民医連新聞

2024年7月2日

PFASからいのちを守る 環境汚染に立ち向かう

 がんなどの健康被害が指摘され、世界で規制が強まる有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))。このPFASによる環境汚染が日本各地で問題に。大阪を訪ねました。(多田重正記者

予想外の血中濃度に驚き

 「こんなに高い数値が出るとは思っていませんでした」と話すのは、大阪市東淀川区在住の堀智佐子さん(63)です。「大阪PFAS汚染と健康を考える会」(以下、会)の血液検査(昨年9~12月)を受け、PFOS、PFOAなど4つのPFASの合計で、35・5ng/mLとの結果。米国科学アカデミー(アメリカの学術機関)が「特別の健康精査を要する」とする20ng/mLを大きく超えました。内訳を見せてもらうと、PFOAが19・7ng/mLと突出していました。
 堀さんが同区に住みはじめたのは37歳のとき。それまでは同区に市外から通勤。「それなのに、私より長く住んでいる人たちより数値が高くて、びっくりしました」。
 会の血液検査は、府下49会場で1193人が受けました。5月末までに結果が出た人のうち、16年以上の在住者(大阪府内)566人分の統計では、4つのPFASの合計で20ng/mL以上が33・6%。6つのPFASの合計で20ng/mL超が43・5%におよびました。

大気からもPFASが

 PFASは人工的につくられた化学物質で、水や油をはじき、熱に強いことから、フライパン、撥水(はっすい)スプレー、半導体の製造、ハンバーガーなどの包装紙、化粧品、泡消火剤など、日常生活のさまざまな用途に使われています。自然に分解されず、体内に入ると排出されにくいため、半減期は5年以上と言われています。
 大阪におけるPFASの主な汚染源は、ダイキン工業淀川製作所(大阪府摂津市)と見られています。京都大学名誉教授の小泉昭夫さん(現・京都保健会 社会健康医学福祉研究所所長)、京都大学大学院医学研究科准教授の原田浩二さんらが、2002年から調査を開始。同製作所が汚染源で、周囲の河川や地下水だけでなく、大気にもPFASが排出され、住民が吸い込んでいると突き止めました。
 「大気からもPFASが体内に入るという説明で数値が高い理由が思いあたった」と堀さん。同製作所は東淀川区と隣接。学童保育の指導員をしていた堀さんは「子どもたちと毎日外に出て、夏休みには淀川へ行き、ザリガニをとったりしていた。外に出ている時間が長かった」とふり返ります。
 同製作所のそばの集合住宅に住むAさんも会の検査を受け、「4つのPFASの合計で30ng/mLを超えた」と言います。摂津市内の会社員でしたが、同製作所や関連企業ではなく、地元の農作物も食べてきませんでした。それでも血中濃度が高かった理由を「ダイキンからの風かな。風が来たら、もろやから」と。近所に、かつて同製作所内で働き、「さわっていた粉がPFASでは」と話す人がいることも教えてくれました。

健康の影響を認めないダイキンだが

 同製作所は、PFOAを1960年代から2012年まで製造。PFOAを含む廃水を、1999年まで神崎川へ流し、それ以降も公共下水に排出しています。
 PFOAの製造中止から10年以上過ぎた今も、周辺地域の地下水で異常な高濃度汚染が。府の調査でも昨年、同製作所近くの井戸水から2万6000ng/LのPFOAが検出。日本は2020年、PFOA、PFOSの合計で水質の暫定目標値を50ng/L以下と決めましたが、その520倍です。しかし同製作所は一貫して「敷地外の除染はしない」「健康には影響しない」との態度です。
 一方、ダイキン工業は、アメリカでは異なる対応をしています。ダイキン工業・アメリカは、PFOAによるテネシー川の汚染と住民への曝露(ばくろ)の責任を追及されて訴えられ、2018年に原告と和解。汚染除去費用を含む和解金400万ドル(約4・4億円)を支払っています。
 アメリカでは2000年に環境保護庁(EPA)がPFOAの危険性を警告しました。2002年に3M社が人体への危険性を理由にPFOAの製造を中止。2006年、EPAがダイキンを含む世界の8大メーカーにPFOAの全廃を要求しました。「つまりダイキンは、2000年代にはPFOAが健康に与える影響を知っていた」と会の事務局長、長瀬文雄さん(淀川勤労者厚生協会)は指摘します。
 同国では、デュポン社もPFOAによる環境汚染と健康被害で訴えられました。裁判を通じて行われた7万人の大規模な疫学調査で、精巣がん、腎細胞がんや妊娠高血圧症、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、高コレステロールなどの重大な健康被害があると公表されました(2012年)。

