民医連新聞

2024年9月3日

紙の介護保険証廃止撤回を 個人情報管理を現場に押しつけ

 厚労省は、紙の介護保険証を廃止し、マイナンバーカードに保険証機能を搭載した「マイナ保険証」による資格確認に一本化しようとしています。福祉・介護現場で発生が予想される問題について、21・老福連事務局長、井上ひろみさんの解説です。

■突然の廃止宣告

 今年の12月に迫る、新規健康保険証の発行廃止に、高齢者や介護家族から、不安の声があがっています。
 そのさなかの7月8日、政府はマイナ保険証への切り替えにより、紙の介護保険証廃止の方針を示しました。2026年度には全国的な実施をめざすとしています。福祉・介護の現場で予測される問題を考えます。

■権利侵害、犯罪被害も

 最大の問題は、介護や生活に支援が必要な人の権利侵害につながる危険があることです。
 マイナ保険証をめぐっては「認知症や要介護の人に、マイナカードや暗証番号の管理は困難」「施設でマイナ保険証と暗証番号は預かれない」との批判が高まり、昨年12月に顔認証のカードが発行されました。けれど、後にのべるようにマイナカードによる介護保険証については、暗証番号付きマイナカードが想定されていると思われます。暗証番号付きカードは、公金受取口座とのひもづけが可能で、医療情報や介護保険情報も知ることができます。高齢者の詐欺被害が後を絶たず、手口も巧妙化し、不正入手した個人情報を使った、高齢者の権利侵害や犯罪被害が拡大しないか心配です。

■現場を利用する厚労省

 福祉・介護事業所を、マイナカードへの切り替え支援に向かわせようという動きがあることも見過ごせません。厚労省は、ケアマネジャーや事業所が、利用者情報を電子的に共有する「介護情報基盤」の整備をすすめるとしています。その一環として、マイナポータルを活用するために必要なのが、マイナカードへの切り替えと、紙の介護保険証の廃止です。
 すでにマイナポータルから、要介護認定申請などの一部手続きができますが、その利用には暗証番号付きマイナカードが必要です。また、代理で申請するケアマネジャーなども、マイナカードの取得が必要です。少なくとも現時点では、介護保険証の切り替えは、暗証番号付きカードが、前提になっているといえるでしょう。「手続きや情報共有が便利になるから」と、福祉・介護事業所が、マイナカードへの切り替え支援を迫られるのではないか、との懸念が強まります。確かに、人手不足に苦しむ現場から「手続きやケアプラン共有が電子化できれば、郵送や役所への移動の手間が減る」という声はあります。けれど、現場の切実な願いを利用するやり方には、怒りを覚えます。

■家族と制度の板挟みに

 さらに問題なのは、施設や福祉・介護事業所に、マイナカードや暗証番号の管理が迫られることです。
 福祉施設向けマニュアルは、マイナカードの適切な管理を求め、家族による管理も可能としています。けれど、本人はもとより、家族も高齢や疾病などにより管理が難しい場合が少なくありません。「不安はあるが施設で預かってほしい」との希望は多いでしょう。施設や事業所は、個人情報管理の重大な責任と、家族の実情との狭間で頭を悩ませることになります。ましてや暗証番号付きカードであれば、なおのことです。
 マイナ保険証をめぐり問題となった、個人情報管理の重い責任と負担を、またも施設や事業所に押しつけるのでしょうか。

■利用者の権利を守れ

 介護保険証のマイナカードへの切り替えはあくまで任意とし、「紙の介護保険証廃止」は撤回すべきです。そして、拙速なデジタル化で置き去りにする人の支援を、福祉・介護事業所に押しつけず、介護や生活に支援が必要な人の権利とプライバシーを守ることを最優先にした、デジタル化をすすめるべきです。

(民医連新聞 第1813号 2024年9月2日号)

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