【声明2024.03.11】拙速な離婚後の共同親権導入ではなく、子どもの権利を中心とした親権の確立を求める
2024年3月11日
全日本民主医療機関連合会会長 増田 剛
全日本民医連人権と倫理センターセンター長 加賀美 理帆
2024年1月30日、法務省法制審議会家族法部会が離婚後の子どもの養育に関する制度を大幅に見直す要綱案を取りまとめた。3月8日に閣議決定されたことをうけ、第213回通常国会に「民法等の一部を改正する法律案」として提出された。
法務省の説明では、法案は父母どちらかの単独親権のみと定めた現行民法を改め、離婚後も父母双方に親権を認める共同親権か単独親権かを決めるとあるが、合意できない場合は家庭裁判所が判断する仕組みになっている。この法改正に対しては、家庭裁判所の体制が伴っておらず適切な対応がされないのではないか、虐待・DVが見逃されるのではないかなど、当事者及び被害者の不安に答えていないとの指摘がされている。
この法案により最も影響を受けるのは子どもである。しかし、部会において、当事者である子どもの権利が議論されず、要綱案には「その子の人格を尊重する」とはあるが、「その子の権利」については言及されていない。2019年2月に出された国連子どもの権利委員会による日本への勧告では、子どもの意見に対する考慮(意見表明権)を著しく制限していると指摘されている。本部会では当事者である子どもの立場の委員は参加しておらず、“Nothing about us without us(私たちのことを私たち抜きに決めないで)”の原則に反するものである。
現行法で親権に含まれている教育・医療・居所・財産管理などの子どもの重要事項の決定については、共同親権となった場合、父母双方の合意なしには決定できなくなる。監護及び教育に関する日常の行為や急迫の事情があるときには単独で親権を行使することができるとされているものの、「日常の行為」や「急迫の」の判断基準が不明である。結果として医療機関では、トラブルを避けようと子への対応に父母双方の署名を求める場面が増える可能性がある。不仲で同席できない両親に「説明し、同意をえる」ことは、臨床現場に二重の負担をかけることになり、適時適切な医療の実現の妨げになるし、両親の意見が食い違った場合の扱いも困難な立場に医療機関が置かれる。いずれにしても訴訟リスクが格段に上がり、訴訟を避けるために医療行為を控えざるを得なくなり、子どもが適切なタイミングで治療を受ける機会を逃すことが増加することを憂慮する。
現行民法の表現は親等の子どもを養う側の視点にあるものが多い。「親権」という用語も同様で、本来の趣旨としては子どもが成長し、生きていくための権利を親が保護する義務であるにもかかわらず、現在は親の子どもに対する権限としての面が強調される傾向がある。
全日本民医連は、「共同親権」の拙速な導入でなく、子どもの権利を基本に「親権」の在り方を見直しをはかることを求めるものである。
以上
(PDF)
- 記事関連ワード