民医連新聞

2024年6月4日

薬局でも無低診を! 地域・多職種の協同で要求実現 岩手民医連

 全国の民医連事業所が行っている無料低額診療事業(以下、無低診※)。しかし、無低診は保険薬局が対象外という矛盾があります。岩手民医連では、地域との共同のとりくみで無低診の調剤処方費助成事業を実現しました。(稲原真一記者)

始まりは青年から

 きっかけは、岩手民医連の5年目までの事務職員でつくる「青年事務の会」が、2022年に行った無低診の学習会でした。保険薬局が対象外ということや青森などでの成功例を知ったメンバーから、岩手でも助成制度を実現したいという声があがりました。事務幹部と相談して青森民医連から講師を招き、同年12月には職員向けの学習会を開催。県連事務局で青年事務の会の高橋智子さんは「先輩からの助言や地協の協力が大きかった」とふり返ります。
 県内で高橋さんたちが働きかけたのが、以前、福祉灯油の制度を実現した経験のある岩手町。その時の経験を生かせないかと、23年3月、同町にあるさわやかクリニックと盛岡医療生協の北岩手支部との懇談・学習を行いました。

多くの人と思い共有

 懇談に参加した北岩手支部支部長の田村登志子さんは、「学習で無低診が薬局で使えないことを知り、利用者のためにも実現したいと賛同した」と言います。さわやかクリニック事務長の高橋賢治さんは「薬代を理由に無低診の利用を諦めた人が続いていて、制度の必要性を感じていた」と、すぐにとりくみに踏み出しました。
 同クリニックに隣接するオーロラ薬局沼宮内店では、青年事務の会の小泉恵子さんが、無低診の学習会の内容を報告。薬局長の戸来(へらい)菜摘さん(薬剤師)は「生計困難者の薬代は薬局としても課題だった。報告を聞き、地域のためにも薬代助成を実現したいと思った」と、とりくみに協力することを決めました。
 その後、地元議員の協力も得て23年5月には町役場との懇談が実現。懇談に向けては、青森の資料を参考に対応を協議し、当日は田村さんや高橋賢治さんが、地域での困難事例や現場の実態から制度の必要性を訴えました。役場からは町民課、長寿介護課、健康福祉課など10人の職員が参加。他県の制度の詳細や予算規模などについて、町側から質問や提案がありました。
 懇談後は町から出された内容を持ち帰り、実際の糖尿病患者の薬代負担の大きさや健康への影響がわかる資料を、戸来さんが作成するなど要請準備。町長要請は同年7月に行い、盛岡医療生協の専務や同法人の川久保病院の医療相談員なども参加して、町長からも前向きな発言がありました。

思いが形になる

 昨年秋にはさっそく実施が検討され、今年3月18日に町議会で議決。同月27日には覚書調印式と記者会見を行い、新聞3社と岩手町広報、NHKでも報道されました。
 岩手町の調剤処方費助成事業は、無低診を利用している町民が登録した薬局を利用した場合、一部負担金を町が補填(てん)するもの。オーロラ薬局沼宮内店では4月から開始し、それまで処方を断っていた患者一人が利用を開始しました。しかし、町民でも町外で無低診を利用していた場合は対象外。小泉さんは「薬局に無低診の案内を掲示できるのがうれしい。次は盛岡市や県全体、そして全国でも使える制度の実現をめざしたい」と力を込めます。高橋智子さんは「青年のあげた声に、地域や事業所のたくさんの人が応えてくれて実現した。多職種協働、民医連運動の意味を実感し、自分の自信にもなった」と話します。
 北岩手支部副支部長の志田良子さんは「さわやかクリニックには地域の要求に応え、最後の砦(とりで)であってほしい」と期待を寄せます。同クリニックの所長で県連会長の浮田昭彦さん(医師)は「前身の工藤医院から続く医療活動への地域の信頼が力になった。町からも相談が増えていて、新制度が経済的問題への武器になると感じる」と指摘します。一方で「医療だけで解決しない社会的困難を、地域でどうサポートするかが課題」と今後を見据えます。


※収入が少ない人の医療費の一部負担金を、事業所が無料または低額にすることができる制度。詳細はQRコード。

 

(民医連新聞 第1807号 2024年6月3日号)

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