民医連新聞

2003年1月21日

国保問題の元凶は 国庫補助金の削減

中央社会保障推進協議会 相野谷安孝事務局次長に聞く

 1987年に国保の資格証明書の発行がはじまり、87~88年にかけて、京都や金沢などで、保険証がなく医療機 関にかかれず手遅れとなった死亡事件があい次ぎました。現在でも、こうした悲しい事件が繰り返され、不況の深刻化の中で、さらに目立ちはじめました。資格 証明書の発行は22万世帯にものぼります。昨年10月からの高齢者の医療費負担増、今年春からの介護保険での負担増など、高齢者の受診抑制による手遅れと いった事態も心配されます。
 国保をめぐる問題の焦点は、高すぎる保険料(税)のため国保加入世帯の約20%もの滞納世帯を生みだし、日本の誇るべき皆保険制度が、空洞化し崩壊する という危機に陥っていること。そして、国民の命や健康を守るための制度が、滞納世帯への罰則と収納対策の強化で、広範に人権侵害を引き起こしていることで す。国保制度への信頼も失われ、皆保険制度の空洞化や崩壊がすすんでいます。

政府の施策による「健康破壊の悪循環」

 国保問題をここまで深刻にした背景に、80年代以降の政府の施策による「健康破壊の悪循環」があります。
 悪循環の中心環は、高い保険料(税)の高騰が滞納者を増加させ、資格証明書交付などの制裁措置が新たな滞納者の増加と保険料(税)の再値上げにつながっていくというサイクルです。
 この悪循環の大もとを生み出したのが、政府による国庫負担の削減に他なりません。近年の不況の深刻化は、この循環をさらに加速させ、自治体による「制裁措置」も強まっています。
 高すぎる国保料(税)の抜本改善のためには、政府の国庫負担割合を、当面45%に戻し、都道府県には補助金の増額、市町村には一般財源から国保財政への繰り入れをさせる必要があります。
 私たちは、国保の問題で身近な「医療を受ける権利」の侵害を受け「生活困難に陥っている」人たちとの対策を講じ、全国各地での運動やたたかいを広げる必要があります。
 そのためには、過酷な保険料(税)の実態、自治体による罰則や収納対策の実態を具体的に把握する必要があります。

過酷な国保料負担と 強まる罰則

 民医連をはじめ中央社保協で国保実態調査にとりくんだ北九州市、福岡市では、年間所得300万円から400万円ぐらいの人で、生命保険を解約したり、サ ラ金やカードローンで保険料を払っている人が少なくないという実態も明らかになっています。
 大阪市では、三300万円の年収に対して41万円(収入比13%超)、神奈川では、500万円の収入に対し53万円の保険料という報告もあります。これ は、国保加入者の約半分が、不況や高齢化による無職者や年金生活世帯であること、かつ保険料(税)を軽減されている世帯が35%と、3分の1を占めている ため、4割弱の中間所得世帯が保険料全体の七割前後を負担する構造になっているからです。これが、中間所得世帯の保険料を過酷なものにしています。
 低所得者の負担も過酷です。所得に関係なく「人頭割」の保険料(税)が賦課され、生活保護基準の収入でも、年間15万円近くの保険料負担を強いている自治体が少なくありません。
 国保では、被保険者が医療を受けることは権利(国保法第2条、第36条)として保障されています。これを奪うのが、保険証の取りあげです。しかし、病院通院中の人や赤ちゃんからも取りあげている現実があります。
 収納対策の強化も目立ちます。東京・葛飾区では、区報で「差し押さえなどの滞納処分や支払い督促の申し立てなどの民事手続きを強化」するとしています。 大阪市城東、鶴見の両区役所では、役所前の掲示板に、督促滞納者の氏名、住所、保険者番号を掲示しました。「滞納対策」と称する人権侵害が新たな広がりを 見せています。

  *  *  * 

 国保を守り改善させるたたかいは、人権を守りその制度的保障を根付かせ広げるたたかいです。憲法を守り、自治体に生かすたたかいでもあります。介護保険の見直しにむけてのとりくみと結合しながら、地域を基礎に連帯し、全国的なたたかいを広げましょう。

(民医連新聞 第1298号 2003年1月21日)

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