いつでも元気

2024年7月31日

まちのチカラ 八丈島 自然を紡ぐ糸と恐竜の森

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

太古の自然が残るヘゴの森をガイドする田代倫子さん

太古の自然が残るヘゴの森をガイドする田代倫子さん

 東京都心から南に約290㎞、伊豆諸島の南端に位置する八丈島(八丈町)。
 黄八丈や島寿司といった島文化と、太古の植物が生い茂る森が魅力です。
 ダイナミックな自然溢れる島を訪れました。

 かつて「鳥も通わぬ」とうたわれた八丈島。今では羽田空港からたった55分のフライトで降り立つことができます。
 まずは、八丈島空港から車で10分ほどの大坂トンネル展望台へ。島随一のフォトスポットです。大きく裾野を広げる八丈富士や、黒々とした玄武岩が広がる南原千畳岩海岸、海に浮かぶ八丈小島が一目で見渡せます。
 島は暖流・黒潮の影響を強く受ける海洋性気候。冬でも暖かくて雨が多く、風が強い気候が、島特有の自然景観や動植物、産業などを育みました。そして「流人の島」という歴史的側面も。
 1606年、関ヶ原の戦いで敗れて流罪となった宇喜多秀家から始まり、1871年まで265年間で約1900人が島に送られました。流人のなかには武士や僧侶、大工といった学問と技術を持っていた人も多く、島の生活や教育、文化に大きく影響したそうです。

自然が生み出す黄八丈

 島に伝わる伝統工芸黄八丈は、日本三大紬のひとつに数えられることも。一疋(二反分)の長さが八丈(80尺=約24m)に織られていたことがその名の由来で、島名の語源になったという説もあります。
 黄八丈の特徴は、島の風土から生まれた〝染め〟の技術。絹糸は島に自生する植物を用いて、黄、樺、黒の3色に染色されます。黄色は八丈刈安(コブナ草)、樺色はマダミ(タブの木)の樹皮、黒色は椎の木の樹皮と沼の泥で染め上げられます。
 現代では高機という手織機で織られる黄八丈ですが、昔ながらの地機が残る織元が島南部にあると聞き、1917年創業の黄八丈めゆ工房を訪ねました。
 地機とは、経糸を腰にくくりつけて張り具合を調整する手織機。日本各地で使われていましたが、明治以降、経糸を固定できる高機が登場して衰退しました。
 「誰も作れないものを作り続けることが生きのびる道です」と語るのは、代表の山下誉さん。今も地機を使って黄八丈を織り続けているのは、山下さんただ一人です。渋みのある自然由来の色合いと、上質な肌触りが魅力の黄八丈が、今日もリズミカルな音とともに生み出されていきます。

島民のソウルフード

 島を代表する郷土料理で、観光客にも地元の人にも愛される島寿司。今回は島中央に店を構えるすし処銀八に伺いました。近海で獲れる旬の海の幸を醤油ベースのタレに漬け、やや甘めのシャリと握り、ワサビではなくカラシを載せるのが島寿司の特徴。船で沖に出る際、保存ができるように魚を醤油漬けにして、島では採れないワサビの代わりにカラシを使ったのが発祥と言われています。
 この日はシマアジ、メダイ、ハチビキ、アカハタ、八丈島で一番高級魚とされるオナガダイ(ハマダイ)、島ならではの岩海苔が並びました。
 「魚の種類によって、それぞれの漬け具合を調整しています」と、店主の佐藤修さん。職人の確かな腕が、一段と島寿司をおいしくしています。さっそくいただいてみると、醤油漬けのネタと甘めのシャリがよく合います。意外な組み合わせのカラシもベストマッチでした。島寿司の文化は小笠原諸島や大東諸島など、遠く海を隔てた各地へと伝わっています。伝承の味をぜひご賞味ください。

ヘゴの森へ

 八丈島には2つの大きな山があります。伊豆諸島最高峰、標高854mの八丈富士と、太古の自然が息づく三原山です。三原山にあるヘゴの森は、約1000本近いヘゴが生える群生地。まるで恐竜の時代に迷い込んだかのような、うっそうとした森です。ヘゴの森にはガイドの同行がないと踏み入ることはできません。NPO法人「八丈島観光レクリエーション研究会」の認定ガイド、田代倫子さんに案内していただき、1周約2・2㎞、高低差約70mの遊歩道を散策しました。
 「自然の恩恵によって育まれたヘゴやシダ類、島民の暮らしや営みを支えてきた樹々を身近な存在として感じてほしい」と話す田代さん。葉の手触りを感じたり、ヘゴの裏側の胞子を確かめたりと記憶に残るトレッキングでした。
 厳かにそびえ立つヘゴの巨大な葉の隙間から差し込む光、あちこちから聞こえてくる野鳥のさえずりに、すっかり日常のことなど忘れてしまいました。

 他にも、大里の玉石垣や八丈植物公園など訪れたいスポットが満載の八丈島。12月から4月にかけては、ザトウクジラを陸上からも目撃でき、海上ツアーも行われます。トロピカルな大自然をぜひ体験してください。

■次回は特別編。9月に全日本民医連共同組織活動交流集会が開催される、岡山県の見どころ紹介です。

まちのデータ

人口
6,900人(6月1日現在)
おすすめの特産品
明日葉、くさや、八丈焼酎、黄八丈
アクセス
羽田空港から飛行機で55分
竹芝桟橋からフェリーで約10時間
問い合わせ先
八丈島観光協会 
04996-2-1377

熱帯から亜熱帯に分布する、樹木状になるシダ植物。大きなもので最大7~8mにも達する

いつでも元気 2024.8 No.393

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