世界に遅れを取る日本の対策

 国や自治体の責任も重大です。2009年、アメリカでは水道水に含まれるPFOAとPFOSの規制を開始。世界では現在、ストックホルム条約で、PFOS、PFOA、PFHxSの3種類が禁止すべき物質に追加されています。
 2009年から府、市、ダイキン工業は、秘密裏に対策会議を開催しています。その議事録から2022年8月、廃水中のPFOAの放出濃度を暫定目標値の10倍までにするように、府がダイキン工業に要請したこともわかっています。しかも日本には水質の暫定目標値だけで罰則がないため、ダイキン工業は工場廃水中のPFOAの数値も、敷地内の汚染状況も隠ぺいしたままです。
 2023年11月、WHO(世界保健機関)は、PFOAを「発がんの可能性がある」から「発がん性がある」に分類を引き上げました。アメリカでは今年4月、飲料水の基準値をPFOA、PFOSともに4ng/Lにして、規制を強化しています。「このような世界の流れから見れば、日本の対策は3周も4周も遅れている」と長瀬さん。

さまざまな地域と連携し被害を防ぐとりくみを

 大阪以外にも東京、静岡、愛知、三重、岐阜、京都、兵庫、岡山、広島、沖縄などでPFASによる環境汚染が明らかに。汚染源と見られるのは米軍基地や自衛隊基地の泡消火剤由来のPFOS、化学工場、金属加工などに使われるPFOAとさまざま。産業廃棄物が原因と見られる汚染もあります。
 全日本民医連は6月、PFAS問題委員会を発足させました。委員長の大島民旗さん(全日本民医連副会長、医師)は、「ここは安全だという地域はない。少なくともPFASによる汚染の可能性が高い地域では国、自治体による公費の血液検査が必要」と言います。
 大阪の会代表でもある大島さん。大阪ではコープこぶし通り診療所や、大島さんが所長の相川診療所など11カ所でPFAS外来を開始。会の検査で血中濃度が20ng/mL以上(4つのPFASの合計)だった人が主な対象です。
 いまのところ大きな健康被害は確認されていませんが、PFASは長期間体内に残り、特有の症状もないため、「患者さんを経年的に観察し、フォローすることが大事」と大島さん。「血液検査も1回だけでなく、経年的に実施できれば、どのような対策がPFASの血中濃度低下に有効か、検証する手がかりにもなる」と指摘します。
 昨年公表された「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」(東京)の血液検査の結果、自宅の水道に浄水器をつけた人の方がつけていない人よりPFASの血中濃度が低く、水道水からの曝露を抑える効果が確認されました。
 大気汚染、水俣病など公害の教訓から、被害を未然に防ぐことを目的に誕生した日本の環境省ですが、PFASの健康被害については「確定的な知見はない」と後ろ向き。欧州連合が1万種類以上とも言われるPFASの全廃をめざしているのとは対照的です。
 「さまざまな地域と連携し、健康被害を防いでいきたい」と大島さん。「汚染の実態を解明するとりくみとともに、血中濃度が高い人を診療する医師を増やすために、外来マニュアルの整備や共有もすすめたい」と話しました。

PFAS分析装置 導入募金に協力を

 PFASの検査機関が少ないため、東京・病体生理研究所は、PFASの血中濃度分析装置を導入し、4月末から検体の受付を開始。装置導入のための募金を訴えています(第ア-36号、3月29日)。

(民医連新聞 第1809号 2024年7月1日号)

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