民医連新聞

2024年7月2日

診察室から 診察室から出てもいい

 向いてない。医師になってからずっと、私には医師が向いてない。医師としてできなければいけないことと、私ができることに乖離(かいり)が大きすぎるんです。それでも必死にもがいて、8年目になってしまいました。向いてないなりにがんばってきたと思います。何度も泣きました。お休みをもらったりもしました。後期研修を終え、小児科専門医も取得でき、最近やっと少し精神的余裕が出てきました。それでも毎日「向いてないなぁ」と思う日々です。
 医業は不得意ですが、得意なこともあります。「表現すること」です。業務終了後に病棟に出向いて懐メロを弾き語りでお届けしたり、医療安全の啓発のためにお芝居や漫才をつくってやったりします。病院の外でも、得意を生かして活動しています。憲法前文を歌にして憲法集会で歌ったり、反核医師の会の若手医療者のグループである「ABC for Peace(いっぽプロジェクト)」のテーマソングをつくったりしています。なんだか「診察室から」ではなく「診察室の外から」というタイトルの方が適していると思われるような内容で大変申し訳ありません。
 診察室に戻りましょう。先日、初めて私の外来を受診した親子がいました。1歳の子どもは風邪の症状が長引いている様子でした。保護者の不安に寄り添い、でも徐々によくなるだろうから心配しなくてよいこと、一方でどうなったらまた受診すべきかなどの説明をしました。薬も出しませんでしたが、終わり際に保護者が「こんなにていねいに診てもらえたのは初めてです。感動しました」と涙を流してくれたのです。「今までどれだけハズレを引いてしまったのだろうか…」と思いつつ、「向いてないなりにやってきてよかったな」と思えた出来事でした。
 毎日のお仕事、お疲れさまです。「向いてないな」と思うこと、みなさんもありませんか。疲れたら、その場所から出てもいい。そうやってこれからもなんとかやっていけたらと思います。(若松宏実、山梨・甲府共立病院

(民医連新聞 第1809号 2024年7月1日号)

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