女性(コロナワクチン6回接種済)
2日前から咳(せき)症状あり、発熱37.2℃で受診、コロナ陽性。モルヌピラビル5日分処方。1回目服用し、2時間後にひどい下痢(下痢は1回のみ)、その後幻覚(青いものが赤く見える)があり、立っていることができなくなって、3日間寝ていた。服用は1回のみ。
服用開始3日後回復。コロナワクチンでも同じ症状が出た。
コロナ感染症罹患(りかん)後45日後にコロナワクチン接種も、今回はこの幻視症状は出なかった。
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今回の記憶障害、見当識障害、幻覚、幻視は添付文書に記載がありませんが、市販直後調査220万例のうち、認知症2例(うち重篤1例)、認知障害1例(非重篤)、幻覚4例(いずれも重篤)、幻視2例(いずれも重篤)が報告されています。
コロナウイルスに感染すると、記憶喪失や脳梗塞など、脳への影響を生じることがあり、COVID-19で入院した患者の80%に神経学的症状が現れたという報告もあります。この2症例の神経症状がモルヌピラビルの副作用によるものか、コロナウイルス感染症罹患によるものか、判断は難しいものの、注意は必要です。
(全日本民医連医薬品評価作業委員会)
(民医連新聞 第1821号 2025年1月20日号)
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