民医連事業所のある風景 神奈川診療所 地域に密着した外来・在宅医療を
法人設立当時から行っている無料低額診療事業
戦後の混乱がまだ続く1958年、米軍による接収や空襲により住むところを追われた生活困窮者が集まる横浜市神奈川区に、有志の力により神奈川診療所はつくられました。一時は入院病床を有し、栄養失調者などの治療を行っていたとも聞いています。その後 2回の移転を経て、91年から現在地で医療福祉活動を続けています。
公益財団法人柿葉会は62年に設立され、現在は神奈川診療所のほかにしんまち訪問看護ステーションを擁しています。1診療所、1ステーションという全日本民医連の中でも最小の法人のひとつです。しかし誇れるのは、法人設立時から無料低額診療を行い、すでに60年以上の実績があることです。小さい法人でも民医連の医療を実践できることを証明しています。
設立からしぼらくは一般の外来医療に加え、訪問診療(往診)と訪問看護、保健予防活動としての健診を重視してきました。現在は訪問専門の診療所や訪問看護ステーション、健診センターが各地にできていますが、私たちはそれを先取りしてとりくんでいました。
現在の医療活動は、以前からの特色は残しながら、複数の医師による内科診療、幅広い活動をしている精神科診療、中小企業を主とした企業健診、行政からの委託事業など多岐にわたっています。診療所ながら多職種が多くいるという特色を生かし、フットワークの軽い医療を理想とし、少なくとも徒歩圏内の地域にはこまめに足を運ぶようにしています。また、法人設立時からの理念である生活困窮者への支援のために神奈川生活相談所を併設し、広く生活相談、弁護士による無料法律相談を行っています。
行政や地域の医療機関と連携
大きな特色は79年に始まった精神科医療です。その当時、精神科医療は外来も含めて病院がほとんどを担っていた中、かなり先駆的だったと言えるでしょう。90年に青森民医連での研修を終えた私が着任してからは、スタッフとともに精神科デイケアや精神科訪問診療、認知症初期集中支援チームの運営などにとりくみ、行政や地域の保健医療機関との関係も密になっています。困難ケースの相談が途切れることがありません。
神奈川診療所がめざすのは、今も昔も、地域に密着した外来・在宅医療を続けることです。長年住み慣れた地域や家庭で安心して過ごしていただくために、医療と福祉の面からそのお手伝いをしていくことです。新たに住み始めた人たちには、住んでよかった、住み続けたいと思えるまちになってほしいと思っています。
神奈川診療所には特別に高価な医療機器や治療法はありません。しかし、それ以上に価値がある個性的なスタッフがそろっています。地域のことを思い、地域のことを知るスタッフがいつもいることが神奈川診療所の強みです。
口で言うのは簡単な「地域に根ざした医療」ですが、その本質は何なのか、どのように実践すればいいのかと、いつも考えながら私たちは活動しています。
(公益財団法人柿葉会理事長 神奈川診療所所長 赤塚 英則)