医療×やさしい日本語 言葉の壁を越え 誰もがかかりやすい医療機関に
日本でも年々増え続けている海外ルーツの人たち。そうした人とのコミュニケーションで注目されているのが「やさしい日本語」(※)です。医療の現場で、この「やさしい日本語」の実装をめざし、東京・八王子共立診療所が研修を行いました。(稲原真一記者)
8割通じる「やさしい日本語」
日本に暮らす外国人は年々増加し、2023年末には340万人。医療や介護の現場で出会う機会も増えていますが、課題となるのが言葉の壁です。そこで順天堂大学大学院教授の武田裕子さん(医師)を中心にひろげているのが、医療×「やさしい日本語」の研修プログラムです。
3月22日、八王子共立診療所が行った研修には、診療所の職員など8人が参加。武田さんを講師に迎え、地元の八王子国際協会の紹介で中国とフィリピン出身の2人が模擬患者として参加しました。
最初は武田さんの簡単な講義です。実は、英語は日本で暮らす外国人の4割にしか通じないのに比べ、8割を超える人が日常会話以上の日本語を使えることを紹介。言葉の壁が災害時などにはいのちの問題であること、あわせて活用すると便利な無料の多言語翻訳アプリや具体的な10のコツ(表)を解説し、いよいよ実践です。
自然と生まれる異文化交流
まず参加者とスタッフで2つの班をつくり、「体調はいかがですか?」「常用しているお薬はありますか?」などの短文を「やさしい日本語」にする練習に挑戦。続いて実際の診療現場を想定した2つのシナリオで、病状説明や処方薬の説明を実践しました。
参加者は、普段使っている言葉が実は通じないことに驚いたり、必死に身振り手振りを交えたり。模擬患者からのフィードバックやスタッフからのアドバイスを受け、実際の包帯や薬剤、スマホの画像検索も利用するなど、悪戦苦闘しながら挑戦します。
やりとりをするなかで、「長い名前のどこが姓で名なのかわからず、どう呼んだらよいのか」などの素朴な疑問から、国ごとの文化の違いまで話が膨らみ、自然と交流が生まれます。また途中で模擬患者が入れ替わると、求められる対応も変化。出身が漢字圏であれば筆談、英語圏なら難しい言葉は英単語に直すなど、相手に合わせて有効なコミュニケーションがあることを実感します。
相互理解が地域をつなぐ
研修を終えた参加者からは「日本語の難しさを実感した」「言葉以外にも選択肢を持つことも必要」などの感想が出ました。武田さんは「難しく感じても場数を踏めば慣れていくので、たくさんのコミュニケーションをとってほしい」と呼びかける一方、「出身地や在留期間でも対応が変わるので、相手に合わせた対応を考えることが一番大切」と指摘します。
参加した模擬患者からは「外国人のためにここまでしてくれて、涙が出るほどうれしい」「自分の国でもここまでやってくれる医療機関はない。本当に感謝」など、率直な思いが共有されました。
研修を企画した事務長の堺田耕さんは「多様性の時代に医療現場もさまざまな学びが必要だと思っていたところ、こうした機会が得られて本当に良かった」と言います。「模擬患者さんからの言葉に研修の意義を強く感じた。想像以上の大きな学びがあり、他の地域にもぜひ勧めたい」と研修に手ごたえを感じています。
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異国で不安を抱える患者にとって、言葉の壁は本当に大きな障害となります。武田さんは「医療従事者のちょっとした工夫でその不安が軽減できる。さらに研修を開催すること自体が、当事者だけでなく医療従事者にとっての安心にもなり、研修に参加した地域の支援団体などとも困った時に助け合える関係が生まれる」と強調します。「『やさしい日本語』は高齢者や障害のある人にもとても伝わりやすい。無差別・平等を掲げる民医連だからこそ、ぜひ積極的に学び活用してほしい」と期待を寄せます。
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(民医連新聞 第1805号 2024年5月6日号)