民医連新聞

2023年4月4日

〈第2回評議員会学習講演より〉 優生保護法問題は終わっていない 国連総括所見を学び・伝え・生かそう NPO法人日本障害者協議会代表 藤井克徳さん

 第45期第2回評議員会では、2月18日、NPO法人日本障害者協議会代表の藤井克徳さんを講師に、特別講演「優生保護法は終わっても優生保護法問題は終わっていない 歴史に潜む本質、障害者権利条約に沿ってのけじめと新たな未来を」を行いました。概要を紹介します。(丸山いぶき記者)

■看過できない事象

 最初に、昨今の障害のある人をめぐる看過できない事象を掲げます。出口の見えないウクライナ戦争は、多くの障害のある人を置き去りにしています。戦争の被害が障害のある人により集中、集積することは火を見るより明らかです。いまだ闇のなかの津久井やまゆり園事件、あらたまらない隔離政策中心の精神科医療、雇用率を市場で売り買いするような「障害者雇用率ビジネス」、他にも障害のある人に対する差別や偏見は後を絶ちません。

■問題の源は

 これらの事象には共通点があります。多くは自らの意思を表明できにくい人であり、返ってこないいのちや青春時代など、被害が不可逆的であることです。そして、もっとも重要な共通点は、それらの背景に障害者差別や優生思想が横たわっていることです。
 さらに、その源にあるのが優生政策です。この優生政策は大別して2つで捉えることができます。
 第一点目は、日本の優生政策で、具体的には二つの法律です。一つ目の法律は、最近話題になっている優生保護法です。同法の目的には、「この法律は優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」とあり、優生思想の正当性を公認してしまったのです。驚くべきことに、新憲法のもとで制定され、すべての政党の賛成で成立しました。1948年から1996年までの約半世紀にわたり、日本社会に居座ったのです。
 もう一つの法律は、優生保護法の前身となった国民優生法です。同じく目的をみていくと、「悪質なる遺伝性疾患の素質を有する者の増加を防(ぼう)遏(あつ)すると共に健全なる素質を有する者の増加を図り」とあります。強兵政策の強まった1940年に制定され、戦後の1948年まで続きました。
 その被害は、優生保護法によるものだけでも、強制不妊手術が2万4993人、強制人工妊娠中絶が5万8972人におよんでいます。被害者数の多さだけではなく、誤った障害者観や優生思想を市民社会に植え付けたという点でも、罪深い法律です。
 第二点目は、日本に大きな影響をおよぼしたナチス・ドイツの優生政策です。ドイツでは遺伝性疾患子孫予防法(ヒトラーが政権を奪取した1933年制定)により、36万人から40万人が犠牲になったと言われています。さらに、それだけでは不十分と、「価値なき生命」の抹殺を容認する「T4作戦」が強行され、20万人以上が犠牲になりました。働けない者が標的となり、医師の積極的な関与、そして毒ガスの使用、後のユダヤ人虐殺につながりました。

■世界の英知で障害者権利条約

 こうした第2次世界大戦の猛省の上にできたのが国連です。1945年に国連憲章、48年には世界人権宣言、その後、各種人権条約が採択され、国際社会は人権分野で英知を蓄積してきました。
 そして、50年に北欧から始まった「障害があってもノーマルな暮らしを」というノーマライゼーション理念、障害者の権利宣言(79年)、国際障害者年(81年)といった障害分野での発展を重ね、2006年の障害者権利条約(以下、権利条約)の誕生につながりました(日本の批准は14年)。
 その制定過程では、「Nothing About Us Without Us(私たち抜きに私たちのことを決めないで)」がくり返され、実際にも障害当事者の発言が保障されました。
 権利条約は、障害のある人の「固有の尊厳」と「他の市民との平等」を基礎に、新たな障害観・障害者観を示しています。下肢にまひがあってもスロープがあれば移動が可能であるように、障害は本人に備わる機能障害だけではなく、本人を取り巻く環境によって重くも軽くもなります(社会モデル)。機能障害に重点を置く従来の医学モデル偏重から社会モデルへ、さらに障害のある人を権利の主体ととらえる人権モデルへと、障害観は発展しています。

■深層の改革迫る総括所見

 昨夏、権利条約にもとづく初の日本審査が行われ、総括所見が公表されました。全75段落中、63段落が日本政府への勧告です。いくつか紹介します。
 まず、日本の政策の基調は父権主義的(パターナリスティック)アプローチであり、人権モデルと調和していないと断じています。障害のある人に、「よかれと行われた施策が、結果として的外れで、人権を侵害している」という指摘です。
 他にも、津久井やまゆり園事件の社会的背景の解明、精神障害者の強制治療を許している法規定の廃止、政府から独立した国内人権機関の創設、政府がこの総括所見を国内の各方面に伝達することなども勧告しています。
 総括所見は、日本の障害者政策の深層の改革、基幹政策の構造転換を求めています。家族に負担を押しつける扶養義務(民法877条1項)も見直しが必要です。総括所見を学ぶ・伝える・生かすことが重要です。
 そして、最後に強調します。「優生保護法は終わっても、優生保護法問題は終わっていない」と。障害分野での最大の未決着問題である優生保護法問題を、正しく解決していかなければなりません。
 判決に注目し、合わせて、ご支援ください。


 ふじい・かつのり 1949年福井県生まれ。82年に東京都立小平養護学校教諭を退職後、共同作業所づくりなど障害分野の民間活動に専念。養護学校在職中に、共同作業所全国連絡会(現在の「きょうされん」)の結成などに参加。現在は、日本障害フォーラム(JDF)副代表、きょうされん専務理事、ほか。精神保健福祉士。近著に、JDブックレット5『障害のある人の分岐点』(やどかり出版、2021)

(民医連新聞 第1780号 2023年4月3日)

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