いつでも元気

2008年1月1日

「平和は戦争に勝る力」実証しよう アフガニスタンから 和平交渉の機運を下支えしてこそ

谷山博史
日本国際ボランティアセンター代表理事

genki195_06_01

日本国際ボランティアセンター(JVC)が運営する
ゴレーク村診療所で診察するナシーム医師

 一〇月の末、アフガニスタンの首都カブールで、軍と民間の援助関係者とが協議する「民軍ワーキンググループ」の会議が開かれた。JVCからは現地代表の 藤井が参加し、ISAF(アフガニスタン治安支援部隊)の中のPRT(地域復興チーム)による「復興支援活動」が、現場で混乱を引き起こしていると指摘し た。NGO(非政府組織)など民間の復興支援活動が軍の活動と混同され、反政府グループから襲撃される危険が高まっているのである。
 ISAFも、この指摘を認めている。
実際、これまでやりたい放題だった外国軍が復興支援活動をおこなうことは、NGOには非常に迷惑だ。NGOは、地元住民との間に信頼関係を築くことによっ て、復興支援活動をしてきた。軍との関係を疑われると、すべて水の泡だ。
 いまアフガニスタンでは反政府勢力の武力闘争は激しさを増し、襲撃事件や「対テロ」掃討作戦による犠牲者は、毎年倍増している。米軍などによる急襲や空 爆による民間人の犠牲者も後を絶たない。人々の外国軍に対する反発は、日本で想像するよりもずっと深刻なのだ。

「誤爆は日常茶飯事」と米軍

 JVCは二〇〇一年以来、アフガニスタンの東部地域で医療支援活動をおこなってきた。現在は人口約二万五〇〇〇人ほどを対象に、村の診療所の運営と地域 の保健員の養成を通して地域保健活動に力を入れている。私たちは現場での活動を通して外国軍の活動とそれに対する人々の反応を身近で見聞きしてきた。
 二年ほど前、私は米軍に関係する二つの事件に遭遇した。
 一つはアフガン人スタッフの母親が米軍に撃たれて重傷を負った事件である。米軍は彼女の乗ったタクシーに「テロリスト」が乗っていると間違えたようだ。
 もうひとつは、JVCが運営する村の診療所が、突然米軍に占拠された事件である。米軍は診療所のスタッフを追い出し、診療もせずに村人たちに薬を配っ た。その上、夜になると診療所の敷地から射撃訓練をおこなったのだ。
 私たちはほかの国際NGOと共同でこの二つの行為に対し、米軍に厳重に抗議した。米軍は、診療所を占拠するような行為は繰り返さないと約束したが、軍事 作戦と復興支援の境界のあいまいな活動はその後もあとを絶たない。
 スタッフの母親の狙撃に関しては“日常茶飯事だ”とまったく相手にしなかった。母親を撃たれたスタッフの家族は、米軍に強い憎しみを抱くようになった。

タリバンと交渉の試みも

 いま日本の国会では「新テロ特措法」が審議されている。しかし議論は給油支援を継続するか、ISAF支援のために自衛隊を本土に派遣するかに集中し、自衛隊の派遣が先にありきの感を免れない。
日本の援助は、軍隊を本土に派遣していないからこそアフガニスタンの人々の高い評価を得ている。日本の給油については、幸い、ほとんど知られていない。
 また「対テロ」掃討作戦がアフガニスタン人の反発を招き、そのことがタリバンを支持する土壌を作っていることを、アフガン政治指導者も気がつき始めた。 タリバンとの交渉によって和平を達成しようという試みも始まっている。
 日本の平和貢献は自衛隊を派遣することではない。民間による復興支援を強化し、和平交渉の機運を国際的に下支えするためにイニシアティブを発揮することにあるのではないだろうか。

民衆の飢えを放置せず

中村哲さん(ペシャワール会)

genki195_06_02

ダラエヌールの用水路で

 二〇年以上前からアフガニスタンで医療活動を続け、二〇〇〇年からは「農村の復興こそ、アフガン再建の基礎」と一五〇〇本以上の井戸 を掘り、潅漑事業をしてきた中村哲医師(ペシャワール会代表)。パキスタンとアフガニスタンの政情緊迫化でパキスタンにあった基地病院は撤退を迫られ、ア フガニスタンにある診療所でしか医療ができなくなりました。
 「武力介入は、良き何物も、もたらさなかった」という中村医師は、自らの決意をこう述べています。
 「よく“日本だけが何もしないで良いのか。国際的な孤児になる”ということを耳にします。だが、今熟考すべきは、“先ず、何をしたらいけないか”です」
 「民衆の半分が飢えている状態を放置して、“国際協調”も“対テロ戦争”も、うつろに響きます。よく語られる“国際社会”には、少なくともアフガン民衆 が含まれていないことを知りました。しかし、このような中でこそ、私たちは最後の一瞬まで事業完遂を目指し、平和が戦争に勝る力であることを実証したいと 思います」(ペシャワール会報93号から)

