いつでも元気

2024年5月31日

スラヴ放浪記 飲めや踊れやの大騒ぎ ポーランドの結婚式

文・写真 丸山美和(ルポライター、クラクフ市在住。ポーランド国立ヤギェロン大学講師)

司祭の言葉を聞くスタシェクとサンドラ

 スラヴ諸国の結婚式を一言でいえば、新郎新婦も参列者も力尽きるまで祝い倒す|。筆者の友人でポーランドのスタシェクとサンドラが結婚することになり、式に招待してくれた。
 よく晴れた日曜の昼下がり、式が行われる教会へ。木造のカトリック教会は、1657年建造でかなり歴史が古い。内部は美しい装飾が施され清澄な空気が流れていた。参列客が礼拝堂に入り着席するころ、バッハのアリアが生演奏で聞こえてきた。
 礼服に身を包んだスタシェクが祭壇の前に立ち、花嫁を待つ。顔が少し紅潮し、緊張している様子だ。父と腕を組んだサンドラが、こちらに向かって歩いてきた。真っ白なウエディングドレス姿が陽光に包まれて光り輝き、神々しい。
 新郎新婦が揃うと司祭が現れ、式が始まった。流れはほぼ日本と同じだが堅苦しくなく、司祭の話がおもしろいので、参列者から笑いが起こった。
 次に向かったのは、教会から20㎞ほど離れた宴会場。そこで新郎新婦の到着を待ちしばらくするとオープンカーに乗った2人が現れた。テーブルに着いて食事が始まったのが午後4時ごろ。ここまでは、ごく普通だった。
 突然、ディスコ音楽の生演奏が始まった。招待客が次々と席を立ち、中央の広いホールへ向かう。そこで筆者が目にしたのは、踊り狂う老若男女の姿だった。
 ホールの中央で、白髪の女性が華麗に踊る。目鼻立ちがスタシェクに似ているので祖母かなと思って見ていると、そこへ屈強な若者が寄ってきて担ぎ、胴上げを始めた。日本人なら卒倒するのではないか。
 席に戻ると再び料理が運ばれてくる。さっき平らげたばかりだ。参列者はフォークとナイフを盛んに動かし、ショットグラスに注がれたウオツカを一気飲みする。すると誰からともなくポーランドとウクライナ共通の民謡「ああハヤブサよ」が始まり、参列者全員の大合唱となった。
 エレガントなロングドレスを着た美しい女性が、いすの上に立ち上がって熱唱。すると花嫁のサンドラも寄ってきて、握りこぶしを振りかざして声を張り上げるではないか。
 ホールで生演奏が再開し、踊っているとまたしても料理が運ばれてきた。食べて飲み、踊り、歌う。スタシェクは普段、ほとんど飲まないのだが、宴会場を走り回り懸命にショットグラスを空けている。
 時計を見ると夜の11時過ぎ。アナウンスで「外へ出てください」と促された。そろそろお開きかと思いきや、ウエディングケーキが置かれている。花火を手にした参列者が取り囲み、新郎新婦によるケーキカット。再び大合唱が始まった。

 宴会場に戻ると日付が変わろうとしているが、誰も帰ろうとしない。料理はどんどん運ばれ、ウオツカの瓶が次々に空いていく。そして再び歌い踊る。スラヴ人にとってウオツカと音楽は、宴のガソリンなのだろう。
 踊って、飲んで、食べて、大合唱の繰り返しは朝5時まで続いた。夜が白んできたころ、もう一度全員で外へ出た。ネクタイを外したスタシェクがサンドラをひょいと担ぎあげ、サンドラが髪を乱して暴れている。それを見て参列者が歓声をあげる。
 朝を告げるヒバリの鳴き声が響き、ようやくお開きとなった。月曜だが、参列者の多くは休暇をとっている。さらに驚くべきことに、この日の午後にもう一度、飲み直しの宴を開くのが慣例なのである。
 新郎新婦も参列者も完全燃焼する結婚式。全力でもてなす新郎新婦と全力で祝う親戚や友人。双方の温かい心と喜びでいっぱいの祝祭だった。

いつでも元気 2024.6 No.391

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