アメリカから

憲法という武器を手に立ち上がる市民たち

堤 未果 ジャーナリスト

genki195_06_03

デモをするイラクからの帰還兵。主要メディアや当局から
かなり嫌がらせをされながらも声を上げることをやめない。
文中のバティスト少将の除隊でさらに「帰還兵反戦の会」
は勇気を得て盛り上がっている

 いったい人は一生のうちに、何度大きな決断を下すのだろう?
 ブルックリンに住むある母親にとってそれは、イラクに行った息子が棺桶に入って帰宅したときだった。「大義を情報操作されたこの戦争は違憲だ」彼女は翌 朝ライトバンに食料と水をつみ、大統領宅の裏庭で座りこむ同じ立場の母親たちに加わるために、テキサス州キャンプケイシーに向かってアクセルを踏んだ。
 デトロイトに住むある小学校教師にとってそれは、イラク進攻以来この戦争に費やされた六一一五億ドル(約六七兆円強)という税金が、大統領が拒否権を行 使した貧困児童向け医療保険予算の一七倍だと知ったときだった。彼女はその月から納税拒否による抗議を始め、毎月送られてくる納税請求書に『四〇%が無駄 な軍事予算に使われているような税金には賛成できません』という丁寧なメモを添えて国税局に返送し始めた。

 中将への昇進を目前にしたある陸軍少将にとってそれは、外交・政治・経済的手段を無視し、兵士たちに出口のない任務を押しつけ、毎日無数の命を奪い続けるイラク戦争に対する疑問の声だった。
 「耳をふさぎ続けることは不可能でした。何故ならその声は、軍人として生きてきた自分がこの職に就いたときにたてた誓いを揺るがすものだったからです」
 彼はその夜、三一年間で最も辛い決断をした。この戦争は間違っていると声をあげるために勲章だらけの軍服を脱ぎ、上司に除隊願いを提出したのだ。
 「後悔はありませんでした」と彼はいう。「鏡の中の自分に向かって敬礼し、三一年前の誓いを再び立てたのです」
 「その誓いとは?」
 「自分が人生で忠誠を尽くすのは、大統領でもアメリカという国家でもない、この国の憲法だという誓いです」

 一つの国家や政府の利害ではなく、人間が人間らしく生きるという理念を書き記した憲法。それは私たち市民にとって、現状を見極める物差しとなり、民主主義を成熟させるための強力な武器になる。
 そのことに気がついたとき、私たちの中にある最大の敵、「あきらめ」や、「社会は変わらないかもしれない」という不安は消えてゆくだろう。
 海の向こうのアメリカから、日本で声をあげる人々に、「決してあきらめないでほしい」と声が届けられる。憲法という武器を手に取り、真実をすくい上げ、種をまき続けるのだ。未来を選び取る自由を決して手放さないために。

イラクから

子どもたちの夢がかなうよう何よりも平和を

佐藤真紀
日本イラク医療支援ネットワーク事務局長

 一一月半ば、私たちは、マレーシアのホテルでイラク人医師団と打ち合わせをおこなった。イラクの医師団は夜中に到着し、みんなくたくただった。
 会議が始まり、イラク人医師からの報告中に、一人が倒れた。救急車で病院に連れて行く。イタリアでテレメディソン(衛星を使った症例検討)の技術研修を 受けるなど飛び回っていたので、疲れがたまっていたのだろう。周囲は休むよう勧めたそうだが、日本の医師からアドバイスを受けることができるから行きたい と、本人が押し切ったそうだ。
 会議室に残った医師たちは、時間がもったいないと、会議を再開する。
 バグダッドからきた医師は、スペイン政府が病院を修復してくれたと写真を見せた。しかし治安が悪化するなか何人かの同僚が殺され、脅迫状がきて逃げてしまった人もいて、彼は最後に一人残された医師となった。十分な治療ができないと嘆くが、それでも彼は、逃げない。

  スラからきたイブラヒムは、僕らJIM-NETの現地スタッフだ。病院内学級の先生をやっているだけでなく、貧しい患者を訪問して、交通費を与え病院に来るよう働きかけている。
 彼がビデオを回した。サブリーンという女の子が写っている。彼女は三年前に、がんの手術で右目を摘出した。家が貧しくて病院にもちゃんとこなかったが、 院内学級で、すばらしい絵を描いてくれた。日本の支援者も皆、サブリーンの絵が大好きになり応援するようになった。
 応援されるとうれしいから、サブリーンは逃げないで、病院にやってくるようになった。将来は、イブラヒムのように先生になりたいといっている。そんな子どもたちがたくさんいる。

 彼らを支える医師たちも、命の危険にさらされながら踏ん張っている。彼らに薬を届けている僕たちも、気がつけば、この支援をはじめてもう五年目になる。まったくでたらめの理由で始まったイラク攻撃が泥沼化し、こんなにも長く深くイラクの人々を傷つけ続けているのだ。
 会議をするたびに運命共同体だなと思ってしまう。やっぱり逃げられない。


日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET) 小児がんへの医療支援をしている。毎年、子どもたちの絵をメッセージカードにしたバレンタインチョコを作り、現状を知らせて募金活動をしている。問い合わせは042-496-7739(1月から)またはhttp://www.jim-net.net/

いつでも元気 2008.1 No.195

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